2008年11月号
特集

物量減少 投資不要・低料金ITは使えるか

NOVEMBER 2008  26 ASPからSaaSへの脱皮を目指す  「SaaS(サースまたはサーズ)」とは、ソフトウ ェア・アズ・ア・サービス(Software as a Service) の頭文字をとった略語だ。
その言葉通り、ネットワー クを通じてソフトウェアの機能を提供し、利用に応じ て課金するサービスを指す。
定義を読む限りは、二〇 〇〇年頃にブームになった「ASP(アプリケーショ ン・サービス・プロバイダー)」と大きな違いはなさ そうだ。
 一般に業務パッケージソフトの導入には莫大な初期 投資が必要だ。
WMSやTMSの場合でもカスタマイ ズまで含めると数千万円〜数億円の費用がかかる。
そ れに対して、ASPは初期投資が不要で、数日から 数週間程度で導入できる、という謳い文句だった。
こ のため中小企業を中心に普及が期待されたが、ブーム はやがて冷え込んでしまった。
 当時のASPは単にソフトをサーバーに乗せて提供 するだけで、実際に導入しようとすれば他のアプリケ ーションとの連携や業務プロセスの修正に時間も費用 もかかった。
ブロードバンド環境も、まだ充分には整 っていなかった。
SaaSは、こうした課題を克服 した進化したASPといえる。
 アパレルや日用雑貨に特化した物流システム開発・ ASP事業を行うロジザードは現在、ASPからSa aSへの脱皮を目指している。
同社の設立は〇一年。
前身企業が大手アパレル向けに開発した物流システム から始まった在庫管理システム「ロジザードプラス」な どをASPで提供している。
 ロジザードプラスの利用料は初期費用が五五万円、 月額費用が五万五〇〇〇円(標準)。
利用料の引き 上げなしに、これまでバージョンアップを重ねてきた。
中小企業をターゲットに考えていたが、当初は大企業 の利用が多く、その後中小企業に広がっていったとい う。
現在の顧客層はアパレル・雑貨や通販など。
利用 者数は一五〇ユーザーまでに増加した。
これまでは赤 字が続いていたが、昨年度にようやく黒字転換を果 たした。
 同社の金澤茂則社長は「一〇年かかって、やっと ここまできた。
サービス内容も?ご用聞き?的に顧客 の要望を取り入れ機能強化を繰り返してきた結果、S aaSに近いものになってきた。
単にソフトを提供す るだけではなく、保守・運用、サポートなどの付加 価値をつけ、顧客が望むITサービスを提供するのが 我々の目指すSaaS。
ITのアウトソーシングの流 れが止まらない以上、SaaSの時代はくる」と意 欲を燃やしている。
 同様に物流システム開発会社の日本アプトは、来年 度からWMSのSaaS事業を開始する。
これまで 自社開発したパッケージソフト「WACS Lite」 を販売してきたが、今年からはレンタルも開始。
さら にSaaSをメニューに加えることで、顧客の選択肢 を広げる。
 もともと同社は自動倉庫の制御システムのリニュー アルをメーンの事業としてきた。
そのため顧客も大手 企業が中心だが、中堅以下のユーザーをターゲットに した廉価版WMSとして「WACS Lite」を開 発した。
 その特徴は「カスタマイズフリー」だ。
ユーザーは 自社の業務に合わせて、計五〇四通りのテンプレート から運用パターンを選択する。
重量や容積、個数の管 理単位や社内呼称も自由に設定できるため、幅広い 業種・品目に対応可能だという。
 今春開始した同ソフトのレンタルサービス「L・S・ 投資不要・低料金ITは使えるか  パッケージソフトを販売するのではなく、その機能を インターネット経由で提供し、利用に応じて課金する新 たなITサービスが注目を浴びている。
「SaaS」と呼ばれ る。
これまではCRM(顧客管理)やSFA(営業支援) などのソフトウェアが中心だったが、物流IT分野のサー ビスも始まっている。
        (梶原幸絵) 固定費を変動費に変える 27  NOVEMBER 2008 特 集 S(ロジスティック・ソフトウェア・サービス)」では、 「物流業者の現場の課長レベルで決済できる金額」を 目指した。
初期費用は三五万円。
その後は月額一〇 万円(標準)で利用できる。
 来年度のスタートを予定しているSaaSについて 中沢義和社長は「自由にカスタマイズできるASP」 と位置付けている。
ただし、過度な期待はしていな いようだ。
「当社はASP化、SaaS化を目指して きたわけではなく、WMSを提供する中でSaaS への対応も可能だという流れでやってきた。
Saa Sの用意はしておくが、今後どこまで伸びるのかは 未知数だと考えている」としている。
 WMSパッケージソフト世界最大手、マンハッタン・ アソシエイツの日高巖ソリューション営業部セールス マネージャーも「SaaSが注目すべき業態であるの は確かだが、WMSには合わないのではないか」と 疑念を持っている。
物流管理は、販売管理などと比 べてプロセスの標準化が難しく判断業務が多い。
 しかし、SaaSはあくまでも一つのアプリケーシ ョンを複数の利用者に提供する仕組みであり、カスタ マイズといっても定型化された業務を組み替えたバリ エーションに過ぎないともいえる。
個別要件に合わせ て組み上げるパッケージソフトのカスタマイズとはレベ ルが違う。
 しかも物流現場では多量のトランザクションが発生 する。
オンラインサービスで十分なパフォーマンスを 確保できるのか不安が残る。
さらに、SaaSでは 利用者は自社のデータをすべて外部に置くことになる。
「セキュリティやデータ保護の観点からも、抵抗感が あるのではないか」と日高マネージャーはみている。
 マンハッタンの顧客ターゲットは大手〜中堅企業。
パッケージソフトの提供だけでなく、コンサルティン グやIT機能の強化による差別化支援を得意とする。
「当社の顧客層は常により高いレベルの効率化を求め ている。
それに対して当社は戦略ツールとしての、最 先端のWMSを提供している。
ASPやSaaSは ITを安く導入して効率化を図りたい中小企業には合 うかもしれない。
しかし現時点では当社のビジネスモ デルにはフィットしない」と考えている。
日本市場では時期尚早  SaaSが注目されるようになったのは、CRM システムを提供する米セールフォース・ドットコムの 成功がきっかけになっている。
昨年は日本の郵便局会 社も同社のサービスを採用した。
しかし物流分野に関 しては米国でもサービスプロバイダー自体数えるほど しか存在せず、いずれも売上規模は小さい。
 IBMビジネスコンサルティングサービス(IBC S)の宮本龍也サプライチェーン・マネジメント・マ ネージングコンサルタントは「物流ITを中小企業に 普及させるのにSaaSは突破口になり得る。
当社 の社内でも環境負荷の把握と軽減を支援するTMS をSaaS方式で提供できないかと話題にはなってい る。
しかし日本で実際に物流領域でSaaSが普及 するのは欧米市場よりずっと後のことになるだろう」 とみている。
 パッケージソフト自体、日本企業はなじむのに時間 がかかった。
業務プロセスを標準化することへの抵抗 が強く、過度なカスタマイズに走るためにパッケージ の利点がなかなか活かせなかった。
「SaaSはパッ ケージソフト以上にパッケージ的なところがある。
そ うすんなり日本企業に受け入れられるとは思えない」 と宮本マネージングコンサルタント。
本格的な普及に は、まだ時間がかかりそうだ。
●1 つのアプリケーションを複数の利用者に提供する SaaS の主流 C社 B社 A社 C社 B社 A社 メタ データ A社 ASP データセンターデータセンター インターネット DB DB DB A社B社C社 A社B社C社A社B社C社 インターネット 顧客ごとにサーバー、データベース などを使用する(シングルテナント) 複数の顧客でサーバー、データベー スなどを共有する(マルチテナント) メタデータ(カスタマイズ情報のデータ)に よって、ユーザーごとのカスタマイズが可能 日本アプトの中沢義和社長 マンハッタン・アソシエイロジザードの金澤茂則社長 ツの日高巖マネージャー IBCSの宮本龍也マネージ ングコンサルタント

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから