2009年11月号
物流指標を読む

第11回 今さら聞けない景気の話

  物流指標を読む NOVEMBER 2009  68 今さら聞けない景気の話 第11 回 ●経済成長率は前期比と前年同期比で異なる ●民間在庫の減少はGDP押し下げの要因に ●前年同月比では景気は緩やかな回復へ さとう のぶひろ 1964 年生まれ。
早稲田大学大学院修了。
89年に日通 総合研究所入社。
現在、経済研究部研 究主査。
「経済と貨物輸送量の見通し」、 「日通総研短観」などを担当。
貨物輸 送の将来展望に関する著書、講演多数。
プラス成長のカラクリ  内閣府が八月一七日に発表した四〜六月期 の国内総生産の一次速報(季調値)は、物価 変動を除いた実質で前期比〇・九%増(年率 換算で三・七%増)と、5四半期ぶりのプラ ス成長に転じた。
しかし、九月十一日発表の 改訂値(二次速報)では、実質で〇・六% 増(年率換算で二・三%増)にとどまり、一 次速報値から下方修正された。
改定値が下方 修正されたのは民間在庫の減少が主因であり、 生産の拡大につながる「在庫調整が進展した 結果」(内閣府)と考えられる。
改定値でも 5四半期ぶりにプラス成長となったことから、 わが国の景気が最悪期を脱したことは確認で きたものの、「年末には景気回復が息切れし、 景気は二番底入りする」との見方も出ている。
 最近の景気動向について新聞の論調風に解説す れば、右記のようになるだろう。
経済記事のなか には意味が分かりにくいものも少なくないが、読 者諸氏は、このような記事を読まれて、すんなり と頭に入っただろうか。
何となく違和感を覚える 箇所がいくつかあるのではないか。
今回は、そう した今さら人には聞きにくい景気の話について解 説してみたい。
?プラス成長は本当か?  直近(八月)の主要な経済指標(原数値:季節 調整していない数値)をみると、鉱工業生産指数 は前年同月比で一九・〇%減、百貨店売上高(店 舗数調整後)は同八・八%減、通関輸出額は同三 六・〇%減、などとなっており、それぞれ減少幅 は縮小してきているものの、依然として前年の水 準を大きく下回っている。
また、日通総合研究所 が九月に実施した「企業物流短期動向調査」によ ると、七〜九月実績の国内向け出荷量『荷動き指 数』はマイナス五六となっており、前年同期と比 較して出荷量が減少したと回答した荷主企業の割 合は六四%に及ぶ。
 このように、生産額、販売額、出荷量等が前年 に比べて大幅に落ちているにもかかわらず、なぜ 経済はプラス成長なのか。
そのような疑問が起こ っても不思議ではない。
 そのカラクリはこうである。
四半期別の経済成 長率といった場合、「当該期のGDP(季節調整 値)が前期と比較してどれだけ増加(減少)した かをパーセントで表した数値」のことを指すのが一 般的だ。
したがって、前期よりもGDPが増加す れば、プラス成長となる。
たとえば、冒頭の数値 を用いて説明すると、四〜六月期の実質GDPが 一〜三月期と比べて、一次速報では〇・九%増加 し、二次速報(改定値)では〇・六%増加したと いうことである。
ここで重要なのは、あくまでも 前期との対比ということだ。
 これに対して、前年同期の数値と比較する場合も ある。
すなわち、今年の四〜六月期のGDP(原 数値)が、前年の四〜六月期と比べてどうであっ たかという見方である。
この場合、今年の四〜六 月期の実質経済成長率は、一次速報では六・四% 減、二次速報(改定値)では七・二%減と大幅な マイナス成長になっており、前期比でみた成長率 日通総合研究所 「企業物流短期動向調査」 69  NOVEMBER 2009 「〇・六%」と記したが、小数第三位まで記すと 「〇・五六一%」)がもう三期、すなわち、来年 の一〜三月期まで続いた場合の年間の成長率のこ とである。
したがって、一・〇〇五六一を四乗す ると、約一・〇二二六三となり、年率換算の成長 率は二・三%となる。
景気は緩やかな回復へ ?「民間在庫の減少が下方修正の主因」とはどう いうことか?  GDPを構成する需要項目のひとつに民間在庫 投資(=民間在庫品増加)がある。
これは、民間 部門における期首の在庫と期末の在庫の差と捉え られ、在庫が増加すれば在庫投資はプラスになり、 逆に在庫が減少すればマイナスとなる。
在庫投資 は、望ましい在庫水準に近づけようとして行われ る「意図した在庫投資」(=在庫の積み増し)と、 最終需要に関する見込み違いによる「意図せざる 在庫投資」(=在庫の積み上がり)とに概念上は区 分される。
一般に、不況期には需要が落ち込むた め、企業は生産調整を行い、その結果在庫は縮小 する。
 改訂値(二次速報)においてGDPは〇・三ポ イント下方修正されたが、需要項目別の寄与度を みると、民間在庫投資がマイナス〇・五(一次)か らマイナス〇・八(二次)へ〇・三ポイント低下し ており、民間在庫投資の減少、すなわち民間在庫 の減少がGDPの押し下げに大きく寄与したこと は明らかだ。
このデータは在庫調整が進展してい ることを裏づけるものであり、過剰在庫が解消さ れれば、生産は拡大するものと期待される。
?景気の二番底入りはあるのか?  これは、景気回復が概ね年内いっぱいで一服し、 来年には再びマイナス成長に陥るという見解であ る。
その根拠はこうだ。
現在、景気を牽引してい るのは政府支出と輸出であるが、政府支出につい ては、民主党への政権交代に伴い、補正予算の執 行停止の動きが予想されることもあって、年末に は息切れするとみられることから、景気回復はも っぱら輸出頼みと言っても過言ではない。
ただし、 欧米経済の早期回復が見込めないなかで、これも また中国などアジアの新興国の需要頼みとなって おり、輸出に先の景気拡大局面のような景気押し 上げ効果は期待できまい。
その一方で、雇用情勢 の悪化などを背景に、GDPの五割以上を占める 個人消費は伸び悩み、また設備投資は大幅な減少 が続いている。
こうしたことから、官需・外需か ら国内民需へのバトンタッチがうまく行かず、来 年早々、景気は二番底を迎えるだろうと予測する エコノミストがここにきて多くなっている。
 季調ベース(前期比)でみると、そのようなこ とが起こる可能性もなくはない。
ただし、前年同 期比でみるならば、今後期を追うごとにマイナス 幅が縮小していき、来年一〜三月にはプラスに戻 し、二〇一〇年度は一%台のプラス成長になるも のと筆者は予測している。
先に、景気がジェット コースターのように乱高下している場合は、前期 比ではなく前年同期比で比較する方が実際の感覚 に近いと述べたが、その意味では、「景気は緩やか に回復」とみる方が自然であろう。
 本稿をお読みいただいて、多少なりとも経済記 事に関する疑問点が解消されれば幸いである。
の数値とは真逆の結果だ。
おそらく、こちらの方 が諸氏の感覚に近いのではないか。
 極めて稀なケースではあるが、現在のように景 気がジェットコースターのように乱高下している場 合は、前期比ではなく前年同期比で比較する方が 実際の感覚に近いといえる。
?年率換算とはどのように計算するのか?  これは実際に筆者が弊社の元社長である某氏か ら受けた質問である。
「四半期の成長率を四倍して も年率換算の成長率の数値とは合わないのである が、年率換算とは単に四倍しただけでは駄目なの か」という内容であった。
 正解は、四半期の成長率を四倍するのではなく、 四乗しなければならない。
すなわち、年率換算 というのは、四〜六月期の成長率(注:冒頭では 1.調査対象は製造業・卸売業の主要2500 事業所とした。
2.『荷動き指数』とは「増加」の割合から「減少」の割合を引いたもの。
3.細線は各期に入る前の時点の見通しにおける『荷動き指数』(09 年?期の『荷動き指数』は今回調査時点の見通し)、太線は各期 の途中の時点で判断した実績見込みの『荷動き指数』(09 年?期 の『荷動き指数』は今回調査における判断)。
4.今回調査は09 年9 月初旬に実施し、1087 社から回答を得た。
注) 荷動きの実績(見込み)と見通しの『荷動き指数』 20 10 0 △10 △20 △30 △40 △50 △60 △70 △80 ? ? ? ? 2006 ? ? ? ? 2007 ? ? ? ? 2008 ? ? ? ? 2009 10 9 12 16 13 10 14 10 8 5 5 4 3 3 △2 △6 △12 △25 △23 △18 △5 △6 △2 △65 △56 △38 △61 △75 △74 △57 △69 実績 見通し

月刊ロジスティクス・ビジネス

購読のお申し込みはこちらから