2009年5月号
道場
道場
提案依頼書(RFP)の作り方【その1】
MAY 2009 76
ら名刺交換をする。
名刺によると、より偉そう な人は物流部を担当する役員だった。
一通り挨拶を交わし、ソファに腰を下ろすと 物流部長氏が話を切り出した。
ちょっと緊張気 味だ。
「お忙しいところお時間を取っていただき ‥‥」から始まり、会社や自分たちの紹介を簡 潔に済ます。
てきぱきとしていて、切れ者とい う印象だ。
物流部長は、これまで工場を中心に仕事をし てきて、半年前に現職に就いたそうだ。
物流へ の異動はまったく予期していなかったという。
役 員氏によると、社長が物流の抜本的な改革をや らせたいということで彼に白羽の矢を立てたそ うだ。
その話を受けて、大先生が質問する。
「それでは、半年間は自社の物流を勉強したっ てことですね。
不可解なことがたくさんあった のではないですか?」 大先生の言葉に部長氏がわが意を得たりとい った感じで答える。
「実は、おっしゃるとおりでした。
そういうこ とって、うちに限らずよくあることなんでしょ うか?」 「他の部署から初めて物流に来た人は、最初は 多くの方がそういう印象を持つようです。
しか し、また多くの方が、そのうちそこに埋没して しまうようです。
困ったことです。
あなたがそ うならないことを願います」 部長氏が、苦笑しながら素直に「はい」と頷 荷主がパートナー候補の物流企業に提示する提案依頼 書。
その作り方次第でアウトソーシングの成否は大きく左 右される。
しかも、物流企業は提案依頼書から、荷主の 姿勢と真意を値踏みしている。
料金を叩くしか念頭にな いことが透けて見えれば、そっぽを向かれても仕方ない。
湯浅和夫の 湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第67回》 提案依頼書(RFP)の作り方【その1】 大先生の日記帳編 第20 回 物流を限りなくシンプルに 午後からコンサル依頼の来客があるというの で、今日は二人の弟子も事務所でスタンバイし ている。
そのお客は、ある中堅メーカーの物流 部長で、アウトソーシングの支援をしてほしいと いう依頼でくるらしい。
このところ、物流をアウトソーシングするとい う動きが静かに、しかし大きなうねりのように 広がっている。
アウトソーシングすれば物流コス トが下がるという錯覚が蔓延しているようだ。
ある物流業者は、コンペへの参加要請が引っ 切り無しに舞い込んで対応しきれないほどにな り、コンペを選ぶ状況になっているという。
コ ンペの中には現状のままの物流を何%ダウンで できるか提案しろという単にコストを下げるこ とを強いるだけのものも少なくないので、それ らは敬遠しているそうだ。
それは荷主が出してくる「RFP( Request For Proposal :提案依頼書)」を見ればわかる という。
いい加減なRFPが横行しているらし い。
そんな話を耳にしているところに、この依頼 があった。
一体どんな話をしにくるのか、大先 生も今日の来客には興味を持っている。
約束の時間通りに依頼者が事務所を訪れた。
物 流部長であるらしい人と、より偉そうな人と二 人で来訪した。
弟子たちも含め入れ替わりなが 85 77 MAY 2009 き、ちょっと座り直して、本題を切り出す。
「実は今日お邪魔しましたのは、私どもの物 流を本格的にアウトソーシングしたいと思いまし て、そのご支援をお願いにまいったわけです」 余計な前置きや経緯の説明なしに来訪の目的 を最初に切り出す。
大先生が、好感を持ったよ うな表情で頷く。
大先生としては、目的がはっ きりしたので対応しやすい。
部長氏が続ける。
「実は、物流部長を拝命したとき、社長から 『物流を限りなくシンプルにしてくれ。
そのため に必要なあらゆる方策を考えろ。
聖域は一切設 けるな』という言葉をいただきました」 「へー、シンプルにしろとおっしゃったんです か?」 大先生が興味深そうに聞く。
役員氏がすぐに 補足する。
「はい、社長の口癖なんです。
『物事を複雑に するな、本質を見失うな』ということで、会話 の中にも『要するに何だ?』という問い掛けが たびたび登場します」 大先生が大きく頷くのを見て、部長氏が続け る。
「はい、社長の言葉を借りれば、『要するに物 流は、お客様が必要とするものを必要なときに 届けることだ。
お客様と工場を結ぶシンプルな 仕組みを作れ』ということです。
社長はおそら く先生のご本を読んだりしたことはないでしょ うが、その考えは先生とご一緒ですよね?」 「それで、うちに来た?」 大先生の確認に部長氏が「それもありますが、 ある本で先生が書かれていたアウトソーシングに ついてのお話に共感を覚えたこともあります」 と答える。
そのままアウトソーシングするな 部長氏の答えに弟子たちが興味を持ったよう に、身を乗り出す。
それを察して、部長氏が補 足の説明をする。
「たしかこういうことです。
『アウトソーシン グは、物流業者にできることはすべて物流業者 に任せて、荷主の物流部は自分たちにしかでき ないことをやるという役割分担だ』というご主 張だったと思うのですが、この言葉にいたく共 感を覚えたのです。
当たり前と言えば当たり前 なんですが、物流をシンプルにという本質をこ こに見たような気がしたのです。
先生を前に生 意気なことを申し上げてるかもしれませんが‥ ‥」 大先生が「別に」と言って、「まあ、シンプル というのは、当たり前なことを当たり前にやれ ってことですから」と付け足す。
その言葉を聞 いて部長氏が「そうなんです」と言って、自分 の思いを話す。
「これまでわずかな期間ですが、わが社の物 流を見て感じたのが、当たり前なことが当たり 前に行われていないということです。
まさに先 ほど先生がおっしゃった不可解なことが多々あ りました。
なぜそんなことになっているのかと 問い質すと、いろいろ理由が出てきます。
ただ、 私が問題に思うのは、その理由を排除しようと いう取り組みがこれまでまったくと言っていい ほどなされてこなかったということです。
わが 社だけかもしれませんけど、物流部というとこ ろは受身というか遠慮の塊みたいなところだな というのが私の実感です」 遠慮の塊という言葉にみんなが反応し苦笑を 漏らす。
大先生がコメントする。
「まあ、御社に限ったことではありませんが、 物流部としては、言ってもどうせ聞いてくれな いという諦めの習性ができているんでしょう。
そ れだけ他の部門が物流に対して傍若無人だった ってことでもある」 役員氏が「なるほど」と言って頷き、部長氏 に確認するように話す。
「遠慮の塊に傍若無人ですか。
それでは、シン プルさとは程遠い存在になってしまうのも無理 ないですね。
それは、あれですね、社内でそう なんだから、外部の物流業者とは特にありえる ことですね。
アウトソーシングするにあたって注 意すべきことだね」 部長氏が「おっしゃるとおりです。
そこは十 分注意します」と頷き、大先生に向かって自分 の思いを口にする。
コンサル依頼の本題に入っ てきたようだ。
MAY 2009 78 「それから、これもまったくそのとおりだと思 うのですが、『現状の物流をそのままアウトソー シングするな。
ムダを残したままアウトソーシン グしたら、そのムダは永遠になくならない。
ア ウトソーシングする前に自社の物流を徹底的に見 直せ』というご指摘です。
アウトソーシングに あたっては、是非そこから入りたいと思います。
それをベースにRFPを作りたいと思っていま す。
そのRFP作りからコンペ、契約、移行後 の評価までご支援をお願いしたいというのが私 どもの考えです」 アウトソーシングでコストは下がる? 大先生が「楽しそうな仕事になりそうだ」と いうように大きく頷き、「お考えはわかりました。
一緒にやりましょう」と了解する。
弟子たちが 頭を下げる。
役員氏が「よろしくお願いします」 と頭を下げ、部長氏を見て、「せっかくご支援を いただくのだから、君は遠慮せず、社内の傍若 無人な輩を蹴散らしてくれればいい。
私も応援 する」と発破を掛ける。
「はい、先生を盾にして頑張ります」 部長氏がちょっとハイな気分になったのか、意 外な茶目っ気を見せる。
弟子たちが、びっくりし たように部長氏の顔を見る。
これまでどちらか というと堅物の優等生という印象を持っていた が、そうではない一面を持っているようだ。
弟 子たちの表情を見て、役員氏が弟子たちに向か 役員氏の話を聞いて、弟子たちが感嘆の表情 を見せる。
美人弟子が「社長さんはそこまでお 考えになったのですか。
社長さんも選ばれた方 も立派ですね」と思いを口にする。
体力弟子が 「アウトソーシングが成功するかどうかの第一条 件はそれを担当する方の人柄にあると言われる んですが、第一条件はクリアしてますね」と付 け加える。
弟子たちに褒められて、部長氏が照れ臭そう に「またまた」と言って、頭に剣を振りかぶる 仕草をして、弟子たちに振り下ろす真似をする。
大先生が思いっきり呆れた顔をし、「上段の構 えか、冗談にかけた?」と呟く。
弟子たちが呆 気にとられた顔をし、吹き出す。
役員氏に本性 をばらされ、部長氏の鎧が一気に脱げ落ちたよ うだ。
大先生が「先が思いやられる」とぶつぶ つ言いながら、「ちょうどいい機会だから、少し 雑談をしよう」と部長氏に言う。
その言葉に部 長氏の顔が一気に締まった。
「そんな恐い顔しなくてもいいですよ。
雑談な んだから」 大先生がくだけた物言いで、部長氏の警戒心 を解く。
部長氏が「はい」と言って、顔をほこ ろばせる。
大先生がおもむろに聞く。
「漠とした聞き方をするけど、自由に答えてく れればいいです。
部長は、アウトソーシングする と物流コストが下がると思う?」 大先生の質問に部長氏がすぐに答える。
って楽しそうに解説する。
「彼は初対面ではとっつき難い印象を持たれ るようですが、それは彼の緊張のなせるわざで す。
特に、今日はかなり固くなっているようで す。
ですが、慣れるに従って本性を現しますの で、びっくりしないでください。
おやじギャグ の天才といえば、どんなやつかわかるでしょ? あっ、でも人情家です。
社長がアウトソーシング もあり得ると思って彼を選んだのは、彼なら物 流業者に無理強いすることはないだろうという 判断からです」 湯浅和夫の Illustration©ELPH-Kanda Kadan 79 MAY 2009 「正直わかりません。
もちろん私は物流コスト を下げるつもりでいますが、それは主に自社物 流の見直しで下げるつもりです。
アウトソーシン グそれ自体でもコストが下がればそれに越した ことはないですし、そういう業者さんと出会え ればいいですが、アウトソーシング自体はコスト 削減の目的ではなく、コスト削減へのきっかけ だと考えてます。
漠とした答で申し訳ありませ ん」 部長氏の答えに大先生が意味深な笑顔を見せ る。
部長氏がちょっと引く。
それを見て、大先 生が言葉を掛ける。
「優等生的な答えだけど、どうやら本気でそう 思っているようなので、その言葉はいただいて おきます」 部長氏が頷く。
役員氏が「彼は、建前は言い ませんので。
特に雑談では‥‥」と妙なフォロ ーをする。
弟子たちが思わず苦笑する。
最初の 印象とは違いおもしろい二人だ。
大先生が形勢 を立て直すかのように質問を続ける。
RFPの本質とは何か 「先ほどRFPっておっしゃいましたが、その 本質は何だと思います?」 部長氏が「はい」と言いながら、なぜか辛そ うな顔をする。
ちょっと間を置いて言葉を選ぶ ように話し出す。
「実は、私、ある工場にいたときに情報システ ムの導入にかかわったことがあるんです。
その ときは結構細かく対象となる業務内容を規定し て、その範囲内でシステムを作るよう要求しま した。
もっとも、こちらの見落としなどもあっ て、変更や追加の要求を何度か出したりもしま した」 大先生が「興味深い返事が来そうだな」とい う感じで頷く。
部長氏が続ける。
「ところが、その結果は、多額の費用を掛けた 割にはそれに見合う効果が出ませんでした。
お 恥ずかしい話なんですが、それまでのやり方と 比べてどんな好ましい状態になったのかという と、あまり大差なかったんです。
むしろ、こん な面倒なことをなぜしなければならないんだと いう苦情が出たほどです」 部長氏がここでため息をついた。
自分にとっ て大きな汚点だと思っているようだ。
「そんなことになってしまった原因は明らかで す。
思い出したくもないのですが、そのシステム を導入する目的が曖昧だったのです。
正直、R FPを作るときに、目的などほとんど意識して いませんでした。
そういうことってあるんです ね。
うまく答えられていないかもしれませんが、 RFPと聞くと、まずそれが頭に浮かびます」 ここまで話して部長氏が不安げな顔で大先生 を見る。
大先生が笑みを浮かべる。
これまでと ちょっと違った物流部長に大先生は大いに興味 を持ったようだ。
(続く) ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大学院修士課 程修了。
同年、日通総合研究所入社。
同社常務を経 て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを 設立し社長に就任。
著書に『現代物流システム論(共 著)』(有斐閣)、『物流ABC の手順』(かんき出版)、『物 流管理ハンドブック』、『物流管理のすべてがわかる 本』(以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コンサルテ ィング http://yuasa-c.co.jp PROFILE
名刺によると、より偉そう な人は物流部を担当する役員だった。
一通り挨拶を交わし、ソファに腰を下ろすと 物流部長氏が話を切り出した。
ちょっと緊張気 味だ。
「お忙しいところお時間を取っていただき ‥‥」から始まり、会社や自分たちの紹介を簡 潔に済ます。
てきぱきとしていて、切れ者とい う印象だ。
物流部長は、これまで工場を中心に仕事をし てきて、半年前に現職に就いたそうだ。
物流へ の異動はまったく予期していなかったという。
役 員氏によると、社長が物流の抜本的な改革をや らせたいということで彼に白羽の矢を立てたそ うだ。
その話を受けて、大先生が質問する。
「それでは、半年間は自社の物流を勉強したっ てことですね。
不可解なことがたくさんあった のではないですか?」 大先生の言葉に部長氏がわが意を得たりとい った感じで答える。
「実は、おっしゃるとおりでした。
そういうこ とって、うちに限らずよくあることなんでしょ うか?」 「他の部署から初めて物流に来た人は、最初は 多くの方がそういう印象を持つようです。
しか し、また多くの方が、そのうちそこに埋没して しまうようです。
困ったことです。
あなたがそ うならないことを願います」 部長氏が、苦笑しながら素直に「はい」と頷 荷主がパートナー候補の物流企業に提示する提案依頼 書。
その作り方次第でアウトソーシングの成否は大きく左 右される。
しかも、物流企業は提案依頼書から、荷主の 姿勢と真意を値踏みしている。
料金を叩くしか念頭にな いことが透けて見えれば、そっぽを向かれても仕方ない。
湯浅和夫の 湯浅和夫 湯浅コンサルティング 代表 《第67回》 提案依頼書(RFP)の作り方【その1】 大先生の日記帳編 第20 回 物流を限りなくシンプルに 午後からコンサル依頼の来客があるというの で、今日は二人の弟子も事務所でスタンバイし ている。
そのお客は、ある中堅メーカーの物流 部長で、アウトソーシングの支援をしてほしいと いう依頼でくるらしい。
このところ、物流をアウトソーシングするとい う動きが静かに、しかし大きなうねりのように 広がっている。
アウトソーシングすれば物流コス トが下がるという錯覚が蔓延しているようだ。
ある物流業者は、コンペへの参加要請が引っ 切り無しに舞い込んで対応しきれないほどにな り、コンペを選ぶ状況になっているという。
コ ンペの中には現状のままの物流を何%ダウンで できるか提案しろという単にコストを下げるこ とを強いるだけのものも少なくないので、それ らは敬遠しているそうだ。
それは荷主が出してくる「RFP( Request For Proposal :提案依頼書)」を見ればわかる という。
いい加減なRFPが横行しているらし い。
そんな話を耳にしているところに、この依頼 があった。
一体どんな話をしにくるのか、大先 生も今日の来客には興味を持っている。
約束の時間通りに依頼者が事務所を訪れた。
物 流部長であるらしい人と、より偉そうな人と二 人で来訪した。
弟子たちも含め入れ替わりなが 85 77 MAY 2009 き、ちょっと座り直して、本題を切り出す。
「実は今日お邪魔しましたのは、私どもの物 流を本格的にアウトソーシングしたいと思いまし て、そのご支援をお願いにまいったわけです」 余計な前置きや経緯の説明なしに来訪の目的 を最初に切り出す。
大先生が、好感を持ったよ うな表情で頷く。
大先生としては、目的がはっ きりしたので対応しやすい。
部長氏が続ける。
「実は、物流部長を拝命したとき、社長から 『物流を限りなくシンプルにしてくれ。
そのため に必要なあらゆる方策を考えろ。
聖域は一切設 けるな』という言葉をいただきました」 「へー、シンプルにしろとおっしゃったんです か?」 大先生が興味深そうに聞く。
役員氏がすぐに 補足する。
「はい、社長の口癖なんです。
『物事を複雑に するな、本質を見失うな』ということで、会話 の中にも『要するに何だ?』という問い掛けが たびたび登場します」 大先生が大きく頷くのを見て、部長氏が続け る。
「はい、社長の言葉を借りれば、『要するに物 流は、お客様が必要とするものを必要なときに 届けることだ。
お客様と工場を結ぶシンプルな 仕組みを作れ』ということです。
社長はおそら く先生のご本を読んだりしたことはないでしょ うが、その考えは先生とご一緒ですよね?」 「それで、うちに来た?」 大先生の確認に部長氏が「それもありますが、 ある本で先生が書かれていたアウトソーシングに ついてのお話に共感を覚えたこともあります」 と答える。
そのままアウトソーシングするな 部長氏の答えに弟子たちが興味を持ったよう に、身を乗り出す。
それを察して、部長氏が補 足の説明をする。
「たしかこういうことです。
『アウトソーシン グは、物流業者にできることはすべて物流業者 に任せて、荷主の物流部は自分たちにしかでき ないことをやるという役割分担だ』というご主 張だったと思うのですが、この言葉にいたく共 感を覚えたのです。
当たり前と言えば当たり前 なんですが、物流をシンプルにという本質をこ こに見たような気がしたのです。
先生を前に生 意気なことを申し上げてるかもしれませんが‥ ‥」 大先生が「別に」と言って、「まあ、シンプル というのは、当たり前なことを当たり前にやれ ってことですから」と付け足す。
その言葉を聞 いて部長氏が「そうなんです」と言って、自分 の思いを話す。
「これまでわずかな期間ですが、わが社の物 流を見て感じたのが、当たり前なことが当たり 前に行われていないということです。
まさに先 ほど先生がおっしゃった不可解なことが多々あ りました。
なぜそんなことになっているのかと 問い質すと、いろいろ理由が出てきます。
ただ、 私が問題に思うのは、その理由を排除しようと いう取り組みがこれまでまったくと言っていい ほどなされてこなかったということです。
わが 社だけかもしれませんけど、物流部というとこ ろは受身というか遠慮の塊みたいなところだな というのが私の実感です」 遠慮の塊という言葉にみんなが反応し苦笑を 漏らす。
大先生がコメントする。
「まあ、御社に限ったことではありませんが、 物流部としては、言ってもどうせ聞いてくれな いという諦めの習性ができているんでしょう。
そ れだけ他の部門が物流に対して傍若無人だった ってことでもある」 役員氏が「なるほど」と言って頷き、部長氏 に確認するように話す。
「遠慮の塊に傍若無人ですか。
それでは、シン プルさとは程遠い存在になってしまうのも無理 ないですね。
それは、あれですね、社内でそう なんだから、外部の物流業者とは特にありえる ことですね。
アウトソーシングするにあたって注 意すべきことだね」 部長氏が「おっしゃるとおりです。
そこは十 分注意します」と頷き、大先生に向かって自分 の思いを口にする。
コンサル依頼の本題に入っ てきたようだ。
MAY 2009 78 「それから、これもまったくそのとおりだと思 うのですが、『現状の物流をそのままアウトソー シングするな。
ムダを残したままアウトソーシン グしたら、そのムダは永遠になくならない。
ア ウトソーシングする前に自社の物流を徹底的に見 直せ』というご指摘です。
アウトソーシングに あたっては、是非そこから入りたいと思います。
それをベースにRFPを作りたいと思っていま す。
そのRFP作りからコンペ、契約、移行後 の評価までご支援をお願いしたいというのが私 どもの考えです」 アウトソーシングでコストは下がる? 大先生が「楽しそうな仕事になりそうだ」と いうように大きく頷き、「お考えはわかりました。
一緒にやりましょう」と了解する。
弟子たちが 頭を下げる。
役員氏が「よろしくお願いします」 と頭を下げ、部長氏を見て、「せっかくご支援を いただくのだから、君は遠慮せず、社内の傍若 無人な輩を蹴散らしてくれればいい。
私も応援 する」と発破を掛ける。
「はい、先生を盾にして頑張ります」 部長氏がちょっとハイな気分になったのか、意 外な茶目っ気を見せる。
弟子たちが、びっくりし たように部長氏の顔を見る。
これまでどちらか というと堅物の優等生という印象を持っていた が、そうではない一面を持っているようだ。
弟 子たちの表情を見て、役員氏が弟子たちに向か 役員氏の話を聞いて、弟子たちが感嘆の表情 を見せる。
美人弟子が「社長さんはそこまでお 考えになったのですか。
社長さんも選ばれた方 も立派ですね」と思いを口にする。
体力弟子が 「アウトソーシングが成功するかどうかの第一条 件はそれを担当する方の人柄にあると言われる んですが、第一条件はクリアしてますね」と付 け加える。
弟子たちに褒められて、部長氏が照れ臭そう に「またまた」と言って、頭に剣を振りかぶる 仕草をして、弟子たちに振り下ろす真似をする。
大先生が思いっきり呆れた顔をし、「上段の構 えか、冗談にかけた?」と呟く。
弟子たちが呆 気にとられた顔をし、吹き出す。
役員氏に本性 をばらされ、部長氏の鎧が一気に脱げ落ちたよ うだ。
大先生が「先が思いやられる」とぶつぶ つ言いながら、「ちょうどいい機会だから、少し 雑談をしよう」と部長氏に言う。
その言葉に部 長氏の顔が一気に締まった。
「そんな恐い顔しなくてもいいですよ。
雑談な んだから」 大先生がくだけた物言いで、部長氏の警戒心 を解く。
部長氏が「はい」と言って、顔をほこ ろばせる。
大先生がおもむろに聞く。
「漠とした聞き方をするけど、自由に答えてく れればいいです。
部長は、アウトソーシングする と物流コストが下がると思う?」 大先生の質問に部長氏がすぐに答える。
って楽しそうに解説する。
「彼は初対面ではとっつき難い印象を持たれ るようですが、それは彼の緊張のなせるわざで す。
特に、今日はかなり固くなっているようで す。
ですが、慣れるに従って本性を現しますの で、びっくりしないでください。
おやじギャグ の天才といえば、どんなやつかわかるでしょ? あっ、でも人情家です。
社長がアウトソーシング もあり得ると思って彼を選んだのは、彼なら物 流業者に無理強いすることはないだろうという 判断からです」 湯浅和夫の Illustration©ELPH-Kanda Kadan 79 MAY 2009 「正直わかりません。
もちろん私は物流コスト を下げるつもりでいますが、それは主に自社物 流の見直しで下げるつもりです。
アウトソーシン グそれ自体でもコストが下がればそれに越した ことはないですし、そういう業者さんと出会え ればいいですが、アウトソーシング自体はコスト 削減の目的ではなく、コスト削減へのきっかけ だと考えてます。
漠とした答で申し訳ありませ ん」 部長氏の答えに大先生が意味深な笑顔を見せ る。
部長氏がちょっと引く。
それを見て、大先 生が言葉を掛ける。
「優等生的な答えだけど、どうやら本気でそう 思っているようなので、その言葉はいただいて おきます」 部長氏が頷く。
役員氏が「彼は、建前は言い ませんので。
特に雑談では‥‥」と妙なフォロ ーをする。
弟子たちが思わず苦笑する。
最初の 印象とは違いおもしろい二人だ。
大先生が形勢 を立て直すかのように質問を続ける。
RFPの本質とは何か 「先ほどRFPっておっしゃいましたが、その 本質は何だと思います?」 部長氏が「はい」と言いながら、なぜか辛そ うな顔をする。
ちょっと間を置いて言葉を選ぶ ように話し出す。
「実は、私、ある工場にいたときに情報システ ムの導入にかかわったことがあるんです。
その ときは結構細かく対象となる業務内容を規定し て、その範囲内でシステムを作るよう要求しま した。
もっとも、こちらの見落としなどもあっ て、変更や追加の要求を何度か出したりもしま した」 大先生が「興味深い返事が来そうだな」とい う感じで頷く。
部長氏が続ける。
「ところが、その結果は、多額の費用を掛けた 割にはそれに見合う効果が出ませんでした。
お 恥ずかしい話なんですが、それまでのやり方と 比べてどんな好ましい状態になったのかという と、あまり大差なかったんです。
むしろ、こん な面倒なことをなぜしなければならないんだと いう苦情が出たほどです」 部長氏がここでため息をついた。
自分にとっ て大きな汚点だと思っているようだ。
「そんなことになってしまった原因は明らかで す。
思い出したくもないのですが、そのシステム を導入する目的が曖昧だったのです。
正直、R FPを作るときに、目的などほとんど意識して いませんでした。
そういうことってあるんです ね。
うまく答えられていないかもしれませんが、 RFPと聞くと、まずそれが頭に浮かびます」 ここまで話して部長氏が不安げな顔で大先生 を見る。
大先生が笑みを浮かべる。
これまでと ちょっと違った物流部長に大先生は大いに興味 を持ったようだ。
(続く) ゆあさ・かずお 1971 年早稲田大学大学院修士課 程修了。
同年、日通総合研究所入社。
同社常務を経 て、2004 年4 月に独立。
湯浅コンサルティングを 設立し社長に就任。
著書に『現代物流システム論(共 著)』(有斐閣)、『物流ABC の手順』(かんき出版)、『物 流管理ハンドブック』、『物流管理のすべてがわかる 本』(以上PHP 研究所)ほか多数。
湯浅コンサルテ ィング http://yuasa-c.co.jp PROFILE
