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2009年6月号
特集

1) 第2部 商社よりも安く、銀行よりも速く

中国ビジネスで「融資物流」が急拡大  中国の大手物流会社、コスコ・ロジスティクスが二 〇〇六年に開始した「融資物流」の利用実績が、〇 八年四月までの二年間で四〇〇億元(約五六〇〇億 円)に達し、その後も膨張を続けている。
中国工商 銀行、中国建設銀行、中国銀行の三大銀行をはじめ とした現地の十二行とコスコがスキームを組み、在庫 を担保として荷主に運転資金を融資している。
 二種類のスキームがある。
一つは輸出モデル。
中国 から海外に製品を輸出する商社やサプライヤーの調達 資金を、その会社の在庫や売掛債権を担保に融資す る。
もう一つは、これから仕入れる在庫をあらかじめ 担保として設定する輸入モデル。
商品を輸入する中国 企業の与信を、相手国の輸出者に対して保証する。
こ の場合には相手国から出荷する船積み時点、もしくは 輸入して中国側の倉庫に入荷した時点でコスコが在庫 を保全する。
 対象となる商品は、現状では石油や鋼材など換金し やすい原材料が中心だが、自動車をはじめとした輸送 用機器の実績もある。
「世界同時不況で中国の輸出入 貨物も低迷しているが、資金調達のニーズはむしろ増 している。
他社に真似のできない金融サービスを武器 にして、本業の物流事業の拡大を狙う」と、コスコ・ ロジスティクスジャパンの五十嵐公取締役はいう。
 国際インテグレーターのDHLも、金融サービスの 提供をロジスティクス事業の有力な販促手段として位 置付けている。
DHLサプライチェーンのキム・フィッ シャー執行役員北アジア地区ビジネスディベロップメ ント担当は「サプライチェーンが長く複雑になったこ とで、サプライヤーは代金を回収するまでに四五日か ら六〇日、あるいはもっと長い期間待たなければなら なくなっている。
そうした顧客を3PLとしてサポー トするために、金融機能を提供している」という。
 具体的にはノンバンクのGEキャピタルと提携し、 VMIを運用するサプライヤーからまとめて在庫を買 い取り、組み立て工場への納品と同期させて小口で販 売するファクタリングを行っている。
米国で構築した スキームを欧州やアジアに横展開した。
日本でも〇六 年一〇月に同サービスが切り札となって、外資系メー カーの3PL案件を受託している。
しかし、その後は 期待されたほど利用が広がっていない。
日本ではこれ まで好景気と低金利が重なり、企業の資金調達が容 易だったことに加え、株式市場のプレッシャーが欧米 ほど高まらず財務指標の改善に向けた動きが足踏みし ていた。
手数料を支払ってまで手元資金を積み上げよ うとする荷主が少なかったのだ。
 しかし、フィッシャー執行役員は「今後は日本でも ファイナンスサービスは拡大していく。
経済環境が変 わって資金調達が難しくなっただけでなく、リスクは できるだけアウトソーシングしたいというニーズが高 まっている。
我々としても金融サービスの内容をさら に進化させていく」という。
 情報(IT)、ロジスティクス(LT)、金融(F T)という三つの技術の融合を事業戦略に掲げるヤマ トホールディングスでは現在、在庫を担保にした融資 制度、ABL(Asset Based Lending)の事業化を 模索している。
みずほコーポレート銀行出身の木川眞 ヤマト運輸社長はその意味を次のように語る。
 「物流会社の金融サービスと言えば、これまでは代 引きや収納代行などの限界金融でしかなかった。
しか し在庫管理機能に在庫の時価評価機能を加えること ができれば、我々物流会社が金融機関に代わって荷 主の資金繰りを支援できるようになる。
荷主のキャッ 商社よりも安く、銀行よりも速く  物流企業が総合商社や銀行の足元を浸食しようとしている。
B to C の代金引換配送から企業間の決済に金融サービスの領 域を拡大。
総合商社よりも安い手数料、銀行よりも速い処理 を武器にして、取引の活性化を支援する。
サプライチェーン の組み立てに新たな選択肢が加わった。
   (本誌編集部) 第2 部 JUNE 2009   14 特集1 シュフロー改善こそが物流金融の本質だ」  宅配便による全国翌日配送は、調達の多頻度小口 化による在庫の削減を可能にした。
在庫として資金を 寝かせておく必要がなくなり、荷主の資金繰りが改善 したわけだ。
また通販会社に対しては、通常の代金引 換サービスのほか、宅配会社が販売代金を一時的に立 て替え払いするサービスも提供している。
これも通販 会社の資金繰り改善が目的だ。
金融サービスが物流企業の収益源に  こうした宅配会社の金融サービスは、もともと宅配 便の拡販が狙いだったが、現在ではそれ自体が重要な 利益源となっている。
ヤマトホールディングスは〇九 年三月期にフィナンシャル事業で五三九億円を売り 上げている。
その大部分は代引き手数料だ。
一方で フィナンシャル事業の営業費用はヤマト運輸に支払う 委託料だ。
グループ内取引であるため、委託料の料金 設定は自由が利く。
実際にはドライバーが宅配便を届 けたついでに決済を処理するだけなので、代引き処理 のために増加するコストは限定的だ。
つまりフィナン シャル事業の売り上げは実質的には、ほぼ利益とも考 えられる。
それが同期の連結営業利益五五七億円に 匹敵しているということは、宅配便自体では既に儲か らなくなっていることを意味している。
 一九九〇年代以降、宅配便の平均単価はずっと下 がり続けている。
プレーヤーの淘汰が進み、勝ち残っ た企業同士ではサービスでの差別化が難しいことから 価格競争が激化している。
コモディティ化だ。
その結 果、宅配便本体では利益を上げることが難しくなって いる。
ただし代引きなどオプションサービスの手数料 は今のところ価格が維持できている。
結果的に現在の 宅配便事業は、オプションで利益を出すという構造に なっている。
 ライバルの佐川急便でも事情は変わらない。
同社は 創業時代から飛脚の商慣習をそのまま受け継いで、荷 主の要請に応じて代引きを行ってきた。
ただし、その 対象は卸と小売店の間のB to B取引。
ヤマトは八六 年に代引きを正式に商品化しているが、その後も佐川 は代引きを例外的なサービスの一つという扱いにとど めていた。
 佐川が本格的な代引きサービスを開始したのは二〇 〇〇年のこと。
この年、同社は「e│コレクト」を発 売。
ドライバーが携帯する専用端末を新たに開発し て、一般宅の玄関先でのクレジットカード決済を業界 で初めて商品化した。
もっとも、玄関先でのクレジッ トカード決済を利用する消費者は現在でも代引き利用 者の三%〜四%に過ぎない。
そのために巨費を投じて ドライバーの携帯端末を入れ替えるまでもないと、他 の宅配会社はすぐには追随しなかった。
実際、ヤマト が届け時のクレジットカード決済を導入したのは〇五 年で、佐川より五年遅れた。
 この間に佐川のe│コレクトの取扱個数は急増した。
決済手段の選択肢を増やしたことが消費者や通販会 社の支持を得た。
二〇〇〇年時点でヤマトと佐川の代 引き宅配の取扱個数には三倍以上の開きがあった。
e │コレクトの発売後その差は急速に縮まり、〇六年度 にはついに逆転した。
その後も格差は広がり、〇八年 度現在、e│コレクトは宅急便コレクトに一〇〇〇万 個以上の差を付けている(図2)。
 e│コレクトの決済金額は現在、年間一兆二〇八七 億円に上っている。
同社は事業収益の内訳を公表し ていないが、e│コレクトの手数料が今ではグループの 大きな収益源になっているのは間違いない。
物流サー ビス商品のマーケティングを強みとしてきたヤマトに 600 500 400 300 200 100 0 飼料 石炭 化学工業 鉱物 非鉄金蔵 鋼材 石油 自動車 図1 「融資物流」の商品別実績 (件) (億元) 250 200 150 100 50 0 融資金額(右軸) 融資件数(左軸) DHL サプライチェーンの キム・フィッシャー執行役 員北アジア地区ビジネス ディベロップメント担当 コスコ・ロジスティクス資料より 15  JUNE 2009 とっては苦い教訓だ。
 しかし、物流金融の主戦場は今やB to CからB to Bへ、本格的な企業間取引へとシフトしようとしてい る。
潜在的な市場規模はB to Cとは比較にならない ほど大きい。
B to Bの金融サービスにおける競争の結 果次第では、物流市場の勢力図自体が再び塗りかえ られる可能性がある。
 日本通運は巻き返しを狙っている。
日通グループで 商社機能を担う日通商事は〇二年に「アロッズペイメ ントサービス(現在は『日通キャピタルe│決済サー ビス』に名称を変更』)」を発売している。
通販会社を 主な対象として、代引きや銀行振込、郵便振替、コ ンビニでの支払い、ネット上でのクレジットカード決 済など、複数の決済手段を日通が一括して提供する サービスだ。
通販会社は日通に決済機能を委託する ことで、各金融機関と個別に契約を結ぶ手間が省け る。
カード決済手数料などの条件も日通を通すことで ボリュームディスカウントが引き出せる。
同社が他社 に先駆けて構築したサービスで、現在はネットコンビ ニやネットバンクの決済にも対応している。
 しかし、これまでのところ、その実力通りの実績が あがっているとは言い難い。
ペリカン便のオプション サービスとして位置付けられてきたことが原因だ。
二 強と比べて事業規模が小さいため、取扱個数が増え ないことに加え、届け出時点のカード決済も含め、配 送インフラへの設備投資が必要になる機能のフォロー アッもできずにいた。
 しかし、今年四月にペリカン便は日本郵便との合弁 会社、JPエクスプレス(JPEX)に事業を移管 した。
一〇月には、ゆうパックもJPEXに移管され て新たなブランドに統合される計画だ。
その決済機能 は、日通グループの金融機能を集約して〇六年一〇 月に設立した金融子会社の日通キャピタルが担うこと になる。
大規模な設備投資の道が開けた。
 同時に、宅配便事業が外部に移管されたことで、日 通キャピタルは宅配便事業とは切り離した、純粋な決 済サービスを販売することが可能になる。
同社の中田 信弥取締役は「これまでも当社の決済機能自体は他 社と比べて劣っていたわけではなかった。
物流の伴わ ない決済サービスも『ノン・ロジタイプ』と名付けて 手がけてきた。
今後はフリーハンドで当社の持つ金融 機能を多方面に展開していく」という。
 宅配市場では劣勢に立たされてきたが、企業間物流 の領域では、日通はいまだに圧倒的な存在だ。
従来か らグループに物流商社の日通商事を抱え、金融サービ スのノウハウも蓄積してきた。
物流企業の金融サービ スは大きなマージンを必要としない。
物流のオペレー ションを裏付けとして、与信やモニタリングに新しい 切り口を提供することもできる。
総合商社よりも安く、 金融機関よりもスピーディな金融機能を確立できる可 能性がある。
総合商社もサービス革新に動く  既存の金融機関や総合商社はその足元を浸食され ることになる。
そこに網を掛けようとした金融庁は昨 年、金融審議会に「決済に関するワーキング・グルー プ」を発足させて、代引き規制に乗り出した。
とこ ろが、これにヤマトをはじめとした物流業界が猛反発。
通販や百貨店などユーザー企業や一般世論の反対に もあい、今年一月の通常国会で予定していた規制法案 の提出を見送るといったドタバタ劇を演じている。
そ れだけ行政にとっても物流会社の金融サービスは無視 できない存在になっているのだ。
 同様に国際取引の中間流通でマージンを得てきた 図2 代金引換サービスの取扱個数の推移 120 100 80 60 40 20 0 (百万個) ヤマトHD (宅急便コレクト) 佐川急便 (e-コレクト) ‘00年佐川急便 「e-コレクト」発売 00 年度 02 年度 03 年度 04 年度 05 年度 06 年度 07 年度 08 年度 09 年度 ‘05年「宅配便コレクト」 届け時カード決済開始 三井物産物流本部の 大矢健二物流・保険事 業部事業開発室室長 JUNE 2009  16 総合商社の口銭ビジネスもリスクにさらされることに なる。
三井物産物流本部の大矢健二物流・保険事業 部事業開発室室長は「我々のような総合商社にとっ ては、伝統的な帳合い商売は今や不採算事業に該当 している可能性がある。
商社として新しい仕組みに取 り組む必要がある」と指摘する。
 現在、同社の物流本部には約一八〇人が在籍し、大 手総合商社のなかでも最大規模を誇っている。
物流 と金融の融合にも最も積極的だ。
物流REITや船 舶ファンドなど、幅広い事業を手がけている。
しかし、 物流本部が独自に金融サービスを推進していくことは、 結果として同じ商社内の他の事業部門の縄張りを踏み 荒らすことにもかねない。
 「確かに我々物流本部がやっていることを外から見 れば、他の商品営業部門とかぶって見えるかも知れな い。
しかし、実際のアプローチは違う。
商品営業部門 はモノに対する知見をベースに商売を組み立てる。
一 方の我々はモノを運ぶことをベースにして、様々な商 品に横展開している」と大矢室長は説明する。
 物流・保険事業部では現在、ABLの考え方を利 用した新しい物流金融サービスの構築に取り組んでい る。
経産省主導で設立されたABL協会にも他の商 社が金融部門から代表者を理事として送り込んでいる のに対し、三井物産は物流本部長を投入した。
 「物流本部は金融部門にはないフィジカルな情報を 持っている。
モノの管理からモニタリング、保全まで、 すべてカバーできる。
しかもABLには我々の物流R EITのノウハウも活かせる。
金融機関とともに、決 済に物流を組み合わせるだけではない、新しいかたち で商流に入っていきたい」と大矢室長。
これまで総合 商社が提供してきた物流金融サービスを革新する動き は、総合商社の内部からも起こっている。
特集1  イトーヨーカ堂の海外部総括マネージャーから 学界に転じ、現在は横浜商科大学商学部貿易観 光学科で教鞭を執る小林二三夫教授は「輸送手 段の発達や検品・仕分け作業の効率化、輸出入 手続きの高速化などにより、国際輸送のリードタ イムは年々短縮している。
しかし既存の決済シス テムがそれについていけず、サプライチェーン構 築上の大きな課題になっている」と指摘する。
 小売業が中国をはじめとしたアジア諸国から日 本に商品を輸入する場合には「信用状(L/C)」 を使って決済が行われることが多い。
銀行が代金 の支払いを保証する証明書だ。
このL/Cに基づ く貿易関連書類は、荷物とは別に国際宅配便な どを使って両国の銀行や輸出入者間を移動して手 続きが進められる。
そのスピードが実際のモノの 動きに追いつかなくなっている。
 モノは届いているのに決済が終わっていない。
為替レートが確定しないため原価計算もできない。
輸入者に時間的余裕がない場合には、見込みで販 売価格を決定しなければならない。
その後、為替 レートが確定した段階で改めて帳簿を書き換える 必要がある。
決済スピードの向上が強く求められ ている。
 貿易決済を電子化する貿易用EDIの整備も 進んでいるが、いずれも一長一短がある。
その一 つで金融機関が推進する「Bolero(ボレロ)」は、「貿 易関係者全員がメンバーでなければならず、しか もメンバーフィーが高額。
経産省主導の『TED I(テディ)』は使い勝手が悪い。
米民間企業が 運用する『Trade Card』にしても、買い手が恣 意的に支払いを止めることができるため、最近で はサプライヤー側が利用を拒否するようになって いる」と小林教授は指摘する。
 そこでヨーカ堂では、世界の主要な金融機関が 加盟する通信標準化団体「SWIFT」が開発 した「TSU(Trade Service Utility)」の利用 トライアルを進めている。
TSUは銀行間の通信 インフラであるため、貿易当事者は団体に加盟す る必要がなく、取引銀行に貿易データを渡すだけ で済む。
銀行はデータをTSUにインプットし定 型のフォーマットに変換。
売買契約書、貨物運送 状、船荷証券(B/L)類、インボイスなどのデー タは自動的にチェックされる。
この仕組みでは通 常の売買契約書が基本データとなり信用状と同様 の役割を果たす。
 四月には同プロジェクトを支援する三菱東京U FJ銀行と中国銀行が本格稼働のための契約を締 結。
運用が本番に入る。
三菱東京UFJ銀行は 「ヨーカ堂のほかにも、自動車輸出や電機関連、 消費財の輸入商社など約一〇社が現在TSUの 利用を検討している。
輸入者にとってはコストが 安くなり、スピードも速くなる。
我々銀行にとっ ては貿易取引の手数料収入が減ることになるが、 他の銀行に任せている決済を当社にまとめてもら えればトータルではプラスになる」と前向きに取 り組んでいる。
グローバル化に金融機能が追いつかない 横浜商科大学商学部貿 易観光学科の小林二三夫 教授 17  JUNE 2009

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