2009年9月号
物流指標を読む

第9回 荷主企業の取り組みは変わったか

SEPTEMBER 2009  84 物流指標を読む 荷主企業の取り組みは変わったか 第9 回 ●多くの荷主企業が物流を「重要な経営課題」と認識 ●コンプライアンス志向の高まりで物流投資にも積極的 ●合理化を目的としたアウトソーシングの動きは停滞 さとう のぶひろ 1964 年生まれ。
早稲田大学大学院修了。
89年に日通 総合研究所入社。
現在、経済研究部研 究主査。
「経済と貨物輸送量の見通し」、 「日通総研短観」などを担当。
貨物輸 送の将来展望に関する著書、講演多数。
物流子会社再編も活発化  わが国経済は、六九カ月に及ぶ戦後最長の景気 拡大期間を経て、二〇〇七年十一月に景気後退局 面入りしたが、昨年秋以降、リーマンショックを契 機とした世界同時不況が深刻化するなかで、まさ に崖っぷちまで追い込まれることとなった。
しかし、 先月号で書いたように、生産や輸出等の持ち直し を根拠に、今年四月(または三月)にようやく景 気は底打ちしたとの見方が広まっている。
ただし、 現在の生産は「正常水準」とはほど遠い、極めて 低い水準にとどまっており、景気回復を実感でき るまでには至っていない。
 一方、深刻化する地球環境問題等を受けて、環 境対策は物流事業者のみならず荷主企業にとって も喫緊の課題になるとともに、コンプライアンスを 重視した経営が時代の責務ともなっている。
 このような状況において、荷主企業の物流に対 する取り組み姿勢の変化等を確認するため、今年 六月中旬に、日通総合研究所は荷主企業(製造業、 卸売業)二五〇〇事業所に対して緊急アンケート 調査を実施した。
本稿では、その概要について紹 介するとともに、若干の補足をしてみたい。
《経営に占める物流の位置づけの変化、物流アウト ソーシングの動向》  日通総研は、今回の調査に先立ち、〇五年六月 下旬にも荷主企業を対象に経営における物流の位 置づけを問うアンケート調査を実施している。
そ れによると、物流を「最も重要な経営課題」と位 置づけている事業所が十一%、「いくつかある重要 な経営課題の一つ」と位置づけている事業所が七 八%あり、合わせて約九割の事業所が物流を重要 な経営課題と認識していた。
 今回実施したアンケート調査の結果をみると、景 気後退を機に経営に占める物流の位置づけの重要 性が高まったとする事業所が三六%あり、物流を 重要な経営課題と認識している荷主企業がさらに 増加していることが窺える。
 しかし、物流の合理化の一環としての物流アウ トソーシングは、拡大、縮小との回答がそれぞれ 十二%と拮抗しており、合理化を目的としたアウ トソーシングの取り組みは停滞している印象を受け る。
本調査の対象が比較的規模の大きい事業所で あることから、合理化を主目的としたアウトソー シングはすでに完了しており、これからは物流の 質を高めるためのアウトソーシングが進められてい くものとみられる。
《物流関連の投資動向》  物流関連の投資についても、物流改善・合理化 に対する投資は、「増えた」、「減った」との回答が それぞれ十三%と拮抗しているのに対し、環境対 策・省エネに対する投資と安全・教育に対する投 資については、それぞれ「増えた」とする事業所 が「減った」とする事業所を上回っている。
景気 後退下においても、環境対策や安全対策が物流の 最優先課題であるという姿勢が窺える。
環境対策 や安全対策は、従来なら景気後退下ではややもす れば軽視されることもあったが、コンプライアンス 志向が高まるなかで、今日では順守すべき重要な 課題となっている。
《物流子会社再編の動き》  物流子会社を所有している企業において、物流 日通総合研究所 「ロジスティクスレポート No.13」 85  SEPTEMBER 2009 子会社の再編や事業譲渡等については、既に実施 している事業所が一四%あるほか、検討中とする 事業所も一九%あり、今後も物流子会社の再編の 動きは強まる見通しである。
物流合理化も、物流 子会社の再編を通して達成しようとする荷主企業 が意外に多いことを示唆するものと受け取れる。
《モーダルシフトへの取り組み》  鉄道・内航海運へのモーダルシフトの取り組み については、「強まった」とする荷主事業所が一 四%あり、従前から取り組んでいた荷主事業所の 回答が「変わりない」に含まれることを考慮して も、設備投資に対する姿勢と同様、景気後退下に あっても環境対策への取り組みには揺るぎない姿 勢が窺える。
《高速道路利用の動向》  高速道路料金が下がっても、高速道路の利用は 「変わりない」とする事業所が圧倒的に多く、「減 った」とする回答が「増えた」とする回答を僅か ながら上回ったことも、コスト負担増を嫌う以外に、 環境への配慮から、自動車の利用(注:ここでは 自家用のみならず営業用自動車の利用も含む)を できる限り控える姿勢が反映されているものとも 考えられる。
こうしたことから、高速道路料金の 引き下げは、荷主企業の貨物運送に限っては、高 速道路の利用増に対してほとんど寄与していない ことがわかる。
航空から海上輸送へシフト 《国際輸送における航空から海運へのシフトの動向》  輸出入の際に、利用輸送機関を航空から海運へ シフトする動きに関しては、「強まった」とする事 業所が一六%に対し、「弱まった」とする事業所は 一%であり、航空から海運へのシフトは確実に進 展している。
背景には、運賃コスト削減の必要が 強まったことに加え、RORO船の就航や定曜日 配船等により海運の利便性が高まったこと、さら に環境意識の高まりを指摘することができよう。
《国内出荷量の本格回復時期の見通し》  最後に、国内出荷量が本格回復する時期の見通 しを尋ねたところ、「二〇一〇年度以降」が七四% と最も多く、次いで「〇九年度後半」が二三%、 「〇九年度半ば」が三%であった。
荷主企業が国 内出荷量の本格回復時期の見通しを「一〇年度以 降」と捉えていることは、今回の景気後退が長期 化する可能性が高いことを認識したうえで、これ までに見てきた物流への取り組みについて検討し ていることを示すものと考えられる。
 このように、景気後退局面が長期化する状況下 で、物流の経営上の位置づけは高まったものの、そ の取り組みは、従来のように物流の合理化、コス ト削減等には向かわず、コンプライアンス志向が高 まるなかで、環境対策や安全対策等に向かう姿勢 が強いことが鮮明に浮かび上がっている。
 ちなみに、今年七月に日通総研が発表した「企 業物流短期動向調査(〇九年六月調査)」の結果 をみると、〇九年七〜九月見通しの運賃・料金動 向指数は、全機関ともマイナスを示しているもの の、前年同月と比較して「値下がり」を予想する 割合は一〜二割にとどまっている。
本誌八月号の 「物流コンサル道場」において、大先生が指摘し ておられるように、なりふり構わず運賃や倉庫料 金叩きに走る荷主は少なくなっているようだ。
C.低下した 3% Q1、物流の位置づけの変 化 Q4、物流子会社再編の動 き Q5、モーダルシフトへの取 り組み Q6、高速道路利用の動向Q7、航空から海運へのシフ ト動向 Q8、国内出荷量の本格回 復時期の見通し Q2、物流アウトソーシング の動向 Q3、物流関連の投資動向 ?物流改善・合理化に対す る投資 ?環境対策・省エネに対す る投資 ?安全・教育に対する投資 A.高まった 36% B.変わりない 61% C. 検討していない 67% B. 変わりない 76%   C. 縮小した 12% A. 拡大した 12% B. 変わりない 74% 13% 13% C. 減った A.増えた B. 変わりない 95% B. 変わりない 74% A.増えた 20% B. 変わりない 78% 18% A.増えた 6% C. 減った C. 減った 4% B. 検討 している 19% B. 変わりない 83% B. 変わりない 83% C. 2010 年度以降 74% B. 2009 年度後半 23% C. 弱まった 3% A. 既に実施した 14% A. 強まった 14% C. 弱まった 1% A. 強まった 16% A. 2009 年度半ば 3% C. 減った 3% A.増えた 2% n= 993 n= 1,034 n= 1,013 n= 999 n= 993 n= 931 n= 519 n= 971 n= 807 n= 277 荷主企業へのアンケート結果

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