2009年6月号
ケース
ケース
キリンビバレッジ 物流IT
JUNE 2009 34
物流IT
キリンビバレッジ
外資系SCMパッケージを廃棄して
独自システムで生産・物流を効率化
住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築
施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達
成した。
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
ロジスティクス本部に需給機能を集約 飲料メーカー大手のキリンビバレッジは、昨 年四月に新しいSCMシステム「SCOPE」 を稼働させた。
それまで使用してきた外資系 ベンダーのパッケージソフトを廃棄し、独自開 発のシステムに置き換えた。
システムの刷新は、〇四年一月の「ロジス ティクス本部」の新設を機にスタートした。
従 来の同社は「生産本部」と「営業本部」を 製販の二本柱として並べ、別に物流部や資材 部などの業務部門を置いていた。
これを改め、 会社全体の組織をロジスティクス本部と営業 本部の二本部制に括りなおした。
旧・生産本部はロジスティクス本部の傘下 に収め、生産関連の技術戦略や容器開発など を担当する「技術部」と、生産管理そのもの を担う「生産部」に分割した。
そして、従来 は物流部の中に置かれていた需給部門を生産 部に移管。
オペレーション関連の部署をすべ てロジスティクス本部に集約する一方で、各 セクションの役割も整理した。
「それまでの当社は、いわゆるモノづくりの 部分と、モノを運ぶ部分を分けていた面があ った。
このため生産の立場では自社工場の稼 働率などを追いかけ、需給の立場では工場の 稼働率より在庫を減らすことなどにこだわっ ていた。
これらをきっちりと合わせることに よって本当にトータルでコストミニマムにして いこうというのが、ロジスティクス本部を設 置した狙いだった」 ロジスティクス本部の企画担当として同本 部全体の戦略立案などに携わっている松本重 雄部長代理は説明する。
SCMシステムの刷 新も重要なテーマの一つだった。
キリンビバレッジは一九九〇年代末にグル ープの中核会社であるキリンビールと同じ外 資系ITベンダーのSCMソフトを導入して いる。
ただし、キリンビールが「需要予測」 のモジュールだけを導入したのに対し、キリ ンビバレッジは「需要予測」と「供給計画策 定」(サプライチェーン・プランニング)の二 つのモジュールを導入しようとした。
ところが、このうち需要予測モジュールに ついては、実際に設計して導入準備まで進め たにもかかわらず、本番では一度も使うこと なく断念してしまった。
最大の理由は、日本 の飲料業界に特有の事情に、外資系ベンダー のSCMソフトを上手く適用することができ 90年代末に外資系ITベンダーのSCMパッケージ ソフトを導入したが、期待通りの成果を得られなか った。
そこで04年にロジスティクス本部新設。
調 達から生産、販売物流に至るオペレーションを一元 管理する体制を整えた上で、改めてSCMシステムの 構築に取り組んだ。
2004 年に調達・生産・物流機能を集約した 開発研究所 技術部 資材部 湘南工場 舞鶴工場 企画担当 生産部 物流部 研究 商品開発 調達 購買製造物流 ロジスティクス本部長 35 JUNE 2009 なかったためだ。
この仕組みの基本的な機能は、過去の販売 実績に基づいて統計的に将来の需要を予測す るというものだった。
このため最低でも過去 三年程度の実績データが不可欠だったのだが、 製品の改廃の激しい日本の飲料業界では、三 年前とまったく同じ製品はほとんど存在しな い。
競合の状況も刻々と変わる。
ビールと飲料とで異なる生産の実態も影響 した。
自社工場での生産を中心としているキ リンビールにとっては、銘柄別に原液の必要 量を予測できればよかった。
一方、多くを委 託工場に依存しているキリンビバレッジの場 合は、三五〇ミリリットルの缶や五〇〇ミリ リットルのペットボトルといった製品タイプご とに需要を予測できなければ意味がない。
し かし、これが困難だった。
こうした現実に直面して、需要予測モジュ ールの導入は断念せざるを得なかった。
大幅 なカスタマイズを施しつつもキリンビールがシ ステムを稼働させたのとは対照的だった。
一応は導入した供給計画策定モジュールに ついても、期待通りの効果は得られなかった。
周知のように日本では、食品の日付管理など で、極端なまでに厳格な顧客の要求を満たす 必要がある。
すでに納入した製品より製造年 月日の古い製品を出荷すれば、当然のように 返品されてしまう。
賞味期限の残存期間に対 する要求も厳しい。
こうした商慣行に対応するため、キリンビ バレッジが供給計画策定モジュールを導入す るときにも大幅な手直しを施した。
にもかか わらず、このシステムで策定した計画をその まま使うことはできず、担当者が手作業で修 正しなければならなかった。
多額の資金を投 じたこともあってシステムを使いつづけるこ とにはしたが、これは修正作業などの業務負 荷を前提とした苦渋の選択だった。
もっとも、このときのシステム刷新に併せ て実行した施策の中には有益なものもあった。
それ以前の同社は毎月、上旬・中旬・下旬で 計画を見直しながら月次で計画サイクルを回 すというビール業界で一般的だった管理手法 を採用していた。
これをSCMソフトの導入 を機に、週次に短縮した。
この点は現在の活 動にもつながる重要な進歩だった。
システムの“ありたい姿”から出発 その後もキリンビバレッジは、使い勝手の 悪い供給計画システムを使いつづけた。
しか し、ロジスティクス本部を新設した〇四年か ら新たな動きをスタートした。
まずはSCM ソフトの廃棄手続きから着手する必要があっ た。
一年余りでこれにメドをつけると、〇六 年からは独自の新システムを構築するための プロジェクトを社内に発足させた。
このプロジェクトには、需給の担当者だけで なく、生産や物流などの関係部署から五、六 人の関係者が参画した。
さらにキリングルー プの情報システム会社、キリンビジネスシステ ムの担当者もメンバーに加わった。
そして〇 六年の前半は、「システムの?ありたい姿?に ついて議論を重ねていった」と松本部長代理 は振り返る。
「何よりもコストを最適化できる需給計画を 立てたかった。
各工場の製造原価、工場から 物流拠点までの物流費といったものをすべて 考慮しながら、各工場の能力の制約まで考え てトータルでコストミニマムの計画を作る。
そ れが一つの目標だった。
そのためには業務内 容の変更にまで踏み込まなくては上手くいか ないとも考えていた」 プロジェクトでまとめた結果を、〇六年末 に「経営戦略会議」にかけて実行に向けた社 内手続きを進めた。
このとき新システムの導 入によって見込めるメリットとして経営陣に 示したのは、主に次の四点だった。
?廃棄ロ スの削減、?在庫日数の短縮、?業務負荷の 軽減、そして一連の活動の結果としての?コ ストダウン、である。
従来の同社の連結ベースの在庫日数は約一 カ月分あった。
これを新システムの導入によ って五日減らし、二五日分程度に抑える計画 ロジスティクス本部で企画担 当を務める松本重雄部長代理 JUNE 2009 36 を立てた。
生産・物流計画の精度を高めると 同時に、それまでは日常的に細かく管理でき ていなかった業務をシステムで効率的に処理 できる体制を整える。
これによって、在庫水 準を引き下げられるという判断だった。
業務負荷の軽減については、従来はシステ ムで需給計画を作ってから手作業で修正する のに一〇人以上の担当者が携わっていた。
こ れを新システムでは、自動で処理できる領域 を拡大することで業務負荷の二割を軽減でき ると弾いた。
こうした費用対効果もあって、システムへ の「数億円の投資」が認められた。
そこで具 体的なシステム開発の作業を〇七年の年明け に開始した。
サプライチェーン関連システムの 構築で定評のある外部のITベンダーをパー トナーとしながら、独自システムの構築を進 めていくことになった。
計画修正時のコスト変化を可視化 SCOPEの基本的な考え方そのものは目 新しいものではない。
生産・需給にかかわる 原料コスト、材料コスト、加工コストなどに基 づいて、まずは工場別の?原価?を算出。
こ こに輸送経路ごとの物流コストを組み合わせ ることで、製品を市場に供給するためのトー タルコストを最小化できるように生産・物流 を管理する。
需要予測については、従来と同様、担当者 が策定したデータを入力する。
コンピュータ 方の自社工場(湘南および舞鶴)から出荷し た方がトータルコストを抑えられるといったケ ースも出てきている。
しかし従来の仕組みでは、こうした判断を コンピュータで下すことができなかった。
だ からこそ人手による修正を施していたのだが、 経験や勘などの個人スキルに依存せざるをえ ず、大きな業務負荷にもつながっていた。
こ のためSCOPEでは、コストを最適化する による統計的な予測は、日本の飲料業界では やはり難しいという判断の結果だった。
つま りSCOPEは、社内的には?SCMシステ ム?として位置づけられてはいるものの、あ くまでも生産・物流計画を策定するシステム だ。
関連する多くのコストを勘案しながら、 需給担当者がトータルコストを最適化するた めのツールである。
すべてを自動化したわけではないため、人 手による修正作業は依然として発生する。
それ でも「担当者が計画を修正するときには、そ の修正によって物流費がどれだけ上がるとか、 製造費がいくら上がるといったことを、手直 しした瞬間に分かるようにした。
システムに よって個人スキルの底上げを図っている」と 松本部長代理は強調する。
従来の同社は、工場ごとの加工コストには 大きな差がないという前提で、全国を七ブロ ックに分割した「ブロック需給体制」の完成 度を高めることに躍起になっていた。
しかし 実際には、工場の生産技術の差が加工コスト に反映され、最終的に製造原価の差としてあ らわれる。
例えば近年、キリンビバレッジの自社工場 ではペットボトルの成形を工場内の一角で処 理している。
その結果、成形済みの空のペッ トボトルを包材メーカーから輸送する必要が なくなったことなどから、自社工場の加工コ ストの劇的な低減に成功した。
これによって 需要地に近い委託工場から出荷するより、遠 「SCOPE」を中核とする関連システム 原材料 生産 引取 在庫管理 受注出荷 需要計画サポート機能需要計画 週次需給計画(引取/生産)機能引取計画 原材料購買システム 生産計画日次需給管理機能 製造年月日 データ 包材発注 包材受払 生産発注 物流費 在庫実績 マスター サプライヤー トレーサビリティシステム 在庫情報 基幹系システム 物流費管理システム 受注データ 転送データ 可視化・シミュレーション機能 生産実績 生産実績 生産実績 製造工場 生産部 需給担当 SCOPE 転送手配 データ 製造原価 マスター 37 JUNE 2009 に輸送上の品質トラブルが発生し、自主回収 を余儀なくされた。
ダノンとは年間輸入数量 をあらかじめ取り決めていたため日本側の都 合で調整することができず、在庫が一時的に 積み上がってしまった。
この他に、新たに連 結子会社となった会社の在庫が上乗せされた ことも、「SCOPE」の稼働による削減効 果を打ち消してしまった。
しかし、こうした特殊要因を除けば、シス テムの導入効果は明らかだった。
キリングル ープが〇七年七月に持ち株会社制に移行した のに伴い、キリンビバレッジは〇六年十二月 期までしか有価証券報告書を公表していない。
このため詳細な数値は明らかではないが、「ボ ルヴィックを抜いて計算すれば、約一カ月分 あった在庫水準が〇八年末の時点で約一割減 った」(同社広報)という。
「委託工場の現状などを考えると最低でも 二〇日程度の在庫は抱えざるをえない」(松 本部長代理)という飲料業界の実態を考える と、この前進は評価できる。
まずは一日も早 く〇六年度比で連結在庫を二割減の水準にも っていくことが、現在の同社にとっての目標 となっている。
ロジスティクス本部では毎年、在庫日数の 目標値を掲げてウオッチしており、連結ベー スの「棚卸資産回転期間」(棚卸資産額÷売 上原価×三六五日)を管理指標に採用してい る。
これが〇四年度に二七・二日だったのが、 翌〇五年度は二六・五日、そして〇六年度に は三一・七日と推移してきた。
これを二四日 まで削減することを目指している。
ライバルとも共同化を推進 もちろん物流コストの削減も進める。
軸と なるのは共同化だ。
最近のキリンビバレッジ は、システムの整備以外にも、物流共同化な どロジスティクス分野における改善策を数多 く実施している。
キリンビールとは以前から 可能な範囲内で共同化を進めていた。
これを 今春、さらに推し進める。
両社の物流実務の 管理を完全にキリン物流に移管することで共 同化の領域を拡大していく。
さらにサントリーなどとの共同配送による 効率化も従来通り推進する。
大手小売りチェ ーンからのローコスト化への要請はどんどん 強まっており、もはや単独で物流コストを減 らすのは難しい状況にある。
そうした判断か ら、飲料メーカーの大手六社が参加する「六 社会」を通じた資材の共同調達や、他の食品 メーカーを巻き込んだ共同物流などを積極的 に実施していこうとしている。
このような試みは標準化されたシステムの裏 づけがあって初めて迅速に進む面がある。
飲 料大手六社の中でキリンビバレッジとサント リーの共同化が先行しているのも、こうした 事情と無縁ではない。
ロジスティクスの管理機 能を高度化した有力企業同士の共同化は、今 後ますます加速していくはずだ。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) ための支援機能を装備し、担当者の業務負担 を軽減しながらコスト効率を高めていけるよ うにした。
SCOPEが昨年四月に稼働したことで、 ようやく旧システムと訣別できた。
それだけ に同年十二月の決算期には在庫削減などの成 果が期待された。
だが想定外の事態によって、 連結ベースの在庫水準を改善することはでき なかった。
昨年一〇月、キリンビバレッジが仏ダノング ループから輸入販売しているミネラルウォータ ー「ボルヴィック五〇〇ミリリットル」の一部 新システムによって目指す“ 最適需給”の実現 《Plan》 コスト最適需給計画 最適需給 PDCA サイクル の実現 《Action》 シミュレーション機能 《Do》 日次需給管理機能 《Check》 コスト可視化機能 ■日次需給管理能 引取数自動算出 予実績乖離アラーム ⇒日々需給管理精度向上 ・業務効率化 ■需要計画サポート機能 ■ガイド進捗管理サポート機能 ■週次生産計画修正機能 ■週次引取計画修正機能 ⇒コスト最適需給計画の策定 ■シミュレーション機能 ■年初/ 期央修正機能 ⇒現状の制約を撤廃した仮説の検証 ■在庫日数/ 予測精度可視化機能 ■受払状況可視化機能 ■コスト可視化機能(計画・実績比較) ■在庫価値可視化機能(余剰・廃棄状況) ⇒需給運営の結果評価・管理
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
ロジスティクス本部に需給機能を集約 飲料メーカー大手のキリンビバレッジは、昨 年四月に新しいSCMシステム「SCOPE」 を稼働させた。
それまで使用してきた外資系 ベンダーのパッケージソフトを廃棄し、独自開 発のシステムに置き換えた。
システムの刷新は、〇四年一月の「ロジス ティクス本部」の新設を機にスタートした。
従 来の同社は「生産本部」と「営業本部」を 製販の二本柱として並べ、別に物流部や資材 部などの業務部門を置いていた。
これを改め、 会社全体の組織をロジスティクス本部と営業 本部の二本部制に括りなおした。
旧・生産本部はロジスティクス本部の傘下 に収め、生産関連の技術戦略や容器開発など を担当する「技術部」と、生産管理そのもの を担う「生産部」に分割した。
そして、従来 は物流部の中に置かれていた需給部門を生産 部に移管。
オペレーション関連の部署をすべ てロジスティクス本部に集約する一方で、各 セクションの役割も整理した。
「それまでの当社は、いわゆるモノづくりの 部分と、モノを運ぶ部分を分けていた面があ った。
このため生産の立場では自社工場の稼 働率などを追いかけ、需給の立場では工場の 稼働率より在庫を減らすことなどにこだわっ ていた。
これらをきっちりと合わせることに よって本当にトータルでコストミニマムにして いこうというのが、ロジスティクス本部を設 置した狙いだった」 ロジスティクス本部の企画担当として同本 部全体の戦略立案などに携わっている松本重 雄部長代理は説明する。
SCMシステムの刷 新も重要なテーマの一つだった。
キリンビバレッジは一九九〇年代末にグル ープの中核会社であるキリンビールと同じ外 資系ITベンダーのSCMソフトを導入して いる。
ただし、キリンビールが「需要予測」 のモジュールだけを導入したのに対し、キリ ンビバレッジは「需要予測」と「供給計画策 定」(サプライチェーン・プランニング)の二 つのモジュールを導入しようとした。
ところが、このうち需要予測モジュールに ついては、実際に設計して導入準備まで進め たにもかかわらず、本番では一度も使うこと なく断念してしまった。
最大の理由は、日本 の飲料業界に特有の事情に、外資系ベンダー のSCMソフトを上手く適用することができ 90年代末に外資系ITベンダーのSCMパッケージ ソフトを導入したが、期待通りの成果を得られなか った。
そこで04年にロジスティクス本部新設。
調 達から生産、販売物流に至るオペレーションを一元 管理する体制を整えた上で、改めてSCMシステムの 構築に取り組んだ。
2004 年に調達・生産・物流機能を集約した 開発研究所 技術部 資材部 湘南工場 舞鶴工場 企画担当 生産部 物流部 研究 商品開発 調達 購買製造物流 ロジスティクス本部長 35 JUNE 2009 なかったためだ。
この仕組みの基本的な機能は、過去の販売 実績に基づいて統計的に将来の需要を予測す るというものだった。
このため最低でも過去 三年程度の実績データが不可欠だったのだが、 製品の改廃の激しい日本の飲料業界では、三 年前とまったく同じ製品はほとんど存在しな い。
競合の状況も刻々と変わる。
ビールと飲料とで異なる生産の実態も影響 した。
自社工場での生産を中心としているキ リンビールにとっては、銘柄別に原液の必要 量を予測できればよかった。
一方、多くを委 託工場に依存しているキリンビバレッジの場 合は、三五〇ミリリットルの缶や五〇〇ミリ リットルのペットボトルといった製品タイプご とに需要を予測できなければ意味がない。
し かし、これが困難だった。
こうした現実に直面して、需要予測モジュ ールの導入は断念せざるを得なかった。
大幅 なカスタマイズを施しつつもキリンビールがシ ステムを稼働させたのとは対照的だった。
一応は導入した供給計画策定モジュールに ついても、期待通りの効果は得られなかった。
周知のように日本では、食品の日付管理など で、極端なまでに厳格な顧客の要求を満たす 必要がある。
すでに納入した製品より製造年 月日の古い製品を出荷すれば、当然のように 返品されてしまう。
賞味期限の残存期間に対 する要求も厳しい。
こうした商慣行に対応するため、キリンビ バレッジが供給計画策定モジュールを導入す るときにも大幅な手直しを施した。
にもかか わらず、このシステムで策定した計画をその まま使うことはできず、担当者が手作業で修 正しなければならなかった。
多額の資金を投 じたこともあってシステムを使いつづけるこ とにはしたが、これは修正作業などの業務負 荷を前提とした苦渋の選択だった。
もっとも、このときのシステム刷新に併せ て実行した施策の中には有益なものもあった。
それ以前の同社は毎月、上旬・中旬・下旬で 計画を見直しながら月次で計画サイクルを回 すというビール業界で一般的だった管理手法 を採用していた。
これをSCMソフトの導入 を機に、週次に短縮した。
この点は現在の活 動にもつながる重要な進歩だった。
システムの“ありたい姿”から出発 その後もキリンビバレッジは、使い勝手の 悪い供給計画システムを使いつづけた。
しか し、ロジスティクス本部を新設した〇四年か ら新たな動きをスタートした。
まずはSCM ソフトの廃棄手続きから着手する必要があっ た。
一年余りでこれにメドをつけると、〇六 年からは独自の新システムを構築するための プロジェクトを社内に発足させた。
このプロジェクトには、需給の担当者だけで なく、生産や物流などの関係部署から五、六 人の関係者が参画した。
さらにキリングルー プの情報システム会社、キリンビジネスシステ ムの担当者もメンバーに加わった。
そして〇 六年の前半は、「システムの?ありたい姿?に ついて議論を重ねていった」と松本部長代理 は振り返る。
「何よりもコストを最適化できる需給計画を 立てたかった。
各工場の製造原価、工場から 物流拠点までの物流費といったものをすべて 考慮しながら、各工場の能力の制約まで考え てトータルでコストミニマムの計画を作る。
そ れが一つの目標だった。
そのためには業務内 容の変更にまで踏み込まなくては上手くいか ないとも考えていた」 プロジェクトでまとめた結果を、〇六年末 に「経営戦略会議」にかけて実行に向けた社 内手続きを進めた。
このとき新システムの導 入によって見込めるメリットとして経営陣に 示したのは、主に次の四点だった。
?廃棄ロ スの削減、?在庫日数の短縮、?業務負荷の 軽減、そして一連の活動の結果としての?コ ストダウン、である。
従来の同社の連結ベースの在庫日数は約一 カ月分あった。
これを新システムの導入によ って五日減らし、二五日分程度に抑える計画 ロジスティクス本部で企画担 当を務める松本重雄部長代理 JUNE 2009 36 を立てた。
生産・物流計画の精度を高めると 同時に、それまでは日常的に細かく管理でき ていなかった業務をシステムで効率的に処理 できる体制を整える。
これによって、在庫水 準を引き下げられるという判断だった。
業務負荷の軽減については、従来はシステ ムで需給計画を作ってから手作業で修正する のに一〇人以上の担当者が携わっていた。
こ れを新システムでは、自動で処理できる領域 を拡大することで業務負荷の二割を軽減でき ると弾いた。
こうした費用対効果もあって、システムへ の「数億円の投資」が認められた。
そこで具 体的なシステム開発の作業を〇七年の年明け に開始した。
サプライチェーン関連システムの 構築で定評のある外部のITベンダーをパー トナーとしながら、独自システムの構築を進 めていくことになった。
計画修正時のコスト変化を可視化 SCOPEの基本的な考え方そのものは目 新しいものではない。
生産・需給にかかわる 原料コスト、材料コスト、加工コストなどに基 づいて、まずは工場別の?原価?を算出。
こ こに輸送経路ごとの物流コストを組み合わせ ることで、製品を市場に供給するためのトー タルコストを最小化できるように生産・物流 を管理する。
需要予測については、従来と同様、担当者 が策定したデータを入力する。
コンピュータ 方の自社工場(湘南および舞鶴)から出荷し た方がトータルコストを抑えられるといったケ ースも出てきている。
しかし従来の仕組みでは、こうした判断を コンピュータで下すことができなかった。
だ からこそ人手による修正を施していたのだが、 経験や勘などの個人スキルに依存せざるをえ ず、大きな業務負荷にもつながっていた。
こ のためSCOPEでは、コストを最適化する による統計的な予測は、日本の飲料業界では やはり難しいという判断の結果だった。
つま りSCOPEは、社内的には?SCMシステ ム?として位置づけられてはいるものの、あ くまでも生産・物流計画を策定するシステム だ。
関連する多くのコストを勘案しながら、 需給担当者がトータルコストを最適化するた めのツールである。
すべてを自動化したわけではないため、人 手による修正作業は依然として発生する。
それ でも「担当者が計画を修正するときには、そ の修正によって物流費がどれだけ上がるとか、 製造費がいくら上がるといったことを、手直 しした瞬間に分かるようにした。
システムに よって個人スキルの底上げを図っている」と 松本部長代理は強調する。
従来の同社は、工場ごとの加工コストには 大きな差がないという前提で、全国を七ブロ ックに分割した「ブロック需給体制」の完成 度を高めることに躍起になっていた。
しかし 実際には、工場の生産技術の差が加工コスト に反映され、最終的に製造原価の差としてあ らわれる。
例えば近年、キリンビバレッジの自社工場 ではペットボトルの成形を工場内の一角で処 理している。
その結果、成形済みの空のペッ トボトルを包材メーカーから輸送する必要が なくなったことなどから、自社工場の加工コ ストの劇的な低減に成功した。
これによって 需要地に近い委託工場から出荷するより、遠 「SCOPE」を中核とする関連システム 原材料 生産 引取 在庫管理 受注出荷 需要計画サポート機能需要計画 週次需給計画(引取/生産)機能引取計画 原材料購買システム 生産計画日次需給管理機能 製造年月日 データ 包材発注 包材受払 生産発注 物流費 在庫実績 マスター サプライヤー トレーサビリティシステム 在庫情報 基幹系システム 物流費管理システム 受注データ 転送データ 可視化・シミュレーション機能 生産実績 生産実績 生産実績 製造工場 生産部 需給担当 SCOPE 転送手配 データ 製造原価 マスター 37 JUNE 2009 に輸送上の品質トラブルが発生し、自主回収 を余儀なくされた。
ダノンとは年間輸入数量 をあらかじめ取り決めていたため日本側の都 合で調整することができず、在庫が一時的に 積み上がってしまった。
この他に、新たに連 結子会社となった会社の在庫が上乗せされた ことも、「SCOPE」の稼働による削減効 果を打ち消してしまった。
しかし、こうした特殊要因を除けば、シス テムの導入効果は明らかだった。
キリングル ープが〇七年七月に持ち株会社制に移行した のに伴い、キリンビバレッジは〇六年十二月 期までしか有価証券報告書を公表していない。
このため詳細な数値は明らかではないが、「ボ ルヴィックを抜いて計算すれば、約一カ月分 あった在庫水準が〇八年末の時点で約一割減 った」(同社広報)という。
「委託工場の現状などを考えると最低でも 二〇日程度の在庫は抱えざるをえない」(松 本部長代理)という飲料業界の実態を考える と、この前進は評価できる。
まずは一日も早 く〇六年度比で連結在庫を二割減の水準にも っていくことが、現在の同社にとっての目標 となっている。
ロジスティクス本部では毎年、在庫日数の 目標値を掲げてウオッチしており、連結ベー スの「棚卸資産回転期間」(棚卸資産額÷売 上原価×三六五日)を管理指標に採用してい る。
これが〇四年度に二七・二日だったのが、 翌〇五年度は二六・五日、そして〇六年度に は三一・七日と推移してきた。
これを二四日 まで削減することを目指している。
ライバルとも共同化を推進 もちろん物流コストの削減も進める。
軸と なるのは共同化だ。
最近のキリンビバレッジ は、システムの整備以外にも、物流共同化な どロジスティクス分野における改善策を数多 く実施している。
キリンビールとは以前から 可能な範囲内で共同化を進めていた。
これを 今春、さらに推し進める。
両社の物流実務の 管理を完全にキリン物流に移管することで共 同化の領域を拡大していく。
さらにサントリーなどとの共同配送による 効率化も従来通り推進する。
大手小売りチェ ーンからのローコスト化への要請はどんどん 強まっており、もはや単独で物流コストを減 らすのは難しい状況にある。
そうした判断か ら、飲料メーカーの大手六社が参加する「六 社会」を通じた資材の共同調達や、他の食品 メーカーを巻き込んだ共同物流などを積極的 に実施していこうとしている。
このような試みは標準化されたシステムの裏 づけがあって初めて迅速に進む面がある。
飲 料大手六社の中でキリンビバレッジとサント リーの共同化が先行しているのも、こうした 事情と無縁ではない。
ロジスティクスの管理機 能を高度化した有力企業同士の共同化は、今 後ますます加速していくはずだ。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) ための支援機能を装備し、担当者の業務負担 を軽減しながらコスト効率を高めていけるよ うにした。
SCOPEが昨年四月に稼働したことで、 ようやく旧システムと訣別できた。
それだけ に同年十二月の決算期には在庫削減などの成 果が期待された。
だが想定外の事態によって、 連結ベースの在庫水準を改善することはでき なかった。
昨年一〇月、キリンビバレッジが仏ダノング ループから輸入販売しているミネラルウォータ ー「ボルヴィック五〇〇ミリリットル」の一部 新システムによって目指す“ 最適需給”の実現 《Plan》 コスト最適需給計画 最適需給 PDCA サイクル の実現 《Action》 シミュレーション機能 《Do》 日次需給管理機能 《Check》 コスト可視化機能 ■日次需給管理能 引取数自動算出 予実績乖離アラーム ⇒日々需給管理精度向上 ・業務効率化 ■需要計画サポート機能 ■ガイド進捗管理サポート機能 ■週次生産計画修正機能 ■週次引取計画修正機能 ⇒コスト最適需給計画の策定 ■シミュレーション機能 ■年初/ 期央修正機能 ⇒現状の制約を撤廃した仮説の検証 ■在庫日数/ 予測精度可視化機能 ■受払状況可視化機能 ■コスト可視化機能(計画・実績比較) ■在庫価値可視化機能(余剰・廃棄状況) ⇒需給運営の結果評価・管理
