2009年3月号
現場改善
現場改善
強い現場をさらに強くする 電機メーカー物流子会社E社
73 MARCH 2009
事例で学ぶ
現場改善
日本ロジファクトリー
青木正一 代表
第74 回
優良物流子会社が現場力の向上を目指してプロジェクト
を開始した。
既に高いレベルにあるオペレーションを、さら に改善しようという試みだ。
物流コンサルタントとしても腕 の見せどころとなる。
気を引き締めてかかった。
強い現場をさらに強くする 電機メーカー物流子会社E社 現場コンサルタントの腕試し E社は電機メーカーを親会社とする年商約 一五〇億円の物流子会社である。
親会社の国 内五カ所の工場で、部品庫の管理から生産ラ インへの部品投入に至る生産物流を始め、梱 包、保管、輸配送などの業務を処理している。
総売上高のうち親会社以外の荷主が占める比 率、いわゆる外販比率は約四〇%に達してお り、メーカー、卸、小売業、ネット通販など 幅広い業種・業態をカバーしている。
荷主向けの営業および受注後の顧客窓口と 倉庫施設は自社で対応し、現場作業は荷役 子会社に、輸配送業務は外部の協力会社に、 それぞれ委託している。
単なる受け払いだけ を行う物流子会社や、親会社の仕事に売り上 げの大半を依存する多くの物流子会社とは一 線を画し、自立性の高い経営を維持している。
E社は以前に当社日本ロジファクトリー(N LF)が主催する「物流実務カレッジ(LP C)」に参加するかたちで、現場リーダーを 対象とした研修を行っている。
その後、経営 者が交代し、改めて?現場力の向上?が経営 目標として掲げられたことから、LPCで研 修したスキルを、実務を通して身につける段 階に進むことになった。
そのサポートが我々 NLFの役どころである。
国内五工場のうち、まずは主力工場の関東 工場を対象として改善活動に取り組むことに なった。
そこで成果を挙げた施策を、他の工 場に横展開するというアプローチである。
そ の指揮を執る改善担当責任者として二人の中 堅社員が任命された。
彼らを改善のスペシャ リストに育て上げることも今回の取り組みの 狙いの一つであった。
筆者が関東工場を訪問したのはLPCの研 修以来、二度目のことだった。
E社の現場運 営は元々高いレベルにあったが、改めて見学 した現場は初回訪問の時からさらに進化して いた。
多能班化やパート・アルバイトへの表 彰制度、ピッキングミス防止のためのカラー コントロールなどが新たに導入されていた。
LPCで研修した内容がよく活かされていて、 改善の工夫とトライ&エラーの痕跡を随所に 確認することができた。
LPCの研修においても、関東工場から出 席した現場スタッフは、その受講態度や意識 の高さが際立っていた。
しかも若いメンバー MARCH 2009 74 が中心であった。
研修における彼らの評価、 イメージと現場の印象が一致していたことに 改めて感心させられた。
今回のプロジェクトを開始するに当たっ て、我々NLFはE社の新社長から次のよう な言葉を与えられていた。
「関東工場をはじ め、現場はよくやってくれていると思う。
そ れでも、物流企業としてさらに現場力を強化 し、コスト削減を図っていかなければならな い。
そこで外部の目で当社を見てもらい、自 分たちでは気付いていないことを、できる限 り提案して欲しい」とのことであった。
我々にとっては一般的なミッションであっ た。
しかし、E社、特に関東工場の現場オペ レーションは我々から見ても既にかなりのレ ベルに達している。
それに対して、果たして どれだけの改善テーマを列挙することができ るだろうか。
E社のように改善の進んだ現場 では、調査、分析、ヒアリングなどの回数を 増やしても、新たな改善課題はほとんど出て こない。
仮説をどれだけ持つことができるの か。
改善の抽出の数がポイントとなる。
コン サルタントとしての我々の力が試されている と気の引き締まる思いであった。
我々は現場を目にしながらも、そこに顕在 化されていない事象にまで意識を向けるよう に努めた。
それはまさに現場の?行間を読む? ような作業だった。
その結果、大小合わせて 七三項目にわたる改善テーマを何とか抽出す ることができた。
ストレッチフィルムのラッ プ作業の平準化、ダンボール購入先のコンペ の実施、関東工場における製・販・物部署に よる在庫削減会議の開催といった具合である。
イケメン荷役軍団の奮闘 次のステップでは改善テーマに優先順位を 付けた。
一般に中堅企業や中小零細企業に おける物流改善と大企業のそれでは展開も変 わってくる。
中堅以下の企業では、トップや それに準ずる経営幹部がプロジェクトに直接 参加することになる。
そのため時には改善か ら改革へと取り組み範囲が広がって、経営全 体の組織改革や事業構造改革にまでつながる ことも珍しくない。
しかし、大企業ともなると、他部署との 調整が必要となる施策や、組織・人事に関わ る施策、あるいは投資の伴うシステム化など の施策は、当初の計画に盛り込まれていない 限り、その必要性が取り組みを通して明確に なったとしても、着手するのは現実的には困 難である。
大企業の取り組みでは、予めプロ ジェクトチームに与えられた権限と与えられ た予算と期間の中で成果を上げる必要がある。
E 社の取り組みではまず、改善テーマを 「?改善スピードが速く、コスト削減効果の高 いもの」、「?改善スピードが速いが、コスト 削減効果の低いもの」、「?改善スピードは遅 いが、コスト削減効果の高いもの」。
「?改善 スピードが遅く、コスト削減効果の低いもの (改善対象外)」の四つに分類した。
そして「スピード(達成にどれだけの時間 が必要か)」と、期待できる「成果」を基準 として、テーマに優先順位を付けた。
この際、 実現に他部署や得意先の協力が必要な実施項 目は別途協力を仰ぐ準備を行う、また大きな 成果が期待できるとしても達成に著しく時間 のかかるものは改善項目からいったん除外し て達成できるテーマに力を集中するという方 針を立て、七三項目を二二項目に絞り込んだ。
こうして設定された改善課題を前にして、 関東工場の荷役会社に所属する若いスタッフ たちは、「今までこんなところまで見ていな かった」という、新たな発見に対する驚きに 加え、「なぜ気付かなかったのか」という悔 しさも感じたようだ。
それが、その後の改善 活動のバネになった。
「パレットの買い替え数量の抑制」を担当 したF氏。
若干二五歳で口ヒゲと耳にピアス を装備している。
そんな彼が他の四工場に対 して、FAXと電話を使って先方の責任者を 半ば脅すかのごとく追いつめた。
「関東工場」 物流改善の優先順位 改善スピードが速いが コスト削減効果の低いもの (優先順位?) 改善スピードが遅く コスト削減効果の低いもの (改善対象除外) 改善スピードが速く コスト削減効果の高いもの (優先順位?) 改善スピードは遅いが コスト削減効果の高いもの (優先順位?) スピード 効 果 と印字されたパレットを返却するように依頼 しているのだ。
妥協を許さない追跡であった。
若手メンバーの中心核であるT氏。
「作業 動線の短縮」を担当した。
E社の倉庫は工場 棟の遊休スペースを利用したもので、保管ス ペースの通路が長かった。
そこに並列して部 品棚が並んでいる。
T氏は、保管スペースの 中間点に横断通路を設けるというアイデアを 思いついた。
ただし、コストはかけられない。
そこでT氏は、ヒトとリフトが通れるように、 自分でボルト付けの設置棚をぶち抜いたので あった。
「ピッキングミスの撲滅」を担当したM氏は、 若手メンバーのサブリーダー的存在だ。
イケ メンの物流マンであるM氏は仕事もイケてい る。
それまでピッキングミスの発生が多い部 品棚には、赤色の段ボール板を他部品との間 に差し込んで、混ざらないようにするという 工夫をしていた。
カラーコントロールである。
ところが在庫が少なくなると、段ボールの間 仕切りが倒れてしまう。
そこでM氏は段ボー ルに代えて、ホームセンターなどに売ってい る黄色のチェーンを棚に五センチ間隔で取り 付けるという改善を実行した。
もちろん、すべてが順調に進んだわけで はない。
LPC終了後、パート・アルバイト の表彰制度を導入したのは良かったが、受賞 者が毎回同じ人物になっていた。
それでは職 場全体のモラル向上に寄与しない。
担当のM 氏は悩んでいた。
しかし、せっかく導入した 仕組みを途中でやめてしまえば逆効果になる。
たとえ同一人物であっても表彰制度は継続し たほうがいい。
その代わり、報奨金の総額は 従来通りのまま、新たに表彰項目を増やすこ とで軌道修正するようアドバイスした。
昼食後の昼礼の実施も、当初の趣旨から離 れていた。
昼礼は、午前中の作業の進捗を 見て、午後からの仕事量と人員数、配置を調 整し、ムダな労働時間(=人件費)を出さな いことが狙いであった。
しかし担当のO氏は、 明日の業務(量)予定の報告に重点を置いて いた。
間違いではないが、それでは本来の目 的が果たせない。
横展開は一日にして成らず それでも、一度決めたことは徹底してや るところに、E社の強みが見てとれた。
現場 を担うメンバーたちの若さが、それを後押し していた。
彼らは「何%コストが下がるか」 「いくらの金額が削減できるか」ということ よりも、改善のスピードとその手応えに魅力 を感じていた。
それが自信という大きな財産 につながっていった。
コスト面での改善成果は彼らの上司が責任 を負えばいい。
もともと「他部署との連携」 や「共同配送の検討」といったテーマは現場 レベルでは対応できない。
対象範囲が予め決 められている大企業型の改善活動には、その 点で限界がある。
これを払拭するには大企業 であっても、やはりトップダウン型の改善を 実施するしかないだろう。
当面は次のステップである横展開が課題で ある。
我々NLFでは「物流現場はショー ルーム」という考え方を奨励している。
E社 の関東工場は、まさにそれを地で行く現場だ が、他の四工場も同じレベルにあるというわ けではない。
本社と地理的にも隔たりがあり、 また人材の厚みにも劣る他工場に、関東工場 の改善力をどう移植していくか。
関東工場でノウハウを蓄積した専任の改善 スタッフを一定期間現地に派遣するというだ けでは、表面をなぞるだけで、その現場自 身の改善力を引き上げることにはならないだ ろう。
関東工場の若手メンバーを他工場に異 動させるという案も、荷役子会社は「転勤 なし」の条件で入社しており、実現は困難で あった。
一過性の指導には限界がある。
スキルを移 植する?深さ?は、やはり寝食を共にした数 に比例する。
ノウハウは人にあり、チームワー クによってそれが波及していく。
E社に限ら ず多く物流会社が現場力向上に力を入れよう とするが、一朝一夕にそれが実現するもので はないことは肝に銘じておくべきだろう。
75 MARCH 2009 あおき・しょういち 1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89 年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp
既に高いレベルにあるオペレーションを、さら に改善しようという試みだ。
物流コンサルタントとしても腕 の見せどころとなる。
気を引き締めてかかった。
強い現場をさらに強くする 電機メーカー物流子会社E社 現場コンサルタントの腕試し E社は電機メーカーを親会社とする年商約 一五〇億円の物流子会社である。
親会社の国 内五カ所の工場で、部品庫の管理から生産ラ インへの部品投入に至る生産物流を始め、梱 包、保管、輸配送などの業務を処理している。
総売上高のうち親会社以外の荷主が占める比 率、いわゆる外販比率は約四〇%に達してお り、メーカー、卸、小売業、ネット通販など 幅広い業種・業態をカバーしている。
荷主向けの営業および受注後の顧客窓口と 倉庫施設は自社で対応し、現場作業は荷役 子会社に、輸配送業務は外部の協力会社に、 それぞれ委託している。
単なる受け払いだけ を行う物流子会社や、親会社の仕事に売り上 げの大半を依存する多くの物流子会社とは一 線を画し、自立性の高い経営を維持している。
E社は以前に当社日本ロジファクトリー(N LF)が主催する「物流実務カレッジ(LP C)」に参加するかたちで、現場リーダーを 対象とした研修を行っている。
その後、経営 者が交代し、改めて?現場力の向上?が経営 目標として掲げられたことから、LPCで研 修したスキルを、実務を通して身につける段 階に進むことになった。
そのサポートが我々 NLFの役どころである。
国内五工場のうち、まずは主力工場の関東 工場を対象として改善活動に取り組むことに なった。
そこで成果を挙げた施策を、他の工 場に横展開するというアプローチである。
そ の指揮を執る改善担当責任者として二人の中 堅社員が任命された。
彼らを改善のスペシャ リストに育て上げることも今回の取り組みの 狙いの一つであった。
筆者が関東工場を訪問したのはLPCの研 修以来、二度目のことだった。
E社の現場運 営は元々高いレベルにあったが、改めて見学 した現場は初回訪問の時からさらに進化して いた。
多能班化やパート・アルバイトへの表 彰制度、ピッキングミス防止のためのカラー コントロールなどが新たに導入されていた。
LPCで研修した内容がよく活かされていて、 改善の工夫とトライ&エラーの痕跡を随所に 確認することができた。
LPCの研修においても、関東工場から出 席した現場スタッフは、その受講態度や意識 の高さが際立っていた。
しかも若いメンバー MARCH 2009 74 が中心であった。
研修における彼らの評価、 イメージと現場の印象が一致していたことに 改めて感心させられた。
今回のプロジェクトを開始するに当たっ て、我々NLFはE社の新社長から次のよう な言葉を与えられていた。
「関東工場をはじ め、現場はよくやってくれていると思う。
そ れでも、物流企業としてさらに現場力を強化 し、コスト削減を図っていかなければならな い。
そこで外部の目で当社を見てもらい、自 分たちでは気付いていないことを、できる限 り提案して欲しい」とのことであった。
我々にとっては一般的なミッションであっ た。
しかし、E社、特に関東工場の現場オペ レーションは我々から見ても既にかなりのレ ベルに達している。
それに対して、果たして どれだけの改善テーマを列挙することができ るだろうか。
E社のように改善の進んだ現場 では、調査、分析、ヒアリングなどの回数を 増やしても、新たな改善課題はほとんど出て こない。
仮説をどれだけ持つことができるの か。
改善の抽出の数がポイントとなる。
コン サルタントとしての我々の力が試されている と気の引き締まる思いであった。
我々は現場を目にしながらも、そこに顕在 化されていない事象にまで意識を向けるよう に努めた。
それはまさに現場の?行間を読む? ような作業だった。
その結果、大小合わせて 七三項目にわたる改善テーマを何とか抽出す ることができた。
ストレッチフィルムのラッ プ作業の平準化、ダンボール購入先のコンペ の実施、関東工場における製・販・物部署に よる在庫削減会議の開催といった具合である。
イケメン荷役軍団の奮闘 次のステップでは改善テーマに優先順位を 付けた。
一般に中堅企業や中小零細企業に おける物流改善と大企業のそれでは展開も変 わってくる。
中堅以下の企業では、トップや それに準ずる経営幹部がプロジェクトに直接 参加することになる。
そのため時には改善か ら改革へと取り組み範囲が広がって、経営全 体の組織改革や事業構造改革にまでつながる ことも珍しくない。
しかし、大企業ともなると、他部署との 調整が必要となる施策や、組織・人事に関わ る施策、あるいは投資の伴うシステム化など の施策は、当初の計画に盛り込まれていない 限り、その必要性が取り組みを通して明確に なったとしても、着手するのは現実的には困 難である。
大企業の取り組みでは、予めプロ ジェクトチームに与えられた権限と与えられ た予算と期間の中で成果を上げる必要がある。
E 社の取り組みではまず、改善テーマを 「?改善スピードが速く、コスト削減効果の高 いもの」、「?改善スピードが速いが、コスト 削減効果の低いもの」、「?改善スピードは遅 いが、コスト削減効果の高いもの」。
「?改善 スピードが遅く、コスト削減効果の低いもの (改善対象外)」の四つに分類した。
そして「スピード(達成にどれだけの時間 が必要か)」と、期待できる「成果」を基準 として、テーマに優先順位を付けた。
この際、 実現に他部署や得意先の協力が必要な実施項 目は別途協力を仰ぐ準備を行う、また大きな 成果が期待できるとしても達成に著しく時間 のかかるものは改善項目からいったん除外し て達成できるテーマに力を集中するという方 針を立て、七三項目を二二項目に絞り込んだ。
こうして設定された改善課題を前にして、 関東工場の荷役会社に所属する若いスタッフ たちは、「今までこんなところまで見ていな かった」という、新たな発見に対する驚きに 加え、「なぜ気付かなかったのか」という悔 しさも感じたようだ。
それが、その後の改善 活動のバネになった。
「パレットの買い替え数量の抑制」を担当 したF氏。
若干二五歳で口ヒゲと耳にピアス を装備している。
そんな彼が他の四工場に対 して、FAXと電話を使って先方の責任者を 半ば脅すかのごとく追いつめた。
「関東工場」 物流改善の優先順位 改善スピードが速いが コスト削減効果の低いもの (優先順位?) 改善スピードが遅く コスト削減効果の低いもの (改善対象除外) 改善スピードが速く コスト削減効果の高いもの (優先順位?) 改善スピードは遅いが コスト削減効果の高いもの (優先順位?) スピード 効 果 と印字されたパレットを返却するように依頼 しているのだ。
妥協を許さない追跡であった。
若手メンバーの中心核であるT氏。
「作業 動線の短縮」を担当した。
E社の倉庫は工場 棟の遊休スペースを利用したもので、保管ス ペースの通路が長かった。
そこに並列して部 品棚が並んでいる。
T氏は、保管スペースの 中間点に横断通路を設けるというアイデアを 思いついた。
ただし、コストはかけられない。
そこでT氏は、ヒトとリフトが通れるように、 自分でボルト付けの設置棚をぶち抜いたので あった。
「ピッキングミスの撲滅」を担当したM氏は、 若手メンバーのサブリーダー的存在だ。
イケ メンの物流マンであるM氏は仕事もイケてい る。
それまでピッキングミスの発生が多い部 品棚には、赤色の段ボール板を他部品との間 に差し込んで、混ざらないようにするという 工夫をしていた。
カラーコントロールである。
ところが在庫が少なくなると、段ボールの間 仕切りが倒れてしまう。
そこでM氏は段ボー ルに代えて、ホームセンターなどに売ってい る黄色のチェーンを棚に五センチ間隔で取り 付けるという改善を実行した。
もちろん、すべてが順調に進んだわけで はない。
LPC終了後、パート・アルバイト の表彰制度を導入したのは良かったが、受賞 者が毎回同じ人物になっていた。
それでは職 場全体のモラル向上に寄与しない。
担当のM 氏は悩んでいた。
しかし、せっかく導入した 仕組みを途中でやめてしまえば逆効果になる。
たとえ同一人物であっても表彰制度は継続し たほうがいい。
その代わり、報奨金の総額は 従来通りのまま、新たに表彰項目を増やすこ とで軌道修正するようアドバイスした。
昼食後の昼礼の実施も、当初の趣旨から離 れていた。
昼礼は、午前中の作業の進捗を 見て、午後からの仕事量と人員数、配置を調 整し、ムダな労働時間(=人件費)を出さな いことが狙いであった。
しかし担当のO氏は、 明日の業務(量)予定の報告に重点を置いて いた。
間違いではないが、それでは本来の目 的が果たせない。
横展開は一日にして成らず それでも、一度決めたことは徹底してや るところに、E社の強みが見てとれた。
現場 を担うメンバーたちの若さが、それを後押し していた。
彼らは「何%コストが下がるか」 「いくらの金額が削減できるか」ということ よりも、改善のスピードとその手応えに魅力 を感じていた。
それが自信という大きな財産 につながっていった。
コスト面での改善成果は彼らの上司が責任 を負えばいい。
もともと「他部署との連携」 や「共同配送の検討」といったテーマは現場 レベルでは対応できない。
対象範囲が予め決 められている大企業型の改善活動には、その 点で限界がある。
これを払拭するには大企業 であっても、やはりトップダウン型の改善を 実施するしかないだろう。
当面は次のステップである横展開が課題で ある。
我々NLFでは「物流現場はショー ルーム」という考え方を奨励している。
E社 の関東工場は、まさにそれを地で行く現場だ が、他の四工場も同じレベルにあるというわ けではない。
本社と地理的にも隔たりがあり、 また人材の厚みにも劣る他工場に、関東工場 の改善力をどう移植していくか。
関東工場でノウハウを蓄積した専任の改善 スタッフを一定期間現地に派遣するというだ けでは、表面をなぞるだけで、その現場自 身の改善力を引き上げることにはならないだ ろう。
関東工場の若手メンバーを他工場に異 動させるという案も、荷役子会社は「転勤 なし」の条件で入社しており、実現は困難で あった。
一過性の指導には限界がある。
スキルを移 植する?深さ?は、やはり寝食を共にした数 に比例する。
ノウハウは人にあり、チームワー クによってそれが波及していく。
E社に限ら ず多く物流会社が現場力向上に力を入れよう とするが、一朝一夕にそれが実現するもので はないことは肝に銘じておくべきだろう。
75 MARCH 2009 あおき・しょういち 1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89 年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp
