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2009年12月号
物流IT解剖

最終回 鴻池運輸

DECEMBER 2009  52 事業所別の独立採算制で ITが分散し個別最適に   大阪に本社を構える鴻池運輸は、 関西の大物侠客として知られた鴻池 忠治郎が約一三〇年前に創業した老 舗物流事業者だ。
未上場ながらグル ープの連結売上高は二〇〇〇億円を 超え、国内有数の規模を誇る。
手掛 けている業務は物流事業にとどまら ず、メーカーの生産工程の一部請負 や構内物流など多岐にわたる。
 不況に強い事業者としても知られ る。
多くの企業がリーマンショック に揺れた二〇〇九年三月期の業績 は、連結売上高二一七三億円(前期 比〇・三%減)、営業利益七〇億円 (同二五・九%減)だった。
長年続 けてきた増収は途絶えたものの、底 堅さを見せた。
 鴻池運輸で情報システム部を含む 管理本部を統轄している林雅信取締 役は、「景気が悪くなると食品関係が 良くなるなど、一部の落ち込みを他 でカバーしてきた。
当社のような労 働集約型の仕事は、人材次第で業務 の生産性が大きく変わる。
景気が悪 くなれば良い人材を確保しやすくな り、それが利益につながる。
すべて が悪くなれば対応のしようがないが、 取引先の幅の広さが業績の安定につ ながっている」と説明する。
 顧客数は継続的に業務を受託して いる取引先だけでも三五〇〇社を数 える。
その顔ぶれも鉄鋼・機械メー カーから食品企業まで多岐にわたっ ている。
特積み事業のように不特定 多数のユーザーを対象とする物流ビ ジネスではなく、センター運営や業 務の受託を中心としている同社にあ って、この取引先の多様さは注目に 値する。
 国内約一六〇カ所に事業所を構え、 地域ごとに顧客に密着する営業戦略 をとってきた。
事業所単位の独立採 算制を基本とする。
それが同社の業 績の安定に寄与してきた反面、マイ ナスの側面も持っている。
各事業所 が個別最適に走ることで、全社レベ ルの最適化を阻害する恐れがある。
 実際、IT活用にもその弊害が あらわれていた。
過去の鴻池運輸 は、顧客の要望に応じたシステムの 構築を案件ごとの採算もしくは事業 所ごとの採算で判断して実行してき た。
ハードの管理も分散し、全国四 〇カ所余りにサーバーが乱立してい た。
こうしたことがコスト効率の悪 化や、システムを標準化できないと いう課題を招いていた。
 分散化したIT活用は、ノウハウ の共有という面でも難しさを生み出 す。
既存のシステム資産を別の案件 に有効活用することが容易ではなか った。
システム開発をローコスト化 して、物流事業の競争力を高めてい くには、基盤となる物流システムを 見直す必要があった。
10億円強を投じて物流システムを刷新 業務の標準化による全体最適化に課題 鴻池運輸  独立採算制に基づく管理を特徴とし、システム活用も分散処理を基 本としてきた。
40台を超すサーバーの集約と、IT基盤の統合によるノウ ハウの共有化をめざして、2006年から物流システムの刷新に着手。
09 年4月に新システム「KALOS」を全面稼働させた。
管理本部長として ITも管掌している 林雅信取締役兼執行役員 営業戦略 最終回 ◆本社組織…管理本部の「情報システム 部」に20人が所属。
2009年9月末までは 管理本部の中の「情報システム部」と、開 発業務本部の中の「物流システム部」にIT 部門が分かれていた。
これを新・情報シス テム部として統合し、現場から管理にまで 至るITの管理体制を一元化した。
  ◆情報子会社…なし   《概要》06 年からWMS をはじめとする業務系システムの刷新に着手した。
旧シ ステムに蓄積されたソフトを維持しつつ、情報を一元管理できる新たなIT 基盤 「KALOS」を09 年4 月に全面稼働させた。
 今後はこの新システムを営業に活かしながら、管理系システムとも連携させて、 経営情報のアウトプットの高度化などを実現していく方針。
ちなみに同社の年間 IT コストは単体売上高の1% 弱程度。
 10 年前まではNEC が協力ITベンダーの中心だった。
その後、マルチベンダ ー化を推進。
富士通、IBM などを幅広く活用するようになった。
KALOS プロジ ェクトではさらに新しいITベンダーを選択した。
     53  DECEMBER 2009 てきた。
近年はNECを中核パート ナーとしながら、富士通やIBMな どを幅広く利用している。
 「二〇〇〇年代の初頭に社内で実 施した『経営改革プロジェクト』を通 じて経営構造を見直すなかで、IT パートナーの多様化を図った。
それ からはマルチベンダー化を推進してい る。
その一番端的な例が今回の物流 システムの開発で、従来とはまった く異なる考え方をとった」と情 報システム部の塙阪久我課長は 振り返る。
 約四年前に着手した物流シ ステムの刷新では、ITベンダ ーの選び方をそれまでとは大き く改めた。
このシステム刷新は、 その当時「物流システム部」に 所属していた寺田猛史情報シ ステム部担当課長が〇六年春 に起案し、経営トップの承認を 得てスタートしたものだ。
一連 の活動は社内で「KALOS (カロス)プロジェクト」と呼ば れている。
 開発パートナーを選ぶコンペ を実施するために、〇六年四 月に既存の協力ITベンダーな ど五社に声をかけた。
それか ら半年後に、日本ユニシスとワ イ・ディ・シー(YDC)の二 社をパートナーに選んだ。
WMSを はじめとする業務システムの開発は 日本ユニシスが担当。
EDI基盤の 開発はYDCが行うという分業体制 を採用した。
 YDCは横河電機や日本オラクル などが出資するIT企業で、売上高 は六八億円(〇九年三月期)にすぎ ない。
しかし、企業間のデータ交換 や企業内データ連係などの分野で独 自の強みを持っていることを評価した。
大手に偏りがちだった従来のベンダー 活用とは一線を画する判断だった。
 こうして〇六年一〇月から新シス テム「KALOS」を開発するため のプロジェクトが動きだした。
パート ナー二社の参加メンバーに加え、鴻 池運輸からは「物流システム部」に 所属していた七人の社員のうち四人 がプロジェクト専任になった。
社内 に専用のプロジェクトルームを設ける 余地がなかったため、社外にスペー スを確保して実務に取り組んだ。
 要件設定を終えた〇七年四月の 段階で、開発業務に関する詳細なコ スト計算を改めて行った。
ここで誤 算が明らかになった。
当初の見込み では、システムの開発期間は一年半、 投資額は約八億円と弾いていた。
そ れが再計算の結果、それぞれ二年半 と一〇億円強に膨らんでしまうこと が判明したのである。
 旧システムで使っていた四〇本あ まりのシステムをマイグレーション (既存システムのプログラムを新シス テムでも使えるように機械的に書き 換える作業)する手間が、想定して いた以上にかかることが原因だった。
機械で変換できない作業を人手で補 う必要があり、そのために開発期間 とコストが大きく上ブレすることにな ってしまった。
 今回のシステム刷新には一つの前 提があった。
現場でシステムを利用 する人たちの使い勝手は何も変えず、 システムの内部構造だけを次世代を にらんで再構築することを基本方針 としていた。
このため過去のシステ ム資産の全面的な移行は既定路線だ ったのだが、その作業量の見積もり に狂いが生じた。
 プロジェクトの開始に当たって、 ある程度の費用のブレは予想して いた。
このためコスト増に対する経 営トップの理解は得ることができた。
だが稼働時期が半年遅れることは想 定外だった。
 新システムの現場への初導入は〇 八年四月末に実現した。
それから順 次、全国四〇カ所余りへの導入を進 め、同年十一月にほぼ作業を終えた。
しかし、一部の営業所では右のよう 二年半・一〇億強をかけ 次世代システムを構築   鴻池運輸の協力ITベンダーは、 かつて汎用機の供給元でもあったN ECが中心だった。
「コンピューター 二〇〇〇年問題」への対応から汎用 機の利用そのものは約一〇年前に停 止した。
その後は、特定のITベン ダーに依存する体制を徐々に見直し システム刷新 業務分析を行い標 準化‥‥ここから が真のIT戦略!! 06 年に「KALOS」を起案したときのコンセプト ●強みの顧客密着型営業ス タイルの維持、強化 ●もっと安い、柔軟で使い易 いシステム(コスト削減) ●業界システム環境へのフォ 現行システムの課題を 解決し、IT戦略化のス タートラインに立つ!! ローアップ(陳腐化の解消) ●客観的なデータに基づく企 業活動の実践(戦略化) ハンディターミナル、自動倉庫等 のマテハンシステムとの連携強化 現行システム (全国地域分 散型システム) 次期システム Phase? ( 中央集中監視型 システム) 次期システム Phase? サーバー統合! 現行40台を 1台に集約 鴻池WMS 構築 パッケージ商品化で 営業支援! 営業力強化に繋がり、 収益向上に寄与 システムをコストから 収益源へ!! for the Customer!! 多様化する顧客ニーズに 的確に対応!! ※KALOS=Konoike Advanced Logistics Open System DECEMBER 2009  54 な理由から導入を待たざるを得なく なったため、一〇〇%稼働は〇九年 四月まで待つことになった。
システムの設計思想を改め 共通機能と個別機能を分離   KALOSプロジェクトは大きく 三つのグループに分かれて開発作業 を進めた。
?システム全体のネット ワークやハードの整備などのインフラ 設計、?WMSの設計(旧システム からのソフトの移管を含む)、?ED I基盤の設計──である。
これをパ ートナー二社が分担して手掛け、? インフラ設計と?WMSについては 日本ユニシスが、?EDI基盤はY DCが開発を担当した。
 従来の鴻池運輸のシステムでは、 顧客とのインターフェースとなるED I基盤からWMSまでが一体的な構 造になっていた。
顧客ごとに異なる 特殊な要件を満たすためには、標準 的な在庫管理の機能にまで手を入れ てプログラムの辻褄を合わせる必要が あった。
 これに対して「KALOSでは顧 客とのインターフェースとなるプログ ラムを部分的に修正するだけで、す べてが自動でつながるようにシステ ムの構造を変えた。
そうすることで 新規案件のための開発工数を抑制す る。
案件の内容にもよるが、システ ム開発の期間やコストを以前より三 割から五割減らせるはずだ」と、プ ロジェクトを牽引してきた寺田担当 課長は強調する。
 つまり今回のシステム刷新では、 過去のシステム資産を全面的に引き 継ぎながらも、システムの設計思想 を抜本的に見直した。
汎用的な部分 を?共通機能?として標準化し、サ ーバーを統合してハード面でも一元 管理できるようした。
 その一方で、顧客ごとの?個別機 能?については、アドオンとして付加 する構造にした。
個別機能だけをパ ーツのように入れ換える手法で、新 規のシステム開発の手間を大幅に軽 減した。
荷主の特殊性を反映した過 去のシステムを、新規案件で流用す ることも容易になった。
 実際、旧システムではできなかっ た多くのことが可能になった。
たと えば、多拠点間の在庫を連結して一 元管理するといったことが、分散処 理を基本とする旧システムではかな りの手間とコストをかけなければで きなかった。
これがKALOSでは 簡単に実現できる。
 鴻池運輸としては、システムの開 発効率を高めることで、KALOS そのものを新規顧客を取り込む武器 にしていく方針だ。
「いまや物流業務 の受託にはシステムの活用が欠かせ ない。
システムを絡めた提案でなけ れば新規の案件は獲得できない。
ま ずは新システムの良さを社内外に広 く認知してもらう必要がある」と林 執行役員は考えている。
 すでに新システムの機能を評価し た荷主からの新規受託も複数出てき ているという。
顧客密着型の営業活動と 全体最適の両立を模索   KALOSの開発に要した一〇億 円強という投資額は、年間ITコス トが単体売上高(〇九年三月期に一 六八八億円)の一%弱の同社にとっ ては小さな金額ではない。
これを活 かせるかどうかは、新システムを営 業強化などに結びつけていく今後の 活動にかかっている。
 KALOSプロジェクトは、それ をシステム開発の「フェーズ?」に続 く「フェーズ?」と位置付けている。
 「これから取り組むフェーズ?は システム部門だけでは実施できない。
営業や現場の管理者と一緒になって やる必要がある。
業務の標準化など を地道に積み上げることで、まだま だ残っているKALOSの贅肉をそ ぎ落とし、全国レベルでノウハウを 共有できる仕組みに変えていく必要 がある」と寺田担当課長はいう。
 だがKALOSによって全社共通 のIT基盤を構築し、システムや業 務を標準化していこうとする考え方 は、冒頭でもふれた独立採算制・地 域密着型を特徴とする鴻池運輸のス タイルとは対極にある。
 情報システム部の吉松康生部長は 「基本的に当社では、事業所が主体 になって得意先に応じたいろいろな 仕事をしている。
ある顧客の仕事量 が減ったときに、別の案件でカバー するといった動きを各事業所単位で 対応している。
それが会社全体とし ての強みになっている」という。
 事業所別の独立採算制の下では、 個別の案件のシステム開発コストが 実際に低下しないかぎり現場はメリ ットを実感できない。
それには各事 業所が蓄積したノウハウを他の事業 所にスムースに転用するための協力 体制が必要だ。
 かねてより経営層が望んでいるシ 標準化 フェーズ? 情報システム部の 吉松康生部長 55  DECEMBER 2009 べき課題は山積している。
 現行の管理系の仕組みの多くは、 「COBOL(メーンフレーム時代の 中心的言語)」で書かれたプログラム をオフコン上で動かしている。
しか も構成は複雑で、ERPのように統 合されていない。
これをKALOS と連携させ、経営情報の迅速なアウ トプットを実現するには、管理系シ ステムの刷新まで必要になる可能性 もある。
管理と業務で別々だった 情報システム部門を統合   鴻池運輸は〇九年一〇月一日に 「情報システム部」と「物流システム 部」を統合した。
それまでは会計や 経理など管理系の仕組みを担当する 「情報システム部」が管理本部の中に あり、物流事業の仕組みを担ってい た「物流システム部」は開発業務本 部の傘下にあった。
国際や港湾に関 する業務管理のシステムだけが「情 報システム部」の管轄下にあるという ?ねじれ?も抱えていた。
 これについて吉松部長は、「これま で業務系の仕事は『物流システム部』 が、事務系については『情報システム 部』という役割分担をしていた。
当 然、双方でデータのやりとりが発生 するのだが、それぞれの部署の方向 性の違いもあって完全に一体にはな っていなかった。
そうした壁を一切 なくし、現場から管理に至るまでシ ームレスなIT活用を実現するため に組織を見直した」と説明する。
 システム部門をめぐる人材戦略に も変化の兆しが見られる。
鴻池運輸 は元来、ジョブローテーションを通 じてプロパー社員をじっくり育てるこ とを重視してきた。
システム部門に 所属する人材であっても通常の人事 異動を免れない。
 現に担当役員の林氏は、現場や業 務課、人事部長や支店長などを経て 現職に就任している。
情報システム 部長の吉松氏も、入社時に電算室 に配属された経験はあるものの、そ の後は現場や経営企画部門などを経 てこの七月に現職に就いたばかりだ。
いずれも情報システムの専門家では なく、ゼネラリストとしてキャリアを 重ねてきた。
 しかも鴻池運輸は、グループにI Tの専門企業を抱えていない。
約一 〇前に情報システム部と物流システ ム部を分割したときにも、情報子会 社の設置をめぐる議論はあった。
「し かし、当時のわれわれの力では、営 業戦略として外部に打って出るのは 現実的ではなかった」(塙阪課長)と いう判断から、話は立ち消えになっ てしまった。
 現在の体制では、IT部門に限 らず、特定分野のスペシャリストが 育ちにくい。
そのため近年は、複数 の部署で中途採用を積極化してきた。
新しい人材を外部から取り込むこと で組織の活性化を図っていこうとし ている。
 〇五年の入社以来、物流システム の刷新に携わってきた寺田氏も、I BMなどでSEを経験してきた中途 採用組だ。
それだけに顧客密着型の 営業スタイルや、独立採算制を強み とする鴻池運輸の管理手法を客観的 に見られる立場にある。
そうした問 題意識の下で開発したのがKALO Sだった。
 寺田氏はK A L O Sについて、 「物流事業に関わるデータベースを一 元化したことで、以前はできなかっ た多くのことが可能になった。
業務 の提案段階、設計段階から一緒にや っていけば、顧客に以前より格段に コストパフォーマンスの優れたシステ ムを提案できる。
案件が大きくなる ほどコスト改善の余地も大きくなり、 営業所の収支改善にも寄与できるは ずだ。
とにかく、われわれに相談し て欲しい」と社内外にアピールして いる。
(フリージャーナリスト・岡山宏之) ステムを通じた経営情報の迅速な把 握についても、適切なデータ入力な ど現場の協力がなければ実現できな い。
しかも現場の全面的な協力を得 ることはスタートにすぎない。
デー タを経営情報としてアウトプットす るために、システム部門としてやる 組織改革 Internet 「KALOS」を含む物流システム全体の概要図 出港地 入港地 保税倉庫 ■出港日 ■到着予定日 ■在庫照会 ■貨物追跡 ■通関 税関 ■入荷予定 集荷先 工場・仕入先集荷・在庫拠点 海貨 空輸 貨物追跡 インターネット WEB在庫照会 情報公開 次世代対応 統合物流システム 社内ネットワーク システム 汎用在庫 入出荷 運賃計算 在庫管理 EOS 受注代行 EDI 物流センターシステム 配送センターシステム 在庫・配送拠点 携帯電話 配達完了 GPS 動態把握 ■発注 ■貨物追跡 荷主 GPS情報 EDI 出荷指示→ ←在庫・入出庫 ■NACCS ※ が「KALOS」の範囲

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