2009年10月号
物流IT解剖
物流IT解剖
第31回 日本トランスシティ
OCTOBER 2009 58
プログラムを部品化して 開発効率を高める工夫
日本トランスシティ(略称トランシ
ィ)は倉庫業界では大手の一つに数
えられるが、三菱倉庫や三井倉庫な
どの財閥系とは異なる事業モデルをと
ってきた。
大消費地周辺に豊富な資 産を持つ財閥系が時代を追うごとに 不動産事業者としての側面を強めて きたのに対し、三重県・四日市港を 地盤とするトランシィは、そこまで土 地の含み益に依存できなかった。
同社は一八九五年に地元の財界関 係者によって四日市倉庫として設立 されて以降、一貫して四日市港の産 業の発展と共に歩んできた。
創業当 初は農水産物を中心に扱っていたが、 その後、主力荷主は三〇年程度の周 期で顔ぶれが変わっている。
第二次世界大戦の前後には、紡績 業に深くコミットして全国規模の倉 庫業者へと飛躍した。
戦後は四日市 港で発展した石油化学工業を主力荷 主としながら総合物流事業者に成長。
一九九二年には社名を四日市倉庫か ら現在の日本トランスシティに改め、 近年は日用消費財の流通加工などの 細かい業務に活路を見出している。
早い時期から、積極的に情報シス テムを活用してきた。
特定の企業グル ープに属さないトランシィは、不特定 多数の荷主を相手にビジネスを手掛け る必要があり、そのためにはシステム の整備が不可欠だった。
同社が約二 〇年前に開発した総合物流情報シス テム「LINETS」は、注目すべ きシステム活用事例として『日経コン ピュータ』などにも取り上げられるほ ど先進的なものだった。
オープン化とそれに伴う技術革新へ の対応も早かった。
近年の新規開発 はもっぱらオープンシステムを中心と しており、一時はサーバーの数が約二 〇〇台まで膨れあがった。
そこで二 〇〇七年から仮想化技術を駆使した 集約に取り組み、大半をブレードサー バー二台へと移行した。
ただし、基幹システムのLINE TSだけは、いまだに汎用機で運用し ている。
このシステムを稼働する以前、 同社のシステムは倉庫、運送、港湾 といった業務ごとに完全に独立してい た。
特定の荷主の物流業務を統合的 にサポートする機能にも欠け、荷主に とってはトランシィに委ねている物流 業務をトータルで把握するのが難しい 状況にあった。
システムで荷主との連携を深めよう としていたトランシィにとっては深刻 な問題だった。
このため汎用機の供 給元である富士通と組んで、WMS や顧客対応などを包含したシステムの 開発に着手した。
およそ三年かけて LINETSを開発し、九二年四月 から順次稼働していった。
このシステムの最大の特徴は、設 4月開始予定のプロジェクトを一時凍結 業績の回復をにらみ再開時期を模索中 日本トランスシティ 今年4月にスタートする予定だった基幹システムの刷新計画を、業績の悪化 を受けて凍結した。
このタイミングで10億円以上を要する大型開発に踏み切る のは得策ではないという判断だ。
しかしITベンダーによる技術的なサポートが 打ち切られる旧システムを、いつまでも使いつづけることはできない。
業績の 動向をにらみながら、今秋にもプロジェクトを再開しようと模索している。
IT担当役員の 八代雅秀常務取締役 基幹システム 第31 回 ◆本社組織…情報システム部に15人。
このうち「シ ステム第二グループ」に所属する3人はLINETSの 刷新プロジェクトの専任。
◆情報子会社…トランスシティコンピュータサービス、 92年に情報システム部を分割し発足、資本金 3000万円(トランシィ100%)、従業員24人、売上 高8億円(うち情報事業は5.5億で外販は一切やっ ていない。
残り2.5億は人材派遣や情報機器販売 などで、こちらはグループ外企業の顧客も含まれる) 《概要》92 年に稼働したLINETS の刷新準備を進めている。
予定では今年4 月から新 システムの開発をスタートする計画だったが、事業環境の激変を受けて凍結した。
第2 四半期の業績を見ながら、今秋の着手をめざして準備を継続中。
現在の年間IT コストは単体売上高765 億円の約1.5%。
現LINETS の稼働時に3 %弱だったのを徐々に低減してきた。
計画通り約5 年後に新システムを稼働できれば、 汎用機の利用を停止し、さらなるコスト削減が実現すると思われる。
約4 年前にICタグを使った現場支援システムを構築した。
作業者がICタグを携行す ることで詳細な作業データを残し、人員の最適配置などに使った。
このシステムは現在 も活用中だが、ICタグの利用はこの1件にとどまっている。
59 OCTOBER 2009 計から二〇年経 っても色あせな い開発思想にあ る。
L I N E TSは商品管理 機能(在庫管理 を含む)や作業 支援機能など複 数のサブシステ ムで構成されて いる。
標準化す るのが難しい顧 客対応の特殊な 機能については、 あらかじめプ ログラムの「骨 組み(スケルト ン)」と「部品」 を用意しておき、 これを組み合わ せることでシス テム開発の効率 を高めている。
自分たちでど んどん「部品」を 増やせるように、 富士通の「YP S/APG」と いう開発支援ツ ールを導入した。
汎用機の開発言 語COBOLでソフトを自動生成す るためのツールで、システムの基本設 計に応じて「スケルトン」と「部品」 を選択すれば簡単に新しいプログラム を組めるというものだ。
これによって、 低コストかつ迅速にシステムを開発で きる体制を整えた。
プログラムを部品化してシステム開 発の効率を高めるという考え方は、現 在でも立派に通用する。
しかし、汎 用機とCOBOLの組み合わせ自体 はITの世界ではもはや傍流になって しまった。
富士通による開発支援ツ ールのサポートが打ち切られるのも時 間の問題だろう。
LINETS自体の限界も無視で きない。
稼働時に統合化しようとし た機能の多くを、その後はさまざまな 理由から別に開発してきた。
現状で は港湾システムや運輸システムなどが 外付けされている。
結果として、現 行のLINETSは国内物流に限定 されたものになっている。
システムを保守・運用する人材の問 題もある。
「LINETSの全体像を 分かる人材が、もう社内にごくわず かしか残っていない。
システムが動い ているうちに次のステップを用意する 必要がある」と情報システム部の担当 役員である八代雅秀常務取締役は危 機感を募らせている。
昨秋の事業環境の激変で 刷新計画の着手を先送り こうした経緯で、トランシィは二年 ほど前からLINETSの全面刷新 に向けて動き出した。
外付けになって いる機能まで盛り込んだ統合システム として改めて開発し直そうとしている。
汎用機の利用も止め、オープンシステ ムにすることでメンテナンスを容易に する。
実は当初の予定では、今年四月か ら新システムの開発をスタートする計 画だった。
去年の段階でRFPを作 り、開発パートナーを内定し、要件 定義まで進めていた。
システム部門に してみれば、あとは着手するだけと いうところまで話は詰まっていた。
ところが昨秋の経済環境の急速な 悪化を受けて、開発プロジェクトに 待ったがかかった。
〇九年三月期の トランシィの決算は、売上高(単体) が七六五億円(前期比四・八%減) と、六期ぶりの減収となった。
営業 利益は一五・三億円(同四四・四% 減)となり、当期利益も九・三億円 (同三八・三%減)と落ち込んでしま った。
逆風の最中に一〇億円を超す投資 負担が新たに発生することを懸念し た経営陣は、当初のスケジュール通り システム刷新 日本トランスシティが活用している主なシステム ?.物流情報システム ?.管理系システム 海外物流国際物流港湾物流国内物流 ●国際物流システム ILIS−WMS ●海外版在庫管理システム TeamLOGISTICS ●データウエアハウスシステム DIAPRISM DIAOLAP ●WEB+(EDIサーバ) ●品質管理システム 新QMS−1 ●グループウエア Team WARE ●旅費精算/各種申請システム My Office ●帳票作成 LIst Works ●営業情報共有システム ●情報管理システム I−Filter,Mail−Keeper ●国際物流システム ILIS ILIS−? ● AWB発 行 シ ス テ ム ●輸出システム NEXT ●コンテナターミナル管理システム CTMS ●外航・内航システム ●海上コンテナ運行管理システム ●船積書類作成システム ●港湾管理システム Super−Bay ●NACCS連携システム ●NACCSデータ活用システム 台帳君 ●運輸総合配車システム ●海上コンテナ配車システム ●バルクコンテナ管理システム BULTIS ●国内物流システム LINETS ●消費財対応システム COSMOS−DC ●貨物追跡・動態把握システム ●作業管理システム(RFID) ●作業管理システム(バーコード) ●Webサービス(在庫・受注) 運輸倉庫 経理人事固定資産 ?.情報系システム データ分析グループウエア他 ●一般・連結会計システム GLOVIA/SUMMIT ●債権・債務システム ●収支確定・諸経費システム PLASS ●資産管理システム GLOVIA/FX ●リース資産管理システム ●人事管理システム SOCIA ●勤務管理システム TimePro−Get ●福利厚生関連システム OCTOBER 2009 60 に予算を確保することを断念。
刷新 プロジェクトの準備は続けるが、本格 的な開発作業への着手は先送りする という苦渋の決断を下した。
とは言え、LINETSの機能の 低下と、ITベンダーによる技術サポ ートの打ち切りという現実が変わらな い以上、いつまでも先延ばしにはで きない。
システムの移行前に汎用機の リース契約を再度、更新するような事 態になれば、それだけでITコストが 跳ね上がってしまう懸念もある。
LINETSの刷新プロジェクト にはかなりの時間を要する。
情報シ ステム部の村上満部長は、「開発に着 手してから移行作業を終えるまでに 最短でも四年はかかる。
当社は百数 十社のお客様とデータ交換をしている。
このため既存の仕組みを新システムへ と乗せ替えていく作業がどうしてもつ きまとう」と説明する。
幸い今期の第1四半期(四〜六月) をみる限り、トランシィの業績は昨年 末あたりをピークに最悪期を脱したか のように見える。
第2四半期(七〜 九月)の数字の動きを慎重に見極め る必要はあるが、このまま順調にい けば今秋から開発に着手できる可能 性も見えてきている。
元請けIT子会社を駆使 パッケージも積極活用 新システムは現行のLINETS と同様、自社開発する。
システム刷 新プロジェクトの中では、複数のWM Sパッケージの活用も検討した。
実際 にソフトを借りて、何カ月もかけて自 分たちの業務との整合性を試すこと もした。
だが納得できるものに出合 うことはできなかった。
パッケージの活用に背を向けている わけではない。
むしろ近年は、「使え るものがあれば使いたい」(村上部長) と考えている。
実際、複数のパッケー ジを導入済みだ。
経理や固定資産の 管理に採用している「GLOVIA」 は富士通製のERPソフト。
今は現 行システムをバージョンアップのため の作業を進めている。
業務系でも、主に輸入業務に使っ ている「Super Bay」は、シ ステムインテグレーターのオービック が提供する港湾物流業のパッケージソ フトだ。
以前は営業所ごとに処理し ていた輸入管理業務を、全国規模で 標準的な業務に統一するために導入 した。
航空貨物の業務処理にも一部 でパッケージを採用している。
至れり尽くせりの自社開発システ ムに慣れたトランシィの社員にとって、 パッケージソフトの画一化された仕様 は不親切なものに映る。
操作画面ひ とつとっても、現場からは「使いづ らい」という不満の声が上がってくる。
だがパッケージの活用は、IT活用の 生産性を高めていくうえでも有効な 手段だ。
ここは「慣れてもらうしか ない」と村上部長は言う。
トランシィの情報システム部には現 在、村上部長を含め一五人が所属し ている。
約一〇年前は四〇人を超し ていたが、九八年に一〇〇%出資の 情報子会社トランスシティコンピュー タサービス(TCS)を設立し、情報 開発体制 物流センター業務における消費財対応システムの構成例 COSMOS−DC アプリケーションサーバ データベースサーバ データストレージ Web EDI サーバ 入庫確定 出庫指示 帳票発行 伝票発行 データ抽出 在庫管理 商品補充 ロケーション変更 商品棚卸 倉庫内 アクセス ポイント 入荷受付 入庫格納 HHT 検品 ゲートウェイサーバ 業務端末 プリンタ 入荷予定出荷指図 入出庫報告 HHT 端末 在庫報告 工 場 納入先 発 注 発 注 荷 主 顧 客 移動指示 輸入品 ホストコンピュータ or 通信サーバ 商品入荷 データセンター HHT 検品 値付け 梱 包 荷合せ ピッキング 商品出荷 日本トランスシティ営業所 61 OCTOBER 2009 の刷新などやるべきことがたくさん ある。
一〇年先がどうかと問われれ ば何とも言えないが、当面は外販を 展開する余裕はない」という。
ITコストは一・五%弱 受益者負担の徹底で改善 一〇トンから一〇〇トン単位の製品 を一度に動かす合成樹脂の管理システ ムと、日用品のピース・ピッキングを するシステムでは自ずと仕組みは違っ てくる。
これをかつてのトランシィは LINETSの中で一緒くたに扱お うとしていた。
これが現実的ではなかったため、日 用品の管理システムはLINETS から切り出し、消費財対応型物流情 報システム「COSMOS」とした。
このように業務の変化に応じて、シ ステムに求められる機能やIT部門の 役割も変わってきた。
近年は営業担当者にもシステムの知 識が求められようになっている。
IT 部門のスタッフが営業活動に同行する 機会も増えてきた。
しかしスリム化が 進み、限られた人数で既存システムの 保守・運用や基幹システムの刷新に取 り組んでいる中で、営業支援に割け る労力には限界がある。
こうしたニーズに応えることを一つ の目的として、トランシィは今年七月、 営業の組織を見直した。
全国の営業 セクションを総括的に束ねるために営 業本部を新設し、さらに営業本部の 中に「営業開発室」という部署を新 設。
既存の営業部門に所属していた 五人と、情報システム出身の三人から なる計八人を配属した。
全社横断的 な営業案件への対応と、新規の3P L案件の発掘をめざしている。
もっとも、新たなシステム開発をの ぞむ社内ユーザーの多くは、そのコス トに関する知識を持たない。
このため 実際にシステムが完成してから、「え っ、こんなにコストがかかるの?」と いった行き違いが生じる。
これが結果 として事業採算性の悪化や、IT部 門に対する不信感につながる。
以前のトランシィでも、情報システ ム部が社内で?カネ喰い虫?のように 見られていた時代があった。
これをシ ステム部門から積極的に情報発信をす ることで、ITコストは受益者が負担 するという原則を浸透させる努力を 重ねてきた。
現状では開発費の七割 程度を受益者であるユーザー部門に負 担してもらえるようになった。
残り 三割は事前の打ち合わせやコンサルテ ィングの人件費などのため、システム 部門の負担として残るのは仕方がな いと割り切っている。
「システムを作り込めば当然、お金 がかかる。
それが本当に必要なのか をユーザー部門に問いつづけることで、 最近はずいぶん社内の意識が変わって きた」と八代常務。
受益者負担の原 則を徹底できれば、ムダな開発を指示 したときの?痛み?もユーザーはダイ レクトに感じるようになる。
これがシ ステム開発の効率を、さらに高めるこ とにつながる。
IT部門のスリム化や、ハードの見 直しによるコスト削減などに取り組ん できた結果、トランシィの年間ITコ ストは順調に減ってきた。
かつては単 体売上高の三%近くを占めていたの が、旧LINETSが軌道に乗った ことで二%程度に改善された。
そし て近年は、ブレードサーバーを使った 仮想化施術の採用などによるコスト削 減の努力によって一・五%弱の水準 にまで下がっている。
直近の年間コストは約十二億円で、 絶対額そのものは、ほぼ横這いで推 移している。
LINETSの刷新プ ロジェクトにメドをつけ、汎用機を全 廃できれば、コスト効率はさらに高ま ると予想される。
ただ現状では、合 理化によるコスト削減の必要性はさほ ど感じていない。
むしろ投資すべき 分野を見定め、効果的な施策を選択 していくことこそ重要と考えている。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) システム部から一七人が出向した。
そ の後、TCSから本体に戻るときに は、多くを別の部署に配属すること でIT部門のスリム化を図った。
トランシィは社員のジョブローテー ションに際して、情報システム部の所 属であっても特別扱いはしない。
営 業担当者などと同様に異動や転勤の 対象となる。
このためIT部門とし ては、情報処理のスペシャリストが育 ちにくいことを危惧していた。
九八年のTCSの設立は、会社の 定期的な人事異動とは切り離した環 境下でシステムの専門家を育成し、情 報部門としてノウハウを蓄積すること を一つの狙いとしていた。
情報システ ム部門のプロフィットセンター化やコ スト削減を主目的とする一般的な分社 化とは狙いが違った。
実際、現在のT CSはグループ外の情報処理業務を一 切手掛けていない。
九八年に発足し たときから外販を拡大しようとする 意識はほぼ皆無だった。
八代常務は、「まだLINETS コスト管理 情報システム部の 村上満部長
大消費地周辺に豊富な資 産を持つ財閥系が時代を追うごとに 不動産事業者としての側面を強めて きたのに対し、三重県・四日市港を 地盤とするトランシィは、そこまで土 地の含み益に依存できなかった。
同社は一八九五年に地元の財界関 係者によって四日市倉庫として設立 されて以降、一貫して四日市港の産 業の発展と共に歩んできた。
創業当 初は農水産物を中心に扱っていたが、 その後、主力荷主は三〇年程度の周 期で顔ぶれが変わっている。
第二次世界大戦の前後には、紡績 業に深くコミットして全国規模の倉 庫業者へと飛躍した。
戦後は四日市 港で発展した石油化学工業を主力荷 主としながら総合物流事業者に成長。
一九九二年には社名を四日市倉庫か ら現在の日本トランスシティに改め、 近年は日用消費財の流通加工などの 細かい業務に活路を見出している。
早い時期から、積極的に情報シス テムを活用してきた。
特定の企業グル ープに属さないトランシィは、不特定 多数の荷主を相手にビジネスを手掛け る必要があり、そのためにはシステム の整備が不可欠だった。
同社が約二 〇年前に開発した総合物流情報シス テム「LINETS」は、注目すべ きシステム活用事例として『日経コン ピュータ』などにも取り上げられるほ ど先進的なものだった。
オープン化とそれに伴う技術革新へ の対応も早かった。
近年の新規開発 はもっぱらオープンシステムを中心と しており、一時はサーバーの数が約二 〇〇台まで膨れあがった。
そこで二 〇〇七年から仮想化技術を駆使した 集約に取り組み、大半をブレードサー バー二台へと移行した。
ただし、基幹システムのLINE TSだけは、いまだに汎用機で運用し ている。
このシステムを稼働する以前、 同社のシステムは倉庫、運送、港湾 といった業務ごとに完全に独立してい た。
特定の荷主の物流業務を統合的 にサポートする機能にも欠け、荷主に とってはトランシィに委ねている物流 業務をトータルで把握するのが難しい 状況にあった。
システムで荷主との連携を深めよう としていたトランシィにとっては深刻 な問題だった。
このため汎用機の供 給元である富士通と組んで、WMS や顧客対応などを包含したシステムの 開発に着手した。
およそ三年かけて LINETSを開発し、九二年四月 から順次稼働していった。
このシステムの最大の特徴は、設 4月開始予定のプロジェクトを一時凍結 業績の回復をにらみ再開時期を模索中 日本トランスシティ 今年4月にスタートする予定だった基幹システムの刷新計画を、業績の悪化 を受けて凍結した。
このタイミングで10億円以上を要する大型開発に踏み切る のは得策ではないという判断だ。
しかしITベンダーによる技術的なサポートが 打ち切られる旧システムを、いつまでも使いつづけることはできない。
業績の 動向をにらみながら、今秋にもプロジェクトを再開しようと模索している。
IT担当役員の 八代雅秀常務取締役 基幹システム 第31 回 ◆本社組織…情報システム部に15人。
このうち「シ ステム第二グループ」に所属する3人はLINETSの 刷新プロジェクトの専任。
◆情報子会社…トランスシティコンピュータサービス、 92年に情報システム部を分割し発足、資本金 3000万円(トランシィ100%)、従業員24人、売上 高8億円(うち情報事業は5.5億で外販は一切やっ ていない。
残り2.5億は人材派遣や情報機器販売 などで、こちらはグループ外企業の顧客も含まれる) 《概要》92 年に稼働したLINETS の刷新準備を進めている。
予定では今年4 月から新 システムの開発をスタートする計画だったが、事業環境の激変を受けて凍結した。
第2 四半期の業績を見ながら、今秋の着手をめざして準備を継続中。
現在の年間IT コストは単体売上高765 億円の約1.5%。
現LINETS の稼働時に3 %弱だったのを徐々に低減してきた。
計画通り約5 年後に新システムを稼働できれば、 汎用機の利用を停止し、さらなるコスト削減が実現すると思われる。
約4 年前にICタグを使った現場支援システムを構築した。
作業者がICタグを携行す ることで詳細な作業データを残し、人員の最適配置などに使った。
このシステムは現在 も活用中だが、ICタグの利用はこの1件にとどまっている。
59 OCTOBER 2009 計から二〇年経 っても色あせな い開発思想にあ る。
L I N E TSは商品管理 機能(在庫管理 を含む)や作業 支援機能など複 数のサブシステ ムで構成されて いる。
標準化す るのが難しい顧 客対応の特殊な 機能については、 あらかじめプ ログラムの「骨 組み(スケルト ン)」と「部品」 を用意しておき、 これを組み合わ せることでシス テム開発の効率 を高めている。
自分たちでど んどん「部品」を 増やせるように、 富士通の「YP S/APG」と いう開発支援ツ ールを導入した。
汎用機の開発言 語COBOLでソフトを自動生成す るためのツールで、システムの基本設 計に応じて「スケルトン」と「部品」 を選択すれば簡単に新しいプログラム を組めるというものだ。
これによって、 低コストかつ迅速にシステムを開発で きる体制を整えた。
プログラムを部品化してシステム開 発の効率を高めるという考え方は、現 在でも立派に通用する。
しかし、汎 用機とCOBOLの組み合わせ自体 はITの世界ではもはや傍流になって しまった。
富士通による開発支援ツ ールのサポートが打ち切られるのも時 間の問題だろう。
LINETS自体の限界も無視で きない。
稼働時に統合化しようとし た機能の多くを、その後はさまざまな 理由から別に開発してきた。
現状で は港湾システムや運輸システムなどが 外付けされている。
結果として、現 行のLINETSは国内物流に限定 されたものになっている。
システムを保守・運用する人材の問 題もある。
「LINETSの全体像を 分かる人材が、もう社内にごくわず かしか残っていない。
システムが動い ているうちに次のステップを用意する 必要がある」と情報システム部の担当 役員である八代雅秀常務取締役は危 機感を募らせている。
昨秋の事業環境の激変で 刷新計画の着手を先送り こうした経緯で、トランシィは二年 ほど前からLINETSの全面刷新 に向けて動き出した。
外付けになって いる機能まで盛り込んだ統合システム として改めて開発し直そうとしている。
汎用機の利用も止め、オープンシステ ムにすることでメンテナンスを容易に する。
実は当初の予定では、今年四月か ら新システムの開発をスタートする計 画だった。
去年の段階でRFPを作 り、開発パートナーを内定し、要件 定義まで進めていた。
システム部門に してみれば、あとは着手するだけと いうところまで話は詰まっていた。
ところが昨秋の経済環境の急速な 悪化を受けて、開発プロジェクトに 待ったがかかった。
〇九年三月期の トランシィの決算は、売上高(単体) が七六五億円(前期比四・八%減) と、六期ぶりの減収となった。
営業 利益は一五・三億円(同四四・四% 減)となり、当期利益も九・三億円 (同三八・三%減)と落ち込んでしま った。
逆風の最中に一〇億円を超す投資 負担が新たに発生することを懸念し た経営陣は、当初のスケジュール通り システム刷新 日本トランスシティが活用している主なシステム ?.物流情報システム ?.管理系システム 海外物流国際物流港湾物流国内物流 ●国際物流システム ILIS−WMS ●海外版在庫管理システム TeamLOGISTICS ●データウエアハウスシステム DIAPRISM DIAOLAP ●WEB+(EDIサーバ) ●品質管理システム 新QMS−1 ●グループウエア Team WARE ●旅費精算/各種申請システム My Office ●帳票作成 LIst Works ●営業情報共有システム ●情報管理システム I−Filter,Mail−Keeper ●国際物流システム ILIS ILIS−? ● AWB発 行 シ ス テ ム ●輸出システム NEXT ●コンテナターミナル管理システム CTMS ●外航・内航システム ●海上コンテナ運行管理システム ●船積書類作成システム ●港湾管理システム Super−Bay ●NACCS連携システム ●NACCSデータ活用システム 台帳君 ●運輸総合配車システム ●海上コンテナ配車システム ●バルクコンテナ管理システム BULTIS ●国内物流システム LINETS ●消費財対応システム COSMOS−DC ●貨物追跡・動態把握システム ●作業管理システム(RFID) ●作業管理システム(バーコード) ●Webサービス(在庫・受注) 運輸倉庫 経理人事固定資産 ?.情報系システム データ分析グループウエア他 ●一般・連結会計システム GLOVIA/SUMMIT ●債権・債務システム ●収支確定・諸経費システム PLASS ●資産管理システム GLOVIA/FX ●リース資産管理システム ●人事管理システム SOCIA ●勤務管理システム TimePro−Get ●福利厚生関連システム OCTOBER 2009 60 に予算を確保することを断念。
刷新 プロジェクトの準備は続けるが、本格 的な開発作業への着手は先送りする という苦渋の決断を下した。
とは言え、LINETSの機能の 低下と、ITベンダーによる技術サポ ートの打ち切りという現実が変わらな い以上、いつまでも先延ばしにはで きない。
システムの移行前に汎用機の リース契約を再度、更新するような事 態になれば、それだけでITコストが 跳ね上がってしまう懸念もある。
LINETSの刷新プロジェクト にはかなりの時間を要する。
情報シ ステム部の村上満部長は、「開発に着 手してから移行作業を終えるまでに 最短でも四年はかかる。
当社は百数 十社のお客様とデータ交換をしている。
このため既存の仕組みを新システムへ と乗せ替えていく作業がどうしてもつ きまとう」と説明する。
幸い今期の第1四半期(四〜六月) をみる限り、トランシィの業績は昨年 末あたりをピークに最悪期を脱したか のように見える。
第2四半期(七〜 九月)の数字の動きを慎重に見極め る必要はあるが、このまま順調にい けば今秋から開発に着手できる可能 性も見えてきている。
元請けIT子会社を駆使 パッケージも積極活用 新システムは現行のLINETS と同様、自社開発する。
システム刷 新プロジェクトの中では、複数のWM Sパッケージの活用も検討した。
実際 にソフトを借りて、何カ月もかけて自 分たちの業務との整合性を試すこと もした。
だが納得できるものに出合 うことはできなかった。
パッケージの活用に背を向けている わけではない。
むしろ近年は、「使え るものがあれば使いたい」(村上部長) と考えている。
実際、複数のパッケー ジを導入済みだ。
経理や固定資産の 管理に採用している「GLOVIA」 は富士通製のERPソフト。
今は現 行システムをバージョンアップのため の作業を進めている。
業務系でも、主に輸入業務に使っ ている「Super Bay」は、シ ステムインテグレーターのオービック が提供する港湾物流業のパッケージソ フトだ。
以前は営業所ごとに処理し ていた輸入管理業務を、全国規模で 標準的な業務に統一するために導入 した。
航空貨物の業務処理にも一部 でパッケージを採用している。
至れり尽くせりの自社開発システ ムに慣れたトランシィの社員にとって、 パッケージソフトの画一化された仕様 は不親切なものに映る。
操作画面ひ とつとっても、現場からは「使いづ らい」という不満の声が上がってくる。
だがパッケージの活用は、IT活用の 生産性を高めていくうえでも有効な 手段だ。
ここは「慣れてもらうしか ない」と村上部長は言う。
トランシィの情報システム部には現 在、村上部長を含め一五人が所属し ている。
約一〇年前は四〇人を超し ていたが、九八年に一〇〇%出資の 情報子会社トランスシティコンピュー タサービス(TCS)を設立し、情報 開発体制 物流センター業務における消費財対応システムの構成例 COSMOS−DC アプリケーションサーバ データベースサーバ データストレージ Web EDI サーバ 入庫確定 出庫指示 帳票発行 伝票発行 データ抽出 在庫管理 商品補充 ロケーション変更 商品棚卸 倉庫内 アクセス ポイント 入荷受付 入庫格納 HHT 検品 ゲートウェイサーバ 業務端末 プリンタ 入荷予定出荷指図 入出庫報告 HHT 端末 在庫報告 工 場 納入先 発 注 発 注 荷 主 顧 客 移動指示 輸入品 ホストコンピュータ or 通信サーバ 商品入荷 データセンター HHT 検品 値付け 梱 包 荷合せ ピッキング 商品出荷 日本トランスシティ営業所 61 OCTOBER 2009 の刷新などやるべきことがたくさん ある。
一〇年先がどうかと問われれ ば何とも言えないが、当面は外販を 展開する余裕はない」という。
ITコストは一・五%弱 受益者負担の徹底で改善 一〇トンから一〇〇トン単位の製品 を一度に動かす合成樹脂の管理システ ムと、日用品のピース・ピッキングを するシステムでは自ずと仕組みは違っ てくる。
これをかつてのトランシィは LINETSの中で一緒くたに扱お うとしていた。
これが現実的ではなかったため、日 用品の管理システムはLINETS から切り出し、消費財対応型物流情 報システム「COSMOS」とした。
このように業務の変化に応じて、シ ステムに求められる機能やIT部門の 役割も変わってきた。
近年は営業担当者にもシステムの知 識が求められようになっている。
IT 部門のスタッフが営業活動に同行する 機会も増えてきた。
しかしスリム化が 進み、限られた人数で既存システムの 保守・運用や基幹システムの刷新に取 り組んでいる中で、営業支援に割け る労力には限界がある。
こうしたニーズに応えることを一つ の目的として、トランシィは今年七月、 営業の組織を見直した。
全国の営業 セクションを総括的に束ねるために営 業本部を新設し、さらに営業本部の 中に「営業開発室」という部署を新 設。
既存の営業部門に所属していた 五人と、情報システム出身の三人から なる計八人を配属した。
全社横断的 な営業案件への対応と、新規の3P L案件の発掘をめざしている。
もっとも、新たなシステム開発をの ぞむ社内ユーザーの多くは、そのコス トに関する知識を持たない。
このため 実際にシステムが完成してから、「え っ、こんなにコストがかかるの?」と いった行き違いが生じる。
これが結果 として事業採算性の悪化や、IT部 門に対する不信感につながる。
以前のトランシィでも、情報システ ム部が社内で?カネ喰い虫?のように 見られていた時代があった。
これをシ ステム部門から積極的に情報発信をす ることで、ITコストは受益者が負担 するという原則を浸透させる努力を 重ねてきた。
現状では開発費の七割 程度を受益者であるユーザー部門に負 担してもらえるようになった。
残り 三割は事前の打ち合わせやコンサルテ ィングの人件費などのため、システム 部門の負担として残るのは仕方がな いと割り切っている。
「システムを作り込めば当然、お金 がかかる。
それが本当に必要なのか をユーザー部門に問いつづけることで、 最近はずいぶん社内の意識が変わって きた」と八代常務。
受益者負担の原 則を徹底できれば、ムダな開発を指示 したときの?痛み?もユーザーはダイ レクトに感じるようになる。
これがシ ステム開発の効率を、さらに高めるこ とにつながる。
IT部門のスリム化や、ハードの見 直しによるコスト削減などに取り組ん できた結果、トランシィの年間ITコ ストは順調に減ってきた。
かつては単 体売上高の三%近くを占めていたの が、旧LINETSが軌道に乗った ことで二%程度に改善された。
そし て近年は、ブレードサーバーを使った 仮想化施術の採用などによるコスト削 減の努力によって一・五%弱の水準 にまで下がっている。
直近の年間コストは約十二億円で、 絶対額そのものは、ほぼ横這いで推 移している。
LINETSの刷新プ ロジェクトにメドをつけ、汎用機を全 廃できれば、コスト効率はさらに高ま ると予想される。
ただ現状では、合 理化によるコスト削減の必要性はさほ ど感じていない。
むしろ投資すべき 分野を見定め、効果的な施策を選択 していくことこそ重要と考えている。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) システム部から一七人が出向した。
そ の後、TCSから本体に戻るときに は、多くを別の部署に配属すること でIT部門のスリム化を図った。
トランシィは社員のジョブローテー ションに際して、情報システム部の所 属であっても特別扱いはしない。
営 業担当者などと同様に異動や転勤の 対象となる。
このためIT部門とし ては、情報処理のスペシャリストが育 ちにくいことを危惧していた。
九八年のTCSの設立は、会社の 定期的な人事異動とは切り離した環 境下でシステムの専門家を育成し、情 報部門としてノウハウを蓄積すること を一つの狙いとしていた。
情報システ ム部門のプロフィットセンター化やコ スト削減を主目的とする一般的な分社 化とは狙いが違った。
実際、現在のT CSはグループ外の情報処理業務を一 切手掛けていない。
九八年に発足し たときから外販を拡大しようとする 意識はほぼ皆無だった。
八代常務は、「まだLINETS コスト管理 情報システム部の 村上満部長
