2009年9月号
物流IT解剖

第30回 名糖運輸

SEPTEMBER 2009  64 社長直轄プロジェクトで IT部門の人員を倍増   名糖運輸はこれまで、親会社向け の業務で培ったチルド物流のノウハウ と、泥くさい現場力を武器に業績を 伸ばしてきた。
 一九五九年の設立から四〇年近く を食品メーカーの物流子会社として 過ごした。
九六年に株式を公開した ときに親会社だった協同乳業が保有 株を売却。
これによって、当時すで に外販比率が約八割に達していた名 糖運輸は、名実ともに物流子会社の 立場から脱却した。
 小売りチェーンや外食チェーンな ど流通の川下分野における受託の拡 大が ?親離れ?の決め手になった。
食 品の温度管理に対する社会的な要請 の高まりも追い風に、いまや中間流 通における有力プレイヤーの一社に 成長している。
 日配品を中心とするチルド物流の 作業リードタイムは極端に短い。
物 流拠点での保管はほとんど発生せず、 入荷した商品をその日のうちに出荷 する?クロスドック?に近いかたち で大半の業務をこなしている。
慌た だしく荷物を捌く一方で、コンビニ エンスストアへの配送業務などでは 厳しい定時納品が求められる。
この ような顧客の要請に三六五日・二四 時間体制で応えている。
 厳密な温度管理や定時配送などの 顧客ニーズを満たすには、情報ツー ルやハイテク機器の活用が欠かせな い。
現に同社は、グループ企業の車 両を含む二〇〇〇台以上の運行車の すべてに、デジタルタコグラフを二 〇〇二年から配備している。
IT活 用でも、〇四年に広域イーサーネッ トを全国に敷設し、IP電話を全面 導入するなど積極的に新しい技術を 導入してきた。
 しかし、こと業務系の情報システ ムについては、どちらかというと受 け身の姿勢がつづいていた。
主力荷 主がIT活用に長けた小売りチェー ンということもあって、名糖運輸が 自ら標準的なシステムを開発するこ とはせず、個々の顧客に対応したシ ステムを整備してきた。
 結果として近年の同社は、特定 の顧客向けには非常に先進的なシス テムを使っていながら、これを他の 顧客に横展開できないといった課題 を抱えていた。
こうした状況を打破 するため、〇六年からインフラも含 めてITを全面的に見直す活動に着 手することになった。
〇七年八月に 「新物流システムプロジェクト」を発 足。
三億円弱を投じた業務系システ ムの刷新をスタートした。
 プロジェクトに着手した当時の名 糖運輸の「情報システム部」は、わ ずか五人程度の小所帯だった。
グル ープにIT子会社やシステム関連会 社があるわけでもない。
開発の実務 はもっぱらアウトソーサーに依存して いた。
技術的にもクライアント/サ ーバー型のオープンシステムを採用し ていたことから、小規模なIT部門 でも日常業務は処理できた。
 このIT部門をプロジェクトの途 中で大幅に増強した。
外部から招聘 した人材まで含めると、ピーク時の 約3年かけて基幹システムを全面改修 ハンディ端末や自動倉庫の活用も開始 名糖運輸  人間系の“ローテク”のノウハウを強みとしてきた。
情報システム は2000年に自社開発したシステムに手を加えながら使ってきたが、機 能不足が否めなかった。
そこで3年前に大規模な改修に着手した。
新 システムが稼働したのを機に、従来はまったく利用していなかったハ ンディターミナルや自動倉庫の活用も開始している。
組 織 第30 回 ◆本社組織…10人。
ただし情報システ ム部長は取締役東日本事業部長の 武淵氏が兼務している。
残り9人の部 員の担当業務の内訳は、企画2人、 ライセンス管理2人、開発2人、運用3 人、社内LANなど資産管理1人となっ ている。
◆情報関連会社…なし 《概要》労働力の柔軟な供給や、イレギュラー業務への対応力の高さを武器に 業容を拡大してきた。
しかし顧客ごとに構築してきたシステムの標準化など に課題を抱え、06 年に新システムプロジェクトを発足させた。
 約3億円を投じて旧システムを改修し、セキュリティ機能や管理機能を強化。
08 年10月に新システムを稼働させた。
このタイミングで、センター管理を 高度化する狙いでハンディターミナルと自動倉庫を初導入している。
 WMS は自社開発しているが、輸送管理システムは使っていない。
年間IT コストは連結売上高比1%未満。
通信コストなどを見直すことでさらに削減 できると見込んでおり、これを原資に企画機能などを強化する方針。
65  SEPTEMBER 2009  〇七年八月から三カ月間、IB Mビジネスコンサルティングサービス (IBCS)による指導を受けたこと で、プロジェクトがにわかに動き出し た。
IBCSの支援のもとに、名糖 運輸が使っている業務系の基幹シス テムである「受払在庫管理システム」 の問題点を徹底的に抽出し、見直す べき点を検討した。
 同社が「受払在庫管理システム」 と称している仕組みは、倉庫管理シ ステム(WMS)に受発注機能など を付加したものだ。
センター管理の ための基幹システムであり、社内で は「物流システム」とも呼んでいる。
二〇〇〇年の稼働以来、機能の追 加や修正を加えながら使用してきた。
しかし、セキュリティ機能の不備や、 トレーサビリティへの対応力の弱さな どが近年では問題になっていた。
 こうした問題点の多くを、IBC Sが具体的に整理した。
この結果を 受けて、名糖運輸はシステム刷新の ためのパートナーを選ぶ作業に着手。
この協力ITベンダーと組んで、〇 七年十二月から約三カ月かけて次期 システムの要件を定義した。
そして 次の三カ月間で基本設計を定め、昨 年四月から新システムの開発に取り かかった。
 開発をスタートするタイミングで、 前述した情報システム部の増強にも 踏み切った。
それまではIT部門の なかで、現場対応の部員、開発担当 部員、保守・運用を担当する部員な どの役割が定まっておらず、状況し だいで分担を判断していた。
あやふ やな役割分担を明確化し、必要なス タッフを手当てした。
 このとき新たなリーダーとして営 業部門から異動してきた岩城健一情 報システム部副部長は、一連の「新 物流システムプロジェクト」の概要を 次のように説明する。
 「大きくは三つの狙いがあった。
シ ステムへのログイン履歴などの機能を 強化する『システムの安全性向上の 取り組み』、配送車両別のピッキング リストの標準化などを図る『業務効 率化の取り組み』、そしてハンディタ ーミナルの導入や日付指定の出荷引 き当てなどによる『物流品質向上の 取り組み』だ。
ただし、今回はあく までも既存システムの改修にとどま るため、当面は新旧の仕組みが混在 する状態になる」  こうして開発された新システムは、 当初の予定通り昨年一〇月までに稼 働した。
これをまず本社と「埼玉物 流センター」(埼玉DC)にテスト導 入し、年内に本稼働へと移行。
その 後は毎月一〜二拠点ずつ導入を進め て、すでに今年七月の時点で九拠点 に展開している。
九月末までには全 国の主要一六拠点への導入を完了す る計画だ。
ハンディや自動倉庫など 自動化機器の導入を推進   名糖運輸は今回のシステム改修に 当たって、同社初となる取り組みを いくつか試している。
その一つが、 ハンディ端末の現場への導入だ。
こ れまでコンビニチェーンの共配センタ ーなどを数多く手掛けてきたが、実 は業務処理に自ら開発したハンディ 端末のシステムを使った経験は一切 なかった。
 この点について岩城副部長は、「当 社の物流現場には、地域特性とか倉 庫の立地条件などに応じた?ローテ ク?のノウハウが蓄積されている。
こ れは必ずしも標準化された業務プロ セスではないため、機械化するのが 難しかった」と説明する。
チルド物 流に特有の条件をクリアするために は、人間がマニュアルで手掛けたほ うが上手くいく場合も少なくないと いう。
 そこで、いきなり全ての業務にハ ンディ端末を導入することは避けた。
まずは作業者にハンディ端末に慣れ てもらうという狙いもあって、入庫 人員は十二人まで増えた。
社内での 位置づけも、管理本部内の一部署か ら社長直轄に改めた。
プロジェクト が一段落した今年七月には、再び管 理本部の傘下に戻したものの、現状 でも一〇人が所属して活動をつづけ ている。
業務系の基幹システムを 標準化し一六拠点に展開   〇六年から社内でIT全般の見直 しに着手したにもかかわらず、これ が実際に「新物流システムプロジェク ト」として動き出すまでには、それ から約一年間を要した。
 当時の情報システム部は、日々の 業務をこなすことはできても、戦略 的にITを再構築していくための視 点やスキルを欠いていた。
顧客ごと に個別に対応してきたシステムの標 準化などに問題があることは理解し ていても、実際にシステム刷新の方 針を定めて、要件定義にまとめるノ ウハウを持ち合わせていなかった。
情報システム部の 岩城健一副部長 システム開発 WMS SEPTEMBER 2009  66 処理に限定して五〇台程度の端末を 導入する計画だ。
機種にはNECの グループ企業が提供している業務用 PDAを採用した。
 ハンディ端末の導入に当たって業 務プロセスの見直しも行った。
 入庫処理にハンディ端末を使うた めには、従来は営業所に管理を一任 していたシステムへのマスター登録な どを事前に済ませておくことが欠か せない。
マスターとして登録すべき 情報の中には、特定の顧客に対応す るための日付指定など、営業所の人 間しか知らない情報が含まれている。
同社は従来、こうした情報の処理手 順を現場に任せていた。
これを必ず 事前に登録するように業務プロセス を徹底する必要があった。
 さらにセンターにおける商品の入 庫予定数をあらかじめ確定すること も必須だ。
これについても従来は現 場ごとに業務プロセスがまちまちだ ったのを、新システムでは事前出荷 明細の収受などを徹底した。
こうし た作業がおろそかなままハンディで 入庫処理をしようとすると、その場 で全ての情報を入力しなければなら ないといった余計な業務負荷が発生 してしまうからだ。
 このように新たに発生する作業を 考慮して、ハンディ端末の導入は様 子を見ながら進めていく。
このため 現状では適用範囲をまだごく一部に とどめている。
今後はロケーション 管理や出荷検品、棚卸し業務などに も徐々に用途を拡大していき、これ に伴って端末の台数も増やしていく 方針なのだという。
 今年四月から「関西DC」で稼働 した自動倉庫も、新しい取り組みの 一つだ。
賞味期限や消費期限の短い チルド食品では保管業務のニーズ自 体が小さいこともあり、従来はほと んど自動倉庫を使ったことがなかっ た。
しかし近年は、食品のロングラ イフ化が進展している。
しかも限ら れたスペースで商品を保管すること による外装(段ボール箱)の破損な ども散見されるようになっていた。
 そこで今回、関西DCに約二〇 〇〇パレット収納のダイフク製の自 動倉庫を、試験的に導入することに した。
これに伴ってシステム面でも、 自動倉庫を物流システムから制御で きるようにインターフェースを構築し た。
 もっとも、今後も自動倉庫に依存 したオペレーションをするつもりはな い。
「うちの業務は、いわば時間との 戦い。
万一、自動倉庫が止まったか ら出荷できないなどということにな れば大変な問題になる。
当面は、す ぐに出荷するものは自動倉庫には入 れないといったルールに基づいて使 っていく」と岩城副部長は強調する。
パッケージを導入するも 現場ニーズに応えられず   名糖運輸にとって貨物運送事業は、 売上構成比で八割以上を占める主力 事業だ。
荷主の求める時間指定な どを厳密に守る高品質の輸送業務こ そ、コア業務といっても過言ではな い。
この分野ではデジタコを最新版 に置き換える作業を進めている。
今 年九月までには、グループ会社を含 む全車両への配備を終える予定だ。
 コンビニチェーンの店舗配送など で高水準のサービスを実現している にもかかわらず、名糖運輸は現在、 配車管理システムなどをほとんど使 っていない。
かつて現場で配車業務 を担当していた経験を持つ菅原剛総 務部長兼広報室長は、同社が配車管 理システムを導入していない理由を こう説明する。
 「当社の配車業務は?職人芸?の ようになってしまっているところが ある。
日によって納品先が様変わり するにもかかわらず、チルド商品を 扱っている関係で配車のための作業 リードタイムは極めて短い。
これをシ ステムで処理しようとしても到底追 いつかない。
個々の配送先の情報ま で知り尽くしている配車マンが、経 験に基づいて配車板と頭で考えるほ うがずっと早い」  実は過去に二度、数千万円を投じ て配車管理のためのパッケージソフ トを導入したことがあった。
しかし、 二度とも失敗に終わった。
最大の原 因は、システムには臨機応変な対応 ができなかった点にある。
 こうした経緯もあって、現在も同 社のIT部門は、輸送業務にはほと んど関与していない。
この部分の管 理は営業部門が担当しており、シス テム化の判断も現場に委ねられてい る。
ある意味では旧態依然とした体 制だが、こうした管理にこそ同社の 強みが潜んでいるのだろう。
 名糖運輸はこれまで、競合他社が ギブアップしてしまうような厳しい 条件にも対応することで荷主からの 配車管理 機種:「Pocket@iEX」(NECインフロン ティア製)、数量:約50台、適用業務: 当面は「入庫処理」のみ。
将来的には「ロ ケーション管理」「棚卸し」「出荷処理」「通 過型商品の入出庫検品」「トレーサビリテ ィ」などへの適用を検討していく方針。
ハンディターミナルを 初めて導入した 67  SEPTEMBER 2009 評価を得て きた。
実際、 それで受託 領域を拡大 した事例も 少なくない のだという。
突然の増車 要請にも可 能な限り応じ る。
そのた めには傭車 の選択肢を 豊富に持つ のはもちろ ん、社員に 休日を返上 してもらうと いった柔軟 性によって、 イレギュラー の発注をこ なせることが 欠かせない。
 同社の現 場の管理者 は、大半が 大型免許を 保有してい る。
いざと なれば自らハ ンドルを握ることも厭わない。
こう した姿勢を日頃から管理者が見せる ことで、一般従業員の協力も得られ るようになる。
加えて休日出勤の後 には必ず代休を取らせたり、天気予 報から荷動きが少なくなると予想し た日は事前にドライバーを休ませるな ど、過去の経験に基づく配車担当者 の判断によって現場を回している。
IT投資比率は一%弱 低コスト化をさらに推進   名糖運輸はWMSをはじめとする 実行系システムは自社開発して、そ こにノウハウを蓄積していこうとし ている。
一方で経理や人事の分野で はパッケージシステムも導入している。
ただ、この場合はパッケージの選定 から活用までを当該部門が全面的に 担当しており、IT部門はほとんど 介在していない。
 今後も大規模なシステムの改修や、 新たに構築する場合には、アウトソ ーシングを選択していく方針だ。
そ の後の微調整や、取引先とのEDI の仕組みづくりを可能な限り社内で 手掛けていく。
そのためにIT部門 の企画・戦略機能などを強化してい く。
 前述したプロジェクトで外部のコ ンサルタントを使ったのは、社内の ノウハウが不足していたからだ。
本 来であれば、「現場の要求を見極め、 要件定義に落とし込むまでの部分は、 コンサルに頼らずに社内でやってい きたい。
意志決定をするのは、あく までも当社であるべきだ。
そのため にはわれわれが力をつける必要があ る」と岩城副部長。
 IT投資に対する社内の見方はシ ビアだ。
現在の年間ITコストは連 結売上高(四九五億円)の〇・五% 弱で、ここに通信費やIT部門の人 件費などを含めても一%に満たない。
かなりのローコスト運営だが、岩城 副部長は、「まだ削減できる。
そこか ら生み出される資金を原資に新しい ことをやっていきたい」という。
 当面の課題は、通信ネットワーク の見直しだ。
〇四年にIP電話を 導入するなどしたことが裏目に出て、 近年の通信費の大幅な値下げで相対 的にコストが高くなってしまってい る。
新たなIT投資の原資をスムー ズに確保するうえでも通信コストの 引き下げが急務となっている。
 既存のITコストを引き下げ、そ こから生まれる資金の一部を人材育 成などに充当できれば、中長期的に はさらなるローコスト運営につながっ ていくはずだ。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) IT戦略 受注管理 受払在庫管理システム 名糖運輸の物流システムの概要 受注受信 EOSまたは FAX / TEL EOSまたは FAX / TEL 入荷予定送信 入荷予定送信 入荷予定送信 FTP 入荷 FTP 転送 転送 配送 その他サブシステム ・受注入力 ・転送入力 在庫管理 ・保管 ・棚卸 ・汚損/破損   入荷管理 ・入荷予定入力 ・入荷検品 ・入荷実績入力 ・未入荷管理 マスタ管理 ・各種マスタメンテナンス ・各種マスタリスト出力 各種 マスタ トラン ザクション DB 各種 マスタ トラン ザクション DB 各種 マスタ トラン ザクション 自動倉庫 DB 各種 マスタ トラン ザクション ハンディ DB 各DB 得意先他拠点 メーカー他拠点 納品先 ・配送計画/ 配車予定 ・送り状/ 荷札管理 配送 ・請求処理 ・請求書発行 請求 ・受注情報 ・配送情報 ・在庫/商品情報 作業 コスト 分析 情報分析 自動倉庫システム ・入庫管理 ・出庫管理 ・ロケーション管理 ・受払システムとのインタフェース 自動倉庫 ハンディシステム ・入荷検品 ・出荷検品 ・ロケーション移動 ・棚卸 ハンディ 在庫(−) 在庫(+) ・引当処理 ・在庫不足情報管理 ・ピッキングリスト発行 ・店舗ラベル/シール発行 ・ピッキング/検品 ・納品伝票発行 出荷管理

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