2009年10月号
特集

第3部日本型流通モデルは日雑業界が先導する花王/あらた/パルタック

OCTOBER 2009  16 日本の日用雑貨品はなぜ安い  日本人の消費者が安売りで知られる米ウォルマート の店舗に買い物にいっても、その規模と食品類の安さ には驚くかも知れないが、日用雑貨品コーナーでは日 本よりも高い商品が多いことに気がつくはずだ。
しか も、品揃えは限られている。
歯磨き粉やシャンプーな どそれぞれ数種類ずつしか置かれていない。
 一般に日本の物価は高いとされる。
事実、食品や サービスは諸外国に比べて割高だ。
多少古い資料だが、 内閣府の「主要な消費財及びサービスに係る内外価格 差調査結果(二〇〇一年)」によると、東京の食料品 の値段は、世界の他の主要都市に比べて多くの品目 で二倍以上となっている。
 ただし、日用雑貨品だけは安い。
同調査ではティッ シュペーパー、カラーフィルム、口紅が比較されてい るが、東京のティッシュペーパーの価格は諸外国のお よそ三分の一、カラーフィルムと口紅は半分程度の水 準だ。
石鹸や洗剤なども東京のほうが安い。
そのう え品揃えは圧倒的に豊富だ。
 日雑業界VAN(付加価値通信網)を運営するプ ラネットの玉生弘昌社長は「日本の日雑流通は世界一 優れている。
欧米市場のようにメーカーが寡占化して いないから商品はバラエティに富み品質も良い。
それ でいて価格は安い。
なぜそんなことが可能なのか。
パ ルタックの物流センターを見ればよく分かる」という。
 パルタックは、あらたと並ぶ日雑卸の二強の一つ。
一八九八年(明治三一年)に大阪で創業した老舗だ が、一九九八年に物流・情報機能に定評のあった同業 の新和と合併。
同社の技術力をベースにして、ピース ピッキングを高速処理する大規模な物流センター「R DC(Regional Distribution Center)」を全国各地に 建設し、同時に各地の有力日雑卸を吸収していった。
 RDCには各種の自動倉庫や仕分け機、ロボットな ど、最先端のマテハン機器がふんだんに導入されてい る。
同社が自分で開発し特許を持つ設備も多い。
例 えばオートカートンカッター。
外箱の段ボールの上蓋 を自動的にカッターで切り取る。
安全かつスピーディ に開梱できる。
中身の商品を傷つけないよう、すべ ての製品の梱包形態をマスター登録し、その段ボール に何センチ歯を差し込めばよいか調整している。
 ピースピッキング用の台車は重量検品機能を備えて いる。
ピッカーは無線LAN端末の指示に従い、指定 の棚から商品を取り出し、JANコードをスキャンし てアイテムと数量を確認する。
それを重量からもダブ ルチェックしている。
例えば六個セットのボールでも、 ピースピッキングで抜かれて一個欠けているような場 合がある。
それに気付かずスキャンして欠品が生じる のを防いでいる。
 一連の物流機能の高度化によって同社の納品精度 は今では九九・九九九%に達している。
一〇万件に 一件しかミスが発生しない。
九〇年代には九九・九% 程度だった。
納品のミスは顧客からペナルティを課せ られる。
精度を二桁向上したことで、それだけペナル ティは減った。
さらには納品先でのバラ検品を省略す る「ノー検品」が実現できるようになった。
 バラ商品を検品するには一個当たり五〜六秒はかか る。
日雑の折り畳みコンテナ(オリコン)には一ケー ス当たり四〇個前後の商品が入っている。
きちんと 検品すればオリコン一ケースで数分は必要だ。
検品を ケース数の確認だけに簡素化すれば、受け入れの手間 は大幅に軽減される。
納品ドライバーの拘束時間が減 るため、パルタックの負担も減る。
サプライチェーン 全体のコストが下がる。
日本型流通モデルは日雑業界が先導する 花王/あらた/パルタック  日用雑貨品業界の市場規模は隣接する加工食品や医薬 品と比べてずっと小さい。
日雑卸の2強とされるパルタッ クとあらたにしても、売上規模は大手食品卸の半分以下 に過ぎない。
しかし、そのSCMと物流技術は他のあらゆ る業界にとってベンチマークになり得る。
(本誌編集部) 第3部 17  OCTOBER 2009  ただし、バラ検品が不要であることを顧客が納得し なければ、ノー検品は実現しない。
最先端の設備を 備えた物流センターは、中間流通機能として必要なだ けでなく、取引先をサプライチェーンの効率化に巻き 込むためのショールームの役割も果たしている。
各地 のセンターが稼働すると、同社の営業マンたちは顧客 の経営陣や担当者を現場見学に誘う。
納品精度に対 する信頼を得るためだ。
 パルタックの酒井敏行取締役専務執行役員情報・ 物流統括本部長は「個数検品(ノー検品)は九〇年 代から始まっていたが当初はなかなか広がらなかった。
二〇〇〇年前後にスキャン検品の技術が成熟したこと で普及率が一気に上がった。
その後も物流インフラの 高度化と歩調を合わせて順調に普及が進んでいる。
い までもに立ち会い検品している得意先は全体の一%も ない。
数えられるぐらいだ」という。
 現在、同社は北海道から沖縄まで計一五カ所にR DCを設置している。
約一〇年かけて全国を網羅す るところまでこぎ着けた。
各メーカーが出荷した製品 を各地のRDCでまとめて保管し、ピースピッキング を始め必要な中間処理を施して店舗に納品する、ワン ストップ型の汎用インフラができあがった。
 多数の工場と多数の店舗を結ぶ物流は、フルライン の在庫を取りそろえ仕分け機能を持つ中間流通拠点 を一カ所だけ経由した時に最適化する。
そんな日雑業 界の流通ビジョンが九八年に発表されている(図1)。
パルタックのインフラは理想に近い。
 日雑流通はピースピッキングを必要とする小口発注 が四割以上を占める。
荷姿はバラバラで、オリコンに 入らないような嵩モノや長尺品も多い。
商品単価は三 〇〇円程度でコスト負担力は弱い。
その中間流通をパ ルタックは一個当たり約一七円の物流コストで処理し ている。
劣悪な条件が高度な物流技術と効率的なサ プライチェーンを育んだ。
 〇五年にパルタックは大手医薬品のメディセオと経 営統合を果たしている。
メディセオとパルタックでは、 同じオリコン一ケースの物流コストに四倍以上もの開 きがあった。
そこで現在はパルタックの物流技術とS CMを医薬品に転用することでコストダウンを図って いる。
日雑物流が医薬業界に広がっている。
自ら返品を廃止して悪弊を絶つ  メーカーによる建値制や複雑なリベートは日雑業 界も他の業界と変わらない。
米ウォルマートや仏カル フールなどの日本市場参入を見越して、外資系のP& Gは九九年に取引制度改革を断行した。
その後、や はり外資系のユニリーバも追随したが、日系メーカー は伝統的な商慣習を変えていない。
 サプライチェーンの最適化に向けた取引条件の改善 も、やはり中間流通が主導している。
パルタックのラ イバル、あらたの中核企業となった旧ダイカはP&G の取引制度改革に先立つ九二年に、メーカーに対して 自ら返品ゼロを宣言した。
旧態依然とした流通 制度にメスを入れるためのショック療法だった。
 メーカーに返品するのは止めるが、顧客に対しては 従来通り返品を受け入れた。
そのままではダイカ自身 が大変な不良在庫を抱えてしまうことになる。
ダイカ 出身で現在、あらたの経営戦略室室長を務める岩渕 晋明執行役員は「返品しないで済む仕組みを作るた めに、仕入れから物流、販売まで全ての社内プロセス を見直す必要があった」と当時を振り返る。
 なかば慣習となっていた押し込み販売は御法度に なった。
自分たちが売りたいものではなく、店頭で 売れるもの、売り切れるものを提案する。
季節品や パルタックの酒井敏行 取締役専務執行役員情 報・物流統括本部長 あらたの岩渕晋明執行 役員経営戦略室室長 9拠点 5.02% 18拠点 4.18% 16拠点 4.28 7拠点 4.79% 13拠点 5.09% 6拠点 6.62% 図1 日雑業界の流通ビジョン「VOES」では全国の中間物流拠点が 114 カ所のとき物流コストは最小化すると分析した メーカー数= 約1000 社 店舗数= 約30 万軒 中間拠点= 二千数百拠点 VOESより 総物流コストを最小化する中間物流 拠点数の各地域別表示と対卸売り販 売高総物流コスト比率 4.54% 12拠点 4.32% 29拠点 4.96% 4拠点 =地域 12 拠点=拠点数 4.54=コスト比率 終売品も取引先と協力して売れ残りをなくす。
その ために在庫管理と需要予測の精度を上げる。
物流で は返品の原因となる検品ミスや誤配をなくす。
 「ものすごいパワーを必要とする改革だったが、結 果的には当社の競争力強化につながった」と岩淵執行 役員。
実際、この流通制度改革をきっかけにダイカは 成長軌道に乗り、北海道を地盤とする地域卸から、二 強とされる全国卸の旗頭へと成長した。
 〇二年四月に、中部の伊藤伊、九州のサンビック と経営統合して、あらたを設立。
初代の代表にダイ カの大公一郎社長(現あらた名誉会長)が就任した。
同九月には四国の徳倉もこれに合流した。
その後、〇 六年一〇月には近畿のシスコと合併した。
 この時には東京の中央物産も加わる予定で公式発 表まで済ませていたが、これが破談になったことで関 東は自力進出に変更。
〇八年四月に埼玉、同十一月 に千葉、今年六月には横浜に、それぞれ大型センター を稼働させて関東圏のインフラを整えた。
 現在、あらたとパルタックは日雑業界において、い ずれも約三割のシェアを握っている。
過去一〇年の間 に急速に卸の淘汰が進み、この二社とメーカー直販体 制を敷く花王の三社に中間流通が集約された格好だ。
新たなアプローチで多頻度発注を改善  花王は単独メーカーながら日雑商品をフルラインで 提供できる希有な存在だ。
中間流通でもパルタックや あらたに匹敵する機能を備えている。
小売りの店頭 に深く入り込み、メーカーの立場から独自のアプロー チで垂直統合を進めてきた。
近年は多頻度発注の改 善に取り組んでいる。
 花王の販社、花王カスタマーマーケティング(花王 CMK)流通開発部の植木太司グループリーダーらは、 ドラッグストアの店頭で時々見かける光景が気になっ て仕方がなかった。
開店時間を過ぎているのに従業 員が一所懸命に品出ししている。
しかも商品棚を見 ると、ところどころ定番品が品切れしている。
 どうして品出しが間に合わないのか。
なぜ欠品する のか。
過度な多頻度発注に問題があると考えた。
店 員が発注・補充作業に充てる時間は多いところで一 日の業務時間の四割にも上るといわれる。
あるドラッ グストアの郊外型店舗を調査したところ、発注・品出 しの頻度は週六回で、発注・補充の作業時間が一日 のうち四分の一を占めていた。
 しかし、その店の取り扱い商品一万三〇〇〇アイ テムのうち、月一回以上発注している商品は半分に も満たず、週一回以上となればわずか五%。
それで も従業員は毎日一三〇坪の売り場を隅々までチェック して売れた分だけ発注をかけ、毎日品出ししていた。
頻度を絞って一回にまとめて発注・補充した方が作業 効率はいいはずだ。
 一個当たりの補充作業時間を計測してみると、一 回に五個補充すれば一個当たりの作業時間は六一% 削減できることがわかった。
ただし、大きな商品だ と一度に三個程度しか手に持てない。
一回当たりの 発注量を一個から三個にして週六回発注を週二回発 注に減らしたらどうなるか。
試算では発注・品出し 時間の四割近くを削減できるという結果が出た。
 これを元に同店舗の制度化粧品・食品を除くすべ ての商品を対象に、発注を改善する取り組みを開始し た。
まず商品カテゴリー別に週二回の発注曜日を設定 した(図2)。
次に、売れ行きに合わせて商品を三種 類に区分し、発注点と一回当たりの発注単位を設定 した。
商品ごとに設定しなかったのは、あまり運用 を複雑にするとルールが守られなくなると考えたから OCTOBER 2009  18 図2 週6回発注から部門別に週2回発注へ変更 週6回発注部門別週2 回発注 月 火 水 木 金 土 医薬品 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ベビー ○ ○ ○ ○ ○ ○ ビューティ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 雑貨 ○ ○ ○ ○ ○ ○ 月 火 水 木 金 土 医薬品 ○ ○ ベビー ○ ○ ビューティ ○ ○ 雑貨 ○ ○ ※出所:花王カスタマーマーケティング 花王カスタマーマーケティ ング流通開発部の植木太司 グループリーダー だ。
具体的には販売量が、?週二個以上(全アイテ ムの一割)、?三カ月に一個以下(同一割)、?その 中間(同八割)に分けた。
 ?週二個以上の売れ筋は、一週間に売れる数量の 半分になった時点で一週間分を発注する。
陳列棚に は青色のシールを貼った。
?三カ月に一個以下しか売 れないC商品は、棚の一フェースに並ぶ在庫が二個に なった時点で一個発注する。
シールは黄色。
?それ以 外は、一フェースに並ぶ商品が二個になった時点で三 個発注する。
シールはなし。
 新ルールで運用したところ店頭在庫は八%減り、同 時に欠品率も五〇%減った。
発注・品出し時間は一 九%減。
月間の延べ発注件数は十三%減。
発注頻度 を減らしてロットをまとめれば、通常なら在庫と欠品 が増える。
しかし結果は逆だった。
売れる商品の在庫 が確保され、売れない商品の在庫が減った。
 花王CMKの物流も効率化された。
発注量がまと まったことで物流センターの一人一時間当たりのバラ ピッキング個数は七%向上、一カ月当たりのピッキン グ時間は六%減少した。
オリコン一個に入る商品個数 も七%向上し、一カ月当たりのオリコン枚数は七%減 少となった。
曜日別の物量の平準化も実現した。
対 象外の食品を除けば物量の最大格差はそれまで二・ 六倍だったが、改善後は一・三倍、食品を含めても 二・二倍から一・六倍に低減した。
 こうした提案は〇七年六月頃から開始した。
当初 は郊外型のドラッグストアを対象にしていたが、他の 業態にも拡大。
現在までに七〇数社と改善を進めて いる。
「これまでは多頻度少量という言葉だけが先走 り、店舗の適正在庫が議論されることは少なかった」 と植木グループリーダー。
花王のリテールサポートが また一歩進化した。
19  OCTOBER 2009 ──全国に二千数百ある日雑の中間流通拠点を 一一四カ所に集約すれば全体が最適化するという 流通ビジョン「VOES」を、プラネットは一〇 年前に発表しています。
その方向に市場は向かっ ていますか。
 「二〇年前まで日雑卸は日本に約二〇〇〇社あ りました。
それが今では五〇〇社余りしかありま せん。
あらたとパルタックに収斂されていった。
我々がVOESで打ち出した理想型に明らかに近 づいています」 ──急激な卸の集約は何がドライバーだったので しょう。
 「一つは小売業の広域化です。
全国展開を進め ていった小売りが卸に対しても全国対応を求め た。
もう一つがフルライン化です。
メーカー別に バラバラに納品するのではなく、カテゴリーごと に取りそろえて納品しろという要請がドライバー になった。
三つ目が物流力です。
日雑のピース ピッキングの効率化には大規模なシステム投資が 必要です。
それに耐えられるだけの体力が必要 だった」 ──物流拠点の大規模化も進んでいます。
 「VOESを発表した当時、我々は中間流通 拠点の通貨 金額を最大 二五〇億円 と設定しま した。
しか し実際には 五〇〇億円 規模の拠点 ができている。
これは予想以上です」 ──一方で小売りやメーカーの集約は進んでい ません。
 「欧米市場のような独占は良いことではありま せん。
ウォルマートの顧客が幸せだとは思えな い。
今後も日本は小規模分散型だと思います。
そのほうが消費者はずっと幸せです。
豊富で品 質良い商品が安く手にはいるのですから。
実際、 日雑品は日本のほうが安い。
流通が優れている からです。
そのために日本では欧米のような寡 占化も起きない」 ──その代わり日本では卸が寡占化しました。
加 食卸も基本的には日雑卸と同じ方向を目指しい ました。
しかし加食はそうなっていない。
なぜ 日雑だけがビジョン通りに進んだのでしょうか。
 「一言で言えば卸ががんばったからですよ。
我々も少しはそのお手伝いができたと自負して います。
メーカーと卸間の取引の八割、九割は 当社のインフラを経由しています。
それだけ標 準化が進んでいる。
そのことが統合をやりやす くした面はあるはずです」 ──加食ほどではないにせよ日雑でも小売り専 用センターが増えてきました。
 「しかし、上手くいっているとは思えません。
作ったはいいけれど運営ノウハウがないので物 流企業に投げる。
それでも上手くいかない。
結 局は卸に戻ってくる。
メーカーにしても、商品 開発や製造技術部門にもっと卸の物流センター を研究させるべきです。
彼らは中間流通を驚く ほど知らない。
現場にいけば驚くことがたくさ んあるはずです」 「日本の日雑流通は欧米より進んでいる」 プラネット 玉生弘昌 社長

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