2009年5月号
海外Report
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米IBM
MAY 2009 54
米IBMは昨年夏、「グリーン・シグマ」
と名付けたコンサルティング・ソリューショ
ンを発売した。
同社が長年かけて社内に蓄 積した環境対策のノウハウを、シックス・シ グマの手法を用いてサプライチェーンに導入 するものだ。
同社のシニア・コンサルタント であるルッカ・ベンチーニ氏が、商品開発に 至るまでの道筋と背景を語る。
(取材・構成 横田増生) 七〇年代から環境問題に取り組む I B Mは世界中で約一〇〇〇億ドル (九兆八〇〇〇億円)を売り上げ、従業員 三八万人を抱える国際企業です(二〇〇七年 十二月期)。
世間的にはいまだにコンピュータ のハードウエアメーカーというイメージから抜 けきれていませんが、実際に当社がそうであっ たのは一九六〇〜八〇年代のことで、九〇年 前半に多額の赤字を出して以降は、主力の業 務をハードからソフトウエアの製造やコンサル ティング業務にシフトしています。
直近の売上高の内訳でみると、社内で「グ ローバル・サービシーズ」と呼んでいる部門 が全体の六〇%弱を占めています。
ビジネ ス・コンサルティングやITアウトソーシン グ、システム・インテグレーションといったサー ビス業務全般を含む部門です。
その次はソフ トウエアの製造で二〇%強、ハードウエアの 製造は現在では二〇%弱にすぎません。
IBMは製造業がメインだった七〇年代か ら、積極的に環境問題に取り組んできました。
その始まりは、当社の中興の祖といわれる 当時のトーマス・ワトソンJr.社長が七一 年に、最初の環境保護政策を発表したこと にさかのぼります。
まだ環境問題に関心を払う製造業が少な かった七〇〜八〇年代に先進的な環境プログ ラムを立ち上げ、九〇年からは毎年、環境 報告書を公開するようになり、九七年には、 国際的な製造業者としては初めて全社一括で のISO14001(環境マネジメントシス テムに関する国際規格)を取得しました(図 1)。
このほかにも環境問題に関しては、世 界自然保護基金(WWF)や世界資源研究所、 米国環境保護庁(EPA)のクライメート・ リーダーズなどの外部の団体と協力してきま した。
こうした蓄積をベースにして当社は〇八年 夏に、 「グリーン・シグマ」というコンサルティ ング商品を発売しました。
グリーン・シグマ は三つの要素から成り立っています。
一つは、 「グリーン化=緑化」という環境対策の側面 であり、もう一つは製造業を中心に広く使 欧米SCM会議? 社内で蓄積した環境対策のノウハウを 「グリーン・シグマ」と名付け方法論化 米IBM 55 MAY 2009 われている「シックス・シグマ」という品質 改善手法であり、最後はインテグレイティッ ド・サプライチェーン(ISC)という考え 方です。
グリーン・シグマとは、シックス・シグマ を基盤にしたコンサルティングを通して、企 業活動全般を注意深く分析し、全体の効率 を高めながら、輸送システムやIT(情報技 術)システム、製造拠点や物流センター、事 務所など、電力や水そのほかの資源が使わ れる場所において、グリーン化を進めようと いうものです。
サプライチェーンをグリーン化することで、 企業にはどのようなメリットが発生するので しょうか。
一つには、従業員の満足度を高めること ができます。
企業の一員として働くことと、 責任ある市民として環境に配慮するという 対立しがちな二つのことを両立したいと願 う従業員は少なくありません。
そうした従 業員にとって、職場全体が環境問題に取り 組んでいることは、プラスの労働環境として 働きます。
二つ目は、社内外に対して、環境に配慮 している企業であるという、好印象を与え ることができます。
そして三つ目は、電力や水、ガ ソリンの使用量を減らしたり、梱 包資材を見直したりすることで、 利益につながります。
具体的には、 二酸化炭素の排出量や電力や水 資源の無駄な使用を減らす。
高 度な分析技術を使って有効な「カー ボン・フットプリント=二酸化炭 素の排出量の把握」や水資源管 理の方法を確立する。
さらに二酸 化炭素の排出権の取引などによっ て利益の拡大につなげる──こと が可能になります。
企業活動である限り、グリー ン化も従業員の満足度や企業イ メージといった抽象的な結果だ けにとどまっていては長続きし ません。
どうしても、売上高や 利益の増加、ROI(投資収益率)の向上 といった目に見える結果が必要となります。
当社では企業価値を高めるという側面から の尺度としてROIを使用しています。
シックス・シグマの手法を適用 グリーン・シグマという商品は、まだ売 り出したばかりで、実績がついてくるのは 今後のことになりますので、今回は、どう やって当社がグリーン・シグマというサプラ イチェーンに関する環境商品を開発してきた か、またそれは企業活動や経営にどのよう な影響を与えるのかを中心に話を進めたいと 思います。
シックス・シグマの手法の中心にあるのは 「測定することなしに管理することはできな い」という考え方です。
ゼネラル・エレクトリッ クやモトローラといったアメリカの大手製造 業者が、トヨタ自動車の生産方式に範をとり、 それを社内で発展させて構築した手法がシッ クス・シグマです。
グリーン・シグマでも、その手法を踏襲し ました(図2)。
具体的には以下の通りです。
?KPIの定義付け 該当企業の経営環境や業界などに合わせ て環境保護プログラムに関するKPI(重要 業績評価指標)を定義付ける。
?計量基準の確立 KPIの数値を測定するために計量する 基準を作る。
また基準をクリアするためのイ 図2 グリーン・シグマの手順 定義付け計量基準の 確立 炭素排出の 測定器の設置業務の最適化 継続した 実績の コントロール 1971 年 1976 年 1989 年 1990 年 1992 年 1994 年 1997 年 2005 年 2006 年 2008 年 図1 IBM の環境の取り組みの足跡 IBMの中興の祖T.ワトソンJr. 社長がIBM 最初の環境保護ポリシーを発表 社内報ThinkがIBMの省エネと環境プログラムを特集 最初の製品回収プログラムをスタート 毎年の環境報告書を発行し始める この間、CO2の排出量を45%削減する 米環境保護局の「エネルギー・スター・プログラム」のメンバーとなる 資材の再利用やリサイクルのためのネットワークを確立する 全社的に環境マネジメントシステムの国際規格「ISO14001」を取得する この間、有害廃棄物の排出量を95%減らす 環境への取り組みを含む「グローバル・イノベーション・アウトルック2.0」を発表 2000 億ドルを投資して「ビッグ・グリーン・イノベーション事業」を立ち上げる コンサルティング商品である「グリーン・シグマ」を発売 1990〜 2006 年 1998〜 2007 年 MAY 2009 56 ンフラ作りをサポートする。
?二酸化炭素排出の測定器の設置 KPIや計量基準などのデータを集計して、 その結果をネット上で公開する。
ネットワー クの見直しや、炭素排出権取引のための足 掛かりとする。
?業務の最適化 シックス・シグマの手法を応用して、エネ ルギーの使用量や、炭素の排出量の多い業務 プロセスを分析し、問題を改善することで、 最適化を果たす。
?継続した実績のコントロール IBMのコンサルティングチームが、顧客 が継続して環境に配慮したプログラムを改 善できるように業務内容を監視する。
また、 企業内でのベストプラクティスを探し出し、 水平展開を図ることで、グリーン・シグマへ の投資効果を引き上げる。
ボランティア活動を中心に 図3は電力や水資源の利用といった環境 に負荷をかける項目を、サプライチェーンの 活動ごとに整理したものです。
このうち丸 で囲んだ部分が、環境対策の中心となるエリ アです。
さらに、このうちのどの項目を改善する のかを判断するには、その活動にどれだけ の資源が使われているのかを把握しなけれ ばなりません。
といっても、小数点以下ま で求めるような厳密な測定は必要ありません。
大まかな数値を押さえるだけでも改善のター ゲットを定めるには十分です。
図4に挙げたのは、IBM社内の電力消 費を測定した結果です。
電力消費の大きな エリアは三つあることがわかります。
消費量 の大きな順番に、データセンターにおけるデー タセンター用の設備、事務所の空調、工場に おける製造工程──です。
この中で当社が 削減に取り組んだのは、二番目の事務所の 空調と三番目の工場における製造工程でした。
どうして一番消費量の多かったデータセ ンターの部分をそのままにしたかといえば、 ここでの電力の消費を抑えようとすれば、デー タセンターで保存するデータが自由に読みと れなくなったり、最悪の場合には消失して しまったりする危険があったからです。
いく ら環境保護のためとはいえ、経営全般に甚 大な影響を及ぼす危険を冒すことはできま せん。
また事務所の空調にしても、無駄な部分 は削減しなければなりませんが、電気の消 費量を抑えようとして、真夏でも真冬でも 空調を切ってしまえば、働く従業員の作業 効率の低下を招きます。
室内温度を何度に 保つのか、工場なら、製造工程のうちどこ ならば、効率を落とさずに電気の消費量を 削減できるのかをきめ細かく判断して基準 を作っていく必要があるのです。
IBMは環境問題に取り組む上で、社内 からボランティアを募り、五つの機能を持つ チームを作りました。
従来のような独立した 事業部門を作らなかったのは、企業にとっ 図3 サプライチェーンにおける環境負荷 調達/サプライヤー ロジスティクス 梱包 カスタマーフルフィルメント 製造 在庫 拡販計画 製品開発 データセンター サイト/ロケーション 従業員 顧客/協力業者 CO2 の排出排水都市 ゴミ 梱包 資材 電力の 利用 水の 利用 生物 多様性 空調 場所 用途 10% 65% 20% … 5% … 28% 30% 25% 20% … 10% 15% 13% 27% 22% 16% 14% 13% 8% 100% 工場データ センター事務所研究所合計 図4 電力消費量と削減ターゲット データセンター 用の設備 社内の 発電装置 製造工程 照明 電化製品 合計 50% … … … 25% 25% 28% 20% … 25% 45% 10% … 30% 57 MAY 2009 ての環境対策は、まだそれ自体が大きな利 益を生みだすような構造にはなっていないか らです。
各部門の責任者を明確にして、後 は従業員の自発的な活動を主体にしました。
組織体制の一番上には、IBM全体の環 境対策の戦略を練り、それを管理するチーム があります。
その下に、エネルギー部門、包 装とロジスティクス部門、リサイクル部門、 サプライヤー管理部門──の四つの部門を配 置しました(図5)。
ツールとしてはネット上の社内掲示板であ る「Thinkplace」を利用しました。
そこで 従業員から環境対策のアイデアを募ります。
各部門の担当者がそれを見て、アイデアの可 否を判断し、よければゴーサインを出します。
それを従業員がそれぞれの持ち場で実践す るのです。
環境対策で特許の申請も ボランティア活動を中心としながら、求心 力を保つためには、その活動内容をきちん と評価する仕組みが不可欠です。
実績を上 げた従業員は、四半期ごとに「グリーン・スター 賞」として表彰しています。
以下に挙げるのは、 当社の環境対策に効果をもたらしたと評価 された各部門の取り組みです。
●包装とロジスティクス部門 中国の深圳のロジスティクスの調達部門 が、中国内の複数のベンダーに働きかけて、 それまでバブルラッピングだけを使って包 装していたのを改め、再利用できるバブル ラッピングと紙を組み合わせて使うことに しました。
これによって一年間で三九〇万 ドル(三億八二二〇万円)のコスト削減と、 二九六トンの資源の無駄を削減することがで きました。
●リサイクル部門 アイルランドの首都ダブリンの事務所では、 事務所から出る紙やビンなどのゴミの分別を 徹底しました。
その結果、資源ごみのリサイ クル率がそれまでより五八%増加しました。
●サプライヤー管理部門 イタリアのカスタマー・フルフィルメント部 門は、ベンダーとの送り状などをのやり取りを、 IBMの?e-Tools?というコミュニケーショ ンツールを使って、オンライン化することに 成功しました。
それにより年間で五万通の 封筒と書類を削減して、一四万五〇〇〇ド ル(一四二一万円)のコスト削減につなげ ることができました。
ミネソタ州ローチェスターの工場では、あ るベンダーと共同で、新品同様に機能する、 再生樹脂を利用したコンピュータを開発する ことに成功しました。
その結果、さらに昨 年には二〇万ドル(一九六〇万円)のコス ト削減が実現しました。
今年はその効果が 一〇〇万ドル(九八〇〇万円)に達するこ とが見込まれています。
ニューヨーク州エンディコットでは、ウェ ハー(集積回路の基板となる半導体単結晶 の薄板)のパターン付けを外した後で、太陽 電池の製造業者に販売することに成功しま した。
ウェハーを売却した金額とこれまでウェ ハーを廃棄処分するのにかかっていた金額が IBMの利益となりました。
IBMは現在、 この技術の特許を申請しています。
こうした社内の成功例を全社で共有する ことで、サプライチェーン全体をグリーン化 する運動はIBM全社に広がりつつあります。
IBMは、こうして社内で培ったノウハウに さらに磨きをかけることで、グリーン・シグ マというコンサルティング業務を外販してい きたいと考えています。
1 ド ル = 98円 で 換 算 図5 サプライチェーンの緑化を進める5 つの機能 エネルギー 従業員の参加 協力業者と顧客、 IBM が一体と なって取り組む ▶包装とロジ業務 についての教育 ▶SC の“ 緑化”に ついてのベストプ ラクティスの共有 ▶環境への意識を 高めたり実践し たりすることを通 して廃棄物を削 減する ▶廃棄物の削減や リサイクル、再 利用を促進する ▶紙や森林資源 ▶レンタルやリース ▶製品デザイン ▶SCにおける温室 効果ガスの排出 工場や事務所に おける廃棄物の 削減と再利用 契約や製品、 ポリシーの算定 電気のコストと 消費量を削減 ▶工場 ▶SC 関連サイト ▶事務所 ▶意識を高め改善を推進する ▶ネット上の掲示板(=Thinkplace)を利用して従業員のアイデアを募る ▶従業員の成功例をベストプラクティスとして共有する 包装と ロジスティクス リサイクルサプライヤー管理 全体的な戦略と管理のチーム
同社が長年かけて社内に蓄 積した環境対策のノウハウを、シックス・シ グマの手法を用いてサプライチェーンに導入 するものだ。
同社のシニア・コンサルタント であるルッカ・ベンチーニ氏が、商品開発に 至るまでの道筋と背景を語る。
(取材・構成 横田増生) 七〇年代から環境問題に取り組む I B Mは世界中で約一〇〇〇億ドル (九兆八〇〇〇億円)を売り上げ、従業員 三八万人を抱える国際企業です(二〇〇七年 十二月期)。
世間的にはいまだにコンピュータ のハードウエアメーカーというイメージから抜 けきれていませんが、実際に当社がそうであっ たのは一九六〇〜八〇年代のことで、九〇年 前半に多額の赤字を出して以降は、主力の業 務をハードからソフトウエアの製造やコンサル ティング業務にシフトしています。
直近の売上高の内訳でみると、社内で「グ ローバル・サービシーズ」と呼んでいる部門 が全体の六〇%弱を占めています。
ビジネ ス・コンサルティングやITアウトソーシン グ、システム・インテグレーションといったサー ビス業務全般を含む部門です。
その次はソフ トウエアの製造で二〇%強、ハードウエアの 製造は現在では二〇%弱にすぎません。
IBMは製造業がメインだった七〇年代か ら、積極的に環境問題に取り組んできました。
その始まりは、当社の中興の祖といわれる 当時のトーマス・ワトソンJr.社長が七一 年に、最初の環境保護政策を発表したこと にさかのぼります。
まだ環境問題に関心を払う製造業が少な かった七〇〜八〇年代に先進的な環境プログ ラムを立ち上げ、九〇年からは毎年、環境 報告書を公開するようになり、九七年には、 国際的な製造業者としては初めて全社一括で のISO14001(環境マネジメントシス テムに関する国際規格)を取得しました(図 1)。
このほかにも環境問題に関しては、世 界自然保護基金(WWF)や世界資源研究所、 米国環境保護庁(EPA)のクライメート・ リーダーズなどの外部の団体と協力してきま した。
こうした蓄積をベースにして当社は〇八年 夏に、 「グリーン・シグマ」というコンサルティ ング商品を発売しました。
グリーン・シグマ は三つの要素から成り立っています。
一つは、 「グリーン化=緑化」という環境対策の側面 であり、もう一つは製造業を中心に広く使 欧米SCM会議? 社内で蓄積した環境対策のノウハウを 「グリーン・シグマ」と名付け方法論化 米IBM 55 MAY 2009 われている「シックス・シグマ」という品質 改善手法であり、最後はインテグレイティッ ド・サプライチェーン(ISC)という考え 方です。
グリーン・シグマとは、シックス・シグマ を基盤にしたコンサルティングを通して、企 業活動全般を注意深く分析し、全体の効率 を高めながら、輸送システムやIT(情報技 術)システム、製造拠点や物流センター、事 務所など、電力や水そのほかの資源が使わ れる場所において、グリーン化を進めようと いうものです。
サプライチェーンをグリーン化することで、 企業にはどのようなメリットが発生するので しょうか。
一つには、従業員の満足度を高めること ができます。
企業の一員として働くことと、 責任ある市民として環境に配慮するという 対立しがちな二つのことを両立したいと願 う従業員は少なくありません。
そうした従 業員にとって、職場全体が環境問題に取り 組んでいることは、プラスの労働環境として 働きます。
二つ目は、社内外に対して、環境に配慮 している企業であるという、好印象を与え ることができます。
そして三つ目は、電力や水、ガ ソリンの使用量を減らしたり、梱 包資材を見直したりすることで、 利益につながります。
具体的には、 二酸化炭素の排出量や電力や水 資源の無駄な使用を減らす。
高 度な分析技術を使って有効な「カー ボン・フットプリント=二酸化炭 素の排出量の把握」や水資源管 理の方法を確立する。
さらに二酸 化炭素の排出権の取引などによっ て利益の拡大につなげる──こと が可能になります。
企業活動である限り、グリー ン化も従業員の満足度や企業イ メージといった抽象的な結果だ けにとどまっていては長続きし ません。
どうしても、売上高や 利益の増加、ROI(投資収益率)の向上 といった目に見える結果が必要となります。
当社では企業価値を高めるという側面から の尺度としてROIを使用しています。
シックス・シグマの手法を適用 グリーン・シグマという商品は、まだ売 り出したばかりで、実績がついてくるのは 今後のことになりますので、今回は、どう やって当社がグリーン・シグマというサプラ イチェーンに関する環境商品を開発してきた か、またそれは企業活動や経営にどのよう な影響を与えるのかを中心に話を進めたいと 思います。
シックス・シグマの手法の中心にあるのは 「測定することなしに管理することはできな い」という考え方です。
ゼネラル・エレクトリッ クやモトローラといったアメリカの大手製造 業者が、トヨタ自動車の生産方式に範をとり、 それを社内で発展させて構築した手法がシッ クス・シグマです。
グリーン・シグマでも、その手法を踏襲し ました(図2)。
具体的には以下の通りです。
?KPIの定義付け 該当企業の経営環境や業界などに合わせ て環境保護プログラムに関するKPI(重要 業績評価指標)を定義付ける。
?計量基準の確立 KPIの数値を測定するために計量する 基準を作る。
また基準をクリアするためのイ 図2 グリーン・シグマの手順 定義付け計量基準の 確立 炭素排出の 測定器の設置業務の最適化 継続した 実績の コントロール 1971 年 1976 年 1989 年 1990 年 1992 年 1994 年 1997 年 2005 年 2006 年 2008 年 図1 IBM の環境の取り組みの足跡 IBMの中興の祖T.ワトソンJr. 社長がIBM 最初の環境保護ポリシーを発表 社内報ThinkがIBMの省エネと環境プログラムを特集 最初の製品回収プログラムをスタート 毎年の環境報告書を発行し始める この間、CO2の排出量を45%削減する 米環境保護局の「エネルギー・スター・プログラム」のメンバーとなる 資材の再利用やリサイクルのためのネットワークを確立する 全社的に環境マネジメントシステムの国際規格「ISO14001」を取得する この間、有害廃棄物の排出量を95%減らす 環境への取り組みを含む「グローバル・イノベーション・アウトルック2.0」を発表 2000 億ドルを投資して「ビッグ・グリーン・イノベーション事業」を立ち上げる コンサルティング商品である「グリーン・シグマ」を発売 1990〜 2006 年 1998〜 2007 年 MAY 2009 56 ンフラ作りをサポートする。
?二酸化炭素排出の測定器の設置 KPIや計量基準などのデータを集計して、 その結果をネット上で公開する。
ネットワー クの見直しや、炭素排出権取引のための足 掛かりとする。
?業務の最適化 シックス・シグマの手法を応用して、エネ ルギーの使用量や、炭素の排出量の多い業務 プロセスを分析し、問題を改善することで、 最適化を果たす。
?継続した実績のコントロール IBMのコンサルティングチームが、顧客 が継続して環境に配慮したプログラムを改 善できるように業務内容を監視する。
また、 企業内でのベストプラクティスを探し出し、 水平展開を図ることで、グリーン・シグマへ の投資効果を引き上げる。
ボランティア活動を中心に 図3は電力や水資源の利用といった環境 に負荷をかける項目を、サプライチェーンの 活動ごとに整理したものです。
このうち丸 で囲んだ部分が、環境対策の中心となるエリ アです。
さらに、このうちのどの項目を改善する のかを判断するには、その活動にどれだけ の資源が使われているのかを把握しなけれ ばなりません。
といっても、小数点以下ま で求めるような厳密な測定は必要ありません。
大まかな数値を押さえるだけでも改善のター ゲットを定めるには十分です。
図4に挙げたのは、IBM社内の電力消 費を測定した結果です。
電力消費の大きな エリアは三つあることがわかります。
消費量 の大きな順番に、データセンターにおけるデー タセンター用の設備、事務所の空調、工場に おける製造工程──です。
この中で当社が 削減に取り組んだのは、二番目の事務所の 空調と三番目の工場における製造工程でした。
どうして一番消費量の多かったデータセ ンターの部分をそのままにしたかといえば、 ここでの電力の消費を抑えようとすれば、デー タセンターで保存するデータが自由に読みと れなくなったり、最悪の場合には消失して しまったりする危険があったからです。
いく ら環境保護のためとはいえ、経営全般に甚 大な影響を及ぼす危険を冒すことはできま せん。
また事務所の空調にしても、無駄な部分 は削減しなければなりませんが、電気の消 費量を抑えようとして、真夏でも真冬でも 空調を切ってしまえば、働く従業員の作業 効率の低下を招きます。
室内温度を何度に 保つのか、工場なら、製造工程のうちどこ ならば、効率を落とさずに電気の消費量を 削減できるのかをきめ細かく判断して基準 を作っていく必要があるのです。
IBMは環境問題に取り組む上で、社内 からボランティアを募り、五つの機能を持つ チームを作りました。
従来のような独立した 事業部門を作らなかったのは、企業にとっ 図3 サプライチェーンにおける環境負荷 調達/サプライヤー ロジスティクス 梱包 カスタマーフルフィルメント 製造 在庫 拡販計画 製品開発 データセンター サイト/ロケーション 従業員 顧客/協力業者 CO2 の排出排水都市 ゴミ 梱包 資材 電力の 利用 水の 利用 生物 多様性 空調 場所 用途 10% 65% 20% … 5% … 28% 30% 25% 20% … 10% 15% 13% 27% 22% 16% 14% 13% 8% 100% 工場データ センター事務所研究所合計 図4 電力消費量と削減ターゲット データセンター 用の設備 社内の 発電装置 製造工程 照明 電化製品 合計 50% … … … 25% 25% 28% 20% … 25% 45% 10% … 30% 57 MAY 2009 ての環境対策は、まだそれ自体が大きな利 益を生みだすような構造にはなっていないか らです。
各部門の責任者を明確にして、後 は従業員の自発的な活動を主体にしました。
組織体制の一番上には、IBM全体の環 境対策の戦略を練り、それを管理するチーム があります。
その下に、エネルギー部門、包 装とロジスティクス部門、リサイクル部門、 サプライヤー管理部門──の四つの部門を配 置しました(図5)。
ツールとしてはネット上の社内掲示板であ る「Thinkplace」を利用しました。
そこで 従業員から環境対策のアイデアを募ります。
各部門の担当者がそれを見て、アイデアの可 否を判断し、よければゴーサインを出します。
それを従業員がそれぞれの持ち場で実践す るのです。
環境対策で特許の申請も ボランティア活動を中心としながら、求心 力を保つためには、その活動内容をきちん と評価する仕組みが不可欠です。
実績を上 げた従業員は、四半期ごとに「グリーン・スター 賞」として表彰しています。
以下に挙げるのは、 当社の環境対策に効果をもたらしたと評価 された各部門の取り組みです。
●包装とロジスティクス部門 中国の深圳のロジスティクスの調達部門 が、中国内の複数のベンダーに働きかけて、 それまでバブルラッピングだけを使って包 装していたのを改め、再利用できるバブル ラッピングと紙を組み合わせて使うことに しました。
これによって一年間で三九〇万 ドル(三億八二二〇万円)のコスト削減と、 二九六トンの資源の無駄を削減することがで きました。
●リサイクル部門 アイルランドの首都ダブリンの事務所では、 事務所から出る紙やビンなどのゴミの分別を 徹底しました。
その結果、資源ごみのリサイ クル率がそれまでより五八%増加しました。
●サプライヤー管理部門 イタリアのカスタマー・フルフィルメント部 門は、ベンダーとの送り状などをのやり取りを、 IBMの?e-Tools?というコミュニケーショ ンツールを使って、オンライン化することに 成功しました。
それにより年間で五万通の 封筒と書類を削減して、一四万五〇〇〇ド ル(一四二一万円)のコスト削減につなげ ることができました。
ミネソタ州ローチェスターの工場では、あ るベンダーと共同で、新品同様に機能する、 再生樹脂を利用したコンピュータを開発する ことに成功しました。
その結果、さらに昨 年には二〇万ドル(一九六〇万円)のコス ト削減が実現しました。
今年はその効果が 一〇〇万ドル(九八〇〇万円)に達するこ とが見込まれています。
ニューヨーク州エンディコットでは、ウェ ハー(集積回路の基板となる半導体単結晶 の薄板)のパターン付けを外した後で、太陽 電池の製造業者に販売することに成功しま した。
ウェハーを売却した金額とこれまでウェ ハーを廃棄処分するのにかかっていた金額が IBMの利益となりました。
IBMは現在、 この技術の特許を申請しています。
こうした社内の成功例を全社で共有する ことで、サプライチェーン全体をグリーン化 する運動はIBM全社に広がりつつあります。
IBMは、こうして社内で培ったノウハウに さらに磨きをかけることで、グリーン・シグ マというコンサルティング業務を外販してい きたいと考えています。
1 ド ル = 98円 で 換 算 図5 サプライチェーンの緑化を進める5 つの機能 エネルギー 従業員の参加 協力業者と顧客、 IBM が一体と なって取り組む ▶包装とロジ業務 についての教育 ▶SC の“ 緑化”に ついてのベストプ ラクティスの共有 ▶環境への意識を 高めたり実践し たりすることを通 して廃棄物を削 減する ▶廃棄物の削減や リサイクル、再 利用を促進する ▶紙や森林資源 ▶レンタルやリース ▶製品デザイン ▶SCにおける温室 効果ガスの排出 工場や事務所に おける廃棄物の 削減と再利用 契約や製品、 ポリシーの算定 電気のコストと 消費量を削減 ▶工場 ▶SC 関連サイト ▶事務所 ▶意識を高め改善を推進する ▶ネット上の掲示板(=Thinkplace)を利用して従業員のアイデアを募る ▶従業員の成功例をベストプラクティスとして共有する 包装と ロジスティクス リサイクルサプライヤー管理 全体的な戦略と管理のチーム
