2009年3月号
海外Report

コーポラティブ物流子会社を設立し外食チェーンのSCM機能を移管

MARCH 2009  60 「小魚が鯨を飲み込む」買収劇  レストランチェーンの「IHOP(アイホッ プ)」は二〇〇七年に、同業の「Applebee's ( アップルビーズ)」を買収して、持ち株 会社のダインエクィティを設立しました。
アップルビーズの買収総額は約二一億ドル (一八九〇億円)で、外食産業としては大規 模な買収でした。
店舗数でいえば、IHO Pが一三〇〇店強に対して、アップルビーズ が二〇〇〇店舗弱であったために、「小魚が 鯨を飲み込む買収」と書いた新聞もありま した。
 IHOPという店名は「インターナショナ ル・ハウス・オブ・パンケーキ」の頭文字をとっ たもので、その名前からわかるように、パンケー キをメニューの中心に据えた朝食型のレスト ランです。
一方のアップルビーズは肉料理を メインにアルコール飲料も提供するフルサービ スのレストランチェーンです。
 米国の外食産業は〇六年ごろからその成 長に陰りが見えてきました。
サブプライム 問題が顕在化する以前でしたが、既に住宅 市場は軟化をはじめており、食糧や燃料の 値段もじわじわと上がりはじめたことから、 外食産業への客足が伸び悩みました。
アップ ルビーズの既存店の売り上げも前年実績割れ を続けていました。
反対にIHOPの売り 上げは上昇を続けました。
その勢いの違いが、 〇七年の買収へとつながったのです。
 IHOPとアップルビーズの経営上の最大 の違いは、店舗に占めるフランチャイジーの 比率です。
IHOPのフランチャイジー比率 が九九% なのに対して、アップルビーズは 七五%です。
直営店の数はIHOPの十一 店舗に対して、アップルビーズは五〇〇店舗 を超えます。
これを早急に二〇〇店舗まで 減らし、最終的には全体の一%ほどの直営 サテライト店だけを残す方向で再編を進めて います。
 IHOPも以前は多くの直営店を抱えて いましたが、〇一年に現在のCEOが就任 して以来、直営店をフランチャイジーに転換 することで、チェーン本部の本来の役割であ る新規メニューの開発や店舗でのプロモーショ ン、あるいはテレビCMを打つといった仕事 に特化しました。
それが、同業他社の苦戦 する中でも既存店の売り上げを伸ばすことに 欧米SCM会議?  米国の外食チェーン業界で、非営利の物流子会社を設立し、調達購買から店 舗納品までのSCM機能を移管する動きが活発化している。
レストランチェーン の「IHOP」と「アップルビーズ」約三〇〇〇店を全米に展開するダインエク ィティもその一つだ。
同社でSCMを統括するデビッド・ペーズリー上級副社長 がその物流戦略を解説する。
           (取材・編集 横田増生) コーポラティブ物流子会社を設立し 外食チェーンのSCM機能を移管 米ダインエクィティ 会社略歴 会社名 ダインエクィティー(DineEquity) 創 業 1958 年 本 社 カリフォルニア州グレナダ 会長兼CEO ジュリア・A・スチュワート 主 業 卸売業/外食産業経営 売上高 4 億8460 万ドル(436 億1400 万円) レストラン数 3320 店(うち直営店は522 店) 従業員数 3 万2300 人(うちフルタイムは860 人) 2007年の年次報告書より 61  MARCH 2009 つながったわけです。
 同時に財務諸表の面から見ると、直営店 からフランチャイジーへの転換には、土地や 建物の建設に関するリスクを減らし、キャッ シュフローを増やすという効果があります。
仮にアップルビーズの直営店の店舗をセール ス&リースバック( 自社の資産を売却した 後で同じ物件を借り受けること) すれば、 一〇億ドル(九〇〇億円)近い経費削減が 期待できます。
ダインエクィティはアップル ビーズを買収して以降、アップルビーズの直 営店の多くをフランチャイジーに売却しまし た。
なお〇七年決算が赤字となったのは、 直営店の売却の過程で土地の価格が下がり はじめたことで評価損を出したからです。
食の安全が最優先  フランチャイジーが増えるということは、 食材の納入を待つ?お客さん?が増えるわ けですから、本社の持つSCM機能が今ま で以上に重要になることを意味します。
 私自身は食品関連をはじめとするサプラ イチェーン畑を二〇年以上歩んできました。
二〇〇〇年にアップルビーズに移ってくるま では、別の外食チェーンでSCMに関わって いました。
〇七年にダインエクィティとなっ てから、私はアップルビーズとIHOP両社 のサプライチェーンを担当する上級副社長と して、マネジメント・チーム(日本でいう取 締役会に相当)の一員となりました。
 買収された側であるアップルビーズからS CM担当者を選んだのには、二つの理由が ありました。
一つはSCMにおいてはIH OPよりもアップルビーズの方が進んでいた からです。
そしてもう一つの理由は、後ほ どお話しすることになる物流子会社の設立 に絡んでいます。
 私が二〇〇〇年にアップルビーズのSCM を担当するようになったとき、同社の業務 は現場作業の積み重ねの上に成り立っており、 全体をマネジメントするという視点が不足し ていました。
場当たり的で、作業ごとに管 理が行われていました。
それにも関わらず 多くのスタッフはゼネラリストでした。
さら にはサプライヤーも絞れていませんでした。
仕入れ価格にはいろいろな付帯条件がつい ていて価格の妥当性を判断できませんでした。
 それを数年かけて、戦略的なSCMを実 行できる体制に変えていきました。
業務ご との効率よりも、全体のプロセスを優先させ るようにしました。
加えて、スタッフにはで きるだけスペシャリストを揃えました。
商品 ごとにサプライヤーも絞り込み、価格を透明 化しました。
 SCMを変革するに当たって、我々が最 重視したのは、いかにして優秀な人材を確 保するかということでした。
SCM分野で のキャリアの長さは重要な要素ではありませ んでした。
それよりも、どれだけ熱心にS CMを学ぼうとしているか、SCMを変え ていく時にどれほどの実務能力を発揮でき るか、役員に説得する必要がある場合にプレ ゼンテーション能力をどれだけ発揮できるか ──といった項目を重視しました。
 優秀な人材を集めると同時に、彼らが自 由闊達に意見を述べることができる雰囲気 作りにも努めました。
一人ひとりの意見を 尊重して、それをできるだけ全体のプロセス に反映させるようにしました。
意見を採用 できない場合にも、その理由を明確にしま した。
そうして良いチームを作ることで業務 移管をスムーズに行うことができたのです。
 IHOPのSCMの現状は、二〇〇〇年 時点のアップルビーズの状態に似ています。
それをアップルビーズがたどった道筋にならっ 2003 年2004 年2005 年2006 年2007 年 図1 業績と店舗数の推移 (百万ドル) (店舗数) 1,165 1,585 1,186 1,671 1,242 1,804 1,302 1,930 1,344 1,976 店舗数:  アップルビーズ 404.8 36.8 33.4 43.9 44.6 -0.5 359.0 348.0 349.6 484.6 600 500 400 300 200 100 0 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 売上高(左軸) 純利益(左軸) IHOP MARCH 2009  62 て、全体最適へと移行させることが私に課 せられた任務の一つです。
仕入れコストを一億ドル削減  図2は当社のSCMの流れを表しています。
農場( farm)から顧客がレストランで使う フォーク( fork)まで、どのような過程を経 て食材などのモノが動き、どのような配慮を 必要とするのかを表しています。
これはオハ イオ州立大学のダグラス・ランバート教授ら が作った図表を、当社の業務に合わせて修 正したものです。
 役員会やフランチャイジー、サプライヤー などにSCM業務について説明するときは 常にこの図を使います。
全体像を知ること なしには、どこにコスト削減のチャンスがあ るのか、どの作業や工程を優先させなけれ ばならないのかがわからないからです。
 IHOPとアップルビーズでは、フランチャ イジーの規模も違っています。
IHOPの フランチャイジーは三八〇人で、オーナー一 人当たり平均で三店舗強を所有しています。
それに対してアップルビーズは四五人で一人 平均三〇店舗強を所有しています。
このこ ともSCMに影響を及ぼしています。
 IHOPは現在、全米三六カ所の物流セ ンターから一四〇〇カ所弱のレストランに食 材や資材を納入しています。
一方、アップル ビーズの物流センターは一九カ所で店舗数は 一九〇〇です。
二つのモノの流れがあるため にダインエクィティ全体として見ると大きな ムダが発生しています。
 ダインエクィティのSCM業務には最重要 課題が三つあります。
一つは食の安全の確保、 二つ目は継続的な食材の供給、三つ目がコス ト管理です。
三つが同等に重要であるので はなく、一番から三番の順番で大切になり ます。
たとえ低コストでも、また食材を継続 的に供給できたとしても、食の安全が確保 できないようではダメなのです。
 私の率いるサプライチェーン部門は、「調 達チーム」、「ロジスティクス・チーム」、「S CMチーム」──の三つのチームに分かれて います(図3)。
それぞれのチームが具体的 な業務を抱え、目指すべき方向を与えられ ています。
三つのチームが補完し合うことで、 食の安全確保を実現するという考え方です。
 ダインエクィティは、アップルビーズの買 収によって調達面で有利な立場を得ることが できました。
IHOPとアップルビーズの納 入業者のうち七七%までが重複していたの です。
ただし、それは必ずしも同じSKU(在 庫保管単位)ではなく、同じ製品でもなく、 同じ工場のラインで生産されている製品でも ありませんでした。
 それでも、買収によってサプライヤー各社 との取引額がそれまでの倍前後に増えるこ とから、全体の納入額で年間一億ドル(九〇億 円)前後の価格引き下げを手にすることが できると試算しました。
この数字は、フラン チャイジーにとっては大きな魅力となり、特 にアップルビーズのフランチャイジーが買収に 合意するのを後押ししました。
 こうしたコスト削減は輸送費についても同 様の効果が期待できます。
買収によって輸 送にかかっていた手数料を一件当たり一セン ト(〇・九円)減らすだけで、年間で、一店 舗当たり一八五ドル削減できます。
また輸送 費自体が一ポンド(四五三グラム)当たり一 ペニー下がると四八一〇ドルの削減になりま す。
合わせて一店舗当たり年間で五〇〇〇 食品加工 業者 フランR&D チャイズIT サービス マーケ ティング 財務 ロジス ティクス データ 分析 調達 定温 倉庫配送店舗 図2 同社のSCM の概念図 商品とサービスの流れ 食品の安全と品質の確保 顧客満足度を高める 在庫管理 ベンダー管理 コスト管理 商品開発/仕入れ/実行 危機管理 農場 顧客 63  MARCH 2009 ドル(四五万円)のコスト削減が可能になる のです。
これは利幅の薄い外食産業におい ては大きな意味を持ちます。
 こうしたコスト削減を実現するため〇八年 から〇九年にかけて、ダインエクィティはS CMの移行期を迎えました。
ダインエクィティ とそのフランチャイジーはこの間に、物流子 会社を設立して、納入から配送までのSC M機能をそこに移管することで合意しました。
 SCM機能を社外に切り離すことの必要 性を、私が最初に社内で主張しはじめたの はアップルビーズ時代の〇一年のことでした。
しかし当時は「時期尚早」ということで実 現しませんでした。
IHOPもまた、アッ プルビーズを買収する以前から物流子会社化 の可能性を探っていました。
子会社設立は新潮流  先に述べた通り、買収された側のアップル ビーズのSCM担当者であった私が、買収後 に全社のSCMを担当するようになった二つ 目の理由というのは、物流子会社化に関し て経営陣と考え方が一致していたからなの です。
 そして物流子会社は、「コーポラティブ」 と呼ばれる非営利の協同組織という形態を 採ることにしました。
協同組織には次の四 つの特徴があります。
一つは組織の所有権 をフランチャイジーが握る点です。
二つ目は、 そのフランチャイジーによってつくられた役 員会が組織の運営を管理することです。
三 つ目として、役員会が組織の社長兼CEO を決定します。
最後の四つ目は協同組織が、 調達から配送までのSCM業務を、責任をもっ て請け負うことです。
 協同組織は〇九年一月に発足することに なっており、このまま順調にいけば私がその 職に就くことになります(編集部注・本講 演は〇八年十一月に行われた)。
新会社の名 前は、「セントラライズド・サプライチェーン・ サービシーズ( Centralized Supply Chain Services)」です。
 米国の外食産業において、SCM機能を 協同組織に切り離すことは、一つのトレンド となっています。
サブウェイによる「IPC ( Independent Purchasing Cooperative)」 や、ケンタッキーフライドチキンとピザハッ ト、タコベルなどによる「UFPC(United Foodservice Purchasing Co-op)」があり、 ほかにバーガーキングも協同組織を作ってい ます。
 その組織名からもわかるように、いずれ の協同組織も配送だけではなく、購入まで を守備範囲としている点で共通しています。
多くのSCM機能を束ねることなしには効 率を上げることができないという考え方があ るからです。
 協同組織というビジネスモデルが外食産 業で通用することは既に証明されています。
後は、物流センターの統廃合や配送ルートの 見直し、納入業者との契約の変更などを通 して、先に挙げたコスト削減の目標を一つず つクリアしてくことが今後の私が率いる新組 織の課題となります。
1ドル=90円で換算 (編集部注)本講演は、〇八年十一月にアメリカの フロリダ州で行われた”Supply Chain & Logistics 2008 in North America”にて行われた。
会議の運 営会社であるワールドトレードの許可を得て本誌が 講演を抄訳した。
図3 ダインエクィティ のSCM 部門 調達チーム ロジスティクス・チーム SCMチーム 品質確保チーム 具体的な業務内容戦略的な意味 商品管理 食材、アルコール飲料の調達 ノンアルコール飲料の調達 配送業務の管理 トラック業者の管理 在庫管理 システム管理 契約における法律順守 販促キャンペーンの支援 レストランにおける品質確保 商品の品質確保 テクニカルサポート業務 コストを透明にするコスト管理 スケールメリットの追求 リスク管理 地域ごとの最適化 SCM の専門家の養成 継続的な食材供給 可視性の維持 データへのアクセス システムとプロセスの最適化 食材の安全 法律順守の細目作り 代理となるサプライヤー探し 商品の最適化

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