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2009年8月号
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「それでも市場に決めさせた方がマシだ」中条 潮 慶応義塾大学 教授

AUGUST 2009  2 源化や高速道路料金の値下げなどは 規制緩和の精神とはそぐわない。
し かし、そうしたことを主張している 人たちは、規制緩和のことなどはな から念頭にない」 ──個別に見ると、トラックや倉庫 の競争規制はほぼ撤廃されましたが、 航空と港湾には、まだ競争規制が残 っています。
業界保護が続いている。
 「今回のJALの救済についてはそ の通りです。
経済状況が悪いので一 時的に輸血をする、そうすれば後は 自分自身で頑張ってやっていけるとい うのであれば理解できます。
ところ が、JALの場合は輸血しても治ら ない可能性がある。
そこに公的資金 を投入するのは大いに疑問です。
本 当は政府が助ければ助けるほど、問 題が先延ばしされて、むしろ被害が 大きくなってしまう」 ──なぜ政府や国交省は、そこまで してJALを守りたいのでしょうか。
 「一つの理由は、既に大金をJAL に注ぎ込んでいるからです。
回収で きないと銀行や政府機関に影響が及 んでしまう。
他にもJALが潰れる ことで困る人たち、利権を失う人た ちがいる。
またそれとは別にフラッ グキャリアに対する?誤ったシンパシ ー?の存在も感じますね。
フラッグキ ャリアを潰すということに強い抵抗感 JALが救済される理由 ──物流業の規制緩和は終わったので しょうか。
 「日本だけでなく諸外国において も、物流業の規制緩和が終わったと か、規制を揺り戻そうという話はあり ません。
唯一の例外が日本のタクシー です。
(編集部注:運賃競争や車両台 数の増加に歯止めをかける「タクシー 適正化・活性化法」が今年六月に成 立した)タクシー業界は既存業者の力 が強く、それが利権と結びついてい る。
後押しする議員たちもいて、改 めて競争規制が強化されてしまった」  「しかし、他の分野はどこも規制緩 和の進展を自明の理と考えて事業者た ちは経営しています。
海運はもとも と自由競争だったし、トラックに関し ても規制緩和の前から実際には競争 状態に入っていた。
トラック事業者な ど本当によくやっていると思います。
燃料費の値上がりでコストが上がって いるのに競争が厳しいために自分たち の経営努力で吸収するしかない。
そ れを気の毒だとさえ思う気持ちもあり ますが、本当は他の産業も同じよう に競争しないといけないんです。
役 所がその邪魔をしないことです」 ──規制緩和政策の背景となってい る新自由主義経済に対する批判も大 きくなっています。
 「新自由主義に対する批判の大部分 は誤解に基づいています。
規制緩和 によって経済格差が広がったり、不 況が起きたわけではありません」 ──一方で社会的規制の強化も進ん でいます。
 「もちろん環境や安全規制はどこの 国でも強化されています。
しかし、環 境コストや安全コストを事業者たちに 自分で負担させる、それに違反して いる事業者がいれば取り締まるとい うのは、規制を云々する以前の当た り前のことであって、それを社会的 規制と呼ぶことには反対です。
社会 的規制と呼んだとたんに誰も反対で きなくなってしまう。
規制によって生 じるコストは、本当に便益に見合って いるのかということが検討されなく なってしまいます」  「それともう一つ、昨年来の景気の 悪化によって、規制とは別のかたち で政府の介入が強くなることを懸念 しています。
日本航空(JAL)の 救済(編集部注:今年六月、五四〇 億円の融資に政府保証を付けた。
さ らに今秋の追加融資も検討されてい る)などは規制緩和とは逆行してい る。
ほかにも道路特定財源の一般財 中条 潮 慶応義塾大学 教授 「それでも市場に決めさせた方がマシだ」  景気対策の名を借りて保護行政が復活している。
政治家や官 僚に依存すれば産業は停滞する。
公共事業の民営化や規制改革 が後退することで、物流インフラの効率も悪化する。
日本の国 際競争力がいっそう低下してしまう。
市場競争に淘汰を委ねる ほうが、よほどマシだ。
        (聞き手・大矢昌浩) 3  AUGUST 2009 のある人が、議員や役人だけでなく、 一般の人にも少なくない」 ──シンパシーと呼べるほど素朴なも のなのでしょうか。
 「世界の航空業界は、既にフラッグ シップなどお構いなしに動いています。
ちなみに国交省はJALだけでなく、 全日本航空が危機に陥っても同じよ うに助けるとは言っています。
影響 力が大きいという理由ですが、別に 二社が潰れても日本に需要は残るわ けで、日本から航空会社がいなくな ってしまうわけではない」  「有事の際に海外で孤立した日本人 を日の丸を付けた飛行機が助け出すと いったフラッグシップの役回りについ ても別にJALである必要はない。
外 国の航空会社であっても邦人を助け出 せれば別に構わないわけです。
それ でもフラッグシップを残したいという のは、現実的要因というよりも心理 的要因が大きいのだと思います」 ──確かにJALが倒産しても更正 法なり再生法なり、あるいは買収さ れて事業は残る。
 「人員削減などの合理化はあるかも 知れませんが、JALが潰れても従 業員の働く場所は残ります。
その後、 効率化が進んで競争力がつけば、自 分たちのパイを拡大することもできる。
普通の経営者であればそうするとこ 策を進めれば、規制改革は後退しま すね。
それによって非常に幅広い分野 で日本の効率が悪化する。
国際競争 力が低下します。
その結果、民主党 自体ダメになると私は見ています。
し かし、だからといって、これまで通 りに自民党にやらせておいて良いと も思えません。
今の体制は今の体制 で非常に効率が悪い」 ──今後の展開をどう予測されますか。
 「いったんは民主党が政権を取る。
しかし、やらせてはみたけれど、や っぱり民主党ではマズイよねというこ とになる。
その結果、民主党自体が 割れる。
高速道路の無料化一つとっ ても民主党内には両極端の意見がある。
自民党だって同じです。
最終的には民 主党のなかでも、キチンとモノを考え ている人たちと自民党の一部が一緒に なって新しい政党を作る。
改めて政界 再編が起きると見ています」 ろです。
それを国が助けてしまえば、 経営者だってそれは頼りますよ」 ──JALに関しては、さすがに国 交省も今回が最後だと言っています。
 「今回は国交省も本気のようですよ。
これまでJALの合理化は、JAL 自身に任せていたけれど、今回は再 建策の中身にまで手を突っ込むと言っ ていますから。
ただし役所が本腰を 入れることで、JALの経営がさら に悪化しやしないかという心配はあ ります。
抜本改革のできる民間の経 営者を連れてきたほうが上手くいく ように思います」 民主党政権を経て政界再編へ ──韓国や中国、シンガポールといっ た近隣諸国に比べて、日本の物流行 政が戦略的になれない理由の根本は、 どこにあるのでしょうか。
 「一つは制度を改革するためのシス テムの問題です。
現在の日本の選挙 制度では議員たちは地元主導になら ざるを得ない。
そうしないと落選し てしまう。
そのために本当は首都圏 に投資して国際競争力を高めなけれ ばならないのに、必要のない地方の 道路や港湾、空港を作ってしまった。
そのツケが今回ってきている」  「もう一つは官僚制度です。
新しい ことをやる、改革することが官僚に とってプラスにならない。
経営者の場 合は自分の会社を改革すれば事業が 成長するわけですが、官僚は逆に利 権を失ってしまう。
そこを変えてい くには、出来る限り利権自体を少な くしていくことが大事です。
官僚の 利権を少なくするには、政治家に決 めさせるか、あるいはマーケットに決 めさせるしかない。
どちらも一長一 短あります。
市場だって万能ではな い。
期待し過ぎるのは禁物です。
し かし、どちらが環境の変化に機敏に 対応できるかといえば、政治よりも 市場のほうです。
市場のほうがまだ マシなんです」 ──社会資本整備ついては特定財源 の一般財源化が進んできました。
 「私は反対です。
これまでは特定財 源という財布のなかでやりくりして、 ムダなところにお金を回していた。
そ れが一般財源化されると、財布自体 が大きくなって余計にムダな使われ方 をしてしまう。
効率はいっそう悪化 する。
そうではなく受益者負担の原 則は守る。
そのうえで財源ごとに組 織を解体して民営化する。
高速道路 も地方空港もそれぞれ民営化して独 立採算でやっていかせる」 ──次の選挙で民主党が政権を取った ら、それとは逆の方向に動きそうです。
 「民主党がマニュフェスト通りに政 中条潮(ちゅうじょう・うしお) 京都市出身。
1973年慶応義塾 大学商学部卒。
同大学院博士課 程修了。
92年から同大学商学部 教授。
現在に至る。
専門は交通 経済学。
ラディカルな規制緩和 論者として知られる。
政府・中 央官庁の規制関連研究会・審議 会の座長や委員を歴任。
著書に「規 制緩和 公共性を斬る」(東洋経 済新報社)などがある。

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