2009年1月号
特集

物流機器を突破せよ 食品トレーサビリティで差が開く

食品トレーサビリティで差が開く  トレーサビリティの構築はリコールへの迅速な対応といった リスクマネジメントとしての位置付けから、世界一厳しいと言 われる日本の消費者から選ばれる指標にもなりつつある。
そこ では原材料の調達から生産、出荷を網羅した効率的なサプライ チェーンが必須だ。
先行企業の事例に学ぶ。
    (柴山高宏) JANUARY 2009  30 イオン PBの安全コストを物流で捻出  イオンは現在、約五〇〇〇アイテムに上るプライベ ートブランド(PB)商品を販売している(図1)。
売 り上げは急激に伸びている。
二〇〇八年二月期は前 期比一二〇%の二六四七億円、〇九年二月期中間決 算でも前年同期比一三八%の一六八三億円と勢いは 増すばかりだ。
一〇年度には売上高七五〇〇億円を 目標に置いている。
 これらPBの原材料の調達から製造、流通に至る サプライチェーンは全て、〇七年に設立したイオング ループ共通の機能会社、イオントップバリュが担って いる。
原料調達先までならどの商品も生産履歴をト レースできる。
さらに低農薬を売りにする「グリーン アイ」ブランドの生鮮品や加工食品では、農地の土壌 開発に使用した農薬や化学肥料の調達先、使用量ま で特定できる。
 農産物を例に、そのトレーサビリティの仕組みを 紹介しよう。
生産管理はGAP( Good Agricultural Practice)と呼ばれる、農作業の生産工程管理手法を 活用している。
ムダな作業や農薬の使用状況等を明ら かにし、効率的な経営や農産物の品質改善に役立てる ことを目的に近年、農林水産省が積極的に導入を進め ているこの手法を、イオンは他社に先駆け導入した。
 生産者は農薬や種苗、肥料を入荷した時点で、携 帯電話やパソコンでイオンのデータベースに入荷記録 を送信する(図2)。
その後の日々の生産履歴も全て 送信して、データベースで一元管理する。
収穫後の農 作物には品質保証番号が割り振られ、前述の生産履 歴と物流センターや店舗への入出荷日といった流通履 歴が紐付けされる。
これによって、店舗から生産工 程、さらには農薬や肥料の調達先から土作りといった 生産前の段階にまでトレースバックすることができる。
 データの一部は消費者に開示している。
グリーンア イの商品パッケージに二次元バーコードを貼付。
消費 者は自分の携帯電話でバーコードを読み取ることで生 産情報を確認できる。
 グリーンアイは二〇〇〇年の発売開始以降、現在ま で無事故を貫いている。
イオントップバリュのトップ バリュ商品本部生鮮商品部の山本泰幸部長は、「うち は生産前段階から店舗までの全工程を管理している ので、事故が起こらない。
もっといえば、事故なん て起こりようがない」と胸を張る。
 それでも消費者のアクセスは引きも切らない。
食に 関する事件や事故が相次いだこともあり、消費者は かなりセンシティブになっている。
そのためか、「こ の野菜傷んでるんじゃないの?」といった問い合わせ も増えている。
結果として商品に問題があったことは 一度もないが、トレーサビリティの仕組みが、商品を すぐに特定し調査にかけるなどの迅速な対応を可能に している。
 これだけ厳密なトレーサビリティシステムを構築す れば、当然コストに跳ね返る。
農薬や化学肥料の使用 を制限しているので、生産者にかかる負担も大きい。
そのため、イオンが生産者から農産物を買い付ける価 格は、一般的な市場で流通している農産物と比べて 高いという。
NBを超える価値を提供する  グリーンアイの販売価格帯は、一般の生鮮品に比べ れば高いが、有機野菜など製法にこだわりを持つ野 菜としては割安に設定されている。
仕入れコストをど のように吸収しているのか。
その答えは物流にある。
特集 31  JANUARY 2009  「私たちが生産者に求めている基準はとても厳しい。
生産者から安値で買い叩くようなマネをすれば、誰も この取り組みに賛同してくれないだろう。
グリーンア イにとって物流こそコストダウンの源泉。
グループの スケールメリットを活かした効率的なロジスティクスが 整備されているからこそ可能な価格だ。
これは他社 では実現できないだろう」と山本部長は説明する。
 イオンの物流は〇七年五月に設立した機能会社・イ オングローバルSCMが一手に担っている。
長距離輸 送ではトラックから鉄道貨物へとモーダルシフトを進 めている。
PBの取扱量が拡大しているため、大型 のコンテナでまとめて運ぶことで輸送効率が上昇。
物 流コストの削減だけでなく、環境面でもCO2削減に 貢献できる。
 例えば、じゃがいもやかぼちゃといった日持ちする 野菜の多くは、北海道で生産している。
販売先は日 本全国、九州にまで及ぶ。
以前は九州までトラックで 輸送していた。
取扱量が増えたことで、トラックから JR貨物へとモーダルシフトが可能になった。
 出荷容器も段ボールからリターナブルコンテナへの 切り換えを進めている。
もちろん初期投資は段ボール の方が安い。
しかし、大量に容器を購入し、再利用 を繰り返すことで投資費用を吸収できる。
さらに荷 痛みも防げるため長期的なトータルコストは安くなる。
イオンが所有する全国規模の物流インフラがこうした 施策を可能にしている。
 「少し前までは安かろう悪かろうでPBを選ぶお客 さまが多かった。
しかし今ではトップバリュだから安 心して選べるというお客さまが増えている。
NBのモ ノマネではなく、NBでできないことをやっているこ とが商品価値になっている。
グリーンアイのトレーサ ビリティもそのひとつだ」と山本部長は認識している。
図1 イオンのPB「トップバリュ」。
現在6 つのサブブランドを有し、アイテム数は約5000。
イオン「トップバリュ」 生活の基本アイテムを安心 品質とロープライスで提供 する衣食住ブランド グリーンアイ 農薬や化学肥料、 抗生物質、合成添加 物の使用を抑えて 作った農・水・畜産 品と、それらを原料 に作った加工食品ブ ランド セレクト 素材、産地、製法、 機能にこだわっ た高品質の食品 ブランド 共環宣言 大気や水質の保全を考 慮し、環境負荷の高い 原料を使わない日用雑 貨品ブランド。
アルミ缶、 食品トレイ、牛乳パック、 ペットボトルなど、店頭 で回収した資材を有効 活用している レディミール 調理済み食品ブラン ド。
短時間でおいし い食卓を実現し、毎 日の献立作りをサ ポートする ヘルシーアイ 健康と美を意識した 食品ブランド。
カロ リー、脂肪分を減らし、 不足しやすいビタミ ン、ミネラル、食物 繊維などの栄養素を 補う ベストプライス 生活必需品を低価格 で提供するブランド。
靴下、下着類を展開 している 図2 グリーンアイ農産物 トレーサビリティシステムの全体概要 生産団体・組合・個人・法人 センター店 舗 消費者 種苗 ○○種苗 植付け 生 育 元肥 追肥 収 穫 選別出荷 保管・仕分 販 売 購 入 入荷 伝票 肥培 記録 入荷 伝票 入荷 伝票 種まき 肥培 計画 防除 計画 入荷受け入れ 防除 記録 圃場台帳 生産計画 生産記録 品質保証 番号 品質保証 番号 イオン データベース 品質保証 番号 ・生産者 ・出荷日等 製造委託先 肥料 □○肥料 農薬 ○×薬品 安全・安心 イオン DBセンター イオントップバリュの山本 泰幸トップバリュ商品本 部生鮮商品部部長   コープこうべ  パートナーの?組織品質?に着目  「トレーサビリティにICチップや統合データベース は必要ない。
紙で十分。
最近の取り組みを見ている と、トレーサビリティがマーケティングのツールにされ ているような気がしてならない。
トレーサビリティの 本来の目的はリスクマネジメントだ。
そこを間違って はいけない」とコープこうべ商品開発室フードプラン 統括の広田大介氏は指摘する。
 実際、同組合にはパソコンですぐに生産履歴を確認 できるような情報システムはない。
もともと店舗には、 いつどこから何を仕入れたのか記録は残っている。
仕 入先が委託先の食品加工工場であれば、彼らもまた 調達情報を把握している。
農作物を生産した農協も しかり。
仮に事故が起きても履歴を辿り、原材料を 特定することはできる。
 コープこうべの上部団体、日本生協連は〇八年一 月にPB商品で中国産「毒入りギョーザ」事件を起こ している。
コープこうべでは扱っていない商品だった が、組合員からは「この餃子は大丈夫か」という問 い合わせが殺到した。
コープこうべとしてもトレーサ ビリティには敏感にならざるを得ないところだが、シ ステム構築に過剰な投資をするつもりはないという。
 「事故が起こったときにトレースできればいい。
我々 流通業者の使命は安全、安心な商品を提供することで あって、トレーサビリティを極めることではない。
事 故が起きた後の問題よりも、事故を減らす工夫がまず 先だ」と広田氏は説明する。
高度な情報システムより も自分たち組合をはじめ調達先産地や生産委託先の 「組織品質」を高めることのほうが、よほど重要だと 認識している。
 コープこうべは日本生協連のPBのほかに独自のP B「コープス」を〇一年から販売している。
現在、同 組合の年間供給高(売上高に相当)の二割をコープス が占めている。
単一生協でPBを開発しているのはコ ープこうべだけ。
組合員数一三二万人、供給高二六 八八億円と、単一生協として国内最大のスケールがそ れを可能にしている。
 コープスでは農薬や化学肥料、抗生物質の使用を極 力抑えた生鮮食料品を扱うサブブランド「フードプラ ン」を展開している。
アイテム数は約一七〇。
年間供 給高は八〇億円。
全体に占める割合はまだまだ小さ いが、右肩上がりで成長を続けている。
言い逃れをさせない仕組み  フードプランの商品管理体制は〇五年に大きく転換 した。
それまでは生産者が農作物の生産前にコープこ うべに提出する栽培計画書と、出来上がった作物の残 留農薬検査を基に品質をチェックしていた。
いわば入 口と出口だけで生産過程の管理が手薄だった。
コープ こうべの担当者が定期的に生産地に監査に行くもの の、十分なチェックができているとはいえなかった。
 そこで生産プロセスの管理に着手した。
計画、実行、 点検、是正のいわゆるPDCAサイクルを導入し、全 ての活動を文書化して記録に残すため、ISO90 01とHACCP(ハセップ)をベースにして「フー ドプラン管理規範」を作成した。
 ただし、それを管理するのは生産者自身。
コープこ うべが一律のやり方を強制することはしない。
監査 も生産者自身が行う。
GAPのようなチェックリスト 方式の監査を行うには三日程度はかかる。
フードプラ ンの契約生産者は全国三〇〇〇人〜四〇〇〇人。
生 産者団体は九〇程度に上る。
全ての産地でGAPを JANUARY 2009  32 商品開発室フードプラン 統括の広田大介氏 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 (単位:億円) (単位:万人) 140 135 130 125 120 115 供給高 PB商品供給高 2003 2004 2005 2006 2007 組合員数 コープこうべの供給高と組合員数の推移 2,688 2,847 2,806 2,772 2,700 131 132 128 122 123 834 781 780 787 771 特集 行うには大量の人手とコストが必要になる。
 「そもそも我々のような素人が監査したところで不 正や事故が見抜けるかといったら、そうでもない。
そ れでは何に頼ればいいのか。
やはり生産者同士、団 体の内部監査が自分たち自身でしっかりできているか。
健全な団体として、自分自身で健康診断ができるかが キモとなる。
そこで我々は、生産者自身に自己管理が できる組織を作ってもらい、その成長を確認させても らうことに優先順位を置いた」と広田氏は説明する。
 生産者は生産管理計画の達成状況や内部監査の結 果、残留農薬検査の結果等を報告書にまとめ、地元 農協など生産者組織の代表者に提出する。
代表者は その内容を確認し報告書に印鑑を押して、そのコピー をコープこうべに提出する。
これを「マネジメントレ ビュー」と呼んでいる。
 面倒な手続きを踏むのは、「船場吉兆や飛騨牛の偽 装事件のように、パートさんや工場長の仕業だとい う言い逃れをさせないため。
現場から上がってきた報 告を社長が知らないなんてことは言わせないためだ。
これで組織品質をこれで十分に見切ることができる」 と広田氏。
実際、フードプランは現在まで無事故を維 持している。
 物流管理面でも専門家の能力を活かし組織品質を 管理するという姿勢は変わらない。
〇四年から〇五 年にかけ、三つの大型物流センターを新設。
その運営 を国分、菱食、日本アクセスにそれぞれ委託した。
従 来の自前主義の物流を転換した。
 広田氏は「物流もやはり一流どころと付き合うべき だ。
センターを自前で運営していた時代と比べて、生 鮮品の鮮度は確実に向上した。
温度帯管理が徹底さ れたからだ。
最近では野菜欲しさに組合に入る人が 増えている」と評価している。
33  JANUARY 2009 フードプランの果物。
店頭のポップ では生産者を顔写真付きで紹介。
栽 培、確認責任者については氏名と問 い合わせ先の電話番号まで公開して いる。
生産情報の詳細はQRコード で確認することができる フードプランの野菜類。
生産地情報 を映像で紹介。
コープこうべの職員 が現地を訪問し、現場作業を生産者 とともに実際に行い、確認した写真 も掲示。
組合員に安心・安全な食材 であることをPRしている。
コープこうべが展開する大型店舗「シーア」の生鮮食品売り場 フードプラン管理規範の全体構成フードプラン フードプランの基本理念 トレーサビリティがしっかりした食べる人にも安全で、 環境に配慮して生産された食品 食品の安全と安心良好な品質生産者の安全環境配慮 生産者グループ代表者の方針 計 画実 行点 検是 正 危害 分析 重点管理する 作業(要素)の 特定 法規制、コープこうべ仕様規格 適正農業規範(GAP)等を 参考にした農業基準 管理計画栽培管理 (履歴管理含む) 内部監査による システム点検 計画達成 状況の モニタリング 残留農薬 検査 是正処置 予防処置 生産物の 回収 運用管理 ルールの作成 教育計画と 運用 購買品(農薬等)の 管理(履歴管理含む) 生産物の出荷管理 (履歴管理含む) 不適合品の管理 コープこうべによる調査点検・検査 継続的な改善報告・連絡 代表者による検証 調査点検・検査 ベース化が必須条件だった。
 その仕組みは以下の通り。
まず工場に原料を入荷 した時点で、入荷日時、生産者名などの情報をデー タベースに入力する。
そして、この情報を書き込ん だ二次元バーコード入りのラベルを発行し、原料の入 ったダンボール等に貼り付け、保管する。
 製造する際には、製品のパッケージに賞味期限の 日付や工場を特定する記号など、製造ロットを特定 できる番号を印字する。
製造後は製造日時や使用原 料のロット番号等をデータベースに入力。
原料と製造 段階の情報を紐付けする。
このデータは本社のパソ コンでも閲覧できる。
 生産委託先に多大なコスト負担を強いることを避 けるために、システムは簡素化している。
パソコンと インターネットの接続環境さえあればいい。
それでも 委託先ではデータ入力作業を行う手間が増えてしま うが、トレーサビリティ導入によるメリットを説明し、 理解を求めた。
 対象アイテムは〇二年の中国産の枝豆からはじま り、〇三年にはうなぎ、水産品の缶詰、カップ野菜。
〇四年にはちくわ、冷凍エビ、冷凍ホタテ、鶏肉と 順次広げていった。
ちくわとカップ野菜は消費者向 けに情報開示も行っている。
 ところが、この間に食品の衛生管理体制、検査技 術とも格段に進化した。
〇六年には厚生労働省が一 定量以上の農薬が残留する食品の販売を禁止する 「ポジティブリスト制度」を施行。
消費者の過度の不 安感も徐々に払拭されていったことで、トレーサビリ ティシステムの導入当時と比べて情報開示に対する ニーズ自体が減っていった。
これにあわせて同社は トレーサビリティシステムの強化よりも、品質管理を 重視するようにギアチェンジを図っている。
JANUARY 2009  34 倉重義和CSR・品質保 証部品質情報課課長 山野史CSR・品質保 証部品質情報課主任 マルハニチロホールディングス  情報化より品質管理の強化を重視  水産最大手のマルハニチロホールディングスは二〇 〇四年を最後に、トレーサビリティシステムの対象ア イテムを拡大していない。
それどころか、うなぎ、冷 凍エビ、冷凍ホタテの三品については、データベース とインターネットを使った情報システムによる管理を やめ、以前の紙ベースの管理に戻している。
 同社の山野史CSR・品質保証部品質情報課主任 は「農場や養殖場の管理が飛躍的に進んだ今、どこ までデータベースで管理するべきかという課題に直面 している」という。
 同社は〇七年に水産業界トップのマルハと同三位 のニチロの経営統合によって設立した。
現在、商品 企画書等の情報はデータベースで一元管理を行って いるが、トレーサビリティは旧マルハとニチロのシス テムがそれぞれ並存している状態だ。
システム統合に あたっては「商品の特性や必要性に応じて、トレー サビリティシステムの対象とするかしないかの取捨選 択を行っていきたい」と、倉重義和CSR・品質保 証部品質情報課課長は説明する。
 マルハがトレーサビリティシステムを導入したのは 〇二年。
この年に発生した中国産ほうれん草の残留 農薬や、中国産うなぎの抗生物質問題がきっかけだ った。
中国産食品を扱う同社にとって、消費者の中 国産食品に対する不安感を払拭するためにも、トレ ーサビリティシステムの導入は急務だった。
 もちろん、それ以前から紙ベースでのトレースは十 分に可能だった。
だが、同社の生産拠点は国内の直 営七拠点のほか、生産委託先が世界中に約二〇〇拠 点もある。
迅速な情報収集を行うためには、データ  日本ミルクコミュニティ  液体の生産履歴を時刻で管理  日本ミルクコミュニティは、二〇〇〇年に発生し た雪印乳業の製乳製品による雪印集団食中毒事件と、 〇一年に発生した雪印牛肉偽装事件をきっかけに、 農協系乳製品メーカーのジャパンミルクネット(全酪 連系)、全国農協直販(全農系)と雪印乳業の市乳部 門が統合して、〇三年に設立した。
 度重なる事件によって一度は失ってしまった信頼 を取り返すため、同社は危機管理体制の強化を会社 設立時から至上命題に掲げている。
企業理念から具 体的施策の実践に至る一連の品質管理の仕組みを同 社では「ミルクコミュニティ品質システム(MCQS= Milk Community Quality System)」と呼んでいる。
 MCQSをサポートする情報システムは、「製造工 程履歴管理システム」と「製品出荷履歴管理システ ム」から構成される。
このうち「製造工程履歴管理 システム」は、原料の入荷、貯乳、殺菌、充填とい った各工程における生産履歴および抜き取り検査の 結果をデータベースで管理している。
 液体のトレーサビリティーシステムには、固体とは 異なる配慮が必要だ。
「時刻」が管理の指標になる。
牛乳はパイプラインを通して各工程を移動する。
パイ プラインの中では、異なる原材料が混ざり合う。
原 材料の投入時間と各工程の標準加工時間から充填ご との原材料のロットを特定している。
 工場はオートメーション化が徹底されており、生産 履歴の送信もコンピュータで自動的に行われるため、 ミスがなく正確だという。
この仕組みを同社の牛乳 生産工場全十一拠点に導入している。
 出荷後のモノの動きは「製品出荷履歴管理システ ム」で追跡する。
牛乳は日配品という特性上、物流 センターで長期間保管することがない。
製造後工場 に併設してある冷蔵倉庫に一時保管し、翌朝には出 荷される。
製品の出荷履歴はバーコードを用いて、パ レット単位で管理している。
 製造工程、製品出荷の両システムをリンクさせて、 製造、流通段階におけるモノの移動履歴を統合する ことで即座にトレースできる仕組みを作った。
統合前 の旧三社は紙ベースの管理だったので、問題が起き たときには、日報や伝票類を手作業で付き合わせて 商品を特定する必要があり、対応に時間がかかった。
 ここで蓄積したデータを基に、消費者向けに情報 を開示している。
〇三年九月、店頭で購入した牛乳 の製造日を検索できるシステム「けんさく君」のサー ビスを開始した。
牛乳パックに記載された日付、賞 味期限、工場名、ロット名をホームページで入力する ことで、消費者に製造日などの生産情報を提供して いる。
牛乳では初の取り組みだった。
 トレーサビリティにかかるシステムの初期投資額は 明らかにしていないが数億円規模だという。
今後は ICタグの活用も含め追加投資も検討している。
「原 材料価格高騰の影響もあり、経営環境は厳しくなっ ている。
それでもトレーサビリティにかかるコストは 削れない」と、日本ミルクコミュニティ生産統括部生 産技術グループ設備技術チームの柳沼良紀氏は説明 する。
 幸いなことに同社発足以降、このシステムが活用 されるような大きな事故は起こっていない。
それで も、トラブルを想定して、定期的な訓練は怠らない。
「問題があったときすぐに対処できる体制を整えてお くことは、食品メーカーの使命だと思っている」と柳 沼氏は気を引き締めている。
35  JANUARY 2009 特集 牛乳の製造プロセスとMCQS 製造工程流通行程 酪農家 原料乳授乳 貯 乳 包材メーカー 包材受入 包材保管 殺 菌 貯 乳 充 填 保 管 仕分け 出 荷 製造工程履歴管理 システム 製品出荷履歴管理 データベースシステム リンク 生産統括部生産技術グ ループ設備技術チームの 柳沼良紀氏

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