2009年3月号
値段
値段
日立物流
MARCH 2009 52
3PLの好循環サイクルに乗る
日立物流は連結子会社であった東京モノレ
ールの売却(二〇〇三年三月期)を契機に、
事業の選択と集中を通じて収益性を大幅に改
善させた。
企業の物流業務をトータルサポー トする「システム物流(3PL)」を事業ドメ インに据え、付加価値のある物流サービスの 提供に努めてきた。
みずほ証券では、同社は引き続きシステム 物流を牽引役として業績改善基調を維持し得 るとみている。
中期経営計画「2010年ビ ジョン」で掲げた一一年三月期の売上高五〇 〇〇億円、営業利益二五〇億円という目標達 成のハードルは非常に高いと言わざるを得な いものの、M&A等にも積極的な姿勢を示し ていることから、業容拡大が期待される。
同社は一九五〇年、日立製作所の輸送業務 を請け負う物流子会社として創業した。
以来、 日立製作所の工場構内における作業、あるい は国内外における超重量物の輸送業務の一括 受託などを通じて業容を拡大してきた。
一方 で日立グループ系企業として、物流関連の情 報システム構築に早期から取り組んだことが、 物流業務の受託サービスの充実につながった とみられる。
コアビジネスとしているシステム物流とは、 輸送、保管、情報システムなどを包括した高 品質な物流サービスの一つを指す。
約二〇年 前に成長ポテンシャルのある3PL事業に本 格的に参入し、実績を積み重ねてきた。
資材 調達から生産、販売、リサイクルに至る工程 において、荷主の様々な物流業務を引き受け ることで、3PLのリーディングカンパニーと して頭角を現わすに至っている。
みずほ証券では、同社の3PL事業におけ る競争力の源泉は?物流提案力、?情報技術 力、?現場作業力、の三点にあるとみている。
日立物流 3PLは不況下でも堅調に推移 国際物流の収益強化が課題 コアビジネスとしている3PL事業の拡大余地は 中期的には依然として大きい。
荷主企業の物流業 務の外部委託がさらに進むことが予想され、先行 者利益を生かせるためだ。
ただし国際物流事業の 収益力には課題が残る。
国内外一貫物流の強化が 不可欠となる。
國枝 哲 みずほ証券 エクイティ調査部 運輸セクター シニアアナリスト 第47回 日立物流の過去10年間の株価推移 《出来高》 (円) 53 MARCH 2009 以上に加え、昨今は?設備資金力の優位性も 見逃せない点になっている。
上記競争力の源泉は、具体的には?顧客企 業の業務全般を熟知した上で、最適物流体系 構築の具体的提案を行い得る能力、?高度化 する物流業務を、情報システム面からサポー トするインフラ基盤を構築する能力、?最適 な物流業務フローとそれを支えるシステムイ ンフラが整った上で、検品や返送品管理等を 確実に実行に移す能力、を指している。
3PL事業で相応の収益性を確保するため には、?個別案件の入札価格を合理的に見積 る能力や経験を具備していること、?売上高 拡大に伴う固定費負担の低減効果を発現させ る成長サイクルに入ること、等が必須である。
3PL事業は元来、?過去の経験を生かした 物流提案がなされることが多いこと、?一件 の成功事例が次の受注増につながり易いこと、 等に特徴があるといわれている。
日立物流は このような好循環サイクルに乗じた企業の一 つであり、一日の長があるといえるだろう。
国際物流の営業利益率は一・七% このため同社は、リストラを志向する企業 が物流業務(周辺業務)を外部委託する流れ を享受し得る立場にある。
国内貨物市場は引き続き、?製造業の海外 展開、?荷主企業の物流合理化、?公共投資 の削減、等を主因に縮小基調を辿るものと思 われる。
一方、国際貨物市場は今後も大きな うねりを伴いつつも、中長期的には拡大が続 くと期待される。
内需の成熟化と経済のグローバル化等を背 景に、製造業や小売業では「事業の選択と 集中」の度合いをさらに強めることになろう。
結果、みずほ証券では日立物流の3PL事業 が拡大する素地はなお大きいとみている。
引 き続き、物流セクターの中では収支安定度の 高い企業の一つとして、日立物流に注目して いる。
ただし課題もある。
その一つが国際物流事 業だ。
同事業は〇七年三月期、?北米現地 法人の取扱物量減少、?海外拠点の立ち上げ 費用増、を主因に一五%の営業減益に転じた。
〇八年三月期も期首増益予想から一転、二 五%の大幅減益となった。
結果、〇八年三 月期の売上高営業利益率は、国内物流事業 が七・八%だったのに対し、国際物流事業は 一・七%に留まるなど、収益性の格差は歴然 160 120 80 40 0 (%) 111.24 117.34 127.35 102.63 82.30 94.04 110.98 119.71 124.88 109.92 94.05 104.24 63.56 57.26 73.40 88.34 101.50 117.46 140.02 (単位:億円) 8.0 6.0 4.0 2.0 0 山九 ヤマトHD セイノーHD 日立物流 90/3 92/3 94/3 96/3 98/3 00/3 02/3 04/3 06/3 08/3 90/3 92/3 94/3 96/3 98/3 00/3 02/3 04/3 06/3 08/3(期) (期) (%) 11.124 11.734 12.735 10.263 8.23 9.404 11.098 11.971 12.488 10.992 8.0 6.0 4.0 2.0 0 山九福山通運90/3 92/3 94/3 96/3 98/3 日本通運 福山通運 センコー 図2 日立物流の連結営業利益の推移。
08年3月期は前期比19.2%増の大幅増益 図1 陸運大手各社の営業利益率の推移。
日立物流は03年3月期を境に 3PLに集中し収益性を向上している MARCH 2009 54 としている。
こうした中で日立物流は〇七年四月、国 内と海外との連携強化を目的に営業体制の再 編を断行した。
国内向けシステム物流と国際 物流事業とに分かれていた組織を統合・再編 し、国内外一貫のシステム物流の営業体制を 整えた。
現下の急激な経済調整を乗り越えた 後、顧客基盤の拡大等を通じて、収支面での 具体的成果を示し始めるものと期待される。
組織再編の背景には、「2010年ビジョ ン」の達成にはグローバルシステム物流事業の 「飛躍的拡大」が不可欠との認識がある。
現下 の世界経済の調整を乗り越えた上で、主力の 日系顧客はグローバル展開を推進し、生産拠 点や販売拠点の最適展開を模索し続けるもの と思われる。
物流のさらなるグローバル化は中 長期的には必至で、荷主の要望は今後も「国 内外一貫物流」に置かれるとみられる。
「S CM」の高度化、あるいは「ワンストップ・ サービス」への要望も一段と強まる見通しだ。
これに対し、日立物流も国内外の連携をさら に強化し、グローバル・ロジスティクス・ソリ ューションで応えていく必要がある。
業界プラットフォームの成否に注目 日立物流は「2010年ビジョン」の中で、 「システム物流業界ナンバーワン企業」として の優位性を活かし、「陸運業界を代表する企 業」を目指す考えを明示した。
具体的戦略と して、 (1) システム物流のさらなる強化を通じ、 収益力の向上を図ること、 (2) グローバル物流 の加速により、事業規模の「飛躍的拡大」を 図ること、を掲げている。
(1) 物流システムの強化では、?「業界プラ ットフォーム事業」や「機工型3PL事業」 など新たなビジネスモデルの開発、?メーカ ーの物流子会社再構築にかかわるM&A、? 「共同3PL事業」の展開、?日立グループ との技術面での連携強化が重点施策として挙 げられている。
(2) グローバル物流では?「グ ローバル3PL物流」事業の強化、?東欧・ アジアなど新興地域への積極進出、?「ボー ダー物流事業」の深耕、?「航空フォワーデ ィング事業」の強化が重点施策だ。
このうち 特に、各業界に適した情報システム、物流セ ンター、輸配送網などの標準インフラ(プラ ットフォーム)を構築し、共同保管・共同配 送などの共同物流を提供する「業界プラット フォーム事業」の成否が注目される。
財務面ではROE(自己資本利益率)等、 資本効率の観点から議論の余地がある。
〇八 年三月期末の自己資本比率は六一・九%と同 業他社と比べて高い水準にあるが、同期末の 現預金は四八億円、預け金は二八一億円。
潤 沢な手許流動性の存在が資本効率の低下を招 来する財務構造となっている。
みずほ証券で は、「少数株主」たる機関投資家にとっては 引き続き論点の一つになるとみている。
また本来、株価がPBR(株価純資産倍率) 一倍割れの水準では自社株買いなどを期待し たいところではあるが、日立物流は日立製作 所が株式の五三・二%(〇八年三月期末)を 保有する上場子会社であることから、機動的 な財務戦略は採り難いとみられる。
結果、機 関投資家には「市場論理が通り難い資本構造」 との評価が定着している可能性があり、今後 の課題の一つと思われる。
くにえだ さとる 一九九〇 年日本興業銀行(現みずほコ ーポレート銀行)入行。
産業調 査部、市場投資調査部、株式投 資室でガラス・土石製品、運輸、 自動車産業などを担当し、ポ ートフォリオマネジメント部で 債券流動化を推進。
二〇〇三 年より現職。
一橋大学商学部卒。
著者プロフィール 小売上高大 市場成長性高低 グローバル 物流 図3 システム物流(3PL)・グローバル物流に注力 工場物流 その他 システム物流 (3PL)
企業の物流業務をトータルサポー トする「システム物流(3PL)」を事業ドメ インに据え、付加価値のある物流サービスの 提供に努めてきた。
みずほ証券では、同社は引き続きシステム 物流を牽引役として業績改善基調を維持し得 るとみている。
中期経営計画「2010年ビ ジョン」で掲げた一一年三月期の売上高五〇 〇〇億円、営業利益二五〇億円という目標達 成のハードルは非常に高いと言わざるを得な いものの、M&A等にも積極的な姿勢を示し ていることから、業容拡大が期待される。
同社は一九五〇年、日立製作所の輸送業務 を請け負う物流子会社として創業した。
以来、 日立製作所の工場構内における作業、あるい は国内外における超重量物の輸送業務の一括 受託などを通じて業容を拡大してきた。
一方 で日立グループ系企業として、物流関連の情 報システム構築に早期から取り組んだことが、 物流業務の受託サービスの充実につながった とみられる。
コアビジネスとしているシステム物流とは、 輸送、保管、情報システムなどを包括した高 品質な物流サービスの一つを指す。
約二〇年 前に成長ポテンシャルのある3PL事業に本 格的に参入し、実績を積み重ねてきた。
資材 調達から生産、販売、リサイクルに至る工程 において、荷主の様々な物流業務を引き受け ることで、3PLのリーディングカンパニーと して頭角を現わすに至っている。
みずほ証券では、同社の3PL事業におけ る競争力の源泉は?物流提案力、?情報技術 力、?現場作業力、の三点にあるとみている。
日立物流 3PLは不況下でも堅調に推移 国際物流の収益強化が課題 コアビジネスとしている3PL事業の拡大余地は 中期的には依然として大きい。
荷主企業の物流業 務の外部委託がさらに進むことが予想され、先行 者利益を生かせるためだ。
ただし国際物流事業の 収益力には課題が残る。
国内外一貫物流の強化が 不可欠となる。
國枝 哲 みずほ証券 エクイティ調査部 運輸セクター シニアアナリスト 第47回 日立物流の過去10年間の株価推移 《出来高》 (円) 53 MARCH 2009 以上に加え、昨今は?設備資金力の優位性も 見逃せない点になっている。
上記競争力の源泉は、具体的には?顧客企 業の業務全般を熟知した上で、最適物流体系 構築の具体的提案を行い得る能力、?高度化 する物流業務を、情報システム面からサポー トするインフラ基盤を構築する能力、?最適 な物流業務フローとそれを支えるシステムイ ンフラが整った上で、検品や返送品管理等を 確実に実行に移す能力、を指している。
3PL事業で相応の収益性を確保するため には、?個別案件の入札価格を合理的に見積 る能力や経験を具備していること、?売上高 拡大に伴う固定費負担の低減効果を発現させ る成長サイクルに入ること、等が必須である。
3PL事業は元来、?過去の経験を生かした 物流提案がなされることが多いこと、?一件 の成功事例が次の受注増につながり易いこと、 等に特徴があるといわれている。
日立物流は このような好循環サイクルに乗じた企業の一 つであり、一日の長があるといえるだろう。
国際物流の営業利益率は一・七% このため同社は、リストラを志向する企業 が物流業務(周辺業務)を外部委託する流れ を享受し得る立場にある。
国内貨物市場は引き続き、?製造業の海外 展開、?荷主企業の物流合理化、?公共投資 の削減、等を主因に縮小基調を辿るものと思 われる。
一方、国際貨物市場は今後も大きな うねりを伴いつつも、中長期的には拡大が続 くと期待される。
内需の成熟化と経済のグローバル化等を背 景に、製造業や小売業では「事業の選択と 集中」の度合いをさらに強めることになろう。
結果、みずほ証券では日立物流の3PL事業 が拡大する素地はなお大きいとみている。
引 き続き、物流セクターの中では収支安定度の 高い企業の一つとして、日立物流に注目して いる。
ただし課題もある。
その一つが国際物流事 業だ。
同事業は〇七年三月期、?北米現地 法人の取扱物量減少、?海外拠点の立ち上げ 費用増、を主因に一五%の営業減益に転じた。
〇八年三月期も期首増益予想から一転、二 五%の大幅減益となった。
結果、〇八年三 月期の売上高営業利益率は、国内物流事業 が七・八%だったのに対し、国際物流事業は 一・七%に留まるなど、収益性の格差は歴然 160 120 80 40 0 (%) 111.24 117.34 127.35 102.63 82.30 94.04 110.98 119.71 124.88 109.92 94.05 104.24 63.56 57.26 73.40 88.34 101.50 117.46 140.02 (単位:億円) 8.0 6.0 4.0 2.0 0 山九 ヤマトHD セイノーHD 日立物流 90/3 92/3 94/3 96/3 98/3 00/3 02/3 04/3 06/3 08/3 90/3 92/3 94/3 96/3 98/3 00/3 02/3 04/3 06/3 08/3(期) (期) (%) 11.124 11.734 12.735 10.263 8.23 9.404 11.098 11.971 12.488 10.992 8.0 6.0 4.0 2.0 0 山九福山通運90/3 92/3 94/3 96/3 98/3 日本通運 福山通運 センコー 図2 日立物流の連結営業利益の推移。
08年3月期は前期比19.2%増の大幅増益 図1 陸運大手各社の営業利益率の推移。
日立物流は03年3月期を境に 3PLに集中し収益性を向上している MARCH 2009 54 としている。
こうした中で日立物流は〇七年四月、国 内と海外との連携強化を目的に営業体制の再 編を断行した。
国内向けシステム物流と国際 物流事業とに分かれていた組織を統合・再編 し、国内外一貫のシステム物流の営業体制を 整えた。
現下の急激な経済調整を乗り越えた 後、顧客基盤の拡大等を通じて、収支面での 具体的成果を示し始めるものと期待される。
組織再編の背景には、「2010年ビジョ ン」の達成にはグローバルシステム物流事業の 「飛躍的拡大」が不可欠との認識がある。
現下 の世界経済の調整を乗り越えた上で、主力の 日系顧客はグローバル展開を推進し、生産拠 点や販売拠点の最適展開を模索し続けるもの と思われる。
物流のさらなるグローバル化は中 長期的には必至で、荷主の要望は今後も「国 内外一貫物流」に置かれるとみられる。
「S CM」の高度化、あるいは「ワンストップ・ サービス」への要望も一段と強まる見通しだ。
これに対し、日立物流も国内外の連携をさら に強化し、グローバル・ロジスティクス・ソリ ューションで応えていく必要がある。
業界プラットフォームの成否に注目 日立物流は「2010年ビジョン」の中で、 「システム物流業界ナンバーワン企業」として の優位性を活かし、「陸運業界を代表する企 業」を目指す考えを明示した。
具体的戦略と して、 (1) システム物流のさらなる強化を通じ、 収益力の向上を図ること、 (2) グローバル物流 の加速により、事業規模の「飛躍的拡大」を 図ること、を掲げている。
(1) 物流システムの強化では、?「業界プラ ットフォーム事業」や「機工型3PL事業」 など新たなビジネスモデルの開発、?メーカ ーの物流子会社再構築にかかわるM&A、? 「共同3PL事業」の展開、?日立グループ との技術面での連携強化が重点施策として挙 げられている。
(2) グローバル物流では?「グ ローバル3PL物流」事業の強化、?東欧・ アジアなど新興地域への積極進出、?「ボー ダー物流事業」の深耕、?「航空フォワーデ ィング事業」の強化が重点施策だ。
このうち 特に、各業界に適した情報システム、物流セ ンター、輸配送網などの標準インフラ(プラ ットフォーム)を構築し、共同保管・共同配 送などの共同物流を提供する「業界プラット フォーム事業」の成否が注目される。
財務面ではROE(自己資本利益率)等、 資本効率の観点から議論の余地がある。
〇八 年三月期末の自己資本比率は六一・九%と同 業他社と比べて高い水準にあるが、同期末の 現預金は四八億円、預け金は二八一億円。
潤 沢な手許流動性の存在が資本効率の低下を招 来する財務構造となっている。
みずほ証券で は、「少数株主」たる機関投資家にとっては 引き続き論点の一つになるとみている。
また本来、株価がPBR(株価純資産倍率) 一倍割れの水準では自社株買いなどを期待し たいところではあるが、日立物流は日立製作 所が株式の五三・二%(〇八年三月期末)を 保有する上場子会社であることから、機動的 な財務戦略は採り難いとみられる。
結果、機 関投資家には「市場論理が通り難い資本構造」 との評価が定着している可能性があり、今後 の課題の一つと思われる。
くにえだ さとる 一九九〇 年日本興業銀行(現みずほコ ーポレート銀行)入行。
産業調 査部、市場投資調査部、株式投 資室でガラス・土石製品、運輸、 自動車産業などを担当し、ポ ートフォリオマネジメント部で 債券流動化を推進。
二〇〇三 年より現職。
一橋大学商学部卒。
著者プロフィール 小売上高大 市場成長性高低 グローバル 物流 図3 システム物流(3PL)・グローバル物流に注力 工場物流 その他 システム物流 (3PL)
