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物流指標を読む
DECEMBER 2009 78
日本経済の命運握る中国経済
第12 回
●大恐慌下でも経済成長率八%を実現
●個人消費喚起や輸出先構成の変化が寄与
●日本の輸出回復は中国内需拡大の恩恵
さとう のぶひろ 1964 年生まれ。
早稲田大学大学院修了。 89年に日通
総合研究所入社。 現在、経済研究部研
究主査。 「経済と貨物輸送量の見通し」、
「日通総研短観」などを担当。 貨物輸
送の将来展望に関する著書、講演多数。
四兆元の景気対策は過大評価されている
中国経済が再び高成長軌道に戻りつつある。 一
〇月下旬に発表された中国の二〇〇九年七〜九月
期の実質経済成長率は前年同期比(以下同)で
八・九%と、ほぼ前年七〜九月期(九・〇%)並
みの成長率を確保した。 また、北京大学経済研究
センターの調べでは、モルガン・スタンレーなど
二一の金融機関やシンクタンクによる、一〇〜十
二月期の成長率の予測値は平均で一〇・六%であ
り、〇九年通年の成長率目標である八%を達成す
るのはほぼ確実な状況となっている。 そうしたな
かで、世界銀行は、〇九年八・四%のあと二〇一
〇年八・七%、IMFは、〇九年八・五%のあと
一〇年九・〇%とそれぞれ成長率の予測値を上方
修正した。
ご承知のように、中国は、サブプライムローン
問題に端を発した世界同時不況の影響を大きく受
けた国のひとつである。 外需依存度が非常に高く
(注:〇七年実績で輸出依存度は三七・四%)で、
かつ欧米向けの輸出が多かった(注:〇七年にお
いて、輸出総額に占める米国向けの割合が一九・
一%、欧州向けが同二〇・一%)ことから、欧米
の景気低迷に伴う輸出の大幅減が中国経済を直撃
したからだ。
さらに、中国国内における受注の減退や在庫の
積み上がりもあって、昨年秋以降全面的な生産調
整に入り、鉱工業生産は減速を余儀なくされた。
輸出の減少や鉱工業生産の減速は企業倒産や失
業者数の増加、さらには個人消費のスローダウンを
もたらし、その結果、〇八年一〇〜十二月期の経
済成長率は六・八%、〇九年一〜三月期には六・
一%まで落ち込んだ。
それでも、日米欧がそろって大幅なマイナス成
長に陥ったなかで、中国は六%台の成長を達成し
たのであるから、傍目には高成長を維持したかの
ようにみえる。 しかし、真偽のほどは確かではな
いが、「中国では成長率が一%低下すると失業者が
一〇〇〇万人増える」とか、「中国では八%成長
を維持できなければ暴動が起こる」などと巷間で
は言われており、中国政府にとっては八%成長の
維持は至上命題であったはずだ。
中国経済が短期間で経済成長率を巡航速度とも
言える八%台まで戻した理由として、政府による
大規模な財政出動や大幅な金融緩和策などの景気
対策の効果をあげる向きがある。 すなわち、昨年
十一月に発表された事業総額四兆元の包括的経済
政策、〇九年九月以降五回に及ぶ政策金利(注:
一年物預金・貸出基準金利)の引き下げ、金融当
局による金融機関への窓口指導などである。
もっとも、総額四兆元の景気対策の効果に関して
は、やや過大評価されているようにみえる。 たと
えば、著名な某エコノミスト氏が某夕刊紙で、「中
国の景気回復は、中央集権国家の強みが出た結果
です。 〇八年に四兆元(六〇兆円)、〇九年に八・
六兆元(一二九兆円)という常識では考えられな
い景気対策を打ち、政府の責任でとにかくカネを
貸せと銀行に大号令を発した。 これが高いGDP
を生み出した理由です」と述べている。
一方、中国ウオッチャーとして知られる日通総
合研究所の町田一兵研究員はこう言う。 「景気対
策四兆元の事業項目の大半が、〇六年〜一〇年ま
財務省「貿易統計」
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く拡大しているのである。 そのため、欧米向けが
依然として低調であるにもかかわらず、輸出のマ
イナス幅は徐々に縮小してきている。
こうしたことから、中国経済の回復は一段と鮮
明になっており、その傾向は当面続くとみてよか
ろう。
外需頼みの日本経済
一方、わが国経済に目を転じると、本欄でも再三
指摘しているように、最悪期は脱したものの、そ
の回復には力強さが感じられない。 内閣府の外郭
団体である経済企画協会が十一月十二日に発表し
た、民間エコノミスト三八人の経済予測の集計結
果によると、〇九年七〜九月期の実質経済成長率
は年率換算で二・四七%(注:この数値を用いて
推計した前年同期比はマイナス七%弱)にとどま
った。 また、〇九年度、一〇年度の成長率はそれ
ぞれマイナス三・二〇%、一・二一%となってい
る。
ちなみに、日銀「短観」(九月調査)により、大
企業・製造業の今年度の設備投資計画は前年度比
二五・六%減で、九月調査としては過去最大の下
落幅を記録した。 日本経済が本格的に回復するう
えで、設備投資の回復が必要不可欠であることは
言うまでもないが、その兆しはまだ窺えない。
そうしたなかで、想定される日本経済の回復シ
ナリオは、当面は公共投資で景気を下支えし、そ
の間に外需が盛り返して、企業業績が回復し、そ
の後個人消費や設備投資に景気の牽引役がバトン
タッチされるというものである。 しかし、ここに
きて、公共投資には息切れの兆候が現れ始めてお
り、もはや外需頼みの状況となっている。
その輸出であるが、水準自体はまだピーク時に遠
く及ばないものの、持ち直しつつあることは間違
いない。 輸出額の推移を前年同期比でみると、〇
八年一〇月にマイナス七・九%と大きく落ちこん
だあと、〇九年二月にはマイナス四九・四%とほ
ぼ半減した。 その後、マイナス幅は徐々に縮小し
ていき、九月はマイナス三〇・六%となっている。
また、輸出数量指数(〇五年=一〇〇)の推移
をみると、最悪であった今年二月にマイナス四五・
四%まで低下したが、九月にはマイナス二一・八%
まで戻した。 輸出数量指数の持ち直しは、主にア
ジア向けの回復によるものであり、アジア向けは
マイナス九・六%、なかでも中国向けはマイナス
七・七%と一ケタ台のマイナスにとどまっている。
わが国の輸出額に占める中国向けの割合は、足
元で約二割に達しており、今や米国を上回ってい
る。 中国向けの数量指数は、早ければ十一月にプ
ラスに回復する可能性がある。 中国向けの輸出が
回復してきた背景には、中国における内需拡大が
あるのは言うまでもない。 加えて、中国から周辺
国向けの輸出製品に使われている部品・半製品の
多くが日本から輸入されており、その量が増加し
ていることも見逃せない。 これらの貨物は今後も
増加していくものと予測される。
それを受けて、わが国の外貿コンテナ輸出量は、
どうやら年明けにはプラスに回復転じそうであり、
また一〇年度については、アジア向けを中心に年
度を通じてプラスで推移するものとみられる。
いずれにせよ、わが国経済の命運は中国経済の
行方に握られていると言っても過言ではない。
での『第十一次五カ年計画』ですでに実施が決ま
っていたものであり、それを前倒しで実施してい
る部分が大きい」。 中国国内においても、その効果
に対しては懐疑的な見方が少なくない。 張平・国
家発展改革委員会主任によると、四兆元の景気対
策による経済成長率の押し上げ効果は、毎年一%
ポイントにとどまるとのことである。
前出の町田研究員は、「四兆元の景気対策の本
質的な目的は国営企業の救済である。 たとえば、山
のように積み上がった鉄の在庫を解消するために、
鉄道インフラの建設を行うのが典型的な例だ。 もち
ろん、これは製鉄会社の救済を目的としたものだ」、
「むしろ、家電下郷、汽車下郷、家電進城などの
政策により、個人消費を喚起したことが景気回復
につながった」
とも言う。
また、町田
研究員による
と、近年、輸
出先の構成に
顕著な変化が
起こっている
という。 すなわ
ち、欧米向けの
割合が低下す
る一方で、ロシ
アやアジア諸
国など、潜在
成長率の高い
周辺国への輸
出割合が大き
40
30
20
10
0
-10
-20
-30
-40
-50
(%)
08
年7月
09
年1月
8月
2月
3月
4月
5月
6月
7月
8月
9月
9月
10
月
11
月
12
月
日本の輸出数量指数の伸び率推移(対前年同月比)
中国向け
アジア向け
ASEAN向け
NIES向け 世界向け計
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