2008年12月号
海外Report

親会社向け事業でノウハウを蓄積外販に?シックス・シグマ?活用

DECEMBER 2008  56 倒産の危機から得た教訓  親会社のキャタピラーは過去六年間にわた り売上高と利益をともに大きく伸ばしていま す。
約四・五兆円の売上規模があり、三〇〇 の異なる生産ラインを持つ大企業としては、 異例といっていいほどの躍進をとげてきま した。
 しかも、この間に本国である米国依存型 の収益構造から脱して、世界各地に事業を 拡大しているのが特徴です。
売上高に占め る米国の比率が五〇%を切ったのは二〇〇三 年のことです。
その後、直近の〇七年決算 では米国内が三七%で、海外市場が六三% を占めるまでになりました。
海外では、私 の担当する欧州市場での売り上げが大きな割 合を占めます。
 こうした成功は我々がロジスティクス的な 考え方を大切にしてきたことによる成果だ ということができます。
我々キャタピラーグ ループはロジスティクス業務から徹底的に無 駄を排除することで、社内にコスト意識を植 え付けました。
 一九八〇年代に米国が深刻な不況に襲 われていた当時、「キャタピラーは毎日 一〇〇万ドルの赤字を生み出している」と言 われていました。
完全な高コスト体質に陥っ ており、一時は倒産の危機にも立たされま した。
経営陣はその反省に立ち、在庫や輸 送コストの削減などを通じて、社内にコスト 意識を叩き込んだのです。
 今日、キャタピラーのサプライチェーンは、 経済発展の著しいブラジルやロシア、インド、 中国など、“BRICs”をはじめとした新 興国の活発な公共事業を受け、建設機器を 中心にして広く海外に伸びていっています。
 それに対してCATロジスティクスは、こ れまで培ってきたロジスティクスのノウハウ を活用することで、親会社の事業拡大を無 理なく支援することができています。
さら には我々の提供する優れたロジスティクス能 力は、キャタピラーの海外展開の差別化要因 になっているとも言えます。
 キャタピラーは二〇年代の創業以来、一貫 して強力なアフターマーケット部門を維持し 欧州SCM会議?  世界最大の建設機械メーカー、米キャタピラーの一〇〇%子会社、キャタピラー・ロジ スティクス・サービシーズ(CATロジスティクス)は、欧米市場における物流子会社の 数少ない成功例とされる。
一九八七年の創業以来、親会社向け事業で培った補修部品の ノウハウを武器に外販を拡大し、自動車や産業機械メーカーを中心に五〇社近い大手荷 主を抱えるまでに成長した。
同社の欧州部門を担当するパスカル・ボーン氏が、CAT ロジスティクスの基本戦略を語る。
            (取材・編集 横田増生) 親会社向け事業でノウハウを蓄積 外販に?シックス・シグマ?活用 キャタピラー・ロジスティクス・サービシーズ(CATロジスティクス) 57  DECEMBER 2008 てきました。
実際、同部門には当初から担 当役員を置くほど力を入れてきました。
 その一番の理由はもちろん、キャタピラー の製品は、故障が起きれば一刻を争って修 理に駆けつけなければならないという性格 を持っているからです。
建設機械が壊れれ ば建設作業自体が止まり、採掘機械が壊れ れば採掘自体が止まってしまいます。
加えて、 他の製品と比べてアフターマーケット部門の 売り上げが非常に大きいということもあり ました。
 またキャタピラー製品の使用年数が三〇年 前後と極端に長いことも、高度なロジスティ クスのノウハウを蓄積する要因となりました。
携帯電話の製品寿命は約一八カ月と言われ ます。
それと比べて、重機械の寿命の長さ は際立っています。
 私はCATロジスティクスに異動になるま で長年、キャタピラー本社のエンジン部門で 働いていました。
その際にはCATロジスティ クスの提供するサービスの顧客の一人として、 その価値を身をもって体験しています。
シックス・シグマを活用  八〇年代の不況から立ち直ったキャタピ ラーは、それまで社内の業務で培ってきた 物流センター業務や人材、ソフトウエアなど のロジスティクスに関するサービスを外部の 一般荷主向けにも販売しようと考えました。
そして八七年にCATロジスティクスを設立 しました。
 現在、CATロジスティクスは五〇社近い 大手荷主のロジスティクス業務を手掛けるま で成長しています。
当社では荷主企業を五 つの産業に分けています。
これまではキャタ ピラーと業種特性の近い自動車メーカーや産 業用機械メーカーがメーンでしたが、最近で は小売業にまで荷主企業の顔ぶれが広がって きました(図1)。
 荷主企業から請け負う業務内容も幅広い 領域に及んでいます。
補修部品や修理部品 だけという案件もあれば、特定の製品ライン のサプライチェーン業務全般を任されること もあります。
多くの荷主に対して在庫管理 や輸送管理のサービスを提供しています。
一 番多いパターンは、最初に物流センター業務 を請け負った後で、徐々に他の業務も委託さ れるというパターンです。
 キャタピラー向け事業でノウハウを磨いて、 それを外販につなげるという基本戦略は今 も変わりません。
例えばキャタピラー社内で 採用している手法の一つに、「重要な顧客の 要求( Critical Customer Requirements)」 と呼んでいるものがあります。
顧客が何を 一番大切にしているのかを見つけるための 方法論です。
 誰だって最高のサービスレベルを求めたい ところですが、コストもそれと同じぐらい重 要な要素になります。
コストとパフォーマン スは天秤にかける必要があります。
そのた めにキャタピラーは生産管理手法として広く 普及している「シックス・シグマ」をベース にして、直接の顧客である販売代理店(ディー ラー)やその先の最終顧客であるユーザーの 声を的確に拾い上げ、新製品の設計やサービ スの向上につなげてきました。
 CATロジスティクスでも同じ方法をとっ ています。
荷主のサプライチェーンを改善す るときにはまず、その荷主にとって何が競争 優位性となっているのかを見極めるための 話し合いを行います。
図1 主要荷主一覧 ボンバルディア・エアロスペース ハネウェル サーブ(スウェーデン航空機会社) キャタピラー クベルネランド・グループ ヒアブ(HIAB) ボルボ・カルマー CNH グローバル AGCO 三菱キャタピラーフォークリフト FG ウィルソン シボレー フォード・モーター ランドローバー Xパート 起亜自動車 日産自動車 ゼネラルモーターズ 現代自動車 ボルボ スカニア マツダ 東芝 US セルラー エリクソン ヒューレッド・パッカード ゲティンゲ エマーソン・エナジー・システムズ オートゾーン IRWIN イートン ハスクバーナ   航空・ 防衛産業産業用機械自動車家電・ハイテク小売り DECEMBER 2008  58  サービスとしては、オンタイム配送、在 庫の引当率、リードタイム、環境対応など の各項目のうちどれを重視しているのかを 見極めます。
例えば、オンタイム配送率を 一〇〇%としなければならないのか、それ とも九五%以上でよしとするのかでは、サ プライチェーンの仕組みとコストが大きく異 なります。
 次にコストを考えるときは、まずインバウ ンド(調達ロジスティクス)とアウトバウン ド(販売ロジスティクス)に領域を分け、そ れをさらに物流センター、庫内作業、在庫、 製品保証のコストなどに細分化していきます。
 私の所属している欧州部門では最近、欧 州に二カ所のハブセンターと六三カ所のデポ を持っていた大手荷主のネットワーク再編を 手掛けました。
一カ所のハブセンターと八カ 所のデポに集約することで、従来と同じサー ビスレベルを保ちながら、全体のコストを 三〇%削減しました。
 最初に荷主と綿密に話し合った結果、そ の荷主にとって現在はコスト削減こそが最優 先の課題だという点で意見が一致したこと から、抜本的なネットワーク再編が実現しま した。
こうした「顧客の重要な要求」を改 善に結びつける際にも、シックス・シグマの 手法を用いています。
 通常、業務改善は、?戦略の策定、?基 本概念(コンセプト)の設計、?すり合わせ、 ?試験運用、?業務開始││というプロセス を踏みます。
しかし従来は、前半の話し合 いが十分に行われて いないままに先のプ ロセスに進んでしま うことで、作業の大 半が後半に集中し、 しかも問題が起こっ てから対症療法的に 取り組むので、作業 の総量も多くなると いう傾向がありまし た。
 これに対してCA Tロジスティクスで は、シックス・シグ マの手法をもとに独 自に開発した「ロジ スティクス・ニュー・ プロセス・イントロ ダクション」という 方法論に則って、プ ロジェクトの初期に荷主企業と徹底的に話し 合うことで、作業の山を前半に移動して平 準化し、全体の作業量を減らすように努め ています。
SAPと共同でソフト作成  〇五年秋にゼネラルモーターズ欧州と、補 修部品専用のジョイントベンチャーとなる 「キャタピラー・ロジスティクス・サプライ チェーン・サービシーズ」を立ち上げた際に もこの方法を用いました。
これはGMが全 社的に進めていた、サプライチェーンを効率 化してコスト削減につなげようとする動きの 一環でした。
 このJ Vでは、ドイツの二カ所とイタリ アの一カ所に専用センターを構え、そこに 一〇〇〇人を超すGM欧州の社員を受け入 れて業務を立ち上げました。
初めの話し合い には時間がかかりましたが、業務開始が近 づくにつれ、全体が円滑に流れていきました。
 シックス・シグマを土台としたもう一つの 当社独自の手法に、「キャタピラー・プロダ  ミシガン州に本社を置くフォード・モーターは、世界中に108カ所の工場と 約30万人の従業員を擁し、200カ国で自動車を販売している。
CATロジスティ クスは2002年から、フォードのメキシコ現地法人へロジスティクス・サービス を提供している。
 CATロジスティクスに外注する以前、フォード・メキシコはサプライチェーン 上の可視性を高めることと、補修部品とアクセサリーのメキシコ国内輸送の最 適化の二つを課題に掲げていた。
輸送網を再編することでロジスティクス業務 の効率化を図り、リードタイムを短縮することで顧客であるディーラの満足度 を高めたいと考えていた。
 CATロジスティクスは150人を専属スタッフとして投入し、メキシコ国内の 150社のディーラーへの供給とブラジルへの輸出業務のサービス向上に努めた。
具体的には、センター業務や輸送業務、在庫管理、受発注業務、マテハン機器 の使用方法などを大幅に見直した。
情報システムやビジネス・プロセス全般の 改善にも手を付けた。
フォード・メキシコに物流コンサルティング業務を提供 することで、メキシコの業務例が、フォードの北米でもサプライチェーン業務 の雛型となることを目指した。
 業務改善の結果が数字となって表れるのは05年のこと。
同年の補修部品と アクセサリーの売上高は前年比25 %増、06年は19 %増となりCATロジスティ クスに委託する前の02年と比べると売上高は2倍となった。
同時に顧客満足 度も上がり、02年にはフォード社内の基準で28 %だったものが、05年には 80 %となった。
CATロジスティクスは今後、フォードのメキシコ法人で、唯一 の3PL業者となることを目標に据えている。
ケーススタディ? フォード・メキシコ顧客満足度を飛躍的に向上 59  DECEMBER 2008 クション・システム」があります。
キャタピラー は九〇年代後半にこの手法の開発に着手し、 四年がかりで、「業務システム」「文化的シス テム」「管理システム」と呼ぶ三つの要素か らなる輪を完成させました(図2)。
 このうち「業務システム」では、社内の話 し合いに、サプライヤーやディーラーなどを 招いてどうすれば無駄が省けるのかを話し合 います。
「文化的システム」とは、キャタピ ラーの業務が顧客の要請を受けて変化してい くことに無理なく順応できるように、社員 だけでなく、サプライヤーやディーラーの社 員までを教育するプログラムのことです。
 「管理システム」では、経営陣が社員やサ プライヤー、ディーラーの声をよく聞いて、キャ タピラーが抱える問題点や課題を皆にわかる ように共有します。
それから、どうすれば 業務を改善できるのかという方法について、 関係者の意思統一を図ってから、断固とし て実行に移すというやり方です。
 最後に、ソフトウエアについても話をした いと思います。
CATロジスティクスは四年 ほど前から、フォード・モー ターとS A P、コンサル ティング会社のデロイト・ トウシュ・トーマツと共同で、補修部品専用 の管理ソフトを作ってきました。
ソフトは、 高水準のサービスレベルを実現すること、補 修部品にかかる荷主企業のコストを大幅に下 げること、顧客満足度を高めること││の 三つを目標に掲げています。
 その柱となる機能は、在庫最適化、スケ ジューリング、在庫予測││の三つです。
ほ かにも、センター業務の最適化や顧客関係 管理(CRM)などの機能も備えています。
CATロジスティクスはこれまでの業務ノウ ハウを生かして、ソフトのデザイン部門を担 当しました。
まずはそのソフトを、キャタピ ラー内の補修部品の業務に使い、修正したり、 十分に使用方法を理解したりしました。
そ して現在ようやく外販を始めようとしてい るところです。
会社概要 (注1)数字はキャタピラー年次報告書とCATロジのウェブサイトから。
(注2)1ドル=100円で換算。
親会社 本社 創業 会長兼CEO 業種 売上高 最終利益 従業員 キャタピラー イリノイ州ピオリア 1925 年 ジェームズ・W・オーウェンス 重機・エンジンなどの製造業 449 億5800 万ドル(4 兆4958 億円) 35 億4100 万ドル(3541 億円) 9 万7444 人 社名 本社 創業 会長兼社長 売上高 従業員数 物流センター キャタピラー・ロジスティクス・サービシーズ (CATロジスティクス) イリノイ州モートン 1987 年 スティーブ・ローソン 約21 億ドル(2100 億円) 1 万1000 人強 100カ所強  シカゴに本社を置く携帯電話キャリアの大手USセルラーは、米国26州で 600万人強の顧客に携帯電話サービスを提供している。
同社は、高品質のネッ トワークの維持と幅広い製品の品ぞろえを通して、業界で最も高い顧客満足度 を維持してきた。
CATロジスティクスは、2000年から5年契約で業務を請け負い、 05年にはさらに5年の契約延長を手にした。
2000年からの5年間で、USセル ラーの補修部品関連の売上高は3倍になり、受注から業務処理までの時間も大 幅に短縮したことが契約更新につながった。
 CATロジスティクスに業務を外注する以前、USセルラーは、補修部品・ア クセサリー製品の分野で柔軟で迅速なサービスを提供できる3PL企業を探して いた。
同社が望んだのは、全米340の直営店舗、1200軒の代理店、それに顧 客への後方支援であり、加えてモトローラやノキア、サムスン電子などにOEM(相 手先ブランド製造)を委託している電話機やアクセサリーの補修部品の輸送だっ た。
 CATロジスティクスは、同社の要求に応えるため、オクラホマ州に5万平方 フィート(4645平方メートル)の専用センターを用意して、専属の従業員200 人を投入した。
提供したサービスは、センター業務から、発注業務、直営店へ の当日配送(ソフトの環境設定も含む)、輸送業務、返品業務──など。
さら に、電話機の外装の修理からマザーボードと呼ばれる基板のはんだ付け作業ま でを請け負った。
  ケーススタディ? US セルラー補修用部品物流で長期契約 図2 キャタピラー・プロダクション・システム Cultural Operating Manegement 〈文化的システム〉は、 変化を容易にして働き 方を改善することに焦 点を当てる 〈管理システム〉は、業務の 評価基準と管理の構造を作 り出すことに焦点を当てる 〈業務システム〉は、シッ クス・シグマの手法を 用いてムダを排除する ことに焦点を当てる

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