2009年11月号
物流IT解剖

第32回 丸全昭和運輸

NOVEMBER 2009  50 3PLを本格化するため 業務系システムを刷新   丸全昭和運輸は今年八月一五日、 ホストコンピュータ(汎用機)の利用 を停止した。
約一〇年前から取り組 んできた業務系の基幹システムの刷 新が計画通りに完了。
従来は汎用機 で動かしていた約五〇のシステムの 移植も終えたことから、四〇年にわ たって利用し続けてきた汎用機と完 全に訣別した。
 今回のシステム刷新のきっかけは、 3PL事業への本格参入だった。
丸 全昭和は、京浜工業地帯の鉄鋼業や 化学工業を対象に、業務の一貫元請 けや作業請負などをメーンに手掛け てきた歴史をもつ。
このため荷主の 懐深く入り込む3PLと同社の業務 はもともと親和性が高かった。
 日本で話題になり始めた当初から 3PLに注目していた。
一九九八年 に研究をスタートしたが、このとき は社内でレポートを作成しただけに とどまった。
 その後、荷主企業の間でも3PL に対する期待が高まってきたのを受 けて、二〇〇一年に営業部門、経営 企画部門、情報システム部門のメン バーが参加する社内プロジェクトを設 置。
ここで議論を重ね、3PL事業 を本格化するにはまず基幹システム の刷新が必要という結論に達した。
 従来の丸全昭和のシステムは、輸 送や倉庫管理などの業務ごとに独立 していた。
このため荷主に対して、 包括的な物流情報を提供するのが難 しかった。
業務を処理するうえでも 複数の部署で重複入力が発生すると いったムダがあり、業務システムを 統合する必要があった。
 投資額は三〇億円規模になること が見込まれた。
その可否を経営レベ ルで検討する「経営戦略会議」を〇 二年六月に開催した。
この場で「物 流センターを核とした3PL事業の 推進」という経営目標が正式に決ま り、すぐにシステム刷新プロジェク トを発足させることになった。
 別に改修が進められていた国際物 流のシステムも、3PLのための新 システムに組み込むことになった。
そ れから約三年半を費やして新たな基 幹システムを開発した。
新システム は〇五年一月の社内公募で「MLP (Maruzen Logistics Partner)シス テム」と名付けられた。
 MLPシステムは、中核となる「3 PL情報センター」と、四つのサブ システム(国内物流、輸配送・配車、 海外物流、受発注センター)で構成 されている。
輸送や保管、フォワー ディングなどの業務を「3PL情報 センター」を介して連携させた。
 「3PL情報センター」という名称 からは?組織?のような印象を受け るかもしれないが、これは実際には 存在しないバーチャルな機能を有する 3PL事業向けに35億円投じて新システム 業務間をデータベースで連携して統合管理 丸全昭和運輸  業務系の基幹システムを2005年に稼働した。
それから約3年を費や して、ホストコンピュータに残存していた仕組みを新システムへと移行。
この8月に完全な脱ホストを果たした。
新たな基幹システムでは、中核 に据えたデータベースで業務間の連携を図り、顧客への包括的な物流情 報の提供を実現している。
情報システム部の谷内偉晃 部長 MLPシステム 第32 回 ◆本社組織…情報システム部に37人が所属 (丸全昭和のプロパー 18人、派遣社員や 協力ITベンダーの常駐者が19人)。
情報シ ステム部は開発課、企画課、管理課の3部 門からなる。
  サーバーの保守や運用は富士通とIBM にアウトソーシングしているが、社内の常駐 者の所属先にこの2社は含まれていない。
◆情報子会社…なし 《概要》3PL 事業を本格化するため、2001年から業務系の基幹システムの刷新 を検討しはじめた。
それまではずっとIBM の汎用機を利用していたが、オープン 化した新システムでは富士通のサーバーを選択した。
 新システムでは、輸送や倉庫、国際物流などのシステムの統合を果たした。
各 業務のためのサブシステムが「3PL データベース」を介して連携。
1度入力したデ ータを他部門でも利用することで入力作業の重複を回避している。
 09 年3月期(08 年度)の年間IT コストは単体売上高756 億円の2.08%(約 15.7 億)。
NACCS システムなどへの投資もあって近年のIT コスト比率は 1.86%(06 年度)、1.87%(07年度)と増加傾向にある。
今期も2.1%を見込む。
51  NOVEMBER 2009 戦略的に活用していきたい。
データ 分析を顧客にとって有効な在庫管理 やコスト削減などの改善提案につな げ、3PL事業の強化に役立ててい く」と強調する。
汎用機の五〇システムを 約四年でMLPへと移行   丸全昭和が今年八月まで使ってい た汎用機はIBM製だった。
かつて は本社ビル(横浜市)の六階にマシ ンを置き、ハードの管理まで自社で 手掛けていた。
この方針を一〇年前 に転換し、ハードの保守・運用はI BMにアウトソーシングした。
 最初の契約期間は七年間だった。
この契約期間中の〇二年にMLPシ ステムの構築プロジェクトがスタート した。
基本構想を立案するときには 富士通のコンサル部隊の支援を受け た。
将来的なインターネットの可能 性も視野に入れながら、当時で言う ところのクライアント/サーバー型の オープンシステムで新システムを構築 することが決まった。
 この基本方針に基づいて、システ ム開発のパートナーを選ぶコンペを実 施した。
最終的に候補として残った のは、汎用機の提供元であるIBM と、新システムの構想に当初から携 わってきた富士通の二社。
結果的に 富士通を選択し、〇三年一月から具 体的なシステム開発に着手した。
 まずは一次開発として、中核とな るデータベース(3PL情報センタ ー)と「国内物流」「輸配送・配車」の 二つのサブシステムを構築した。
こ れらを〇四年十一月に稼働させると、 順次、社内に導入していった。
 次の段階では、一次開発で積み残 した「顧客向け機能の強化」を中心 とする二次開発に取り組んだ。
三つ 目のサブシステムである「海外物流」 の構築と、四つ目の「受発注センタ ー」の開発がメーンだった。
富士通 の手は借りず、社内のIT部門が中 心になって開発作業を進めた。
〇八 年三月に「受発注センター」システ ムを稼働させたことで、一連のML Pの開発はようやく一段落した。
 開発中の〇六年に更新したIBM との汎用機のアウトソーシング契約 は三年間とした。
この間に、旧ホス トに残されていた約五〇の業務シス テムをMLPに移管した(三次開発)。
「汎用機の中のシステムをどうするか については、社内でも多くの議論が あった。
バージョンアップせずに塩 データベースを意味している。
ここ には日々の業務データが蓄積される。
このデータを各種の業務処理に活用 することで、従来のような重複入力 の手間もなくなった。
 情報システム部の谷内偉晃部長は、 「今は目の前の業務を片付けるのにま だ手一杯なところもあるが、今後は データベースに貯まっていくデータを 脱ホスト MLP(マルゼンロジスティクスパートナー)システム 荷主エンドユーザー 荷主A 荷主B 荷主C 国内工場 素材・部品メーカー MPL システムの概要 5. 受発注センター 1. 3PL データベース 4. 海外物流2. 国内物流 受 注受発注代行機能 Maruzen Net 卸売業 顧客管理 品質管理 コスト管理 荷主 海外工場 小 売 販 社 最終需要家 エンドユーザー エンドユーザー 荷 主 荷 主 物流マネージメントデータベース 発注ステータス 受注ステータス 在庫ステータス 広域在庫管理 広域配車管理 納期・数量・仕様受注・顧客情報 保管 輸配送 通関 輸出入 丸全 海外拠点 通関 輸出入 保管 保管 輸配送 輸配送 丸全 国内拠点 協力会社 保管 輸配送 海運 空運 丸全 国内拠点 3 . 輸配送・配車 輸入 輸出 広域管理(在庫・輸配送) 約10 年前から3PL 事業を本格化した 社内で3PL に関する検討を本格化 システムの基本構想の策定をスタート 役員が一堂に会する「経営戦略会議」で“ 物流” ビジネスについて初めて討議。
社内で正式にシス テムの刷新を決定し、すぐにプロジェクトを発足。
基本構想が「常務会」で承認され実際のシステム 開発をスタート 新システムの一部として「3PL 情報センター(デー タベース)」「国内物流システム」「輸配送システ ム」を先行稼働し一次開発を完了。
「海外物流システム」を稼働 社内公募で新システムの名称を「MLP(Maruzen Logistics Partner)」と命名 「受発注センターシステム」を稼働し、顧客対応を 軸とする二次開発を完了 汎用機上の業務系システムをMLP へと移管し、 三次開発を完了 2001 年 2002 年 6月 2002 年 10月 2003 年 1月 2004 年 11月 2005 年 1月 2005 年 5月 2008 年 3月 2009 年 3月 NOVEMBER 2009  52 漬けにしてしまえという意見もあっ たが、結局はすべてを新システムに 切り替えた」と谷内部長は振り返る。
富士通とIBMを併用し 自社開発の枠組みを強化   汎用機で動かしていたシステムを すべてMLPに移行し終えた時点 で、主力ITベンダーがIBMから 富士通に変わっても不思議はなかっ た。
しかし、あえてそうしなかった。
今年九月から、グループウエアなど の管理系システムのアウトソーシング 先をIBMにしたのである。
 丸全昭和が利用していたグループ ウエアは、かつての米ロータス社が開 発・販売していたものだ。
ロータス 社は一九九五年にIBMに買収され、 現在はIBMのブランドの一つにな っている。
こうした事情に加え、長 い付き合いを通じてIBMが丸全昭 和の業務を熟知していることや、特 定のITベンダーへの過度の依存を 避けようとする意識が働いた。
 丸全昭和のIT活用はシステムの 自社開発を原則としている。
MLP システムでも、二次開発からは自社 主導で取り組んだ。
現在もハードの 管理を除けば、富士通とIBMには ほとんど依存していない。
日常業務 で使うシステムについては、業務を一 番よく理解している自分たちで主導 すべきだという考えがベースにある。
 こうした方針もあって、業務系シ ステムへのパッケージソフトの導入に は慎重だ。
MLPのときにも、既存 のパッケージを採用したらどうかとい う声が一部にあった。
だが業務系シ ステムは自社開発という原則の前に、 簡単にかき消されてしまった。
 実際には会計システムやグループ ウエアはもちろん、業務系システム でも条件さえ合えばパッケージを利用 している。
物流現場でも、特定の拠 点内で業務が完結しているような案 件ではパッケージを使っている。
 輸送分野で導入しているデジタコ の管理システムもパッケージだ。
こ れはMLPの輸配送・配車システか らはまったく独立している。
「このシ ステムを一体で作り込もうとすれば、 それこそまた一〇年構想になってし まったはずだ。
とにかく早く車両に 配備するためには単独の専用システ ムを使う必要があった」と経営企画 部の菊池俊明部長は説明する。
 こうした特殊なケースや、自社開 発では優位性を発揮できないケースに、 パッケージの利用は限られている。
 実はパッケージの活用では過去に 苦い経験もしている。
MLPの稼働 前に発生したある案件で、システム の迅速な立ち上げと、コスト効 率の向上を狙って中小ITベン ダーの提供するWMSパッケー ジを導入した。
ところが結果的 に、ほぼすべてを作り込むこと になってしまい、数百万円で購 入したパッケージのカスタマイ ズに数千万円を要してしまった。
これを教訓として以前にも増し て自社開発を重視するようにな った。
共通のインフラとして 深化より汎用性を重視   MLPシステムは、3PL 事業の拡大に効力を発揮してき た。
「オープン化したMLPで は汎用機のような専門知識がな くともデータを抽出して加工で きる。
営業部門にとっては大き な変化だ」と谷内部長。
 システムの一次開発が終わ ってから半年後の〇五年六月、 社内に「3PL事業推進委員 会」を発足させた。
さらに〇七 年四月には営業企画部の中に 「ソリューショングループ」とい う専属部隊を設置。
これらの組 織は今では「3PL推進グルー プ」という部門に引き継がれている。
今期の3PL事業の売上高は一五〇 億円になる見込みだ。
 一方で新たな課題も浮上している。
システム開発 営業支援 3PL情報センター(3PL データベース) ●物流データ(実績、ノウハウ等)の全社共有化による荷主対応、情報把握のスピードアップ、作業品質の向上 情報収集 情報提供 (ステータス等) 情報収集 情報提供 (ステータス等) エンドユーザー 3PL情報センター 本社 受発注センター物流マネジメント ■運営 ・基準、指標情報 ■営業 ・営業活動情報 ■受発注センター  ・受注、発注、顧客情報 ◆経営 ・経営方針に活用 ◆運営 ・財務会計連携     ・基準算定に活用 ◆営業 ・営業活動に活用 共有データ管理 ・3PL 事業管理 ・顧客管理 ・営業支援情報 ・品質管理 ・人材管理 ・資産管理 ・セキュリティ管理 ・安全・衛生管理 ・調達物流 ・管理会計 ・計画データ ・作業データ ・実績データ ・ノウハウデータ ・ステータスデータ ・人材データ ・資産データ 新規顧客獲得/顧客 商談に活用 経営 運営営業 ・データ分析結果(コスト、生産性等) ・顧客営業情報 ・品質管理所 物流管理者 ・ノウハウ集 物流作業者 ・入荷実績 ・出荷実績 ・在庫実績 国内・海外拠点 ・入荷予定指示 ・出荷予定指示 荷主 53  NOVEMBER 2009 する石油化学業界向けや、自動車部 品メーカー向けには業種に特化した システムが自然とできあがっている」 (経営企画部の菊池部長)という。
た だしアパレルや日用品などを扱うシス テムは別扱いで、顧客別のスタンド アローンとなっている。
 営業部門とも歩調を合わせた新時 代のシステム戦略が求められている。
これについて丸全昭和の社内では、 まったく新しいIT活用のあり方を 模索する動きも出てきた。
「いずれは 競合する物流事業者同士で基幹シス テムをシェアするケースも出てくるか もしれない。
もはやシステムを差別 化要因にして顧客を囲い込む時代は 終わりつつあるのではないか」と菊 池部長はみている。
IT投資は売上高比二% 受益者負担の徹底に課題   現在、丸全昭和の情報システム部 には計三七人が所属している。
社員 一八人と協力ITベンダーの常駐者 一九人が、自社開発を基本とするI T活用を支えている。
3PL事業の 推進に欠かせない営業活動への同行 はもっぱら社員の担当だ。
 一九人の常駐者に富士通とIBM の人材は含まれていない。
主に中小 規模の協力ITベンダーの人材がシ ステムの運用や保守に携わっている。
彼らがSEとして営業活動の支援な どを行うこともあるが、あくまでも 社員の補佐に限られ、通常はプログ ラマーとして活動している。
 情報子会社は持っていない。
過去 には設置を検討したこともあったが、 本業とシステムの距離が隔たること を懸念して具体化しなかった。
IT 活用は内製運用で一貫している。
当 面はこの方針を見直すつもりはない。
 同社がITのために投じている年 間コストは単体売上高の約二%。
〇 八年度には単体売上高七五六億円に 対し、約一五・七億円(売上高比 二・〇八%)を支出した。
 ここ数年はMLPシステムの償却 コストに加えて、「NACCS(輸出 入・港湾関連情報処理システム)」へ の新規投資も重なったことから絶対 額が増加する傾向にある。
売上高比 でも〇六年度の一・八六%、〇七年 度の一・八七%だったのに対し、景 気後退で売り上げが微減傾向にある こともあって今期も二・一%程度に なる見通しだ。
 システム部門としては、「できれば 一・六〜一・七%ぐらいに抑制した い」(谷内部長)と考えている。
その ためにはIT投資に対する社内のコ スト意識を高めていくことが欠かせな いのだが、これが簡単ではない。
統 合的な社内インフラであるMLPに は、特定の顧客や案件のために開発 する専用システムと違って、受益者 負担を徹底しにくい面がある。
 加えて、社内のIT投資に対する 姿勢も、コスト削減より、むしろ機 能の向上を優先させる傾向があるよ うだ。
実は同社は、三次開発まで含 めて総額三五億円を投じたMLPシ ステムに対する明確な事後評価を下 していない。
旧システムの限界を受 けて開発を決めたシステムだっただけ に、何よりも新システムを稼働させ ることが先決だった。
 谷内部長としては、「現システムに 対する評価を明確にすることが重要 だ。
情報システム部門としては正直、 怖い気もするが、次につなげるため には何らかのかたちでMLPを総括 する必要がある。
本当に戦略的なシ ステムを構築できるのは次世代なの かもしれない」とも考えている。
 今年四月、丸全昭和はMLPシス テムのために〇四年から富士通と交 わしている契約を更新して、さらに 五カ年の契約を結んだ。
二〇一四年 を区切りとして再びシステムを見直 すとすれば、二年後には次の一手を 練りはじめなければならない。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) 一般に3PL事業では、特定の企業 のために専用システムを開発するこ とが多い。
システム開発の効率を高 めていくことは、3PL事業者の共 通課題だ。
その対応策として、プロ グラムの部品化やモジュール化といっ た手法がよくとられている。
 しかし、統合化を追求したMLP システムの開発思想は、その対極に ある。
このシステムは汎用性の高い 四つのサブシステムを、データベース を介して連動させることで統合的な 管理を実現している。
プログラムを 細かく分割して部品化するといった 発想は基本的にとっていない。
 汎用機の時代のシステムは、荷主 の業種・業態に応じた機能を深耕す るよりも、汎用性の確保が重視され た。
MLPシステムの開発思想も基 本的には汎用性を優先している。
と ころが荷主の要求レベルが高まって いる近年は、それでは対応しきれな いケースが出てきている。
 現状のMLPは、「当社が得意と ITコスト 経営企画部の菊池俊明部長

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