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2009年2月号
物流業のリスクマネジメント

サプライチェーンのリスクとは

FEBRUARY 2009  1 何がリスクか  サプライチェーン上には経営リスク、オペレ ーションリスク、自然災害など、多くのリスク が潜んでいる。
それを予測し、管理することは、 物流企業のみならず、あらゆる企業にとって事 業継続の必要条件の一つである。
しかし、こ の問題に正面から取り組み、リスクを最小限に 留めるために具体的な対策を打っている企業は 少ない。
 まずは、物流企業もしくは物流部門にとっ てのリスクとは何か、ということから紐解い ていこう。
グローバル企業のロジスティクスは、 ?荷主企業の経営・営業活動をベースとして、 ?調達物流、?工場の生産工程、?工場内物 流(構内物流)、?貨物の集荷、 ?倉庫保管、 ?航空会社・船会社への搬入、?航空・海上 輸送、?目的地での陸送──というプロセスか ら成っている。
それぞれのプロセスに様々なリ スクが潜んでいる。
?経営・営業活動(荷主)  昨年後半から貨物量が急激に減少している。
なかでも国際物流は、前年比二五%〜三〇% の落ち込みであるという。
今年も大幅な減少が 予想される。
理由はもちろん世界的な経済環 境の悪化である。
主要な荷主企業が生産活動 に急ブレーキを踏んでいる。
 このような荷主企業の経営戦略の転換を予 測し、それが現実のものとなった時に、いち 早く反応する能力とプロセスを磨いておくこと。
それが物流業もしくは荷主企業の物流部門にお けるリスクマネジメントの鍵である。
 荷主企業の経営戦略が物流企業や物流部門 に与える影響は一般に考えられている以上に大 きい。
例えば製品ライフサイクルの見通しの誤 り。
あるいは市場価格の見誤り。
ほかにも顧 客ニーズと乖離した商品開発や経営戦略の不 徹底、営業マンのスキル不足による販売機会の 喪失など、荷主が経営に失敗する理由は枚挙 に暇がない。
 その結果として荷主は物流コスト削減を実施 してくる。
これが物流企業の売り上げや利益に ダイレクトに影響を与えることになる。
そうし た事態に直面しても事業を継続していくために、 物流企業は物流のプロセスだけでなく、荷主の 経営・営業活動を含んだサプライチェーン全体 のリスクを常に、正確に、深く、把握しておか なければならない。
 そこで必要になるのが荷主企業とのコミュニ ケーションだ。
平時から荷主と物流企業が双 方のリスク回避につながる情報を交換し、共 有する関係をつくっておく。
さらには、協働に よって解決策を見い出すプロセスを、リスクが 現実のものとなる前に整備しておく必要がある。
 荷主企業は往々にして協力物流企業を下に 見がちである。
物流企業の対応策は、実現可 能な問題解決手法を提供できる能力を磨くこ とである。
荷主に対して効率化によるコスト削 減を常に提案していくことが非常時におけるリ スクを最小限に留めることになる。
?調達物流 《第1回》 サプライチェーンのリスクとは 宇野修 ロジスティクスバンク代表 物流業のリスクマネジメント 物流業のリスクマネジメント 物流業のリスクマネジメント 物流業のリスクマネジメント  企業のリスク管理は、「事業継続計画書(BCP)」が基本とな る。
そして各種のリスクに対応する具体的な施策としては「ISO (国際標準化機構)」によって定められた各種のマネジメントシス テムが有効に機能する。
何をどこまでやればいいのか。
物流業 のBCP 策定を数多く手がけてきたスペシャリストが解説する。
宇野 修(うのおさむ) 1946 年、長野県松本市生まれ。
青山学院大学法学部卒。
英国 航空、フライングタイガー航空、エア・カナダ、ジャパン・シェン カー、エクセル・ジャパンを経て、2008 年にロジスティクスバン クを設立。
代表に就任。
現在に至る。
著書に『国際航空貨物マー ケティング』日通総研選書(白桃書房・1993 年)、『「売る」ロジ スティクス品質の創造』白桃書房・2003 年がある。
http://www. e-logisticsbank.com/、e-mail:uno-osamu@e-logisticsbank.com 新連載 2  FEBRUARY 2009  調達物流に潜 むリスクには、調 達物流プロセスの 不備あるいは非効 率な集配システム、 トラック業者評価 システムの不在に よるコスト高、貨 物のトレーサビリ ティ不備による遅 配などがある。
 大手の製造メー カー(荷主)であ っても、効率の悪 い調達物流を放置 していることは多 い。
例えば調達物 流にミルクラン方 式を導入し、近く にあるほかのサプ ライヤーと共同輸 送して納品するこ とで運賃を削減で きるにもかかわら ず、それを実行し ていない。
その大 きな理由は、荷主 の組織体制にある。
 ミルクラン方式 を採用するには、 各サプライヤーと の契約条件を変更しなければならない。
そのた めには、荷主の社内で購買部と物流部がコーデ ィネーションをとる必要がある。
ところが、そ の体制ができていない。
その結果、各サプライ ヤーは自社の納品だけを処理し、その輸送費も 個別に交渉しているのが現状である。
 これらの改善には、「ISO9001品質マ ネジメントシステム」の導入が効果を発揮する。
ISO9001は組織内のコミュニケーション を強化することで、プロセス内に存在するボト ルネックを強化・活用・削除することを基本哲 学の一つとしている。
つまり、ISO9001 には、相互に関連するプロセス(購買部と物 流部)を管理することでコストを削減する手法 が示されているのである。
?工場の生産工程  工場の生産工程にも多くのリスクが潜んでい る。
工程管理の不備によるコストアップのほか、 天災、危険物質の漏洩、ITシステム障害な どが挙げられる。
これらのリスクを低減する対 応策には、「ISO9001」、「OHSAS 18001労働安全衛生マネジメントシステ ム」、「BCP(事業継続計画)」および「保 険マネジメントシステム」、「ISO27001 (ISMS)情報セキュリティマネジメントシ ステム」、「ISO14001環境マネジメン トシステム」がある。
?構内物流 図1 サプライチェーンのリスクと対応策 プロセス サプライチェーンリスク 対応策 ■経営戦略リスクマネジメント ■ミルクランシステムの導入 ■ISO9001 品質マネジメントシステムの導入 ■SCMシステムの見直し ■ISO9001 品質マネジメントシステムの導入 ■OHSAS18001 労働安全衛生マネジメントシステムの導入 ■BCP(事業継続計画)および保険マネジメントシステムの導入 ■ISO27001(ISMS) 情報セキュリティマネジメントシステムの導入 ■ISO14001 環境マネジメントシステムの導入 ■OHSAS18001 労働安全衛生マネジメントシステムの導入 ■OHSAS18001 労働安全衛生マネジメントシステムの導入 ■ISO9001 品質マネジメントシステムの導入 ■ISO9001 品質マネジメントシステムの導入 ■ISO9001 品質マネジメントシステムの導入 ■OHSAS18001 労働安全衛生マネジメントシステムの導入 ■ISO9001 品質マネジメントシステムの導入 ■倉庫マネジメントシステム(WMS)の導入 ■TAPA(倉庫・事務所セキュリティマネジメントシステム)の導入 ■MSDS 制度およびIATA 危険品規則の遵守 ■ISO9001 品質マネジメントシステムの導入 ■OHSAS18001 労働安全衛生マネジメントシステムの導入 ■ISO9001 品質マネジメントシステムの導入 ■梱包マネジメントシステムの導入 ■航空機安全搭載マニュアルの順守 ■IATA 危険品規則の順守 ■ISO9001 品質マネジメントシステムの導入 ■ISO9001 品質マネジメントシステムの導入 ■ISO22000 食品安全マネジメントシステム ■経営戦略リスク ■調達物流プロセスの不備 ■トラック業者評価システムの不在によるコスト高 ■貨物のトレーサビリティ不備による遅配 ■生産工程のボトルネック未管理による生産コストの上昇 ■工場の危険物が漏洩して負傷者がでる ■洪水被害で工場が破損し、復旧に時間がかかり、莫大な損害 をもたらした ■ITシステム障害により、工場の操業が止まり莫大な損失を被る ■廃棄物処理工程に不備があったために罰金を科せられた ■フォークリフトの運転未熟者によりケガ人がでた ■火災が発生し、非常口、避難経路への誘導標識が未整備で あったため避難が遅れ負傷者がでた ■完成品の保管場所管理不備のため、誤出荷し、余分な輸送 コストがかかった ■混載便トラック会社のストライキのため、チャーター便を利用し、 余分なコストがかかった ■集荷プロセスの不備のため、トラックの待ち時間が長く余分な コストがかかった ■保管棚に耐荷重表示がなかったため、重い荷物を載せたら棚 が破損した ■倉庫マネジメントシステム(WMS)の不備のため、棚卸しが完璧 にできず顧客からの信頼を失った ■危険品ラベルの未添付により保管場所を間違え、危険物が漏 れ作業員が負傷した ■梱包脆弱の貨物をCFSに搬入し、貨物がフォークリフトで破壊 され、顧客から損害賠償を請求された ■航空輸送中の危険物が化学反応により爆発し、貨物がすべて 破損した ■顧客のドアまで生鮮食料品を配送したら、鮮度が落ちていて売 ?目的地での配送り物にならなかった ?経営・営業活動(荷主) ?調達物流 ?工場の生産工程 ?工場内物流(構内物流) ?貨物の集荷 ?倉庫に保管 ?航空会社・船会社へ搬入 ?航空・海上輸送 FEBRUARY 2009  3 宇野修 ロジスティクスバンク代表 物流業のリスクマネジメント 物流業のリスクマネジメント 物流業のリスクマネジメント  フォークリフトの運転でケガ人がでた、火災 が発生し、非常口、避難経路への誘導標識が 未整備であったため避難が遅れ負傷者がでた、 完成品の保管場所管理不備のため、誤出荷し、 余分な輸送コストがかかったなどが、構内物流 の主なリスクだ。
これらのリスクには、「IS O9001」と「OHSAS18001」が 対応する。
?貨物の集荷  トラックの待ち時間が長く余分なコストがか かった。
あるいは混載便トラック会社でストラ イキが起きたため、チャーター便を利用し、余 分なコストがかかったなど、貨物を集荷するプ ロセスにも特有のリスクが存在する。
「ISO 9001」に基づくロジスティクスのプロセス 管理によって、このリスクを低減することがで きる。
?倉庫に保管  保管棚に耐荷重表示がなかったため、重い荷 物を載せたら棚が破損した。
倉庫管理システム (WMS)が不備で、棚卸しの精度が悪く、顧 客の信頼を失った。
危険品ラベルの未添付によ り保管場所を間違え、危険物が漏れ作業員が 負傷したなど、倉庫内にはオペレーションリス クが多数存在する。
 WMSの整備や「MSDS制度(対象化学 物質の性状や取扱いに関する情報の提供制度)」 および「IATA危険品規則」の順守のほか、 「OHSAS18001」、「ISO9001」、 「TAPA(倉庫・事務所セキュリティマネジ メントシステム)」の導入が必要となる。
?航空会社・船会社へ搬入  航空会社や船会社などキャリアに荷物を搬 入する際に注意を要するリスクとしては、梱包 の脆弱な貨物をCFS(コンテナ・フレート・ ステーション)に搬入し、貨物がフォークリ フト作業で破壊され、顧客から損害賠償を請 求されることなどが挙げられる。
「OHSAS 18001」、「ISO9001」、そして梱包 手順書の作成とその順守が有効である。
?航空・海上輸送  輸送中の危険物が化学反応によって爆発す るリスクまで想定する必要がある。
とりわけ航 空輸送においては、このような事故が大惨事を もたらすことになる。
航空会社による航空機安 全搭載マニュアルやIATA危険品規則の順 守は当然として、「ISO9001」に基づく 貨物搭載プロセスの確立が必要である。
?目的地での陸送  顧客のドアまで生鮮食料品を配送したもの の、鮮度が落ちていて売り物にならなかったと いったトラブルまで想定する必要がある。
「I SO9001」のほか、食品向けの「ISO 22000」が対応している。
リスク管理部門の作り方  さて、これらの方法論を誰が組織に定着さ せるのか。
やはり専門部隊が必要である。
リス クマネジメント部門を設立し、管理体制を構 築することである。
既に物流企業の多くは交通 事故を回避するための安全管理部門を設けてい る。
しかし、そのような狭義のリスクだけでなく、 大局的にリスクを管理する組織が必要である。
 しかし筆者の知る限り、物流業界においてリ スクを大局的に管理するための組織を持ち、そ こにリスクマネジャーを配置している企業は現 状ではほとんどない。
リスクマネジメントに対 する認識が薄いという理由だけでなく、リスク 管理部門の作り方が分からないというのが正直 なところのようである。
 図2に示したのは、リスクマネジャーを中 心としたリスクマネジメント部門の雛型である。
リスクマネジャーの管理下に、法務担当、保 険担当、クレーム担当、国際規格・マネジメ ントシステム担当、セキュリティシステム担当、 ビジネスリスク担当、サプライチェーンリスク 担当を配置している。
 このうち法務担当は顧客およびサプライヤー との契約書を管理し、企業に不利益をもたら さない契約を締結することが、その役割である。
具体的には損害賠償条項に関して、貨物の滅 失や破損などの直接損害を補償範囲とし、顧 客の市場占有率損失、企業利益・売上の損失、 第三者からの損害賠償請求などの間接損害に は責任を負わない旨を契約書に明示しておくこ とがポイントになる。
 保険担当の使命は、リスクの移転である。
保険の種類、保険金額などを決定し、損害を 4  FEBRUARY 2009 最小限にする保険を選択する役割を担う。
自 社のリスクを保険に移転するだけでなく、荷主 の損害を最小限にするために、荷主に全損物 流保険などを販売することもある。
 クレーム担当は、トラブル発生時の迅速な 問題解決と賠償金支払いの手続きを担当する。
トラブル発生からクレーム解決までのプロセス と管理方法を構築し管理するのが役割である。
 国際規格・マネジメントシステム担当は、I SO9001、ISO14001、OHSA S18001、ISO27001、BCPな どの導入・審査を行う。
審査員資格を持った 人材を充てることが望ましい。
同様にセキュリ ティシステム担当は、「TAPA」の導入と審 査を行う。
 ビジネスリスク担当は、組織内外の経営戦 略リスクの分析と管理を行う。
またサプライチ ェーンリスク担当は、サプライチェーンの全域 に及ぶオペレーションのリスクの分析と管理を 行う。
リスクマネジャーのスキル  以上のようにリスク管理部門は幅広い役割を 果たさなければならない。
その活動を統括する リスクマネジャーの役割は、究極的にはコスト の削減である。
そこで求められるスキルを図3 に示した。
 例えば損害賠償解決に至るまでのプロセスは 長丁場である。
時間はコストに直結する。
プロ セスを効率化して、短時間で損害賠償を解決 することでコストを削減できる。
現状では日本 における物流業の基本契約書、とりわけ損害 賠償条項は、顧客(荷主)優位になっている ことが多い。
荷主と物流業者が平等に責任と 義務を分担する契約書を作成することでこれを 改善するのである。
 保険についても同様である。
大きな物流事 故が発生した場合に備えて、荷主にSAR(全 損保険)を販売しておくことでコスト削減が可 能となる。
事前のリスク管理が事業継続を可 能にするのである。
 ISOマネジメントシステムの導入もコスト 削減がその目的である。
もちろんISOの哲 学は顧客満足経営である。
しかし、その核と なるシステムは業務プロセスを高品質・低価格 で構築することを目的としている。
 「ISO14001」にしても、その目的 は環境保全による企業の社会的責任(CSR) を果たすことにあるが、その核となるコンセプ トは枯渇性資源の節約によるコスト削減であ る。
同様に「OHSAS18001」は事故 低減によるコスト削減。
「ISO27001」 は情報資産の管理プロセスを効率化すること によるコスト削減である。
「TAPA」を導入 し倉庫・倉庫事務所のセキュリティを万全に すれば、盗難などの事故により資産を失わずに 済む。
 マネジメントシステムの導入は飾りではない。
一連のマネジメントシステムを駆使して、コス ト削減を実行することがリスクマネジャーに求 められているのである。
次回以降、本連載で は著者が実務経験から学んだ各種リスク管理 システムの実践法について、とりわけISOな どの国際標準規格を導入したものの組織内に 定着しないで悩んでいる企業を主な対象として、 未定着の理由と定着の手法を解説していく。
図2 リスクマネジメント部門 リスクマネジャー 顧客、サプライヤーとの契約書の検証と管理 海上保険、ロジスティクス保険などの管理 と販売管理と販売 クレームの処理と管理 ISO、OHSAS、BCPなどの管理と審査 TAPA(倉庫・事務所セキュリティ)管理と審査 経営に関するリスクの分析と管理 *サプライチェーンのリスク分析と管理 *オペレーションリスクの分析と管理 ■国際規格・マネジメントシステム担当 ■セキュリティマネジメントシステム担当 ■ビジネスリスク担当 ■サプライチェーンリスク管理担当 ■保険担当 ■クレーム担当 ■法務担当 図3 リスクマネジャーのスキルとコスト削減手法 効率的損害賠償解決プロセスによるコスト削減 契約書の事前検証によるコスト削減 サプライチェーンリスクの事前管理によるコスト削減 SAR(全損保険)販売によるコスト削減 リスクマネジメントシステム導入によるコスト削減 ISO9001の高品質低価格プロセス構築によるコスト削減 ISO14001の枯渇性資源の節約によるコスト削減 OHSAS18001の未然の事故防止策によるコスト削減 ISO27001(ISMS)の資産の管理策によるコスト削減 TAPA(倉庫・事務所セキュリティマネジメントシステム)管理によるコスト削減 BCP(事業継続計画)の管理によるコスト削減 リスクマネジャーのスキル

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