2009年4月号
特集

儲かる中国物流 中継基地&内航船で国内輸送を効率化

APRIL 2009  14 第2部 内航海運を活用した幹線輸送  トヨタはプル型の生産販売システムを中国にも 導入している。
すなわち、市場の実需情報を起点 として、それに引っ張られるかたちで、販売・物 流から生産・調達までの諸活動を展開する。
この システムの特徴は在庫水準の低さだ。
工場や販売 店(ディーラー)のヤードに一定量の完成車を貯 めて販売する中国の一般的な販売方式とは対照的 と言える。
 ただし、プル型の生産販売システムでは、工場 から販売店への出荷が多頻度小ロットとなるため、 それを支える安定的な輸送手段の確保が必要不可 欠となる。
ディーラーへの完成車配送は現状では トレーラーを利用するしかない状況にある。
しか もトヨタの主力工場は華北地域の天津(TFTM) と華南地域の広州(GTMC)にあるため、多く のディーラーへの納品には数百から数千キロにお よぶ長距離輸送が必要である。
トレーラーによる こうした“細くて長い”完成車輸送は、効率性や 安全性、品質などの面で課題が多い。
 そこで現在、TFGLは“細い物流”から“太 い物流”への転換を図っている。
中継基地の導入 と幹線輸送における内航海運の活用である。
遠距 離納品を幹線輸送とフィーダー輸送に分け、その 結節点に中継基地を設ける。
工場から中継基地ま での幹線輸送は内航海運を利用して大量に一括輸 送し、中継基地でトレーラーに積み換えて各ディ ーラーに配送するという仕組みである。
 主力工場の所在地である天津と広州はいずれも 港に隣接している。
また、中国では主要な自動車 市場が沿海部に偏っていることから、この仕組み が有効に機能する と判断した。
(注・ このほかにもトヨ タは、成都と長春 にも工場を設置し ているが、この二 工場は生産台数が 合わせて五万台前 後でまだ規模が小 さい)  完成車の中継基 地は上海に設けた。
上海は天津と広州 のほぼ中間地点に あり、ここで中継 すれば、経済的に 最も豊かな華東地 域を中心に広い地域への配送がカバーできると判 断した。
 天津、上海、広州の三港には自動車専用のRO RO船(ロールオン・ロールオフ・シップ)埠頭 が整備されており、その運用には日本の海運大手 も参画している。
およそ七〇〇台から一五〇〇台 積みの自動車専用RORO船が既に三港間の航路 に投入され、三港間をほぼ毎日船が運航している。
運航は中国の海運大手が担当している。
 中継基地となる上海のヤードは、この自動車専 用埠頭に隣接している。
船で運ばれてきた天津工 場と広州工場の完成車は陸揚げされた後、トレー ラーに積み換えられて、華東地域、長江中流地域、 西南地域の各ディーラーへ配送される。
日本から の輸入車も上海港で陸揚げしている。
以前、輸入 中継基地&内航船で国内輸送を効率化  上海に完成車輸送の中継基地を設置。
内航船を利用した 幹線の大量輸送と、トレーラーによる多頻度小口配送を結ぶ 効率的な配送網を構築した。
生産物流ではミルクラン方式、 遠隔地向けにはVMI倉庫を導入。
現在は販売拡大に対応した 補修用部品のネットワーク拡充を急いでいる。
トヨタの中国ロジスティクス戦略 上海港の自動車用RORO 船埠頭に隣接して中継基地を設けた 特集 15  APRIL 2009 車は国内生産車と別のヤードで荷役していたが、 TGFLが発足してから、国内生産車の中継基地 に統合した。
 中継基地は基本的に積み換えのみの物流ノード (クロス・ドッキング)で、保管機能を果たさない が、ディーラーからの入金が遅延した場合に備え た一時置きのためのスペースが設けられている。
「未 入金車両ゾーン」と呼ばれている。
トレーラーに 積んだままで入 確認待ちするケ ースもある。
 中国の自動車 業界では代金回 収のリスクを回 避するために、 ディーラーから の入金を確認し てから完成車を 納品するキャッ シュ・オン・デ リバリー方式が 一般的な商慣行 となっており、 トヨタもそれを 踏襲している。
実際に全体の数 パーセントの比 率で入金遅延が 発生するという。
 天津・広州間 の幹線輸送にも 内航海運を利用 している。
ただし、天津トヨタ(TFTM)と広 州トヨタ(GTMC)では埠頭に隣接する工場の 出荷ヤードが利用できるため、上海のように中継 基地を設けることはしていない。
 天津トヨタは三つの工場を持っている。
このう ち第一工場は天津市内にあるため、港からは距離 があるが、第二、第三工場は天津港区に立地して いる。
その出荷ヤードを利用して発送業務や積み 換え作業を処理するほか、華北地域・西北地域・ 東北地域のディーラーへはトレーラーによる直接 配送を行っている。
 同様に広州トヨタも広州の南沙港に隣接するエ リアに立地し、水運の便が良いため、出荷ヤード をそのまま利用している。
華南地域のディーラー への直接配送も行っている。
また四川トヨタ(S FTM)の成都工場と長春工場の完成車はまだ台 数が少ないため、すべてトレーラーによる直送で ある。
 このように、中継地物流の導入と内航海運の活 用の組み合わせで、低廉かつ安定的な幹線輸送が 実現できるものと期待されている。
しかも海陸複 合輸送はコスト削減だけでなく、事故や労災の件 数が減少するなど、輸送品質が大幅に向上し、輸 送コストも改善が見られると、TFGLの幹部は 力説していた。
 〇八年に入って以降は、完成車輸送費の四割程 度を内航船が占めるようになっているという。
ま た、TFGLは船会社と協力して、一〇年までに 平均配送リードタイムを現状の八・一日間から七・ 一日間に短縮すべく、改善と工夫を続けている。
 これらの施策は統合によって可能になったと言 える。
TFGLへ物流業務を移管するまでは、天 津トヨタ、広州トヨタ、輸入車(TMCIが所管) は別々で販売・物流チャネルをもっていた。
販売 チャネルの統合は依然としてできていない。
それ でも、三事業会社の物流業務をTFGLに統合し たことで、細い物流から太い物流への転換が可能 となった。
 トヨタは、物流チャネルを個々の販売チャネル から切り離し、グループ内のLLP会社による統 合集約を推進するという革新的な取り組みを通し て、グループ全体の物流効率性とロジスティクス 効果(顧客サービス)を高めることを狙っている。
生産部品のミルクラン集荷  共同物流による太い物流の形成のための取り組 みは、生産部品調達の領域においても行われてい る。
トヨタの工場では、部品が生産スケジューリ ングに合わせて小刻みにジャスト・イン・タイム(J IT)で搬入される。
かんばんが、それを実現す るために開発された道具であることは広く知られ る事実である。
 適切な時間に、適切な量を、適切な場所に搬入 することを求めるJIT納品システムには、高度 な物流の仕組みと効率的なオペレーションが求め られる。
とりわけ中国大陸のように、広大な面積 を擁する地域に生産工場と調達先(部品メーカー) が分散する場合には、高度な物流システムが必要 不可欠である。
 それをトヨタはミルクラン集荷、直送納 品、中継地納品、V M I( Vendor Managed Inventory :ベンダー主導型在庫管理)拠点など、 複数の仕組みを巧みに組み合わせることによって 構築している。
図3 完成車輸配送の仕組み A地域B 地域C 地域 ディーラーディーラーディーラーディーラーディーラーディーラーディーラー D工場埠頭埠頭埠頭E 工場 ヤードヤード 中継地 APRIL 2009  16  実は、TFGLの発足前から、トヨタは中国で ミルクラン方式の導入に踏み切っていた。
部品メ ーカーがそれぞれ工場へ納品するというという従 来のプロセスを改め、トヨタの各事業会社から委 託を受けた物流事業者が部品メーカーの工場を巡 回集荷するかたちだ。
各ルートの運行スケジュー ルは一定で、毎日の積載量も生産販売計画と連動 しながら平準化されている。
 ただし、ミルクラン方式と言っても、すべての ルートが複数の部品工場を経由しているわけでは ない。
ルートの設定はあくまでトラックの積載率 が基準となっている。
各ルートの集荷頻度は週一 便から一日三便まで物量によってさまざまで、一 つの部品工場の一回の納品でトラックを満載する だけの量があれば、そのルートは直送になる。
 トヨタの中国国内調達先の部品メーカーは主に 天津・北京を中心とする地域、上海を中心とする 地域、広州を中心とする地域に立地している。
一方、 完成車とエンジンの工場は前述したように、天津、 広州、成都、長春にある。
従って、地域間の長距 離納品輸送を余儀なくされる。
 具体的には、上海地域から天津、広州、成都、 長春の工場へ、また天津地域から広州、成都、長 春の工場へ、広州地域から天津、成都、長春の工 場への納品は、数百ないし数千キロにおよぶ長距 離輸送になる。
 この長距離納品物流を効率よくかつ安定的に行 うために、トヨタは完成車物流と同様、中継基地 を設けている。
中継基地をノードに、域内のミル クラン集荷と域間の幹線輸送を結合させ、太い幹 線輸送の流れを形成した。
 幹線輸送は主に大型トラックを利用しているが、 鉄道、内航海運、長江水運の活用などモーダルシ フトも積極的に検討し、一部既に実用する段階に 入ったという。
例えば、上海地域から四川トヨタ の成都工場への幹線輸送は長江水運を使い、また、 天津地域から同工場へは鉄道を使っている。
近年、 中国では鉄道と水運の貨物輸送サービスが高度化 してきているため、その利用は今後さらに拡大す るものと予想される。
 生産部品の中継基地は上海、天津、広州に一カ 所ずつ置いている。
いずれも積み換えのトランス ファーセンターで、在庫機能は持たない。
センタ ーの保有と運営はすべて3PL事業者に委ねてい る。
ただし、センター運営や配車管理などのノウ ハウは日本国内のトヨタ系列の物流企業から指導 を受けたという。
 センターで中継されるのはあくまで域間輸送の 部品で、域内の部品納品は集荷後、直接工場に届 けられる。
例えば、天津地域の部品メーカーがT FTM、TFTEへ納品する場合や、広州地域の 部品メーカーがGTMC、GTEへ納品する場合 はそうである。
 一方、「ミルクラン+中継地納品」という仕組 みでカバーできない遠隔地域の部品メーカーもあ る。
これらの部品メーカーはトヨタの工場の近く にVMI型倉庫を設置してトヨタの需要にタイム リーに対応してる。
 こうしたVMI型倉庫の現場オペレーションは たいてい部品メーカーから3PL事業者に委託さ れているが、TFGLではトヨタ流の物流を理解し、 トヨタの調達・製造プロセスに円滑にリンクでき る3PL事業者を候補として部品メーカーに推薦 することが多いという。
 部品メーカーの委託先がTFGLの委託先と同 じ物流企業であれば、アセットの共同利用など一 体的な業務遂行が可能となるため、メリットが大 きい。
実際、TFGLから中継基地の現場運営を 受託している3PL事業者には、複数の部品メー カーからVMI業務も請け負って、同じ施設で中 継業務とVMI業務を処理しているケースが多い。
 なお日本から中国に輸入するCKD部品(コン プリートノックダウン部品:完全現地組み立ての ための部品)に関しては、日本から現地工場の組 図4 生産部品の物流システムのイメージ図 中継センター ミルクラン ミルクラン ミルクラン ミルクラン ミルクラン 幹線輸送完成車工場 A 地域B 地域 C 地域 直送 補充輸送 補充輸送 部品メーカー VMI センター 17  APRIL 2009 特集 み立てまでの一貫した業務プロセスが既にできあ がっており、TFGLの関与できる余地が少なく、 メリットも出しにくいため、TFGLの管理対象 にはなっていないという。
拠点ネットワークの整備  TFGLは各事業体が別々に整備した拠点を引 き継ぎ、その再編に向けた検討を進めているという。
各地の物流拠点をプラットフォームとして、細い 流れを太い流れに集約し、また拠点間の有機的な 連携によって調達物流と販売物流を結合させるこ となどにより、アセットの稼働率を高める狙いだ。
 それと並んで、ディーラー網の拡大を受け、ア フターパーツに関わる物流サービスの維持・向上 も重要な戦略課題となっている。
具体的には、全 国主要地域をカバーするアフターパーツ配送拠点 網を構築することが急務となっている。
 前述したように完成車物流の拠点は、上海港に 中継基地、天津、広州、成都、長春の各完成車 工場に配送ヤードを設けている。
ここでは今後の 生産拡大に備えて、上海港の中継基地の拡充と、 天津・広州・大連の港における出荷・中継基地の 設置が検討課題になっている。
 一方、生産部品の拠点は、部品メーカーの集積 地にある中継センター、生産工場の近くにある緩 衝在庫倉庫、VMIセンターの三種類に分けられ る。
このうち中継センターは前述の通り、上海、 天津、広州に設けている。
 緩衝在庫倉庫は遠隔地のサプライヤーから供給 される小ロット少頻度部品を一定量保管するため に設置されるものである。
天津、広州、長春のエ ンジン工場の近くに、いずれもこのタイプの倉庫 を設けている。
 VMIセンターは部品メーカーの責任で設けら れるが、トヨタの工場へのJIT納品という重要 な機能を担っていることから、トヨタが一定の関 与を行っている。
TFTMの初期段階には、天津 の第一工場の構内に天津一汽トヨタパーツセンター (TFPC)を設置し、遠隔地の部品メーカーのV MI倉庫として自ら運用していた時期もあった。
 これに対して、顧客サービスの水準に影響する アフターパーツの在庫拠点はもっとも多く設置さ れており、上海だけで三カ所ある。
その一つ、外 高橋保税区にある豊田汽車倉儲(上海)有限公 司(TPCS)所管の拠点は東南アジアなどから 輸入されるアフターパーツを保管し、全国の配送 センターへ発送する保税倉庫である。
 上海市内にある別の一カ所は上海市のディーラ ー向け配送サービスを担当する拠点。
ほかに上海 市西郊外の物流団地に広域配送センターとして、 華東地域全体のディーラー向けの配送機能を担う 拠点を置いている。
 TFGLは上海地域の拠点の統廃合について検 討を重ねた結果、上海市街地から西へ約八〇キロ 離れる常熟市に大規模な物流拠点を新設し、生産 部品の中継センターとアフターパーツの配送センタ ーを一カ所に集約する計画を既に決定し昨年末か ら移転を開始している。
ただし、輸入部品に関し ては関税上の優遇措置を受けるために、保税区の 倉庫を残す予定だという。
 上海以外にも現在、北京、天津、広州、成都、 西安、ハルビンにアフターパーツ配送センターを設 置し、各地域のディーラーへ補修部品・消耗品の 在庫補充を行っている。
今後、ディーラー網の拡 充につれて、同様の配送センターが各地に新設さ れるものと思われる。
また、東北地域を担当する ハルビンの拠点を瀋陽に移転することも検討して いるという。
 拠点ネットワークはまだ整備途中であり、さま ざまな課題が残されている。
例えば、天津トヨタ、 四川トヨタ、広州トヨタ、輸入車は別々の販売チ ャネルとなっていることもあり、アフターパーツ の拠点運営も配送業務も統合されていない。
TF GLは発足後、アフターパーツ配送拠点の所在都 市に、物流コーディネーターとして分室を設置し、 統合に向けた準備に取りかかっている。
天津と成 都におけるディーラーへの配送業務はFTMSと GTMCの共同配送を開始しているという。
成都ではFTMS とGTMS のパーツセンターが同じ 敷地内で隣り合わせに設 置されているが、運営管 理は別々に行われている。

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