2008年11月号
特集
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建築業界にJITを導入──HOTTA
NOVEMBER 2008 36
縮小する市場を尻目に好業績
「三年後に売り上げ八五億円、一〇年後には五〇〇
億円を実現したい。
ホラを吹いているつもりはありま せんよ。
私にとって不況は大歓迎なんです。
他社と 差別化できる絶好の機会ですから」 こう語るのは建築資材物流HOTTAの堀田芳史 社長だ。
同社の今期売り上げ見込みが五六億円だと いうことを鑑みると、大言壮語に聞こえる。
確かに 急成長はしている。
今期を含むここ三年の売上高成 長率は年平均一五%を超えている。
この成長率を維 持できれば、三年後に八五億円という目標は達成で きる。
しかし、現在のような景気後退局面において、 高い成長率を維持するのは決して容易ではない。
しかも同社がターゲットとする建築業界は不況のど 真ん中だ。
折からの資材価格高騰や姉歯問題など負 の要素に加えて、昨年の建築基準法改正が追い打ち をかけた。
住宅着工数は大幅に減少している。
当然、 建築資材を扱う物流業者も影響は免れない。
このよ うな状況では、コスト削減や現状維持に走り、なるべ く傷を深くしないようにするのが一般的な経営者のマ インドだろう。
堀田社長の野心的な経営計画に、どれだけの実現 可能性があるのか。
まずは、同社がシュリンクする建 築市場でいかに業績を伸ばしてきたかを振り返ってお こう。
これまでの成長のエンジンは「SDC(スーパーデ リバリーセンター)」という独自のサービスだった。
H OTTAが工務店やハウスメーカーといったビルダー の調達物流を一元化して請け負い、さらに届け先での 簡単な取り付け業務や修繕などを行うというものだ。
建築業界の流通は複雑だ。
屋根、瓦、外壁、サッ シ、住設機器など商材ごとに縦割りでチャネルが形成 されている。
しかもチャネルごとに一次問屋、二次問 屋、代理店、商社など中間流通業者が数多く存在す る。
当然、マージンや在庫が膨らみ、それらは最終価 格に転嫁される。
しわよせを受けるのはビルダーだ。
大手ハウスメー カーはこれを是正するため、数年前から独自の調達 物流網を構築し始めている。
しかし、中小工務店に は到底、真似ることはできない。
この構造のマイナス要素は資材コストの高騰だけで はない。
建設現場には商材ごとに細かく分かれたベン ダーがそれぞれ資材を搬送する。
その受け入れで現場 の作業が何度もストップする。
また、ビルダーは現場の施工業務の進捗状況に応じ て資材メーカーに発注をかけるが、このタイミングを 誤ったり、資材メーカーの納入リードタイムが伸びた りするケースが頻繁に起こる。
現場に人はいても作業 が進まないという状況が発生し、大きな問題として捉 えられていたのだ。
古い商慣習を打破 堀田社長は既存の建材流通業者に代わって自らがベ ンダーとなることで、建築現場に「ジャスト・イン・ タイム」の概念を持ち込めないかと考えた。
複数のメ ーカーの資材を自社のセンターで一元管理し、工務店 の進捗状況を把握して必要なときに、必要な資材を、 必要な数だけ納入できるスキームを構築した。
資材メ ーカーとの間に入るのは同社だけ。
あるいは代理店が 一社噛む程度なので、コストも従来と比較して安く抑 えられる。
さらに現場での簡単な取り付け施工業務や、修繕 業務を自社のドライバーで請け負うという付加価値サ 直近3年間の売上高成長率は年平均15%を超えている。
今 後さらに成長スピードを加速し、10年後に売上500億円を目 指すという。
そのターゲットは市場規模の縮小著しい建築 業界。
「不況はチャンス」と言い切る堀田社長は、建築物流 の構造改革という壮大な構図を描いている。
(石鍋 圭) 建築業界にJITを導入 ──HOTTA 逆風をバネに事業を拡大 37 NOVEMBER 2008 特 集 ービスの提供も併せて開始した。
HOTTAが事業領 域を拡大することで、工務店は業者の出入りを抑え ることができる。
SDCは好評を博した。
それまでの多くの問題を一 気に解決できるサービスとして、中小工務店からの引 き合いも多く、同社の成長に貢献した。
ただし問屋 をはじめとする中間流通業者にとっては面白くない。
それまでの自分たちの利益を丸々物流会社に横取りさ れるのだから当然と言えば当然だ。
堀田社長個人に 対する風当たりも強かった。
「会社に詰めかけられたり、お叱りの声をいただい たり、当時は大変なこともありましたよ。
でもそこ は話し合いでカバーするしかない。
新しいことをする 時に障害はつきものですから。
ケンカするつもりはあ りませんが、顧客に効率的なサービスを提供するほう が優先です」(堀田社長) 古い商慣習が蔓延している業界には、非効率的な 構造の上に一部の既得権益者が居座っていることが珍 しくない。
他の多くの業界では自由競争の末にそれ らの業者は淘汰されていった。
しかし、建築業界で はこれまでそれが温存されていた。
今ようやく改革 が始まりつつあるというのが現状だ。
成功モデルに見切り 昨年、HOTTAは好評を博したSDCを終了し、 代わって新たに「MVS(マルチ・ベンダー・システ ム)」というサービスを開始した。
SDCを踏襲する サービスだが、大きな違いが一つある。
付加価値サー ビスとして展開していた取り付け施工業務や修繕業務 を止めてしまったのだ。
堀田社長はその理由を次のよ うに説明する。
「これ以上の広がりは難しいと判断したのです。
ド ライバーが取り付けや修繕業務を行えるようになるに は技術以外にも商品知識を学ばなければなりません。
当然、時間もかかるので急展開していくことは不可 能。
それよりもベンダー機能をさらに充実させ、建設 業界全体の物流にジャスト・イン・タイムの概念を普 及させる方が先だと考えたのです」 二〇〇六年からMVSの準備をし始め、全国に二 六拠点を構えた。
満を持して販売を開始したのは先 記の通り昨年からだが、初年度は見込んでいたほど の売り上げには至らなかった。
建築基準法が改正され、 ビルダーがその対応に追われていたからだ。
しかし今 年に入って引き合いは急増している。
建築資材の一部がMVSを通過して建設された戸 建て住宅が昨年は約七〇〇〇棟だったのに対し、今 年は倍以上の一万五〇〇〇棟を見込んいる。
堀田社 長は近い将来、この数字を五万棟にまで増やしたい考 えだ。
「我々が狙っている市場は戸建てで年間四三万棟。
こ のうち積水ハウスなど大手八社で占める割合は二割に 満たない。
大手による寡占化が進まない、珍しい業 界なのです。
だから、我々物流会社が業界スタンダー ドを示すチャンスがある。
五万棟を手掛ければ市場の 一〇%を抑えることになる。
この数字が弊社のサービ スをスタンダード化するための最初のステップだと考 えています」(堀田社長) 建築業界に物流プラットフォームを作り上げる。
こ れが実現すれば、収益源は飛躍的に増える。
既に開 始しているのが鮮魚や家具の販売だ。
今後もこのよ うな付帯ビジネスを立ち上げ、完成したプラットフォ ームに乗せて育て上げていく。
その先にあるのが、一 〇年後に売上げ五〇〇億円という数字だ。
堀田社長 は夢物語とは考えていない。
HOTTAの堀田芳史社長 ‘94 ‘95 ‘96 ‘97 ‘98 ‘99 ‘00 ‘01 ‘02 ‘03 ‘04 ‘05 ‘06 ‘07 ‘08 (見込み) 56億 85億 ‘11 (目標) 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 (単位:百万円) (年) HOTTA の売上高(単体)推移。
建築市場が縮小する中、業績を伸ばしてきた … … … … 500億 ‘18 (目標)
ホラを吹いているつもりはありま せんよ。
私にとって不況は大歓迎なんです。
他社と 差別化できる絶好の機会ですから」 こう語るのは建築資材物流HOTTAの堀田芳史 社長だ。
同社の今期売り上げ見込みが五六億円だと いうことを鑑みると、大言壮語に聞こえる。
確かに 急成長はしている。
今期を含むここ三年の売上高成 長率は年平均一五%を超えている。
この成長率を維 持できれば、三年後に八五億円という目標は達成で きる。
しかし、現在のような景気後退局面において、 高い成長率を維持するのは決して容易ではない。
しかも同社がターゲットとする建築業界は不況のど 真ん中だ。
折からの資材価格高騰や姉歯問題など負 の要素に加えて、昨年の建築基準法改正が追い打ち をかけた。
住宅着工数は大幅に減少している。
当然、 建築資材を扱う物流業者も影響は免れない。
このよ うな状況では、コスト削減や現状維持に走り、なるべ く傷を深くしないようにするのが一般的な経営者のマ インドだろう。
堀田社長の野心的な経営計画に、どれだけの実現 可能性があるのか。
まずは、同社がシュリンクする建 築市場でいかに業績を伸ばしてきたかを振り返ってお こう。
これまでの成長のエンジンは「SDC(スーパーデ リバリーセンター)」という独自のサービスだった。
H OTTAが工務店やハウスメーカーといったビルダー の調達物流を一元化して請け負い、さらに届け先での 簡単な取り付け業務や修繕などを行うというものだ。
建築業界の流通は複雑だ。
屋根、瓦、外壁、サッ シ、住設機器など商材ごとに縦割りでチャネルが形成 されている。
しかもチャネルごとに一次問屋、二次問 屋、代理店、商社など中間流通業者が数多く存在す る。
当然、マージンや在庫が膨らみ、それらは最終価 格に転嫁される。
しわよせを受けるのはビルダーだ。
大手ハウスメー カーはこれを是正するため、数年前から独自の調達 物流網を構築し始めている。
しかし、中小工務店に は到底、真似ることはできない。
この構造のマイナス要素は資材コストの高騰だけで はない。
建設現場には商材ごとに細かく分かれたベン ダーがそれぞれ資材を搬送する。
その受け入れで現場 の作業が何度もストップする。
また、ビルダーは現場の施工業務の進捗状況に応じ て資材メーカーに発注をかけるが、このタイミングを 誤ったり、資材メーカーの納入リードタイムが伸びた りするケースが頻繁に起こる。
現場に人はいても作業 が進まないという状況が発生し、大きな問題として捉 えられていたのだ。
古い商慣習を打破 堀田社長は既存の建材流通業者に代わって自らがベ ンダーとなることで、建築現場に「ジャスト・イン・ タイム」の概念を持ち込めないかと考えた。
複数のメ ーカーの資材を自社のセンターで一元管理し、工務店 の進捗状況を把握して必要なときに、必要な資材を、 必要な数だけ納入できるスキームを構築した。
資材メ ーカーとの間に入るのは同社だけ。
あるいは代理店が 一社噛む程度なので、コストも従来と比較して安く抑 えられる。
さらに現場での簡単な取り付け施工業務や、修繕 業務を自社のドライバーで請け負うという付加価値サ 直近3年間の売上高成長率は年平均15%を超えている。
今 後さらに成長スピードを加速し、10年後に売上500億円を目 指すという。
そのターゲットは市場規模の縮小著しい建築 業界。
「不況はチャンス」と言い切る堀田社長は、建築物流 の構造改革という壮大な構図を描いている。
(石鍋 圭) 建築業界にJITを導入 ──HOTTA 逆風をバネに事業を拡大 37 NOVEMBER 2008 特 集 ービスの提供も併せて開始した。
HOTTAが事業領 域を拡大することで、工務店は業者の出入りを抑え ることができる。
SDCは好評を博した。
それまでの多くの問題を一 気に解決できるサービスとして、中小工務店からの引 き合いも多く、同社の成長に貢献した。
ただし問屋 をはじめとする中間流通業者にとっては面白くない。
それまでの自分たちの利益を丸々物流会社に横取りさ れるのだから当然と言えば当然だ。
堀田社長個人に 対する風当たりも強かった。
「会社に詰めかけられたり、お叱りの声をいただい たり、当時は大変なこともありましたよ。
でもそこ は話し合いでカバーするしかない。
新しいことをする 時に障害はつきものですから。
ケンカするつもりはあ りませんが、顧客に効率的なサービスを提供するほう が優先です」(堀田社長) 古い商慣習が蔓延している業界には、非効率的な 構造の上に一部の既得権益者が居座っていることが珍 しくない。
他の多くの業界では自由競争の末にそれ らの業者は淘汰されていった。
しかし、建築業界で はこれまでそれが温存されていた。
今ようやく改革 が始まりつつあるというのが現状だ。
成功モデルに見切り 昨年、HOTTAは好評を博したSDCを終了し、 代わって新たに「MVS(マルチ・ベンダー・システ ム)」というサービスを開始した。
SDCを踏襲する サービスだが、大きな違いが一つある。
付加価値サー ビスとして展開していた取り付け施工業務や修繕業務 を止めてしまったのだ。
堀田社長はその理由を次のよ うに説明する。
「これ以上の広がりは難しいと判断したのです。
ド ライバーが取り付けや修繕業務を行えるようになるに は技術以外にも商品知識を学ばなければなりません。
当然、時間もかかるので急展開していくことは不可 能。
それよりもベンダー機能をさらに充実させ、建設 業界全体の物流にジャスト・イン・タイムの概念を普 及させる方が先だと考えたのです」 二〇〇六年からMVSの準備をし始め、全国に二 六拠点を構えた。
満を持して販売を開始したのは先 記の通り昨年からだが、初年度は見込んでいたほど の売り上げには至らなかった。
建築基準法が改正され、 ビルダーがその対応に追われていたからだ。
しかし今 年に入って引き合いは急増している。
建築資材の一部がMVSを通過して建設された戸 建て住宅が昨年は約七〇〇〇棟だったのに対し、今 年は倍以上の一万五〇〇〇棟を見込んいる。
堀田社 長は近い将来、この数字を五万棟にまで増やしたい考 えだ。
「我々が狙っている市場は戸建てで年間四三万棟。
こ のうち積水ハウスなど大手八社で占める割合は二割に 満たない。
大手による寡占化が進まない、珍しい業 界なのです。
だから、我々物流会社が業界スタンダー ドを示すチャンスがある。
五万棟を手掛ければ市場の 一〇%を抑えることになる。
この数字が弊社のサービ スをスタンダード化するための最初のステップだと考 えています」(堀田社長) 建築業界に物流プラットフォームを作り上げる。
こ れが実現すれば、収益源は飛躍的に増える。
既に開 始しているのが鮮魚や家具の販売だ。
今後もこのよ うな付帯ビジネスを立ち上げ、完成したプラットフォ ームに乗せて育て上げていく。
その先にあるのが、一 〇年後に売上げ五〇〇億円という数字だ。
堀田社長 は夢物語とは考えていない。
HOTTAの堀田芳史社長 ‘94 ‘95 ‘96 ‘97 ‘98 ‘99 ‘00 ‘01 ‘02 ‘03 ‘04 ‘05 ‘06 ‘07 ‘08 (見込み) 56億 85億 ‘11 (目標) 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 (単位:百万円) (年) HOTTA の売上高(単体)推移。
建築市場が縮小する中、業績を伸ばしてきた … … … … 500億 ‘18 (目標)
