2008年12月号
ケース

トレーサビリティ TOTOハイリビング

DECEMBER 2008  42 トレーサビリティ TOTOハイリビング ICタグで原材料の製造ロットを特定 現場改善にも活用して投資回収狙う 原料の品質を独自に検査  TOTOハイリビングはTOTOブランド のシステムキッチンと洗面化粧台を開発・製 造している。
工場は千葉県茂原市、滋賀県甲 賀市、福岡県行橋市の三カ所にある。
全国の TOTOショールームで受注した商品を三工 場で生産し、それぞれ東日本、中部、西日本 エリア向けに出荷している。
 システムキッチンは、調理台、流し台、コ ンロ等の機器類に、これらを支えるフロアキャ ビネット(収納戸棚)やキッチンパネル、ウオ ールキャビネット(吊り戸棚)、換気扇フード などのユニットを組み合わせて販売する。
最 近では食器洗浄乾燥機がビルトインされたタ イプなども普及している。
同社の工場ではこ れらのユニットのうち主にキャビネットを生産 し、他メーカーから調達した機器類と組み合 わせて住宅施工現場や工務店に納めている。
 キャビネットとは、大まかに言えば天板・側 板・底板を組み立てて扉をつけたもので、主 要原材料にはパーティクルボード、ファイバー ボード、合板などの化粧板を使う。
今年九月、 同社はこれらの化粧板にICタグをつけて在 庫を管理するシステムを、凸版印刷、トッパ ン・コスモと共同開発し、本社工場の茂原工 場へ導入した。
 パーティクルボードなどの化粧板には、製 造時に接着剤としてホルムアルデヒドが使われ ている。
ホルムアルデヒドには刺激臭があり、 新築住宅の建材や内装材などに含まれる濃度 が高いと、室内に放散されて人体に影響を及 ぼし、人によってはシックハウス症候群を引 き起こすこともある。
 この対策として厚生労働省がホルムアルデ ヒドの室内濃度指針値を設定しており、放散 量が指針値を超える建材の使用は建築基準法 により禁止されている。
また指針値内でも放 散量による等級区分が行われ、放散量がごく わずかな「フォースター」という最上位の等 級のものでないと使用が制限される。
 現在では「フォースター」等級のものがか なり普及し、TOTOハイリビングの茂原工 場では、すべてこの等級の化粧板を使用して いる。
その品質管理を強化するため、昨年九 月からは、それまで仕入先の原材料メーカー 任せにしていたホルムアルデヒドの濃度測定 を自社の工場でも独自に実施している。
製品 の安全性を保証するには原材料の品質につい ても自主的に管理する必要があると考えたか らだ。
 工場内にデジケータ試験装置を設置し、原 材料メーカーの製造ロット単位で放散量を測 定している。
温度と湿度を一定に保った試験 装置の中でサンプルを一週間養生させた後に、 蒸留水の入った容器に入れて二四時間かけホ ルムアルデヒドを放出させて濃度を測定する。
その平均値と最大値を原材料メーカーの提出 した検査結果とともに記録する。
検査数値に 異常があれば、この段階で対策を講じること 今年9月、システムキッチンなどを製造するTO TOハイリビングは、トレーサビリティ強化を狙い、 ICタグを利用した原材料管理システム稼働させ た。
原材料の在庫と品質を製造ロットごとに管理で きる。
来年度は産工程にもICタグを導入する計 画で、履歴管理を一元化すると同時に現場作業の 進捗をリアルタイムで把握して生産性向上を図る。
43  DECEMBER 2008 ができる。
 ただし試験を開始した当初は、原材料の製 造ロット単位まで細かく在庫管理を行ってい たわけではなかった。
原材料メーカーが原料 に貼付する現品票には製造ロット番号が入っ ているものの、倉庫では品番までの管理しか していなかった。
 そのため数値に異常があった場合には、倉 庫へ行って原材料の現品票を一点ずつチェッ クし、該当するロット番号のものを探し出す 必要があった。
これでは対応が後手に回って しまう。
そこでICタグを使って、原材料メ ーカーの製造したロット単位で在庫を管理す ることにした。
 ICタグは名刺大で、データを書き込むだけ でなく同じ情報をタグの表面にも印字できるタ イプを採用した。
管理の対象となるのは国内 外の仕入先三〇社から調達した原材料。
これ らを入荷した際に、ロット単位で現品票に記 されたメーカー名、品名、品番、数量、ロッ ト番号および入荷日などの情報をリーダー/ ライターに入力してタグを作成し、現品票と 並べて原材料に貼付しておく。
 原材料を出庫する際には作業者がタグをリ ーダーで読み、出庫後の残数を入力する。
こ れにより?誰がいつ、どの品番・どのロット番 号の原材料を、どの作業場でいくつ使った? という履歴がサーバーで管理される。
さらに この情報に、ホルムアルデヒドの放散試験結 果の数値を紐付けて入力しておくことにより、 ロットごとに数値データと一体で在庫を管理 することができる。
 茂原工場の田村真一取締役製造部長は「消 費者に安心して商品を購入してもらうには、 メーカーとしてどんな品質の原材料を使って 生産しているのか、いつでも答えられるよう にしておくことが重要だ」と強調する。
 ICタグで入出庫を管理するようになって 在庫管理の精度も向上した。
従来、原材料倉 庫では伝票ベースで在庫を管理していたため、 出庫時の入力忘れなどから実在庫数がコンピ ューターで管理する数量よりも少ないことが あった。
その結果、欠品が発生すれば生産に 支障をきたすことになる。
システムを導入し てからはこうした在庫の差異がなくなった。
 出庫のたびに出庫した数ではなく残数を入 力して情報を更新する運用方法に変えたこと によるものだ。
仮に誰かが入力するのを忘れ ても次の人が残数を修正できる。
残数はタグ にも印字される。
現場でも常に在庫数を確認 しながら作業を行うことができるため、欠品 を防ぎやすくなった。
八〇万アイテムを部品から受注生産  こうした成果を踏まえて茂原工場では、I Cタグによる管理システムを生産工程にも導 入することを検討している。
 キャビネットの生産は、原材料倉庫からピ ックアップした化粧板に裁断、縁貼り、シー ト貼り、穴あけなどの加工を施して天板、底 板、側板や扉などの部品を作り、次にこれら の部品を組み立てるという手順をとる。
部品 をつくるまでの加工工程だけでも八つほどの 工程がある。
工程ごとに作業エリアが分かれ、 それぞれに「ショップ」名がついている。
加 工・組立工程を合わせると、茂原工場のショ ップの数は三〇に上る。
 組立工程のショップは製品のタイプ別に分 かれている。
そのなかには「セルショップ」や 「CSショップ」と呼ばれる特殊なショップも ある。
セルショップでは特別な機能の付いた 製品を一人の作業者が組み立てている。
また CSショップでは原料の加工から組み立てま で一カ所ですべてこなし、受注から二時間で 製品に仕上げる。
施工現場でキャビネットを 破損した場合などの緊急オーダーに対応した ものだ。
これらを合わせ一〇の組み立てショ ップで一日に千台のキャビネットを生産して いる。
 TOTOハイリビングでは近年、顧客の嗜 好に合わせてシステムキッチンのデザインやカ ラーバリエーションを充実させ、キッチンの間 TOTOハイリビング茂原工場 の田村真一取締役製造部長 DECEMBER 2008  44 取りに応じたレイアウトプランを用意し、さ らに使い勝手の良さをアピールするために機 能性を追及してきた。
この結果、キャビネッ トの多品種化が著しく進んだ。
 かつてはシステムキッチンの製品品番点数 は二万〜三万点ほどだった。
これでも決して 少ない数ではないが、今では八〇万点まで増 えている。
商品のタイプや原材料の違いなど に加えて、キャビネットの間口、高さのサイ ズだけでも八〇通りの区分があり、さらに扉 の色柄数は常時二〇〇色を超える。
これらを 掛け合わせることで、品番点数は膨大な数に 膨らむ。
 そのすべての商品を部品段階から受注生産 している。
製品は品番によって、原材料や製 品仕様、色柄、サイズだけでなく、生産手順 や工程数まで異なる。
これらの情報を品番ご とにマスター登録している。
注文が入るとコ ンピューターでマスター情報をもとに製品品 番から必要な部品を割り出して、加工指示書 (部品生産指示書)を作成する。
 製品品番が少なかった時代には、部品を見 込み生産していた。
同じ原料、色柄、サイズ の部品が一日に数十枚単位で使われていたた め、部品の在庫をある程度持ってオーダーに 対応するほうが効率的だった。
だが今は当時 とは状況が大きく異なる。
一つの組み立てシ ョップで一日におよそ一〇〇のキャビネット がつくられるが、このうち同じ品番のものは せいぜい二〜三点。
事実上の一品番一点生産 だ。
製品に使われる部品の板や扉も 同じ品番のものは数点しかない。
こ のため部品もすべてオーダーを受けて から生産している。
生産工程まで“見える化”  受注後の作業のスケジュールはお おむね次の通り。
前日の午後九時ま でに入ったオーダーの加工指示書を 当日の朝に発行し、昼から加工工程 (部品生産)を開始する。
部品は翌日 の昼頃までに完成させる。
その部品 を使って、翌日または翌々日に組み 立てを行う。
 その日にどの部品をどれだけ生産 するのかは、当日になるまで分から ない。
事前に生産計画を立てること ができないため、部品の加工工程に は受注量の変動による負荷がかかる。
これを緩和するために現在、作業員 の多能工化を進めている。
 これまで茂原工場では、加工工程 と組み立て工程のフロアが一階と二階 に分かれていることもあって、作業 員の配置が固定化していた。
これを 改め、各作業員に加工と組み立ての 両方の仕事をマスターさせて、各工 程の作業の進捗を見ながら、遅れて いる工程があれば柔軟に作業員を投 入できる体制を整えようとしている。
?現品票とIC タグを並べて つける ?出庫のたびに残数を入力し?タグの情報を書き換える ?試験用のサンプル?部品品番ごとに加工指示書?組み立てショップ を付ける ?工場内にある数値検査装置 45  DECEMBER 2008  作業の指示情報は、各工程(ショップ)で 作業者がタグをリーダーにかざして端末の画 面に呼び出す。
作業者はその工程に必要な 指示情報だけを見て作業を行うことができる。
そして一つの工程の作業が終わるたびに「終 了」を入力する。
この時にタグの表面の工程 表にもマークを印字していく。
これによって 作業の進捗状況をコンピューター上で、リア ルタイムに管理するだけでなく、作業者にも 一目でどこまで作業が進んでいるかがわかる。
うっかり途中の工程を飛ばすといったミスを 防げる。
瞬時に原材料から追跡可能に  茂原工場では毎日、キャビネットと洗面化 粧台の生産工程を管理するために二〇〇〇枚 近い指示書を作成している。
ICタグの導入 でこれが一切不要になる。
さらにはICタグ による管理システムを生産工程にも導入する ことで、原材料から製品までの一貫したトレ ーサビリティが実現する。
 製品については以前から製造ロット番号で コンピューター管理してきた。
製品の検査証 に製造ロット番号を印字。
その製品がいつど の工場のどのショップで何番目につくられた ものかという生産履歴が、製造ロット番号か らただちに分かる仕組みができている。
 今年三月からはキャビネットの扉にも製造 ロット番号の入ったトレーサビリティシールを 貼って出荷している。
輸送中についた傷など が原因で扉だけ返品されるといった場合があ る。
戻ってきた扉が、どの製品に使われたも のか特定するのに従来は時間がかかっていた。
製品と扉の製造ロット番号をシールに記して おくことで、追跡を容易にした。
 こうした出荷後のトレーサビリティに加え て、前述のように今年九月からは原材料の品 質もICタグを使ってロット管理できるよう になった。
ところが、生産工程だけは伝票で の管理になっているため、コンピューター上 の履歴管理が途中で切れてしまう。
出荷した 製品にどのロットの原材料が使われたのかを トレースするのに時間がかかる。
 生産工程の管理ツールを紙の伝票からIC タグに変えることで、この制約を解消できる。
茂原工場ではこれからICタグの仕様や運用 方法などの詳細を詰めて、来年の上期中にも 生産工程へ新システムを導入したい考えだ。
こ れに続いてほかの二工場へも同じシステムを 展開する予定だという。
 今後も新商品の開発とともに品番が増えて いくことが予想される。
生産工程はより複雑 になり、工場で管理するデータはさらに膨れ 上がることになる。
それでも「ICタグを使 って膨大なデータベースから必要な情報をい つでも引き出せるようになれば、生産性も顧 客サービスも向上できる。
一枚数百円もする ICタグでも、それに見合う十分な効果が期 待できる」と田村取締役は確信している。
(フリージャーナリスト・内田三知代)  だが、現状の管理体制では、加工工程の 作業の進捗を大まかにしか把握できない。
加 工工程作業は、部品の品番ごとに発行される 加工指示書に従って進められる。
最初の工程 の作業者は、指示書に指定された原材料を出 庫して加工を行い、処理済みの部品を指示書 と一緒に次の工程へ回す。
次工程でも同様に、 作業者が指示書と部品を後工程へ送る。
こう して加工処理が進み、最後の工程が終わった 時点で初めてコンピューターにその部品が完 成したという情報が入力される。
 従ってコンピューター上には「どの部品が いくつ完成した」という情報しかない。
仕掛 かり中の部品の加工作業の進捗は把握できな いため、どの工程に何人の応援が必要かの判 断は、現場の責任者の勘に頼るしかない。
 そこで、ICタグを利用して部品生産の進 捗状況を工程ごとに細かく管理することを思 い立った。
加工指示書には、使用する原材料 の品番や裁断する寸法、図面などすべての工 程の作業に必要な指示が一枚の紙に記されて いる。
これと同じ内容のデータをICタグに 書き込む。
 タグには原材料管理用のICタグと同じよ うに、表面に印字できるタイプを使う。
ただ しタグに書き込んだデータをすべて印字する必 要はない。
作業者にはタグの文字を見て「ど の部品をいくつ、どの工程順につくるか」だ けがわかればよい。
そのため部品番号と数量、 工程順など最小限の情報だけを印字する。

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