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2009年6月号
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「物流企業と金融機関を結びつける」久保田清 NPO法人日本動産鑑定 理事長

JUNE 2009  2 あるんです。
万が一、荷主企業が倒 産した場合にも、物流企業が金融機 関に代わって、すぐに在庫を押さえ る。
その時点で荷物の所有権も金融 機関に移るので、物流会社としても 賃料の取りっぱぐれがない」 ──倒産しない場合でも物流企業に は在庫をモニタリングするデータ提供 料が入る。
 「それだけではありません。
荷主企 業に対して資金繰りの改善を提案で きるようになります。
荷主企業に提 供できるソリューションの幅が広がる わけです。
貸金業登録のない物流企 業が直接、融資の斡旋をすることは できないけれども、コンサルティング なら問題はない。
新しい荷主を獲得 するうえで、一つの武器になるはず です。
しかし、その意味を理解して いる物流会社はまだごく一部に過ぎ ません」  「実は先日も、ある銀行が取引先と ABLを検討していて、その会社が 在庫を預けている倉庫会社に相談を 持ちかけたのですが、倉庫会社はピン ときていないようでした。
倉庫会社 としても、ABLに積極的に対応す ることで金融機関から新たな荷主を 紹介してもらえる可能性がある、金 融機関が自分の会社の営業マンとし て動いてくれる可能性があるという 物流業にも大きなメリット ──物流企業を対象とした、動産担 保融資(ABL)の啓蒙活動を開始 したそうですね。
 「ABLの普及には物流企業の参 画が不可欠だからです。
ABLは資 金繰りに悩んでいる、多くの日本の 中小企業にとって救世主になり得ま す。
もともと米国では三〇年も前か らABLが一般的な融資方法の一つ として広く利用されていますが、日 本でも二〇〇五年にようやく動産を 登記する制度が整いましたので、今 後は一気に普及が進むでしょう。
た だし、在庫を担保とするには、在庫 のステータスを正確に把握しておか なくてはならない。
それができるの は物流企業だけです。
ところが、ほ とんどの物流企業がABLをまだよ く理解していません」 ──物流企業にもメリットはあるの でしょうか。
 「荷主企業が倒産すれば、物流会社 は大きな被害を受けます。
貸し倒れ が発生するだけでなく、倒産後も誰 が賃料を払ってくれるのか分からな い状態のまま、倉庫に在庫だけが残 ってしまう。
管財人が処分を決める まで、勝手に廃棄するわけにもいか ない。
我々が提唱しているABLの スキームを使えば、そうした問題は なくなります」 ──そのスキームとは?  「金融機関と物流企業が手を組ん で、荷主企業に融資をするんです。
そ の会社の在庫を専門の『動産評価鑑 定士』が時価評価して、それを元に 金融機関が融資枠を設定する。
ただ し、在庫量は日々変動するので、そ の動きを物流企業がウォッチしてお いて、一定以上の変動があった場合 にアラームを鳴らす」  「仮に一億円分の在庫に対して六 〇〇〇万円の融資を付けたとします。
しかし、在庫が減って、六〇〇〇万 円を割ってしまった時には極度額(コ ミットメントライン)の再評価をする。
さらに五〇〇〇万円を割ったら出庫 停止をかけて金融機関側で在庫を保 全する。
そういったコベナンツ(融資 契約の特約条項)をその会社の状態 や商売の内容にあわせて、あらかじ め結んでおくことで、金融機関は融 資に踏み切れるようになる」  「ただし、融資先が自社倉庫に在庫 を保管している場合には、いくら管 理精度が高くても金融機関としては 信用できない。
そのため物流会社に 第三者として加わってもらう必要が 久保田清 NPO法人日本動産鑑定 理事長 「物流企業と金融機関を結びつける」  物流企業の持つ在庫管理機能を銀行やノンバンクの金融機能 と結びつけることで、在庫を担保に資金を調達する動産担保融 資(ABL)の突破口が開ける。
ABLは不動産を持たない中 小企業の資金調達に革命を起こす。
そこで物流企業は大きな役 割を果たすことになる。
        (聞き手・大矢昌浩) 3  JUNE 2009 のに、随分おっとりしている」  「そのため当面はABLに意欲的 な金融機関と物流企業が、一対一で パートナーを組んで、お互いの顧客 に提案していくというかたちで普及 を進めていこうと考えています。
今 のところ我々のNPO法人の賛助会 員には、センコー、佐川引越センター、 三井物産、ナカノ商会、関空運輸の 各社が物流企業として名を連ねてく れています」 ──在庫管理以外の物流機能に出番 はありませんか。
 「小売業を対象とした融資では配 送機能が必要になります。
小売りの 店頭在庫は、倉庫に保管されている 在庫よりも格段に動きが大きく保全 が難しい。
それだけに金融機関も二 の足を踏みがちなのですが、新たに 佐川引越センターの協力を得て、ア ラートが出た時点で即座に店頭在庫 を回収するというスキームを提供で きるようになりました。
管理面にお いては三井物産さんも協力を表明し てくれています」  「もちろん実際には回収が必要にな る場面が、そうそうあるわけではあ りません。
しかし、そうしたコベナ ンツの選択肢を用意しておくことが、 貸し手側には必要なんです。
このス キームによって、これまで担保にす ような動産評価能力を持っている」  「もっとも当時の私は、ただ驚いて いるだけでした。
ところが、その後 〇五年の夏に動産譲渡登記制度が施 行されるというニュースを聞いて、頭 をかち割られるような衝撃が走りま した。
不動産と同じように動産を登 記できるようになる。
この制度を使っ て、目利き人たちの動産鑑定能力と 銀行の融資機能を結びつければ、新 しいかたちの融資が可能になる。
世 の中が変わると確信したんです」  「それからドン・キホーテを退職し、 NPO法人として日本動産鑑定を起 ち上げて今日までは、本当に自分で も驚くようなスピードで物事が進ん でいきました。
それだけABLが必 要とされているということでしょう。
今年〇九年は恐らく、後からABL 元年と言われるような年になると思 います」 ることなど考えられなかった小売り の店頭在庫を『適格担保化』できる。
借り手側も貸し手側もチャンスが広 がります」 ドン・キホーテの在庫評価機能 ──これまで在庫担保融資が日本で 普及しなかったのは、法制度の遅れ に加え、在庫の時価評価が難しかっ たからだとか。
 「その通りです。
もともと私は、あ さひ銀行で三〇年も銀行員を務めて いたのですが、当時から銀行の融資 能力については疑問を感じていまし た。
とりわけバブル崩壊の頃には倒産 や夜逃げ、経営者の自殺など、本当 に地獄を見ました。
本来であれば持 ち直せるはずの企業であっても、銀 行の仕組みでは満足のいく融資がで きない。
銀行は不動産と決算書の数 字でしか融資先を評価しません。
在 庫にしても業界平均と比べて多いと か、去年より増えただとかしか見て いない」  「在庫にどれだけの価値があるのか、 本当は経営者が一番分かっているわ けです。
この商品は六月までは、こ の値段で売れる。
だから今積み増し ておく必要があると知っている。
し かし、経営者はそれを銀行マンに説 明しようとはしない。
どうせ分かっ てもらえない、自慢ととられて心証 を悪くするだけだと諦めているんで す。
実際、銀行には在庫の本当の価 値など分かりませんよ」  「しかしその後、銀行から縁あって ドン・キホーテに出向して、“目利き 人”たちと出会ったことで目が開か れました。
ドン・キホーテの商品は 約六割が定番品で、残りの四割がス ポット品です。
その仕入れを担当し ているのが目利き人で、彼らは持ち 込まれた在庫処分品などを自分の目 で評価し買取値段を判断しています。
そうした動産鑑定能力を持った目利 き人たちがドン・キホーテには数百 人もいた」 ──相手の足元を見て買い叩くのと は違うのですか。
 「全く違います。
例えば衣類であれ ば、ブランドや流行はもちろん、商品 の臭いをかいでみて、棚に陳列され ていた時間まで見極める。
いくらで 売れるか。
どれだけ売れるか。
さら には物流コストまで計算して在庫を 時価評価している。
それができるの は、ドン・キホーテの社員たちが、自 分の担当する売り場の仕入れから販 売までを一人で手がける商店主だか らです。
しかも実績が全てという徹 底した実力主義を生き抜いてきた人 間たちですから、素人が見れば驚く くぼた・きよし 1949年生まれ。
68年4月、 埼玉銀行(現・りそな銀行)入 社。
東京の千住、水天宮、神谷 町、上野、立川の各支店長を歴 任。
99年、ドン・キホーテに 出向。
業務本部長、取締役を経 て2007年退社。
同年、NPO 法人日本動産鑑定を設立し理事 長に就任。
現在に至る。
著書に 「動産担保革命(自由国民社)」 などがある。

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