2009年2月号
特集
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物流企業番付 寺田倉庫
FEBRUARY 2009 16
寺田倉庫
──ニッチを攻めてシェアを獲る
倉庫を含めた不動産賃貸、トランクルーム、重要文書
やフィルムを保管するデータストレージの三事業が主力。
2004年に子会社を設立して事業分割した物流事業も順調に 推移している。
付加価値の高いニッチなサービスにターゲッ トを絞り、各市場で高いシェアを握る戦略が長期にわたる 安定成長を可能にしている。
(聞き手・柴山高宏) 毎年二桁ペースで安定成長 ││過去三年間、売り上げが順調に伸びています。
3PL子会社のテラダロジコムも同様です。
「それ以前の二〇〇四年三月期から〇六年三月期 にかけて寺田倉庫の単独の売上高は横ばいで推移し ていますが、これは〇四年にテラダロジコムを設立し、 倉庫や運送など物流事業を移管したためで、グルー プ全体の売上高は従来からずっと毎年二桁台の成長 を続けているんです」 「また二〇〇〇年に子会社として設立し、サーバー の保管などインターネットデータセンターの運営を行 うビットアイルは〇六年七月にヘラクレスに上場しま した。
現在、寺田倉庫は二五・七%の株式を保有す る筆頭株主という立場ですが、こちらも成長を続け ています」 ││寺田倉庫の強みは何ですか? 「ニッチであること。
ここに尽きます。
我々には財 閥系倉庫会社のような資産も規模もありません。
同 じ土俵では勝負できない。
しかし、普通の倉庫会社 のように償却済みの資産の上がりだけで、小さくま とまるつもりもなかった。
そうなるとニッチなマー ケットで差別化していくしかありません」 「当社の沿革を振り返っても一九五〇年に倉庫業 としてスタートしてはいますが、最初から付加価値の 高い空調倉庫を運営していたんです。
そこでお米や 精密機器を扱っていた。
そして七五年にはトランク ルーム事業を開始して消費者向けサービスにも乗り 出した。
これが当社の社風を決定的にしたのだと思 います」 ││現在の事業別の売上高比率は? 「事務所やビル、倉庫を賃貸する不動産事業が半 分を占めます。
残りの二五%ずつが、重要書類や映 像フィルムなどを保管するデータストレージ事業と、 個人客を中心にレンタルスペースを提供するトランク ルーム事業です。
他にテラダロジコムで3PLを行っ ています(〇八年三月期の売上高は二九億二〇〇〇 万円)。
物流事業をテラダロジコムに移管する前は、 不動産事業が四〇%。
物流業、データストレージ、 トランクルームがそれぞれ二〇%ずつでした」 ││ここ数年の好業績の要因は、不動産市場が好調 だったことも寄与しているのでは? 「テナントが安定するという意味ではそうでしょう。
施設のスクラップ&ビルドも功を奏しました。
当社に とって不動産資産が大きなアドバンテージになってい ることは確かです。
このベースがあるので、トランク ルームやデータストレージ、ビットアイルのデータセ ンターといった新規事業に着手するときにも先行投 資のリスクが少なくて済んでいる」 ││不動産市場は当面、厳しい環境が続きそうです。
悪影響が出るのでは? 「賃料相場が短期間で極端に下がるとは思えませ ん。
ただし土地、建物の値段は下がってくる。
不況 によって物流施設をはじめ資産を現金化したいとい うニーズもたくさん出てくるはずです。
良い物件があ れば当社としては積極的に投資したい。
物流不動産 ファンドがここにきて急に失速した今、彼らに代わっ て手を挙げます。
逆風を追い風に変える自信は十分 にあります」 ││トランクルーム事業には他社も続々と参入してい ます。
価格競争が激化するなど、マーケットの環境 に変化はみられますか? 「トランクルームの供給は確かに増えていますが、 今のところ価格競争は周りが考えるほどではないんで 廣瀬秀 社長 注目企業トップが語る強さの秘訣総合5位 物流企業番付《平成21年版》 17 FEBRUARY 2009 す。
現状では価格よりも立地が重視されていて、た くさん作った者勝ちになっている。
サービスレベルを 比較してもらえないのは、当社にとっては悩ましいと ころなのですが」 ││今後のトランクルーム市場をどう見ますか? 「企業はセキュリティ対策に敏感にならざるを得な くなっています。
我々にとってはチャンスです。
デジ タル化に伴い書類が減るかと思いきや、それもむし ろ増えている。
しかも、家賃のべらぼうに高い場所 にほとんど使わない文書が山積みになっています。
もったいないですよね。
当社に預けてくれればセキュ リティ面でも万全だし、会社のスペースも有効活用 できる。
我々のサービスが認知されることで市場はま だまだ拡大するはずです」 ││3PLのテラダロジコムの業績まで伸びている理 由は? 「ワインの物流が強みです。
しかも扱っているのは、 高価で扱いの難しいワインです。
都心の一等地にあ るレストランやホテルに大量のワインを保管すれば大 変な家賃がかかってしまう。
それを当社のワインセ ラーでお預かりして、出荷指示があれば、ワイン一 本から即座にお店に納品する。
ワインの寺田倉庫と いうブランドが既に確立されています」 今後は全国展開の可能性も ││事業エリアは首都圏に限定しているのですか。
「これまでは東京のほかは横浜と埼玉だけでしたが、 昨年大阪の千里中央にデータストレージの施設を設 置しました。
現在、博多と名古屋では他社に委託し、 当社と同様の機能を整備してもらっていますが、デー タストレージ事業に関しては今後全国展開していく 可能性が十分にあります。
東京の本社と同様の管理 を地方でもしたいというニーズが出てきますから」 ││投資が必要になるとすれば上場も視野に入って くる? 「考えていません。
ビットアイルのような子会社は 今後も育てていきますが、寺田倉庫本体を上場させ るつもりはありません。
オーナー企業ならではの現在 の社風を大事にしたい。
上場すれば制約が増えます。
我々は一〇年、二〇年といった長いスパンを見据え て事業を考えています。
それを四半期決算で評価さ れてはかなわない」 ││廣瀬社長はオーナー一族ではなくスカウト社長 だとか。
「その通りです。
六八年に西友ストアー(現・西友) に入社して府中の自社物流センターの設立プロジェ クトに加わりました。
今振り返ると西友は一括物流 のパイオニア的存在でした。
実際、府中のセンター は七〇〇〇坪の敷地に自動仕分け機やベルトコンベ ア、自動倉庫といったマテハンを導入し、当時は東 洋一と呼ばれたものです。
それ以降十年以上、物流 部門を担当しました」 ││寺田倉庫にスカウトされたのも、その経験が評 価された? 「どうでしょうね。
小売りのセンターは倉庫という より流通センターで、倉庫業の仕事とは全く違いま す。
もっとも寺田倉庫自身も普通の倉庫業とは昔か ら違った。
倉庫業界では異端児といっていい。
二〇 〇〇年頃に当社の会長からお誘いをいただいて、まっ さらな状態で寺田倉庫という会社を見たときにも、 倉庫会社というより様々な新規事業に常にチャレン ジしている会社だという印象を受けました。
倉庫業 や物流業である以前に、当社はサービス業なんです。
それは現在も変わっていません」 廣瀬秀(ひろせ・ひでのり) 1968年3月、西友ストアー(現西友)入社、89年5月、同 取締役。
99年5月、ファミリーマートの取締役に就任。
2000年 9月、寺田倉庫に入社。
03年6月、社長に就任。
現在に至る。
トランクルーム皮切りに新規事業開発を継続 1950年に創業。
1975年、トランクルーム事業を開始。
現在 は倉庫の賃貸を含めた不動産事業、トランクルーム事業、フィ ルムや重要文書を保管するデータストレージ事業の3つが主力。
データストレージを含めたトランクルーム市場ではワンビシアー カイブズに次ぐ業界2位につける。
物流事業は2004年11月にテラダロジコムを設立して事業分 割。
昨年は民事再生法の手続きに入っていた日本海陸運輸か ら営業権譲渡を受け、ハーバー・マネジメントという社名で 生鮮品を主な対象とする国際物流にも本格的に乗り出した。
2000年に子会社として設立したITベンチャーのビットアイルは 06年7月にヘラクレスに上場している。
本誌解説 110 100 90 80 70 60 50 40 8 7 6 5 4 3 2 1 0 過去五年間の業績推移 単位:億円 08 年 4 100 売上高 (左軸) 当期利益 (右軸) 04 年 3 月期 05 年06 年07 年 3.5 2.9 3.2 7.3 76 74 75 85
2004年に子会社を設立して事業分割した物流事業も順調に 推移している。
付加価値の高いニッチなサービスにターゲッ トを絞り、各市場で高いシェアを握る戦略が長期にわたる 安定成長を可能にしている。
(聞き手・柴山高宏) 毎年二桁ペースで安定成長 ││過去三年間、売り上げが順調に伸びています。
3PL子会社のテラダロジコムも同様です。
「それ以前の二〇〇四年三月期から〇六年三月期 にかけて寺田倉庫の単独の売上高は横ばいで推移し ていますが、これは〇四年にテラダロジコムを設立し、 倉庫や運送など物流事業を移管したためで、グルー プ全体の売上高は従来からずっと毎年二桁台の成長 を続けているんです」 「また二〇〇〇年に子会社として設立し、サーバー の保管などインターネットデータセンターの運営を行 うビットアイルは〇六年七月にヘラクレスに上場しま した。
現在、寺田倉庫は二五・七%の株式を保有す る筆頭株主という立場ですが、こちらも成長を続け ています」 ││寺田倉庫の強みは何ですか? 「ニッチであること。
ここに尽きます。
我々には財 閥系倉庫会社のような資産も規模もありません。
同 じ土俵では勝負できない。
しかし、普通の倉庫会社 のように償却済みの資産の上がりだけで、小さくま とまるつもりもなかった。
そうなるとニッチなマー ケットで差別化していくしかありません」 「当社の沿革を振り返っても一九五〇年に倉庫業 としてスタートしてはいますが、最初から付加価値の 高い空調倉庫を運営していたんです。
そこでお米や 精密機器を扱っていた。
そして七五年にはトランク ルーム事業を開始して消費者向けサービスにも乗り 出した。
これが当社の社風を決定的にしたのだと思 います」 ││現在の事業別の売上高比率は? 「事務所やビル、倉庫を賃貸する不動産事業が半 分を占めます。
残りの二五%ずつが、重要書類や映 像フィルムなどを保管するデータストレージ事業と、 個人客を中心にレンタルスペースを提供するトランク ルーム事業です。
他にテラダロジコムで3PLを行っ ています(〇八年三月期の売上高は二九億二〇〇〇 万円)。
物流事業をテラダロジコムに移管する前は、 不動産事業が四〇%。
物流業、データストレージ、 トランクルームがそれぞれ二〇%ずつでした」 ││ここ数年の好業績の要因は、不動産市場が好調 だったことも寄与しているのでは? 「テナントが安定するという意味ではそうでしょう。
施設のスクラップ&ビルドも功を奏しました。
当社に とって不動産資産が大きなアドバンテージになってい ることは確かです。
このベースがあるので、トランク ルームやデータストレージ、ビットアイルのデータセ ンターといった新規事業に着手するときにも先行投 資のリスクが少なくて済んでいる」 ││不動産市場は当面、厳しい環境が続きそうです。
悪影響が出るのでは? 「賃料相場が短期間で極端に下がるとは思えませ ん。
ただし土地、建物の値段は下がってくる。
不況 によって物流施設をはじめ資産を現金化したいとい うニーズもたくさん出てくるはずです。
良い物件があ れば当社としては積極的に投資したい。
物流不動産 ファンドがここにきて急に失速した今、彼らに代わっ て手を挙げます。
逆風を追い風に変える自信は十分 にあります」 ││トランクルーム事業には他社も続々と参入してい ます。
価格競争が激化するなど、マーケットの環境 に変化はみられますか? 「トランクルームの供給は確かに増えていますが、 今のところ価格競争は周りが考えるほどではないんで 廣瀬秀 社長 注目企業トップが語る強さの秘訣総合5位 物流企業番付《平成21年版》 17 FEBRUARY 2009 す。
現状では価格よりも立地が重視されていて、た くさん作った者勝ちになっている。
サービスレベルを 比較してもらえないのは、当社にとっては悩ましいと ころなのですが」 ││今後のトランクルーム市場をどう見ますか? 「企業はセキュリティ対策に敏感にならざるを得な くなっています。
我々にとってはチャンスです。
デジ タル化に伴い書類が減るかと思いきや、それもむし ろ増えている。
しかも、家賃のべらぼうに高い場所 にほとんど使わない文書が山積みになっています。
もったいないですよね。
当社に預けてくれればセキュ リティ面でも万全だし、会社のスペースも有効活用 できる。
我々のサービスが認知されることで市場はま だまだ拡大するはずです」 ││3PLのテラダロジコムの業績まで伸びている理 由は? 「ワインの物流が強みです。
しかも扱っているのは、 高価で扱いの難しいワインです。
都心の一等地にあ るレストランやホテルに大量のワインを保管すれば大 変な家賃がかかってしまう。
それを当社のワインセ ラーでお預かりして、出荷指示があれば、ワイン一 本から即座にお店に納品する。
ワインの寺田倉庫と いうブランドが既に確立されています」 今後は全国展開の可能性も ││事業エリアは首都圏に限定しているのですか。
「これまでは東京のほかは横浜と埼玉だけでしたが、 昨年大阪の千里中央にデータストレージの施設を設 置しました。
現在、博多と名古屋では他社に委託し、 当社と同様の機能を整備してもらっていますが、デー タストレージ事業に関しては今後全国展開していく 可能性が十分にあります。
東京の本社と同様の管理 を地方でもしたいというニーズが出てきますから」 ││投資が必要になるとすれば上場も視野に入って くる? 「考えていません。
ビットアイルのような子会社は 今後も育てていきますが、寺田倉庫本体を上場させ るつもりはありません。
オーナー企業ならではの現在 の社風を大事にしたい。
上場すれば制約が増えます。
我々は一〇年、二〇年といった長いスパンを見据え て事業を考えています。
それを四半期決算で評価さ れてはかなわない」 ││廣瀬社長はオーナー一族ではなくスカウト社長 だとか。
「その通りです。
六八年に西友ストアー(現・西友) に入社して府中の自社物流センターの設立プロジェ クトに加わりました。
今振り返ると西友は一括物流 のパイオニア的存在でした。
実際、府中のセンター は七〇〇〇坪の敷地に自動仕分け機やベルトコンベ ア、自動倉庫といったマテハンを導入し、当時は東 洋一と呼ばれたものです。
それ以降十年以上、物流 部門を担当しました」 ││寺田倉庫にスカウトされたのも、その経験が評 価された? 「どうでしょうね。
小売りのセンターは倉庫という より流通センターで、倉庫業の仕事とは全く違いま す。
もっとも寺田倉庫自身も普通の倉庫業とは昔か ら違った。
倉庫業界では異端児といっていい。
二〇 〇〇年頃に当社の会長からお誘いをいただいて、まっ さらな状態で寺田倉庫という会社を見たときにも、 倉庫会社というより様々な新規事業に常にチャレン ジしている会社だという印象を受けました。
倉庫業 や物流業である以前に、当社はサービス業なんです。
それは現在も変わっていません」 廣瀬秀(ひろせ・ひでのり) 1968年3月、西友ストアー(現西友)入社、89年5月、同 取締役。
99年5月、ファミリーマートの取締役に就任。
2000年 9月、寺田倉庫に入社。
03年6月、社長に就任。
現在に至る。
トランクルーム皮切りに新規事業開発を継続 1950年に創業。
1975年、トランクルーム事業を開始。
現在 は倉庫の賃貸を含めた不動産事業、トランクルーム事業、フィ ルムや重要文書を保管するデータストレージ事業の3つが主力。
データストレージを含めたトランクルーム市場ではワンビシアー カイブズに次ぐ業界2位につける。
物流事業は2004年11月にテラダロジコムを設立して事業分 割。
昨年は民事再生法の手続きに入っていた日本海陸運輸か ら営業権譲渡を受け、ハーバー・マネジメントという社名で 生鮮品を主な対象とする国際物流にも本格的に乗り出した。
2000年に子会社として設立したITベンチャーのビットアイルは 06年7月にヘラクレスに上場している。
本誌解説 110 100 90 80 70 60 50 40 8 7 6 5 4 3 2 1 0 過去五年間の業績推移 単位:億円 08 年 4 100 売上高 (左軸) 当期利益 (右軸) 04 年 3 月期 05 年06 年07 年 3.5 2.9 3.2 7.3 76 74 75 85
