2008年12月号
値段
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日本郵船
DECEMBER 2008 52
ケープサイズ市況は九七%下落
二〇〇八年一〇月二八日、株価急落の過程
で、日本郵船の株価が約五年ぶりに商船三井
の株価を上回った。
過去五年にわたって続い てきた「ドライバルク神話」が完全に崩壊し た瞬間である。
中国の急激な経済成長を背景に鉄鉱石、石 炭などの海上輸送量が拡大し、ドライバルク 市況は〇三年後半から急上昇を開始した。
鉄 鉱石を主に輸送する大型のケープサイズ船(積 載重量一五〜一七万トン前後のばら積み船) のスポット用船市況は、一九九〇年代から二 〇〇三年前半まで概ね一日当たり七〇〇〇ド ルから二万ドル超のレンジで推移していたが、 〇三年後半から昨年前半までは平均六万ドル 強で二万ドル強から一〇万ドルのレンジに移 行。
さらに昨年後半からは一気に一〇万ドル の大台を突破し、短い調整を経たものの今年 六月には二三万ドルというとてつもない高値 を記録した。
しかし四カ月たった一〇月末現在、市況は ピークから一気に九七%下落し、一日当たり 六三〇〇ドルという九〇年代の下限をも下回 る水準に落ち込んでいる。
ジェットコースタ ーどころではなく、まさしくフリーフォール である。
ここまでケープサイズ市況が落ち込んでいる のは、最大の鉄鉱石輸入国である中国がブラ ジルからの鉄鉱石輸入を停止していることが 主因とみられている。
ブラジルの大手鉱山会 社が九月に打ち出した鉄鉱石価格の再値上げ 要請に中国側が強く反発し、輸入先を豪州な どにシフトするとともに、今年前半に積み上 げた鉄鉱石在庫の取り崩しや国内鉄鉱石の大 幅増産で対抗。
鉄鉱石の輸入需要自体の縮小 日本郵船 市況急落で「ドライバルク神話」が崩壊 コンテナ船、自動車船も予断許さず ドライバルク市況の急落に伴い、日本郵船 の株価が五年ぶりに商船三井を上回った。
た だし、市況高騰を享受してきた商船三井との 財務体質の格差は依然として残っている。
経 営環境はコンテナ船、自動車船事業も含めて 相当厳しい。
収益重視の姿勢をさらに強める 必要がある。
板 王亮 クレディ・スイス証券 株式調査部 第45回 240,000 220,000 200,000 180,000 160,000 140,000 120,000 100,000 80,000 60,000 40,000 20,000 0 (ドル) 03年 1 2月 04 年2月 04 年4月 04 年6月 04 年 8 月 04 年 10 月 04 年 12 月 05 年 12 月 05 年2月 05 年4月 05 年6月 05 年8月 05 年 10 月 06 年2月 06 年4月 06 年6月 06 年8月 06 年 10 月 06 年1 2月 07 年2月 07 年4月 07 年6月 07 年8月 07 年 10 月 07 年1 2月 08 年2月 08 年4月 08 年6月 08 年8月 08 年 10 月 08 年1 2月 BCI T/C Avg 図1 ケープサイズ船のスポット用船市況推移。
今年6月をピークに急落している 53 DECEMBER 2008 と輸入ソースの短距離化(中国〜豪州間は中 国〜ブラジル間輸送距離の約三分の一)によ って船腹需要が極端に減少しているのである。
現状では鉄鉱石の海上輸送は中長期契約船で ほとんど賄えてしまうため、スポット市場に おける需要が枯渇し、いわば「値付かず」の 状態となっている。
ここまでの市況下落を予想していた関係者 は、筆者を含めほとんどいないだろう。
大半 はケープサイズの大量発注による「二〇一〇 年問題」(同年にケープサイズ船が大量竣工す る予定だったため船腹需給の軟化、市況急落 が懸念されていた)があっても、市況は九〇 年代を大きく上回る水準が維持されるとみて いた。
しかし、現状はこうした基本認識の全面転 換を迫るものである。
今の市況レベルでは資 本費回収すらできないため、筆者は中期的に 市況は二万ドル前後までは回復するとみてい る。
それ以上の上昇が期待できるのかどうか、 誰もが拠り所を失っているというのが実態と いえよう。
これがドライバルク神話の崩壊で ある。
保守的な事業運営で遅れをとる 株式市場では、鉄鉱石や石炭などを輸送す るドライバルク事業に関して「攻め」の商船 三井に対して「守り」の日本郵船という図式 が定着している。
中国の経済成長を背景に鉄 鉱石の海上輸送が急拡大するとみた商船三井 は、ドライ市況が高騰する〇三年以前にケー プサイズをはじめとするドライバルクの大幅な 船隊増強に踏み切った。
その後も着実に船隊 増強を進め、現状、同社のケープサイズ船隊 (長期用船を含む)はおよそ一〇〇隻規模と なっている。
船隊規模の大きさを生かしてス ポット運航比率を概ね三割前後に高め、高市 況のメリットを最大限享受してきた。
一方、日本郵船は船隊増強にやや遅れをと り、現状のケープ船隊は八〇隻前後にとどま る。
スポット運航比率も概ね一割以下にとど め、市況に左右されにくい長期契約主体の安 全運転を志向してきた。
このため、ケープ市況高騰下では両社の利 益成長スピードに大きな差が生じ、〇三年度に は商船三井が経常利益で日本郵船を初めて逆 転、昨年度には両社の経常利益格差は三四% に拡大した。
株価についても、両社が史上最 高値を記録した昨年一〇月十二日時点でその 差は三八%に広がった。
しかし冒頭述べたよ うに、両社の株価格差はほぼ消滅している。
では、安全志向の日本郵船はここで優位に 立ったのであろうか。
現在のドライバルク事 業環境をみる限り、市況悪化の可能性を想定 DECEMBER 2008 54 して保守的な事業運営に徹してきた日本郵船 の考え方自体は、必ずしも間違っていなかっ たことになる。
だが、決して有利な状況とな ったわけではない。
相対的な面では、過去五年間に開いた商船 三井との利益格差が財務体質に大きな格差を もたらしている。
商船三井のネット有利子負 債が〇七年度末時点で株主資本の七七%に抑 えられているのに対し、日本郵船のネット有 利子負債は株主資本より四一%多い。
また、 ドライバルク市況の低迷が続いても、高市況 時に契約した中期、長期契約が当面は残るた め、両社の期間利益格差は縮小傾向となって も解消するまでには時間がかかるだろう。
さらに絶対的な収益状況をみれば、ドライ バルク市況の低迷は程度の差こそあれ、郵船 にとっても大きな収益悪化要因である。
ケー プサイズのスポット運航は抑制しているが、ハ ンディサイズ(積載重量一万八〇〇〇〜五万 トン)、ハンディマックス(ハンディサイズの 最大船型)といった中小型船は百数十隻と商 船三井を上回る運航規模で、その半分程度は スポット市場で運用している。
海運事業のもう一方の柱であるコンテナ事 業は今年度上期には経常赤字に転落してお り、同社の強みである自動車輸送事業もやは り先行きは予断を許さない。
適正株価は四七〇円 世界的な景気後退が鮮明となる中で、来年 度の経営環境は相当厳しくなるとみる必要が ある。
ここは地に足をつけた経営の舵取りで、 規模拡大よりも収益性改善を優先させるとい う姿勢をさらに強める必要があるだろう。
幸い、同社の宮原耕治社長は、過日開催さ れた〇八年度中間決算説明会において「海運 市況下落は一過性のものとは考えず、一部の 船隊増強投資は見直しを行う」、「コンテナ船 も輸送需要に合わせて身の丈を縮めることが 必要」など楽観を排除し、収益性を重視する 姿勢を示している。
また明るい動きとして、貨物航空子会社の 日本貨物航空が同中間決算で、厳しい環境に もかかわらず事業構造改革によって期初計画 通りの収支改善を実現した。
今期導入予定の 新造機については、需給環境によっては自ら オペレーションを行わず外部へチャーターアウ トすることも選択肢とするなど、やはり収益 重視の経営スタンスを明らかにしている。
クレディ・スイス証券では日本郵船の一〇 年度の経常利益水準は、〇七年度実績(一九 八四億円)の三分の一以下の五七〇億円に低 下すると予想している。
これは来年度以降の 為替レートは一ドル当たり八五円、燃料価格 は原油相場の指標であるWTI(ウエスト・ テキサス・インターミディエート)価格換算で 一バレル当たり七〇ドル強、ケープサイズ用船 市況は中期的に採算レベルを下回る一日当た り二万ドル水準が継続、コンテナ事業は一〇 〇億円以上の経常赤字が続くなど、極めて厳 しい前提に基づいている。
この収益見通しに基づき超過収益割引モデ ルという手法で推定適正株価を四七〇円と算 出した。
一〇月三一日時点の株価はこれに近 く終値四六六円、今後考え得る収益環境悪化 をほぼ最大限に織り込んだ水準にあるといえ るだろう。
いたざき おおすけ 一九八 八年三月神戸市外国語大学 卒。
同年四月岡三証券入社。
その後、シュローダー証券、I NGベアリング証券を経て、 二〇〇一年二月にクレディ・ スイス証券に入社。
八八年以 来、運輸セクターを中心にア ナリスト活動を展開している。
著者プロフィール 日本郵船の過去10年間の株価推移 (円) 《出来高》
過去五年にわたって続い てきた「ドライバルク神話」が完全に崩壊し た瞬間である。
中国の急激な経済成長を背景に鉄鉱石、石 炭などの海上輸送量が拡大し、ドライバルク 市況は〇三年後半から急上昇を開始した。
鉄 鉱石を主に輸送する大型のケープサイズ船(積 載重量一五〜一七万トン前後のばら積み船) のスポット用船市況は、一九九〇年代から二 〇〇三年前半まで概ね一日当たり七〇〇〇ド ルから二万ドル超のレンジで推移していたが、 〇三年後半から昨年前半までは平均六万ドル 強で二万ドル強から一〇万ドルのレンジに移 行。
さらに昨年後半からは一気に一〇万ドル の大台を突破し、短い調整を経たものの今年 六月には二三万ドルというとてつもない高値 を記録した。
しかし四カ月たった一〇月末現在、市況は ピークから一気に九七%下落し、一日当たり 六三〇〇ドルという九〇年代の下限をも下回 る水準に落ち込んでいる。
ジェットコースタ ーどころではなく、まさしくフリーフォール である。
ここまでケープサイズ市況が落ち込んでいる のは、最大の鉄鉱石輸入国である中国がブラ ジルからの鉄鉱石輸入を停止していることが 主因とみられている。
ブラジルの大手鉱山会 社が九月に打ち出した鉄鉱石価格の再値上げ 要請に中国側が強く反発し、輸入先を豪州な どにシフトするとともに、今年前半に積み上 げた鉄鉱石在庫の取り崩しや国内鉄鉱石の大 幅増産で対抗。
鉄鉱石の輸入需要自体の縮小 日本郵船 市況急落で「ドライバルク神話」が崩壊 コンテナ船、自動車船も予断許さず ドライバルク市況の急落に伴い、日本郵船 の株価が五年ぶりに商船三井を上回った。
た だし、市況高騰を享受してきた商船三井との 財務体質の格差は依然として残っている。
経 営環境はコンテナ船、自動車船事業も含めて 相当厳しい。
収益重視の姿勢をさらに強める 必要がある。
板 王亮 クレディ・スイス証券 株式調査部 第45回 240,000 220,000 200,000 180,000 160,000 140,000 120,000 100,000 80,000 60,000 40,000 20,000 0 (ドル) 03年 1 2月 04 年2月 04 年4月 04 年6月 04 年 8 月 04 年 10 月 04 年 12 月 05 年 12 月 05 年2月 05 年4月 05 年6月 05 年8月 05 年 10 月 06 年2月 06 年4月 06 年6月 06 年8月 06 年 10 月 06 年1 2月 07 年2月 07 年4月 07 年6月 07 年8月 07 年 10 月 07 年1 2月 08 年2月 08 年4月 08 年6月 08 年8月 08 年 10 月 08 年1 2月 BCI T/C Avg 図1 ケープサイズ船のスポット用船市況推移。
今年6月をピークに急落している 53 DECEMBER 2008 と輸入ソースの短距離化(中国〜豪州間は中 国〜ブラジル間輸送距離の約三分の一)によ って船腹需要が極端に減少しているのである。
現状では鉄鉱石の海上輸送は中長期契約船で ほとんど賄えてしまうため、スポット市場に おける需要が枯渇し、いわば「値付かず」の 状態となっている。
ここまでの市況下落を予想していた関係者 は、筆者を含めほとんどいないだろう。
大半 はケープサイズの大量発注による「二〇一〇 年問題」(同年にケープサイズ船が大量竣工す る予定だったため船腹需給の軟化、市況急落 が懸念されていた)があっても、市況は九〇 年代を大きく上回る水準が維持されるとみて いた。
しかし、現状はこうした基本認識の全面転 換を迫るものである。
今の市況レベルでは資 本費回収すらできないため、筆者は中期的に 市況は二万ドル前後までは回復するとみてい る。
それ以上の上昇が期待できるのかどうか、 誰もが拠り所を失っているというのが実態と いえよう。
これがドライバルク神話の崩壊で ある。
保守的な事業運営で遅れをとる 株式市場では、鉄鉱石や石炭などを輸送す るドライバルク事業に関して「攻め」の商船 三井に対して「守り」の日本郵船という図式 が定着している。
中国の経済成長を背景に鉄 鉱石の海上輸送が急拡大するとみた商船三井 は、ドライ市況が高騰する〇三年以前にケー プサイズをはじめとするドライバルクの大幅な 船隊増強に踏み切った。
その後も着実に船隊 増強を進め、現状、同社のケープサイズ船隊 (長期用船を含む)はおよそ一〇〇隻規模と なっている。
船隊規模の大きさを生かしてス ポット運航比率を概ね三割前後に高め、高市 況のメリットを最大限享受してきた。
一方、日本郵船は船隊増強にやや遅れをと り、現状のケープ船隊は八〇隻前後にとどま る。
スポット運航比率も概ね一割以下にとど め、市況に左右されにくい長期契約主体の安 全運転を志向してきた。
このため、ケープ市況高騰下では両社の利 益成長スピードに大きな差が生じ、〇三年度に は商船三井が経常利益で日本郵船を初めて逆 転、昨年度には両社の経常利益格差は三四% に拡大した。
株価についても、両社が史上最 高値を記録した昨年一〇月十二日時点でその 差は三八%に広がった。
しかし冒頭述べたよ うに、両社の株価格差はほぼ消滅している。
では、安全志向の日本郵船はここで優位に 立ったのであろうか。
現在のドライバルク事 業環境をみる限り、市況悪化の可能性を想定 DECEMBER 2008 54 して保守的な事業運営に徹してきた日本郵船 の考え方自体は、必ずしも間違っていなかっ たことになる。
だが、決して有利な状況とな ったわけではない。
相対的な面では、過去五年間に開いた商船 三井との利益格差が財務体質に大きな格差を もたらしている。
商船三井のネット有利子負 債が〇七年度末時点で株主資本の七七%に抑 えられているのに対し、日本郵船のネット有 利子負債は株主資本より四一%多い。
また、 ドライバルク市況の低迷が続いても、高市況 時に契約した中期、長期契約が当面は残るた め、両社の期間利益格差は縮小傾向となって も解消するまでには時間がかかるだろう。
さらに絶対的な収益状況をみれば、ドライ バルク市況の低迷は程度の差こそあれ、郵船 にとっても大きな収益悪化要因である。
ケー プサイズのスポット運航は抑制しているが、ハ ンディサイズ(積載重量一万八〇〇〇〜五万 トン)、ハンディマックス(ハンディサイズの 最大船型)といった中小型船は百数十隻と商 船三井を上回る運航規模で、その半分程度は スポット市場で運用している。
海運事業のもう一方の柱であるコンテナ事 業は今年度上期には経常赤字に転落してお り、同社の強みである自動車輸送事業もやは り先行きは予断を許さない。
適正株価は四七〇円 世界的な景気後退が鮮明となる中で、来年 度の経営環境は相当厳しくなるとみる必要が ある。
ここは地に足をつけた経営の舵取りで、 規模拡大よりも収益性改善を優先させるとい う姿勢をさらに強める必要があるだろう。
幸い、同社の宮原耕治社長は、過日開催さ れた〇八年度中間決算説明会において「海運 市況下落は一過性のものとは考えず、一部の 船隊増強投資は見直しを行う」、「コンテナ船 も輸送需要に合わせて身の丈を縮めることが 必要」など楽観を排除し、収益性を重視する 姿勢を示している。
また明るい動きとして、貨物航空子会社の 日本貨物航空が同中間決算で、厳しい環境に もかかわらず事業構造改革によって期初計画 通りの収支改善を実現した。
今期導入予定の 新造機については、需給環境によっては自ら オペレーションを行わず外部へチャーターアウ トすることも選択肢とするなど、やはり収益 重視の経営スタンスを明らかにしている。
クレディ・スイス証券では日本郵船の一〇 年度の経常利益水準は、〇七年度実績(一九 八四億円)の三分の一以下の五七〇億円に低 下すると予想している。
これは来年度以降の 為替レートは一ドル当たり八五円、燃料価格 は原油相場の指標であるWTI(ウエスト・ テキサス・インターミディエート)価格換算で 一バレル当たり七〇ドル強、ケープサイズ用船 市況は中期的に採算レベルを下回る一日当た り二万ドル水準が継続、コンテナ事業は一〇 〇億円以上の経常赤字が続くなど、極めて厳 しい前提に基づいている。
この収益見通しに基づき超過収益割引モデ ルという手法で推定適正株価を四七〇円と算 出した。
一〇月三一日時点の株価はこれに近 く終値四六六円、今後考え得る収益環境悪化 をほぼ最大限に織り込んだ水準にあるといえ るだろう。
いたざき おおすけ 一九八 八年三月神戸市外国語大学 卒。
同年四月岡三証券入社。
その後、シュローダー証券、I NGベアリング証券を経て、 二〇〇一年二月にクレディ・ スイス証券に入社。
八八年以 来、運輸セクターを中心にア ナリスト活動を展開している。
著者プロフィール 日本郵船の過去10年間の株価推移 (円) 《出来高》
