2009年2月号
ケース
ケース
新規事業 三井倉庫
FEBRUARY 2009 48
新規事業
三井倉庫
高セキュリティのBPO専用拠点を整備
ITベンダーと競合しながら業績を拡大
住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築
施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達
成した。
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
従来の文書管理ビジネスとの違い 千葉県市川市の市庁舎のなかに重要文書の 管理を請け負う「サービスカウンター」が設 置されている。
運営しているのは三井倉庫の 一〇〇%子会社、三井倉庫ビジネスパートナ ーズの社員だ。
市川市から文書管理の業務を 委託され、市役所の中に常駐スタッフを配置 している。
この案件には三井倉庫が約一〇年前から展 開しているビジネス・プロセス・アウトソーシ ング(BPO)事業の特徴がよくあらわれて いる。
倉庫会社が文書を預かること自体は珍 しくない。
三井倉庫もトランクルーム事業な どを従来から展開してきた。
ただ旧来の文書 保管ビジネスは、顧客の機密文書を一箱いく らで預かるだけだ。
ここから顧客の事務所に 「サービスカウンター」を設置するといった発 想は出てこなかった。
BPOという言葉から受ける印象はきわめ て広い。
しかもモノの移動などの実務面が既 存の文書管理ビジネスと似通っていることか ら、このビジネスの内容を第三者に説明する のは容易ではない。
三井倉庫でBPO事業推 進部の部長を務め、三井倉庫ビジネスパート ナーズの社長も兼務している池田求氏はこう 強調する。
「うちの社内でもトランクルーム事業とBP O事業は何が違うのかと思っている人は少な くない。
だがこの二つの事業には根本的な違 いがある。
既存の文書管理ビジネスでは、お 預かりした箱一個につきいくらという保管料 をいただいているが、箱の中身には関知しな い。
一方、サービスを売っているBPOでは、 箱の中身の情報そのものを対象に管理業務を 受託している」 同じ文書の管理でも、顧客が支払う料金は BPO事業の方が明らかに高い。
それでも事 業として成り立つのは、それまで顧客企業の 社員が処理していた文書管理業務の一部を肩 代わりすることで、トータルコストの軽減に 寄与できるからだ。
しかも専用設備を使用す るため、情報の出し入れなどの利便性やセキ ュリティのレベルは大幅に向上する。
一般にBPOとは、過去一〇年ほどの間に 拡大してきたアウトソーシング・ビジネスの一 形態で、顧客企業の社内業務を社外の第三者 がITなどの先進技術を駆使して肩代わりす る行為を指している。
ITの発達に伴って生 み出されたビジネスだけに、その担い手もS I事業者やITベンチャーなどが中心だ。
物流業界でこれに近いビジネスを大々的に 展開しているのは、金融機関や公官庁を主な IT部門からスピンアウトしたビジネス・プロセス・ アウトソーシング(BPO)事業が拡大している。
顧 客の“情報”そのものを預かって管理する新規ビジ ネスだ。
約40億円を投じた専用施設を稼働させ、従 来の文書保管サービスとは全く異なるビジネスモデ ルに挑んでいる。
三井倉庫・BPO事業推進部の 池田求部長 49 FEBRUARY 2009 対象として重要文書や記録メディアの管理を 請け負ってきたワンビシアーカイブズぐらい。
一般的な物流事業者がこのビジネスに参画す るときには、IT関係者の下請けとして物流 の実務だけを担っているケースが多い。
三井倉庫にとっても、当初この事業はIT 子会社が手掛ける新規ビジネスだった。
この ビジネスをスタート時から育て上げてきた三井 倉庫・BPO事業推進部の和田慶二シニア・ マネージャーは、「従来の文書管理ビジネスか らBPO的な事業に展開していくのは非常に 難しい。
外見上は似たようなことをやってい るのに、支払いコストが増えてしまうことを 顧客に納得してもらう必要があるからだ」と 指摘する。
同社がBPO事業に着手したきっかけは、一 九九〇年代後半に和田氏がトランクルーム事 業の営業サポートに携わっていたときに、あ るリース会社の担当者とたまたま交わした会 話だった。
その内容は、リース期間の満了し た物件を効率よく再利用できれば利益率を高 められる。
ところが営業マンはリース契約を 締結済みの物件には興味を示さず、どんどん 次の案件を取りにいく。
リース期間の満了前 にタイミングよく契約内容を確認できれば助 かるのだが──といったものだった。
これに対して和田氏が「じゃあ見たい文書 だけを電子化して、オンラインで閲覧できる ようにしたらどうでしょう?」と半ば思いつ きのアイデアを開陳した。
これに先方の担当者 が「それは面白い」と反応したことから、和 田氏はそれから一年近くにわたり、この顧客 の社内プロジェクトに外部メンバーとして参加 することになった。
三井倉庫のなかで当時、新たな事業モデ ルを構築する役割を与えられていた和田氏は、 プロジェクトに参加しながら試行錯誤を続け た。
文書を電子化するノウハウなど持ち合わ せていなかったため、たまたま会社の近所に あったコダックのショールームに出向いてデモ を見学。
これを機にコダックと会社同士の関 係を構築するなどして、BPO事業を展開す るための環境を整備していった。
ライバルが避ける地味な業務に活路 結果としてこの案件が、三井倉庫のBPO 事業の第一号となった。
受注の決め手は、文 書を電子化するノウハウやITではなかった。
このとき和田氏は、リース契約書として一つ の封筒に収められた文書の中身が雑多なこと に着目した。
そこにはオリジナルの契約書や 登記関係の書類、業者からの見積書などが雑 然と収められており、実際に必要な書類はそ のうちのごく一部でしかなかった。
そこで和田氏は、文書管理のルールそのも のを変更することを顧客に提案した。
一件の リース契約書類を四種類に色分けした封筒に 整理しなおし、このうちブルーの封筒に入れ た書類はすべて無条件で電子化する。
その他 の封筒内の書類は、電子化しても情報漏洩の リスクなどが高まるだけとして、それぞれに 必要な保管ルールを定めた。
こうした運用の工夫が、顧客にとってはす べての書類を電子化することによる高コスト 化を避けることにもつながった。
「私たちが BPO事業で提案しているのは、まさにBP R(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)。
お客さま自身が文書管理のあり方をガラッと 変えようとする意識を持っていなければ成立 しない」と和田氏は説明する。
この案件を運用する新システムも開発し、三 井倉庫として初めてASPで顧客に提供し はじめた。
事業モデルを組み上げる過程でコ ダックとの関係が深まり、これが約三年後の 二〇〇二年に両社が業務提携する原点となっ た。
その後も和田氏は、カード会社や通販会 社、マーケティング会社などを対象とする事 業モデルを相次いで考案。
顧客の事務所内に 「サービスカウンター」を設置するというアイ デアも、一連の活動の中から生まれた。
競合するSI事業者などはITを駆使した 文書管理やファイリング技術をこぞって開発 していたが、こうした先進的なプロジェクト 三井倉庫・BPO事業推進部の 和田慶二シニア・マネージャー FEBRUARY 2009 50 の多くは目の前に山積している文書の処理を 後回しにしがちだった。
そんな中で三井倉庫 は、労を惜しまずに泥くさい仕事に精を出す ことで顧客の信頼を獲得していった。
こうして地味ながらも順調に滑り出したB PO事業に、〇四年に転機が訪れた。
それま では原則としてノンアセット型で、案件に応 じて物件を手当てしていた。
ところが〇四年 十二月に、三井倉庫の関東支社が約四〇億円 すれば会社自体を高セキュリティ環境に置け るうえ、三井倉庫と組んで発送業務なども受 託できるようになるといって口説いた。
コダックにも同様の働きかけをした。
〇二 年の業務提携を機に三井倉庫の本社ビルの一 角に構えていた「イメージングセンター」をレ コードセンターの中に移転してもらったので ある。
これによって、一つの高セキュリティ 施設内でBPO事業のワンストップ・サービ スを顧客に提供できる体制を整えた。
三年後に年商二五億円を見込む 〇六年四月、それまで情報子会社の中に置 かれていたBPO事業の実行部隊を独立させ て「三井倉庫ビジネスパートナーズ」が発足し た。
二カ月後にはこの会社に現場オペレーシ ョンを担当する「三井倉庫レコードセンター」 を統合し、現在の枠組みができあがった。
BPO事業の対象となるのは、あくまでも 高セキュリティ・高付加価値の情報処理サー ビスを望む顧客だ。
そのため三井倉庫の社内 の担当セクションも、既存の文書管理ビジネ スを手掛ける部署とはまったく別にしている。
そしてBPO事業の営業担当者が、客先で既 存のビジネスモデルのほうが顧客ニーズに合致 していると判断すれば、当該セクションに引 き継ぐこともいとわない。
いま三井倉庫のBPO事業推進部には一〇 人が所属しており、その実行部隊である三井 倉庫ビジネスパートナーズには一〇〇人を超 を投じた大型施設が東京都町田市に竣工する ことになり、話が急展開した。
この施設は翌〇五年の個人情報保護法の 完全施行などによる需要増を見込んだもので、 震度七レベルの大地震にも耐えられる免震構 造と、高度なセキュリティ機能を装備してい る。
延べ床面積二万二〇〇〇平方メートル超 と規模も大きい。
既存の文書管理ビジネスだ けで施設をフル稼働させるのは難しいと判断 した三井倉庫の経営陣は、実績を伸ばしつつ あったBPO事業に目をつけた。
施設を「レコードセンター」と命名し、B PO事業の旗艦拠点として位置付けた。
これ に合わせてオペレーションを担当する専門会 社として、三井倉庫の一〇〇%出資で「三井 倉庫レコードセンター」を発足。
和田氏はこ のセンターの営業を担当することになった。
とはいえ、まだ揺籃期にあったBPO事業 を少々拡大する程度では、二万平方メートル 余りの施設を使い切ることはできない。
そう 考えた和田氏は一計を案じた。
すでにパート ナー関係にあった、データ入力の情報処理な どを手掛ける企業を、テナントとして施設内 に誘致することに乗り出したのである。
マーケティング情報の処理などに定評のあ るこのパートナー会社には、以前から販促品 の発送処理なども頼みたいという打診が寄せ られていた。
だが施設も物流管理ノウハウも ないことから断っていた。
そうした事情を知 っていた和田氏は、レコードセンターに入居 1 つの施設内で処理を完結させる「レコードセンター」の事業モデル(概念図) 私書箱 私書箱 郵便局 顧客オフィス 資材メーカー 引き取り作業 資材搬入 シュレッディング(廃棄処理) 溶解処理工場へ 発送アセンブリ作業封入・封緘メーリング大規模発送 集荷ファイリング 受付・整理不備確認送付文書作成封入・封緘 データ入力データ管理 プリンティング ピッキングオンデマンド処理 データ・アーカイブ ・申込書 ・契約書 ・応募用紙…etc MITSUI-SOKO RECORDS CENTER Data Base アーカイビング(長期保存) 保管・期限管理 スキャニング Network 1F 2F 3F 4F 5F 51 FEBRUARY 2009 す社員がいる。
顧客の業務を肩代わりする以 上、三井倉庫の側でも人員を増やさなければ 対応できない。
このため従業員はどんどん増 えている。
中途で入社してきた人材の前職は 客室乗務員、政治家秘書、銀行マン、メーカ ー勤務など多彩で、この点でも旧来型の倉庫 会社とは異なる一面を見せている。
BPO事業の売上高は〇八年三月期が十三 億五〇〇〇万円で、税引き前の数値ながら約 九五〇〇万円の利益を確保した。
今期の売上 高は約一五億円を見込んでいる。
三井倉庫は現在、町田市のレコードセンタ ーと同様の高機能施設の建設を関西地区でも 進めている。
二〇一一年一月にこの物件が竣 工してからは、ここでも本格的にBPO事業 を展開していく考えだ。
この関西の施設がフ ル稼働する十二年三月期には、BPO事業で 売上高二五億円、利益一億五〇〇〇万円を計 画している。
ゼロからスタートした新規ビジ ネスであることを考えれば、それなりに評価 できる業績といえる。
もっとも経営陣の期待はそんなものではな いようだ。
「早く売上高を三桁にしろと言われ ている。
自社の施設にこだわっていたら、と うてい追いつかない。
外部の施設であっても 使える可能性があるのであれば検討する必要 があると思っている」と池田氏。
ニッチビジ ネスを経営の柱の一つに育て上げられるかど うかが問われている。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 東京都町田市にあるレコードセンターのセキュ リティ設備は、一般的な倉庫とはまるで違う。
敷 地内への侵入は赤外線センサーで常にチェックして おり、施設内で人の出入りのある二十数カ所には 二四時間稼働の監視カメラも設置されている。
建 物の内部は細かく仕切られ、それぞれにセキュリ ティレベルを設定。
従業員が携行しているICカ ードに全六段階からなるアクセス権が付加されて いて、許可のないエリアには入れない。
外部との接点となる入出荷バースは、車両を格 納したままシャッターを閉じた状態で積み込み作 業などをこなせるようになっている。
入出荷バー スと各フロアを結ぶエレベーターは、ICカードが なければ操作できない。
火災が起きたときに預か っている文書を水浸しにしないように、館内には 窒素ガスによる消火設備も完備している。
圧巻なのは、施設内で一番高度の品質管理レベ ルを実現している部屋だ。
ドアや壁の構造からし て他の部屋とはまったく違い、防音、防湿、防塵、 防磁シールドなどの特別処理が施されている。
こ の部屋には主に映画のマスターフィルムや記録媒 体など、この世に二つとない貴重な物品を格納し ているのだという。
ただし、施設内のマテハンは拍子抜けするほど シンプルだ。
トランクルームと同様に箱単位で文 書を格納しているエリアでは、固定式の高層ラッ クとフォークリフトだけで作業を行っている。
そ れ以外の細かい文書管理をするエリアは、物流施 設というよりは書庫と呼ぶべき構造になっている。
手動式の重厚な文書保管用移動ラックが整然と並 び、その棚には何の変哲もない紙製の書類ケース が規則正しく並んでいる。
随所に監視カメラがある。
厳 密にアクセス権を設定されたIC カードでドアを操作する 免震構造の柱で建物を支える見た目は一般的な倉庫と同様 震度7 の地震に対応する配管エレベーターをカードで呼ぶ BPO事業の専用施設「レコードセンター」
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
従来の文書管理ビジネスとの違い 千葉県市川市の市庁舎のなかに重要文書の 管理を請け負う「サービスカウンター」が設 置されている。
運営しているのは三井倉庫の 一〇〇%子会社、三井倉庫ビジネスパートナ ーズの社員だ。
市川市から文書管理の業務を 委託され、市役所の中に常駐スタッフを配置 している。
この案件には三井倉庫が約一〇年前から展 開しているビジネス・プロセス・アウトソーシ ング(BPO)事業の特徴がよくあらわれて いる。
倉庫会社が文書を預かること自体は珍 しくない。
三井倉庫もトランクルーム事業な どを従来から展開してきた。
ただ旧来の文書 保管ビジネスは、顧客の機密文書を一箱いく らで預かるだけだ。
ここから顧客の事務所に 「サービスカウンター」を設置するといった発 想は出てこなかった。
BPOという言葉から受ける印象はきわめ て広い。
しかもモノの移動などの実務面が既 存の文書管理ビジネスと似通っていることか ら、このビジネスの内容を第三者に説明する のは容易ではない。
三井倉庫でBPO事業推 進部の部長を務め、三井倉庫ビジネスパート ナーズの社長も兼務している池田求氏はこう 強調する。
「うちの社内でもトランクルーム事業とBP O事業は何が違うのかと思っている人は少な くない。
だがこの二つの事業には根本的な違 いがある。
既存の文書管理ビジネスでは、お 預かりした箱一個につきいくらという保管料 をいただいているが、箱の中身には関知しな い。
一方、サービスを売っているBPOでは、 箱の中身の情報そのものを対象に管理業務を 受託している」 同じ文書の管理でも、顧客が支払う料金は BPO事業の方が明らかに高い。
それでも事 業として成り立つのは、それまで顧客企業の 社員が処理していた文書管理業務の一部を肩 代わりすることで、トータルコストの軽減に 寄与できるからだ。
しかも専用設備を使用す るため、情報の出し入れなどの利便性やセキ ュリティのレベルは大幅に向上する。
一般にBPOとは、過去一〇年ほどの間に 拡大してきたアウトソーシング・ビジネスの一 形態で、顧客企業の社内業務を社外の第三者 がITなどの先進技術を駆使して肩代わりす る行為を指している。
ITの発達に伴って生 み出されたビジネスだけに、その担い手もS I事業者やITベンチャーなどが中心だ。
物流業界でこれに近いビジネスを大々的に 展開しているのは、金融機関や公官庁を主な IT部門からスピンアウトしたビジネス・プロセス・ アウトソーシング(BPO)事業が拡大している。
顧 客の“情報”そのものを預かって管理する新規ビジ ネスだ。
約40億円を投じた専用施設を稼働させ、従 来の文書保管サービスとは全く異なるビジネスモデ ルに挑んでいる。
三井倉庫・BPO事業推進部の 池田求部長 49 FEBRUARY 2009 対象として重要文書や記録メディアの管理を 請け負ってきたワンビシアーカイブズぐらい。
一般的な物流事業者がこのビジネスに参画す るときには、IT関係者の下請けとして物流 の実務だけを担っているケースが多い。
三井倉庫にとっても、当初この事業はIT 子会社が手掛ける新規ビジネスだった。
この ビジネスをスタート時から育て上げてきた三井 倉庫・BPO事業推進部の和田慶二シニア・ マネージャーは、「従来の文書管理ビジネスか らBPO的な事業に展開していくのは非常に 難しい。
外見上は似たようなことをやってい るのに、支払いコストが増えてしまうことを 顧客に納得してもらう必要があるからだ」と 指摘する。
同社がBPO事業に着手したきっかけは、一 九九〇年代後半に和田氏がトランクルーム事 業の営業サポートに携わっていたときに、あ るリース会社の担当者とたまたま交わした会 話だった。
その内容は、リース期間の満了し た物件を効率よく再利用できれば利益率を高 められる。
ところが営業マンはリース契約を 締結済みの物件には興味を示さず、どんどん 次の案件を取りにいく。
リース期間の満了前 にタイミングよく契約内容を確認できれば助 かるのだが──といったものだった。
これに対して和田氏が「じゃあ見たい文書 だけを電子化して、オンラインで閲覧できる ようにしたらどうでしょう?」と半ば思いつ きのアイデアを開陳した。
これに先方の担当者 が「それは面白い」と反応したことから、和 田氏はそれから一年近くにわたり、この顧客 の社内プロジェクトに外部メンバーとして参加 することになった。
三井倉庫のなかで当時、新たな事業モデ ルを構築する役割を与えられていた和田氏は、 プロジェクトに参加しながら試行錯誤を続け た。
文書を電子化するノウハウなど持ち合わ せていなかったため、たまたま会社の近所に あったコダックのショールームに出向いてデモ を見学。
これを機にコダックと会社同士の関 係を構築するなどして、BPO事業を展開す るための環境を整備していった。
ライバルが避ける地味な業務に活路 結果としてこの案件が、三井倉庫のBPO 事業の第一号となった。
受注の決め手は、文 書を電子化するノウハウやITではなかった。
このとき和田氏は、リース契約書として一つ の封筒に収められた文書の中身が雑多なこと に着目した。
そこにはオリジナルの契約書や 登記関係の書類、業者からの見積書などが雑 然と収められており、実際に必要な書類はそ のうちのごく一部でしかなかった。
そこで和田氏は、文書管理のルールそのも のを変更することを顧客に提案した。
一件の リース契約書類を四種類に色分けした封筒に 整理しなおし、このうちブルーの封筒に入れ た書類はすべて無条件で電子化する。
その他 の封筒内の書類は、電子化しても情報漏洩の リスクなどが高まるだけとして、それぞれに 必要な保管ルールを定めた。
こうした運用の工夫が、顧客にとってはす べての書類を電子化することによる高コスト 化を避けることにもつながった。
「私たちが BPO事業で提案しているのは、まさにBP R(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)。
お客さま自身が文書管理のあり方をガラッと 変えようとする意識を持っていなければ成立 しない」と和田氏は説明する。
この案件を運用する新システムも開発し、三 井倉庫として初めてASPで顧客に提供し はじめた。
事業モデルを組み上げる過程でコ ダックとの関係が深まり、これが約三年後の 二〇〇二年に両社が業務提携する原点となっ た。
その後も和田氏は、カード会社や通販会 社、マーケティング会社などを対象とする事 業モデルを相次いで考案。
顧客の事務所内に 「サービスカウンター」を設置するというアイ デアも、一連の活動の中から生まれた。
競合するSI事業者などはITを駆使した 文書管理やファイリング技術をこぞって開発 していたが、こうした先進的なプロジェクト 三井倉庫・BPO事業推進部の 和田慶二シニア・マネージャー FEBRUARY 2009 50 の多くは目の前に山積している文書の処理を 後回しにしがちだった。
そんな中で三井倉庫 は、労を惜しまずに泥くさい仕事に精を出す ことで顧客の信頼を獲得していった。
こうして地味ながらも順調に滑り出したB PO事業に、〇四年に転機が訪れた。
それま では原則としてノンアセット型で、案件に応 じて物件を手当てしていた。
ところが〇四年 十二月に、三井倉庫の関東支社が約四〇億円 すれば会社自体を高セキュリティ環境に置け るうえ、三井倉庫と組んで発送業務なども受 託できるようになるといって口説いた。
コダックにも同様の働きかけをした。
〇二 年の業務提携を機に三井倉庫の本社ビルの一 角に構えていた「イメージングセンター」をレ コードセンターの中に移転してもらったので ある。
これによって、一つの高セキュリティ 施設内でBPO事業のワンストップ・サービ スを顧客に提供できる体制を整えた。
三年後に年商二五億円を見込む 〇六年四月、それまで情報子会社の中に置 かれていたBPO事業の実行部隊を独立させ て「三井倉庫ビジネスパートナーズ」が発足し た。
二カ月後にはこの会社に現場オペレーシ ョンを担当する「三井倉庫レコードセンター」 を統合し、現在の枠組みができあがった。
BPO事業の対象となるのは、あくまでも 高セキュリティ・高付加価値の情報処理サー ビスを望む顧客だ。
そのため三井倉庫の社内 の担当セクションも、既存の文書管理ビジネ スを手掛ける部署とはまったく別にしている。
そしてBPO事業の営業担当者が、客先で既 存のビジネスモデルのほうが顧客ニーズに合致 していると判断すれば、当該セクションに引 き継ぐこともいとわない。
いま三井倉庫のBPO事業推進部には一〇 人が所属しており、その実行部隊である三井 倉庫ビジネスパートナーズには一〇〇人を超 を投じた大型施設が東京都町田市に竣工する ことになり、話が急展開した。
この施設は翌〇五年の個人情報保護法の 完全施行などによる需要増を見込んだもので、 震度七レベルの大地震にも耐えられる免震構 造と、高度なセキュリティ機能を装備してい る。
延べ床面積二万二〇〇〇平方メートル超 と規模も大きい。
既存の文書管理ビジネスだ けで施設をフル稼働させるのは難しいと判断 した三井倉庫の経営陣は、実績を伸ばしつつ あったBPO事業に目をつけた。
施設を「レコードセンター」と命名し、B PO事業の旗艦拠点として位置付けた。
これ に合わせてオペレーションを担当する専門会 社として、三井倉庫の一〇〇%出資で「三井 倉庫レコードセンター」を発足。
和田氏はこ のセンターの営業を担当することになった。
とはいえ、まだ揺籃期にあったBPO事業 を少々拡大する程度では、二万平方メートル 余りの施設を使い切ることはできない。
そう 考えた和田氏は一計を案じた。
すでにパート ナー関係にあった、データ入力の情報処理な どを手掛ける企業を、テナントとして施設内 に誘致することに乗り出したのである。
マーケティング情報の処理などに定評のあ るこのパートナー会社には、以前から販促品 の発送処理なども頼みたいという打診が寄せ られていた。
だが施設も物流管理ノウハウも ないことから断っていた。
そうした事情を知 っていた和田氏は、レコードセンターに入居 1 つの施設内で処理を完結させる「レコードセンター」の事業モデル(概念図) 私書箱 私書箱 郵便局 顧客オフィス 資材メーカー 引き取り作業 資材搬入 シュレッディング(廃棄処理) 溶解処理工場へ 発送アセンブリ作業封入・封緘メーリング大規模発送 集荷ファイリング 受付・整理不備確認送付文書作成封入・封緘 データ入力データ管理 プリンティング ピッキングオンデマンド処理 データ・アーカイブ ・申込書 ・契約書 ・応募用紙…etc MITSUI-SOKO RECORDS CENTER Data Base アーカイビング(長期保存) 保管・期限管理 スキャニング Network 1F 2F 3F 4F 5F 51 FEBRUARY 2009 す社員がいる。
顧客の業務を肩代わりする以 上、三井倉庫の側でも人員を増やさなければ 対応できない。
このため従業員はどんどん増 えている。
中途で入社してきた人材の前職は 客室乗務員、政治家秘書、銀行マン、メーカ ー勤務など多彩で、この点でも旧来型の倉庫 会社とは異なる一面を見せている。
BPO事業の売上高は〇八年三月期が十三 億五〇〇〇万円で、税引き前の数値ながら約 九五〇〇万円の利益を確保した。
今期の売上 高は約一五億円を見込んでいる。
三井倉庫は現在、町田市のレコードセンタ ーと同様の高機能施設の建設を関西地区でも 進めている。
二〇一一年一月にこの物件が竣 工してからは、ここでも本格的にBPO事業 を展開していく考えだ。
この関西の施設がフ ル稼働する十二年三月期には、BPO事業で 売上高二五億円、利益一億五〇〇〇万円を計 画している。
ゼロからスタートした新規ビジ ネスであることを考えれば、それなりに評価 できる業績といえる。
もっとも経営陣の期待はそんなものではな いようだ。
「早く売上高を三桁にしろと言われ ている。
自社の施設にこだわっていたら、と うてい追いつかない。
外部の施設であっても 使える可能性があるのであれば検討する必要 があると思っている」と池田氏。
ニッチビジ ネスを経営の柱の一つに育て上げられるかど うかが問われている。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 東京都町田市にあるレコードセンターのセキュ リティ設備は、一般的な倉庫とはまるで違う。
敷 地内への侵入は赤外線センサーで常にチェックして おり、施設内で人の出入りのある二十数カ所には 二四時間稼働の監視カメラも設置されている。
建 物の内部は細かく仕切られ、それぞれにセキュリ ティレベルを設定。
従業員が携行しているICカ ードに全六段階からなるアクセス権が付加されて いて、許可のないエリアには入れない。
外部との接点となる入出荷バースは、車両を格 納したままシャッターを閉じた状態で積み込み作 業などをこなせるようになっている。
入出荷バー スと各フロアを結ぶエレベーターは、ICカードが なければ操作できない。
火災が起きたときに預か っている文書を水浸しにしないように、館内には 窒素ガスによる消火設備も完備している。
圧巻なのは、施設内で一番高度の品質管理レベ ルを実現している部屋だ。
ドアや壁の構造からし て他の部屋とはまったく違い、防音、防湿、防塵、 防磁シールドなどの特別処理が施されている。
こ の部屋には主に映画のマスターフィルムや記録媒 体など、この世に二つとない貴重な物品を格納し ているのだという。
ただし、施設内のマテハンは拍子抜けするほど シンプルだ。
トランクルームと同様に箱単位で文 書を格納しているエリアでは、固定式の高層ラッ クとフォークリフトだけで作業を行っている。
そ れ以外の細かい文書管理をするエリアは、物流施 設というよりは書庫と呼ぶべき構造になっている。
手動式の重厚な文書保管用移動ラックが整然と並 び、その棚には何の変哲もない紙製の書類ケース が規則正しく並んでいる。
随所に監視カメラがある。
厳 密にアクセス権を設定されたIC カードでドアを操作する 免震構造の柱で建物を支える見た目は一般的な倉庫と同様 震度7 の地震に対応する配管エレベーターをカードで呼ぶ BPO事業の専用施設「レコードセンター」
