2009年11月号
ケース

アサヒ飲料 IT活用

NOVEMBER 2009  36 IT活用 アサヒ飲料 自販機ごとに需要を予測して商品を補充 ルート担当者の作業効率を大幅に向上  住宅メーカーの積水ハウスは業界で初めて、新築 施工現場で発生する廃棄物のゼロエミッションを達 成した。
現場で分別を行い、集荷拠点を経由して 自社のリサイクル施設に回収する仕組みを作ること で、廃棄物の発生量を大幅に削減した。
さらに部 材の設計段階から発生抑制を図るため、回収時に ICタグで廃棄物情報を収集するシステムの構築を めざしている。
五四カ所にフルラインの在庫拠点  日本は世界一の自動販売機大国だ。
現在、 約五二六万台の自販機が全国で稼働してい る(二〇〇八年末現在、日本自動販売機工 業会)。
このうち飲料自販機だけでも約二三 七万台(酒・ビールと牛乳を除く)を数える。
飲料自販機の総売上は優に二兆円を超し、も はや欠くことのできない社会インフラになっ ている。
 全国に約二四万台の自販機をもつアサヒ飲 料は、業界首位の日本コカ・コーラ、二位の サントリー、三位のダイドードリンコに次いで 自販機事業で四位の座にある。
そしてアサヒ 飲料にとって自販機事業は、総売上の約四割 を稼ぎ出す主力の販売チャネルでもある。
同 社は近年、この自販機事業の改革を矢継ぎ早 に進めてきた。
 〇七年にカルピスとの自販機事業の統合を 決め、共同出資(出資比率はアサヒ飲料八 〇%、カルピス二〇%)でアサヒカルピスビバ レッジ(以下、ACB)を設立した。
翌〇八 年の一月には両社の自販機事業のオペレーシ ョン子会社をACBの傘下に置き、その三カ 月後にアサヒ飲料が自販機事業を全面的に分 割して新会社に合流させた。
 こうしてスケールメリットを追求する一方 で、新たな管理システムの構築を中心とする オペレーション改革にも積極的に取り組んで きた。
カルピスとの事業統合に先駆け、アサ ヒ飲料は〇五年から業務システムの抜本的な 見直しに着手していた。
 アサヒ飲料は現在、各地の工場で生産する 製品を物流ネットワークに乗せて運び、末端 の?毛細血管?にあたるオペレーション会社 を通じて全国に供給している。
直販チャネル であるACBが全体の三割弱の自販機を管理 しており、残りは数百社に上る自販機オペレ ーターに管理を委ねている。
 ACBの支店は原則として商物一体型で、 全国五四カ所に倉庫併設型の営業拠点を構え ている。
各拠点では二日〜四日分程度の商品 在庫をそれぞれフルラインで持ち、ここを起 点に担当エリア内の自販機への商品補充や集 金などの日常業務をこなしている。
 在庫の抑制や管理の手間などを考えれば、 拠点を集約したほうが有利だと感じるかもし れない。
しかし各自販機へのきめ細かい訪問 (商品のルート配送)を支えるには、分散型の ネットワークが必要なのだという。
 アサヒ飲料で自販機事業の統括的な窓口を 担っている畑勝自販機企画室長は、ACB の現場オペレーションについて次のように説 自動販売機事業の生産性は、自販機への商品補 充や代金回収を担う「ルート担当者」のオペレーショ ン効率にかかっている。
その改善を狙って約13億円 を投じて専用システムを開発した。
自販機ごとの売 れ行きを予測することで補充作業の効率を高め、新 システムを導入したエリアの配送ルートの本数を約 10 %削減した。
アサヒ飲料・自販機企画室の 畑勝室長 37  NOVEMBER 2009 明する。
 「現場ではルート担当者が、二トン車とか三 トン車を使って自販機への商品補充を行なっ ている。
ルート業務を終えて支店に戻ってく ると、また次の商品を車両に積み込むといっ た作業の繰り返しだ。
担当している自販機と 支店の距離が離れれば、それだけ余計な時間 がかかってしまう。
現場に近い支店でそれぞ れにフルラインの在庫を持っている方が業務 効率は高まる」  自販機のオペレーションは労働集約型の現 場作業に支えられている。
一人のルート担当 者が管理できる自販機の数はおおよそ一〇〇 〜一五〇台。
売り切れによる機会損失を防ぎ ながら、一人のルート担当者がいかに多くの 台数を担当できるかでオペレーションの効率 が決まる。
 ルート担当者は商品の補充や集金業務だけ でなく、自販機の清掃やマーケティング情報 の収集なども担っている。
食品を扱う以上、 品質や鮮度の維持も厳しく求められる。
売れ 行きの悪い自販機を放っておけば、ますます 状況は悪化してしまう。
 ACBの業務推進部に所属し、業務シス テムの刷新にも携わってきた木南行弘課長は、 「ルート担当者による商品の補充業務が自販機 事業の中心。
少ないルート本数で業務をこな すための合理的な回訪(自販機への訪問)計 画をいかに作り、固定費負担をどれだけ減ら していくかがポイントだ」という。
 これが一筋縄ではいかない。
自販機は新設 や廃止が極めて頻繁に行われる。
工事現場へ の設置など、短期間で撤去するケースもある。
設置のロケーションも屋内、屋外、小売店の 店頭、企業内など千差万別だ。
設置条件によ って売れ筋の商品も違えば、売上規模も異な る。
補充業務の作業量も違ってくる。
独自のアイデアで補充作業を刷新  こうした業務の効率化を図るため、アサヒ 飲料は〇七年一月から業界初の試みを全面的 に採用したオペレーションシステム「リアクト (React)」の開発に着手した。
投資総額は約 十三億円。
自販機ごとの販売数量を予測する などして、ルート担当者の業務効率を飛躍的 に向上させることを狙った。
 アサヒ飲料がリアクトの開発をスタートした 当時、カルピスの自販機事業との統合計画は まだ表面化していなかった。
このため当初は、 新システムの導入先としても、アサヒ飲料の 傘下で自販機オペレーションを担っていたア サヒビバレッジサービスの支店だけを想定して いた。
 そこに統合計画が浮上した。
共に全国展開 しているアサヒ飲料とカルピスが自販機事業 を統合すれば、担当しているエリアが重複す る支店も出てくる。
事業統合のメリットを出 すためにも支店の統廃合は不可避だった。
し かし、その詳細は〇八年の四月以降、統合後 の新会社の活動が軌道に乗るまでは明らかに はならなかった。
 このためアサヒ飲料は、まずはアサヒビバ レッジサービスの支店から順次導入を進めた。
そして支店の統廃合に一応のメドがついた〇 八年一〇月から、これを全面展開していった。
現在では全国二四万台の自販機のうち約六万 台を対象に導入している。
 新システム「リアクト」の最大の特色は、「補 充保留」という考え方にある。
従来の商品の 補充業務では、自販機を満タンの状態に戻す 自販機事業のサプライチェーンの概要 (直接販売チャネル) アサヒカルピスビバ レッジ(ABC)の全国 の支社支店 54 カ所 全国に約 24 万台 (最近は年に1万台のペースで増加中) (間接販売チャネル) 専業オペレーターや 小売店など数百社 生産拠点 物流拠点 自販機オペレーター 自販機 補充ほか 補充ほか ルート配送 一部を直送 一部を直送 アサヒ飲料の基幹配送 センターRDC7カ所、 およびFDC・DC 自社工場(富士山、北陸、明石)、 アサヒビール茨城工場、委託先工場 (自社製造比率は 43 %) 工場倉庫など NOVEMBER 2009  38 のが常識だった。
減った数量だけ補充すると いう考え方だ。
 これに対してリアクトのオペレーションは、 売れた分をすべて補充するわけではない。
次 回の訪問時まで売り切れにならないだけの数 量が残っていると予測できる商品は、補充を 見送る。
そうすることでムダな補充業務を減 らし、ルート担当者の作業効率を高めようと いう狙いである。
 「ある自販機で一週間に三本しか売れない 商品なのであれば、実際には四本入れておけ ばいい。
しかし、コーヒーのように一日で三 〇本、四〇本売れるのであれば常に満タンに しておかなければいけない。
そうした点で業 務に差をつけるのがリアクトによるオペレーシ ョンの最大の特徴だ。
これによって市中に出 回る商品在庫を一〇%ぐらい減らすことも計 画していた」(アサヒ飲料・畑室長) 車両と自販機を一往復して補充完了  実はリアクトによって補充保留方式を採用 する以前から、アサヒ飲料は満タン補充とい う考え方からすでに一歩を踏み出していた。
売 れ行きが悪い商品を、自販機の収納能力いっ ぱいにしておいても意味はない。
ルート担当 者の判断で収納本数を調整し、いたずらに商 品在庫が増えることを避けていた。
 しかし、売り上げの予測をルート担当者の 個人的な判断に任せることには限界がある。
現場の判断業務が増えれば、ルート担当者 しかし、無線機能の装備や通信費などのコス ト増に見合う効率化を達成できる確信を得る ことはできなかった。
結果として、現状では 投資の見返りを確実に得られるリアクトに優 位性があると判断した。
一台当たりの作業時間を三分短縮  リアクトの導入によって一台の自販機に要 する平均作業時間は、従来の二三分から二〇 分に三分間短縮した。
車両での細かいピッキ ング作業が減ったことから、負担軽減の実感 は時短の効果以上に大きいという声も現場か らは伝わってきているという。
 自販機の在庫の総量もほぼ計画通りに減ら すことができた。
導入前と比べると約一〇% (本数にして二二八万本)の削減に成功して いる。
 「従来は在庫量が固定されていて、それ以 上の管理はできないのが実情だった。
ところ が今は工夫次第で在庫量をコントロールでき るようになった」とACBの木南課長はその 効果を説明する。
 リアクトは現場作業の効率化の他にも多く の業務負担が増大し、処理スピードが遅くな ることも避けられない。
そこでリアクトでは、 売上予測を自動化すると同時に、補充手順の 見直しを図った。
 以前のやり方では、ルート担当者が車両と 自販機の間を二往復することが少なくなかっ た。
一度目は車両から商品を降ろさずに自販 機に行き、売れた数量を確定。
それから車両 に戻って必要な商品を積み出し、再び自販機 に行って補充するという流れだ。
 二往復を避けるため、あらかじめ商品を多 目に持っていき、残りを補充後に持ち帰ると いうやり方もあるが、これにしても余計な労 力を要する。
 これがリアクトのオペレーションでは一往復 で済む。
ルート担当者は携帯端末でまず各自 販機の販売予想を確認。
これに基づいて車両 から必要な分だけ荷降ろしして、補充に向か う。
自販機ごとの需要予測の精度は約八〇%。
満タン補充であれば誤差分を追加で補充しな ければならないが、補充保留の考え方と併用 すれば実践的な対応ができる。
 自販機の在庫補充方法で、業界最大手の 日本コカ・コーラはまだ部分的ではあるが別 の方法をとっている。
それぞれの自販機に無 線機能を装備し、販売データをあらかじめ無 線通信で収集して補充量を確定している。
こ のやり方でも補充作業は一往復で済む。
 アサヒ飲料のプロジェクトでも当然、この 無線方式は検討した。
何度かテストも行った。
アサヒカルピスビバレッジ・ 業務推進部の木南行弘課長 39  NOVEMBER 2009 制するうえでもリアクトが大きく寄与してい る」とアサヒ飲料の畑室長はいう。
 以前から同社の自販機には一定期間の過ぎ た商品を売り切れ表示にする「フレッシュ・ コントロール機能」が装備されていた。
だが この機能だけでは、劣化した商品の販売は防 げても、廃棄ロスは減らせない。
実際、従来 は廃棄ロスが年間数千万円規模で発生してい た。
これをリアクトによる販売予測に、ルー ト担当者の経験に基づく知恵を付加すること で、大幅に抑制していこうとしている。
効率化をルート本数の削減に反映  自販機一台当たりの処理時間が短縮された ことで、一人のルート担当者が一日に処理で きる台数も増えた。
リアクトを導入した現場 では、「一人当たりの持ち台数を二〇%ぐら い増やすことができた」と畑室長はいう。
 ルート担当者が処理できる自販機の増加を、 配送ルートの組み替えにつなげている。
リア クトの導入後、対象エリアの自販機を処理す るためのルート本数を約一〇%減らした。
こ れによって浮いた人材は、自販機の新たな設 置先を開拓するための営業活動などに配置転 換している。
 同社にとってルート本数の削減は、システ ム刷新の構想をスタートした四年前から見込 んでいた成果の一つだった。
ただ現場の混乱 を避けるため、リアクトを使ったオペレーショ ンにルート担当者が慣れるまで多少の時間を おいてから実施した。
幸いほぼ混乱なくルー トを見直すことができた。
 ACBの社内に物流部門はない。
ルートの 見直し案などを策定するのはアサヒ飲料のS CM部門の役割になっている。
一方、ACB の社内では、アサヒ飲料のSCM部門の出身 者などが中心になってオペレーション改革を推 進している。
 ACBの木南課長は、「アサヒ飲料のSC M部門の人たちがACBに対して、﹃この拠 点はこっちに移動した方がいい﹄とか﹃この 施策を実施すれば、このぐらいのコスト水準 になるはず﹄といった提案をどんどんしてく れている」と現状を説明する。
 提案を受け入れるかどうかの最終判断はA CBが下すことになるが、アサヒ飲料として はこうした活動を通じて自販機事業の競争力 を高めていこうとしている。
 これまでのところリアクトの導入は、首都 圏の中心エリアにほぼ集中している。
郊外エ リアのアウトドアに複数の自販機が設置され ているようなケースでは、配送車両ですぐ近 くまで行くことが可能だ。
この場合は無理に リアクトの機能を使うより、従来型の処理を した方が手っ取り早いという判断だ。
 アサヒ飲料は今後、リアクトに蓄積される 膨大なデータを、さまざまな面で有効活用し ていこうとしている。
それによって可能にな る改革施策はまだ豊富にあるという。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) の成果をもたらした。
その一つが商品の廃棄 ロスの低減だ。
同社の主力商品である缶コー ヒーは温度変化で風味が変わりやすい。
 とりわけ「最近の缶コーヒーは高品質の原 材料を利用しており、そのぶん劣化しやすい。
一度ホットにした商品をコールドにすると極 端に味が落ちてしまう。
われわれはお客様に 不快な思いをさせないために、一定期間を過 ぎた商品は廃棄している。
この廃棄ロスを抑 「React(リアクト)」の導入による改革施策 導入目標〜改革施策 収益力強化 目標 (KGI) ローコストオペレーションパーマシンアップ 成功要因改革テーマ改革施策 オペレーション時 間の短縮 適正且つ効率的な 回訪の実現 自販機収納在庫の 最適化 売り場ポテンシャ ル最大化 マネジメント業務 強化 効率的な人員配置 IT の積極的活用 作業時間の軽減を図る補充保留の活用 インドロケ納品効率を上げる予測売上活用 ロケ(売り場)に応じた回訪の立案 欠品を防止する積込数の予測活用 予測情報を元にした収容コラム数の適正化 変動収納在庫への移行で自販機在庫圧縮 売り漏れを防止するお客様目線の売切情報活用 売り場情報の活用 売上データの分析 売り場数と売上に応じた支店人員配置 担当者別業務タスクの明確化 電子帳票の活用 ロケ(売り場)の支店内支店間連携 日次処理時間の早期化に合わせた業務 業務ルールと業務平準化の順守 システム活用状況の把握と評価

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