2009年5月号
特集

宅配市場のすべて 佐川急便「押して押して押しまくる」

MAY 2009  20 不況の今こそ自分の出番 ──この時期に創業一族の栗和田榮一会長からのバト ンタッチは、プレッシャーも大きいのでは。
 「プレッシャーは一切ありません。
もちろん環境は 厳しい。
これまで三〇数年間この仕事に就いてきま したが、既存顧客の取扱個数が減少したのは、単価 を上げるために戦略的にシェアに目をつぶった時期を 除けば、昨年度が初めてです。
幸い宅配便の取扱個 数としては前年比で微増を確保しました。
これは新 規を獲得したからです。
売り上げベースでも何とか前 年を保ちました。
しかし、積極的なインフラ投資を行 ったこともあって、収益性は下がっています」  「世間ではリーマンショックを機に荷動きが止まった と言われていますが、実際には姉歯事件からですよ。
あの事件の影響で建築基準法が改正された二〇〇七 年夏から国内の荷動きは悪くなっています。
まずは建 設不動産関係の会社の荷物が止まった。
次に原油の 高騰が来て、さらに落ちた。
そこにリーマンショック です。
その後も悪い話ばかりダラダラと続いたおかげ で実態経済以上にマインドが落ち込んでいる。
誰もが 必要以上に萎縮しています」  「しかしね。
だからこそ面白い。
こういう時こそ自 分の出番です。
もともと、私はそういうタイプなんで す。
悩んだような顔をしている店長を見ると、私は 言うんです。
悩むより動けと。
実際、動いたほうが 早い。
だから当社は強いんだと」  「我々佐川急便は、必要性・必然性・継続性・公共 性・広域性を備えている。
これらを持っている会社 は世間でもそんなにない。
だからウチは不況には強い。
自動車のセールスマンであれば、今月いくら高成績を 上げたとしても来月になればまたゼロからスタートで す。
セールドライバーは違う。
月一〇〇万円の宅配便 を使う荷主をいったん獲得すれば、後は一年を通して 売り上げを確保できる。
いくら不況だと言っても、収 入が伸びない理由などありません」  「私自身、現場で暴れる社長を目指しますよ。
これ まで以上に全国を飛んで回る。
それに今回の一連の人 事で私は佐川急便の社長に就任すると同時に、SG ホールディングスの役員を近々離れることになると思 います。
経営の監督機能と執行機能の役割を明確化 するためです。
これで私は佐川急便の現場の代表と してSGホールディングスに対して自由にものが言え るようになる。
もちろん佐川急便としての結果を出 さない限り、 持ち株会社に対して大きな口は叩けない。
まずは結果を出します」 ──今年度の目標はどこに置きますか。
現行の〇七 年度〜〇九年度の中期経営計画では〇九年度にSG ホールディングスとして連結売上高一兆円という目標 を掲げていますが、この計画を策定した当時とは環境 は激変しました。
 「もちろん中期経営計画の目標を堅持します。
この 商売は引いたら終わりなんです。
押して押して押しま くります」 ──市場規模が縮小するなかで勝算はありますか。
 「今の携帯電話にはおよそ四十種類もの機能がある そうです。
しかし、実際に使っているのは電話とメ ールぐらいという人が多いのではないでしょうか。
佐 川急便も同じです。
段ボールの荷物や書類を送る会社 ぐらいにしか認識されていない。
実際には輸送商品 だけでも十三便種あるんです。
他に一四の付加価値 サービスを販売している。
ところが既存顧客の大部分 は、二つか三つの商品しか使っていただいていない」  「当社の現状はホテルを見ると分かります。
ホテルの 佐川急便「押して押して押しまくる」  今年3月、SGホールティングスは佐川急便の新社長 に平間正一副社長を任命した。
地方のセールスドライ バーから上り詰めた営業のエースをトップに据え、難 局に向かう。
セールスドライバーの活力を強みとする 原点に立ち帰り、現場のモチベーションに火を付けて 直球勝負に出る考えだ。
    (聞き手・大矢昌浩) 平間正一 佐川急便 社長 第5部 21  MAY 2009 フロントには当社の伝票がほとんどありません。
個人 宅配のイメージが当社にないからです。
しかし、実際 には通販の荷物の過半数は当社が運んでいます。
つま り荷物を受け取る消費者は、当社のB to Cのドア・ ツー・ドア輸送を当たり前のものとして既に認知して くれている」  「ところが荷物を出す方、企業側にそのイメージが ない。
荷扱いが荒いという昔のイメージが残ってしま っています。
実際には、この三年間で我々は輸送品 質を徹底的に改善しました。
to Cの配送でも今や十 分に戦えるレベルの品質になっています。
そして当社 が毎日集配に回る顧客件数は全国一〇〇万社に上っ ている。
その足元を十三便種・一四サービスを駆使し て改めて掘り起こしていきます。
もちろん新規開拓 も引き続き進めます」 先行投資でB to C配送網を強化 ──これまで佐川急便はB to Cの自社配送には及び 腰だった感があります。
 「確かに to Cの配送インフラをどう組み立てるかに ついて、社内で議論していた時期もありました。
し かし、既に当社の取扱貨物の約三〇%をB to Cが占 めています。
毎年着実に比率が上がっている。
当社 の長年の主要顧客であるアパレルメーカーが、今やど こも自社で通販を始めている。
B to Cはやらないと いう選択肢など、もはや当社にはあり得ません。
そ して、やる以上は積極的にやる。
今年二月に当社は ワールドサプライ(旧・南王)を買収し、百貨店の納 品代行に本格的に参入しました。
現状ではヤマトさん の独壇場になっている百貨店からの個人宅配にも、い ずれ進出するつもりです」 ── to Cのインフラ整備には先行投資が必要になり ます。
 「既にこの二年間で従来協力会社に任せていた全国 約一万一〇〇〇台の軽トラック車両の自社化を進めま した。
一万人以上の労働力も新たに投入しました。
住 宅地は不在が多く、配送効率はよくない。
現状では 利益の足を引っ張る一因になっています。
しかし、 to Cの荷物が増えて配送密度が上がってくれば効率は改 善します。
それにプラスして全国約二万台の二トン以 上のトラックも今後は to Cの配送に積極的に使って いきます」 ──B to Cが増えてくれば平均単価は下がります。
 「同じ単価でも同一エリア内の宅配と遠距離では全 く意味が違います。
これまでの平均単価の物差しで 測る必要はありません。
もちろん単価を維持するこ と自体は重要です。
安易に下げては絶対にいけない。
いったん下がった単価はたとえ景気が戻っても再び上 げることは困難です」  「私は関東地区担当に戻った〇五年に一年間かけて 適正運賃収受活動を実施しました。
まず関東支社で 実施して翌〇六年には全国に展開した。
最大の理由 は、バブル崩壊以降、現場の店長が運賃交渉をやった ことがなかったからです。
ギリギリの交渉をできる管 理職が社内に育っていなかった。
具体的には、荷物 サイズの測定器を全国のハブセンターに導入して、サ イズを正確に反映した運賃を収受するように繰り返し 指導しました」  「それまではサイズを誤魔化して運賃を安くするこ とを顧客に対するサービスとはき違えていたドライバ ーがたくさんいた。
他にいくらでも顧客に貢献する 方法はあるのに、単価を下げることでご機嫌を取っ ていた。
結局のところ単価のアップというのは、お客 様に対して『これをやるためには、あとこれだけの 佐川急便の沿革 1957 62 66 78 84 87 91 98 99 2000 3 4 6 7 創業者・佐川清が京都で飛脚業を開業 有限会社佐川設立 佐川急便設立 国内店所数が100 店を突破 全国路線網完成 国内店所数が200 店を突破 東京佐川事件 宅配便「飛脚宅配便」取扱開始 「飛脚クール便」全国展開開始 カード決済代引き「e- コレクト」開始 中国市場に本格進出 「飛脚ゆうメール」開始 純粋持ち株会社SG ホールディングス設立 創業50 周年 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 600 500 400 300 200 100 0 ※05年度までは佐川急便の連結 (単位・億円) 01年度02年度 SGホールディングスの連結業績推移 03年度04年度05年度07年度09年度 計画 364億 8,894億 1兆円 営業利益450億 売上高 MAY 2009  22 無理です。
当時と同じように働きたいという人間は 今でもたくさんいます。
しかし、その頃に比べて労 働環境はずっと厳しくなったし、当社は法令順守を徹 底しなければならない。
それでも、やった人間、汗 をかいた人間にはそれだけの報酬を支払うという意思 を明確に表明する必要はあると考えています」 ──成果主義は日本に馴染まないという声もあります。
 「数字を機械的に報酬に反映するような、血の通わ ないやり方は確かによくない。
そうではなく、人事 評価の権限を委譲して、店長の裁量を増やすのです。
新人で入ってきたドライバーに、すぐにベテランのよ うに働けと言っても無理です。
新規営業など簡単に できるものではありません。
先輩が指導して、励ま して、経験を積ませていくことで段々と荷物がもらえ るようになっていくんです。
そうやってドライバーが 成長していく姿は感動的でさえあります」  「営業店の課長時代のことですが、バレンタインデ ーの時期になるとドライバー同士で誰がたくさんチョ コレートの贈り物を集められるか、競うわけです。
こ うした競争は実は始める前から誰が勝つか、それこそ 一番から順位がだいたい分かっている。
けれど一つも 集められないドライバーもいる。
でもそれは大口顧客 担当などで回る件数が少ないので仕方がない。
しか し放っておけば自信を失ってしまいます」  「それが分かっていたので、係長と相談して事前に チョコレートを買っておいた。
そのドライバーのルー トを回って、あらかじめ『これを当社の担当ドライバ ーにあげて下さい』と出荷担当者のおばちゃんにお願 いしておいたんです。
バレンタインデーの当日、その ドライバーがそれこそニコニコしながら『課長! 貰 いました』とチョコレートを手にトラックを降りてき た。
そのときの顔はいまだに忘れられません」 運賃が必要です』と言えるか言えないかが全てなんで す。
それがなかなか言えない。
このサイズ検証は今で も続けています。
口をすっぱくして言い続けたことで、 ようやく適正収受が九割近くになってきた。
」 ──JPエクスプレスの誕生は脅威になりませんか。
価格攻勢をかけてくる可能性が。
 「影響はあると思います。
当社と郵政さんは、メー ル便では補完関係にあるうえ、宅配便でもかなり棲 み分けができている。
部分的に競合することはあっ ても、直接的に取った取られたという関係にはなり にくいんじゃないかと‥‥甘いですかね? それで も一件取られたら、倍の二件取り返せばいいことで すから」 セールスドライバーの育て方 ──SGホールディングスに対しては何を主張しよう と考えているのですか。
 「やった者に報いるために、変動費の割合を増やし たい。
出来高制にしたり、ボーナスらしいボーナスを 出すのでもいい。
そうした仕組みを佐川急便にどん どん導入していきたい。
みんな何のために働いている のか。
自分のため、家族の生活ためです。
そのこと を当社のドライバーたちはもっと口に出していい。
欲 を出してもらいたい」  「私は一九七五年に一九歳で九州佐川急便に入社し て、それこそヘトヘトになるまで働きました。
あんま りきつくて何度も辞めようと思った。
しかし三回給 料を貰ったら、もう辞めようとは思わなくなりました。
それだけ給料が高かった。
当時、私の働いていた福岡 では、佐川急便で五年働けば本当にマンションが買え ました」  「今同じことをやれと言われても、さすがにそれは 付加価値サービスの拡大でドライバーの業 務内容も変化している 軽トラックによるB to C 配送網の自社化を 進めた 23  MAY 2009 付加価値サービスが増えている。
そして精密機械など、 走って運ぶことの許されないデリケートな荷物も増え ています」  「以前、大手荷主の役員から言われたことがありま す。
『平間くん、君はドライバーが走ることを美徳だ と思っているだろ。
当社は半導体を扱っているのだか ら、走られると困るんだよ』と。
それを聞いてハッと しました。
走るというイメージが荷扱いが悪いという イメージにつながってしまっていると」  「そうした意味で、佐川急便のイメージが昔と変わ っていくのは、仕方のないことです。
しかし、佐川 急便には速いという他にも、ドライバーが明るい、元 気があるという昔からのイメージがあります。
これだ けは未来永劫、継承していきたい」  「一つの目安は挨拶です。
単純なことですが私自 身、毎朝出社してガードマンの顔を見るなり、『おは よう!』と大声を上げることが習慣になっている。
掃 除のパートさんでも誰でも同じです。
相手に先に挨拶 されると嫌な気持ちになる。
しかし向こうも私の顔を 知っていますから、負けずに声を張り上げる。
毎朝、 怒鳴りあいですよ(笑)」 ──今の若い世代にも佐川急便のスタイルは通用しま すか。
 「佐川急便のドライバーという仕事は今でも十分に 魅力的だと私は思います。
先日、すべての店長を前 に言いました。
『お前たち、小さくまとまるな。
もっ と暴れてこい。
やんちゃで構わない。
お前らがどんな に暴れても、佐川急便の飛脚のわらじの紐が切れる ことはない』。
そうハッパをかけたら、店長たちから ウォーという叫び声がわき上がりましたよ。
そういう 連中です、佐川急便というのは。
そういう会社なん です」  「そのドライバーに対して『このコースはな、過去 に誰が行ってもチョコレートをもらえた人間はいなか った。
やっぱりお客様は見ているなあ。
このコースは やっぱり君じゃなければダメなんだ』と大げさに褒め てやりました。
やらせと言えばそうなのですが、た ったそれだけのことで、全く目立たなかったそのドラ イバーは、その後メキメキと成績を上げるようになり ましたよ」 ──そこまでやりますか。
 「今の店長に同じようにやれとは言いません。
同じ ことをやっても、しかけがバレますからね。
それでも 自分がドライバー時代にやってもらって嬉しかったこ と。
それは必ず今のドライバーにもしてあげなさいと は指導しています。
たった一言、声をかけるだけで もいいんです。
それでもオレのことを見てくれている と思えばドライバーはがんばる。
誰でもそういうもの でしょう」 現場のやる気に火を付ける ──佐川急便のセールスドライバーの現状をどう認識 されていますか。
 「一言で言えば、元気がない。
いまだに当社は速い というイメージを持ってくださっているお客様もいま す。
それは当社のドライバーが以前は走っていたから です。
しかし、最近、当社のドライバーが荷物を肩に 担いでいる姿を見たことはありますか。
ないでしょう。
台車で運んでいますよ。
しかも、たくさんの荷物を 台車に積んでいる。
とても走れません」  「最近のドライバーのイメージといえば、トラックの 後ろの荷台のところで何か作業をやっている姿ではあ りませんか。
荷物のバーコードを読み取ったりしてい る。
それだけ荷物を安全に確実に運ぶための仕事や、 平間正一(へいま しょういち) 1956 年、長崎県対 馬市生まれ。
74 年3 月、長崎県立対馬高校卒業。
75 年 10 月、九州佐川急便入社。
86 年、北海道佐川急便社 長。
92 年、佐川急便取締役。
94 年、同副社長。
2009 年3 月、同社長就任。
身長190 センチ近い偉丈夫で、 東京佐川急便事件以降は営業部隊のリーダーとして陣 頭指揮をとってきた。
PROFILE

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから