2009年5月号
特集
特集
宅配市場のすべて ヤマト運輸「CtoCをアジアに広げる」
MAY 2009 16
「バス停方式」で収益改善
──宅急便の成長が止まりました。
「過去にも単月で前年割れを起こすことはありまし たが、 構造的に前年を割るような基調になったのは宅 急便を開始して以来、初めてのことです。
この不況 は長期化することを覚悟しています。
短期間での回 復は無い。
先行きがはっきりと見通せない以上、少な くとも来年の半ばくらいまでは、当社の売り上げも伸 びないという前提に立って経営します」 ──どんな手を打ちますか。
「我々の商売は人が命、ネットワークが財産ですか ら、メーカーのように人員カットやラインの閉鎖とい った手を打つことはできません。
それでも売上高の うち人件費が五割を占めている会社ですから、人の 使い方を工夫して残業を減らすだけでも相当にコスト は下がる」 ──具体的には? 「実は昨年二月から一年間かけて、サービス残業を 徹底して撲滅することに取り組んできたんです。
一 昨年の夏に労働基準監督署から是正勧告を受けたこ とを反省材料として、本気で取り組みました。
しか し単にサービス残業をなくすだけではコストが増える ばかりで収益体質が弱くなってしまう。
そこで打った 手が生産性の飛躍的な向上です。
抜本的に仕事のや り方を改めました」 「まずは、セールスドライバーの業務から荷物を車両 に積み込む作業を分離しました。
それまでドライバー は、その日に配達する荷物を積み込むために、朝早く から出社する必要がありました。
それを専門の担当 者に任せたんです。
しかし、他人が勝手に積み込むと、 どの荷物が荷台のどこにあるのか分からなくなってし まう。
これをなくすために『棚付き車両』という道 具を用意して、配送ルートに合わせて荷台のスペース をエリア割りしました」 「『バス停方式』と呼ぶ配送車両の新しい駐車方法も 開発しました。
各お届け先の軒下に停める従来のやり 方は、時間的にもコスト的にもロスが大きかった。
走 行距離が長くなるし、停車・発進の回数が増えるの で交通事故も多くなる。
そこでお客様の分布を科学的 に分析し、駐車違反にも配慮して、どこに車両を停 めればよいかを分析したんです。
その駐車ポイントを 『バス停』と呼んでいます。
そこをハブにして、後は ドライバーが台車で荷物を運ぶ。
これで生産性が一気 に上がりました」 ──どの程度の効果があったのですか。
「一人当たり月約二〇時間の労働時間短縮ができま した。
残業代が減り、浮いた時間をその他の仕事に 回すことができました。
そうした効果も含め当初は 初年度で七〇億円程度の生産性改善を見込んでいた のですが、実際にはそれをはるかに上回る一〇〇億 円程度の効果を実現しました。
つまり、この活動が なければ二〇〇八年度の営業利益は一〇〇億円ほど 下ブレしていたことになります。
しかも今年度はさら に大きな成果を刈り取ることができる」 ──営業活動の状況に変化はありますか。
宅配便市 場は淘汰が進み、今やプレーヤーはヤマト、佐川、J PEXの?三強?に絞られました。
競争のかたちも 変わっていくのでは。
「三強といっても当面、JPEXさんはかなり厳し い環境に置かれることになるかも知れません」 ──すると、ライバルはやはり佐川急便だけ? 「もともと佐川さんはB to Bに強く、ネットワーク コストも安い。
拠点の数が当社とひと桁違いますから ヤマト運輸「CtoCをアジアに広げる」 2008年度、ヤマト運輸の「宅急便」の取扱個数が初 めて減少に転じた。
景気の低迷は長期化すると見込んで、 コスト構造改革を急ぐ。
しかし、需要創造の手は緩めな い。
CtoBや金融物流など、独自のサービスを展開するほ か、国際物流の事業モデルを修正して宅急便の海外移植 に打って出る。
(聞き手・大矢昌浩、石鍋圭) 木川眞 ヤマト運輸 社長 第4部 17 MAY 2009 ね。
それに比べると我々は高いコスト構造になってい る。
価格競争では勝負できません。
それでも当社は もっとB to B市場に深く入っていくしかない。
Cがら みの荷物にしか我々の領域はないということになった ら、ジリ貧になってしまいますから」 「そのため、単に『荷物を下さい』という営業では なく、お客様のお困りごとを、我々の仕組みで改善 する提案をしなければいけない。
我々の持っている強 みを活かさないと、企業は長年の付き合いを切ってま で我々のところには来てくれない。
ところが従来は、 単なる値段の競争に終始していた。
それを打開する ために『五つのビジネスモデル』(次頁表)というソ リューションビジネスを二年前から始めています」 「これまでヤマト運輸だけで商売していたのを改め て、グループ全体のノウハウを結集したトータルなソ リューションを提案する。
場合によってはヤマト運輸 の利益にならなくても連結ベースで成果が上がればい いというスタンスです。
そうしないと、いくら宅配便 最大手だといっても、本格的な企業物流はカバーでき ない」 数年以内にC to B市場が開花 ──そのアプローチで新しい市場が創造できるという 手応えはありますか。
「C to B物流は二年前に着手して今や明確に市場に なりつつあります。
入り口はリコールの増加でした。
リコール商品を回収して修理し、返却するというサー ビスが、ビジネスとして成立しつつあります。
修理の 依頼がメーカーに入ると、ヤマト運輸が即日取りに伺 って回収する。
しかも回収してきた製品のうち、約 九割をヤマトグループが修理をして、再びユーザーに 返却する。
パソコンのプリンターやデジカメから始ま って対象分野が広がっています」 ──確かにこれまで無かった市場ですね。
「これまでも修理の担い手は存在していました。
し かし、サービスレベルを上げてユーザーの利便性を向 上させながら事業化するという発想はどこにもなか った。
大昔は出張修理でした。
技術者を家に呼んで 修理してもらっていた。
その次は量販店経由の持ち込 みです。
そして今度我々が始めたのが引き取り修理で す。
昔は出張修理で直せなかったから『すみません、 ちょっと持って帰ります』と技術者が製品を持ち帰っ ていた。
そうではなく、まずは当社が引き取る。
そ して短期間で修理して届ける」 ──既に売上規模は一定レベルにあるのですか。
「まだ芽が出始めたところで、自慢できるレベルで はありません。
それでも着実に数字は伸びている。
そ のため昨年一〇月、ヤマトロジスティクスの一事業部 門というそれまでの位置付けを改め、ヤマトマルチメ ンテナンスソリューションズ(YMMS)という新会 社として独立させました。
YMMSでは修理のほか にもサービスパーツを二時間で届ける緊急輸送などを 手がけています」 ──C to B市場が成長期を迎えるのは、いつ頃にな ると見込んでいますか。
「YMMSに関しては、ブレークスルーのポイント は、量販店経由の修理です。
量販店の多くはメーカー 保証とは別に独自の追加保証期間を設定しています。
実際に修理の依頼が入ると今は量販店が、メーカーを 泣かせて修理させている。
それを当社が引き受ける場 合には赤字というわけにはいかない。
そこをどう整 理するかということがハードルになっている。
それで も今後二、三年のうちに、かなりの事業規模になる と見込んでいます。
だから独立させたんです」 8 6 4 2 0 -2 -4 -6 -8 (%) 宅急便・クロネコメール便の取り扱い個数対前年比──08年夏から下落基調に 08年 3月 4月09年 1月 5月6月7月8月9月10月11月12月2月3月 宅急便 クロネコメール便 MAY 2009 18 ──宅急便の海外移植ですね。
日本の物流企業が海 外の国内輸送市場に入りこんでネットワークを張るこ とが現実的に可能でしょうか。
「可能です。
自分でゼロからネットワークを張るの は無理でも、ネットワークを持ったパートナーを手に 入れればいい。
実際、台湾では八年前から宅急便の トラックが走っている。
我々が宅急便のノウハウとブ ランドを提供した統一速達公司が現地でナンバーワン の宅配便会社に育っています。
それを今は日本の宅急 便と結びつけて、台湾と日本間のC to C物流に拡大 して展開しています。
アジアの他のエリアにも同じモ デルを広げていきます」 ──主戦場となる中国の宅配便では佐川急便が先行し ました。
上海は黒字転換を果たしたようですが、北 京は撤退しています。
「果敢な挑戦だったと思います。
当社も参考にさせ てもらいました。
が、少し時期が早過ぎた。
また、佐 川さんは恐らく、現地に進出した日系企業を主な荷 主として、B to Bの小口貨物を狙ったのではないで しょうか。
我々の目指す地元に根ざした宅配便とは事 業モデルが違います。
我々が進出を狙うのは場所とし てはやはり上海。
しかも市内だけで十分。
それでも 台湾と同程度の事業規模は確保できる。
上海の事業 が軌道に乗った後に北京に出る」 「宅配便市場というのは、その地域の経済発展段階、 生活レベルと強くリンクしています。
これからインド も含めたアジアの各地域が、その段階に入っていく。
宅配便市場がアジア全域で加速度的に拡大していきま す。
ネット通販がその起爆剤になる。
そのため当初は、 ネット通販の発達した韓国から宅急便の移植を始めよ うかとも考えていました。
しかし、韓国は今、不況 の影響でパートナー候補の状況がしんどい」 ──以前からヤマトは、売り上げの大部分を宅急便に 頼る?一本足打法?からの脱却を模索してきましたが、 新たな柱と呼べる事業は今のところ見当たりません。
「そう言われても否定はできません。
しかし、宅急 便の事業規模が巨大過ぎるために、他の事業が目立 たないという面もあります。
実際、宅急便以外のノ ンデリバリー事業も年々伸びてはきています。
二〇一 〇年度をメドとする現在の三カ年計画ではデリバリー 事業とノンデリバリー事業の営業利益を五五対四五に まで持っていくことを目標にしています」 「ただし、宅急便以外の事業を拡大するうえでも、 我々の武器はやはりラストワンマイルを握っているこ とにある。
それをベースにしてノンデリバリー事業の システム(IT)や金融(FT)、ロジスティクスや フォワーディング(LT)といった、いわゆる『IT、 FT、LT』を内製化しているわけです」 宅急便モデルをアジアに展開 ──国際化については? そこも立ち後れが指摘さ れている部分です。
「宅急便の輸出を始めます。
海外展開でも当社は日 本通運のような総合物流企業とは違って、日本と同 様に現地の地元に根付いた展開をとる」 ──これまでのヤマトの国際展開は日本に輸入する貨 物を、海外の発地で取り込むというスタイルでした。
「今まではそうでした。
大手の総合物流会社と変 わらないかたちでフォワーディング事業をやってきた。
その結果として、今回の不況では大きな打撃を受け ています。
これまでのやり方で、いくら背伸びして もダメです。
これからはデリバリー事業フォーメーシ ョン、つまりヤマト運輸が中核となった海外事業展開 として宅急便を輸出していきます」 ヤマトホールディングスが推進する5つのビジネスモデル サービス名 対 象 内 容 Today Shopping Service(TSS) ネットスーパーサポートサービス メンテナンスサポートサービス Web 出荷コントロールサービス ヤマトインポートダイレクト 通販事業者 スーパー・百貨店など の小売業 家電メーカー 産直ギフトを扱う百 貨店・スーパーなど 海外商品の輸入企業 深夜0 時までに受注したネット注文を、翌日の午前中 に配送するサービス ネットスーパー事業に必要なシステム開発、決済、配 送網の構築などをヤマトグループが提供 故障したデジタル家電の引き取り、修理完了後の商品 の配送を最短3日で行う。
修理業務自体も請け負う 商品の受発注情報をサプライヤーとの間で共有化。
リードタイムの短縮や個人情報の流出防止を実現 国内倉庫で行っていた仕分けや梱包を海外のヤマトの 物流センターで行い、ダイレクトで顧客に配送する 19 MAY 2009 戦場になると考えています」 物流と金融を融合して新サービス ──一方で日本国内の展開は、どこに軸を置きますか。
「やはり『五つのビジネスモデル』が、短期的には 成長の起爆剤になる。
先にご説明したメンテナンスサ ービスの他にも、例えば『インポートダイレクト』。
中 国のOEM工場で作った製品を当社がいったん購入 し、上海の保税倉庫で検品して、宅急便の送り状を 付けてから日本に送る。
これを使うと当社が購入し た時点でOEM工場は資金を回収できる。
輸送中の リスクも当社が負う。
日本側でも国内の保管が不要に なりコストが下がる。
リードタイムも短縮できる。
輸 入貨物の小口化が進んでいることに対応したサービス です」 ──銀行出身の木川社長にとって、そうした物流と 金融の組み合わせは得意分野であるはずです。
銀行 を買収したUPSのように、ヤマトも銀行業に進出す るという選択肢は? ライバルの日本郵政は郵貯を傘 下に抱えてますが。
「物流と金融という組み合わせは、大きなビジネス チャンスを秘めています。
単なる代引きや集金代行と いったレベルではなく、物流企業が金融機能を持つこ とで荷主企業のキャッシュフローを改善する提案がで きるようになる。
ただし、自分たちで銀行をやろう とは思いません。
与信リスクや為替リスクも極力とり たくない。
銀行を買えば、それに対して多大な資本と 引当金と、景気変動のリスクを背負うことになります。
銀行業には莫大なキャッシュフローが必要で、巨額の 資金調達が避けられない。
それをやれば本業がおろ そかになります。
銀行は買うものではなくて、使う ものですよ」 ──台湾の宅急便は確かに成功していますが、ヤマト の売り上げにはほとんど貢献していません。
「台湾はモデルケースです。
現地の宅配会社からロイ ヤリティは貰っていますが、儲けることが目的ではな い。
台湾で当社は統一速達に一〇%の出資しかして いません。
しかし、これから出て行くエリアでは我々 が経営主体となる。
基本的には五〇%以上の資本を 当社が握る」 ──中国の場合、外資に対する参入障壁がまだまだ 残っています。
とりわけ市内配送は中国郵政など国 営系の縄張りです。
「国営系といっても郵政ばかりではありません。
我々 が手を挙げれば一緒にやりたいといってくれる国営系 が、バス会社や運送会社、倉庫会社など他にもたく さんある。
ただし、その見極めが難しい。
結局、海 外展開はパートナーの選び方がポイントになります」 ──上手く海外進出のスキームが作れたとしても、宅 配便事業はインフラを作るのに時間がかかる。
「もちろん、すぐに我々の事業を支えてくれるほど の利益が出るとは考えてません。
長期投資は覚悟し ています。
しかし今後景気が回復局面に入ってくる と、これまで以上にアジア域内の物流は活発化します。
アジア発の荷物が確実に増える。
その時に対する布石 を打っておく必要があります」 「我々の目指す、小口の物流を徹底してネットワー クで捕捉するというサービスは、通常のフォワーディ ング事業の対局に位置しています。
ニッチではあるけ れども、べらぼうに大きな需要がある。
しかも、現 状ではそれを誰も担っていない。
国際インテグレータ ーはようやく最近そのことに気付いたようで、郵便 小包の領域に徐々に入ってきている。
けれども、日本 企業はまだどこも手を出していない。
そこが我々の主 木川眞(きがわ まこと) 1949年、広島県生まれ。
73年、一橋大学商学部卒業。
同年4月、富士銀行入行。
2004年4月、みずほコーポレート銀行常務取締役。
05年 4月、ヤマト運輸入社。
同年6月、同社常務取締役。
07 年3月、同社社長に就任。
グループ持ち株会社化に手腕を 発揮。
舵取りの難しい局面の中、組織改革を推進する。
都市部では車両を使わない配送 も増えている 通販向けのサービスメニュー拡 充が進んでいる PROFILE
「過去にも単月で前年割れを起こすことはありまし たが、 構造的に前年を割るような基調になったのは宅 急便を開始して以来、初めてのことです。
この不況 は長期化することを覚悟しています。
短期間での回 復は無い。
先行きがはっきりと見通せない以上、少な くとも来年の半ばくらいまでは、当社の売り上げも伸 びないという前提に立って経営します」 ──どんな手を打ちますか。
「我々の商売は人が命、ネットワークが財産ですか ら、メーカーのように人員カットやラインの閉鎖とい った手を打つことはできません。
それでも売上高の うち人件費が五割を占めている会社ですから、人の 使い方を工夫して残業を減らすだけでも相当にコスト は下がる」 ──具体的には? 「実は昨年二月から一年間かけて、サービス残業を 徹底して撲滅することに取り組んできたんです。
一 昨年の夏に労働基準監督署から是正勧告を受けたこ とを反省材料として、本気で取り組みました。
しか し単にサービス残業をなくすだけではコストが増える ばかりで収益体質が弱くなってしまう。
そこで打った 手が生産性の飛躍的な向上です。
抜本的に仕事のや り方を改めました」 「まずは、セールスドライバーの業務から荷物を車両 に積み込む作業を分離しました。
それまでドライバー は、その日に配達する荷物を積み込むために、朝早く から出社する必要がありました。
それを専門の担当 者に任せたんです。
しかし、他人が勝手に積み込むと、 どの荷物が荷台のどこにあるのか分からなくなってし まう。
これをなくすために『棚付き車両』という道 具を用意して、配送ルートに合わせて荷台のスペース をエリア割りしました」 「『バス停方式』と呼ぶ配送車両の新しい駐車方法も 開発しました。
各お届け先の軒下に停める従来のやり 方は、時間的にもコスト的にもロスが大きかった。
走 行距離が長くなるし、停車・発進の回数が増えるの で交通事故も多くなる。
そこでお客様の分布を科学的 に分析し、駐車違反にも配慮して、どこに車両を停 めればよいかを分析したんです。
その駐車ポイントを 『バス停』と呼んでいます。
そこをハブにして、後は ドライバーが台車で荷物を運ぶ。
これで生産性が一気 に上がりました」 ──どの程度の効果があったのですか。
「一人当たり月約二〇時間の労働時間短縮ができま した。
残業代が減り、浮いた時間をその他の仕事に 回すことができました。
そうした効果も含め当初は 初年度で七〇億円程度の生産性改善を見込んでいた のですが、実際にはそれをはるかに上回る一〇〇億 円程度の効果を実現しました。
つまり、この活動が なければ二〇〇八年度の営業利益は一〇〇億円ほど 下ブレしていたことになります。
しかも今年度はさら に大きな成果を刈り取ることができる」 ──営業活動の状況に変化はありますか。
宅配便市 場は淘汰が進み、今やプレーヤーはヤマト、佐川、J PEXの?三強?に絞られました。
競争のかたちも 変わっていくのでは。
「三強といっても当面、JPEXさんはかなり厳し い環境に置かれることになるかも知れません」 ──すると、ライバルはやはり佐川急便だけ? 「もともと佐川さんはB to Bに強く、ネットワーク コストも安い。
拠点の数が当社とひと桁違いますから ヤマト運輸「CtoCをアジアに広げる」 2008年度、ヤマト運輸の「宅急便」の取扱個数が初 めて減少に転じた。
景気の低迷は長期化すると見込んで、 コスト構造改革を急ぐ。
しかし、需要創造の手は緩めな い。
CtoBや金融物流など、独自のサービスを展開するほ か、国際物流の事業モデルを修正して宅急便の海外移植 に打って出る。
(聞き手・大矢昌浩、石鍋圭) 木川眞 ヤマト運輸 社長 第4部 17 MAY 2009 ね。
それに比べると我々は高いコスト構造になってい る。
価格競争では勝負できません。
それでも当社は もっとB to B市場に深く入っていくしかない。
Cがら みの荷物にしか我々の領域はないということになった ら、ジリ貧になってしまいますから」 「そのため、単に『荷物を下さい』という営業では なく、お客様のお困りごとを、我々の仕組みで改善 する提案をしなければいけない。
我々の持っている強 みを活かさないと、企業は長年の付き合いを切ってま で我々のところには来てくれない。
ところが従来は、 単なる値段の競争に終始していた。
それを打開する ために『五つのビジネスモデル』(次頁表)というソ リューションビジネスを二年前から始めています」 「これまでヤマト運輸だけで商売していたのを改め て、グループ全体のノウハウを結集したトータルなソ リューションを提案する。
場合によってはヤマト運輸 の利益にならなくても連結ベースで成果が上がればい いというスタンスです。
そうしないと、いくら宅配便 最大手だといっても、本格的な企業物流はカバーでき ない」 数年以内にC to B市場が開花 ──そのアプローチで新しい市場が創造できるという 手応えはありますか。
「C to B物流は二年前に着手して今や明確に市場に なりつつあります。
入り口はリコールの増加でした。
リコール商品を回収して修理し、返却するというサー ビスが、ビジネスとして成立しつつあります。
修理の 依頼がメーカーに入ると、ヤマト運輸が即日取りに伺 って回収する。
しかも回収してきた製品のうち、約 九割をヤマトグループが修理をして、再びユーザーに 返却する。
パソコンのプリンターやデジカメから始ま って対象分野が広がっています」 ──確かにこれまで無かった市場ですね。
「これまでも修理の担い手は存在していました。
し かし、サービスレベルを上げてユーザーの利便性を向 上させながら事業化するという発想はどこにもなか った。
大昔は出張修理でした。
技術者を家に呼んで 修理してもらっていた。
その次は量販店経由の持ち込 みです。
そして今度我々が始めたのが引き取り修理で す。
昔は出張修理で直せなかったから『すみません、 ちょっと持って帰ります』と技術者が製品を持ち帰っ ていた。
そうではなく、まずは当社が引き取る。
そ して短期間で修理して届ける」 ──既に売上規模は一定レベルにあるのですか。
「まだ芽が出始めたところで、自慢できるレベルで はありません。
それでも着実に数字は伸びている。
そ のため昨年一〇月、ヤマトロジスティクスの一事業部 門というそれまでの位置付けを改め、ヤマトマルチメ ンテナンスソリューションズ(YMMS)という新会 社として独立させました。
YMMSでは修理のほか にもサービスパーツを二時間で届ける緊急輸送などを 手がけています」 ──C to B市場が成長期を迎えるのは、いつ頃にな ると見込んでいますか。
「YMMSに関しては、ブレークスルーのポイント は、量販店経由の修理です。
量販店の多くはメーカー 保証とは別に独自の追加保証期間を設定しています。
実際に修理の依頼が入ると今は量販店が、メーカーを 泣かせて修理させている。
それを当社が引き受ける場 合には赤字というわけにはいかない。
そこをどう整 理するかということがハードルになっている。
それで も今後二、三年のうちに、かなりの事業規模になる と見込んでいます。
だから独立させたんです」 8 6 4 2 0 -2 -4 -6 -8 (%) 宅急便・クロネコメール便の取り扱い個数対前年比──08年夏から下落基調に 08年 3月 4月09年 1月 5月6月7月8月9月10月11月12月2月3月 宅急便 クロネコメール便 MAY 2009 18 ──宅急便の海外移植ですね。
日本の物流企業が海 外の国内輸送市場に入りこんでネットワークを張るこ とが現実的に可能でしょうか。
「可能です。
自分でゼロからネットワークを張るの は無理でも、ネットワークを持ったパートナーを手に 入れればいい。
実際、台湾では八年前から宅急便の トラックが走っている。
我々が宅急便のノウハウとブ ランドを提供した統一速達公司が現地でナンバーワン の宅配便会社に育っています。
それを今は日本の宅急 便と結びつけて、台湾と日本間のC to C物流に拡大 して展開しています。
アジアの他のエリアにも同じモ デルを広げていきます」 ──主戦場となる中国の宅配便では佐川急便が先行し ました。
上海は黒字転換を果たしたようですが、北 京は撤退しています。
「果敢な挑戦だったと思います。
当社も参考にさせ てもらいました。
が、少し時期が早過ぎた。
また、佐 川さんは恐らく、現地に進出した日系企業を主な荷 主として、B to Bの小口貨物を狙ったのではないで しょうか。
我々の目指す地元に根ざした宅配便とは事 業モデルが違います。
我々が進出を狙うのは場所とし てはやはり上海。
しかも市内だけで十分。
それでも 台湾と同程度の事業規模は確保できる。
上海の事業 が軌道に乗った後に北京に出る」 「宅配便市場というのは、その地域の経済発展段階、 生活レベルと強くリンクしています。
これからインド も含めたアジアの各地域が、その段階に入っていく。
宅配便市場がアジア全域で加速度的に拡大していきま す。
ネット通販がその起爆剤になる。
そのため当初は、 ネット通販の発達した韓国から宅急便の移植を始めよ うかとも考えていました。
しかし、韓国は今、不況 の影響でパートナー候補の状況がしんどい」 ──以前からヤマトは、売り上げの大部分を宅急便に 頼る?一本足打法?からの脱却を模索してきましたが、 新たな柱と呼べる事業は今のところ見当たりません。
「そう言われても否定はできません。
しかし、宅急 便の事業規模が巨大過ぎるために、他の事業が目立 たないという面もあります。
実際、宅急便以外のノ ンデリバリー事業も年々伸びてはきています。
二〇一 〇年度をメドとする現在の三カ年計画ではデリバリー 事業とノンデリバリー事業の営業利益を五五対四五に まで持っていくことを目標にしています」 「ただし、宅急便以外の事業を拡大するうえでも、 我々の武器はやはりラストワンマイルを握っているこ とにある。
それをベースにしてノンデリバリー事業の システム(IT)や金融(FT)、ロジスティクスや フォワーディング(LT)といった、いわゆる『IT、 FT、LT』を内製化しているわけです」 宅急便モデルをアジアに展開 ──国際化については? そこも立ち後れが指摘さ れている部分です。
「宅急便の輸出を始めます。
海外展開でも当社は日 本通運のような総合物流企業とは違って、日本と同 様に現地の地元に根付いた展開をとる」 ──これまでのヤマトの国際展開は日本に輸入する貨 物を、海外の発地で取り込むというスタイルでした。
「今まではそうでした。
大手の総合物流会社と変 わらないかたちでフォワーディング事業をやってきた。
その結果として、今回の不況では大きな打撃を受け ています。
これまでのやり方で、いくら背伸びして もダメです。
これからはデリバリー事業フォーメーシ ョン、つまりヤマト運輸が中核となった海外事業展開 として宅急便を輸出していきます」 ヤマトホールディングスが推進する5つのビジネスモデル サービス名 対 象 内 容 Today Shopping Service(TSS) ネットスーパーサポートサービス メンテナンスサポートサービス Web 出荷コントロールサービス ヤマトインポートダイレクト 通販事業者 スーパー・百貨店など の小売業 家電メーカー 産直ギフトを扱う百 貨店・スーパーなど 海外商品の輸入企業 深夜0 時までに受注したネット注文を、翌日の午前中 に配送するサービス ネットスーパー事業に必要なシステム開発、決済、配 送網の構築などをヤマトグループが提供 故障したデジタル家電の引き取り、修理完了後の商品 の配送を最短3日で行う。
修理業務自体も請け負う 商品の受発注情報をサプライヤーとの間で共有化。
リードタイムの短縮や個人情報の流出防止を実現 国内倉庫で行っていた仕分けや梱包を海外のヤマトの 物流センターで行い、ダイレクトで顧客に配送する 19 MAY 2009 戦場になると考えています」 物流と金融を融合して新サービス ──一方で日本国内の展開は、どこに軸を置きますか。
「やはり『五つのビジネスモデル』が、短期的には 成長の起爆剤になる。
先にご説明したメンテナンスサ ービスの他にも、例えば『インポートダイレクト』。
中 国のOEM工場で作った製品を当社がいったん購入 し、上海の保税倉庫で検品して、宅急便の送り状を 付けてから日本に送る。
これを使うと当社が購入し た時点でOEM工場は資金を回収できる。
輸送中の リスクも当社が負う。
日本側でも国内の保管が不要に なりコストが下がる。
リードタイムも短縮できる。
輸 入貨物の小口化が進んでいることに対応したサービス です」 ──銀行出身の木川社長にとって、そうした物流と 金融の組み合わせは得意分野であるはずです。
銀行 を買収したUPSのように、ヤマトも銀行業に進出す るという選択肢は? ライバルの日本郵政は郵貯を傘 下に抱えてますが。
「物流と金融という組み合わせは、大きなビジネス チャンスを秘めています。
単なる代引きや集金代行と いったレベルではなく、物流企業が金融機能を持つこ とで荷主企業のキャッシュフローを改善する提案がで きるようになる。
ただし、自分たちで銀行をやろう とは思いません。
与信リスクや為替リスクも極力とり たくない。
銀行を買えば、それに対して多大な資本と 引当金と、景気変動のリスクを背負うことになります。
銀行業には莫大なキャッシュフローが必要で、巨額の 資金調達が避けられない。
それをやれば本業がおろ そかになります。
銀行は買うものではなくて、使う ものですよ」 ──台湾の宅急便は確かに成功していますが、ヤマト の売り上げにはほとんど貢献していません。
「台湾はモデルケースです。
現地の宅配会社からロイ ヤリティは貰っていますが、儲けることが目的ではな い。
台湾で当社は統一速達に一〇%の出資しかして いません。
しかし、これから出て行くエリアでは我々 が経営主体となる。
基本的には五〇%以上の資本を 当社が握る」 ──中国の場合、外資に対する参入障壁がまだまだ 残っています。
とりわけ市内配送は中国郵政など国 営系の縄張りです。
「国営系といっても郵政ばかりではありません。
我々 が手を挙げれば一緒にやりたいといってくれる国営系 が、バス会社や運送会社、倉庫会社など他にもたく さんある。
ただし、その見極めが難しい。
結局、海 外展開はパートナーの選び方がポイントになります」 ──上手く海外進出のスキームが作れたとしても、宅 配便事業はインフラを作るのに時間がかかる。
「もちろん、すぐに我々の事業を支えてくれるほど の利益が出るとは考えてません。
長期投資は覚悟し ています。
しかし今後景気が回復局面に入ってくる と、これまで以上にアジア域内の物流は活発化します。
アジア発の荷物が確実に増える。
その時に対する布石 を打っておく必要があります」 「我々の目指す、小口の物流を徹底してネットワー クで捕捉するというサービスは、通常のフォワーディ ング事業の対局に位置しています。
ニッチではあるけ れども、べらぼうに大きな需要がある。
しかも、現 状ではそれを誰も担っていない。
国際インテグレータ ーはようやく最近そのことに気付いたようで、郵便 小包の領域に徐々に入ってきている。
けれども、日本 企業はまだどこも手を出していない。
そこが我々の主 木川眞(きがわ まこと) 1949年、広島県生まれ。
73年、一橋大学商学部卒業。
同年4月、富士銀行入行。
2004年4月、みずほコーポレート銀行常務取締役。
05年 4月、ヤマト運輸入社。
同年6月、同社常務取締役。
07 年3月、同社社長に就任。
グループ持ち株会社化に手腕を 発揮。
舵取りの難しい局面の中、組織改革を推進する。
都市部では車両を使わない配送 も増えている 通販向けのサービスメニュー拡 充が進んでいる PROFILE
