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2009年8月号
現場改善

第79回 物流子会社の存続可否を判断する

AUGUST 2009  78 事例で学ぶ 現場改善 日本ロジファクトリー 青木正一 代表 第79 回  N社はグループ内に物流子会社を六つも抱えていた。
その一つ、T 社を存続させるべきかどうかについて、外部の物流専門家の立場か ら検証することを依頼された。
親会社は恐らく最初から答えを持って いた。
その裏付けが欲しかったのだろう。
T社の実力を評価してい くうち、そのことがわかってきた。
物流子会社の存続可否を判断する 人件費は三割高、運賃は二倍  メーカーN社はグループ売上高が一兆円近 くに上る大企業である。
他の日本の大手メー カーと同様にN社もかつては?総合化?を旗 印に事業の多角化と分社化を進めた時期があ った。
その影響から現在は百数十社の子会社・ 関連会社を派生させるに至っている。
 物流子会社だけでもグループ内に六社ある。
そのうちの一社、グループ内の物流子会社と しては三番目の売上規模を持つT社について、 今後も存続させるべきなのかどうなのか、我々 日本ロジファクトリー(NLF)が中立的な立 場から検証することになった。
 Nグループほどの売上規模ともなれば、各 事業ユニットがそれぞれ物流子会社を持って いること自体は珍しくはない。
また物流子会 社の「存続検証」は九〇年代のバブル崩壊以 降、常に議論されてきたテーマであり、我々 NLFには土地勘のある分野である。
 しかし、初めてT社の社名と業務内容を聞 かされた時には、「こんな会社があったのか」 と、正直驚いてしまった。
それほどT社は一 般的な知名度の低い、恐らく物流業界内部で も、あまり知られてはいないであろう存在だ った。
 T社は親会社の国内七カ所の工場に張り付 くかたちで全国に拠点を展開していた。
売上 高に占める親会社向け業務の比率は九〇%超。
倉庫は借庫、トラックは傭車で、資産(アセ ット)は所有していない。
その主たる業務は、 親会社への請求と協力会社への支払い、いわ ゆる?受け払い?であった。
 我々はまず、?コスト競争力、?物流品質、 ?差別化要因、?外販比率、?サービス力、? 改善提案力という六つの視点からT社の市場 性を検証した。
平たく言えば、T社に物流会 社としてひとり立ちできる力があるかどうか を評価したのである。
 このうち、?コスト競争力には、バツの判定 を下さざるを得なかった。
T社の一人当たり の従業員給与は、親会社の賃金体系をほぼ踏 襲していたため、一般の物流会社平均の一・ 二七倍と、三割近く高かった。
 しかも受払手数料として平均で約二〇%の 79  AUGUST 2009 マージンを徴収していた。
その結果、東京〜 大阪間の一〇トン車の幹線輸送運賃が片道一 六万円にも達していた。
現在の相場の倍の水 準である。
 以前は親会社の営業部長を務めていたT社 の社長は、「T社の運賃が相場の倍だと当時の 私が知っていたら、T社に業務を委託などし なかっただろう」と皮肉な感想をもらしてい た。
しかし、そのお陰でT社には分厚い内部 留保が蓄えられてもいたのだった。
 ?物流品質にも合格点は付けられなかった。
一般にメーカー系物流子会社の物流品質は高 く、過剰品質の傾向さえあるほどだ。
T社の 場合も、今回の検証では現場で物流品質を直 接評価するところまではできなかったが、協力 会社に対する品質管理は実施されていた。
し かし、その管理方法は、商品事故や誤納率な どの数値の算出にとどまっていた。
指標に基 づいた具体的な改善などは行なわれていなか った。
丸投げと言われても仕方のない状態で あった。
 ?差別化要因としては、親会社の仕事で培っ た生産管理技術や輸出業務の経験に基づく「梱 包設計」が挙げられた。
しかし他社への展開 実績がなかったため、そのノウハウが市場で通 用するのかを客観的に評価できてはいなかった。
後にエンジニアリング力に定評のある梱包会社 から提案をもらったところ、T社の約六割の料 金で、かつ約一週間短いリードタイムで同じレ ベルのサービスが受けられることが分かった。
 ?外販比率は前述の通りだ。
五〇%近い 外販比率を持つ一部のメーカー系物流会社を、 ?物流別会社?と呼ぶとすれば、T社は?完全 子会社?だった。
 ?サービス力についても高い点は与えられな かった。
基本業務である「受け払い」のほか に、特徴のあるサービスが見あたらない。
親 会社の要望に対して融通を効かせている点は 評価できた。
他にも親会社との密接な関係に よって培ったノウハウが散見できるものの、そ れを顕在化させて、サービス商品として開発 しようという動きがなかった。
 ?改善提案力についても同じで、親会社が 運営している工場内物流や調達物流を内製化 するといった努力をしていない。
良かれ悪し かれ、親会社から見れば忠誠心の高いイエス マンであったのだ。
改善提案は最大の防御  このようなタイプの物流会社は?守り?に 弱い。
実際、今回我々が検証に入った時点で 既に、全国七工場のうち二工場は牙城を崩さ れつつあった。
現地の物流会社や有力3PL が積極的な提案営業で各工場長の信頼を勝ち 取り、T社を経由しない直接契約を一部成功 させていたのだ。
 攻撃(提案)は最大の防御でもある。
提案 内容がいつもピタリとはまるとは限らない。
し かし、情報提供や訪問、改善提案を常に行う ことで守りは堅くなる。
それを怠るために、子 会社の隙を虎視眈々と狙っている他のライバル たちに仕事を持っていかれてしまうのである。
 ?人材力についても課題があった。
知名度 の高いNグループの一員であるT社が中途採用 の募集をかければ、求職者は大きな関心を持 つ。
現在のような雇用環境であればなおさら だ。
しかし、T社の中途採用者の待遇と親会 社からの出向・転籍組には大きな開きがある。
その事実を確認すると求職者の関心も失せて しまう。
 しかも、T社のように全国展開している場 合、求職者は転勤を覚悟しなければならない。
メーカーでは当然のことでも、物流業界はい まだに地域密着が根強い。
経験、実績のある 優秀な物流マンほど転勤には抵抗がある、と いうのが筆者の印象だ。
T社では、こうした ミスマッチが慢性化して管理職人材の補充が できていなかった。
「子会社」ではなく「別会社」であることの重要性 子 会 社別 会 社 設立骨子マーケティングマネジメント ●戦略的「物流部」別組織 ●親会社物流ノウハウを活かした サードパーティーロジスティク スの確立 ●「物流」を有望ビジネスと捉え た事業開発 ●マーケティングを駆使した強力 な営業力 ●売上に占める親会社比率50% 未満 ●将来ビジョン、業界におけるポ ジショニングが明確 ●親会社出資が50%未満 ●役員、幹部の構成は親会社、プ ロパー、中途採用のミックス組 織 ●天下り先 ●雇用吸収 ●経費のグループ内処理 ●営業力ナシ(「営業」という概 念そのものがない会社がほとん ど) ●売上に占める親会社比率80% 以上 ●コンセプト、目的が明確でない ●親会社出資が50%以上 ●役員はほとんど親会社出身 AUGUST 2009  80  このようにプロジェクトが進んでいくにつれ て、T社の存続の目は一つひとつ消えていっ た。
N社の上層部および経営企画部門は恐ら くプロジェクトに入る前から、このことを予想 していたに違いない。
期待してさえいたはず だ。
我々NLFを起用したのは自分たちの判 断に対して、外部の専門家のお墨付きが欲し かったからなのだろう。
 このT社も含め物流子会社の多くは日本の 高度経済成長期に設立されている。
その目的 は、輸送力の安定確保のほか、大企業の終身 雇用制を維持するための人材の受け皿として の意味合いが強かった。
 しかし、その後、日本経済がゼロ成長に転 じ、聖域なきコストダウンを余儀なくされるな か、物流子会社に支払っている業務委託費に もメスを入れざるを得なくなっている。
昨年 のリーマンショック以降、その傾向は一段と強 まっている。
親会社の上層部としてもOBた ちが在籍するグループ会社なのだから無条件に 使えとは言えない状況だ。
 これまで我々NLFが手がけた改善事例に おいても、物流子会社を経由せずに、資本関 係のない3PLを新たにパートナーに起用する ことで、コストダウンが実現し、その後の運営 も順調だというケースは少なくない。
そうし たケースでは、物流子会社は存在意義を問わ れてしまうことになる。
 物流子会社自身の事業戦略としては、その ?初期?には外販比率の向上による自立が謳わ れていた。
それが?中期?には3PLへの転 換に移った。
そして現在は3PLといっても グループ内の物流を包括的に受託し統合管理 する足元固めがトレンドになっている。
 しかし、今問題にされているのは戦略以前 の物流子会社のコスト競争力である。
 今回のプロジェクトが終了して四カ月ほど経 った後、N社は結局、T社を本社物流部門に 吸収することを決めた。
一時は、大手物流会 社への売却も検討されたが、市況の落ち込み と、T社の企業価値に対する評価の低さから 成立はしなかった。
 日本と違い欧米では、物流子会社が例外的 にしか存在しないと聞く。
日本の物流子会社 は高度経済成長と終身雇用という日本固有の 事業環境を前提とした特定目的会社ともいえ る。
その目的が失われた場合には?解散?と いう選択を検討するのは当然だ。
時代が大き く変化した今、多くの親会社がその問題と直 面している。
あおき・しょういち  1964年生まれ。
京都産 業大学経済学部卒業。
大手 運送業者のセールスドライ バーを経て、89 年に船井 総合研究所入社。
物流開発 チーム・トラックチームチー フを務める。
96年、独立。
日本ロジファクトリーを設 立し代表に就任。
現在に至る。
HP:http://www.nlf.co.jp/ e-mail:info@nlf.co.jp

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