2009年3月号
特集

物流不動産ファンド バブル崩壊で次のステージへ

特 集 バブル崩壊で次のステージへ  物流不動産バブルが崩壊した。
リーマンショックに 端を発する信用収縮で、低利のノンリコースローンで レバレッジをかけ投資利回りを吊り上げる錬金術が破 綻。
物流不動産市場から資金が一斉に流出し始めた。
ファンドの淘汰は必至の情勢だ。
それでも大量に建設 された大型施設は残る。
物流資産の所有と利用の分 離も後戻りはしない。
         (大矢昌浩) 大型施設の建設ラッシュが急停止  横浜・大黒埠頭。
首都高のジャンクションを生麦方 面に向かうと、橋を渡ってすぐ左手に約七万坪の広大 な空き地が広がる。
不動産投資会社のニューシティ・ コーポレーションが二〇〇六年三月にコスモ石油から 譲り受けた精油所跡地だ。
ニューシティはここに総額 約八一七億円を投じて「ニューシティ横浜ロジスティ ックスパーク」を建設する計画だ。
 同パークは物流施設四棟から成り、延べ床面積は 約一七万坪に上る。
その第一期工事となるA棟の建 設が今年四月の竣工に向けて現在大詰めを迎えてい る。
A棟は上り・下り各専用のランプウェー を備え た七階建てで、延べ床面積は約四万坪。
展望レスト ランやドライバー用のラウンジ、簡易宿泊所まで併設 した豪華施設だ。
 しかし、今年二月の現時点で、まだテナントは埋 まっていない。
残る三棟の建設も当初は二〇一三年 までに竣工する予定だったが、現在計画は白紙に戻 されている。
現地の幹線道路沿いに設置されたテナ ント募集の立看板には、昨年までそこにあった「ニ ューシティ」の文字が塗り潰されていた。
不動産証 券化バブルが崩壊した影響だ。
 ニューシティ・コーポレーションが母体となって設 立し、不動産投資信託(J─REIT)として東証 に上場させたニューシティ・レジデンス投資法人(N CR)は昨年一〇月、民事再生法を申請した。
負債 総額は一一二四億円。
リートの破綻は日本で初めて のことだった。
 それまでリートは、自社で所有する不動産の家賃 を収入源としていることから、大幅なキャピタルゲイ ンは期待できないものの、安全な投資先としてみな 解 説 MARCH 2009  12 されていた。
実際、ムーディーズや格付投資情報セン ターなどの格付け機関は、NCRに「安定的」を意 味するAクラスの評価を与えていた。
 それが突如として破綻に追い込まれたことで、リ ートという金融商品自体に対する信用不安が一気に 広まった。
その結果、J─REIT指数は暴落。
平均 PBR(株価純資産倍率)は解散価値を大きく割り 込む〇・五倍にまで落ち込んだ。
リートの時価は、名 目上の資産価値の半分しかないと市場が評価した格 好だ。
 特定少数の投資家を対象に私募債のかたちで投資 を募る非上場の不動産ファンドも事情は変わらない。
投資家がいっせいに資金を引き揚げると同時に、こ れまで低利の長期ローンをファンドに付与してきた金 融機関の姿勢が急変。
融資の引き上げや金利の大幅 な引き上げに動いている。
 施設ごとに特定目的会社(SPC)を設立。
銀行 から低利のノンリコースローン(非遡及型融資)を引 き出して、出資額を大きく上回る資産を所有し、賃 貸に回して高い投資リターンを得る。
この手法を使っ て不動産ファンドは各地の物流用地を競って買収し、 大型物流施設を次々に建設していった。
 しかし、ファンドは調達した資金で不動産を購入 し、利益の大部分を投資口( =株式)の配当に回す ために、内部留保を持つことができない。
ローンの 借り換えを金融機関に拒否されれば、増資か、所有 物件を売却するしか選択肢がない。
資金繰りに窮し たファンドによる物流施設の放出が始まっている。
 米国に本社を置く業界最大手のプロロジスは二〇一 〇年までに総額一兆円を日本の物流不動産に投資す ると公表していたが、昨年のリーマンショックを機に 計画を修正。
十二月に中国における全事業と日本の 約三分の二に当たる施設持ち分を、メーンスポンサー だったシンガポール政府系の不動産投資会社GIC・ リアルエステートに売却した。
 日本勢も昨年末に日本レップが業績予想を大幅に 下方修正。
〇九年三月期の当期損益が従来予想の十 三億九四〇〇万円の黒字から二二億三三〇〇万円の 赤字に転落すると発表した。
同様にジャスダック上場 で〇九年三月期の赤字転落を見込むコマーシャル・ア ールイーは今年一月、正社員二八一人の半分以上に 当たる一五〇人の希望退職者を募集し、リストラに 追われている。
物流不動産の値段  新規物件の開発にも急ブレーキがかかっている。
物 流不動産調査会社の一五不動産情報サービスの曽田 貫一社長は「首都圏における〇九年の物流施設の新 規供給は〇八年の半分以下になるだろう。
一〇年は さらにそれを下回ると見ている」という。
物流不動 産ファンドによる物流施設の新設ラッシュは〇八年で 完全にピークアウトした。
 野村不動産の調べによると、J─REITや私募フ ァンドによる不動産会社系の施設が急増したのは〇 五年以降のこと(図1)。
それまでは大規模物流施設 の大半が物流会社の持ち物だった。
そこにファンドが 一斉になだれ込んだ。
オフィスや商業施設を対象に してきたファンドが優良物件の枯渇から、物流分野 にポートフォリオを拡大したのだ。
 それが物流用地の高騰を招いた。
日通不動産の望 月光政常務は「〇七年後半にもなると、さすがの外 資系ファンドでも落札できないレベルまで価格が上昇 した。
事務所や住居と変わらない値段でファンドが物 流用地を奪い合う様は明らかに異常。
キャピタルゲイ 特殊法人・ほか 金融 一般事業 J-REIT ファンド 建設・不動産 倉庫 運輸 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 野村不動産「2009 REVIEW」より (千?) 図1 大規模物流施設の所有者別供給動向 「ニューシティ横浜ロジスティクスパーク」 左奥が今年4 月稼働予定のA棟 13  MARCH 2009 ン狙いのマネーゲームだったと言われても仕方のない 状態だった」と振り返る。
 買い手としてファンドが登場するまで、国内の倉庫 用地には相場と呼べるものが存在しなかった。
価格 は相対の交渉次第。
賃料、空き室率、利回りなど何 の基準もなかった。
その取引が急に活発化したこと を受けて、〇五年には日通不動産を中心に日本物流 不動産評価機構(JA─LPA)が発足。
物流不動 産の評価方法の確立と相場インデックスの作成に乗り 出した。
 物流不動産の価格を決定する要素は、第一に倉庫 収入だ。
しかし、同じ施設の倉庫料でも、荷主が3 PLに支払う料金と、物流会社同士でサブリースする 料金、さらには家主が賃貸に出す元値はすべて金額 が違う。
オフィスや住宅と同じ方法では物流不動産 の資産価値を適正に評価することはできない。
素人に手は出せない  収益安定性に関しても誤解が少なくない。
一般に 物流不動産は賃貸契約が長期にわたり、賃料の変動 幅も小さいため、投資リスクの低い商品だと考えら れている。
しかし、実際には物件当たりのテナント 数が一社もしくは数社に限られるため、物件ごとに 空き室率が極端に振れてしまう。
しかも、空いたス ペースに新しいテナントを付けるのは容易ではない。
 JA─LPAの委員長も兼務する日通不動産の望 月常務は「なかには有名企業が坪一万円近い賃料を 払って入居している施設もある。
それを見て我々は、 そんな条件でテナントが長く居着くはずがない。
リス クの大きな物件だと判断する。
ところが物流を知ら ないファンドや投資家は、有望な物件だと飛びついて しまう」と指摘する。
 野村不動産インベストメント・マネジメントの山田 穣二物流施設事業部長は「ファンドビジネスを当社が 手がけ始めたのは一九九七年頃。
当時、日本の銀行 はノンリコースローンなどまだ見向きもしていなかっ たため、海外の銀行をパートナーに不動産の証券化に 取り組んだ。
日本企業としては先陣を切ったほうだ ろう。
ただし、当初はオフィスビルや商業施設、住宅 が対象で、物流施設に投資を始めたのは〇四年頃か ら。
物流不動産の市場環境や特性を把握するのにか なりの時間がかかった」という。
 物流不動産は投資額に占める建設費の割合が格段 に大きい。
オフィスや集合住宅の建設費が土地代に 対して一〜二割であるのに対し、倉庫だと通常五割 を超える。
そこから逆算して土地の価格を判断しな ければならない。
原料高で建設コストが急騰した場 面では、とりわけ慎重な評価が必要になる。
 リートにも馴染まない。
リートに組み込んだ物件 は、一般投資家に対する情報公開が求められる。
し かし、荷主企業や物流会社は、テナントとして社名 が出ることや、賃料が明らかになることを嫌う傾向 がある。
空き室対策にも特有の配慮が必要だ。
物件 ごとに空き室率が二極化するので、リスクをヘッジす るには、一定以上の物件数を所有しなければならな い。
そのため野村不動産では物流施設をリートに組 み込むことを避け、私募ファンドで運用。
同時に計 一九施設・資産総額一〇〇〇億円強の物件を短期間 で傘下に収めて規模を確保した。
 「ポートフォリオの一部に、二〜三物件だけ物流施 設を加えるというやり方では通用しない。
テナントが 付いているうちはいいが、いったん出られてしまう と対応ができない。
一般に考えられている以上に物 流不動産は参入障壁が高い。
それだけ今後はプレー 日通不動産の 望月光政常務 2,600 2,400 2,200 2,000 1,800 1,600 1,400 1,200 1,000 800 03/12 04/12 図2 東証REIT指数の推移と物流不動産ファンドの沿革 05/12 06/12 07/12 08/12 01/10 08/10 リーマンショック 08/9 物流施設の空き室率が急上昇 08〜 国内景気がピークに 07末 サブプライム問題 07夏 東証REIT指数がピークに 07/5 日本レップが東証マザーズ上場 06/6 J│REIT誕生 01/9 減損会計導入 05/4 日本ロジスティクスファンド投資法人 J│REIT上場 05/5 国内系ファンドの設立ラッシュ 04〜05 外資系ファンドの参入ラッシュ 02〜03 ニューシティ・レジデンス 投資法人が破綻 プロロジスが国内第1号ファンドを組成 MARCH 2009  14 特 集物流不動産ファンド いま何が起きているのか? ヤーの顔ぶれも限られてくるだろう」と山田部長は 見ている。
 物流不動産市場の動向を定点観測しているシービ ー・リチャードエリスの調査によると、首都圏のマ ルチテナント型物流施設の空き室率は〇八年に入っ て前年の五・三%から一六・四%まで一気に上昇し、 その後も一五%前後で高止まりしている。
これを反 映して倉庫の空きスペースを検索できる情報サイト 「e-SOHKO.com」を運営し、物流施設のリーシング を手がけるイーソーコにはテナントの確保に関するフ ァンドからの問い合わせが急増しているという。
 同社の大谷厳一副社長は「これまで当社が取り扱 ってきたのは物流会社の中小型倉庫。
ファンドの大 型物件は黙っていても埋まる状況だったので、当社 とは縁がなかった。
それが昨秋頃から、何とか物件 を埋めてくれとファンドから直接依頼されるようにな った。
今やファンドの大型施設も完全な買い手市場。
一年前と状況は様変わりした」という。
 前出の野村不動産の資料によると、二〇〇〇年か ら〇七年の間に首都圏では延べ床約二〇〇万坪に上 る大型物流施設が建設されている。
〇八年、〇九年 に稼働する施設を加えると、その規模は三〇〇万坪 まで膨らむ。
「ファンドがバブルを巻き起こしたのは 事実だとしても、彼らの開発した物流施設は間違い なく優れている。
その機能を上手に活用することが 今後日本の物流業界の大きなテーマになってくる」と 大谷副社長はいう。
アセット戦略問われる3PL  昨年十一月にプロロジスの会長兼CEOを辞任し たジェフリー・シュワルツ氏は現在、GICがプロロ ジスから取得した事業を管理するアセットマネジメン ト会社の設立準備を進めている。
同様に昨年十一月、 日本レップの創業者の和本清博会長と共に同社常務 を辞任した和本忠男氏も物流不動産のリーシング会 社設立に動いていると噂される。
 ファンドによる開発ラッシュが終わった物流不動産 市場の第二フェーズは、その膨大なスペースにテナン トをはめ込むリーシング機能を軸に展開していく。
そ こでは物流管理の実務と物流不動産の双方を熟知し、 的確な物流アセット戦略を提案できるスペシャリスト が活躍することになる。
 もともとプロロジスとAMBプロパティコーポレー ションの外資系ファンド二社は、物流不動産を専業と して、いずれも九九年にDHLやフェデックス、UP Sといった国際インテグレーターのグローバル化に歩 調を合わせるかたちで日本市場に参入している。
 この時期に国際インテグレーターの海外展開は、そ れまでの現地物流企業との提携から単独進出にシフ トし、日本を含めた海外の主要都市に新たに自社拠 点を設置する必要が生じていた。
物流不動産ファン ドがそのパートナーとなって日本に施設を建設し、イ ンテグレーターに賃貸しようというわけだ。
実際、プ ロロジスの国内第一号開発物件はDHLの専用拠点 だった。
 プロロジスは日本に、長期賃貸借契約に基づく専用 拠点の新設や、セールス・アンド・リースバック方式 (既存施設を売却して使用を続ける)による物流資産 のオフバランス化と並んで、大型拠点への在庫集約と 3PLへのアウトソーシングを組み合わせた新しいソリ ューションを持ち込んだ。
物流用地のバブルは弾けて も、物流アセットの所有と利用の分離、アウトソーシ ングによる業務の分化の流れは後戻りしない。
変化を 先取りして前進することでしか道は開かれない。
  野村不動産インベスト・ マネジメントの山田穣 二物流施設事業部長 イーソーコの大谷厳一 副社長 15  MARCH 2009

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