2009年2月号
ケース
ケース
ビジネスモデル コロムビアミュージックエンタテインメント
FEBRUARY 2009 56
ビジネスモデル
コロムビアミュージックエンタテインメント
業界初のCD受注生産サービスを開始
物流拠点で生産しリードタイム大幅削減
住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築
施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達
成した。
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
物流拠点にCD生産機材を設置 コロムビアミュージックエンタテインメント (以下、コロムビア)は昨年十二月、CDの 受注生産サービス「オンデマンドCD」を開 始した。
廃盤や在庫切れになった商品を中心 に、レコード店や通販サイトで一枚単位から 注文を受け付ける。
価格は一律二五〇〇円に 設定している。
ユーザーはオンデマンドCD専用サイトか らアーティスト名とCDタイトル名を確認し、 タワーレコードやHMVといったレコード店や アマゾンなどの通販サイトから注文する。
榊 原郁恵や河合奈保子など、根強い人気を誇る 往年のアイドルの廃盤など、九五タイトルを 販売している。
今後、毎月約一〇〇タイトル ずつ追加していく予定だ。
狙いはロングテールへの対応だ。
CDには 通常なら?死に筋?として扱うしかないニッ チな商品にも買い手が付くという特性がある。
販売数量とアイテムの売れ筋分析グラフを描 いた際に、販売数量の少ないアイテムが恐竜 のしっぽのように長く伸びることから「ロン グテール現象」と呼ばれている。
実際、コロムビアには何年間も倉庫に眠り っぱなしの在庫が六〇〇〇タイトル近くある という。
そのCDを求めるユーザーがいつ現 れるかわからない以上、販売機会の損失を防 ぐためにも在庫処分できないでいる。
それを オンデマンドCDのタイトルに乗せれば処理で きる。
オンデマンドCDは、在庫を抱えずに済む うえ、新譜と違いプロモーションビデオの制 作やCDジャケットのデザインなど販促費も 発生しないため、一枚単位の受注でも十分に 利益を確保できるという。
工場で大量生産し、 短期間に売り切るという従来のレコード会社 とは正反対のビジネスモデルだ 受注から生産、出荷までの流れは以下の通 り。
レコード店や通販サイトからの受注情報 は、「ジャパン・ディストリビューションシス テム(以下、JDS)」の共同受注システムを 通じて、コロムビアに送信される(図1)。
CDはコロムビアが倉庫・配送業務を委託 しているタカセの物流センター「PIセンタ ー」で生産する。
生産機材を同センターに設 置。
受注情報を基にコロムビアのデータセンタ ーから音楽やCDジャケット、歌詞カードな どのデータを同営業所のオンデマンドCD生 産システムに配信し、生産指示を送る。
生産はタカセの担当者が専任で行う。
まず はCD─Rに「デュプリケーター」と呼ばれる 昨年12月、CDの受注生産サービスを開始した。
廃 盤や在庫切れなど入手困難になった作品を中心に、 レコード店や通販サイトから1枚単位で注文できる。
物流拠点に生産機材を設置し、CD生産後、即出荷 する体制を整えたことで、従来のサービスと比べリ ードタイムを2週間も縮めることに成功した。
コロムビアの古川博司営業本 部販売促進部CCDプロジェ クト担当部長 57 FEBRUARY 2009 機材で音楽データを書き込み、盤面を印刷す る。
完成したCDは「品質検査機」で音質を チェックする。
通常のCDと比べても音質や 耐用年数は変わらないという。
同時にプリンターから歌詞カードが自動的 に印刷される。
これにミシン目を入れて裁断 し、「ブックレット作成機」にセットすると三 秒程度で製本される。
完成したCDと歌詞カ ードをセットし、パッケージングして生産は終 了。
ここまでに要する時間はCD一枚当たり 七分程度。
CDの受注から生産、レコード店 への出荷といった一連のリードタイムは約一 週間だ。
CDの受注生産は音楽業界初の取り組み だ。
しかも物流拠点でのCD生産など過去 に前例がない。
コロムビアの古川博司営業本 部販売促進部CCDプロジェクト担当部長は 「リードタイムを縮めるためには物流拠点で生 産するのが一番最適だと思った。
工場から物 流拠点の横持ちの時間がもったいない」と説 明する。
配信とパッケージの中間的位置付け オンデマンドCDのサービスを開始するまで に、コロムビアは様々な試行錯誤を行ってい る。
二〇〇一年には「R盤」というサービス を開始した。
オンデマンドCD同様、廃盤や 在庫切れとなった商品を中心にユーザーから レコード店で注文を受け付け、受注生産を行 うというものだった。
大々的な告知などはしていなかったが、そ れでも一カ月当たり数百件の受注があった。
廃 盤や在庫切れになった商品に対する需要があ ることが証明された。
ユーザーからは好評で、 このサービスはオンデマンドCDを開始する直 前の昨年十一月まで継続された。
だが、当時の印刷技術ではオリジナルの歌 詞カードを完全に再現することができず、カ ラーコピーを四つ折りにしたものを同封して いた。
もちろんユーザーには事前にこの点を 了承してもらっていたが、オリジナルのもの に対するニーズは強く、熱心なファンを満足 させる水準には程遠かった。
また、コロムビアの社内にR盤の専任部署 はなく、エンジニアが通常業務の合間を縫っ て音源からCD─Rにコピーしていた。
歌詞カ ードのコピーやパッケージングも社内で一枚ず つ手作業で行っていたため、注文を受けてか ら店舗に納めるまでに三週間もかかっていた。
本格的に事業展開していく上で、リードタイ ムの短縮は必達の課題だった。
〇七年には、新しい形の音楽配信サービス 「カスタマイズCD」の試験運用も行っている。
レコード店にタッチパネル式の専用端末を設 置、ユーザーはデジタル配信された楽曲の中 から選択し、CD─Rにコピーする。
一曲単 位(二一〇円)から購入でき、盤面には好き な文字を二〇文字程度入力することで自分仕 様のオリジナルCDを作成できる。
楽曲のジャンルは演歌、歌謡曲、J─PO 図1 オンデマンドCD の受注・生産フロー ユーザー オーダー販売 受注情報 受注情報 レコード店・通販サイト 音楽データ配信 生産指示オンデマンドCD ファクトリー(タカセの物流センター) 《CD 生産》 《歌詞カード製本》 ?生産システム 出荷 ?品質検査機で 音質チェック ?ブックレット作成機で 製本する ?パッケージングを行い 完成 ?自動で印刷された ものを裁断 ?デュプリケーター でCD 生産 JDSの共同受注システム コロムビアデータセンター FEBRUARY 2009 58 P、ジャズなど幅広い。
廃盤が中心でターゲ ットが高年齢層だったR盤と異なり、一青窈 や木村カエラといった最近のヒットチャートを にぎわすアーティストの旧譜扱いになった楽 曲を配信して、若者の取り込みを狙った。
開 始当初の楽曲数は五〇〇だったが、最終的に は二八〇〇近くまで増えた。
カスタマイズCDの狙いは旧譜の販売機会 の拡大だが、同時にレコード店支援の意味合 いも込められていた。
端末に楽曲データを配 信することで店頭在庫以外の楽曲販売が可能 になり、売り上げ拡大はもちろんのこと、店 舗の在庫スペースの効率化にも寄与すること ができた。
だが、このサービスにも致命的な欠点があ った。
配信される楽曲がコロムビアに所属し ているアーティストに限定されていたことだ。
ユーザーにとって重要なのは豊富なラインナッ プであり、アーティストの所属するレコード会 社は関係ない。
その結果、期待したほどには 利用が伸びなかった。
また、CDを作成し、袋詰めを行うといっ た新たな作業負荷が店員に生じてしまったこ とも課題だった。
結局、カスタマイズCDは 昨年二月末で試験運用を中止し、現在は京都 にある美空ひばりの記念館「美空ひばり座」 と宝塚歌劇大劇場内のオフィシャルショップ で運用するにとどまっている。
R盤とカスタマイズCDで培ったノウハウ、 改善点がオンデマンドCDに活かされている。
ソフトの物流は減少傾向が長期的に続いてい たからだ。
音楽CDのパッケージ市場は一九九八年の 六〇七九億円をピークに、毎年縮小している (図2)。
〇七年には三三三三億円と、約一〇 年間で半分近くまで落ち込んでしまった。
パ ッケージに代わって急成長しているのが配信 だ。
〇五年の三四三億円から〇七年には七五 五億円と、わずか二年で倍以上増加している。
だが、「いくら配信が伸びても我々のよう R盤で課題だった歌詞カードは、印刷技術が 向上したことでオリジナルのものをそのまま 再現することが可能になった。
さらにカスタ マイズCDの生産技術を転用して、誰でも操 作できるCDの生産機材を物流拠点に設置す ることで、リードタイムを二週間も削減した。
こうして昨年十二月、配信とパッケージの中 間的位置付けの新サービスが誕生した。
パッケージ市場は一〇年連続減少 物流拠点でのCD生産は、現場を預かるタ カセにとっても、もちろん初の試みだった。
タ カセは音楽ソフトの配送で長年の実績があっ た。
しかもコロムビアの生産拠点と同じ川崎 に倉庫を持っていた。
そこに目を付けたコロ ムビアから昨年一月、オンデマンドCDの話 がもちかけられた。
タカセの星野博執行役員は「CDの生産な んて全く経験のないこと。
音楽の専門家でな い私たちに本当にできるのか不安だった」と 当時を振り返る。
それでも要請には喜んで応 じた。
タカセが主要な荷物の一つとする音楽 タカセの星野博執行役員 図3 CDパッケージの総生産額と配信の推移 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 98 年 99 年 00 年 01 年 02 年 03 年 04 年 05 年 06 年 07 年 単位:億円 パッケージ 755 3,516 3,333 3,774 3,672 3,997 4,438 5,031 5,398 5,696 6,075 343 534 配信 59 FEBRUARY 2009 のホームページに限定していたため、計画で は五〇〇〜六〇〇枚程度の受注を見込んでい た。
だが、ユーザーからの反響はコロムビア の期待以上だった。
今後はレコード店にコー ナーを設けたり、通販サイトにバナーを用意 するなど、本格的なプロモーションも計画し ている。
直販サイトで店舗中抜き 今年二月にはオンデマンドCDの専用サイ トを大幅リニューアルし、直販にも乗り出す 予定だ。
これまでコロムビアはレコード会社な らどこでも設置している直販サイトを構築し てこなかった。
「当社がここまで成長できた のはレコード店の協力があってこそという想 いがあり、店舗を中抜きにするダイレクト販 売はためらっていた。
だが、ユーザーの利便 性を考えれば直販は欠かせない」とコロムビ ア営業本部販売促進部の鈴木弘明氏はいう。
新譜への活用も検討しているという。
音楽 業界において世界レベルで勝負できるアーテ ィストはほんの一握りで、あとはニッチなア ーティストがひしめきあっているのが現状だ。
マーケット自体は小さくても熱心なファンが多 く、決して無視できない。
オンデマンドCD であれば少量多品種のロングテールにも十分 対応できる。
在庫リスクも回避できる。
新人アーティストの発掘にも活用できる。
例 えば、インディーズ・レーベルに所属するアー ティストのCDのテスト販売をオンデマンドC Dのシステムを用いて行う。
ユーザーからの 支持が得られ、ある程度の販売規模に達した ら、コロムビアと契約を結びメジャーデビュー の道を開く。
生産方式も受注生産から通常の 工場での大量生産に移行する。
既に他社も動き出している。
昨年九月、U SENを筆頭にエイベックス・グループ・ホー ルディングス、ビクターエンタテインメントな どが共同出資で「ミュージックグリッド」を 設立した。
新会社はUSENが五〇%以上を 出資している(USEN以外の出資比率は非 公開)。
コロムビアのカスタマイズCD同様、ミュー ジックグリッドがレコード店に端末を設置。
ユ ーザーは好きな曲を選びオリジナルCDを作成 できる。
音楽データはエイベックスなどのコン テンツホルダーから提供され、USENの業 務用ネットワーク経由で店頭端末に配信され るという仕組みだ。
コロムビアの古河部長は「当社からすれば、 そのサービスはすでにやっていること。
『日本 で最も古いレコード会社だからこそ、一番新 しいことをやってやろう』というのが、当社 社長の口癖。
旧譜の販売も大事だが、やはり 我々レコード会社は新しいものを生み出して こそ価値があると思っている。
オンデマンド CDを日本のみならず、世界中のアーティス トの作品発表の場にできればおもしろい。
こ のビジネスは大きく拡大していくだろう」と 期待している。
(柴山高宏) な物流会社には全くプラスにならない。
物量 の減少は辛いところだが、だからこそCD生 産という新分野を開拓できれば、当社にとっ ても強みになる」と星野執行役員はいう。
以降、コロムビアとタカセは会議を重ねた。
二〇〜三〇人近くが出席する全体会議だけで 計一八回。
生産現場での打ち合わせはもっと 多いという。
生産拠点として川崎のPIセンターの空き スペースに三四坪を確保した。
CDの生産か らパッケージングまで現在は担当者一人で処 理している。
リードタイムは現状約一週間か かるが、三、四日程度に縮めたい考えだ。
C Dの生産工程では音質チェックに最も時間が かかっている。
生産機材の高度化が進み、か つ生産工程別に担当者を配置すれば、リード タイム短縮は十分に見込めるという。
今後は タイトル数の増加に伴い、生産機材の追加投 入、担当者の追加配置も検討している。
オンデマンドCDは開始初月、一カ月で一 二〇〇枚の受注があった。
タイトル数はまだ まだ少なく、ユーザーへの告知もコロムビア コロムビア営業本部販売促進 部の鈴木弘明氏
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
物流拠点にCD生産機材を設置 コロムビアミュージックエンタテインメント (以下、コロムビア)は昨年十二月、CDの 受注生産サービス「オンデマンドCD」を開 始した。
廃盤や在庫切れになった商品を中心 に、レコード店や通販サイトで一枚単位から 注文を受け付ける。
価格は一律二五〇〇円に 設定している。
ユーザーはオンデマンドCD専用サイトか らアーティスト名とCDタイトル名を確認し、 タワーレコードやHMVといったレコード店や アマゾンなどの通販サイトから注文する。
榊 原郁恵や河合奈保子など、根強い人気を誇る 往年のアイドルの廃盤など、九五タイトルを 販売している。
今後、毎月約一〇〇タイトル ずつ追加していく予定だ。
狙いはロングテールへの対応だ。
CDには 通常なら?死に筋?として扱うしかないニッ チな商品にも買い手が付くという特性がある。
販売数量とアイテムの売れ筋分析グラフを描 いた際に、販売数量の少ないアイテムが恐竜 のしっぽのように長く伸びることから「ロン グテール現象」と呼ばれている。
実際、コロムビアには何年間も倉庫に眠り っぱなしの在庫が六〇〇〇タイトル近くある という。
そのCDを求めるユーザーがいつ現 れるかわからない以上、販売機会の損失を防 ぐためにも在庫処分できないでいる。
それを オンデマンドCDのタイトルに乗せれば処理で きる。
オンデマンドCDは、在庫を抱えずに済む うえ、新譜と違いプロモーションビデオの制 作やCDジャケットのデザインなど販促費も 発生しないため、一枚単位の受注でも十分に 利益を確保できるという。
工場で大量生産し、 短期間に売り切るという従来のレコード会社 とは正反対のビジネスモデルだ 受注から生産、出荷までの流れは以下の通 り。
レコード店や通販サイトからの受注情報 は、「ジャパン・ディストリビューションシス テム(以下、JDS)」の共同受注システムを 通じて、コロムビアに送信される(図1)。
CDはコロムビアが倉庫・配送業務を委託 しているタカセの物流センター「PIセンタ ー」で生産する。
生産機材を同センターに設 置。
受注情報を基にコロムビアのデータセンタ ーから音楽やCDジャケット、歌詞カードな どのデータを同営業所のオンデマンドCD生 産システムに配信し、生産指示を送る。
生産はタカセの担当者が専任で行う。
まず はCD─Rに「デュプリケーター」と呼ばれる 昨年12月、CDの受注生産サービスを開始した。
廃 盤や在庫切れなど入手困難になった作品を中心に、 レコード店や通販サイトから1枚単位で注文できる。
物流拠点に生産機材を設置し、CD生産後、即出荷 する体制を整えたことで、従来のサービスと比べリ ードタイムを2週間も縮めることに成功した。
コロムビアの古川博司営業本 部販売促進部CCDプロジェ クト担当部長 57 FEBRUARY 2009 機材で音楽データを書き込み、盤面を印刷す る。
完成したCDは「品質検査機」で音質を チェックする。
通常のCDと比べても音質や 耐用年数は変わらないという。
同時にプリンターから歌詞カードが自動的 に印刷される。
これにミシン目を入れて裁断 し、「ブックレット作成機」にセットすると三 秒程度で製本される。
完成したCDと歌詞カ ードをセットし、パッケージングして生産は終 了。
ここまでに要する時間はCD一枚当たり 七分程度。
CDの受注から生産、レコード店 への出荷といった一連のリードタイムは約一 週間だ。
CDの受注生産は音楽業界初の取り組み だ。
しかも物流拠点でのCD生産など過去 に前例がない。
コロムビアの古川博司営業本 部販売促進部CCDプロジェクト担当部長は 「リードタイムを縮めるためには物流拠点で生 産するのが一番最適だと思った。
工場から物 流拠点の横持ちの時間がもったいない」と説 明する。
配信とパッケージの中間的位置付け オンデマンドCDのサービスを開始するまで に、コロムビアは様々な試行錯誤を行ってい る。
二〇〇一年には「R盤」というサービス を開始した。
オンデマンドCD同様、廃盤や 在庫切れとなった商品を中心にユーザーから レコード店で注文を受け付け、受注生産を行 うというものだった。
大々的な告知などはしていなかったが、そ れでも一カ月当たり数百件の受注があった。
廃 盤や在庫切れになった商品に対する需要があ ることが証明された。
ユーザーからは好評で、 このサービスはオンデマンドCDを開始する直 前の昨年十一月まで継続された。
だが、当時の印刷技術ではオリジナルの歌 詞カードを完全に再現することができず、カ ラーコピーを四つ折りにしたものを同封して いた。
もちろんユーザーには事前にこの点を 了承してもらっていたが、オリジナルのもの に対するニーズは強く、熱心なファンを満足 させる水準には程遠かった。
また、コロムビアの社内にR盤の専任部署 はなく、エンジニアが通常業務の合間を縫っ て音源からCD─Rにコピーしていた。
歌詞カ ードのコピーやパッケージングも社内で一枚ず つ手作業で行っていたため、注文を受けてか ら店舗に納めるまでに三週間もかかっていた。
本格的に事業展開していく上で、リードタイ ムの短縮は必達の課題だった。
〇七年には、新しい形の音楽配信サービス 「カスタマイズCD」の試験運用も行っている。
レコード店にタッチパネル式の専用端末を設 置、ユーザーはデジタル配信された楽曲の中 から選択し、CD─Rにコピーする。
一曲単 位(二一〇円)から購入でき、盤面には好き な文字を二〇文字程度入力することで自分仕 様のオリジナルCDを作成できる。
楽曲のジャンルは演歌、歌謡曲、J─PO 図1 オンデマンドCD の受注・生産フロー ユーザー オーダー販売 受注情報 受注情報 レコード店・通販サイト 音楽データ配信 生産指示オンデマンドCD ファクトリー(タカセの物流センター) 《CD 生産》 《歌詞カード製本》 ?生産システム 出荷 ?品質検査機で 音質チェック ?ブックレット作成機で 製本する ?パッケージングを行い 完成 ?自動で印刷された ものを裁断 ?デュプリケーター でCD 生産 JDSの共同受注システム コロムビアデータセンター FEBRUARY 2009 58 P、ジャズなど幅広い。
廃盤が中心でターゲ ットが高年齢層だったR盤と異なり、一青窈 や木村カエラといった最近のヒットチャートを にぎわすアーティストの旧譜扱いになった楽 曲を配信して、若者の取り込みを狙った。
開 始当初の楽曲数は五〇〇だったが、最終的に は二八〇〇近くまで増えた。
カスタマイズCDの狙いは旧譜の販売機会 の拡大だが、同時にレコード店支援の意味合 いも込められていた。
端末に楽曲データを配 信することで店頭在庫以外の楽曲販売が可能 になり、売り上げ拡大はもちろんのこと、店 舗の在庫スペースの効率化にも寄与すること ができた。
だが、このサービスにも致命的な欠点があ った。
配信される楽曲がコロムビアに所属し ているアーティストに限定されていたことだ。
ユーザーにとって重要なのは豊富なラインナッ プであり、アーティストの所属するレコード会 社は関係ない。
その結果、期待したほどには 利用が伸びなかった。
また、CDを作成し、袋詰めを行うといっ た新たな作業負荷が店員に生じてしまったこ とも課題だった。
結局、カスタマイズCDは 昨年二月末で試験運用を中止し、現在は京都 にある美空ひばりの記念館「美空ひばり座」 と宝塚歌劇大劇場内のオフィシャルショップ で運用するにとどまっている。
R盤とカスタマイズCDで培ったノウハウ、 改善点がオンデマンドCDに活かされている。
ソフトの物流は減少傾向が長期的に続いてい たからだ。
音楽CDのパッケージ市場は一九九八年の 六〇七九億円をピークに、毎年縮小している (図2)。
〇七年には三三三三億円と、約一〇 年間で半分近くまで落ち込んでしまった。
パ ッケージに代わって急成長しているのが配信 だ。
〇五年の三四三億円から〇七年には七五 五億円と、わずか二年で倍以上増加している。
だが、「いくら配信が伸びても我々のよう R盤で課題だった歌詞カードは、印刷技術が 向上したことでオリジナルのものをそのまま 再現することが可能になった。
さらにカスタ マイズCDの生産技術を転用して、誰でも操 作できるCDの生産機材を物流拠点に設置す ることで、リードタイムを二週間も削減した。
こうして昨年十二月、配信とパッケージの中 間的位置付けの新サービスが誕生した。
パッケージ市場は一〇年連続減少 物流拠点でのCD生産は、現場を預かるタ カセにとっても、もちろん初の試みだった。
タ カセは音楽ソフトの配送で長年の実績があっ た。
しかもコロムビアの生産拠点と同じ川崎 に倉庫を持っていた。
そこに目を付けたコロ ムビアから昨年一月、オンデマンドCDの話 がもちかけられた。
タカセの星野博執行役員は「CDの生産な んて全く経験のないこと。
音楽の専門家でな い私たちに本当にできるのか不安だった」と 当時を振り返る。
それでも要請には喜んで応 じた。
タカセが主要な荷物の一つとする音楽 タカセの星野博執行役員 図3 CDパッケージの総生産額と配信の推移 7,000 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 98 年 99 年 00 年 01 年 02 年 03 年 04 年 05 年 06 年 07 年 単位:億円 パッケージ 755 3,516 3,333 3,774 3,672 3,997 4,438 5,031 5,398 5,696 6,075 343 534 配信 59 FEBRUARY 2009 のホームページに限定していたため、計画で は五〇〇〜六〇〇枚程度の受注を見込んでい た。
だが、ユーザーからの反響はコロムビア の期待以上だった。
今後はレコード店にコー ナーを設けたり、通販サイトにバナーを用意 するなど、本格的なプロモーションも計画し ている。
直販サイトで店舗中抜き 今年二月にはオンデマンドCDの専用サイ トを大幅リニューアルし、直販にも乗り出す 予定だ。
これまでコロムビアはレコード会社な らどこでも設置している直販サイトを構築し てこなかった。
「当社がここまで成長できた のはレコード店の協力があってこそという想 いがあり、店舗を中抜きにするダイレクト販 売はためらっていた。
だが、ユーザーの利便 性を考えれば直販は欠かせない」とコロムビ ア営業本部販売促進部の鈴木弘明氏はいう。
新譜への活用も検討しているという。
音楽 業界において世界レベルで勝負できるアーテ ィストはほんの一握りで、あとはニッチなア ーティストがひしめきあっているのが現状だ。
マーケット自体は小さくても熱心なファンが多 く、決して無視できない。
オンデマンドCD であれば少量多品種のロングテールにも十分 対応できる。
在庫リスクも回避できる。
新人アーティストの発掘にも活用できる。
例 えば、インディーズ・レーベルに所属するアー ティストのCDのテスト販売をオンデマンドC Dのシステムを用いて行う。
ユーザーからの 支持が得られ、ある程度の販売規模に達した ら、コロムビアと契約を結びメジャーデビュー の道を開く。
生産方式も受注生産から通常の 工場での大量生産に移行する。
既に他社も動き出している。
昨年九月、U SENを筆頭にエイベックス・グループ・ホー ルディングス、ビクターエンタテインメントな どが共同出資で「ミュージックグリッド」を 設立した。
新会社はUSENが五〇%以上を 出資している(USEN以外の出資比率は非 公開)。
コロムビアのカスタマイズCD同様、ミュー ジックグリッドがレコード店に端末を設置。
ユ ーザーは好きな曲を選びオリジナルCDを作成 できる。
音楽データはエイベックスなどのコン テンツホルダーから提供され、USENの業 務用ネットワーク経由で店頭端末に配信され るという仕組みだ。
コロムビアの古河部長は「当社からすれば、 そのサービスはすでにやっていること。
『日本 で最も古いレコード会社だからこそ、一番新 しいことをやってやろう』というのが、当社 社長の口癖。
旧譜の販売も大事だが、やはり 我々レコード会社は新しいものを生み出して こそ価値があると思っている。
オンデマンド CDを日本のみならず、世界中のアーティス トの作品発表の場にできればおもしろい。
こ のビジネスは大きく拡大していくだろう」と 期待している。
(柴山高宏) な物流会社には全くプラスにならない。
物量 の減少は辛いところだが、だからこそCD生 産という新分野を開拓できれば、当社にとっ ても強みになる」と星野執行役員はいう。
以降、コロムビアとタカセは会議を重ねた。
二〇〜三〇人近くが出席する全体会議だけで 計一八回。
生産現場での打ち合わせはもっと 多いという。
生産拠点として川崎のPIセンターの空き スペースに三四坪を確保した。
CDの生産か らパッケージングまで現在は担当者一人で処 理している。
リードタイムは現状約一週間か かるが、三、四日程度に縮めたい考えだ。
C Dの生産工程では音質チェックに最も時間が かかっている。
生産機材の高度化が進み、か つ生産工程別に担当者を配置すれば、リード タイム短縮は十分に見込めるという。
今後は タイトル数の増加に伴い、生産機材の追加投 入、担当者の追加配置も検討している。
オンデマンドCDは開始初月、一カ月で一 二〇〇枚の受注があった。
タイトル数はまだ まだ少なく、ユーザーへの告知もコロムビア コロムビア営業本部販売促進 部の鈴木弘明氏
