2008年11月号
特集

物量減少 KPIの活用で不合理を排除──DHLサプライチェーン

NOVEMBER 2008  32 現場作業員を三分の二に  一〇社を超える荷主が同居するDHLサプライチェ ーンの東京物流センター某フロア。
一年間にわたる改 善活動によって、作業生産性が劇的に向上した。
そ れまで一日平均二六・五人を要していた作業を一六・ 五人で処理できるようになった。
余剰人員は短期ア ルバイトを減らすほか、同じ拠点内の他の現場に配置 転換して総作業員数を削減した。
 改善に当たったDHLサプライチェーンの水野孝則 コマーシャルコントローラーヘッドオブPMOは「庫内 作業の生産性は物量の変動に大きく左右される。
物 量が減少しても一定の利益を残すには、きめの細か いレイバー・マネジメントが不可欠だ。
KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)が、そ の武器になる」という。
 一般に庫内作業員の総労働時間のうち、顧客へのア ウトプットに直接繋がる作業を行っているのは六五% 〜七〇%とされる。
それ以外の時間は、サボっている わけではなかったとしても、価値を生まない仕事に割 かれているのだ。
そこにメスを入れることで、どんな 現場でも生産性を大幅に改善できる可能性がある。
 DHLでは「処理量/作業時間」を庫内作業の生 産性を示すKPIに設定している。
具体的には、入 荷量と出荷量を足して二で割った平均値を「処理量」 として、それを投入した総労働時間で割る。
東京物 流センターでは、このKPIに基づいて現場のパフォ ーマンスを測定し、物量の変動に合わせて労働力をコ ントロールする「レイバー・スケジューリング」を実 施した。
 作業フローや庫内レイアウトの改善と並行して、月 ごとの物量の波動、日々の波動、時間帯ごとの波動 を把握、ムダのない人員配置を工夫した。
これによっ て入出荷作業の生産性は一七三%に向上。
入出庫作 業は二五六%に向上した(表1)。
 現場の各作業エリアにはホワイトボートを持ち込み、 日々の作業量と投入労働時間を表示して、現場の作 業員全員でKPIを共有する体制を整えた。
しかし、 水野ヘッドや改善活動のために本部から派遣された 外国人幹部たち?外人部隊?を、現場作業員たちは、 冷ややかに見ていた。
 「ホワイトボードを目にしても、何のためにこんな嫌 味なことをするのか、時間のムダだといった批判の声 のほうが強かった。
KPIで作業を可視化するのだと 説明しても、耳を貸してもらえなかった。
現実に大き な改善効果を上げたことで、ようやく現場も理解を示 してくれるようになった」と水野ヘッドは振り返る。
 KPIとは、組織目標の達成に向けた実行の進捗 を定量的に把握するために設定する管理指標で、欧 米では広く普及している。
抽象的な経営目標は、そ のままではお題目に終わる。
また大目標を各部門の 目標に落とし込んでも、売上高や利益などのノルマを 押しつけるだけでは、結果は確実なものとならない。
実行の裏付けが必要だ。
そのために管理職は各部門、 各担当者に対して目標を達成する道筋を示し、実行 を常にモニターして、計画とのギャップが生じれば修 正を加える。
このモニターにKPIを使う。
 各階層のKPIは、そのまま当該部門や担当者の 業績評価指標にもなる。
水野ヘッドは「私の場合、個 人評価の四〇%がKPIによって決まる。
五〇%は 会社全体の業績なので、成績を上げるために自分で 自由にコントロールできるのはKPIしかない」とい う。
経営目標から落とし込んだKPIを、経営層か ら末端の現場スタッフまでの人事評価に反映させるこ  かつて英エクセルは世界で最もKPIの活用に優れた3PL 企業として知られていた。
そのノウハウは同社を2005年に 買収した現在のDHLサプライチェーンに受け継がれている。
KPIに基づく合理的な管理は、物量の減少時にも大きな威 力を発揮する。
             (大矢昌浩) KPIの活用で不合理を排除 ──DHLサプライチェーン 逆風をバネに事業を拡大 33  NOVEMBER 2008 特 集 173% 67.3 92.6 187.3 152.1 152.3 144.2 146.2 163.9 208.0 153.4 158.7 171.2 153.4 159.9 169% 5,920 8,581 18,395 12,470 11,775 11,767 11,128 11,243 14,999 9,954 10,202 10,648 11,754 14,501 98% -2.0 92.7 98.2 82.0 77.3 81.6 76.1 68.6 72.1 64.9 64.3 62.2 76.6 90.7 72% -5.0 18.0 15.7 14.2 14.5 13.4 11.9 11.5 11.9 11.0 10.3 10.5 11.8 13.0 256% 92 58.8 123.5 97.9 94.6 101.6 116.2 122.6 187.8 143.2 130.2 150.6 148.5 150.7 108% 232 2,752 5,224 3,709 3,132 2,488 2,207 2,354 3,907 2,821 2,604 2,892 2,599 2,984 42% -27.0 46.8 42.3 37.9 33.1 24.5 19.0 19.2 20.8 19.7 20.0 19.2 17.5 19.8 41% -5.1 8.5 7.5 7.2 6.7 5.1 5.5 3.7 3.8 4.0 4.0 3.6 3.5 3.5 3 月 4 月 5 KPI 測定開始活動前月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 1 月 2 月 からの推移 生産性/ 測定項目 業務入荷&出荷入庫&出庫 生産性(1人/ 1時間当たり) 作業処理量 労働時間 人員数 (1日平均) 生産性(1人/ 1時間当たり) 作業処理量 労働時間 人員数 (1日平均) 表1 生産性の向上で現場作業費を26.5 人から16.5 人に削減した 表2 DHL サプライチェーンのグローバルKPI 表3 補修部品事業の付加KPI 傷病労働損失時間率 設備/資産損害率 ピッキング/出荷精度 定時出荷 在庫・棚卸精度 顧客製品損害率 顧客クレーム率 顧客クレームコスト 直接生産性(作業費のみ) 総生産性(管理費含む) 従業員定着率 従業員出勤率 エネルギー使用料 輸送燃料使用料 良品入庫件数 良品入庫遅延件数 定時配送件数 配送遅延件数 故障部品入庫件数 故障部品入庫遅延件数 入庫品差異件数 入庫品差異残件数 入荷処理 定時配送 補修部品業務 入庫品差異報告 安全性 出 荷 在庫管理 人的資源管理 環 境 とで組織全体の足並みを揃えている。
KPIで組織を貫く  DHLの親会社であるドイツポストは「ファースト チョイス(第一の選択肢)」と呼ぶ経営目標を掲げて いる。
そして顧客から最初の選択肢として選ばれる 条件として、「顧客経験価値」、「価格価値」、「顧客忠 誠心」の三つのKPIを掲げている。
 この三つを向上していくためにDHLサプライチェ ーンでは、「七つの活動規範(7 Disciplines)」を定め ている。
「?顧客管理」→「?パフォーマンス管理」→ 「?プロセス改善」→「?プロジェクト管理」→「? 品質保証」というPDCA(Plan Do Check Action) サイクルを、「?人材採用評価プロセス」をベースに 「?従業員の全員参画」で回していくという組織運営 の基本的な考え方だ。
 その管理指標として「安全性」「出荷」「在庫管理」 「人的資源管理」「環境」の領域ごとに、事業部門レ ベルのKPIを設定している。
このほか補修用部品 のロジスティクス事業では、その特性を反映して「入 庫処理」「定時配送」「補修部品業務」「入庫品差異報 告」をKPIに加えている(表2、3)。
 同様のKPIは、現場運営を委託する協力会社の 管理にも使用する。
荷主企業向けのKPIは、各荷 主の要請に応じて案件ごとにカスタマイズする。
日本 の荷主企業はKPIに馴染みが薄いため、DHLで 使用しているKPIのほか、契約時点で荷主企業の ロジスティクスを分析して適切なKPIを開発して提 案することが多いという。
内部的な管理指標として KPIを使うだけでなく、KPIにサプライチェーン を貫徹させることで、ビジネスモデルの完成度を高め ているのだ。
DHLサプライチェーンの水 野孝則コマーシャルコント ローラーヘッドオブPMO

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