2009年9月号
特集
特集
事例で学ぶ現場改善 《第80回》 日本市場報告 失敗事例から荷主は学び始めた
SEPTEMBER 2009 34
釣った魚に餌はやらない
我々日本ロジファクトリーは、3PLと呼べる
だけの機能を備えた物流会社はいまだ日本には存
在しないという認識に立っている。
センター運営 や販売物流などに強みを持つ専門企業は散見でき るが、提案型で一括受託の条件を満たしている企 業となると、ここがそうだと推奨できる会社が残 念ながら見当たらないのである。
荷主企業において物流管理は地味で苦労が多い 割には正当な評価を受けることの少ない業務であ る。
3PLに丸投げして、その負担から解放され たいという荷主の気持ちは理解できる。
しかし、 その結果として何が起こるのか。
3PLという言 葉が日本で使われるようになってから十数年を経て、 徐々に明らかになってきている。
年商一五〇〇億円の某化学品メーカー。
販売物 流のみならず、生産物流および海外からの調達物 流の一切を、有力3PLのP社一社に全て委託し た。
完全導入までの移行期間には一年半をかけた。
ところが完全導入後三カ月が経ち、同メーカーの S専務は「P社を採用したのは失敗だった」と早 くも敗北宣言を出している。
理由を聞くと、現場の混乱が収まらないばかりか、 P社とその下請けの庫内作業会社との間で委託料 金の折り合いがつかず、当初予定していた協力作 業会社が撤退することになったのだという。
しか しP社自身にはパートを雇用し現場を回すノウハ ウがないようで、仕方なく代わりの庫内作業会社 を見つけてきたが、それによってコストは一五% もアップしてしまった。
それに追い打ちをかけてP社には国際物流のノ ウハウが不足していることも分かってきた。
フォ ワーディングの事務処理などの対応が遅く、通関 日数が従来より一日余分にかかっている。
それが 生産管理に影響し、海外から調達している原料な どの在庫が増えてしまったという。
このケースでP社は、荷主の企業規模に目がく らみ、自社の得意分野とそうでない分野を事前に 開示せずに、無理な受託を行ったフシがある。
一方、 荷主側の責任も重い。
P社の実力を見抜けず、必 要な委託業務の切り分けを怠ったツケがその後の 混乱を招いたといえる。
年商六〇〇億円の某食品メーカーもまた、3P Lの導入失敗に悩まされている。
一昨年、有力3 PLとして知られるY社に西日本エリアの物流を 委託した。
ところが提案書に書かれていたプラン と実際の運用体制が大きく違ったものになってし まった。
その結果、当初予定されていたコストダ ウンが実現できないでいる。
原因を調べてみると、Y社では現場運営を下請 けや孫請けに再委託することが常態化しており、 多重コスト構造となっていた。
結局のところ、Y 社は倉庫建物の提供と荷主に対する窓口業務を行 なっているだけで、現場運営は丸投げだった。
さ らには食品メーカーとY社の料金体系がケース当 たり単位であるのに対し、Y社と下請けは時間単 位、車建て単位で契約していた。
Y社にとって逆 ざやとなる委託業務が多く発生していた。
これで は長続きするはずがない。
右の二件よりはマシなケースだが、約三〇〇店 舗を展開する飲食チェーンも、やはり3PLには 失望している。
コスト削減と高度な物流ノウハウ や情報提供を期待して二年前に3PLを導入した。
失敗事例から荷主は学び始めた 3PLの普及から時を経るに従って、日本でも導入 の失敗や契約の打ち切りといった事例の蓄積が進ん できた。
3PLの力量不足と並んで、荷主企業の管理 放棄が失敗の主な原因となっている。
プロに任せれ ば上手くいくと、丸投げすれば痛い目にあう。
日本ロジファクトリー 青木正一 代表 日本市場報告 事例で学ぶ現場改善 《第80回》 特集 35 SEPTEMBER 2009 発注時には七%のコストを削減することができた。
しかし、その後の提案等は一切ない。
コストも 横ばいのままだ。
荷主として現場レベルの改善だ けでなく、物流の枠組みを大きく変更する必要が あると感じているが、それを投げかける相手が3 PL側にいない。
受注時の営業担当は既に異動し ている。
現場の運営担当者に話を振っても、まと もな返事が返ってこない。
この3PLも契約を結ぶまでは一所懸命に荷主 の情報を整理し、外部の情報をかき集め、綿密な コストシミュレーションを行って立派な提案書を作 成していた。
ところが受注が決まったとたんに、 手のひらを返したように対応が変わった。
釣った 魚に餌はやらないというタイプだ。
こうした3P Lは、残念ながら珍しくはない。
3PLとの契約を打ち切り、自社管理に戻す荷 主も出始めている。
年商三〇〇億円の日雑卸は中 堅3PLのD社と三年にわたって取引した末に、 契約更新を断念した。
計画通りにコストが下がら なかったことに加え、現場が見えなくなり、ブラ ックボックス化してしまったことが理由だ。
この日雑卸では現場主義を唱えるトップが新た に就任し、各部門の責任者に、知らない現場があ ってはならないという指示が出された。
これに対 応して物流管理部門では、D社にセンター運営と 輸配送を一括して任せていたのを改め、倉庫、セ ンター運営、配送、幹線輸送を切り離して、それ ぞれ協力会社と料金を交渉し契約を行なった。
日々 の運営管理には大きな手間がかかるようになった。
そこで新たに物流会社出身者一名を中途で採用し た。
しかし、その結果、コストは下がり始め、現 場の実態が見えるようになった。
満足度の高い3PLの特徴 3PLを導入したからといって、荷主が管理の 手綱を緩めることは許されない。
丸投げは物流管 理からの逃避だ。
その反動はコストアップに留ま らず、顧客、生産、営業からの信用低下という大 きな代償を払うことになる。
3PLを成功させる には、利用者側にもスキルが求められるのだ。
年商一〇〇〇億円の中堅電機メーカーでは、七 年間で三回の物流パートナー変更を経験した末に、 ようやく満足のいく3PLと巡り合えた。
メーカ ーにとって本業ではない物流はプロに任せたほう がいいという判断からアウトソーシングを徹底し たが、現在のパートナーと出会うまでは思惑通り にことは運ばなかった。
しかし、そこで苦労した経験から3PLの選び方、 付き合い方を学んだ。
今では従来比で約二〇%の コスト削減を実現している。
同社の本社オフィスに は現在、3PLのスタッフが二名常駐し、現場と 荷主の調整、管理機能を果たしている。
そのおか げで荷主側の管理の手間も大幅に軽減されている。
筆者の見る限り、運用開始後にも一定の評価を 得ている3PL、特にコスト面で高い評価を得て いる3PLには、以下のような共通点がある。
●センターは自社運営。
部分的な委託や派遣対応 は発生しても再委託(孫請け)はしない ●傭車比率は五〇%前後に抑えている。
センター 運営と同様に再委託しない ●土地、倉庫施設は自社所有が基本 ●WMSなどの情報システムは自社システム、荷 主システム両方に対応できる ●特定荷主の専用センターではなく汎用型センタ ーとなっている ●主業は倉庫ではなく流通加工もしくは運送事業 当初は有望とされていたノンアセット型の3P Lはいまやすっかり影を潜めている。
アセット型・ ノンアセット型という区別は意味がなくなり、図に 示した通り、自社所有の資産をベースとしながら、 必要に応じて借庫を利用するというフリーアセット 型へのシフトが進んでいる。
こうした動向に荷主 企業は常にキャッチアップしておく必要がある。
NLFが考える3PL の機能 共通の目標設定 提案営業チーム 3PL 改善・運営チーム 情報開示オペレーション ノウハウ在庫管理スキル コスト分析・現場診断 3PL人材の確保・育成 マテハンノウハウ 同業者ネットワーク 対象荷主のエリアカ レイバーコントロール (P / A) 荷主 共同改善体 管理は自社 運営は外部 情報システム/インフラ構築による業務の可視化 情報の共有化(コスト/在庫/仕入データ) 一括受託 定期的かつ継続的な 提案営業コンサルティング現場改善 フリーアセットコントロール 荷主遊休資産活用および運用、処分策 パートナーシップ プロフィットシェア/契約締結/他 自社のアセット以外を荷主 全体最適 のニーズに合わせて活用 物流管理指標作成・運用・ノウハウ
センター運営 や販売物流などに強みを持つ専門企業は散見でき るが、提案型で一括受託の条件を満たしている企 業となると、ここがそうだと推奨できる会社が残 念ながら見当たらないのである。
荷主企業において物流管理は地味で苦労が多い 割には正当な評価を受けることの少ない業務であ る。
3PLに丸投げして、その負担から解放され たいという荷主の気持ちは理解できる。
しかし、 その結果として何が起こるのか。
3PLという言 葉が日本で使われるようになってから十数年を経て、 徐々に明らかになってきている。
年商一五〇〇億円の某化学品メーカー。
販売物 流のみならず、生産物流および海外からの調達物 流の一切を、有力3PLのP社一社に全て委託し た。
完全導入までの移行期間には一年半をかけた。
ところが完全導入後三カ月が経ち、同メーカーの S専務は「P社を採用したのは失敗だった」と早 くも敗北宣言を出している。
理由を聞くと、現場の混乱が収まらないばかりか、 P社とその下請けの庫内作業会社との間で委託料 金の折り合いがつかず、当初予定していた協力作 業会社が撤退することになったのだという。
しか しP社自身にはパートを雇用し現場を回すノウハ ウがないようで、仕方なく代わりの庫内作業会社 を見つけてきたが、それによってコストは一五% もアップしてしまった。
それに追い打ちをかけてP社には国際物流のノ ウハウが不足していることも分かってきた。
フォ ワーディングの事務処理などの対応が遅く、通関 日数が従来より一日余分にかかっている。
それが 生産管理に影響し、海外から調達している原料な どの在庫が増えてしまったという。
このケースでP社は、荷主の企業規模に目がく らみ、自社の得意分野とそうでない分野を事前に 開示せずに、無理な受託を行ったフシがある。
一方、 荷主側の責任も重い。
P社の実力を見抜けず、必 要な委託業務の切り分けを怠ったツケがその後の 混乱を招いたといえる。
年商六〇〇億円の某食品メーカーもまた、3P Lの導入失敗に悩まされている。
一昨年、有力3 PLとして知られるY社に西日本エリアの物流を 委託した。
ところが提案書に書かれていたプラン と実際の運用体制が大きく違ったものになってし まった。
その結果、当初予定されていたコストダ ウンが実現できないでいる。
原因を調べてみると、Y社では現場運営を下請 けや孫請けに再委託することが常態化しており、 多重コスト構造となっていた。
結局のところ、Y 社は倉庫建物の提供と荷主に対する窓口業務を行 なっているだけで、現場運営は丸投げだった。
さ らには食品メーカーとY社の料金体系がケース当 たり単位であるのに対し、Y社と下請けは時間単 位、車建て単位で契約していた。
Y社にとって逆 ざやとなる委託業務が多く発生していた。
これで は長続きするはずがない。
右の二件よりはマシなケースだが、約三〇〇店 舗を展開する飲食チェーンも、やはり3PLには 失望している。
コスト削減と高度な物流ノウハウ や情報提供を期待して二年前に3PLを導入した。
失敗事例から荷主は学び始めた 3PLの普及から時を経るに従って、日本でも導入 の失敗や契約の打ち切りといった事例の蓄積が進ん できた。
3PLの力量不足と並んで、荷主企業の管理 放棄が失敗の主な原因となっている。
プロに任せれ ば上手くいくと、丸投げすれば痛い目にあう。
日本ロジファクトリー 青木正一 代表 日本市場報告 事例で学ぶ現場改善 《第80回》 特集 35 SEPTEMBER 2009 発注時には七%のコストを削減することができた。
しかし、その後の提案等は一切ない。
コストも 横ばいのままだ。
荷主として現場レベルの改善だ けでなく、物流の枠組みを大きく変更する必要が あると感じているが、それを投げかける相手が3 PL側にいない。
受注時の営業担当は既に異動し ている。
現場の運営担当者に話を振っても、まと もな返事が返ってこない。
この3PLも契約を結ぶまでは一所懸命に荷主 の情報を整理し、外部の情報をかき集め、綿密な コストシミュレーションを行って立派な提案書を作 成していた。
ところが受注が決まったとたんに、 手のひらを返したように対応が変わった。
釣った 魚に餌はやらないというタイプだ。
こうした3P Lは、残念ながら珍しくはない。
3PLとの契約を打ち切り、自社管理に戻す荷 主も出始めている。
年商三〇〇億円の日雑卸は中 堅3PLのD社と三年にわたって取引した末に、 契約更新を断念した。
計画通りにコストが下がら なかったことに加え、現場が見えなくなり、ブラ ックボックス化してしまったことが理由だ。
この日雑卸では現場主義を唱えるトップが新た に就任し、各部門の責任者に、知らない現場があ ってはならないという指示が出された。
これに対 応して物流管理部門では、D社にセンター運営と 輸配送を一括して任せていたのを改め、倉庫、セ ンター運営、配送、幹線輸送を切り離して、それ ぞれ協力会社と料金を交渉し契約を行なった。
日々 の運営管理には大きな手間がかかるようになった。
そこで新たに物流会社出身者一名を中途で採用し た。
しかし、その結果、コストは下がり始め、現 場の実態が見えるようになった。
満足度の高い3PLの特徴 3PLを導入したからといって、荷主が管理の 手綱を緩めることは許されない。
丸投げは物流管 理からの逃避だ。
その反動はコストアップに留ま らず、顧客、生産、営業からの信用低下という大 きな代償を払うことになる。
3PLを成功させる には、利用者側にもスキルが求められるのだ。
年商一〇〇〇億円の中堅電機メーカーでは、七 年間で三回の物流パートナー変更を経験した末に、 ようやく満足のいく3PLと巡り合えた。
メーカ ーにとって本業ではない物流はプロに任せたほう がいいという判断からアウトソーシングを徹底し たが、現在のパートナーと出会うまでは思惑通り にことは運ばなかった。
しかし、そこで苦労した経験から3PLの選び方、 付き合い方を学んだ。
今では従来比で約二〇%の コスト削減を実現している。
同社の本社オフィスに は現在、3PLのスタッフが二名常駐し、現場と 荷主の調整、管理機能を果たしている。
そのおか げで荷主側の管理の手間も大幅に軽減されている。
筆者の見る限り、運用開始後にも一定の評価を 得ている3PL、特にコスト面で高い評価を得て いる3PLには、以下のような共通点がある。
●センターは自社運営。
部分的な委託や派遣対応 は発生しても再委託(孫請け)はしない ●傭車比率は五〇%前後に抑えている。
センター 運営と同様に再委託しない ●土地、倉庫施設は自社所有が基本 ●WMSなどの情報システムは自社システム、荷 主システム両方に対応できる ●特定荷主の専用センターではなく汎用型センタ ーとなっている ●主業は倉庫ではなく流通加工もしくは運送事業 当初は有望とされていたノンアセット型の3P Lはいまやすっかり影を潜めている。
アセット型・ ノンアセット型という区別は意味がなくなり、図に 示した通り、自社所有の資産をベースとしながら、 必要に応じて借庫を利用するというフリーアセット 型へのシフトが進んでいる。
こうした動向に荷主 企業は常にキャッチアップしておく必要がある。
NLFが考える3PL の機能 共通の目標設定 提案営業チーム 3PL 改善・運営チーム 情報開示オペレーション ノウハウ在庫管理スキル コスト分析・現場診断 3PL人材の確保・育成 マテハンノウハウ 同業者ネットワーク 対象荷主のエリアカ レイバーコントロール (P / A) 荷主 共同改善体 管理は自社 運営は外部 情報システム/インフラ構築による業務の可視化 情報の共有化(コスト/在庫/仕入データ) 一括受託 定期的かつ継続的な 提案営業コンサルティング現場改善 フリーアセットコントロール 荷主遊休資産活用および運用、処分策 パートナーシップ プロフィットシェア/契約締結/他 自社のアセット以外を荷主 全体最適 のニーズに合わせて活用 物流管理指標作成・運用・ノウハウ
