2009年10月号
特集

第1部 毎日安売りを物流現場から考える

OCTOBER 2009  12 物流効率から店舗を設計  イトーヨーカ堂が総合スーパーマーケット(GMS) からディスカウント店への業態転換を進めている。
昨 年八月、東京・足立区の「西新井店」を改装し、ディ スカウントストア「ザ・プライス」の一号店を開店。
その後も、千葉、埼玉、神奈川で同様の改装を行い、 今年度中に首都圏に二〇店まで増やす計画だ。
業態 を転換した店舗はいずれも改修前と比べて大きく売り 上げを伸ばしているという。
 ザ・プライスは、ヨーカ堂の既存店と比較して加工 食品や日用品(グローサリー商品)の平均価格帯が一 割〜三割程度安い。
それで利益を出すために「店舗 の経費を極力落とさなければならない。
ムダな部分 は極力そぎ落とした」(セブン&アイ・ホールディング ス)という。
 グローサリー商品の在庫は段ボール単位で陳列棚の 上にストック。
牛乳やチルド飲料などは納品された ケースのまま陳列することで、従業員の商品補充の負 担を軽減している。
九八〇円ジーンズなど独自企画の 衣料品では、生産地からセンターへの直接一括納品を 実施。
住居関連商品でもメーカーからケース単位での 直接納品を導入し物流コストを抑えている。
 六月にはナショナルブランド(NB)商品よりも三割 〜五割安い新たなPBシリーズ「ザ・プライス」の発 売も開始。
まずは加工食品や日用雑貨四〇品目を投 入した。
今年度中に約三五〇品目まで拡大する。
そ の一方で全体の扱い品目数はGMSの半分程度に絞 り込んでいる。
 新聞折り込みチラシの配布回数は従来の週三回程度 から週一回に削減した。
特売に頼った集客から、米 ウォルマート型の「エブリデー・ロープライス(毎日安 売り)」に舵を切った格好だ。
販促費が下がるだけで なく、特売による極端な売り上げの変動が抑制される ため、平準化によってオペレーションコストが下がる。
 同様にイオンも今年九月、「ジャスコ」の昭島店を 改修するかたちで首都圏では同社初のディスカウント 店「ザ・ビッグ」を出店した。
やはり商品アイテム数 を約三割絞り、NB商品を一〜三割安く販売するほ か、PBも販売する。
 ヨーカ堂の伊藤雅俊名誉会長やダイエーの故・中内 㓛元会長など、日本のGMSの創業者たちは従来か らこうした米国式のディスカウントストアを志向して いたとされる。
実際、ヨーカ堂は一九七〇年代には ディスカウントストアのダイクマを子会社化し、八〇 年代には現在と同じザ・プライスという名称でディス カウントストアを展開していた。
しかし業績は振るわ ず、ザ・プライスは閉鎖。
ダイクマは二〇〇二年にヤ マダ電機に売却している。
 ダイエーも「ハイパーマート」や「コウズ(Kou's)」 という店舗名で米国式のディスカウント業態を日本に 持ち込んだ。
九〇年代には円高を活かした輸入商品 でPBも展開。
価格破壊に挑んだが、いずれも定着 はしなかった。
装飾を省き効率重視で設計された殺風 景な店舗や、低価格だけを売り物にしたPBは日本 の消費者には受け入れられなかった。
 不況で消費者の価格指向性が強まる時期には、格 安PBやディスカウントストアに客が集まる。
しかし 不況も喉元を過ぎれば、また客足は戻ってしまう。
西 友を買収したウォルマートの苦戦を見ても、欧米型の ディスカウントストアは日本の消費者には馴染まない。
それがこれまでの経験則だった。
今回もまた一時的 なブームで終わるのだろうか。
 七月、イオンとセブン&アイ・ホールディングスが 毎日安売りを物流現場から考える  割安なPB商品が台頭し、GMSからディスカウント店へ の業態転換が本格化している。
多段階流通の解消とロー コストオペレーションの徹底が安売りの原資とされる。
本 当だろうか。
物流の視点から日本の「エブリデー・ロー プライス」を考えた。
         (本誌編集部) 第1部 13  OCTOBER 2009 揃って「第3のビール」のPB商品を発売した。
両者 に商品を提供したのはいずれもサントリーだ。
これま で大手ビールメーカーは一貫してPBの提供には背を 向けてきた。
大手四社による寡占化や、酒税法のた め中間流通の規制緩和が遅れていることから、低価 格化の流れにも?ノー?と言いやすかった。
 しかし今回、NBメーカーの牙城が崩れた。
サント リーは大手四社のなかでは下位に属する。
そのため 「低価格化の勢いに抗うことができなかった」、「ビー ルシェアで水をあけられているキリン、アサヒに追い つくためには販売力の大きい流通二強と組むのが近道 と考えた」と様々な見方が飛び交っている。
 イオンからは「トップバリュ 麦の薫り」が、セブン &アイからは「ザ・ブリュー」が登場し、ともに三五 〇ミリリットル缶でいずれも一〇〇円という低価格で 販売されている(ザ・ブリューはバラ売りだと一二三 円)。
従来のNB商品と比べて一割〜二割安い。
初期 出荷の売れ行きは好調だったようだ。
 イオンは低価格を実現した理由として、?効率の良 い生産計画?と?直接納品による物流コストの低減? を挙げている。
しかし、ビール工場から小売りの物流 センターへの直納はNBでも広く行われている。
低価 格の原資は物流費の削減ではなく、工場出荷価格の 値下げにあると考えるしかない。
中小メーカーは小売りの下請けに  ビール市場では下位にあるとはいえ、サントリーの ようなブランド力のあるメーカーがPBの下請け製造 に踏み切ったインパクトは決して小さくない。
九〇年 代のダイエーの輸入PBは品質への不安から消費者 に敬遠され、NBメーカーの反発を招く結果となった。
当時と状況は大きく変化した。
 日本の流通市場は中小企業がひしめき合う小規模 分散を特徴とする。
小売市場で上位集中度が低いの と同様、メーカーの数も多い。
加工食品業界ではビー ルだけが例外で、他のカテゴリーは全国CMを打つよ うな上場NBメーカーであっても、売上高は一〇〇〇 億円以下の企業が多い。
 それだけ小売りの要請に対する抵抗力は小さい。
既 にメーカー希望小売価格一一〇円のNBの缶コーヒー でも下位ブランドともなれば小売りの仕入れ値は三〇 円を切っている。
NBであっても実質的には格安PB と変わらない。
 加工食品業界の流通効率化を支援するシーコムスの 関口壽一代表は「年商一〇〇億円程度のNBメーカー にとって、一兆円以上の売上規模を誇る大手小売り は今や圧倒的な存在だ。
売上高の三〇%以上を取引 先一社に依存してしまえば、相手の言いなりになる しかなくなる。
そうしたメーカーは今後、物流やSC Mを小売りに任せて商品開発と製造に特化していくこ とになるだろう」と予測する。
 各カテゴリーともトップブランド数社は今後もNB として残る。
しかし、中小メーカーは下請け製造に回 る。
同時にサプライチェーンの主導権は小売り側に移 る。
メーカー主導で設計された伝統的な取引制度は白 紙に戻される。
 GMSからディスカウント店への業態転換はまだ始 まったばかりだ。
PBのサプライチェーンも構築途上 にある。
ローコスト・オペレーションに向けた取り組 みの成果は現状では明らかになっていない。
ディスカ ウント店やPBが再び消費者に飽きられることになる 可能性も否定はできない。
それでもメーカーから小売 業へのパワーシフトは、もう後戻りすることがなさそ うだ。
シーコムスの 関口壽一代表 「ザ・プライス」の店内。
アイテム数を絞り、陳列 方法を工夫してオペレー ションコストを抑えている サントリーはイオンとセブン &アイからそれぞれPBの製造 を請け負った。
350ml缶はと もに100円。
“ジュースよりも 安いビール”として話題に

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