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2009年2月号
海外Report

サプライチェーンのグリーン化と企業成長を両立させた欧米先進事例

FEBRUARY 2009  64 八五%のCO2の削減へ  企業が環境問題に配慮する理由は大きく 分けて三つあります。
一つは政府や公的機 関による規制。
もう一つは環境NPOなど の関連団体からのプレッシャーや要請。
さら には、企業の環境対策に対する消費者の関 心の高まりです。
 国際的な専門家からなる「気候変動に関 する政府間パネル(IPCC)」が二〇〇七 年十一月に発表した評価報告書によると、 気候が温暖化しているのは明らかであり、 その主な原因は人間が燃料を消費する際に発 生する二酸化炭素である、としています。
 同時にIPCCは、二一世紀末時点の気 温上昇を、現在と比べて摂氏二〜二・四度 の範囲内に収めるためには、二〇五〇年ま でに二酸化炭素の排出量を二〇〇〇年の基 準値から五〇〜八五%削減する必要がある、 という提案をまとめました(図1)。
 二〇〇〇年の二酸化炭素の排出量は四〇 ギガトンなので、五〇%の削減なら二〇ギガ トン、八五%の削減なら六ギガトンです。
こ れまで通りの生産や消費パターンを続けてい れば、二酸化炭素の消費量は二〇五〇年に は一〇〇ギガトン近くになることを考えれ ば、生産と消費の方法を劇的に転換しなけ ればならないことがわかります。
先進各国は、 この報告書に歩調を合わせるように環境に 関する規制を強める方向にあります。
 NPOの活動としては、カタログ通販のシ アーズに対する「フォーレスト・エシックス」 の活動が広く知られています。
シアーズが発 送する年間四億冊のカタログが、どれほどの 森林資源の犠牲の上に成り立っているのかを、 写真のイメージで表現し強く抗議しました。
 こうした草の根活動的なNPOにとどま らず、企業の利益追求を肯定的にとらえて いるはずの機関投資家たちもNPOを組織 して、企業の環境活動の監視に乗り出しま した。
〇七年に立ち上がった「カーボン・ディ スクロージャー・プロジェクト(CDS)」は、 約四〇兆ドル(三六〇〇兆円)の運用資産 を持つ機関投資家が参加して、企業がどれ ほどの二酸化炭素を排出しているのかを調 査し発表しています。
 さらに、消費者も企業の環境に関する取 り組みへの関心を高めています。
ある民間 欧州SCM会議?  企業はもはや環境問題から逃れることはできない。
しかし、自由な企業活動 が妨げられてしまうと否定的にとらえる必要はない。
サプライチェーンのグリー ン化と企業の成長は両立できる。
AMRリサーチのノハ・トハーミ研究員が、ジョ ンソン・エンド・ジョンソン、ウォーカーズ・クリスプ、デルとUPSの協働など、 欧米の先進企業の取り組みを紹介する。
       (取材・編集 横田増生) サプライチェーンのグリーン化と 企業成長を両立させた欧米先進事例 65  FEBRUARY 2009 企業の調査によると、米国の消費者が企業 イメージについて大切だと思うことについて の順位は、?社会的な責任を果たしている のかどうか(五三%)、?製品・商品の品質 (二三%)、?企業のファンダメンタル(九%) ──となりました。
 社会的責任の中でも何を重視しているか という点では、?環境を破壊していないこ と(六九%)が、?従業員を公平に処遇し ていること(六八%)や、?責任のあるサ プライチェーンを確立している(六五%)を 抑えてトップとなりました(複数回答)。
 環境への取り組みは、もはや「していれ ばカッコイイ」という段階を超え、「しなく てはならない」という認識に変わりつつあ ります。
二酸化炭素の排出を大幅に削減し なければならない社会においては、企業活 動も大きく変わらざるを得ません。
 こうした社会の変化を、自由な企業活動 を妨げるものとして否定的にとらえるのか、 新たなチャンスとして肯定的にとらえるのか で、今後の企業のとる道は大きく左右され ます。
この講義では、環境に関する規制や 制約をビジネスチャンスととらえ、新たなサ プライチェーンを構築しようとしている企業 の実例を中心にお話ししたいと思います。
包装資材を大幅に削減  繰り返しますが、企業側には、環境に関 する規制や制約は自由な企業活動の妨げと なり、事業規模拡大の足枷となる、と考え る風潮があります。
しかし先進的な大企業 はそうした考えに異論を唱え始めました。
 次の米国の大手製造業者の事例は、環境 への配慮と売上高の拡大が両立しうることの 証明となります。
(編集部注・この製造業者 とはジョンソン・エンド・ジョンソンのこと だと考えられる。
ここで掲げたものと同じグ ラフが同社の「二〇〇六年度版 持続可能 性に関するレポート=“2006 Sustainability Report”」の二三ページに出てくる)  同社は九〇年代から二酸化炭素の排出削 減に取り組んできました。
一〇年の目標と して、九〇年の二酸化炭素の排出量から七% 削減することを掲げました。
しかし予定よ り早く、二〇〇六年の段階で一六・八%の削 減を達成することができました。
しかもこ の間、売上高は四倍近くに増えています(図 2)。
同社の事例は、環境に配慮しながら業 績を拡大することが、やり方次第で可能だ ということを証明しています。
 では実際、どうやれば環境への配慮と企 業の成長を両立することができるのでしょう か。
肝心なことは、サプライチェーンを軸に して企業活動を従来以上に統合することです。
図1 CO2の削減目標値 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 (年間のCO2排出量(単位:ギガトン) 2000 年2010 年2020 年2030 年2040 年2050 年 原典:第4回アセスメントレポート    気候変動に関する政府間パネル(IPCC) 現状のままだと CO2は増加する一方 2000 年の基準線 現時点の 排出量 削減の3 つのシナリオ 29GT 20GT (-50%) 6GT (-85%) 二〇五〇年までに 九〇GT以上の削減を 目指す 974 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 979 974 990 961 941 991 989 990 990 958 100010491042 941 871 810 60 50 40 30 20 10 0 1200 1000 800 600 400 200 0 905 CO2排出量(単位:千立方メートル) 売上高(単位:1 0億ドル) 図2 CO2の削減と売上高の増加は両立できる CO2の排出量(左目盛) 売上高(右目盛) FEBRUARY 2009  66 従来のSCMの対象はロジスティクスに付随 する活動にとどまっており、需要や製造と は別にみなされてきました。
しかしそれでは、 企業活動を“グリーン化”しながら、利益 を上げることはできません。
 たとえば、グリーン化した工場を作るには、 工場だけにとどまらず、サプライヤーとの取 引や、輸送業務、製品の破棄まで考えるこ とが必要です。
サプライチェーンと、需要と 製造活動をより密接に結びつけて全体を俯 瞰することなしには、グリーン化と利益を両 立する方法は見えてきません(図3)。
 実際にどのような方法があるのかを、サ プライチェーンの流れに沿って、製品設計か ら梱包、サプライヤーとの取引、消費者への 啓蒙活動の順番で見ていきたいと思います。
 オフィス家具メーカーの大手であるハーマ ン・ミラー社が数年前に開発した「アーロン ( Aeron)」というイスは、発売以来、根強 い人気を誇る製品です。
アーロンのセールス ポイントは、その六六%がリサイクル部材で 作られており、また使用後は九六%の部材 を再びリサイクルできるという点です。
機能 面でも優れており、しかも環境にやさしい 製品ということで、同様の製品と比べると 割高な値段設定にも関わらず、売り上げを 伸ばしています。
 ハーマン・ミラーのような取り組みは、“環 境に配慮したデザイン”として知られており、 アウトドア用品の大手であるティンバーラン ドも同様の取り組みを行っています。
同社 が作るブーツには七〇%をリサイクル部材と して使っている製品があります。
また、ペッ トボトル五本から作られたTシャツの胸の部 分には「ペットボトル×5=Tシャツ」とい うデザインが施されていて、それを着ている 人がティンバーランドと環境問題を共有して いることがわかるようになっています。
 梱包や包装の部分は、環境問題への取り 組みを始めるときに手をつけやすい分野と いえるでしょう。
包装のデザインや取引して いるサプライヤーを変えるといった、比較的 小さな努力で、大きな成果の上がることが あります。
 米国の加工食品メーカーのジェネラル・ミ ルズ社は、同社の主力商品の一つである「プ ログレッソ」という缶入りスープのふたの部 分に使われている鉄を減らすことで、年間 三五〇トンを超える鉄の削減に成功。
これは 環境にやさしいばかりでなく、コスト削減と もなり利益のアップにもつながりました。
 次に、サプライヤーとの取り組みについて 話したいと思います。
二酸化炭素を削減し ようとしても、自社の取り組みだけでは限 界があります。
しかしどのようにしてサプラ イヤーを巻き込んでいくのかは、大切であり ながらも難しい問題です。
 環境問題に熱心な、先進的な大企業に共 通するのは、もしサプライヤーが環境への取 り組みに消極的であったとしても、そうし たサプライヤーを取り締まったり、罰則を科 したりするのではなく、環境問題への取り 組みがどうして大切なのか根気よく教育す べきだ、という姿勢です。
デル、ヒューレッ ド・パッカード、ゼネラル・エレクトリック などがそうした企業の代表例です。
 これは、数年前にウォルマートがICタグ を導入しようとしたとき、従わないサプライ ヤーには罰則をもって臨んだことを反面教師 としています。
ウォルマートのICタグの導 入には、同社のサプライチェーンの可視性を 高めることで、参加している各社がメリット を受けられるという全体像がありました。
 けれど、ICタグの導入を取引条件とし たために、サプライヤーは全体像を把握する ことなく、ただウォルマートの要求に応える ためだけに社内に専門チームを作ってICタ グの導入に備えることになりました。
 その結果として、ウォルマートが当初思い SCM の 危機管理 図3 需 要 製品開発 サプライチェーン 需 要 製品開発 サプライチェーン 従来のサプライチェーンの考え方 サプライチェーンを“ グリーン化”するには統合が必要 すぐれた 需要予測 デザインにおける 機会の増加 67  FEBRUARY 2009 描いたような、ICタグの導入をテコにして、 サプライヤー自身も自らの業務を見直して利 益につなげるということを達成することは できなかった、というのが今では共通認識 となっています。
 ハイテク産業は、こうした反省の上に立ち、 サプライヤーに向けて、標準化した共通の「行 動基準(code of conduct)」を作っています。
たとえば、デルに納入しているサプライヤー は、ヒューレット・パッカードやIBMにも 納入している可能性が高いと考えられます。
そうしたサプライヤーのために、納入先のハ イテクメーカーに共通した書式を作ることで、 環境に関する項目を何度も記入する必要を なくすという発想です。
 先に挙げた環境NPOのCDSでも同様に、 テスコ、ユニリーバ、P&G、ネスレなどが 参加する環境対策プログラム「サプライチェー ン・リーダーシップ・コラボレーション」と 共同で、業界に関わりなく記入することが できる、二酸化炭素排出量に関する報告書 の共通フォーマットをまとめ、ネット上でダ ウンロードできるようにしています。
デルとUPSの取り組み  こうした動きの背景には、企業が取引先 のサプライチェーン・パートナーの現状を把 握できていないという現実があります。
C DSが〇八年五月に発表したアンケート調査 に、そうした実態がはっきりと表れています。
 同調査によると、二酸化炭素の排出量に 関して、自社の工場などから排出される量 と自社の本社ビルなどから排出される量まで を把握している企業が五八%であるのに対 して、取引業者が排出している量までを把 握している企業となると十二%に落ち込み ます。
またこの調査からは、大多数を占め る企業が政府による環境規制を、企業活動 に対する「リスク」としてとらえていること もわかりました。
 ポテトチップスの製造業者である英国の ウォーカーズ・クリスプ社の取り組みは、サ プライヤーまでを取り込むことがどれだけ重 要かを示す好例です。
同社は「カーボーン・フッ トプリント」という考えを取り入れて、二酸 化炭素の総排出量の抑制に取り組みました。
 同社の製造するポテトチップスは一袋当た り七五グラムの二酸化炭素を排出していまし た。
その内訳で一番多いのは、農場の生産 者によるもので、四四%を占めていました (図5)。
この数字をもとにサプライチェーン を調べていったところ、サプライヤーとの取 引契約に問題のあることがわかりました。
 それまで同社は、生産者からジャガイモを 購入するときに、重量を基準として価格を 決めていました。
そのため生産者はジャガイ モの重量を増やそうと、過剰に水をやる傾 向がありました。
その結果、工場では製造 に取りかかる前に、ジャガイモから余分な水 分を抜き取るという処理をしていました。
 同社がとった解決策は、ジャガイモを買い 取る際の基準を重量から体積に変えることで した。
それによって農場の生産者と同社の 工場の両方から無駄な工程を省き、二酸化 炭素の排出を削減しようとしたのです。
 二酸化炭素の排出量を抑えようとする消 費者への啓蒙活動としては、デルとUPS との取り組みが代表的です。
デルとUPS にとって長年の懸案事項は、配達時に受取 人が不在で、何度も配達しなければならな いことでした。
そこでデルとUPSは、消 費者に配達の時間枠を従来よりも狭く設定 してもらうことで、最初の配達で荷物が届 けられる割合を増やそうとしています。
 こうした先進企業の取り組みに共通して いるのは、環境に対する配慮を前向きにと らえ、五年、一〇年先を見越して二酸化炭 素の削減に取り組んでいる点です。
そうし た取り組みを成功に導くには、一足飛びにグ リーン化を進めようとせずに、利益と両立さ せることに軸足を置くことが必要といえます。
環境問題への取り組みが一時的な流行廃り ではなく、今後の企業活動にさらに密接に かかわることを前提にして行動することが 求められているのです。
図5 英ウォーカーズ・クリスプ社の “ カーボンプリント” 農業生産者 製造 包装 輸送 包装の破棄 1ドル=90円で換算

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