2009年5月号
特集
特集
宅配市場のすべて 郵政&日通連合に勝算はあるか
宅配便市場は三社に収斂
四月七日、名証二部上場の名鉄運輸は「こぐまの
名鉄宅配便」の配送を、JPEXに全面的に委託す
ることを発表した。
名鉄運輸は三月末に、宅配便の 不採算荷主との取引解消に踏み切っている。
競争の 激化で今後も運賃の値上げは期待できないとの判断 から宅配便事業の規模を大幅に縮小した。
同様に西濃運輸は昨年、サービスメニューから「カ ンガルー宅配便」を取り下げ、特別積合便(路線便) の最小サイズ「カンガルーミニ便」に統合した。
路 線便の主な対象は中ロットの企業間貨物。
宅配便も 行政管理上は路線便の一形態とされているが、その 料金システムや運賃相場は全く違う。
宅配便市場の淘汰は今や最終段階に入っている。
四月一日、業界三位の「ペリカン便」と同四位の「ゆ うパック」を統合したJPEXが事業を開始。
ヤマ ト運輸、佐川急便に続く三つ目の柱が誕生すると同 時に、中堅以下の宅配会社はいよいよ手仕舞いに動 いている。
一九九〇年代には四〇社近くのプレーヤー が覇を競い、各社のシンボルキャラクターから“動 物戦争”とまで呼ばれた競争が、ついに“三強”に 収斂した。
もっとも、JPEXは「業界三番手ではあるが、 一番、二番と比べると、まだ半分程度の物量しかなく、 現状では三強とまでは言い難い」(同社経営企画部) と自己評価している。
実際、設立初年度となる今年 度の同社の業績見込みは、取扱個数三・六億個、売 上高二〇〇〇億円で、年間一〇億個以上を扱う大手 二社とは大きな隔たりがある。
初年度の計画値は、ゆうパックをJPEXに移行 するのが当初予定の四月から一〇月に半年遅れたた 郵政&日通連合に勝算はあるか ついに宅配便市場の成長が止まった。
1976 年にヤマト 運輸が「宅急便」の営業を開始して以来、30 年以上に わたって伸び続けてきた取扱個数が昨年度後半から減少 に転じたもようだ。
そこに日本郵政と日本通運の宅配便 連合が船出する。
淘汰の終わった市場で、限られたパイ の奪い合いが始まる。
(大矢昌浩) 4 月1 日、JPEX新砂支店で出発式が開催された め、その分の約八〇〇億円の売り上げが目減りして いることを考慮に入れる必要があるが、設立五年目 となる二〇一三年度の段階でも、年間五・八億個、 三〇〇〇億円の事業規模を見込むに過ぎない。
昨年度のペリカン便の取扱個数は三・四億個。
一 方のゆうパックは二・七億個。
これを単純に合計する だけでも六・一億個になる。
JPEXの事業規模が それよりずっと小さいのは、日本郵便、日本通運の 双方に今後も相当規模の宅配便事業が残るからだ。
専用封筒の荷物を全国一律五〇〇円で輸送する 「エクスパック五〇〇」は日本郵便の扱いだ。
法的位 置付けとしては宅配便商品の一つだが、荷姿が通常 郵便に近いため宅配便のインフラよりも郵便の配送 網に乗せたほうが効率が良い。
大手二社には真似の できない運用で、個人宅向け貨物の囲い込みを狙える。
一方の日通には、3PL事業の売り上げの一部と して計上されている宅配便が残っている。
〇七年度 の日通の宅配便事業売上高が一七二九億円であるの に対し、JPEXに継承されたのは六四四億円に過 ぎない。
残りの一〇〇〇億円余りが日通の物流セン ター運営事業に組み込まれている計算だ。
ゆうパック、エクスパック、ゆうメール等で構成 される日本郵政の「荷物」業務は〇七年度に赤字に 陥っている。
その主な原因は、既存の郵便配送網を 利用できるエクスパックとゆうメールではなく、ゆう パックにあることは明らかだ。
かたやペリカン便は事 業開始以来、一度も黒字化したことがないとされる。
結局、両親会社で採算のとれない仕事ばかりがJP EXに押しつけられた格好だ。
さらに今年三月末、鳩山邦夫総務大臣は日本郵政 の提出した今年度の事業計画を「条件付き承認」と して再提出を命じた。
JPEXが日本郵便に委託す 第2部 MAY 2009 12 る集配業務の委託料が、そこでやり玉に上がっている。
JPEXは取扱個数の三割程度に当たる地方の集配 業務を日本郵便に委託している。
その料金が安過ぎ れば他の宅配会社とのイコールフッティングを担保で きないと懸念されている。
日本郵便の委託料がいくらなのか、今のところ公 表はされていない。
しかし、たとえ委託料が値上げに なったとしても、日本郵便の連結ベースでは内部取 引になるため実質的な意味はない。
鳩山大臣のイチャ モンは選挙向けのパフォーマンスという見方も根強い。
しかし、JPEXにはコスト増だ。
同社の株式の 三分の一を握る日通は、そのとばっちりをまともに 受けることになる。
JPEXは今年度と来年度の決 算では赤字を見込んでいる。
その三分の一の金額が 日通の連結決算に反映される。
JPEXの赤字が予 想以上に拡大すれば、日通は郵政との事業統合でペ リカン便の赤字から逃れるどころか、より大きな荷 物を背負うことにもなりかねない。
宅配便事業の収益性は単価と配送密度で決まる。
単価の点でもともとペリカン便は二強よりも低い水 準にあった。
従来はタリフに基づく価格しか提示で きなかったゆうパックも「四月からは料金面のメリッ トを最大限打ち出していく」(JPEX)計画で、 単価の下落は避けられそうにない。
そしてJPEX の配送密度は依然として二強とは大きな開きがある。
JPEXの当面の目標は三年目となる一一年度の 単年度黒字達成だ。
それを実現するには、統合によ る効率化だけでは足りない。
営業的にもJPEX単 独の活動では限界がある。
郵政グループのインフラと、 日通の法人営業ノウハウを総動員させて、二強とは 全く異なる事業モデルを打ち立てる必要がある。
JPEXでは現在、宅配便の顧客を「個人」「大口」 「中小口」と大きく三つに分類し、このうち中小口を 最重要領域と位置付けている。
中小口とは一日当た り数個レベルの宅配便を出す小規模事務所、いわゆ る「スモールB」を指す。
そこにJPEXのサービ スドライバーが毎日顔を出し、ヤマト・佐川と同様 の集荷活動を行っていく。
郵便インフラを武器に 「大口」に対しては、全 国七〇〇カ所の支店長 や、本社および五二カ所の統括支店の専任営業、約 二〇〇人が対応する。
このほか親会社の日本郵便も、 全国七〇カ所に配置する法人営業部隊に専任営業マ ン約一〇〇〇人を抱えている。
もともと郵便はあら ゆる企業とアクセスを持っている。
そのネットワーク を使わない手はない。
DHLとエクセルを買収して総合物流に進出した ドイツポストや、逆にいったん内部に取り込んだロジ スティクス事業を売却してエクスプレス事業に特化し たオランダのTNTなど、日本の郵政民営化でお手 本とされた欧州各国の郵政は、自国の郵便事業で得 た利益を原資に、国際インテグレーターに転身を遂げ、 国際物流市場に触手を伸ばしていった。
しかし、郵便事業本社の鶴田信夫経営企画部門経 営企画部企画役は「我々が明日、国際インテグレー ターになろうとしても、それは無理。
現在の基本戦 略は、郵便とゆうパックの国内ネットワークをコアに して、その周辺にサービスを広げていくこと。
日立 物流などとの提携も、宅配分野を念頭に置いたもの だし、山九と手がけている国際物流事業も宅配に近 い小物の配送を狙ったものだ」という。
日本郵便の 事業モデルはドイツポストよりも、むしろ日本の宅配 便会社に近づいている。
ヤマト運輸 図1 日通と郵政の事業統合で宅配便市場に第3軸が誕生した 12 10 8 6 4 2 0 (単位:億個) (単位:億個) 12.3億 10.8億 2.7億 3.4億 6.1億 統合 佐川急便日本通運日本郵政郵政+日通 B to B B to C C to C 図2 宅配便取扱個数の推移 ヤマト運輸 佐川急便 日本通運 日本郵政 福山通運 西濃運輸 その他 ※国土交通省資料、日本郵政資料より本誌作成 99 年度 00 年 度 01 年度 02 年度 03 年度 04 年度 05 年度 06 年度 07 年度 35 30 25 20 15 10 5 0 13 MAY 2009
名鉄運輸は三月末に、宅配便の 不採算荷主との取引解消に踏み切っている。
競争の 激化で今後も運賃の値上げは期待できないとの判断 から宅配便事業の規模を大幅に縮小した。
同様に西濃運輸は昨年、サービスメニューから「カ ンガルー宅配便」を取り下げ、特別積合便(路線便) の最小サイズ「カンガルーミニ便」に統合した。
路 線便の主な対象は中ロットの企業間貨物。
宅配便も 行政管理上は路線便の一形態とされているが、その 料金システムや運賃相場は全く違う。
宅配便市場の淘汰は今や最終段階に入っている。
四月一日、業界三位の「ペリカン便」と同四位の「ゆ うパック」を統合したJPEXが事業を開始。
ヤマ ト運輸、佐川急便に続く三つ目の柱が誕生すると同 時に、中堅以下の宅配会社はいよいよ手仕舞いに動 いている。
一九九〇年代には四〇社近くのプレーヤー が覇を競い、各社のシンボルキャラクターから“動 物戦争”とまで呼ばれた競争が、ついに“三強”に 収斂した。
もっとも、JPEXは「業界三番手ではあるが、 一番、二番と比べると、まだ半分程度の物量しかなく、 現状では三強とまでは言い難い」(同社経営企画部) と自己評価している。
実際、設立初年度となる今年 度の同社の業績見込みは、取扱個数三・六億個、売 上高二〇〇〇億円で、年間一〇億個以上を扱う大手 二社とは大きな隔たりがある。
初年度の計画値は、ゆうパックをJPEXに移行 するのが当初予定の四月から一〇月に半年遅れたた 郵政&日通連合に勝算はあるか ついに宅配便市場の成長が止まった。
1976 年にヤマト 運輸が「宅急便」の営業を開始して以来、30 年以上に わたって伸び続けてきた取扱個数が昨年度後半から減少 に転じたもようだ。
そこに日本郵政と日本通運の宅配便 連合が船出する。
淘汰の終わった市場で、限られたパイ の奪い合いが始まる。
(大矢昌浩) 4 月1 日、JPEX新砂支店で出発式が開催された め、その分の約八〇〇億円の売り上げが目減りして いることを考慮に入れる必要があるが、設立五年目 となる二〇一三年度の段階でも、年間五・八億個、 三〇〇〇億円の事業規模を見込むに過ぎない。
昨年度のペリカン便の取扱個数は三・四億個。
一 方のゆうパックは二・七億個。
これを単純に合計する だけでも六・一億個になる。
JPEXの事業規模が それよりずっと小さいのは、日本郵便、日本通運の 双方に今後も相当規模の宅配便事業が残るからだ。
専用封筒の荷物を全国一律五〇〇円で輸送する 「エクスパック五〇〇」は日本郵便の扱いだ。
法的位 置付けとしては宅配便商品の一つだが、荷姿が通常 郵便に近いため宅配便のインフラよりも郵便の配送 網に乗せたほうが効率が良い。
大手二社には真似の できない運用で、個人宅向け貨物の囲い込みを狙える。
一方の日通には、3PL事業の売り上げの一部と して計上されている宅配便が残っている。
〇七年度 の日通の宅配便事業売上高が一七二九億円であるの に対し、JPEXに継承されたのは六四四億円に過 ぎない。
残りの一〇〇〇億円余りが日通の物流セン ター運営事業に組み込まれている計算だ。
ゆうパック、エクスパック、ゆうメール等で構成 される日本郵政の「荷物」業務は〇七年度に赤字に 陥っている。
その主な原因は、既存の郵便配送網を 利用できるエクスパックとゆうメールではなく、ゆう パックにあることは明らかだ。
かたやペリカン便は事 業開始以来、一度も黒字化したことがないとされる。
結局、両親会社で採算のとれない仕事ばかりがJP EXに押しつけられた格好だ。
さらに今年三月末、鳩山邦夫総務大臣は日本郵政 の提出した今年度の事業計画を「条件付き承認」と して再提出を命じた。
JPEXが日本郵便に委託す 第2部 MAY 2009 12 る集配業務の委託料が、そこでやり玉に上がっている。
JPEXは取扱個数の三割程度に当たる地方の集配 業務を日本郵便に委託している。
その料金が安過ぎ れば他の宅配会社とのイコールフッティングを担保で きないと懸念されている。
日本郵便の委託料がいくらなのか、今のところ公 表はされていない。
しかし、たとえ委託料が値上げに なったとしても、日本郵便の連結ベースでは内部取 引になるため実質的な意味はない。
鳩山大臣のイチャ モンは選挙向けのパフォーマンスという見方も根強い。
しかし、JPEXにはコスト増だ。
同社の株式の 三分の一を握る日通は、そのとばっちりをまともに 受けることになる。
JPEXは今年度と来年度の決 算では赤字を見込んでいる。
その三分の一の金額が 日通の連結決算に反映される。
JPEXの赤字が予 想以上に拡大すれば、日通は郵政との事業統合でペ リカン便の赤字から逃れるどころか、より大きな荷 物を背負うことにもなりかねない。
宅配便事業の収益性は単価と配送密度で決まる。
単価の点でもともとペリカン便は二強よりも低い水 準にあった。
従来はタリフに基づく価格しか提示で きなかったゆうパックも「四月からは料金面のメリッ トを最大限打ち出していく」(JPEX)計画で、 単価の下落は避けられそうにない。
そしてJPEX の配送密度は依然として二強とは大きな開きがある。
JPEXの当面の目標は三年目となる一一年度の 単年度黒字達成だ。
それを実現するには、統合によ る効率化だけでは足りない。
営業的にもJPEX単 独の活動では限界がある。
郵政グループのインフラと、 日通の法人営業ノウハウを総動員させて、二強とは 全く異なる事業モデルを打ち立てる必要がある。
JPEXでは現在、宅配便の顧客を「個人」「大口」 「中小口」と大きく三つに分類し、このうち中小口を 最重要領域と位置付けている。
中小口とは一日当た り数個レベルの宅配便を出す小規模事務所、いわゆ る「スモールB」を指す。
そこにJPEXのサービ スドライバーが毎日顔を出し、ヤマト・佐川と同様 の集荷活動を行っていく。
郵便インフラを武器に 「大口」に対しては、全 国七〇〇カ所の支店長 や、本社および五二カ所の統括支店の専任営業、約 二〇〇人が対応する。
このほか親会社の日本郵便も、 全国七〇カ所に配置する法人営業部隊に専任営業マ ン約一〇〇〇人を抱えている。
もともと郵便はあら ゆる企業とアクセスを持っている。
そのネットワーク を使わない手はない。
DHLとエクセルを買収して総合物流に進出した ドイツポストや、逆にいったん内部に取り込んだロジ スティクス事業を売却してエクスプレス事業に特化し たオランダのTNTなど、日本の郵政民営化でお手 本とされた欧州各国の郵政は、自国の郵便事業で得 た利益を原資に、国際インテグレーターに転身を遂げ、 国際物流市場に触手を伸ばしていった。
しかし、郵便事業本社の鶴田信夫経営企画部門経 営企画部企画役は「我々が明日、国際インテグレー ターになろうとしても、それは無理。
現在の基本戦 略は、郵便とゆうパックの国内ネットワークをコアに して、その周辺にサービスを広げていくこと。
日立 物流などとの提携も、宅配分野を念頭に置いたもの だし、山九と手がけている国際物流事業も宅配に近 い小物の配送を狙ったものだ」という。
日本郵便の 事業モデルはドイツポストよりも、むしろ日本の宅配 便会社に近づいている。
ヤマト運輸 図1 日通と郵政の事業統合で宅配便市場に第3軸が誕生した 12 10 8 6 4 2 0 (単位:億個) (単位:億個) 12.3億 10.8億 2.7億 3.4億 6.1億 統合 佐川急便日本通運日本郵政郵政+日通 B to B B to C C to C 図2 宅配便取扱個数の推移 ヤマト運輸 佐川急便 日本通運 日本郵政 福山通運 西濃運輸 その他 ※国土交通省資料、日本郵政資料より本誌作成 99 年度 00 年 度 01 年度 02 年度 03 年度 04 年度 05 年度 06 年度 07 年度 35 30 25 20 15 10 5 0 13 MAY 2009
