2009年9月号
SOLE

ライフサイクルコストを評価する新JIS規格の構造を解説

SOLE 日本支部フォーラムの報告 The International Society of Logistics SEPTEMBER 2009  90  本規格の序文から第三章までは、 主として適用範囲や基本概念などの 前提条件をまとめたものである。
 LCCの語は本規格において以下 のように定義されている。
 製品のライフサイクル全般また はその一部分のライフサイクルコ ストを分析及び評価する経済分 析のプロセス(三・二節)  また序文には以下のような説明が ある。
 ライフサイクルコスティングは 製品の取得コスト、所有者コス ト及び廃却コストの総コストを 評価する経済分析プロセスであ る。
この分析は、製品設計、開 発、仕様及び廃却における意志 決定プロセスでの重要な入力情報 を提供する。
 ライフサイクルは「製品の構想及 び定義段階からその廃却段階までの 期間」と定義されている(三・一節)。
製品サイクルとして比較的イメージし やすい、製造から使用を経て使用停 止に到るまでの期間より長く取られて いることに留意されたい。
 第四章「ライフサイクルコスティン グ」はLCCの具体的手法について 記述する本規格の中心部分である。
 「四・一項 ライフサイクルコステ ィングの目的」では、製品の総コス トの経済的分析によって、意志決定 のための情報を提供することがLC Cの目的であることが述べられてい る。
 「四・二項 製品ライフサイクル段 階及びLCC」と「四・三項 LC C解析のタイミング」では、?構想 及び定義、?設計及び開発、?製造、 ?据付け、?運用及び保全、?廃却、 のライフサイクルの段階が定義され、 LCCが早い段階で行なわれるほど 総コストに大きなく影響することが 述べられている。
三つの主要軸から解析  「四・四項 ディペンダビリティと LCCとの関係」は、ディペンダビリ ティとLCCとの関係についてであ る。
ディペンダビリティの要因であ る設備や製品の保全特性を表す保全 費用は、当然のことながらLCCと 深く関わっている。
しかし、LCC 解析で考えなければならないLCC の要素は保全費用ばかりでない。
イ メージ及び評判に対する損害、収益 減、サービス提供、保証コストや製 品責任コストについても考慮すべき であることも言及されている。
 「四・五項 LCCの概念」では、 ライフサイクルコストを評価する 新JIS規格の構造を解説  S O L E 日本支部R A M S ( R e l i a b i l i t y , A v a i l a b i l i t y , Maintainability and Supportability)研 究会では、昨年制定されたライフサイク ルコスティング(以下、LCC)に関わ る規格「JIS C 5750─3─3」を 紹介し、内容についての検討を行なっ た。
ライフサイクルコスティングはロジ スティクスの基盤となる考え方の一つで あり、標準的な論点をカバーしたJIS 規格が制定されたことには重要な意義 がある。
(SOLE日本支部・斎藤一弥、 菅伸介、富田博之) 製品開発から廃却までを評価  本規格の正確な名称は「ディペンダ ビリティ管理─三─三部:適用の指針 ─ライフサイクルコスティング」(規格 番号JIS C 5750─3─3:2 008)である。
つまり、一連のディ ペンダビリティ(信頼性、保全性)管 理規格群の中で、ライフサイクルコス ティング手法についての指針を与える ものと位置付けられている。
本規格 はLCCの実践において考慮すべき 点を網羅的に記述した文書であるが、 あくまで指針であってLCCの手法を 一意的に定めるものではないことに 注意願いたい。
 本規格は、基本的にIEC(国際 電気標準会議)の規格「IEC 60 300─3─3:2004」の和訳版 である。
IECは包括的なディペン ダビリティ管理規格の体系を制定して おり、JIS規格(日本工業規格) の整備はそれを和訳することによって 進められている。
表1にIECとJ ISのディペンダビリティ管理規格の 対応を示す。
製品設計に関わる規格 のJIS化はおおむね完了している ため、残りのロジスティクス系規格の JIS化が望まれる。
 表2に示したのはLCC規格の目 次である。
なお、最後の「解説」は JIS規格化に際して日本規格協会 が加えたものであり、IEC規格に は対応する部分はない。
91  SEPTEMBER 2009 すもので、コストの意味を分かり易く するために会計処理の勘定科目の分 類に従うのがよい。
例えば、款項目 節の分類である。
 具体的なコストの見積手法につい ては、「エンジニアリング コスト手 法」、「類似コスト手法」「パラメトリ ック コスト手法」が紹介されている。
 為替レートなどのように、コスト に直接関係するにもかかわらず不確 実性を伴うものもあるが、LCC解 析には為替レートやインフレーショ ン、税金も含めるべきである。
ただ し、「付属書B」の項で後述するよう に、税金についてはその種類によっ て熟慮する必要がある。
リスク管理も必要  「四・六項 ライフサイクル コス ティング プロセス」では、分析の段 階を「実施計画」、「モデルの選択又は 開発」、「モデルの適」、「実施計画に 伴う文書化」、「実施結果のレビュー」 及び「分析結果の更新」の六つに分 けて紹介している。
 「実施計画」では、分析の目的を明 確にし、適用範囲を規定して計算の 条件や制約事項、代替案について整 理する。
ここで結果の報告スケジュー ルも明確にする。
 「モデルの選択又は開発」について は、考慮事項としてデータの有効性 Structure)、コストの細分化を表 す軸( C B S :Cost Breakdown Structure)である(図1)。
 LCSは構想段階から始まり、設 計、製造、据付け、運用・保全、そ して最後に廃却段階である。
LCS を明確にすることにより、どの段階 でコストがいくら発生しているのかが 明らかになる。
 WBSは、製品や設備の構成要 素を細分化し、木構造にまとめたも のである。
どこまで詳細化するかは、 どこまでのコストを知りたいかに依 存する。
作成方法は、よく利用され ているプロジェクト管理のWBS作成 方法に準拠したものでよい。
 CBSはコストの細分化構造を表 LCCの構成要素 について述べられ ている。
ここでそ の概要について紹 介しよう。
 L C Cは三つ の主要軸からなっ ている。
それはラ イフサイクルの各 段階を表す軸(L C S :Lifecycle Structure)、製品 や設備の機器、部 品の構成要素を 細分化した軸 ( W B S :Work B r e a k d o w n 表1 IEC とJIS のディペンダビリティ管理規格体系 IEC 60300-1 IEC 60300-2 IEC 60300-3-1 IEC 60300-3-2 IEC 60300-3-3 IEC 60300-3-4 IEC 60300-3-5 IEC 60300-3-6 IEC 60300-3-7 IEC 60300-3-9 IEC 60300-3-10 IEC 60300-3-11 IEC 60300-3-12 IEC 60300-3-14 IEC 62309 IEC 61713 Dependability management systems Guidelines for dependability management Application guide-Analysis techniques for dependability data from the field Application guide-Collection of depdendability data from the fild Application guide-Life cycle costing Application guide-Guide to the specification of dependability requirements Application guide-Reliability test conditions and statistical test principles Application guide-Software aspects of dependability Application guide-Reliability stress screening of electronic hardware Risk analysis of technological systems Application guide-Maintainability Application guide-Reliability centred maintenance Application guide-Integrated logistic support Application guide-Maintenance and maintenance support Dependability of products containing reused parts-Reqirements for Software dependability through the software life-cycle processes-Application JIS C 5750-1 JIS C 5750-2 JIS C 5750-3-1 JIS C 5750-3-2 JIS C 5750-3-3 JIS C 5750-3-4 JIS C 5750-3-5 JIS C 5750-3-6 JIS C 5750-3-7 JIS C 5750-4-1 JIS C 5750-4-2 ディペンダビリティプログラム管理 ディペンダビリティプログラム要素及びタスク 適用の指針─ディペンダビリティ解析手法の指針 適用の指針─フィールドからのディペンダビリティデータの収集 適用の指針─ライフサイクルコスティング 適用の指針─ディペンダビリティ要求事項仕様書作成の指針 適用の指針─信頼性試験条件及び統計的方法に基づく試験原則 適用の指針─ディペンダビリティにおけるソフトウェアの側面 適用の指針─電子ハードウェアの信頼性ストレススクリーニング 適用の指針─リユース部品を含む製品のディペンダビリティ─機能性及び試験に関する 適用の指針─ソフトウェアライフサイクルプロセスにおけるソフトウェアディペンダビリティ 序文 1 適用範囲 2 引用規格 3 用語及び定義 4 ライフサイクルコスティング 4.1 ライフサイクルコスティングの目的 4.2 製品ライフサイクル段階及びLCC 4.3 LCC 解析のタイミング 4.4 ディペンダビリティとLCCとの関係 4.5 LCC の概念 4.6 ライフサイクルコスティングプロセス 4.7 不確実性及びリスク 5 LCCと環境問題との側面 附属書 A( 参考) コストを発生する典型的な活動 附属書 B( 参考) LCC 計算及び経済的要因 附属書 C( 参考) LCC 解析の事例 附属書 D( 参考) LCCモデルの開発事例 附属書 E( 参考) 製品細分化構造例及び鉄道車両のためのLCC 概要 附属書 JA( 参考) LCC 分析の表計算の利用例 解説 表2 JIS C5750-3-3:2008 の目次 SEPTEMBER 2009  92 ク付けするように用いなければなら ないとしている。
附属書で具体例を提示  「附属書A(参考) コストを発生 する典型的な活動」は、ライフサイク ルの各段階でのコストに関わる諸活動 について、典型的な活動を列挙して いる。
 「附属書B(参考) LCC計算及 び経済的要因」では、機会原価、イ 軽減するために、コスト への影響が大きい不確実 なデータに対し、その値 を考慮できる範囲で変動 させてコストを計算する 感度分析を行うことが望 ましいとしている。
 さらに、設計者の管 理範囲を超える要因の一 例として、商取引上及 び法的関係、組織/国の 経済的環境、政治的環 境、科学技術及び技法的 な問題、自然現象や人の 行動、システム故障に起 因するアンアベイラビリ ティ、最新の利用可能な データの不使用、不十分 なデータ追跡性を挙げて いる。
 これらに対し、体系的 な方法で製品、活動、機能またはプ ロセスに関する不確実性及びリスクを 識別し、大きい主要なリスクと小さい 無視できるリスクとを区別し、各リス クに対する結果の重大性を見積もる ことで、損失を最小にすること及び 起こりそうな結果を数量化するリスク 解析を実施するとしている。
 最後に第五章では環境問題との関 連に触れ、諸活動の環境への影響に 対する結果の重大性を査定し、ラン を含めることが望ましいとしている。
 「実施結果のレビュー」は、分析結 果の正当性及び完全性のために要求 される。
ここでは分析の目的及び適 用範囲、コスト要素の定義及び仮定 を含むモデル、入力情報の正確な設 定、モデルの適正な使用、分析結果 の査定検討、目的の達成、及び仮定 の妥当性をレビューできるように用意 することが望ましいとしている。
 「分析結果の更新」は、ライフサイ クルを通してLCCのモデルが活用で きるよう、モデルを現状に通用するよ うに保持し続けることであり、データ だけでなくコスト細分化構造や見積も り方、仮定の変更も含まれる。
 「四・七項 不確実性及びリスク」 では、分析結果の確かさは、適切な 情報とモデルの用いられる仮定並びに 分析に使用される入力データの有効 性及び使用法に依存するとして、不 確実性及びリスクの要因をいくつか挙 げている。
代表的なものとして、プ ロジェクト開始時の情報不足、新技 術または新製品の導入、楽観的推定 値の使用、無理なスケジュール、長 期にわたる研究開発プロジェクト、過 度の楽観論や悲観論が示されている。
また、インフレーション率、労務費、 材料及び製造間接費のような要素も 不確実性の要因としている。
 分析結果の定量的評価のリスクを と代替案間の相違を明らかにする等、 目的に応じた感度やスケジュール上許 容できる時間を挙げている。
 「モデルの適用」はコスティングの 手順を示しており、おおよその流れ は以下の通りとなる。
●コスト要素のデータ取得 ●製品運用シナリオにおける分析 ●最適支援シナリオの視点で報告 ●重大な影響を及ぼすコスト要素決 定のための入出力考察 ●オプション間の差分の定量化 ●出力の論理的分類、要約 ●不確実性の影響を調べる感度分析 ●分析目的に対する出力結果の妥当 性を検討、必要であればモデル修 正  「実施計画に伴う文書化」は、実 施結果に関連した制約、不確実性を 含む分析結果及びその意味合いの両 方を、顧客等他の評価者が理解でき るように記述することを求めている。
報告書には、要約、目的と適用範囲 (製品の特徴、使用環境、運用/支 援シナリオの定義を含む)、LCCモ デル(仮定、細分化構造とコスト要素 の見積方法/統合方法を含む)、モデ ルの適用(重要コスト要因、感度分析 の結果等)、結果の検討と説明、結果 に基づく決定事項に関する勧告リスト 図1 LCC の構成要素(JIS C 5750-3-3:2008 より筆者作成) コスト構造(CBS) 作業構造(WBS) コスト要素 人件費 製造 電源装置の 組立 ライフサイクル構造 (LCS) 93  SEPTEMBER 2009 階にわたって発生することのあるコス トについて表計算の例を示し、学校 設備の保全段階におけるケース・スタ ディ実施結果を説明している。
見積もりに関する方法について、デー タ通信網を例に記述している。
最初 にコスト細分化構造を定義し、次に 定義する製品の細分化構造と組み合 わせてコスト要素を定義する。
コスト の計算は前提条件や仮定、製品の各 構成品に与えられたデータに基づきコ スト要素別に実施される。
計算結果 はコスト要素別に運用期間にわたり年 度展開され、割引率を考慮して正味 の原価を提供している。
 「付属書D(参考) LCCモデル の開発事例」は、LCCモデル開発に 関する単純化した事例として、ライフ サイクル段階(概念及び定義、設計及 び開発、製造、据付け、運用及び保 全、廃棄の各段階)を基本としたモデ ルと取得コスト及び所有者コストに分 配するモデルを説明している。
モデル では一部分であるが、それぞれ三段 階と七段階までコストの階層構造を細 分化し、計算式の例を示している。
 「付属書E(参考) 製品細分化構 造例及び鉄道車両のためのLCC概 要」では、車両システムを第三階層ま で細分化した構造図とコストの概要と して車両システムの第二階層に対する 各種コストを個別に出力した一覧表を 示している。
 「付属書JA(参考) LCC分析 の表計算の利用例」は、製品または プロジェクトのライフサイクルの全段 るのが普通である。
●為替レート:為替レートとは、あ る通貨が他の通貨と交換される価 格のことである。
これは市場の需 給条件に依存して変化する。
LC C分析では為替レートを考慮する。
●減価償却︵Depreciation︶:有形 固定資産及び無形固定資産の減価 償却は現金の支出をまったく伴わな い費用である。
税金対策のために は減価償却は多いに役立つが、L CC解析では使われないのが通常 だ。
LCCに減価償却を付加して しまうとキャシュフロー分析の感度 を不明瞭にしてしまうからである。
 財務評価技法としては、割引現金 収入価値(DCF:Discounted Cash Flow)法、内部利益率(IRR: Internal Rate of Return)、費用便益 分析(Cost Benefit Analysis)が述 べられている。
特に費用便益分析は 一連の代替案の良し悪しを比較するた めに考え出された技法で、最もコスト 対有効性が優れている解決策を見出 すトレード・オフ分析法である。
我 が国でも公共施設の建設で広く利用 されている。
 「付属書C(参考) LCC解析の 事例」は、ライフサイクルコスティン グの手順及びライフサイクルコストの ンフレーション、税金、為替レート の経済的要因に対する注意事項と財 務評価技法が参考として述べられて いる。
●機会原価:試作品及び実験設備の ような資源にかかる費用。
LCC でこの費用を忘れないように。
●インフレーション:正確にインフレ ーションの発生を予測することは困 難であるので、LCCでは不変の 価格を設定することが一般的とな っているが、含めて分析している 場合もある。
インフレーションを含 めて分析する場合には、影響を受 けるすべてのコストを網羅し、しか も一度だけ(二重計算がない)割 り当てられるようにしなければな らない。
●税金:税金及び交付金等は、LC C分析に影響を与える可能性があ る。
市場価格は税金によって決め られる場合もあるが、大多数の間 接税は、LCC分析から除くこと が普通であり、特に付加価値税は 原価計算から除外する必要がある。
これに対して直接税、法人税はL CC分析に含めるべきである。
輸 入税、固定資産税等は他のコスト と同様に扱い、LCC分析に含め 次回フォーラムのお知らせ  次回フォーラムは9月14日(月)BBA の佐々木操社長の講演「ECRから第二世代 のSCPソリューションへ」を予定している。
このフォーラムは年間計画に基づいて運営 しているが、単月のみの参加も可能。
一回 の参加費は6,000円。
ご希望の方は事務局 (sole-j-offi ce@cpost.plala.or.jp)までお 問い合わせください。
※SOLE(The International Society of Logistics)は一九六〇年代に設立されたロ ジスティクス団体。
米国に本部を置き、会 員は五一カ国・三〇〇〇〜三五〇〇人に 及ぶ。
日本支部では毎月「フォーラム」を 開催し、講演、研究発表、現場見学など を通じてロジスティクス・マネジメントに 関する活発な意見交換、議論を行っている。
 RAMS研究会はSOLE日本支部の毎 月のフォーラムに合わせて開催し、会員が 自主的な話題・テーマを持ち寄り、運用し ている。

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