2005年1月号
特集

ヤマト運輸の決断 国際市場の常識に逆らう

ヤマト運輸  ヤマト運輸が賭けに出た。
国際競争参入の誘惑を断ち切り、国内基盤の強化に集中する。
宅急便と同様に、メール便でも国の郵便事業を上回る規模の新市場の創造に挑む。
四半世紀にわたって封印してきた路線便市場にも再び参入した。
国内需要を根こそぎ刈り取る同社の物流プラットフォーム戦略は、果たして吉と出るか。
 特 集 JANUARY 2005 8グロ バル競争に背を向けて二〇〇四年十一月 ヤマト運輸は今後の物流市場に大きな影響を与えることの予想される取り組みを 相次いで発表した ドイツポストとの提携 割賦債権の買い取り業務を行うフ インクレジ トの買収 そして六〇〇キログラムまでの中ロ ト貨物を対象とした ボ クスチ タ 便 の発売だ これによ て同社が他に例を見ない特異なビジネスモデルを目指していることが明らかにな てきた ドイツポスト UPS フ デ クスなど 国際インテグレ タ と呼ばれる欧米の大手物流企業は現在 地球規模の縄張り争いを激化させている アジア諸国からも 近い将来の民営化が噂される中国郵政局 日本郵政公社 そして佐川急便などが国際市場に向けて駒を進めている 大手荷主企業がグロ バル展開を加速させているのに伴い 国際貨物輸送量は増加し 物流企業に求められるソリ シ ンもグロ バル化している その一方 米国を除く先進国の国内貨物輸送量は 今や頭打ちの状態で 市場規模の拡大は期待できない 国内市場の淘汰を勝ち抜いた物流企業が国外に新たな成長基盤を求める それが今日の国際物流市場では常識とな ている 勝ち組とされる大手物流企業の中で ヤマトだけがこの定石に逆らおうとしている 同社の山崎篤社長は 宅急便のブランドと仕組みをそのまま海外に持 て出ていくことは考えていない 海外事業においても当社の場合は日本向けの物流がテ マ 国際インテグレ タ とはモデルが違う という 同社も二〇〇三年一〇月には初の中国現地法人として雅瑪多 上海 物流有限公司を設立している し国際市場の常識に逆らう解 説第1部 特 集   決断 ヤマト運輸運輸 ヤマト運輸の 決断 1売上高、利益共に郵政は郵便事業の連結   2郵政はゆうパック。
ヤマトは宅急便 3郵政は通常郵便と冊子小包の合計 4郵政は公社全体の職員数 ※いずれも数字は2003年度 ヤマト運輸 33。
7% ヤマト運輸 53。
4% 佐川急便 31。
0% 佐川急便 8。
2% 日本通運 12。
3% 福山通運 10。
0% 日本郵政公社 6。
1% 日本郵政公社 27。
7% 西濃運輸 4。
5% 中越運送 5。
4% 日本通運 2。
7% その他 2。
3%  その他 2。
6% 宅配便市場のシェア  民間メール便 VS 郵政冊子小包  郵政とヤマトの事業規模比較   日本郵政公社  ヤマト運輸 連結売上高1 1兆9749億円 1兆113億円経常利益 476億円 485億円当期利益 263億円 498億円小口貨物総取扱数 255億8663万個 20億552万個宅配貨物2 1億8211万個 10億111万個郵便/メール便3 254億4480万通 9億9943万通集配拠点 4792カ所 2545カ所社員数4 27万1368人 13万1974人宅配便市場の淘汰はほぼ終了  メール便市場でも他を圧倒  しかし、規模では郵政とまだ大きな開きがある 9 JANUARY 2005かし その狙いは中国で生産した製品を日本に輸入して宅急便のネ トワ クで配送することにある 自社ブランドによる中国国内の宅配ネ トワ ク構築を急ぐ佐川急便やDHLとはアプロ チが違う 台湾では現地でセブンイレブンを展開する有力財閥の統一企業グル プと業務提携を結び 二〇〇〇年一〇月からクロネコマ クをあしら た宅急便を展開している しかし これも事業主体は統一企業傘下の統一速達であり ヤマトには技術供与の見返りとしてライセンス収入が入 てくるだけ 二〇〇四年一〇月にはヤマトが統一速達に出資することも決ま たが その比率は一〇%に過ぎない 外資系証券会社のアナリストは ヤマトが本格的に海外展開に乗り出すとなれば 株式市場はポジテ ブに反応するはずだ 実際 投資家やアナリスト向けの説明会では海外展開についてよく質問が出る しかしヤマト側から期待した答えが返 てきたことはこれまでない という 二〇〇四年四月に それまで一四年にわた て続いたUPSとの資本提携を解消したことで フリ ハンドにな たヤマトが ようやく国際化に向けて腰を上げると期待する向きもあ た 事実上の無借金経営でキ シ フロ も潤沢なことから 近鉄エクスプレスを始めとした国際物流企業の買収などが噂された 国内基盤強化で市場を丸呑みしかしドイツポストとの提携によ て その線も消えた この提携はドイツポストが海外で集荷した国際メ ル便を日本国内でヤマトが配送するという内容だが 将来はヤマトが国内で集荷した国際メ ル便をドイツポストのネ トワ クで海外に送ることも視野に入 ている ヤマトが自ら海外ネ トワ ク構築に資金を投じる可能性は薄ま た 同社の投資の矛先は あくまでも国内ネ トワ クの基盤強化に向か ている 宅急便の全国インフラは九七年の小笠原諸島進出を最後に完成した 本来であれば それ以降はインフラ稼働率の向上がそのまま利益に結びつく収穫期と言える しかし その後も同社は年間四〇〇 五〇〇億円規模の積極的な設備投資を続けている 集配拠点を日本郵政公社並みの全国五〇〇〇カ所に倍増する計画に加え メ ル便でも末端配送の自社化に乗り出した 主婦層を中心に全国約四万人を業務委託契約で組織した クロネコメイト による従来の配送体制は改める 宅急便とは別に社員だけで完結するメ ル便専用の配送ネ トワ クを新たに構築する これによ て当然 固定費は増加する 吸収するには大幅に物量を増加させて配送密度を上げるしかない そのために独自の商品開発によ て新たな需要を創造し 郵政の年間二六〇億通を上回るメ ル便の獲得を目指す 並行して 法人向けの決済機能と六〇〇キログラムまでの中ロ ト貨物のユニ ト輸送を切り口に特別積み合わせ市場 いわゆる路線便市場に再び参入する 宅急便を開始した七六年を機に封印していた市場を解禁する 現状ではヤマトと通常郵便を含めた郵政の年間取扱数には一〇倍以上の開きがある しかしヤマトが新たな戦略に成功すれば 同社は民間企業でありながら国内の貨物輸送需要を丸呑みする巨大な社会インフラと化す 一方 失敗すれば過剰なインフラ投資によ て採算性が破壊される 一度 足を踏み出した以上 後戻りは許されない 同社の決断に市場関係者の見方も割れている 大矢昌浩

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