2009年10月号
値段
値段
第53回 ハマキョウレックス
OCTOBER 2009 56
3PLブームが再び到来
ハマキョウレックスの当面の注目点は?「物
流センター事業」(3PL事業)において、3
PLの事業環境の好転という追い風に上手く
乗れるのかどうか、?「一般貨物運送事業」
において、子会社「近物レックス」が四期連
続の経常赤字を脱することができるか、の二
点だろう。
3PL業界の事業環境を見ると、我々証券 アナリストという外部の目からも需要の拡大基 調が窺える。
過去に遡れば、二〇〇〇年代前 半のイオンによる中間流通の簡素化や効率化 が世間の関心を集めるきっかけとなり、アパ レル業界や製薬業界の物流アウトソーシングも 増加した。
需要は順調に拡大を続け、3PL のメリットは一般的に浸透してきたといえる。
今回の景気悪化局面においては、受注の増 加や受託規模拡大という現象が起こっていると 想定される。
増収が望めない中、大半の荷主 企業にとって人件費と物流費の削減が必須とい ってもいい課題となったためだ。
現状、既に 物流業務をアウトソーシングしている荷主は委 託するエリアや業務領域を拡大している。
これ まで自社物流が中心だった荷主はアウトソーシ ングに慎重にならざるを得ず、商談の長期化 も想定される。
しかし同業他社がアウトソーシ ングによりコスト削減を進めているのに対して 競争力が低下するリスクもあり、今後、再度 3PLブームが到来することが予想される。
ハマキョウレックスの物流センター事業の過 去三年間の営業利益率は、平均九・五%と同 業他社対比でも高水準である。
直近の二〇一 〇年三月期第1四半期(四〜六月)は一二・ 八%と前年同期の一〇・六%を二・二ポイン ト上回った。
これは既存顧客の物量が順調に 伸びていることに加え、不採算センターの集 約や自助努力によるコスト抑制の成果と考え ていいだろう。
特に「日替わり班長制」によ るパートタイマー自らの効率性の追求、物流セ ンター長の生産性向上に対する意識の高さと いったソフト面での自助努力が同業他社との 差別化要因になっている。
ただしそうした強みが最近の3PL需要の 増加、規模の大型化でリスク要因に変わる可能 性もある。
物流センター長やパートタイマーの 採用・教育が需要増に追いつかなければ、大 型の物流センター案件が浮上した際、人材不 足で案件を受託できないといった事態になっ てしまう。
かといって安易に受託すれば品質 や収益性の低下を招きかねない。
景気回復局 ハマキョウレックス 近物レックスを改革し本業に集中を 3PLの需要拡大で人材不足の懸念 新たな成長局面に入れるか否かの正念場を 迎えている。
二〇〇九年三月期は3PLの需 要拡大を追い風に過去最高益を更新したが、 その需要に人員体制が追いつかなくなる可能 性が出てきた。
一方、〇四年に子会社化した 近物レックスは四期連続の経常赤字だ。
同社 を早期に再建できなければ、売却して3PL 事業に経営資源を集中する必要がある。
土谷康仁 メリルリンチ日本証券 調査部 シニアアナリスト 第53回 57 OCTOBER 2009 面では特に採用が難しくなるため、景気低迷 下でこそ従業員の増員や子会社に在籍する若 手社員の人材登用などの対策を練り、需要の 受け入れ体制を整備することが必要だろう。
三〇〇億円の買い物は高くついた 一般貨物運送事業は景気悪化や成熟した 業界構造の影響を受け、業績が低迷している。
ハマキョウレックスが近物レックス(旧近鉄物 流)を買収し路線事業に参入したのは〇四年 一〇月。
買収額は約二八億円だが、近物レッ クスには三〇〇億円程度の有利子負債があっ たため、三〇〇億円強の買い物をしたことに なる。
子会社化当時の近物レックスの営業損益は 二〜五億円の黒字 で推移していたが、 〇七年三月期には 一〇億円の赤字に 転落。
以降、ハマキ ョウレックスは同子 会社の収益構造改 革に乗り出した。
具 体的には月次の収 益管理による徹底 したコスト構造の見 直しにより、非効率 な点を徐々に改善し てきたといえよう。
近物レックスの一 〇年三月期営業利 益は黒字を計画しているが、景気悪化や競争 激化の影響もあり、単年度の黒字化は難しい 状況だ。
仮に景気の低迷が続き、大幅な赤字 を計上することになれば減損対象になる可能 性もある。
同子会社の一〇年三月期第1四半 期の営業利益は若干の営業赤字だったもようで あり、経営環境が厳しいことが窺える。
周知 の通り、路線トラック業は全国的なネットワー クを持ってこそ効率的な運営ができるインフラ 事業といえる。
多数の競合が存在し、大手業 者ですら単価下落圧力に苦しんでいる。
営業 利益率や投資家の要求リターンを示す一指標で あるROE(自己資本利益率)の水準も低い。
そのため大手路線業者はさらなるネットワ ーク拡充を図り、ターミナルの増設や同業者の 買収などを実施している。
最近では今年四月 にセイノーホールディングスが西武運輸、一〇 月に福山通運が王子運送を子会社化した。
こ れらのM&Aは特定地域に強いトラック会社を 傘下に収め、ネットワークの密度を高めるため と推定される。
一方、近物レックスは収支悪化に伴う支店 の業務縮小などを行い、収益改善につなげて いることが評価されるが、ネットワーク不足 は否めない。
このため外注費のコントロールや サービス品質の点で懸念があろう。
同子会社 は和歌山県や三重県などの地域に強みを持つ が、中堅業者が大手と対等に競争するために は、価格による差別化や特殊商品に対する強 みなどの独自性が必要であろう。
近物レックスの〇九年三月期業績は売上高 が三八〇億円、営業利益が五千万円の赤字、 ハマキョウレックスの同期の単体売上高は二八 〇億円、営業利益は二七億円、営業利益率は 九・六%だ。
結果、ハマキョウレックスの連結 業績は売上高が七九二億円、営業利益が四一 億円、営業利益率が五・二%となっている。
株式会社は顧客、従業員、株主のためにあ る。
我々株主サイドにいる資本市場はコーポレ ートガバナンスや利益成長性、ROE、RO A(総資産利益率)、営業利益率などの効率 性指標、PER(株価収益率)やPBR(株 価純資産倍率)といった株価指標などを注視 し、会社をモニタリングする機能を果している と考える。
コーポレートガバナンスの観点から、 近物レックスの早期の経営再建、次の段階と しては利益成長を望む。
また、全く逆の発想だが、近物レックスを 仮に事業譲渡した場合、営業利益率をはじめ としてROE、ROAなどの効率性指標は大 幅に改善するだろう。
我々資本市場からは株 主価値・企業価値を高める選択と集中の経営 戦略として評価される可能性さえあるだろう。
ハマキョウレックスが近物レックスを買収し てちょうど五年が経過した。
同社のコーポレー トガバナンスに注目していきたいと考える。
土谷康仁(つちや・やすひと) 一九九七年三月神戸大学大学院 卒、九八年四月和光証券入社。
三 菱証券などを経て、二〇〇五年一 〇月にメリルリンチ日本証券に入 社。
運輸セクター担当アナリスト として活躍している。
ハマキョウレックスの過去9年間の株価推移 《出来高》
3PL業界の事業環境を見ると、我々証券 アナリストという外部の目からも需要の拡大基 調が窺える。
過去に遡れば、二〇〇〇年代前 半のイオンによる中間流通の簡素化や効率化 が世間の関心を集めるきっかけとなり、アパ レル業界や製薬業界の物流アウトソーシングも 増加した。
需要は順調に拡大を続け、3PL のメリットは一般的に浸透してきたといえる。
今回の景気悪化局面においては、受注の増 加や受託規模拡大という現象が起こっていると 想定される。
増収が望めない中、大半の荷主 企業にとって人件費と物流費の削減が必須とい ってもいい課題となったためだ。
現状、既に 物流業務をアウトソーシングしている荷主は委 託するエリアや業務領域を拡大している。
これ まで自社物流が中心だった荷主はアウトソーシ ングに慎重にならざるを得ず、商談の長期化 も想定される。
しかし同業他社がアウトソーシ ングによりコスト削減を進めているのに対して 競争力が低下するリスクもあり、今後、再度 3PLブームが到来することが予想される。
ハマキョウレックスの物流センター事業の過 去三年間の営業利益率は、平均九・五%と同 業他社対比でも高水準である。
直近の二〇一 〇年三月期第1四半期(四〜六月)は一二・ 八%と前年同期の一〇・六%を二・二ポイン ト上回った。
これは既存顧客の物量が順調に 伸びていることに加え、不採算センターの集 約や自助努力によるコスト抑制の成果と考え ていいだろう。
特に「日替わり班長制」によ るパートタイマー自らの効率性の追求、物流セ ンター長の生産性向上に対する意識の高さと いったソフト面での自助努力が同業他社との 差別化要因になっている。
ただしそうした強みが最近の3PL需要の 増加、規模の大型化でリスク要因に変わる可能 性もある。
物流センター長やパートタイマーの 採用・教育が需要増に追いつかなければ、大 型の物流センター案件が浮上した際、人材不 足で案件を受託できないといった事態になっ てしまう。
かといって安易に受託すれば品質 や収益性の低下を招きかねない。
景気回復局 ハマキョウレックス 近物レックスを改革し本業に集中を 3PLの需要拡大で人材不足の懸念 新たな成長局面に入れるか否かの正念場を 迎えている。
二〇〇九年三月期は3PLの需 要拡大を追い風に過去最高益を更新したが、 その需要に人員体制が追いつかなくなる可能 性が出てきた。
一方、〇四年に子会社化した 近物レックスは四期連続の経常赤字だ。
同社 を早期に再建できなければ、売却して3PL 事業に経営資源を集中する必要がある。
土谷康仁 メリルリンチ日本証券 調査部 シニアアナリスト 第53回 57 OCTOBER 2009 面では特に採用が難しくなるため、景気低迷 下でこそ従業員の増員や子会社に在籍する若 手社員の人材登用などの対策を練り、需要の 受け入れ体制を整備することが必要だろう。
三〇〇億円の買い物は高くついた 一般貨物運送事業は景気悪化や成熟した 業界構造の影響を受け、業績が低迷している。
ハマキョウレックスが近物レックス(旧近鉄物 流)を買収し路線事業に参入したのは〇四年 一〇月。
買収額は約二八億円だが、近物レッ クスには三〇〇億円程度の有利子負債があっ たため、三〇〇億円強の買い物をしたことに なる。
子会社化当時の近物レックスの営業損益は 二〜五億円の黒字 で推移していたが、 〇七年三月期には 一〇億円の赤字に 転落。
以降、ハマキ ョウレックスは同子 会社の収益構造改 革に乗り出した。
具 体的には月次の収 益管理による徹底 したコスト構造の見 直しにより、非効率 な点を徐々に改善し てきたといえよう。
近物レックスの一 〇年三月期営業利 益は黒字を計画しているが、景気悪化や競争 激化の影響もあり、単年度の黒字化は難しい 状況だ。
仮に景気の低迷が続き、大幅な赤字 を計上することになれば減損対象になる可能 性もある。
同子会社の一〇年三月期第1四半 期の営業利益は若干の営業赤字だったもようで あり、経営環境が厳しいことが窺える。
周知 の通り、路線トラック業は全国的なネットワー クを持ってこそ効率的な運営ができるインフラ 事業といえる。
多数の競合が存在し、大手業 者ですら単価下落圧力に苦しんでいる。
営業 利益率や投資家の要求リターンを示す一指標で あるROE(自己資本利益率)の水準も低い。
そのため大手路線業者はさらなるネットワ ーク拡充を図り、ターミナルの増設や同業者の 買収などを実施している。
最近では今年四月 にセイノーホールディングスが西武運輸、一〇 月に福山通運が王子運送を子会社化した。
こ れらのM&Aは特定地域に強いトラック会社を 傘下に収め、ネットワークの密度を高めるため と推定される。
一方、近物レックスは収支悪化に伴う支店 の業務縮小などを行い、収益改善につなげて いることが評価されるが、ネットワーク不足 は否めない。
このため外注費のコントロールや サービス品質の点で懸念があろう。
同子会社 は和歌山県や三重県などの地域に強みを持つ が、中堅業者が大手と対等に競争するために は、価格による差別化や特殊商品に対する強 みなどの独自性が必要であろう。
近物レックスの〇九年三月期業績は売上高 が三八〇億円、営業利益が五千万円の赤字、 ハマキョウレックスの同期の単体売上高は二八 〇億円、営業利益は二七億円、営業利益率は 九・六%だ。
結果、ハマキョウレックスの連結 業績は売上高が七九二億円、営業利益が四一 億円、営業利益率が五・二%となっている。
株式会社は顧客、従業員、株主のためにあ る。
我々株主サイドにいる資本市場はコーポレ ートガバナンスや利益成長性、ROE、RO A(総資産利益率)、営業利益率などの効率 性指標、PER(株価収益率)やPBR(株 価純資産倍率)といった株価指標などを注視 し、会社をモニタリングする機能を果している と考える。
コーポレートガバナンスの観点から、 近物レックスの早期の経営再建、次の段階と しては利益成長を望む。
また、全く逆の発想だが、近物レックスを 仮に事業譲渡した場合、営業利益率をはじめ としてROE、ROAなどの効率性指標は大 幅に改善するだろう。
我々資本市場からは株 主価値・企業価値を高める選択と集中の経営 戦略として評価される可能性さえあるだろう。
ハマキョウレックスが近物レックスを買収し てちょうど五年が経過した。
同社のコーポレー トガバナンスに注目していきたいと考える。
土谷康仁(つちや・やすひと) 一九九七年三月神戸大学大学院 卒、九八年四月和光証券入社。
三 菱証券などを経て、二〇〇五年一 〇月にメリルリンチ日本証券に入 社。
運輸セクター担当アナリスト として活躍している。
ハマキョウレックスの過去9年間の株価推移 《出来高》
