2009年5月号
特集

宅配市場のすべて 「TSS」ヤマトロジスティクス

人事に滲み出る期待  今年五月、3PLのヤマトロジスティクスに一つ の社内カンパニーが誕生する。
正式な名称は四月の 現時点でまだ決まっていないが、新カンパニーはヤ マトロジが通販事業者向けに提供しているインター ネット販売支援「Today Shopping Service (TS S)」の運営に当たる。
同サービスを二年前に立ち上げ、 育ててきたヤマトロジの星野芳彦常務は、「通販事 業者、エンドユーザーにとってTSSには大きなメリッ トがある。
3PLの我々には強力な営業ツールになっ ている。
一事業から社内カンパニーに引き上げるのは、 今後はますますその重要性が高まるという期待の表 れだ」と説明する。
 同社を含むヤマトグループは、グループ各社の機 能を融合した“イノベーション”を大々的に掲げて いる。
それを象徴する「五つのビジネスモデル」の 一つがTSSだ。
ヤマトロジのみならず、グループ にとっても最重要サービスの一つとして位置付けら れている。
 その意気込みは人事からもうかがえる。
新たに設 立するTSSカンパニーのプレジデントには、今年 三月までヤマト運輸で東東京主管支店長を務めてい た船越宰氏の就任が決定している。
首都圏の主管支 店長は千人単位の部下を抱える重職で、将来はグルー プの中軸を担うことを期待されたエリートのポストだ。
そんな人物をグループ会社の社内カンパニーのプレジ デントに起用するのは異例のことだという。
 TSSの仕組みについて詳しく見ていこう。
冒頭 で触れた通り、ヤマトロジが化粧品、健康食品、ア パレルなどの通販事業者に対して提供しているネッ ト販売の支援サービスだ。
二四時間稼働しているヤ 「TSS」ヤマトロジスティクス マトロジの物流センターにネット通販の商品を在庫し、 受注が入り次第、宅急便で配送する。
 最大の特徴は、従来のネット通販に比べてリード タイムを大きく短縮できること。
エンドユーザーがネッ ト上で注文をしてから最短八時間、遅くとも当日の うちに商品を届けることが出来る。
夜中に注文を受 けてもその条件は変わらない。
深夜〇時までにネッ ト経由で注文した商品は最短で翌朝八時に、配送先 がどんなに遠くても日本であればその日の午前中に は届く。
星野常務はTSS開発の背景を次のように 説明する。
 「ネット通販の注文が集中する“ゴールデンタイム” は二〇時から深夜〇時の間だが、この時間の受注は 通常、届けるまでに二日〜三日程度かかってしまう。
その間にキャンセルになってしまう商品も多く、通 販事業者にとって大きな機会ロスになっている。
リー ドタイムを短縮することで、そのロスを減らす手助 けができないかと考え、開発したのがTSSだ」  TSSの荷主には、一つの条件が付けられている。
ネット通販の商品の全てをヤマトロジの物流センター に在庫することだ。
当初は売れ筋商品だけを扱うと いう案もあったが、それでは顧客である通販事業者 の在庫リスクが増えてしまう。
また、エンドユーザー にとっても、すぐに届く商品とそうでない商品があ るのはわかりにくい。
全ての商品を取り扱うことが 顧客企業の“競争力”になると判断した。
 物流センターには高価なオートピックシステムを導 入した。
リードタイムを短縮するためには、受注後 のピッキング・梱包・発送といった作業を急ぐ必要 がある。
人海戦術によるピッキングではスピードや 処理能力に限界がある。
特に夜間の作業はミスも多 くなる。
人件費も相対的に高い。
TSSを実現す ネット通販当日配送サービスの展開を加速  ネット通販で受注した商品を最短8 時間で届ける「Today Shopping Service(TSS)」の拡大・普及にグループを挙げ て取り組んでいる。
その覚悟は今年5 月からの新体制や人事 に色濃く表れている。
TSS を実現するため、物流センターに オートピックシステムを導入した。
さらに、宅急便の“奥の院” ともいえる「クリーン便」にも手をつけた。
  ( 石鍋 圭) 第7部オルタナティブ宅配便の商品力 MAY 2009  26 ヤマトロジスティクス の星野芳彦常務 TSS に特化する新社内 カンパニーの船越宰プレ ジデント ヤマトロジスティクス販売 物流サービスカンパニー神 奈川販売物流センターの矢 田部俊宏センター長 オートピックシステムの導 入で処理能力は2 倍に 梱包作業現場 梱包された商品は宅配便 の仕分け場までコンベア で運ばれる る上で、作業の自動化は不可欠だった。
現在オート ピックシステムは四つのセンターに導入されているが、 最初に導入された神奈川販売物流センターの矢田部 俊宏センター長はその導入効果を次のように語る。
 「作業員だけの場合、一日の出荷は三〇〇〇件が 限度。
オートピックシステムを導入することで倍の 六〇〇〇件の出荷が可能になった。
ミスも無い。
捌 ける量やスピードが増したことにより、顧客企業は 当日配送の受注を締め切らないで済むようになった。
これが販売増に大きく貢献している」  TSSを運用するセンターは、基本的に宅急便の ベースと同じ建物に入居している。
配送には宅急便 を使っているので、ピッキングから梱包までの作業 が終わった時点で、同じ建物にあるヤマト運輸に引 き渡せばそのまま発送できる。
 神奈川センターではこの作業をさらに効率化する ため、上階と下階に分かれているTSSのセンター と宅急便の仕分け場をベルトコンベアで結んだ。
梱 包までの作業が終わると、そのままコンベアが宅急 便の仕分け場まで荷物を運ぶ。
?裏?の配送システムを活用  もっとも当日配送を可能にしている最大のカラク リは、オートピックシステムでも二四時間対応でも ない。
ヤマトが“クリーン便”と呼んでいる独自の 配送システムにある。
クリーン便とは、通常の宅急 便の時間帯以外の時間に各ベース間を行き来する車 のこと。
ヤマト側のミスなどで発送し損ねてしまっ た荷物を、顧客の指定時間に間に合わせることを目 的としている。
 例えば、宅急便の最終である二一時の発送に間に 合わなかった荷物をまとめ、深夜〇時または一時と いった非正規の時間に発送し、配送先の管轄ベース に届けている。
あまり表には出てこない、宅急便の “バックアップシステム”といったところだ。
 このクリーン便にTSSの商品を載せている。
深 夜の受注であっても、各ベースへのクリーン便に乗 せることで翌日の午前中配達が可能になる。
クリー ン便は荷物を受けるベース側の体制や、その周辺に 無数のデポがあって初めて運用が可能になる。
 もっとも、クリーン便の活用については社内で多 くの議論がなされたという。
ヤマト運輸にとって、 クリーン便はあくまでバックアップ機能。
顧客に迷 惑のかかるミスが発生するのをカバーしてくれる影 の存在だ。
そこにネット通販の通常荷物を載せるな どあり得ないという反対意見が少なくなかった。
 だが、「現在はグループを挙げて“イノベーション” を掲げている時。
古い考えに固執している場合では ない。
これまでのクリーン便による配送は利益を生 み出さなかったが、ネット通販の荷物を積むことで“プ ラスの配送”に変えることができる。
活かさない手 はない」というヤマト運輸の木川眞社長をはじめと する“改革派”が押し切る格好で実現した。
 二年前にスタートしたTSSの効果は、顧客企業 の実績を見れば明らかだ。
ある化粧品メーカーの一 日の出荷個数は、導入当時と比べて一・五倍に伸長 した。
それだけ顧客企業の売り上げと宅急便の取扱 個数が増加したことになる。
 新カンパニーのもと今年度中にはTSSセンターを 全国十一カ所まで増やす計画だ。
「顧客企業、そして、 その先にいるエンドのニーズを掘り起こせるかが勝負」 と船越プレジデント。
3PLは“コスト削減”や“在 庫最適化”といった紋切り型の提案で差別化できる 時代は終わったのかもしれない。
27  MAY 2009

月刊ロジスティクス・ビジネス

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