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2009年6月号
特集

1) 第1部 在庫削減からキャッシュフロー改善へ

不況の影響はグローバル企業ほど甚大  減産の判断が急速な需要の落ち込みに間に合わな いグローバル企業が続出している。
毎年六月は、三月 決算の上場企業の有価証券報告書が発表される時期 である。
これから個々の企業レベルにおける、世界 同時不況の影響の大きさやその範囲が、有価証券報 告書や決算補足資料の分析によって、いっそう明ら かになっていくはずだ。
 日本の製造業のSCMの変遷は、有価証券報告書 を時系列で分析することで見えてくる。
棚卸資産日 数は、二〇〇五年度あたりを境として、圧縮から横 ばいに転じ、〇七年度には微増の傾向が見られた。
こ のことから、日本の製造業は〇五年頃にはSCMの 第一段階をほぼ完了したものと推定される。
在庫削 減が峠を越えたわけである。
 その後の棚卸資産の増加については、同時期に海 外売上高も急激に増加していることから、グローバ リゼーションが要因の一つであると考えられる。
ちな みに日本経済新聞社の調査によると、日本の上場製 造業の海外販売比率の平均は、〇七年度にすでに四 五%に達し、今や五割に迫っている。
 グローバリゼーションは、自動車・電機などの業界 に留まったものではない。
この数年の傾向では、そ れまで海外事業に取り組む企業の少なかった業界、た とえば食品・日雑業界でも海外販売比率が急激に伸 びている。
日本の国内市場の縮小が見込まれるなか、 海外に販路を広げることで規模の維持・拡大を図っ ているのである。
 グローバル化のスキームも、日本からの輸出ではな く、海外における工場の設立に大きくシフトしてい る。
海外事業拡大の手段としてM&A、特に日本企 業の海外企業買収も紙上を賑わせている。
こうして 急激に変化するグローバリゼーションに対応したサプ ライチェーンの構築が、日本企業の新たなチャレンジ となっている。
 ただし、グローバリゼーションのスタイルや内容は 業種によって大きく異なる。
たとえば化学・食品業 界は、商品の特性上、現地生産・現地販売が基本と な る。
そのため、サプライチェーンは短く、在庫増 減の制御のためのブレーキとアクセルが踏みやすい状 態にある。
 機械・電機・輸送用機器・精密業界など、アッセ ンブリー業界のグローバリゼーションはもっと複雑だ。
キーパーツは日本で生産し、組み立てを人件費の安い 新興国で処理して、先進国で販売するというかたち で、サプライチェーンのネットワークがグローバルに拡 散している。
サプライチェーン全体のリードタイムが 長くなる分だけ、ブレーキも効きにくくなる。
今回 の不況でアッセンブリー業界が最も大きな影響を受け たのもそのためだ。
 グローバル情報システムのインフラ整備、グローバ リゼーションに対応した組織改変などの対応に遅れが ある場合には、早急に手を打たなければならないの はもちろんだ。
しかし、それだけでは足りない。
グ ローバルな生産分業体制の下では、在庫削減の制約 は大きい。
抜本的な問題解決のために、SCMの対 象領域を広げて、リードタイムの問題までカバーする 必要が生じている。
 そこで新たなターゲットとして浮上するのが運転資 金である。
日本でキーパーツを生産し、それを中国や 東南アジアの工場に輸送し、そこで組み立てた完成 品を今度は欧米の販社に輸送して在庫し、販売して いる電子部品メーカーを例にとってこのことを考えて 在庫削減からキャッシュフロー改善へ  在庫削減は既に峠を越えた。
同じ業界の企業同士で在庫水 準を比べても既に大きな差はなくなっている。
しかし、SC Mの管理対象は今や「現金循環化日数(CCC)」の短縮へと 領域を拡大している。
在庫に加え売掛、買掛までを統合管理 するサプライチェーン・ファイナンスが新たな差別化ポイント になっている。
梶田ひかる アビームコンサルティング 経営戦略センター マネージャー 第1部 JUNE 2009   10 特集1 みよう(図1)。
 これを現地生産・現地販売と比べると、二回の国 際輸送によりサプライチェーンが距離的・時間的に長 くなるばかりか、この間の輸送日数に対応した安全 在庫が増加することで、必要な運転資金の金額も増 加する。
特に東南アジアから遠い欧州では、船便で 輸送する場合、三カ月分程度の在庫を持つのが一般 的である。
輸送リードタイムが制約となるため、いく ら圧縮しても二カ月分程度が適正在庫レベルである 可能性が高い。
それ以下に減らせば欠品によって売 上機会を損失してしまうことになる。
 海外で生産した製品を日本に輸入して販売する場合 にも、同様の問題が発生する。
輸送中の在庫の所有権 を日本側で持つ場合には、その分の棚卸資産が増える。
輸送リードタイムの長い船便を使う場合には、運転資 金の固定化によるインパクトはさらに大きくなる。
 このようにグローバリゼーションに伴なうサプライ チェーンの長期化は、運転資金の増加に結びつく。
こ の問題を解決するには安全在庫の水準を引き上げる だけではなく、原材料の購入代金の支払いから完成 品の販売代金の回収に至る運転資金の循環までをS CMの視野に入れる必要がある。
 その分析手法が「キャッシュギャップ分析」である。
これについては本誌〇四年六月号でも取り上げたが、 その後も活用が広がっており、近年では「キャッシ ュ・コンバージョン・サイクル(CCC:現金循環化 日数)」という呼称が多く用いられるようになってい る。
本稿でもそれにならって以下、CCCと呼ぶこ とにする。
 CCCの算出式は、前回紹介したように在庫、売 掛、買掛のそれぞれの日数から求める方法もあるが、 必要運転資金という観点から解説する場合には、図 2のように紹介したほうが適切であろう。
これをサ プライチェーン・サイクルと対比させたものが図3で ある。
すなわち、調達した原材料の代金を実際に支 払った日から、その原材料を使って生産した完成品 の販売代金を回収するまでの日数が、その製品のC CCである。
 これまでSCMでは在庫削減ばかりがクローズアッ プされてきたが、CCCという評価軸を使って、ス コープをキャッシュフロー、つまり企業の運転資金の 流れにまで広げれば、削減すべきは在庫だけではな いことが分かる。
売掛期間を短縮し、買掛期間を長 期化すれば、必要な運転資金を圧縮することができ る。
つまり在庫削減と同じ効果を得られるのである。
 実際、大手パソコンメーカーのデルは、受注生産方 式とVMI、そして現金販売を組み合わせて、CC Cをマイナスにすることに成功している。
つまり取引 規模が拡大するほど手元の運転資金が増える。
デル はそこで得た資金をさらに事業拡大に充てることで 急成長を成し遂げた。
同じく大手パソコンメーカーで あるアップルもCCCがマイナスな企業の代表例であ る。
SCMの先進企業として知られているデルやア ップルは、CCCの活用においてもやはり優れてい たのである。
同業種でもCCCには大きな差  次頁の図4は、日本のアッセンブリーメーカーの「在 庫日数」「買掛金支払日数」「売掛金回収日数」「CC C」の業種別平均値である。
〇七年度決算で売上高 五〇〇億円以上だった機械・電機・輸送用機器(自 動車除く)・精密セクターの上場企業を、各社の主力 製品に基づいて、在庫比較の観点から独自に業種分 類したものだ。
図2 キャッシュ・コンバージョン・サイクル 図3 サプライチェーン・サイクルとCCC 棚卸資産 + 売掛債権 ー 買掛債権 CCC = 売上高 × 365 サプライチェーン・サイクル 仕掛品・半製品 キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC) =必要運転資金期間 買掛債権 在庫売掛債権 原材料完成品 原材料入荷生産開始納品 買掛金支払 売掛金回収 国際輸送 販売待ち 図1 グローバリゼーションとサプライチェーン・サイクル長期化 完成品 販売待ち 組立 キーパーツ 生産 原材料 生産待ち 完成品 国際輸送 組立 キーパーツ 生産 原材料 生産待ち 《国内生産・国内販売》 《グローバル生産・販売》 海外からの調達に伴なう リードタイム(LT) 長期化・ロット拡大 輸送LTの長期化 輸送LT長期化に伴なう 安全在庫増加 輸送LT長期化に伴なう 安全在庫増加 11  JUNE 2009  これによると生産リードタイムの長い業種ほど、在 庫日数も長くなる傾向が読み取れる。
またSCMの 取り組みが進展した結果として、同業種における在 庫日数の差は少なくなっている。
ただし、CCCと なると、同業種であっても企業によるバラツキが在庫 日数と比べて格段に大きい。
その差は買掛、売掛の 双方で生じていることが分かる。
 とりわけ着目すべきなのは売掛金回収日数である。
表に挙げたアッセンブリーメーカーであれば、販売先 の業種・業態にそれほど大きな違いはないはずなの に、売掛金回収日数にはかなりの開きが生じている。
実際、同業種のメーカー二社が同一の顧客に販売し ている場合であっても、売掛サイトは異なっているこ とが多いのである。
 この差を把握することが、企業にキャッシュフロー を向上するチャンスと目標を与えてくれる。
売掛金回 収日数の少ない同業他社をベンチマークとして、その 圧縮に取り組むのである。
 日本でもCCCに着目する企業は、少しずつ増え 始めている。
東芝では、〇八年四月よりキャッシュ・ コンバージョン・サイクル(CCC)プロジェクトを 設け、棚卸資産および売掛債権の圧縮に努めている。
もともと東芝のCCCは〇七年度の有価証券報告書 ベースで四八日と、大手電機メーカーとしてはむしろ 少ない部類に入る。
それでも期末に集中しがちな債 権の回収時期を期中に平準化したり、回収期間の短 縮や、前受金を増やすよう顧客と交渉することなど によって手元資金の積み増しに動いている。
 また発電所設備の工場など、受注生産で生産リー ドタイムの長い重電分野にもトヨタ生産方式を導入す るなど、CCCの短縮を全社的な業績指標評価と位 置付けて、各事業部門が取り組みを徹底することで、 〇八年度から一〇年度の三年間累計で三〇〇〇億円 のフリーキャッシュフロー創出を狙っている。
 そのほか、二〇〇八年度の決算短信ベースで見る と、大手アッセンブリーメーカーでは、今回の不況に 伴う運転資金圧縮の取り組みとして、売掛金回収日 数を短縮した企業が目立つ。
景気悪化に伴う棚卸資 産の増加をカバーするために、売掛金の削減に取り 組んだと想定される。
急激な売上高減少がCCCに 意識を向けさせたのだ。
 CCCが重要なのは、表で示したようなアッセンブ リー業界に限ったことではない。
在庫削減が限界に 近づいた企業にとっては、次の運転資金圧縮の機会 がここにある。
売掛サイト短縮の働きかけや取引条 件への売掛サイトの明示化とその順守のみならず、キ ャッシュ・ディスカウントの活用など、打つべき手は 多く存在する。
サプライチェーン・ファイナンスの活用  サプライチェーン・ファイナンス(SCF)も選択 肢の一つになる。
生産のグローバル化に伴ない、主に 国際輸送に関連した運転資金を効率化するソリュー ション・サービスに注目が集まっている。
このような サービスをSCFと呼ぶ。
(SCFは本誌〇七年二月 号でも紹介している)  この数年、SCFには輸出入の資金決済に関わる 銀行、輸出入を代行する商社が積極的に取り組んで いるが、それ以上に活発な動きを見せているのが3 PL事業者である。
荷主企業に対する、より包括的 なグローバル・ロジスティクス支援に向けて、SCF サービスを開始する3PL事業者が増えている。
提 供するサービス内容も多様化が進んできた。
 アッセンブリー業界では従来から多くの企業が、海 製造設備 工作機械 工具 化学機械 建設機械 農業用機械 半導体製造装置 計器 その他の機械器具 ベアリング 電源部品 電子機器部品 電子部品−総合 電子部品−半導体 その他の機械部品 総合電機 141 79 89 125 140 82 97 134 166 41 82 156 40 102 110 59 114 93 97 113 125 109 76 87 136 102 105 126 112 70 108 130 65 64 106 104 68 76 81 75 77 58 87 102 58 42 73 83 51 62 79 71 74 65 84 84 72 67 92 97 58 81 79 63 業種分類 在庫日数 買掛金 CCC 支払日数 売掛金 回収日数 産業用通信機器 産業用電気機器 事務用機械器具 民生用通信機器 民生用電気機器−家電 民生用電気機器−その他 その他の電気機器 自動車部品−エンジン 84 83 113 114 100 96 110 112 58 61 73 70 51 47 46 49 60 59 57 57 66 50 62 73 44 43 85 86 58 58 64 63 29 68 69 36 47 59 80 70 107 105 102 104 82 80 94 95 113 87 96 111 105 77 85 100 85 73 88 94 CCC 自動車部品− 駆動・伝導及び操縦装置部品 自動車部品−電装 造船重機 その他の輸送用機器 光学・医療機器 その他精密機器器具 機械・電機・輸送用機器 (除:自動車)・精密平均 業種分類在庫日数買掛金 支払日数 売掛金 回収日数 図3 上場アッセンブリー業のCCC JUNE 2009  12 特集1 外から調達する部品について、国際VMIを導入し ている。
生産開始までの在庫をベンダー側の負担とす ることで在庫および資金を削減するのが目的である。
これに対し、SCFは生産開始以降の資金および在 庫負担の軽減を実現するものである。
 売掛債権の割引や伝統的な商社機能もSCFの一 つと位置付けることができる。
グループ会社間の国 際輸送であっても、そこに商社を介在させることで、 連結決算ベースでのその間の在庫を削減することがで きる。
CCCを圧縮できるのである。
もちろん、手 数料は発生する。
それでも浮いた運転資金を活用し て、コスト以上の利益を上げることができるのなら 帳尻は合う。
 CCCそのものの圧縮とはならないが、運転に使 える資金を増加させる方法として、在庫を担保とし た融資=動産担保融資(ABL)も利用可能になっ ている。
船上から市場国での販売までの間の在庫を 担保に融資を受ける。
その資金を回転させて、ビジ ネスをより大きくすることに使うわけである。
 これら運転資金に直接的に関わるサービスに加 え、SCFサービスを提供する事業者は、ファクタリ ング、EIPP( Electronic Invoice Presentment and Payment :電子請求書・決済) やE B P P ( Electronic Bill Presentment and Payment:電子 請求書発行・決済)など、輸出入プロセスの合理化 や効率化に向けたサービスも提供していることが多い。
経済のグローバル化に対応して、それを支える様々な サービスが強化されてきているのである。
 残念ながら日本企業のSCFへの関心は低いと 言わざるを得ない。
現時点では資金力の乏しい企業 が活用するに留まっている。
その原因は、こうした ファイナンス・サービスの利用の判断が、既存の組 織体制では財務部門の担当になっていて、従来のロ ジスティクスの意思決定範囲の外側にあることが大 きい。
 加えて、SCFサービスを利用することにより、損 益計算書上はコストアップになる場合が多いことも、 普及を阻む一因となっている。
SCFは営利企業で ある第三者がクライアントに代わって一定期間の資金 をカバーするのであるから、それに見合う手数料等 がかかるのは自明の理だ。
資本コストの認識を改めろ  資本主義経済の下で企業はより高い利率で資金を 活用することを期待されており、経済のグローバリ ゼーションは、日本の製造業に対して資本効率の大 幅な向上を求めている。
資本効率の改善は、グロー バル競争に生き残る条件の一つである。
 ところが日本企業は、在庫削減時に効果とする資 本コストをどう見るかという段階で、長いこと議論 を繰り返し、それを負債資本コストの範囲に留めた ままの状態で、本格的なグローバル競争に突入してし まった。
在庫の保有による影響を小さく考えすぎて いるのである。
 海外企業と日本企業の間には、資本コストへの認 識に明らかなズレが生じている。
そのことはグローバ ル競争において、日本企業がじりじりとシェアを落 とし続けている要因の一つにもなっていると考えら れる。
日本の製造業がグローバルSCMを強化する には、まず運転資金、資本コストへの認識を改めて、 資金の効率的活用に目覚める必要がある。
グローバ ル競争の常識に則って、資本コストを株主の期待す る利回りで設定した場合、SCFサービスにかかる 経費は十分に安い可能性がある。
かじた・ひかる 1981年南カリフォルニア大学大学院OR 修士取得。
同年日本アイ・ビー・エム入社。
1991年日通総 合研究所入社。
2001年デロイトトーマツコンサルティング(現: アビーム コンサルティング)入社。
静岡県立大学非常勤講師。
ロジスティクスABC、ロジスティクス中長期計画策定、在庫 削減プロジェクトなど、ロジスティクスの企画・管理に関する コンサルティングと研究を中心に活動中。
PROFILE 13  JUNE 2009

月刊ロジスティクス・ビジネス

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