2008年11月号
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ヤマトホールディングス

NOVEMBER 2008  50 宅配便のシェアは拡大  ヤマトホールディングスの〇七年度の連結 セグメント別の営業利益構成比(内部消去前) は、宅急便を中心としたデリバリー事業が四 二・〇%、企業間物流などのBIZ─ロジ事 業が五・四%、引越サービスなどのホームコ ンビニエンス事業が〇・七%、システム開発 などのe─ビジネス事業が六・六%、決済手段 を提供するフィナンシャル事業が十一・五%、 その他の事業が三三・八%となっている。
そ の他事業には車両整備事業や「JITBOX チャーター便」などが含まれており、基本的 には宅急便事業が収益の柱となっている。
 生産の海外移転や人口の減少などにより、国 内の物流市場が成熟しつつある中、宅配便市 場は今後も成長が期待できる数少ない分野だ。
バブル経済が終焉した一九九〇年以降、日本 経済は低迷が続いていたが、九一年度から二 〇〇〇年度にかけては、宅配便市場は取扱個 数ベースで年率八・六%の割合で拡大してき た。
 宅配便市場の拡大の要因としては、消費者 のライフスタイルの変化や購買形態の多様化 と、それを商機と捉え事業者が継続的に新し いサービスを投入してきたことが指摘できよ う。
例えば核家族化や単身世帯の増加に合わ せた配達時間指定サービス、生鮮食料品や冷 凍物を運ぶ保冷宅配便、代金引換サービスな どである。
特に九〇年代後半からはインター ネットが普及し、書籍や音楽CD、電化製品 などをインターネット経由で注文する消費者 が増加した。
カタログ通信販売やテレビショ ッピングなど、小売店の店頭を経由しない購 入形態も普及した。
これらの結果、宅配便市 場は大きく拡大した。
 このような市場環境の中、ヤマトは宅急便 事業のインフラとなる営業所やトラックの台 数、ドライバー数を継続的に拡充し、他社を 圧倒してきた。
加えて、利便性の高いサービ スを継続的かつ先行的に投入することで取扱 個数を年々増加させ、宅配便分野で国内トッ プのシェアを堅持してきた。
 宅配便を展開する各社の市場シェアの推移 をみると、興味深い傾向が読み取れる。
国土交 通省が発表している宅配便等取扱実績に、旧 日本郵政公社の一般小包の実績を加え、取扱 個数でみた国内宅配便市場における各社のシ ェアの推移を図1に示す。
〇四年度以降、ヤ マトとSGホールディングス傘下の佐川急便 の大手二社は一段とシェアを拡大しているの に対し、その他の企業のシェアは低下傾向に ある。
日本通運は〇一年度には約一五%のシ ェアがあったが、その後低下が続いた。
〇五 ヤマトホールディングス 「宅急便」に次ぐ柱はいまだ見出せず 創業以来のオペレーション改革に期待  「宅急便」への依存体質からの脱却、他社 との提携、創業以来のオペレーション改革な どの施策を次々に打ち出しているが、今のと ころ大きな効果は上がっていない。
中長期的 な利益成長の牽引役を育てなければ、市場か らの評価は得られない。
村山 誠 野村證券金融経済研究所 企業調査部 第44回 51  NOVEMBER 2008 年度以降は歯止めがかかっているものの、一 〇%強で推移している。
郵便事業(日本郵便) は〇三年度から〇六年度にかけてシェアを拡 大したが、〇七年度は前年度と同水準にとど まっている。
日本郵便と日本通運は〇九年四 月に宅配事業を統合する予定であり、図中に 参考までに両社合計のシェアの推移を示した が、過去数年間は横ばい傾向が続いている。
 直近で大手二社のシェアがさらに拡大して いる背景には、市場の成長率が鈍化しつつあ ることが要因として考えられる。
各社が投入 してきた前述の各種サービスも普及が進んだ ことから、今後は二〇〇〇年代前半までのよ うな急拡大は期待しづらい状況だ。
画期的な 新サービスなどが出ない限り、市場全体とし ては年率三〜四%程度の伸びとなろう。
 製造業まで含めて、市場が徐々に成熟化す る過程でよくみられる現象だが、市場全体が 拡大していれば、下位企業でも一定のシェア を維持していれば成長することができる。
ま た、シェアが低く、収益性が厳しくとも、将 来的な事業の拡大を期待して先行投資を続け ることが可能だ。
しかし市場の成長率が低下 してくれば、事業の採算性を考慮すると従来 と同じ経営スタンスを継続することは困難に なり、徐々に事業拡大のための投資を控える ようになる。
中には経営資源をより収益拡大 が期待できる事業に振り向けるために、撤退 する企業も出てくる。
この結果、下位企業の シェアは低下し、上位企業がさらにシェアを 高めることになる。
現在、国内宅配便市場で も、同様の現象が進行していると推察される。
ITバブル境に市場の評価は一変  ヤマトは緩やかながらも成長が期待できる宅 配便市場でシェアを拡大しているものの、株 式市場における評価は決して高くはない。
図 2はヤマトホールディングス(〇五年一〇月ま では旧ヤマト運輸)の時価総額と、東証一部 上場企業の時価総額の動向を示す東証株価指 数(TOPIX)の推移を比較したものであ る。
九〇年以降、東証株価指数は大きく下落 し、その後も循環はあるものの、ほぼ横ばい で推移している。
これに対しヤマトホールデ ィングスの時価総額は、二〇〇〇年の年初ま では上昇を続けてきた。
株式市場平均、つま り全産業平均を上回る成長を続けてきたので ある。
 特に目を引くのは、九九年に時価総額が飛 躍的に拡大している点だ。
この頃は一般家庭 にまでインターネットが普及し、オンラインシ ョッピングが急拡大した時期である。
インター ネット経由で消費者が物品を購入すれば、物 品の配送・受け渡しで宅配便事業者の活躍の 45% 40% 35% 30% 25% 20% 15% 10% 5% 0% 01 02 03 04 05 06 07 (年度) 図1 国内宅配便市場における各社の市場シェアの推移。
   ヤマト、佐川の二強とその他企業との差が広がっている ヤマト運輸佐川急便日本通運+日本郵便 日本通運福山通運日本郵便西濃運輸その他 (出所)国土交通省「宅配便等取扱実績について」各年度版、旧日 本郵政公社資料等を基に野村證券金融経済研究所作成 図2 ヤマトホールディングスの時価総額と東証株価指数の推移。
   ヤマトの成長力は2000 年以降、市場平均並みになっている (出所)野村證券金融経済研究所作成 20000 18000 16000 14000 12000 10000 8000 6000 4000 2000 0 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 (億円) (ポイント) 90 / 10 /1 91 /3/1 92 /1/4 93 /3/2 94 /2/1 95 /1/1 96 /2/4 97 /1/4 98 /3/3 99 /2/3 00 /1/4 01 /3/3 02 /2/3 03 /1/3 04 /3/2 05 /2/2 06 /1/2 07 / 3/2 08 /2/2 08 / 10 /3 (年/月/日) 東証株価指数(右軸) ヤマトホールディングスの時価総額(左軸) 場が大きく広がると期待され、同社の株価は 大幅に上昇した。
世の中では「IT革命」と いう言葉がもてはやされ、IT関連企業の株 価が急上昇した現象は「ITバブル」とも呼 ばれた。
 ITバブル以降のヤマトホールディングスの 時価総額の推移をみると、多少のズレはある ものの、基本的には東証株価指数とほぼ同様 の動きとなっている。
つまり、株式市場では ITバブル期までと一転し、全産業平均並み の成長力の企業、という評価に変わってしま ったのである。
 ヤマトは現在でも新しいサービスの投入は 続けている。
だが、残念ながらかつての「ク ール宅急便」や時間指定サービスなどに匹敵 するような、大きな需要創出効果は出ていな い。
一方では、宅急便事業に依存した収益体 質からの脱却を目指し、収益源の多角化も図 っている。
例えば企業間物流やホームコンビ ニエンス関連の拡充だ。
また、自社の車両整 備で蓄積したノウハウを、事業としてグルー プ外の顧客に展開している。
 直近では、自前主義を修正し、社外の経営 資源の活用も進めている。
〇五年四月、ファ インクレジットとその関連会社、ワールドコン ピューターセンターの株式を取得した。
〇六 年五月、国際物流における一貫サービスの提 供を図り日本郵船グループと資本・業務提携。
昨年五月には丸井グループの物流子会社であ るムービングの宅配部門を取り込んだ。
しか し、現時点では宅急便事業を中心とした収益 構造に大きな変化は起きていない。
成長の牽 引役を見出せないため、株式市場の評価は全 産業平均並みにとどまっていると推測される。
波動に合わせて人員を投入  〇七年度下期からは、創業以来ともいえる オペレーション改革を行っている。
労働条件の 改善と生産性向上のために、集配の仕組みを 変更し、業務の効率化を目指す。
具体的には 「棚付車両」や「集配アシスト」の導入、「バ ス停方式」の活用による集配効率向上、「早 朝アシストの導入」および「夜間アシストの 導入」による業務の切り分け、といった施策 を進めている。
 改革の大きなポイントの一つは、需要の変 動に合わせたマンパワーの投入を図る、という ことである。
従来はフルタイムの社員を主力 に据えていたため、マンパワーは一日を通し てほぼ同水準で投入されていた。
しかし、宅 急便の時間帯別の需要をみると、午前一〇時 近辺と午後三時近辺に大きな山がある。
この ため、一日を通してマンパワーが一定である と、需要の山では商機を逸し、需要がそれほ ど発生しない時間帯では人員が余剰になって しまっていた。
そこで新しいオペレーションで は、需要の山の時間帯に短時間で働くパート タイマーを多数配置するなど、パートタイマ ーの活用、就業形態の多様化を進めている。
 このオペレーション改革の狙いは分かりや すく、株式市場においても業績への反映が期 待されている。
しかしこれまでのところ、そ れほど評価はされていない。
現時点では、オ ペレーション改革は費用が先行する結果とな っているためである。
〇八年度第1四半期 (〇八年四〜六月期)決算では、主力のデリ バリー事業は宅急便の取扱個数が前年同期比 三・四%増加し、同セグメントの売上高は五・ 〇%増となった。
しかし人件費の負担が先行 し、営業損益は前年同期の八億円の黒字に対 し、七億円の赤字に転落した。
ただし、全社 ベースでは他のセグメントの損益が貢献し、営 業利益は二六・六%減ではあるものの五二億 円と黒字を確保し、経常利益は二五・六%減 の五八億円となった。
 今後株式市場で再び評価を高めるためには、 ?宅急便事業のオペレーション改革が軌道に 乗り、売上および利益が再び拡大傾向に戻る、 ?同事業における画期的な新サービス投入で 業績拡大のペースが加速する、?宅急便に次 ぐ収益源が育ち、連結業績の拡大ペースが速 まる、など業績の一段の拡大に向けた具体策 やその効果発現が必要であろう。
NOVEMBER 2008  52 むらやま まこと 一九九 〇年三月東京都立大学経済 学部卒業、同年四月野村総 合研究所入社、企業調査部 配属。
九九年五月米国コー ネル大学経営学修士号取得。
野村證券金融経済研究所で 株式、同金融市場情報管理 部で債券のアナリストとし て活躍し、二〇〇七年七月 より現職。
運輸セクターを 担当。
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