2009年4月号
特集

儲かる中国物流 キャッシュを生む増値税の最適化

APRIL 2009  34 キャッシュを生む増値税の最適化  中国物流のトータルコストを検討するうえで、物流コスト の削減以上に大きな意味を持つのが、日本の消費税に当たる 「増値税」の最適化だ。
増値税の基本税率は現在17%。
ロジ スティクスの設計次第で、その実質的負担を低減し、キャッ シュフローを改善することができる。
物流コストより大きな要因  日系メーカーA社は欧州の販社に四〇日以上の在庫 を抱えていた。
これを削減するため、A社は中国の 生産子会社に調整在庫を置いて、欧州市場の販売動 向に合わせて中国から製品を輸送する体制を組もうと 考えた。
ところが、中国側の生産子会社が首を縦に 振らない。
これまで通り、完成した製品はすぐに輸 出して欧州側ですべて引き取るべきだと強く主張して きた。
その理由は、代金回収と輸出増値税の還付を 早く受けたいからというものであった。
 中国の生産子会社は、ここ数年で原材料・部品の 現地調達率を従来の二割から八割に引き上げてきた。
これによって保税輸入で調達していた原材料・部品が 国内品に切り替わったため、仕入れ価格の一七%に当 たる増値税を先払いしなければならなくなっていた。
 増値税とは日本の消費税に当たる付加価値税だ。
た だし、通常の付加価値税が国内取引だけを対象とし て、輸出品は免税となるのに対して、中国の増値税 は輸出品も対象になる。
通常は「内国品(一般貿易 で輸入した資材と中国国内品を指す)」の原材料・部 品を購入した時点で、増値税の支払いが発生する。
そ れを完成品に加工して輸出する段階では還付されるこ とになっているが、還付率が十三%の場合は差額の 四%分は返ってこない。
 A社の中国側の生産子会社では、それが新たなコ スト負担となっていた。
このうえさらに欧州販社の要 望で増値税還付のタイミングが後ろ倒しにされること になれば、いっそう資金繰りが厳しくなってしまうと いうわけである。
 A社からコンサルティングの依頼を受けた我々は、中 国におけるロジスティクスフローの検討に着手した。
そ の結果、生産子会社と同じ地域にある「保税物流園 区」に新たな在庫ポイントを設けて、物流の動線を大 きく変更することを提案した。
 図1は従来のフローである。
中国国内で調達した原 材料・部品は、各ベンダーにより中国生産子会社の工 場まで届けられ、工場内で仕入れ部材として一時保 管して、生産ラインに投入されていく。
製品が生産ラ インから出てきた後、完成品は工場でバンニングして すぐに輸出する。
 これを改め、内国品の部品・部材をいったん保税 物流園区に入れ、そこを経由した後に、生産子会社 の工場に保税輸入しようというのが我々の提案だ(図 2)。
工場では仕入れ部材として一時保管した後、生 産ラインに投入し、製品が生産ラインから出てきたら、 再び保税物流園区の在庫ポイントに輸出、保税物流園 区から欧州向けに出荷する。
 これによって物流段階は増えてしまう。
それだけ輸 送コストも増加する。
しかし、以下のような効果を試 算することができた。
?中国の生産子会社は、内国品原材料の増値税の先 払いがなくなり、約一・五カ月分のキャッシュフロ ーを改善することができる。
また、製品を輸出す る際の還付金と実際の納税額との差額による税負 担が解消され、調達のFOB(Free On Board:本 船積み込み渡し)価格の四%分の余分な負担をな くすことができる。
?欧州の販社側では、調整在庫をサプライチェーンの ?川上?の中国に置くことで、在庫の圧縮、倉庫内 の整流化が可能になる。
 結果として保税物流園区を経由することで発生す る倉庫費や輸送費を含めても、トータル物流費は従来 と比べて約一割削減することができる。
陳麗梅 日通総合研究所 ロジスティクスコンサルティング部 主任コンサルタント 物流ネットワークで国内需要を開拓第5部 特集 35  APRIL 2009 物流にかかわる増値税の仕組み  このように中国を介したロジスティクスを最適化す るには、増値税と保税物流園区という中国特有の二 つの制度とその活用法を十分に理解する必要がある。
まずは増値税から解説しよう。
ポイントは以下の五つ である。
?増値税の徴収対象となるもの ●中国国内で販売される物品 ●中国国内で提供される加工、修理、組み立ての 役務 ●海外からの輸入貨物 ?増値税の還付を受けられるもの ●増値税が徴収された内国貨物で、海外に輸出さ れる貨物 ●海外に貨物を輸出するとき、国内での加工、修 理、組立の役務により生じた付加価値 ?輸入貨物増値税の徴収のタイミング  輸入貨物増値税は、輸入通関のときに、税関が国 家税務局に代わって関税とともに徴収する。
ただし、 加工貿易を行う企業が、海外から調達してきた原材 料・部品等は保税のままで、生産ラインに投入するこ とができる。
製品を海外に輸出しないで、中国国内 の販売に切り替える場合は、その時点で初めて増値税 を支払う義務が発生する。
?輸出増値税の還付のタイミング  輸出通関が完了した時点。
ただし、保税区、保税 物流園区などの保税地域を経由する場合は、そのタ イミングが異なる。
例えば、保税区の場合は、搬入さ れた一ロットの貨物全量が船積みされた時点であるの に対して、保税物流園区の場合、園区に搬入した時 点であり、保税区より還付のタイミングが早いという 特徴がある。
?増値税の課税率と輸出増値税の還付率  増値税の基本課税率は一七%である(農産物等一部 は十三%)。
一方、輸出増値税の還付率は、品目よっ て主に、実質一七%、十三%、十一%、八%、五%、 〇%の多段階となっている。
 課税増値税率と輸出増値税還付率のギャップ分(不 還付の部分)は、輸出企業の負担となる。
例えば、中 国国内で価格一〇〇の原材料を調達し、それを加工 して価格二〇〇の製品を製造した企業が、それを海 外へ輸出販売する際には、次頁の表1のような税負 担が発生する。
 さらに表2に示すとおり、輸出者の売上高に占める 不還付額の比率は、〇%〜一七%で、不還付率(ギ ャップ)が高いほど、企業の実質税負担は高くなる。
ちなみにA社の中国生産子会社の場合、不還付額が 売上高の四%であったのに対し、物流コストは二%程 度に過ぎなかった。
つまり、不還付額が物流費より もずっと高いわけである。
 このように中国の増値税は、?増値税の課税率と 輸出増値税の還付率の不一致、?課税のタイミングの 違い、?輸出増値税の還付のタイミングの違い、とい う特徴をもつ。
これを踏まえてロジスティクスを設計 することで、企業は実質的な増値税の負担額を軽減 することができる。
ロジスティクスの設計によってキ ャッシュを生み出し、キャッシュフローを改善するこ とができるのである。
保税物流園区の上手な活用法  「保税物流園区」は、英文表記では「Bonded Logistics Park」であり、中国国内にありながら、外 国地域とみなされる国際物流特区である。
そのロジッ 図1 従来のフロー図2 改革後のフロー 海外 ベンダー (20%) 中国 ベンダー (80%) 中国 ベンダー (80%) 海外 ベンダー (20%) 保税輸入 内国品 保税輸入 内国品 増値税還付 付加価値部分 の増値税還付 A 社の 中国生産子会社 (保税工場) 原材料、部材の一時保管 生産ライン (欧州向けは月に1回生産) 工場コンテナ詰め A 社の 中国生産子会社 (保税工場) 原材料、部材の一時保管 生産ライン (欧州向けは月に1回生産) 日本 米国 欧州 日本 米国 欧州 保税物流園区 原材料:通過のみ 製品:一時保管 (欧州販社非居住者在庫) 保税輸入 船積み輸出 欧州輸出分 APRIL 2009  36 クはいたってシンプルだ。
中国国内から調達する原材 料・部品でも、いったん保税物流園区へ輸出す ることで、外国貨物とすることができる。
 こうして外国貨物となった原材料・部品を保税の 状態で中国国内に再び輸入し、加工によってで きた完成品を海外に輸出する。
これによって輸出企 業は、加工によって生じた付加価値には課税されて も、調達した原材料・部品にかかわる増値税の還付 率の差による負担からは逃れられる。
 日系企業は従来、日本をはじめとする海外から部品 を中国に保税輸入して、中国国内で加工を行い、出 来上がった製品を輸出することで、輸入増値税など 税制面の優遇を受けてきた。
しかしながら昨今、中 国国内における産業集積の進展により、現地調達す る部品の割合が大幅に上昇する一方、税制面での優 遇が受けられなくなっている。
 しかも日本企業の多くは中国の生産子会社を加工 工場と位置付け、親会社に利益をもたらすような取 引価格を設定している。
現地の生産子会社の資金力 は決して潤沢とは言えない。
生産子会社においては 資金繰りが最重要課題の一つとなる。
そのため、冒 頭に紹介したA社のケースように、中国の生産子会社 は一カ月一回の大ロット生産で、出来上がった製品を すぐに輸出して輸出増値税の還付を早期に受けたい と考えるわけである。
 在庫を現地生産子会社の工場倉庫に置き、需要側 で必要なときに必要な量を引っ張ってくるという、こ れまでのロジスティクスのメカニズムは、現在の中国 の加工貿易制度、増値税還付制度の下では働きにく いのである。
 そこで、注目すべきなのが保税物流園区の活用で ある。
貨物を日本の本社または輸出先の販社の名義 で非居住者在庫としていったん保税物流園区内の倉 庫に保管。
保管業務を受託した物流企業が発注に応 じて国際輸送するという仕組みである。
生産子会社 の責任範疇は、保税物流園区に輸出した時点で完結 する。
 保税物流園区と通常の「保税区」との違いはどこ かにあるかというと、保税区もまた区内に非居住者 名義で在庫できるという点ではなんら変わりはない。
ただし、前述のように保税区の輸出増値税還付のタ イミングは、区内に搬入された一ロットの全部が船積 みされた時点となるため、保管期間が長くなるほど、 輸出企業である生産子会社のキャッシュフローは悪化 する。
たとえば一ロットの貨物を二カ月かけて全量輸 出する場合、キャッシュフローは、二カ月分悪化する ことになる。
一方、保税物流園区の税還付は船積み の時期と関係なく、園区内に搬入した時点であるた め、この差は極めて大きなものがある。
 つまり保税物流園区の活用には、納税額と還付の ギャップを解消するというだけでなく、「搬入した時 点で増値税が還付される」というタイミングの違いに よって、キャッシュフローを改善する効果がある。
こ れが中国のロジスティクスを設計する上での重要な検 討要素となる。
 保税物流園区は、現在中国全国で八カ所ある。
そ の他に保税物流園区と同様の機能を有する保税地域 (「保税物流中心」、「保税港区」、「総合保税区」)があ る。
各保税地域の機能の違いや地域ごとの運用実態 の差もあるため、これらを充分に把握して活用する ことが必要である(表3)。
 もちろん保税物流園区を経由しさえすれば、すべ ての問題が解決するというわけではない。
保税物流 園区を使ったスキームを機能させるには、サプライヤ 表1 輸出企業のコスト負担 表2 輸出増値税の還付率の差による輸出企業の負担の変化 =不還付額(ギャップによる差額) =国内原材料増値税額+付加価値増値税額−輸出製品FOB 価格×輸出増値税還付率 =100×17%+100×17%−200×13%(輸出増値税の還付率13%の場合) =8(不還付による輸出企業の負担額) 17% 13% 11% 8% 5% 0% 0% 4% 6% 9% 12% 17% 0  8 12 18 24 34 0% 4% 6% 9% 12% 17% 輸出増値税の 還付率 輸出増値税の 不還付率 企業による負担 (不還付額) 不還付額の 売上高に占める比率 特集 37  APRIL 2009 ー、生産子会社、販社、日本本社、物流企業といっ たプレーヤー間における情報の共有や運用のルール作 りが必要である。
 たとえば、A社の場合は可視化が必要であった。
在 庫のロケーションを欧州から中国の保税物流園区に移 したことで、欧州販社側では目の前から在庫が消え、 ボリューム感を失う恐れがあった。
在庫のコントロー ルが杜撰になる懸念があったのである。
これを防ぐ ため、A社は協力物流会社のグローバルな在庫管理シ ステム(WMS)を活用し、SKU(Stock Keeping Unit)単位で在庫を可視化した。
 同時に中国生産子会社にも在庫を見えるようにし た。
従来、生産子会社は欧州側の在庫変動をつかむ ことができず、発注を待つしかなかった。
リアルタイ ムで販社の在庫の動きが見えるようになったことで、 生産子会社はその情報を生産計画に役立て、さらに はサプライヤーに事前情報として開示して、原材料の 調達リードタイム短縮を狙うことが可能になった。
 需給調整の仕組みも変更した。
それまでA社は、発 注権を各地域の販社に委ね、生産子会社には受注生 産という形をとらせてきた。
これを改め現在は、中国 の生産子会社が出荷実績に基づいて生産計画を立て、 欧州販社側でそれを修正する形に変更しようと試み ている。
これが機能すれば、今後は日本販社、米国 販社も同じ仕組みに移行させる考えだ。
 一方、保税物流園区に設置した新たな物流現場で は、保税物流園区の特徴の一つである混載機能に注 目した改善が行われている。
欧州販社が中国で調達 するアクセサリー品を保税物流園区に入れ、生産子会 社の製品と混載させて輸出することで、国際輸送コ ストを削減したのである。
 輸送梱包についても、従来は生産子会社の工場内 でコンテナ詰めしていたこともあって、強度に課題が あり、外装の損傷が少なくなかったが、改善には至っ ていなかった。
仕組みの見直しで新たに物流専業者 の運営する拠点が設置されたことから、この問題が 改めてクローズアップされ、日本本社の主導で本格的 な取り組みが始まっている。
中国ロジスティクスの留意点  日系企業にとって、中国物流が日本国内と決定的 に違うのは、加工貿易の要素が強く絡んでいること である。
中国でロジスティクスを設計するに当たって は、それを理解することが何より重要である。
 たとえば、テレビのセットメーカーと部品メーカー がそれぞれ中国の保税工場で保税生産しているとす る。
セットメーカーが部品メーカーから保税状態の部 品を調達し、この部品を使ってテレビを組み立て、こ れを中国国内で販売する場合には、輸入品としての 関税と増値税がかかる。
 ただし、部品調達段階で税金がかかる場合と製品 出荷段階でかかる場合では、セットメーカーが必要と する資金量は変わってくる。
その企業の取扱品目、原 価構成、輸出販売比率、原材料調達先等によっても、 税コストの負担率は異なり、アプローチの方法は変わ る。
充分な分析と実際的なコストへの落とし込みによ る検討が必要である。
 輸出品目に関する増値税還付税率の調整は、中国 の経済情勢、貿易支出のバランスおよび産業政策によ って今後も実施されていくことが予想される。
企業 のキャッシュ・損益に与える影響は引き続き大きいと いえよう。
そうした環境変化を日系企業は中国にお けるロジスティクスの設計に柔軟に反映させていかな ければならないのである。
陳麗梅(チン・リメイ) 中国厦門市生まれ、2001年流通科 学大学流通研究科修士課程修了、 日通総合研究所入社。
著書『実務 担当者のための最新中国物流』(共 著)、論文「中国におけるメーカ ーの物流展開について」ほか多数。
企業物流システム、中国、国際物 流システム構築のコンサルテーショ ンに携わっている。
表3 各種保税区の違い 機能保税区保税物流園区 (保税物流中心) 保税港区 (総合保税区) コンセプト保税展示、保税保管、 輸出加工、中継貿易 国際中継、国際配送、 国際購買、国際貿易 保税区+輸出加工区 +保税物流園区 輸入時関税・増値税支払 支払い留保 支払い留保 支払い留保 輸出時増値税還付 船積み後 搬入時 搬入時 輸出通関 先搬入後通関 先通関後搬入 先通関後搬入 分割出荷 可能 可能 中継機能 可能 可能 可能 非居住者在庫 可能 可能 可能 貨物の保管期間 明確な規定無し 明確な規定無し 定期報告 区内貨物所有権 非居住者資産、区内企業 非居住者資産、区内企業 非居住者資産、区内企業 保管料 1.2 〜 1.6 元/ FT・日 2.5 元/ FT・日 区内取引 免税扱い可能 免税扱い可能 免税扱い可能 国内販売 可能 可能 可能 決済通貨 外貨・人民元 外貨・人民元 外貨・人民元 検品事業 可能 不可 可能 設置数 15カ所 8カ所 7カ所 可能(ただし全量輸出後増 値税の納付となる)

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