2008年11月号
物流IT解剖
物流IT解剖
ハマキョウレックス
NOVEMBER 2008 62
荷主のニーズに応えて 独自のWMSを展開
ハマキョウレックスが展開している
「物流センター事業」は、ITがなけ
れば成り立たないとされる一般的な
欧米流のサードパーティ・ロジスティ
クス(3PL)事業とは少し異なる
性格をもっている。
同社は現在、全 国で五〇社近い荷主の物流センター を運営しているが、そのうち約二割 は荷主の既存システムをそのまま使 っている。
ハマキョウでIT部門の上部組織 である開発本部の責任者を務める内 田貴啓執行役員は、「うちはあくま でも現場の人の動きを効率化するこ とで、仕事をとってきている。
新し い案件を受託したからといって、必 ずITに投資するわけではない。
シ ステムを開発するかどうかはニーズ次 第。
荷主企業の既存システムを使い、 われわれは作業だけを手掛けている ケースも多い」と強調する。
物流ベンチャーとして急成長した 同社の武器は、ユニークな現場管理 にある。
毎日の事業の損得を現場ご とに算出する「収支日計表」や、物 量に応じて作業人員を調整する「ア コーディオン方式」、すべてのパート タイマーが交替で現場リーダーを務め る「日替わり班長」制──。
数々の 工夫によって現場作業の生産性を高 めてきたが、いずれも特定の情報シ ステムに頼らずに実施できるものば かりだ。
IT活用に対して消極的なわけで はない。
むしろ「現場で人の動きを 効率化することに加えて、最適なシ ステムを提供することこそ私どもの 考える最高の3PL」(内田氏)と規 定している。
受託当初は荷主の既存 システムを使っていても、生産性の 向上のために後からハマキョウが主導 してWMS(倉庫管理システム)の 導入を荷主に提案することも多い。
同社が「物流センター事業」を本 格化したのは、一九九二年にイトー ヨーカ堂の配送センターの運営を手 掛けはじめたのが最初だった。
この ときは荷主側の仕組みも含めて大規 模なシステム開発を行った。
その後 も、医療機器、食品、アパレル、小 売りなど多様な物流センターの運営 を受託するなかで、それぞれの案件 に応じたWMSを開発してきた。
しかし、どの案件もITへの投資 は荷主の意向に沿ったものだ。
ニーズ のないシステムを開発しても、荷主の 目にはコストアップ要因としてしか映 らない。
物流センター事業を?IT ありき?とは考えていないのである。
複数のITベンダーと 提案営業段階から協働 IT活用を絶対視してはいないだ けに、システム部門のあり方もユニー クだ。
現在、ハマキョウの本社内の 「システム開発課」の社員はわずか四 人。
ほかに上部組織である開発本部の 複数のITパートナーを競争状態に置き 各現場のニーズに対応したシステム構築 ハマキョウレックス 「収支日計表」や「日替わり班長」など、ITに依存しない独自の現場 管理ノウハウを3PL事業の武器にしてきた。
しかし連結売上高が800億 円を超すまでに成長した現在、情報システムの標準化が新たな課題に。
外部の協力ITベンダーを巧みに使って、わずか4人の本社スタッフでこな してきたIT戦略が転機を迎えている。
開発部長を務める内田貴啓 執行役員 物流センター事業 アウトソーシング 第20 回 ◆本社組織 「情報システム課」の4人 が専任で担当。
他にも開発部門や営業 部門で兼務でITに携わっている人たち がいるため、合計では20人程度。
連結 子会社の近物レックスには、ハマキョウ 本体とはまったく別のIT部門があり、これ までほぼ独立して活動してきた。
◆情報子会社 なし 《概要》システムの開発・運用はアウトソーシングが基本。
日常的に主に5 社のITベンダーと付き合っているが、このパートナーシップは流動的。
案件ごとにコスト競争力の高いベンダーを選択している。
主力事業を支えるWMS は原則としてオリジナル。
ただし協力ITベン ダーと共同で開発しているため、そのベンダーがパッケージ製品として独 自に販売しているケースもある。
TMS についても同様。
年間のITコストは単体売上高(08 年3月期264 億円)の1%弱。
た だしIT コストの管理は案件ごとに費用対効果に基づいて行っているため、 総売上に占めるコスト構成比は結果論でしかない。
63 NOVEMBER 2008 三、四人の社員と、各営 業部の一〇人程度が兼 務でシステム開発課を支 援しているが、連結売 上高八三五億円(〇八 年三月期)の企業グルー プのIT部門としては 極端なまでに小さい。
情報子会社もない。
別 に連結子会社で四三五 億円の売上高をもつ近 物レックスが独自のI T部門を構えているが、 少なくともハマキョウ単 体のITはシステム開発 部の四人がコントロール している格好だ。
これほど少人数によ るIT活用を可能にし ているのは、協力ベンダ ーとの特有の役割分担 が成り立っているため だ。
荷主の業種などに よって複数の中小IT ベンダーを使い分け、彼 らと一緒に開発したW MSをハマキョウなりに 作り込んでいる。
現時点では主に五社 の中小ITベンダーと 日常的に取り引きをし ている。
とはいえ、この五社とのパ ートナーシップは流動的だ。
ITベン ダーの担当者は、案件の受託が決ま っていない荷主への営業段階からハ マキョウの一部として共に活動する。
受託が決まっても、無条件で仕事 を与えるわけではない。
ハマキョウ が他のベンダーにも声をかけて改めて 入札を実施し、コストパフォーマンス の高さを示したベンダーに開発を任せ る。
シビアな競争環境に置くことで、 協力ITベンダーがお互いに切磋琢 磨することをうながしている。
現状で五社という取引先の数も、あ えて絞り込もうとはしてこなかった。
ハマキョウのシステム開発課の山下 基弘課長は、「基本的には得意とする (荷主の)業種などで使い分けている。
しかし同じ分野のシステム開発ばか りを任せるという考え方はしていな い。
それぞれに二、三種類の得意分 野を持ってもらい、常に競い合って もらうようにしている」と、このア ウトソーシングの考え方を説明する。
大手一社に依存する IT活用の弊害を打破 複数の協力ITベンダーをシビア に使い分けるという管理手法は、ハ マキョウがIT活用を本格化したの が九〇年代に入って以降であり、後 発のベンチャー企業だったからこそ実 現できたという面もある。
老舗の物流事業者の多くは七〇、 八〇年代に特定の大手ITベンダー と組んで基幹システムを整えた。
そ の後の技術革新によってコンピュー タのダウンサイジングやオープン化が 進展したときには、すでに重装備の 仕組みができあがってしまっていた。
これに対してハマキョウは、当初こ そ大手ベンダーと組んでオフコンのシ ステムを開発したものの、自らのI T資産が重くなる前に軽装備のシス テムへとシフトすることができた。
最近、こうした後発の優位性を改 めて自覚する出来事があった。
同社 は二〇〇四年一〇月に近鉄物流の株 式を八六・五五%取得し、連結子会 社・近物レックスとした。
近鉄物流 は一九三一年創業という路線業界の 老舗で、買収時の売上規模はハマキ ョウを大きく上回っていた。
そのた め買収から二年余りは、ハマキョウ流 を押しつけることなく、当事者によ る自主的な再建努力を見守ってきた。
しかし最近は、同社が近物レック スの経営に積極的に参加するように 変わってきた。
IT部門も徐々に関 与を強めている。
特積み事業を主力 とする近物レックスと、物流センター 事業のハマキョウとでは、運用して 近物レックス 現場力を支えるハマキョウのWMS(全体イメージ) 着荷発注 荷受仕入 商品媒体取引先 棚卸棚卸 誤差入力 カタログ 送付 良品 移動 配送 伝票 出荷 取消 注文 明細品下げ 計上出荷返品 入荷 予定 不良品 良品 入荷実績 (箱数) カタログ 在庫 入荷実績 (明細) SKU コード マスタ管理 在庫管理 入荷受付 返品受付返品受付 検査 不良品振替 検品 入庫 ピッキング 仕分・出荷 出荷確定 仕入先返品 バッチ組 在庫引当 在庫引当 物流センター トータルピッキング 荷主 在庫 出荷 指示 出荷 指示 注文 明細品下げ検品 実績 出荷 実績 照会 移動 調整 棚卸 振替 入荷品返品カタログ返品 顧客仕入先 ホストシステム WMS 検品梱包 伝票発注 カタログ 戻り NOVEMBER 2008 64 いるシステムがまったく異なる。
こ のためIT投資の可否などでは依然 として近物レックスの経営陣の判断 を尊重している。
ただし、ITベン ダーの管理手法などについてはハマ キョウ流を注入しはじめた。
近物レックスは、大手ITベンダ ーを長年のパートナーとして時間をか けて作り込んだ情報システムを使用 している。
パートナーとの関係はハマ キョウとは対照的だ。
何よりコスト パフォーマンスが悪かった。
ハマキョ ウの山下氏は、その実情を次のよう に説明する。
「たとえばWMSであれば、われわ れなりにシステム開発の妥当な値段 というのを把握している。
ところが、 この大手ITベンダーが提示する開 発費は当初、われわれが想定する値 段の約四倍だった。
金額を引き下げ る交渉をしていたら、そのベンダー の担当者は、自社で持っているパッ ケージに要件を合わせてくれればも っと安くなるという。
徹底して現場 のニーズから考えてきたうちの発想 とは、まったく逆だった」 荷主企業の意向に沿うという方針 を徹底してきたハマキョウは、システ ムの都合を優先することが、あとで 多くの手直しの原因になり、かえっ て高くつくことを経験的に知ってい る。
だからこそ自らは荷主企業のニ ーズの把握に全力を傾け、実際のシ ステム開発は協力ITベンダーに委 ねてきた。
そこには互いの明確な役 割分担と、一定の緊張関係がある。
一方、近物レックスと大手ITベ ンダーの間には、ある種のなれ合い が蔓延していた。
それぞれの担当者 は今でも真摯に仕事に取り組んでい る。
しかし、あまりにも長く一対一 の関係で付き合ってきたことが、本 来なら当然であるはずのチェック機 能などを失わせていた。
最近でこそ システム開発の値段をめぐるギャップ は縮まってきたが、関係者による情 報共有の体制などには依然として課 題があると感じている。
山下氏としては、まずは基本的な 業務の進め方からメスを入れ、少し ずつ体質転換をうながしていくつも りだ。
打ち合わせで決まったことは、 何を、いつまでに、誰が実施するの かを明確にし、関係者全員でウォッ チしていく。
当たり前の行為を徹底 することが、近物レックスのシステム 部門が自ら全体をコントロールする第 一歩になると考えている。
システムの横展開に制約 内製化も選択肢に ハマキョウは巧みなベンダー活用に よってITの管理コストを抑制して きた。
一方で、個別のシステムには それなりに資金を投じている。
各セ ンターの売上高に占めるITコスト の割合はおおむね一%弱。
単体売上 高に占めるITコストの比率もほぼ 同程度だ。
案件ごとに費用対効果で IT投資を判断しているため、中に は売上高比率が二、三%に上る事例 もある。
同社が使っているWMSの多くは、 協力ITベンダーと共同で開発した ものだ。
同様のシステムをITベン ダーがパッケージ製品として外販して いるケースも少なくない。
これが結 果として、システムの知的所有権の 帰属などを複雑にしてしまう一因に なっている。
「現状ではITベンダーが開発した パッケージの部分と、完全に自分た ちのソースとして動かしているものが 半々ぐらいになっている」(山下氏)。
このため、既存顧客に提供している システムを、新しい顧客に流用しよ うとしても一筋縄ではいかない。
シ ステム要件の似た案件には、同じI Tベンダーを使うようにすることで 現在は対応しているが、既存のノウ ハウを横展開していくうえでは制約 となる。
ハマキョウの社内には、一〇〇% オリジナルのシステムを自社開発し て、自由に使えるようにすべきだと いう意見もある。
アウトソーシングを 一部、内製にシフトすべきなのでは ないかという議論である。
山下氏も、将来的な内製化は選択 肢の一つと考えている。
現状のよう に案件ごとに個別に投資するのでは 開発部システム開発課の 山下基弘課長 開発戦略 コアファンクション(共通機能) 業種別サブモジュール IT 部門が想定している将来的な方向性(あるべき姿) ■各センターの共通機能(コアファンクション)と、業種別のモジュールの 組み合わせで構成したハマキョウレックス標準システムを構築。
新セン ターに適用していく。
■顧客別の独自要件は、カスタマイズとして個別に開発する。
(顧客別コス トに反映) カスタマイズ 業種別モジュール (衣料品) 業種別モジュール (食品・日用雑貨) 業種別モジュール (医療品) 業種別モジュール (小売業) 業種別モジュール (製造部品) 65 NOVEMBER 2008 今後はハマキョウ自身がグループ内 に、IT子会社なり直系の関連会社 を設置することも選択肢の一つにな りそうだ。
現場力を損なわない 標準化が課題に 従来からハマキョウにはシステムの 外販に関する引き合いもきている。
た だし望まれている内容の多くは、物 流センター事業で培ったWMSでは なく、「収支日計表」などによる独 自の現場管理ノウハウだ。
大須賀正 孝会長がトップを務める日本3PL 協会の会員企業などからも、これを システムとセットで伝授してほしいと いう要望が少なからず寄せられてい るという。
もっとも冒頭でも述べた通り、「収 支日計表」はITに依存していない。
これは元々、創業期のハマキョウの ?どんぶり勘定?を改めるため、大 須賀会長が手書きで毎日の収支を記 録しはじめたことに端を発している。
自分たちが手掛けている仕事が儲か っているのかどうかを関係者に自覚 させ、自主的な改善行為をうながす ことを最大の目的としている。
この ため、あえて書式上の厳密さや正確 さは追求してはこなかった。
本格的にシステムと連動させて「収 支日計表」を管理している現場は、ハ マキョウの社内でもいまだに全体の 二割程度にすぎない。
それ以外は少 なからず手作業で処理している。
パ ートタイマーがこなす業務のうちシス テムに詳細が入力されない作業費を 別に電卓で計算するなどして、これ を表計算ソフト(エクセル)のファイ ルにまとめて本社に報告するといっ たパターンである。
そもそも「収支日計表」の管理項 目そのものが、まるで標準化されて いない。
現状では配送事業者や労働 者との契約のあり方などを反映して、 事業所ごとに独自の管理項目を採用 している。
これも現場にコスト意識を 持たせるための工夫の一つと言える。
この仕組みをパッケージシステムに 落とし込もうとすると、きわめて厄 介な事態に直面する。
システム化の ためには項目を標準化する必要があ る。
しかし、標準化された仕組みに 基づいて現場を運用すれば、システ ムに業務を合わせることで現場の効 率はかえって悪化しかねない。
システムの標準化は現在のハマキ ョウが直面する大きな課題だ。
これ まで同社が会計や労務管理などに使 ってきたシステムも、中小企業向け の市販パッケージをベースにしたもの が大半だった。
しかし、連結売上高 が八〇〇億円を超える規模になった 現在、もはやこうした管理は限界に 近づきつつある。
今年度から対応が求められること になっている内部統制も、変化を迫 る要因になっている。
内田氏は「当 社は基本的に、収支日計管理の集大 成こそ内部統制だという考え方をも っている。
できることなら、そのた めのノウハウを反映したシステムを構 築していきたい」という。
ITを一つの切り口としながら、業 務や管理のための標準的な仕組みを 構築できるのかどうか。
ハマキョウ 独自の強みを損なうことなくこうし た仕組みを実現できれば、そのシス テムはあとにつづく物流事業者にと っても価値の高いものになるはずだ。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) なく、あらかじめコアファンクション (共通機能)からなるシステムを用意 しておく。
そこに業種別のモジュー ルなどを付加したものを雛形として、 これを顧客別にカスタマイズしてい く、という構想である。
純粋にオリジナルのパッケージを 持ち、これを自由に横展開していく ことで、IT活用の大幅な生産性の 向上を達成できるかもしれない。
初 期開発投資は大きくなるが、同様の 仕組みを使う二件目以後のシステム 開発費は大幅に抑制できる。
トータ ルではコストパフォーマンスを高めら れ、開発リードタイムの短縮などのメ リットも見込める。
その代わり、小回りのきく外部ベ ンダーを案件ごとに使い分けること によって得ている現状のメリットは失 うことになる。
最悪の場合には、現 状では荷主から「臨機応変に対応で きると評価」(山下氏)されることも 多いシステム活用力が弱まってしまう 可能性も否定できない。
いずれをと っても一長一短がある。
実はハマキョウは、前述した協力 ITベンダー五社のうち一社に出資 をしている。
有価証券報告書への記 載を必要としないレベルの持株比率 ではあるが、IT開発のノウハウを 囲い込もうという意識は垣間みえる。
収支日計表 2008年○月 売上額 売上累計 ○期予算 金額比金額比金額比 ○期予算○期予算1日 木 2日 金 営業総利益 営業総利益累計 営業原価計 人件費 営業原価 運賃他経費 社員 パート アルバイト 福利賞与 小 計 社内 路線 小 計 家賃 荷造費 消耗品 固定費 変動費 小 計 厳密には書式が決まっていない「収支日計表」の例
同社は現在、全 国で五〇社近い荷主の物流センター を運営しているが、そのうち約二割 は荷主の既存システムをそのまま使 っている。
ハマキョウでIT部門の上部組織 である開発本部の責任者を務める内 田貴啓執行役員は、「うちはあくま でも現場の人の動きを効率化するこ とで、仕事をとってきている。
新し い案件を受託したからといって、必 ずITに投資するわけではない。
シ ステムを開発するかどうかはニーズ次 第。
荷主企業の既存システムを使い、 われわれは作業だけを手掛けている ケースも多い」と強調する。
物流ベンチャーとして急成長した 同社の武器は、ユニークな現場管理 にある。
毎日の事業の損得を現場ご とに算出する「収支日計表」や、物 量に応じて作業人員を調整する「ア コーディオン方式」、すべてのパート タイマーが交替で現場リーダーを務め る「日替わり班長」制──。
数々の 工夫によって現場作業の生産性を高 めてきたが、いずれも特定の情報シ ステムに頼らずに実施できるものば かりだ。
IT活用に対して消極的なわけで はない。
むしろ「現場で人の動きを 効率化することに加えて、最適なシ ステムを提供することこそ私どもの 考える最高の3PL」(内田氏)と規 定している。
受託当初は荷主の既存 システムを使っていても、生産性の 向上のために後からハマキョウが主導 してWMS(倉庫管理システム)の 導入を荷主に提案することも多い。
同社が「物流センター事業」を本 格化したのは、一九九二年にイトー ヨーカ堂の配送センターの運営を手 掛けはじめたのが最初だった。
この ときは荷主側の仕組みも含めて大規 模なシステム開発を行った。
その後 も、医療機器、食品、アパレル、小 売りなど多様な物流センターの運営 を受託するなかで、それぞれの案件 に応じたWMSを開発してきた。
しかし、どの案件もITへの投資 は荷主の意向に沿ったものだ。
ニーズ のないシステムを開発しても、荷主の 目にはコストアップ要因としてしか映 らない。
物流センター事業を?IT ありき?とは考えていないのである。
複数のITベンダーと 提案営業段階から協働 IT活用を絶対視してはいないだ けに、システム部門のあり方もユニー クだ。
現在、ハマキョウの本社内の 「システム開発課」の社員はわずか四 人。
ほかに上部組織である開発本部の 複数のITパートナーを競争状態に置き 各現場のニーズに対応したシステム構築 ハマキョウレックス 「収支日計表」や「日替わり班長」など、ITに依存しない独自の現場 管理ノウハウを3PL事業の武器にしてきた。
しかし連結売上高が800億 円を超すまでに成長した現在、情報システムの標準化が新たな課題に。
外部の協力ITベンダーを巧みに使って、わずか4人の本社スタッフでこな してきたIT戦略が転機を迎えている。
開発部長を務める内田貴啓 執行役員 物流センター事業 アウトソーシング 第20 回 ◆本社組織 「情報システム課」の4人 が専任で担当。
他にも開発部門や営業 部門で兼務でITに携わっている人たち がいるため、合計では20人程度。
連結 子会社の近物レックスには、ハマキョウ 本体とはまったく別のIT部門があり、これ までほぼ独立して活動してきた。
◆情報子会社 なし 《概要》システムの開発・運用はアウトソーシングが基本。
日常的に主に5 社のITベンダーと付き合っているが、このパートナーシップは流動的。
案件ごとにコスト競争力の高いベンダーを選択している。
主力事業を支えるWMS は原則としてオリジナル。
ただし協力ITベン ダーと共同で開発しているため、そのベンダーがパッケージ製品として独 自に販売しているケースもある。
TMS についても同様。
年間のITコストは単体売上高(08 年3月期264 億円)の1%弱。
た だしIT コストの管理は案件ごとに費用対効果に基づいて行っているため、 総売上に占めるコスト構成比は結果論でしかない。
63 NOVEMBER 2008 三、四人の社員と、各営 業部の一〇人程度が兼 務でシステム開発課を支 援しているが、連結売 上高八三五億円(〇八 年三月期)の企業グルー プのIT部門としては 極端なまでに小さい。
情報子会社もない。
別 に連結子会社で四三五 億円の売上高をもつ近 物レックスが独自のI T部門を構えているが、 少なくともハマキョウ単 体のITはシステム開発 部の四人がコントロール している格好だ。
これほど少人数によ るIT活用を可能にし ているのは、協力ベンダ ーとの特有の役割分担 が成り立っているため だ。
荷主の業種などに よって複数の中小IT ベンダーを使い分け、彼 らと一緒に開発したW MSをハマキョウなりに 作り込んでいる。
現時点では主に五社 の中小ITベンダーと 日常的に取り引きをし ている。
とはいえ、この五社とのパ ートナーシップは流動的だ。
ITベン ダーの担当者は、案件の受託が決ま っていない荷主への営業段階からハ マキョウの一部として共に活動する。
受託が決まっても、無条件で仕事 を与えるわけではない。
ハマキョウ が他のベンダーにも声をかけて改めて 入札を実施し、コストパフォーマンス の高さを示したベンダーに開発を任せ る。
シビアな競争環境に置くことで、 協力ITベンダーがお互いに切磋琢 磨することをうながしている。
現状で五社という取引先の数も、あ えて絞り込もうとはしてこなかった。
ハマキョウのシステム開発課の山下 基弘課長は、「基本的には得意とする (荷主の)業種などで使い分けている。
しかし同じ分野のシステム開発ばか りを任せるという考え方はしていな い。
それぞれに二、三種類の得意分 野を持ってもらい、常に競い合って もらうようにしている」と、このア ウトソーシングの考え方を説明する。
大手一社に依存する IT活用の弊害を打破 複数の協力ITベンダーをシビア に使い分けるという管理手法は、ハ マキョウがIT活用を本格化したの が九〇年代に入って以降であり、後 発のベンチャー企業だったからこそ実 現できたという面もある。
老舗の物流事業者の多くは七〇、 八〇年代に特定の大手ITベンダー と組んで基幹システムを整えた。
そ の後の技術革新によってコンピュー タのダウンサイジングやオープン化が 進展したときには、すでに重装備の 仕組みができあがってしまっていた。
これに対してハマキョウは、当初こ そ大手ベンダーと組んでオフコンのシ ステムを開発したものの、自らのI T資産が重くなる前に軽装備のシス テムへとシフトすることができた。
最近、こうした後発の優位性を改 めて自覚する出来事があった。
同社 は二〇〇四年一〇月に近鉄物流の株 式を八六・五五%取得し、連結子会 社・近物レックスとした。
近鉄物流 は一九三一年創業という路線業界の 老舗で、買収時の売上規模はハマキ ョウを大きく上回っていた。
そのた め買収から二年余りは、ハマキョウ流 を押しつけることなく、当事者によ る自主的な再建努力を見守ってきた。
しかし最近は、同社が近物レック スの経営に積極的に参加するように 変わってきた。
IT部門も徐々に関 与を強めている。
特積み事業を主力 とする近物レックスと、物流センター 事業のハマキョウとでは、運用して 近物レックス 現場力を支えるハマキョウのWMS(全体イメージ) 着荷発注 荷受仕入 商品媒体取引先 棚卸棚卸 誤差入力 カタログ 送付 良品 移動 配送 伝票 出荷 取消 注文 明細品下げ 計上出荷返品 入荷 予定 不良品 良品 入荷実績 (箱数) カタログ 在庫 入荷実績 (明細) SKU コード マスタ管理 在庫管理 入荷受付 返品受付返品受付 検査 不良品振替 検品 入庫 ピッキング 仕分・出荷 出荷確定 仕入先返品 バッチ組 在庫引当 在庫引当 物流センター トータルピッキング 荷主 在庫 出荷 指示 出荷 指示 注文 明細品下げ検品 実績 出荷 実績 照会 移動 調整 棚卸 振替 入荷品返品カタログ返品 顧客仕入先 ホストシステム WMS 検品梱包 伝票発注 カタログ 戻り NOVEMBER 2008 64 いるシステムがまったく異なる。
こ のためIT投資の可否などでは依然 として近物レックスの経営陣の判断 を尊重している。
ただし、ITベン ダーの管理手法などについてはハマ キョウ流を注入しはじめた。
近物レックスは、大手ITベンダ ーを長年のパートナーとして時間をか けて作り込んだ情報システムを使用 している。
パートナーとの関係はハマ キョウとは対照的だ。
何よりコスト パフォーマンスが悪かった。
ハマキョ ウの山下氏は、その実情を次のよう に説明する。
「たとえばWMSであれば、われわ れなりにシステム開発の妥当な値段 というのを把握している。
ところが、 この大手ITベンダーが提示する開 発費は当初、われわれが想定する値 段の約四倍だった。
金額を引き下げ る交渉をしていたら、そのベンダー の担当者は、自社で持っているパッ ケージに要件を合わせてくれればも っと安くなるという。
徹底して現場 のニーズから考えてきたうちの発想 とは、まったく逆だった」 荷主企業の意向に沿うという方針 を徹底してきたハマキョウは、システ ムの都合を優先することが、あとで 多くの手直しの原因になり、かえっ て高くつくことを経験的に知ってい る。
だからこそ自らは荷主企業のニ ーズの把握に全力を傾け、実際のシ ステム開発は協力ITベンダーに委 ねてきた。
そこには互いの明確な役 割分担と、一定の緊張関係がある。
一方、近物レックスと大手ITベ ンダーの間には、ある種のなれ合い が蔓延していた。
それぞれの担当者 は今でも真摯に仕事に取り組んでい る。
しかし、あまりにも長く一対一 の関係で付き合ってきたことが、本 来なら当然であるはずのチェック機 能などを失わせていた。
最近でこそ システム開発の値段をめぐるギャップ は縮まってきたが、関係者による情 報共有の体制などには依然として課 題があると感じている。
山下氏としては、まずは基本的な 業務の進め方からメスを入れ、少し ずつ体質転換をうながしていくつも りだ。
打ち合わせで決まったことは、 何を、いつまでに、誰が実施するの かを明確にし、関係者全員でウォッ チしていく。
当たり前の行為を徹底 することが、近物レックスのシステム 部門が自ら全体をコントロールする第 一歩になると考えている。
システムの横展開に制約 内製化も選択肢に ハマキョウは巧みなベンダー活用に よってITの管理コストを抑制して きた。
一方で、個別のシステムには それなりに資金を投じている。
各セ ンターの売上高に占めるITコスト の割合はおおむね一%弱。
単体売上 高に占めるITコストの比率もほぼ 同程度だ。
案件ごとに費用対効果で IT投資を判断しているため、中に は売上高比率が二、三%に上る事例 もある。
同社が使っているWMSの多くは、 協力ITベンダーと共同で開発した ものだ。
同様のシステムをITベン ダーがパッケージ製品として外販して いるケースも少なくない。
これが結 果として、システムの知的所有権の 帰属などを複雑にしてしまう一因に なっている。
「現状ではITベンダーが開発した パッケージの部分と、完全に自分た ちのソースとして動かしているものが 半々ぐらいになっている」(山下氏)。
このため、既存顧客に提供している システムを、新しい顧客に流用しよ うとしても一筋縄ではいかない。
シ ステム要件の似た案件には、同じI Tベンダーを使うようにすることで 現在は対応しているが、既存のノウ ハウを横展開していくうえでは制約 となる。
ハマキョウの社内には、一〇〇% オリジナルのシステムを自社開発し て、自由に使えるようにすべきだと いう意見もある。
アウトソーシングを 一部、内製にシフトすべきなのでは ないかという議論である。
山下氏も、将来的な内製化は選択 肢の一つと考えている。
現状のよう に案件ごとに個別に投資するのでは 開発部システム開発課の 山下基弘課長 開発戦略 コアファンクション(共通機能) 業種別サブモジュール IT 部門が想定している将来的な方向性(あるべき姿) ■各センターの共通機能(コアファンクション)と、業種別のモジュールの 組み合わせで構成したハマキョウレックス標準システムを構築。
新セン ターに適用していく。
■顧客別の独自要件は、カスタマイズとして個別に開発する。
(顧客別コス トに反映) カスタマイズ 業種別モジュール (衣料品) 業種別モジュール (食品・日用雑貨) 業種別モジュール (医療品) 業種別モジュール (小売業) 業種別モジュール (製造部品) 65 NOVEMBER 2008 今後はハマキョウ自身がグループ内 に、IT子会社なり直系の関連会社 を設置することも選択肢の一つにな りそうだ。
現場力を損なわない 標準化が課題に 従来からハマキョウにはシステムの 外販に関する引き合いもきている。
た だし望まれている内容の多くは、物 流センター事業で培ったWMSでは なく、「収支日計表」などによる独 自の現場管理ノウハウだ。
大須賀正 孝会長がトップを務める日本3PL 協会の会員企業などからも、これを システムとセットで伝授してほしいと いう要望が少なからず寄せられてい るという。
もっとも冒頭でも述べた通り、「収 支日計表」はITに依存していない。
これは元々、創業期のハマキョウの ?どんぶり勘定?を改めるため、大 須賀会長が手書きで毎日の収支を記 録しはじめたことに端を発している。
自分たちが手掛けている仕事が儲か っているのかどうかを関係者に自覚 させ、自主的な改善行為をうながす ことを最大の目的としている。
この ため、あえて書式上の厳密さや正確 さは追求してはこなかった。
本格的にシステムと連動させて「収 支日計表」を管理している現場は、ハ マキョウの社内でもいまだに全体の 二割程度にすぎない。
それ以外は少 なからず手作業で処理している。
パ ートタイマーがこなす業務のうちシス テムに詳細が入力されない作業費を 別に電卓で計算するなどして、これ を表計算ソフト(エクセル)のファイ ルにまとめて本社に報告するといっ たパターンである。
そもそも「収支日計表」の管理項 目そのものが、まるで標準化されて いない。
現状では配送事業者や労働 者との契約のあり方などを反映して、 事業所ごとに独自の管理項目を採用 している。
これも現場にコスト意識を 持たせるための工夫の一つと言える。
この仕組みをパッケージシステムに 落とし込もうとすると、きわめて厄 介な事態に直面する。
システム化の ためには項目を標準化する必要があ る。
しかし、標準化された仕組みに 基づいて現場を運用すれば、システ ムに業務を合わせることで現場の効 率はかえって悪化しかねない。
システムの標準化は現在のハマキ ョウが直面する大きな課題だ。
これ まで同社が会計や労務管理などに使 ってきたシステムも、中小企業向け の市販パッケージをベースにしたもの が大半だった。
しかし、連結売上高 が八〇〇億円を超える規模になった 現在、もはやこうした管理は限界に 近づきつつある。
今年度から対応が求められること になっている内部統制も、変化を迫 る要因になっている。
内田氏は「当 社は基本的に、収支日計管理の集大 成こそ内部統制だという考え方をも っている。
できることなら、そのた めのノウハウを反映したシステムを構 築していきたい」という。
ITを一つの切り口としながら、業 務や管理のための標準的な仕組みを 構築できるのかどうか。
ハマキョウ 独自の強みを損なうことなくこうし た仕組みを実現できれば、そのシス テムはあとにつづく物流事業者にと っても価値の高いものになるはずだ。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) なく、あらかじめコアファンクション (共通機能)からなるシステムを用意 しておく。
そこに業種別のモジュー ルなどを付加したものを雛形として、 これを顧客別にカスタマイズしてい く、という構想である。
純粋にオリジナルのパッケージを 持ち、これを自由に横展開していく ことで、IT活用の大幅な生産性の 向上を達成できるかもしれない。
初 期開発投資は大きくなるが、同様の 仕組みを使う二件目以後のシステム 開発費は大幅に抑制できる。
トータ ルではコストパフォーマンスを高めら れ、開発リードタイムの短縮などのメ リットも見込める。
その代わり、小回りのきく外部ベ ンダーを案件ごとに使い分けること によって得ている現状のメリットは失 うことになる。
最悪の場合には、現 状では荷主から「臨機応変に対応で きると評価」(山下氏)されることも 多いシステム活用力が弱まってしまう 可能性も否定できない。
いずれをと っても一長一短がある。
実はハマキョウは、前述した協力 ITベンダー五社のうち一社に出資 をしている。
有価証券報告書への記 載を必要としないレベルの持株比率 ではあるが、IT開発のノウハウを 囲い込もうという意識は垣間みえる。
収支日計表 2008年○月 売上額 売上累計 ○期予算 金額比金額比金額比 ○期予算○期予算1日 木 2日 金 営業総利益 営業総利益累計 営業原価計 人件費 営業原価 運賃他経費 社員 パート アルバイト 福利賞与 小 計 社内 路線 小 計 家賃 荷造費 消耗品 固定費 変動費 小 計 厳密には書式が決まっていない「収支日計表」の例
