2009年12月号
特集
特集
第3部 ポスト人材派遣の2つの選択肢
DECEMBER 2009 22
来年初頭にも改正法案を提出か
今年一〇月七日、厚生労働省の諮問機関である労
働政策審議会の職業安定分科会が開催され、労働者
派遣法の見直しに向けた議論がスタートした。
労働者 代表、使用者(経営者)代表、第三者的立場の公益 代表の各委員が集まり、鳩山政権の公約である製造 業派遣や日雇派遣の原則禁止などが検討された。
当日は労使の意見が激しく対立した。
労働者側委 員が「これまで雇用の多様化は進んできたが、それ に見合うセーフティネットの整備は進まなかった。
大 胆な見直しが必要」と主張するのに対し、使用者側 委員は「売り上げが減る中で経営者はコスト削減に努 めている。
規制を強めれば人を雇えなくなる。
慎重 な議論を」と反論。
利害が真っ向から食い違う構造を 浮き彫りにする形で、その日の分科会は終了した。
その後、同分科会の労働力需給制度部会が十一月 一六日までに三度開催されている。
議題はいずれも 「今後の労働者派遣制度の在り方について」。
今後さ らに部会等での審議を重ねた後、政府は審議内容を 年内に取りまとめ、来年の通常国会に改正法案とし て提出する方針だ。
通常国会提出後は、各党の議員で構成される厚生 労働委員会で法案の内容が審議される。
大きな構図 としては、民主・社民・国民新党の与党三党と、下 野した自民党との綱引きになる。
登録型派遣を認め る範囲と製造業派遣の可否が争点だ。
登録型派遣に関して三党案では、「二六専門業務以 外は常用雇用のみとする」と断じている。
通訳・翻 訳・速記など専門性の高い業種以外の登録型派遣は 禁止だ。
一方の自民党案では、派遣元事業者に対し て常用雇用への?努力義務?などを課してはいるが、 禁止までは謳っていない。
製造業派遣についても、三党案は登録型派遣と同 じように専門業務を除いて原則禁止としている。
対 する自民党案では製造業派遣については触れていな い。
しかし、自民党議員の多くは企業利益の観点か ら製造業派遣禁止に反対の姿勢を明らかにしている。
通常国会で、政権与党が?抵抗勢力?である自民党 の意見を排し、どれだけ規制強化に踏み込めるかが焦 点となる。
日雇派遣に対する見解はどうか。
三党案では「雇 用契約期間が二カ月以下の労働者派遣を禁止」となっ ている。
自民党案でも「日雇派遣(雇用契約期間が 日々または三〇日以内)は原則禁止」と明記してい る。
「二カ月以下」と「三〇日以内」という差はある ものの、日雇派遣は禁止で一致している。
日本人材派遣協会の河邉彰男事務局事業担当次長 兼企画広報課長は、派遣業の事業領域を著しく狭め ることになる三党案を厳しく批判している。
「鳩山政権は労働者派遣法の規制を強化すれば正社 員が増えて雇用が安定すると喧伝しているが、そんな ことはない。
日本の全雇用者約五五〇〇万人のうち 派遣労働者はわずか一一六万人だ。
全体の二%にす ぎない。
派遣スタッフに焦点を絞って規制を強化した ところで、どれほどの効果があるのか」 とりわけ、製造業派遣の禁止は経済実態に即して いないと主張する。
景気変動に伴う生産調整が必要な 製造業において派遣を禁止すれば、企業の競争力を損 ねるばかりか雇用意欲を冷やし、海外への生産シフト が進む。
結果として、製造業は空洞化し、今以上に 多くの労働者の雇用と賃金が害される可能性がある。
日雇派遣の禁止も、労働者保護には繋がらないと いう見解だ。
逆に、短期派遣を中心に働いている労 ポスト人材派遣の2つの選択肢 労働者派遣法が規制強化に向かっている。
与党3党案 が実現すれば、物流現場ではいかなる派遣スタッフも使え なくなる。
荷主と物流企業に残された選択肢は2つ。
直 接雇用化を進めるか、業務請負会社に任せるか。
判断を 誤れば手痛いしっぺ返しが待っている。
(石鍋 圭) 第 3 部 特集 新しい物流労務管理 23 DECEMBER 2009 働者の雇用機会が奪われる点を問題視する。
河邉事 務局事業担当次長は「厚労省の調査をみても、一カ 月未満の短期派遣で働く労働者のうち約半数は、他 に職業を持つ人や主婦、学生など。
いずれも長期の 雇用契約を結ぶのが困難な人たちだ。
政府はそういっ た現実も直視する必要がある」と説明する。
設立以来、右肩上がりを続けてきた日本人材派遣 協会の加盟会員社数は、今年の初頭から脱退が相次 いでいる。
この上、派遣事業のメーンである登録型派 遣の禁止などが現実になれば、業界の存亡まで危ぶ まれる。
それでも、三党案は実現に向かう可能性が高い。
あ る政界ウォッチャーは「与党三党間の関係がこじれた り、経済界の接近などで改正法案が実現しないとい う可能性は残されている。
政界では鳴り物入りの法案 が実らないことがよくある。
しかし、あれだけ喧伝 して政権奪取の原動力になった法案を与党が蔑ろにす るとも思えない。
よほど予期せぬ障壁が生まれない限 り、実現に向かっていくだろう」と予測する。
直接雇用 or 業務請負? いずれにせよ日雇派遣に関しては企業利益を代弁 する自民党でさえ禁止の方針だ。
派遣会社への電話 一本で翌日や当日の欠員を埋める手法は、遠からず使 えなくなると覚悟した方がいい。
派遣の代替策とし てはどんな選択肢があるのか。
物流業界に特化した 人材マネジメントコンサルティング会社・ベアーハン ドの栃本浩昭代表は?二つの道?があると解説する。
「一つは業務請負会社に現場を任せて、物流を完全 にアウトソーシングする道。
もう一つは派遣スタッフ を全て自社の直接雇用に切り替える道。
どちらも一長 一短があるので、自社にとってどちらが最適か慎重に 選択する必要がある。
安易に選択して判断を誤れば、 手痛いしっぺ返しを食うことになる」 業務請負会社に現場を任せれば、物流費を変動費 化することができる。
人員調達やマネジメントにも頭 を悩ませる必要は無くなる。
ただし、直接指揮命令 することはできないので、物流現場がブラックボック ス化してしまう。
現場管理ノウハウも貯まらず、物流 費を削減したいと考えても請負会社に値下げ要求する ことくらいしかできない。
一方、派遣スタッフを直接雇用化すれば現場を把握 できる。
偽装請負で引っかかることもない。
運用の 工夫次第で生産性を上げることもできる。
ただし、そのためには、これまで派遣会社に頼って きた機能を自社内に構築しなければならない。
募集・ まず、現在の労働者マーケットが近年稀に見る?買い 手市場?になっている点だ。
募集をかければ人はい くらでも集まる。
採用からシフト管理、教育、人事評価、給与計算・ 支払いなど一連の労務管理業務を行う必要が出てく る。
物量の波動にも対応しなければいけない。
雇った スタッフを各種保険に加入させる手続きも必要だ。
あ らゆる雇用リスクを背負い込むことになる。
変化に敏感な企業は既に動き出している。
物流現場 の業務請負事業をメーンとし、人材派遣事業やコンサ ルティング事業も手掛けるセル・ホールディングスの 三浦弘人社長は「派遣が使えなくなる抵触日を機に、 直接雇用に切り替える企業が増えている。
当グループ で人材派遣事業を担うセル・スタッフィングでは他社 の物流現場に作業員を派遣しているが、大手や準大 手を中心にそういった流れが加速しつつあるのを感じ る」と語る。
なぜ直接雇用なのか。
背景には二つの要因がある。
正規雇用 3386 万人 61.9% パート 798 万人 14.6% アルバイト 334 万人 6.1% 役員 386 万人 7.1% その他 133 万人 2.4% 雇用者人口の内訳(5471 万人) 出典:総務省統計局「労働力調査詳細集計結果」(2009 年第一四半期) 契約社員・嘱託 318 万人 5.8% 派遣労働 116 万人 2.1% 日本人材派遣協会の河邉 彰男事務局事業担当次長 兼企画広報課長 DECEMBER 2009 24 ある物流企業では今年のお中元業務のため、三つ のセンターで計五〇人の募集をかけた。
募集費は約四 〇万円。
七〇人程度の応募を想定していたが、なん と一〇倍の七〇〇人以上が殺到した。
しかも募集広 告に掲載した時給は、人が集まらなかった昨年よりも ずっと低い額だった。
事実、企業の募集時平均時給は今年に入って大きく 下がっている。
リクルートが毎月発表している「〇九 年九月 アルバイト・パート募集時平均時給調査」を 見ると、三大都市圏(首都圏・関西・東海)におけ る今年の「製造・物流・清掃系」の時給は、一昨年、 昨年と比べて大きく下落している。
もう一つの要因は、違法派遣に対する社会的な目が 厳しくなったことだ。
コンプライアンスを気にする企 業が多くなってきた。
前出のベアーハンド栃本代表は 「法律がいつ、どうなるかわからない派遣にいつまで も頼っていれば、いずれ自分達にも被害が及ぶかも知 れない。
それならば、労働者の受け入れ態勢を整備し、 全て自社化してしまおう。
これを機に現場力を強化 し、他社との差別化にも繋げようというマインドが働 いている。
特に物流子会社、外資系物流企業、大手 物流企業に顕著な傾向だ」と言う。
住商グローバル・ロジスティクス(SGL)も派遣 スタッフを直接雇用に切り替えた企業のうちの一社だ。
対象となったのは通販のジュピターショップチャンネル を荷主とする千葉県の茜浜センター。
受託時はほぼ一 〇〇%派遣スタッフで現場を回していたが、昨年の八 月から徐々に直接雇用に切り替え始めた。
SGLの菊池英一管理本部人事部長は「きっかけ は抵触日だったが、もっと大きな理由として、現場の 生産性を高めて荷主のニーズに応えていく必要があっ た。
また、派遣に対しては世論の反発や法改正の可 能性など外的な不確定要素が多い。
今後のコンプライ アンスを考えると、人材は自社で雇用した方が良いと いう結論に至った」と直接雇用を進めた理由を説明す る。
直接雇用化にあたり、推進の中心メンバーとしてセ ンター事業本部からセンター長クラスの社員を四、五 人選出して計画を練らせた。
さらに、センター事業本 部内に七人から成る「人材チーム」を設け、労務管理 の実務に当たらせた。
人材チームには人材派遣会社出 身者などを外部からも登用した。
そのほか、管理本部 や親会社の住友商事も包括的なサポートに当たった。
計画は概ね予定通りに進み、今年の五月末には全て の派遣スタッフを直接雇用に切り替えることができた。
しかし、苦労や課題も多いという。
「やはり物量が跳ねた時の波動調整は難しい。
この 前も現場スタッフだけでは対応しきれず、管理スタッ フにスクランブル応援を要請するということがあった。
最終的には全て自社スタッフで乗り切ることが目標だ が、年末の繁忙期では一時的に派遣スタッフを頼る可 能性もある」と菊池人事部長は自社雇用化の難しさ を語る。
また、約九〇〇人ものスタッフを自社雇用化してい るので、それに見合う人事評価やマネジメントの方法 も構築しなければならない。
その他、シフト管理や教 育の問題なども含め「全ての面でノウハウを蓄積して いる段階だ」(菊池人事部長)という。
コストもかかっている。
自社雇用化にあたり、勤 怠・給与システムを新たに導入した。
それまでのSG Lには時給計算の文化が無く、既存のシステムでは対 応できなかった。
また、給料は月払いを基本としてい るが、なかには週払いなど短期間での支払いを望むス タッフもいる。
それを断っていては現場スタッフを確 1,000 990 980 970 960 950 940 930 920 910 900 出典:リクルート 953 937 913 932 923 920 920 919 917 926 915 1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月 (円) 三大都市圏募集時平均時給調査 《製造・物流・清掃係》 2007年 2008年 2009年 SGLの茜浜センターでは約900人の派 遣スタッフを自社雇用に切り替えた 特集 新しい物流労務管理 25 DECEMBER 2009 カ月の実習期間終了後、正規雇用として受け入れれ ば一人当たり一〇〇万円が段階的に受け取れる。
さ らに、採用後に行う教育訓練の経費助成として、一 人当たり最大五〇万円が支払われる。
合計で一人当 たり最大二一〇万円の助成金が下りる計算になる。
この他にも、雇用保険被保険者の従業員に研修を 受講させることで助成金を受け取ることができる「キャ リア形成促進助成金」や、残業削減により雇用維持 を図る「残業削減雇用維持奨励金」など、数多くの 助成金が整備されている。
自社での導入が難しいよう なら、社会保険労務士に依頼すれば助成額の一〇% 〜二〇%の成功報酬で助成金給付申請を代行してく れる。
セル・ホールディングスが請け負っている物流現場 では一部派遣スタッフを雇い入れていたが、「派遣労 働者雇用安定化特別奨励金」と「実習型雇用支援事 業」を導入しながら直接雇用を進めれば、いずれも 数千万円の助成金が下りることが明らかになった。
今後、セル・ホールディングスでは物流企業を対象 にした助成金活用のためのセミナーを開催していく予 定だ。
三浦社長は「各種助成金を受けるには、しっ かり雇用保険に加入しているなどいくつかの条件が あるが、できていない企業も多い。
助成を受けるに は法令を順守した環境を、コストと労力をかけて整備 しなければならない。
しかし、整備できればかかっ たコストと同等かそれ以上の助成金を享受できる。
助 成金導入のステップは、いわば?マジメ?になる良い チャンスでもある」と語る。
自社雇用か業務請負か。
その判断は置かれている 環境によって異なる。
それでも一つだけ言えることが ある。
派遣に依存した現場運営には未来が無いとい うことだ。
保・定着させることは難しい。
その他にも人材チームの設立費用、サポートした管 理本部の間接費用なども発生している。
かかった費 用総額と自社雇用化によって得られたメリットとでは 比較にならない。
それでも、自社雇用を進めたのは 間違いではなかったと確信している。
「自社雇用化へ の投資は将来必ず?現場力?という形で顕在化する」 と菊池人事部長は語る。
直接雇用化で助成金をゲット 自社雇用化への流れが進む中で、情報に敏い企業 は国から得られる助成金に着目している。
「派遣労働 者雇用安定化特別奨励金」はその一つだ。
派遣先企 業が派遣スタッフを直接雇用化すると奨励金が支給さ れる。
支給条件は、「六カ月を超える期間継続して労 働者派遣を受け入れていた業務に、派遣労働者を無 期または六カ月以上の有期(更新有りの場合に限る) で直接雇い入れる場合」、「労働者派遣の期間が終了 する前に派遣労働者を直接雇い入れる場合」の二つ に該当すること。
業種は問わない。
期間の定めのない労働契約を結ぶと、大企業の場 合一人につき最大五〇万円、中小企業の場合は一人 につき最大一〇〇万円を受け取ることができる。
奨 励金は段階的に支給される。
例えば一〇〇万円を受 け取れる中小企業の場合、契約から六カ月経過後に 五〇万円、一年六カ月経過後に二五万円、二年六カ 月後に二五万円という形で給付される。
「実習型雇用支援事業」は、企業がハローワークを 介して求職者と六カ月間の有期雇用契約を結び、実 習や座学などを実施することで助成金を受け取ること ができる制度だ。
六カ月間の実習期間中には一人あ たり毎月一〇万円(計六〇万円)が支給される。
六 主な雇用・労働関係助成金の概要 残業削減雇用維持奨励金 受け入れている派遣労働者を 直接雇用する ●期間の定めのない雇用…1人につき最高100万円 ●6カ月以上の有期雇用…1人につき最高50万円 以下、すべて1人につき ●実習型雇用助成金…月額10万円×6カ月(有期雇用) ●正規雇用奨励金…最高100万円(50万円×2回) ●教育訓練助成金…上限50万円(正規雇用後の教育訓練) ●経費助成…原則として受講料等の1/2 ●賃金助成…支払った賃金の1/2に相当する額 ●有期契約労働者…1人につき最高30万円 ●受け入れている派遣労働者…1人につき最高45万円 助成金名 支給の対象 助成内容(概要) 残業削減により雇用維持を図る 従業員に研修を受講させる ハローワーク経由で 従業員を雇い、実習を施す 派遣労働者雇用 安定化特別奨励金 実習型雇用支援事業 キャリア形成促進助成金 セル・ホールディングス資料より作成 セル・ホールディングスの 三浦弘人社長
労働者 代表、使用者(経営者)代表、第三者的立場の公益 代表の各委員が集まり、鳩山政権の公約である製造 業派遣や日雇派遣の原則禁止などが検討された。
当日は労使の意見が激しく対立した。
労働者側委 員が「これまで雇用の多様化は進んできたが、それ に見合うセーフティネットの整備は進まなかった。
大 胆な見直しが必要」と主張するのに対し、使用者側 委員は「売り上げが減る中で経営者はコスト削減に努 めている。
規制を強めれば人を雇えなくなる。
慎重 な議論を」と反論。
利害が真っ向から食い違う構造を 浮き彫りにする形で、その日の分科会は終了した。
その後、同分科会の労働力需給制度部会が十一月 一六日までに三度開催されている。
議題はいずれも 「今後の労働者派遣制度の在り方について」。
今後さ らに部会等での審議を重ねた後、政府は審議内容を 年内に取りまとめ、来年の通常国会に改正法案とし て提出する方針だ。
通常国会提出後は、各党の議員で構成される厚生 労働委員会で法案の内容が審議される。
大きな構図 としては、民主・社民・国民新党の与党三党と、下 野した自民党との綱引きになる。
登録型派遣を認め る範囲と製造業派遣の可否が争点だ。
登録型派遣に関して三党案では、「二六専門業務以 外は常用雇用のみとする」と断じている。
通訳・翻 訳・速記など専門性の高い業種以外の登録型派遣は 禁止だ。
一方の自民党案では、派遣元事業者に対し て常用雇用への?努力義務?などを課してはいるが、 禁止までは謳っていない。
製造業派遣についても、三党案は登録型派遣と同 じように専門業務を除いて原則禁止としている。
対 する自民党案では製造業派遣については触れていな い。
しかし、自民党議員の多くは企業利益の観点か ら製造業派遣禁止に反対の姿勢を明らかにしている。
通常国会で、政権与党が?抵抗勢力?である自民党 の意見を排し、どれだけ規制強化に踏み込めるかが焦 点となる。
日雇派遣に対する見解はどうか。
三党案では「雇 用契約期間が二カ月以下の労働者派遣を禁止」となっ ている。
自民党案でも「日雇派遣(雇用契約期間が 日々または三〇日以内)は原則禁止」と明記してい る。
「二カ月以下」と「三〇日以内」という差はある ものの、日雇派遣は禁止で一致している。
日本人材派遣協会の河邉彰男事務局事業担当次長 兼企画広報課長は、派遣業の事業領域を著しく狭め ることになる三党案を厳しく批判している。
「鳩山政権は労働者派遣法の規制を強化すれば正社 員が増えて雇用が安定すると喧伝しているが、そんな ことはない。
日本の全雇用者約五五〇〇万人のうち 派遣労働者はわずか一一六万人だ。
全体の二%にす ぎない。
派遣スタッフに焦点を絞って規制を強化した ところで、どれほどの効果があるのか」 とりわけ、製造業派遣の禁止は経済実態に即して いないと主張する。
景気変動に伴う生産調整が必要な 製造業において派遣を禁止すれば、企業の競争力を損 ねるばかりか雇用意欲を冷やし、海外への生産シフト が進む。
結果として、製造業は空洞化し、今以上に 多くの労働者の雇用と賃金が害される可能性がある。
日雇派遣の禁止も、労働者保護には繋がらないと いう見解だ。
逆に、短期派遣を中心に働いている労 ポスト人材派遣の2つの選択肢 労働者派遣法が規制強化に向かっている。
与党3党案 が実現すれば、物流現場ではいかなる派遣スタッフも使え なくなる。
荷主と物流企業に残された選択肢は2つ。
直 接雇用化を進めるか、業務請負会社に任せるか。
判断を 誤れば手痛いしっぺ返しが待っている。
(石鍋 圭) 第 3 部 特集 新しい物流労務管理 23 DECEMBER 2009 働者の雇用機会が奪われる点を問題視する。
河邉事 務局事業担当次長は「厚労省の調査をみても、一カ 月未満の短期派遣で働く労働者のうち約半数は、他 に職業を持つ人や主婦、学生など。
いずれも長期の 雇用契約を結ぶのが困難な人たちだ。
政府はそういっ た現実も直視する必要がある」と説明する。
設立以来、右肩上がりを続けてきた日本人材派遣 協会の加盟会員社数は、今年の初頭から脱退が相次 いでいる。
この上、派遣事業のメーンである登録型派 遣の禁止などが現実になれば、業界の存亡まで危ぶ まれる。
それでも、三党案は実現に向かう可能性が高い。
あ る政界ウォッチャーは「与党三党間の関係がこじれた り、経済界の接近などで改正法案が実現しないとい う可能性は残されている。
政界では鳴り物入りの法案 が実らないことがよくある。
しかし、あれだけ喧伝 して政権奪取の原動力になった法案を与党が蔑ろにす るとも思えない。
よほど予期せぬ障壁が生まれない限 り、実現に向かっていくだろう」と予測する。
直接雇用 or 業務請負? いずれにせよ日雇派遣に関しては企業利益を代弁 する自民党でさえ禁止の方針だ。
派遣会社への電話 一本で翌日や当日の欠員を埋める手法は、遠からず使 えなくなると覚悟した方がいい。
派遣の代替策とし てはどんな選択肢があるのか。
物流業界に特化した 人材マネジメントコンサルティング会社・ベアーハン ドの栃本浩昭代表は?二つの道?があると解説する。
「一つは業務請負会社に現場を任せて、物流を完全 にアウトソーシングする道。
もう一つは派遣スタッフ を全て自社の直接雇用に切り替える道。
どちらも一長 一短があるので、自社にとってどちらが最適か慎重に 選択する必要がある。
安易に選択して判断を誤れば、 手痛いしっぺ返しを食うことになる」 業務請負会社に現場を任せれば、物流費を変動費 化することができる。
人員調達やマネジメントにも頭 を悩ませる必要は無くなる。
ただし、直接指揮命令 することはできないので、物流現場がブラックボック ス化してしまう。
現場管理ノウハウも貯まらず、物流 費を削減したいと考えても請負会社に値下げ要求する ことくらいしかできない。
一方、派遣スタッフを直接雇用化すれば現場を把握 できる。
偽装請負で引っかかることもない。
運用の 工夫次第で生産性を上げることもできる。
ただし、そのためには、これまで派遣会社に頼って きた機能を自社内に構築しなければならない。
募集・ まず、現在の労働者マーケットが近年稀に見る?買い 手市場?になっている点だ。
募集をかければ人はい くらでも集まる。
採用からシフト管理、教育、人事評価、給与計算・ 支払いなど一連の労務管理業務を行う必要が出てく る。
物量の波動にも対応しなければいけない。
雇った スタッフを各種保険に加入させる手続きも必要だ。
あ らゆる雇用リスクを背負い込むことになる。
変化に敏感な企業は既に動き出している。
物流現場 の業務請負事業をメーンとし、人材派遣事業やコンサ ルティング事業も手掛けるセル・ホールディングスの 三浦弘人社長は「派遣が使えなくなる抵触日を機に、 直接雇用に切り替える企業が増えている。
当グループ で人材派遣事業を担うセル・スタッフィングでは他社 の物流現場に作業員を派遣しているが、大手や準大 手を中心にそういった流れが加速しつつあるのを感じ る」と語る。
なぜ直接雇用なのか。
背景には二つの要因がある。
正規雇用 3386 万人 61.9% パート 798 万人 14.6% アルバイト 334 万人 6.1% 役員 386 万人 7.1% その他 133 万人 2.4% 雇用者人口の内訳(5471 万人) 出典:総務省統計局「労働力調査詳細集計結果」(2009 年第一四半期) 契約社員・嘱託 318 万人 5.8% 派遣労働 116 万人 2.1% 日本人材派遣協会の河邉 彰男事務局事業担当次長 兼企画広報課長 DECEMBER 2009 24 ある物流企業では今年のお中元業務のため、三つ のセンターで計五〇人の募集をかけた。
募集費は約四 〇万円。
七〇人程度の応募を想定していたが、なん と一〇倍の七〇〇人以上が殺到した。
しかも募集広 告に掲載した時給は、人が集まらなかった昨年よりも ずっと低い額だった。
事実、企業の募集時平均時給は今年に入って大きく 下がっている。
リクルートが毎月発表している「〇九 年九月 アルバイト・パート募集時平均時給調査」を 見ると、三大都市圏(首都圏・関西・東海)におけ る今年の「製造・物流・清掃系」の時給は、一昨年、 昨年と比べて大きく下落している。
もう一つの要因は、違法派遣に対する社会的な目が 厳しくなったことだ。
コンプライアンスを気にする企 業が多くなってきた。
前出のベアーハンド栃本代表は 「法律がいつ、どうなるかわからない派遣にいつまで も頼っていれば、いずれ自分達にも被害が及ぶかも知 れない。
それならば、労働者の受け入れ態勢を整備し、 全て自社化してしまおう。
これを機に現場力を強化 し、他社との差別化にも繋げようというマインドが働 いている。
特に物流子会社、外資系物流企業、大手 物流企業に顕著な傾向だ」と言う。
住商グローバル・ロジスティクス(SGL)も派遣 スタッフを直接雇用に切り替えた企業のうちの一社だ。
対象となったのは通販のジュピターショップチャンネル を荷主とする千葉県の茜浜センター。
受託時はほぼ一 〇〇%派遣スタッフで現場を回していたが、昨年の八 月から徐々に直接雇用に切り替え始めた。
SGLの菊池英一管理本部人事部長は「きっかけ は抵触日だったが、もっと大きな理由として、現場の 生産性を高めて荷主のニーズに応えていく必要があっ た。
また、派遣に対しては世論の反発や法改正の可 能性など外的な不確定要素が多い。
今後のコンプライ アンスを考えると、人材は自社で雇用した方が良いと いう結論に至った」と直接雇用を進めた理由を説明す る。
直接雇用化にあたり、推進の中心メンバーとしてセ ンター事業本部からセンター長クラスの社員を四、五 人選出して計画を練らせた。
さらに、センター事業本 部内に七人から成る「人材チーム」を設け、労務管理 の実務に当たらせた。
人材チームには人材派遣会社出 身者などを外部からも登用した。
そのほか、管理本部 や親会社の住友商事も包括的なサポートに当たった。
計画は概ね予定通りに進み、今年の五月末には全て の派遣スタッフを直接雇用に切り替えることができた。
しかし、苦労や課題も多いという。
「やはり物量が跳ねた時の波動調整は難しい。
この 前も現場スタッフだけでは対応しきれず、管理スタッ フにスクランブル応援を要請するということがあった。
最終的には全て自社スタッフで乗り切ることが目標だ が、年末の繁忙期では一時的に派遣スタッフを頼る可 能性もある」と菊池人事部長は自社雇用化の難しさ を語る。
また、約九〇〇人ものスタッフを自社雇用化してい るので、それに見合う人事評価やマネジメントの方法 も構築しなければならない。
その他、シフト管理や教 育の問題なども含め「全ての面でノウハウを蓄積して いる段階だ」(菊池人事部長)という。
コストもかかっている。
自社雇用化にあたり、勤 怠・給与システムを新たに導入した。
それまでのSG Lには時給計算の文化が無く、既存のシステムでは対 応できなかった。
また、給料は月払いを基本としてい るが、なかには週払いなど短期間での支払いを望むス タッフもいる。
それを断っていては現場スタッフを確 1,000 990 980 970 960 950 940 930 920 910 900 出典:リクルート 953 937 913 932 923 920 920 919 917 926 915 1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月 (円) 三大都市圏募集時平均時給調査 《製造・物流・清掃係》 2007年 2008年 2009年 SGLの茜浜センターでは約900人の派 遣スタッフを自社雇用に切り替えた 特集 新しい物流労務管理 25 DECEMBER 2009 カ月の実習期間終了後、正規雇用として受け入れれ ば一人当たり一〇〇万円が段階的に受け取れる。
さ らに、採用後に行う教育訓練の経費助成として、一 人当たり最大五〇万円が支払われる。
合計で一人当 たり最大二一〇万円の助成金が下りる計算になる。
この他にも、雇用保険被保険者の従業員に研修を 受講させることで助成金を受け取ることができる「キャ リア形成促進助成金」や、残業削減により雇用維持 を図る「残業削減雇用維持奨励金」など、数多くの 助成金が整備されている。
自社での導入が難しいよう なら、社会保険労務士に依頼すれば助成額の一〇% 〜二〇%の成功報酬で助成金給付申請を代行してく れる。
セル・ホールディングスが請け負っている物流現場 では一部派遣スタッフを雇い入れていたが、「派遣労 働者雇用安定化特別奨励金」と「実習型雇用支援事 業」を導入しながら直接雇用を進めれば、いずれも 数千万円の助成金が下りることが明らかになった。
今後、セル・ホールディングスでは物流企業を対象 にした助成金活用のためのセミナーを開催していく予 定だ。
三浦社長は「各種助成金を受けるには、しっ かり雇用保険に加入しているなどいくつかの条件が あるが、できていない企業も多い。
助成を受けるに は法令を順守した環境を、コストと労力をかけて整備 しなければならない。
しかし、整備できればかかっ たコストと同等かそれ以上の助成金を享受できる。
助 成金導入のステップは、いわば?マジメ?になる良い チャンスでもある」と語る。
自社雇用か業務請負か。
その判断は置かれている 環境によって異なる。
それでも一つだけ言えることが ある。
派遣に依存した現場運営には未来が無いとい うことだ。
保・定着させることは難しい。
その他にも人材チームの設立費用、サポートした管 理本部の間接費用なども発生している。
かかった費 用総額と自社雇用化によって得られたメリットとでは 比較にならない。
それでも、自社雇用を進めたのは 間違いではなかったと確信している。
「自社雇用化へ の投資は将来必ず?現場力?という形で顕在化する」 と菊池人事部長は語る。
直接雇用化で助成金をゲット 自社雇用化への流れが進む中で、情報に敏い企業 は国から得られる助成金に着目している。
「派遣労働 者雇用安定化特別奨励金」はその一つだ。
派遣先企 業が派遣スタッフを直接雇用化すると奨励金が支給さ れる。
支給条件は、「六カ月を超える期間継続して労 働者派遣を受け入れていた業務に、派遣労働者を無 期または六カ月以上の有期(更新有りの場合に限る) で直接雇い入れる場合」、「労働者派遣の期間が終了 する前に派遣労働者を直接雇い入れる場合」の二つ に該当すること。
業種は問わない。
期間の定めのない労働契約を結ぶと、大企業の場 合一人につき最大五〇万円、中小企業の場合は一人 につき最大一〇〇万円を受け取ることができる。
奨 励金は段階的に支給される。
例えば一〇〇万円を受 け取れる中小企業の場合、契約から六カ月経過後に 五〇万円、一年六カ月経過後に二五万円、二年六カ 月後に二五万円という形で給付される。
「実習型雇用支援事業」は、企業がハローワークを 介して求職者と六カ月間の有期雇用契約を結び、実 習や座学などを実施することで助成金を受け取ること ができる制度だ。
六カ月間の実習期間中には一人あ たり毎月一〇万円(計六〇万円)が支給される。
六 主な雇用・労働関係助成金の概要 残業削減雇用維持奨励金 受け入れている派遣労働者を 直接雇用する ●期間の定めのない雇用…1人につき最高100万円 ●6カ月以上の有期雇用…1人につき最高50万円 以下、すべて1人につき ●実習型雇用助成金…月額10万円×6カ月(有期雇用) ●正規雇用奨励金…最高100万円(50万円×2回) ●教育訓練助成金…上限50万円(正規雇用後の教育訓練) ●経費助成…原則として受講料等の1/2 ●賃金助成…支払った賃金の1/2に相当する額 ●有期契約労働者…1人につき最高30万円 ●受け入れている派遣労働者…1人につき最高45万円 助成金名 支給の対象 助成内容(概要) 残業削減により雇用維持を図る 従業員に研修を受講させる ハローワーク経由で 従業員を雇い、実習を施す 派遣労働者雇用 安定化特別奨励金 実習型雇用支援事業 キャリア形成促進助成金 セル・ホールディングス資料より作成 セル・ホールディングスの 三浦弘人社長
