2009年7月号
SOLE

原子力発電における保全業務革新新検査制度の実施で新たなフェーズに

SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics JULY 2009  74 査の一部を運転中に実施可能として 定期検査期間を短縮するための検討 も始められている。
これらの施策を 本格的に実施できれば理論上は九〇 %以上の設備利用率を達成すること が可能であり、米国では図1のとお り既に実現されている。
 米国はスリーマイル島原子力発電 所事故の後、一九八五年頃より地道 に取り組みを積み重ね、高パフォーマ ンスを実現した。
我が国も次に示すよ うな保全業務革新を発電所現場で推 進していくことが必要である。
保全業務革新の四つの要素  原子力発電所において保全革新を 実現するためには、次に示す四つの 要素に取り組む必要がある。
● R C M( Reliability Centered Maintenance:信頼性重視保全。
有効な保全方針を決定するため の手法) / C B M( Condition Based Maintenance: 状態監視 保全。
設備の状態監視を継続的に 実施し、故障の予兆を見出した際 に故障予防のための作業を行う) の導入:科学的かつ合理的な予防 保全方式の採用 ●新業務プロセスの導入:SNPM (Standard Nuclear Performance Model:標準原子力パフォーマン スモデル)などの標準的業務プロ セスの採用 ●保修システムの統合化:EAM ( Enterprise Asset Management :設備資産管理)を中核とした保 原子力発電における保全業務革新 新検査制度の実施で新たなフェーズに  原子力発電における保全業務革新 の概要を、「整備(Maintenance)」と 「補給(Distribution)」の二つの観点か ら、その概要を報告する。
「整備」の 目的は、運転時の施設の即応性を向 上させることにある。
一方、「補給」 の目的は「整備」に必要となる交換 部品、試験機材、要員、技術情報な どの即応性を向上させることにある。
これらの「整備」と「補給」の保全 業務革新の共通の業務基盤となるも のが作業指示書(ワークオーダー)で あり、ワークオーダーに基づく作業管 理方式の導入が保全革新の本丸にな る。
  (日本ユニシス・山田憲吉) 設備利用率向上でCO2削減  現在、政府は温暖化ガス削減の中 期目標を制定しようとしており、そ の中で期待されているのが既設の原子 力発電所の設備利用率の向上だ。
注 目された二〇〇八年度の設備利用率 は六〇%と低調な結果に終わったが、 二〇二〇年の中期目標の時期までに は八〇%以上に向上させることが強 く求められている。
 これは今後一〇年以内に新設予定 のプラント九基が計画通りに運転を開 始した場合の目標であり、仮に七〇 %の場合、一八基の新設が必要とさ れている。
このほかタービン改造によ る既設プラントの出力向上も検討され ているが、中期目標の期間では多く を期待できないのが実情である。
 従って、一%の向上がCO2排出量 換算で約三〇〇万トンの削減に結び つく既設プラントの設備利用率を少し でも向上させる必要があり、このた めの施策が強力に推進されつつある。
 その一つが、今年四月に本格実施 となった新検査制度である。
新検査 制度では、これまで一律十三カ月ご とに運転を止めて実施してきた定期検 査を一八カ月にまで延長できる。
さ らに、定期検査中に実施してきた検 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 71 73 75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 (年) (%) 図1 日米の原子力発電所の設備利用率の推移。
米国は    既に90%以上を達成している 図2 保全業務革新には4要素が不可欠 米 国日 本 原子力の新検査制度(今年4 月1 日より本格実施) RCM / CBM 導入 保修システムの 統合化 EAM 組織変革 新業務プロセス 導入 SNPM 保全革新 75  JULY 2009  米国原子力発電所では、新業務プ ロセス導入に際して多くの原子力発電 所が参加したベンチマーク評価の結果、 ベストプラクティスと考えられる業務 プロセスを集大成した業界標準の業 務プロセスが採用された。
業界標準 のKPIと業務プロセスの採用により、 SNPMを採用している多くの世界 の発電所とパフォーマンスの比較評価 を行いながら、継続的に業務改善で きる態勢を整えている。
SNPMの 全体モデルを図3に示す。
 保全に関連する四つのコアプロセス は、ER(Equipment Reliability: 設備信頼性管理、AP─913)を 頂点に階層関係にあり、「整備」と 「補給」に大別される。
RCM/C BM導入による新しい予防保全方式 の採用は、直接的にはWM( Work Management:作業管理、AP─9 28)に大きな影響を与えるが、MS (Materials & Services:資材&サー ビス、AP─908)やCM(Manage Configuration:構成管理、AP─9 29)などの補給系のコアプロセスに も、少なからぬ影響を与えるもので ある。
 我が国における新業務プロセス導入 は、現在AP─913やAP─928 を中心として、電力グループなど調 達側での「整備」の領域で業務改善 が進みつつある。
今後はAP─908 修システムの統合 ●組織変革:人材の育成および組織 体制の見直し  これらの四つの要素はお互いに密 接に関連しており、保全革新の実現 に向けてワンセットの関係にある(図 も影響がないため壊れたら直せばよ く、予防保全を実施する必要がない) に三分類し、各々の故障モードに対 応した予防保全方式を採用している。
 米国原子力発電所におけるこれら の平均的な比率は、下記の通りであ る。
●Critical:一〇〜一五% ●Non-Critical:二〇〜二五% ●Run-To-Failure:六〇〜七〇%  この結果、米国原子力発電所では 定期検査の検査対象機器数が大幅に 削減された。
またその半数以上を運 転中に検査することにより、定期検 査期間を短縮。
現在、一八カ月もし くは二四カ月の長期の運転を実施す ることによって、九〇%以上の高い 設備利用率を達成している。
新業務プロセスの導入 SNPMなどの 標準的業務プロセスの採用  予防保全方式の抜本的な見直しに 続き、保全管理のPDCAサイクル を通じて設備信頼度に対応した保全 活動も実施しなければならない。
具体 的には、「保全活動の可視化」と「保 全実績データに基づく継続的改善」を 可能とする新業務プロセスを導入する ことが重要となる。
2)。
RCM/CBMの導入 科学的かつ合理的な 予防保全方式の採用  保全革新のためには、まず予め定 められた頻度で定期作業を行う時間 計画保全中心の 予防保全方式か ら、R C Mを機 軸としてCBMを 主体とした予防保 全方式に移行する 必要がある。
 米国の原子力 発電所は八五年 頃よりRCMを導 入し、今日では 新しい予防保全方 式に移行している。
新たな予防保全 方式では、プラン トを構成する機器 群を重要度の観点 からCritical( そ の機器が故障した 場合安全上影響 がある) / Non- Critical( 経済上 の影響がある)/ Run-To-Failure (安全上も経済上 図3 米国で採用されている標準プロセス「SNPM」 マネージメントプロセスコアプロセス Leadership Vision/Business Objectivs Management Structure AP908 資材&サービス AP928 作業管理 AP929 構成管理 AP913 設備信頼度 管理 運転管理 業績評価 Cost/ Budget $$$$$ Electricity Production $$$$$ Feedback loops Competitive Environment And Stakeholders Nuclear Asset Management Strategy/Budget/ Plan/Implement Information Technology Information Management Support Services Training Nuclear Fuel Loss Prevention Human Resources 支援プロセス Performance Cost JULY 2009  76 援のアウトソーシングビジネスの拡大 が期待される。
保全高度化で変わる在庫管理  原子力発電所の「運転」、「保全」、 「補給」は、ワークオーダーを介して 連係し、それぞれを支えるSNPM の業務プロセスがこれらに対応する (図6)。
以下では、原子力発電所に おける補給について考察する。
 補給に対応するSNPMコアプロ セスである、AP─908は、六つの サブプロセスから構成されている。
●在庫管理 を進め、業務分掌の細分化と明確化 を図っていかなくてはならない。
 以上、保全業務革新のための四要 素をみてきた。
我が国の原子力発電 所でも、新検査制度の本格実施によ って設備信頼度管理の保全革新が急 速に進みつつある。
かつ、運転中保 全の本格実施に向けて、作業管理の 保全革新の準備も着実に進みつつあ る。
 一方、「補給」の領域の保全革新は 未だこれからの段階にある。
しかし ここまで説明したような「整備」の 領域での調達側の業務の標準化が進 展することにより、供給側の保全支 ことが期待される。
ただしEAM機 能の中枢はワークオーダー機能であり、 ワークオーダーに対応した新業務プロ セスへの移行が必要不可欠なものと なる。
組織変革 人材の育成および 組織体制の見直し  これまでの原子力発電所の保修組 織は機械、電気、計装など機種の違 いに応じた縦割り組織となっていた。
これは保全技術、保全技能に即した 組織割りである。
RCM/CBM導 入により、今後は設備の性能管理を 行うための新たな組織が必要になる。
これは設備の機能に即した組織割り であり、従来の組織とクロスした「マ トリクス組織」に移行していく必要が ある。
 また定期検査やOLM( Online Maintenance:運転中保全)の準備 をプロジェクト体制で実施し、機器の 重要度に応じたメリハリの効いた管理 が求められる。
米国原子力発電所で は、従来の保修組織のほかにエンジ ニアリング組織があり、かつ、保修 組織内部でもサポート組織が設置され ている(図5)。
 このような組織変革は我が国の原 子力発電所でも進みつつある。
さら に今後、人材に関してもより専門化 やAP─929を中心に、電力グルー プ外部の供給側も巻き込んだ「補給」 の領域の業務改善に波及することが 期待されるが、その際「整備」の要 求がワークオーダーにより可視化され ることが重要である。
保修システム統合化 EAMを中核とした 保修システムの統合  RCM/CBM導入による予防 保全方式では、機器単位で保全P DCAサイクル管理することが要求 される。
米国産業界では、従前よ りワークオーダーにより機器単位の 保全管理を実践している。
このた めのツールとして、ワークオーダー のオンラインリアルタイム処理を行 うパッケージソフトウェア「C M M S( Computerized Maintenance Management System)」を活用して きた(図4)。
 二〇〇〇年代以降、CMMSはE RPとの連携を強めてEAMとして 発展しつつある。
現在、日本の原子 力発電所ではEAM導入が本格化し つつあり、EAMを中核とした保修 系システムの統合化が進んでいる。
 EAMは保修業務の情報重武装化 ツールであり、今後、EAMを介し て作業現場でのタイムリーなデータ入 出力などIT先進技術の活用が進む 機器台帳 ワークオーダー 履歴 (保全履歴) CMMS オンライン リアルタイム処理 ミニファイル(機器の単位) ミニファイル倉庫 ワークオーダー 図4 機器単位の保全管理を総合的に行う「CMMS」 図5 米国原子力発電所の組織の事例 保全組織 ライン 機械グループ 電気グループ 計装グループ 即刻修理グループ 軽微保全グループ サポート プランナー スケジューラー ※定検担当と運転  時担当に明確に  区分 エンジニアリング サポート部門 AP-913 AP-928 メンテナンス部門 システムエンジニア システムエンジニア 系統ごとに選任のエン ジニアを配置 工学的専門知識を有 し、設備信頼度管理 全般に責任を持つ 77  JULY 2009 ●資材調達 ●サービス調達 ●倉庫管理 ●廃棄 ●修理・更新・返品  このうち資材調達、サービス調達 については、他分野の補給と大きく 変わる点はない。
資材の供給者のパフ ォーマンス評価を例にとると、配送の パフォーマンス、過不足、損傷、購 買発注の修正といった補給で通常考 えられる評価項目により、供給者の パフォーマンスを評価する。
 しかし在庫管理のあり方は、原子 力発電所の補給では通常の物流と大 きく異なる。
取替機器/予備機器の 在庫を決定する出発点は、AP─91 3の機器重要度分類だ。
保全高度化 ではRCMの考えに基づいて機器を 分類するが、予防保全の対象外であ るRun-to-Failure機器が全体の六〇〜 七〇%を占めるようになる。
 従来、ベンダーの勧告に基づいて 実施していた時間計画保全では、取 替部品の使用数量と使用時期を予定 することができ、発電所内に在庫を 抱える必然性は少なかった。
しかし、 これらが予防保全から外れて事後保 全にまわることによって、偶発的故 障に備えて在庫を抱える必要性が増 大する。
 原子力発電所の在庫管理はこうし たRun-to-Failure機器の増加に伴う在 庫戦略の変更のほか、従前からの特 徴であるリードタイムの長い重要予備 品の扱い、JIT(ジャストインタイ ム)に適した運転・保全の大量消耗 品、旧式化への対応など種々の考慮 要素が存在する。
これらのベストミッ クスが原子力発電所の在庫管理のあ り方を決定するといえる。
 構成管理もまた、補給の一部と捉 えることができる。
SNPMの構成 管理の基本思想はANSI(米国 立標準協会)規格( ANSI/NIRMA CM1.0-2000)に基づいており、図7に 示すように、設計要件・構成情報・ 物理構成の三者の間が整合する状態 を保つことにある。
 構成変更の要求が発生した場合の 構成管理のプロセスは三つのレベルに 分類される。
第一のレベルは「構成 変更」であり、設計要件の変更は伴 わず、運転構成の変更あるいはハー ドウェアの等価交換で対応するレベル である。
流量や設定点などの運用構 成を変更し、故障確率を低減するこ となどがその例である。
 第二のレベルは「設計変更」であり、 規制の承認を必要としない比較的軽 微な設計の変更である。
第三のレベル は「設計基準変更」であり、技術仕 様書(保安規定)など認可対象文書 の変更を伴う。
出力を増強して稼働 率向上を図ることが、設計基準変更 の代表的な例である。
 原子力発電所の業務とそれを支え る情報システムの革新の動きは、新検 査制度の本格実施を契機として加速 すると考えられる。
その重要な鍵の 一つがワークオーダーであり、運転〜 保全〜補給をつなぐ役割を持っている。
原子力発電所の保全革新は、補給を 含めた総合的な実施を検討するフェー ズに移行しつつある。
次回フォーラムのお知らせ  次回フォーラムは7月9日(木)「中 国・広州における日本の自動車メーカー の部品調達ロジスティクス」(講師:横浜 商科大学・橋本雅隆教授)を予定してい る。
このフォーラムは年間計画に基づいて 運営しているが、単月のみの参加も可能。
一回の参加費は6,000円。
ご希望の方 は事務局(sole-j-offi ce@cpost.plala. or.jp)までお問い合わせください。
※ S O L E( The International Society of Logistics)は一九六〇年代に設立されたロジ スティクス団体。
米国に本部を置き、会員は 五一カ国・三〇〇〇〜三五〇〇人に及ぶ。
日 本支部では毎月「フォーラム」を開催し、講 演、研究発表、現場見学などを通じてロジス ティクス・マネジメントに関する活発な意見交 換、議論を行っている。
図6 ワークオーダーによる運転・保全・補給の連係 図7 原子力発電所構成管理の概念 ワークオーダー 補給保全運転 SMPMプロセス (  =コアプロセス) MS 資材サービス WM 作業管理 ER 設備信頼性 OP 運転 CM 構成管理 T 教育訓練 LP 損失防止 SS マネジメント NF 原子燃料 設計要件 物理構成 構成情報 一致させる 一致させる一致させる ・保全 ・訓練 ・調達 運転構成情報 設計情報 その他情報

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