2009年1月号
ケース
ケース
物流共同化 ビール大手4社
JANUARY 2009 54
物流共同化
ビール大手4社
競合メーカー同士がパレット回収で足並み
流出・不正使用が横行する流通構造にメス
不正利用・他業界への流出が頻発
「これまでのようなザルな管理はしない。
四 社合同で徹底的にやっていく」 キリンビールSCM本部SCM推進部SC M推進担当の平井努主務は二〇〇八年十二 月から始まったアサヒ、キリン、サッポロ、サ ントリーによるパレット回収共同化事業に対 する決意を力強く語る。
ビール業界では現在、八〇〇万〜一〇〇〇 万枚のパレットが使用されている。
これに対 して新たに投入するパレットは四社合計で年 間三〇万枚から四〇万枚。
コストは年間二五 億円程度だ。
「老朽化などに伴う新規投入もあ るので厳密な内訳は把握できていない」(ビー ル酒造組合関係者)のが現状だが、紛失、他 業界への流出、不正使用などによる補填分が 約半数を占めていると見られる。
何故一〇〇%回収できないのか。
回収の仕 組み自体は至ってシンプルだ。
ビールメーカー の納品先は基本的には特約店に限られる。
一 〇トン車で配送する場合は一六枚のパレット にビールなどの商品を乗せ、トラックに積み込 む。
特約店のセンターに配送し、商品をパレ ットごと荷降ろしする。
センターには前回配 送した分のパレットが積まれているので、運 んできた数と同じ一六枚のパレットを積んで 帰る。
配送した分と同数のパレットを持ち帰 ればよい。
ところが実際にはこれができていない。
納 品に一六枚使用したのに、その特約店には回 収できるパレットが八枚しか残っていないと いうことがある。
仕方なくドライバーは残り の八枚を別の特約店のセンターで回収してし まう。
全体で一〇〇%回収できればよし、と する考え方が、なかば業界の慣習になってい る。
その結果、メーカー間でパレットの奪い 合いが発生する。
パレットには各メーカーの社名が入ってい るものの、実際には他社の社名が入ったパレ ットでもお構いなしだ。
ビール業界には「ビ ール型プラスチックパレット共同使用会(Pパ レ共同使用会)」という組織があり、加盟会 社同士のパレットを自由に配送・保管などに 使用できるという取り決めがあるためだ。
加 盟要件には売り上げや使用頻度に応じたパレ ット数の投入が義務付けられており、現在四 〇社以上が名を連ねている。
問題が浮き彫りになったのは一年半前。
メ ーカー各社が参加するビール酒造組合の物流 部会での会合がきっかけだった。
この会合で 初めて大手四社がパレットの回収率を開示し 合った。
その結果、パレットの総数が大きく 減っていることが明らかになった。
それまで は各社とも、自分の会社が一〇〇%回収でき ていないのは、他社が一〇〇%以上の回収し てしまっているからだと思いこんでいた。
激 しくしのぎを削り合うライバル同士という関 係から、細かな情報交換がされてこなかった のだ。
アサヒ、キリン、サッポロ、サントリーが2008 年12月からビールパレット回収に共同で乗り出した。
他業界への流出や不正使用で失ったパレットの回収 率を高め、新規購入コストを圧縮。
さらに原因の根 本改善を図る。
オペレーションは日本パレットレン タル(JPR)のグループ会社に委託する。
55 JANUARY 2009 四社合同で原因調査 この事実を受け、物流部会にパレットワー キンググループ(WG)を発足させた。
WG では、まず実態調査に乗り出した。
メーカー 四社が出荷したパレット数をセンターごとに集 計し、回収率の低いセンターはメンバーが訪 問して実地を調査した。
この調査でWGのメンバーは自社のパレッ トが不正利用されている実態をまざまざと見 せつけられた。
Pパレ共同使用会の加盟社以 外の商品が、当たり前のように加盟ビールメ ーカーの名前入りパレットに積まれて出荷さ れていく。
パレットを商品の風よけとして使 用しているセンターもあった。
流出先である 小売りの物流センターから、さらに店舗に流 出し、パレットがそのまま商品の陳列台にな っていることも。
なかにはインターネット・オークションに出 品されているパレットまであった。
「ノークレ ーム・ノーリターンでお願いします」などと 注意書きされ、商品を撮影した画像にはビー ルメーカーの名前が見て取れる。
ビールメーカ ーにしてみれば笑い話にもならない。
もちろんビールメーカーは従来から特約店 に徹底したパレットの管理を求めてきた。
し かし、川下の小売業の多様化などで特約店の センター業務は複雑化し、コントロールしき れていないのが現状だ。
また特約店の多くは センター業務を3PLなどに外部委託してい る。
この場合、特約店は現場自体を知らない ので解決の糸口はさらに見つかりづらくなる。
「埒があかない。
自分たちで回収・防止す るしかない」 これがWGの導き出した答えだった。
まず 日本パレットレンタル(JPR)に、ビール パレットの不正使用や他業界への流出などの 実態と原因について徹底調査を依頼した。
パ レットレンタルを本業とするJPRであれば、 回収や調査のノウハウは豊富に蓄積されてい るだろうという判断だ。
直接の契約はJPR のグループ会社であるRTIマネジメント(R TIM)と結んだ。
RTIMの調査報告に基づき、原因が特約 店センターや小売などにある場合はビールメー カーが直接交渉に赴き改善を促す。
ビールパ レットの所有権がメーカーにあること、もし 使用したいならPパレ共同使用会に加盟する ことなどを通達し、回収する。
流出先が古物商や青果市場などビールメー カーの配送先ではない場合は、RTIMに回 収業務まで委託する。
回収したパレットはJ PRのデポまで運ばれ、そこにビールメーカ ーが持ち回りで引き取りに行くというスキー ムだ。
エリアを限定し、三週間程度の実験を行っ た結果、二五〇〇万円分もの回収が実現した という。
当面は東名阪を中心に活動を進めて いく。
この取り組みにより、年間のコストは 四社合計で三億円削減、パレット回収枚数は 五万枚を見込んでいる。
全体から見れば一割強の数字だが、ビール 各社が足並みを揃えて回収業務に乗り出した ことには大きな意味がある。
共同回収を開始 することで、これまでのような不正使用や他 業界への流出は許さないという決意を内外へ アナウンスすることに繋がるからだ。
「流出・紛失したパレットを回収するのはも ちろんだが、これまで開きっぱなしだった蛇 口を完全に閉めることが最終的な目的だ」と キリンビールの平井主務は抱負を語る。
回収範囲を順次拡大し、取り組みを実効性 のあるものにする。
「これまでのような不正 使用や持ち出しはもうできない」という感覚 を関係者にどこまで浸透させることができる か。
そこが成否の鍵となる。
(石鍋 圭) パレットワーキン ググループの会合 インターネット オークションに出 品されているパ レットも
四 社合同で徹底的にやっていく」 キリンビールSCM本部SCM推進部SC M推進担当の平井努主務は二〇〇八年十二 月から始まったアサヒ、キリン、サッポロ、サ ントリーによるパレット回収共同化事業に対 する決意を力強く語る。
ビール業界では現在、八〇〇万〜一〇〇〇 万枚のパレットが使用されている。
これに対 して新たに投入するパレットは四社合計で年 間三〇万枚から四〇万枚。
コストは年間二五 億円程度だ。
「老朽化などに伴う新規投入もあ るので厳密な内訳は把握できていない」(ビー ル酒造組合関係者)のが現状だが、紛失、他 業界への流出、不正使用などによる補填分が 約半数を占めていると見られる。
何故一〇〇%回収できないのか。
回収の仕 組み自体は至ってシンプルだ。
ビールメーカー の納品先は基本的には特約店に限られる。
一 〇トン車で配送する場合は一六枚のパレット にビールなどの商品を乗せ、トラックに積み込 む。
特約店のセンターに配送し、商品をパレ ットごと荷降ろしする。
センターには前回配 送した分のパレットが積まれているので、運 んできた数と同じ一六枚のパレットを積んで 帰る。
配送した分と同数のパレットを持ち帰 ればよい。
ところが実際にはこれができていない。
納 品に一六枚使用したのに、その特約店には回 収できるパレットが八枚しか残っていないと いうことがある。
仕方なくドライバーは残り の八枚を別の特約店のセンターで回収してし まう。
全体で一〇〇%回収できればよし、と する考え方が、なかば業界の慣習になってい る。
その結果、メーカー間でパレットの奪い 合いが発生する。
パレットには各メーカーの社名が入ってい るものの、実際には他社の社名が入ったパレ ットでもお構いなしだ。
ビール業界には「ビ ール型プラスチックパレット共同使用会(Pパ レ共同使用会)」という組織があり、加盟会 社同士のパレットを自由に配送・保管などに 使用できるという取り決めがあるためだ。
加 盟要件には売り上げや使用頻度に応じたパレ ット数の投入が義務付けられており、現在四 〇社以上が名を連ねている。
問題が浮き彫りになったのは一年半前。
メ ーカー各社が参加するビール酒造組合の物流 部会での会合がきっかけだった。
この会合で 初めて大手四社がパレットの回収率を開示し 合った。
その結果、パレットの総数が大きく 減っていることが明らかになった。
それまで は各社とも、自分の会社が一〇〇%回収でき ていないのは、他社が一〇〇%以上の回収し てしまっているからだと思いこんでいた。
激 しくしのぎを削り合うライバル同士という関 係から、細かな情報交換がされてこなかった のだ。
アサヒ、キリン、サッポロ、サントリーが2008 年12月からビールパレット回収に共同で乗り出した。
他業界への流出や不正使用で失ったパレットの回収 率を高め、新規購入コストを圧縮。
さらに原因の根 本改善を図る。
オペレーションは日本パレットレン タル(JPR)のグループ会社に委託する。
55 JANUARY 2009 四社合同で原因調査 この事実を受け、物流部会にパレットワー キンググループ(WG)を発足させた。
WG では、まず実態調査に乗り出した。
メーカー 四社が出荷したパレット数をセンターごとに集 計し、回収率の低いセンターはメンバーが訪 問して実地を調査した。
この調査でWGのメンバーは自社のパレッ トが不正利用されている実態をまざまざと見 せつけられた。
Pパレ共同使用会の加盟社以 外の商品が、当たり前のように加盟ビールメ ーカーの名前入りパレットに積まれて出荷さ れていく。
パレットを商品の風よけとして使 用しているセンターもあった。
流出先である 小売りの物流センターから、さらに店舗に流 出し、パレットがそのまま商品の陳列台にな っていることも。
なかにはインターネット・オークションに出 品されているパレットまであった。
「ノークレ ーム・ノーリターンでお願いします」などと 注意書きされ、商品を撮影した画像にはビー ルメーカーの名前が見て取れる。
ビールメーカ ーにしてみれば笑い話にもならない。
もちろんビールメーカーは従来から特約店 に徹底したパレットの管理を求めてきた。
し かし、川下の小売業の多様化などで特約店の センター業務は複雑化し、コントロールしき れていないのが現状だ。
また特約店の多くは センター業務を3PLなどに外部委託してい る。
この場合、特約店は現場自体を知らない ので解決の糸口はさらに見つかりづらくなる。
「埒があかない。
自分たちで回収・防止す るしかない」 これがWGの導き出した答えだった。
まず 日本パレットレンタル(JPR)に、ビール パレットの不正使用や他業界への流出などの 実態と原因について徹底調査を依頼した。
パ レットレンタルを本業とするJPRであれば、 回収や調査のノウハウは豊富に蓄積されてい るだろうという判断だ。
直接の契約はJPR のグループ会社であるRTIマネジメント(R TIM)と結んだ。
RTIMの調査報告に基づき、原因が特約 店センターや小売などにある場合はビールメー カーが直接交渉に赴き改善を促す。
ビールパ レットの所有権がメーカーにあること、もし 使用したいならPパレ共同使用会に加盟する ことなどを通達し、回収する。
流出先が古物商や青果市場などビールメー カーの配送先ではない場合は、RTIMに回 収業務まで委託する。
回収したパレットはJ PRのデポまで運ばれ、そこにビールメーカ ーが持ち回りで引き取りに行くというスキー ムだ。
エリアを限定し、三週間程度の実験を行っ た結果、二五〇〇万円分もの回収が実現した という。
当面は東名阪を中心に活動を進めて いく。
この取り組みにより、年間のコストは 四社合計で三億円削減、パレット回収枚数は 五万枚を見込んでいる。
全体から見れば一割強の数字だが、ビール 各社が足並みを揃えて回収業務に乗り出した ことには大きな意味がある。
共同回収を開始 することで、これまでのような不正使用や他 業界への流出は許さないという決意を内外へ アナウンスすることに繋がるからだ。
「流出・紛失したパレットを回収するのはも ちろんだが、これまで開きっぱなしだった蛇 口を完全に閉めることが最終的な目的だ」と キリンビールの平井主務は抱負を語る。
回収範囲を順次拡大し、取り組みを実効性 のあるものにする。
「これまでのような不正 使用や持ち出しはもうできない」という感覚 を関係者にどこまで浸透させることができる か。
そこが成否の鍵となる。
(石鍋 圭) パレットワーキン ググループの会合 インターネット オークションに出 品されているパ レットも
