2010年2月号
特集
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注目企業 トップが語る強さの秘訣 第3位 イヌイ倉庫 ──新スキームで倉庫業の革新図る
FEBRUARY 2010 16
イヌイ倉庫
──新スキームで倉庫業の革新図る
事業効率の悪い既存の倉庫業ではこの先ジリ貧になると
判断し、物流不動産ビジネスを開始した。
ハード戦略に資源 を投下し、同時にソフト力も鍛える。
そのシナジー効果を狙っ た。
しかしリーマンショックで計画は全て頓挫する。
厳しい 環境に身を置きながらも、時代のニーズにあった施設の提供 を目指している。
(聞き手・石鍋 圭) 倉庫業だけではジリ貧に ──今回のランキングの対象となった直近三期(二 〇〇六年十一月期〜〇八年十一月期)は売り上げ・ 利益とも順調でした。
「主な要因は好景気を背景とした不動産事業、い わゆる証券化ビジネスによるものです。
大阪の大型 オフィスビルを底値で取得し、それを高利回りで三 年間運用して〇八年九月に売却しました。
特に〇八 年十一月期の決算が大きく膨らんでいるのは、その 物件をリーマンショック直前のタイミング、土地・建 物のバリューが最高潮の時に売却することができた から。
これはハッキリ言ってフロック(たまたま)です」 ──倉庫、引越し、トランクルームといった物流事 業に関しては? 「全体的には大きな成長も極端な下落もありませ んでした。
荷量や引越しの案件は若干減りましたが、 その分、文書保管をメーンとするトランクルーム事 業が伸びています。
当初、トランクルーム事業は既 存倉庫の空いたスペースを埋めるニッチな業態と捉 えていたのですが、ニーズがどんどん増えてきまし た。
そこで、片手間で展開するのではなく専用センター を設けて一つの事業ジャンルとしました。
規模こそ まだ大きくありませんが、収益性も良好なので今後 も注力していく分野です」 ──この二〜三年の間に、オフィスや賃貸住宅といっ た不動産事業や寄託料で儲ける倉庫業とは別に、「物 流不動産事業」を新たに展開しています。
「〇七年に中長期ビジョン『Next─7』を発表し、 その中で物流事業を七年間で六二億円から一九五億 円に拡大するという目標を掲げました。
その中核を 占めるのが物流不動産事業です。
簡単に言うと、条 件の良い立地に大型物流施設を開発し、それを一度 SPC(特定目的会社)などに売却して、我々がそ れを一括で借り受ける。
我々は借り受けた施設のP M(プロパティ・マネジメント)業務を行い、効率 的に運用していくというスキームです。
これを行う ため、〇八年三月に五六・五億円を投じて福岡市に 四万三八〇〇平米の土地を取得したほか、〇九年二 月には土地建物合わせて九六億円を投じた物流施設 を神戸市で竣工させています」 ──何故、新たな分野へ進出を? 「既存の倉庫業だけでは、この先ジリ貧になって いくだけだという危機感がありました。
業績を伸ば している倉庫会社の大半は、資産効率に優れている ことがその要因です。
何十年も保有しているアセッ トの恩恵を受けているのであって、決して事業効率 が良いわけではない。
運送から始まった3PL事業 者の方がよっぽど安価に、効率よく倉庫を回してい ます。
人件費ひとつをとっても倉庫会社はかなり高い。
弊社もマスコミの実施する『給料ランキング』といっ た類の特集に度々掲載されますが、従業員にとって は素晴らしいことでも、経営者としては素直に喜べ ない部分がある。
旧態依然の体質のまま、単価も安 く、しかも能率的に動く物流企業と、この先渡り合っ ていくことはできません。
加速度的に多様化する物 流ニーズに応えていくのにも無理がある」 「我々は変わる必要があった。
そこで自分には何 が出来るかを考えたのです。
私はデベロッパー出身 なので、自然と得意分野のノウハウを活かすことが できる物流不動産事業に行き着いたというわけです」 ──開発や証券化事業の色を強める一方で、ソフト の部分、つまり既存の倉庫事業からは徐々に撤退し ていくのですか。
乾 康之 社長 注目企業 トップが語る強さの秘訣 17 FEBRUARY 2010 「いや、そうではありません。
我々がやろうとし ているのは時代をキャッチアップした『新しい倉』 の提供です。
ハードだけをつくって、投機的な展開 をして稼ぐことが目的ではないのです。
建てて貸す だけでもない。
あくまでも物流が事業の核でありフィー ルドです。
〇九年四月に社名を『イヌイ建物』から 『イヌイ倉庫』に変更したのも、その決意の表れです。
まずハード戦略を強化し、それを突破口にソフトに 結びつけていく。
そこには様々な選択肢や方法があり、 現在も検討を重ねています。
もちろん、ソフトの力 が以前のままでは成立しないビジョンなので、その 強化にも継続的に努めていく」 大誤算の金融恐慌 ──しかし物流不動産事業を手掛けるプレーヤーの 大半は、リーマンショックで身動きが取れなくなり ましたよね。
「弊社も多大な影響を被っています。
福岡で取得 した用地は〇九年二月に着工し、今年の中頃には竣 工する予定でしたが、現在着工を凍結している状態 です。
もし竣工すれば五万坪近い床が供給される予 定なのですが、現在のマーケット状況でそれに見合 う物流ニーズがあるとは到底思えない。
着工を見合 わせるほかありませんでした。
神戸の案件では竣工 した物件を売却する予定でしたが、その売買契約が 履行されませんでした。
譲渡先となる予定だった相 手との契約の中には、売買が履行されなかった場合 の違約金条項も盛り込んであったのですが、それも 支払われていない。
この件に関しては現在係争中です」 ──では神戸の施設は現在御社の保有になっている? 「はい。
イヌイ倉庫本体がバランスシート上で抱え ている状態です。
今は荷量集めに努めているところ ですが、大変苦戦しています。
この一年、仲介会社 と弊社とで一六〇〇社ほど企業を回りましたが、ほ とんど稼働していないというのが現状です。
ただ、 もし売買が成立していたとしても、そのあと弊社が 一括で借り受けて現在と同じ努力、同じ苦労をして いたことに変わりはありません。
空家賃が発生して いない分、現状の方がマシという見方も出来ないこ とはない。
しかし、やはり当初予定していたスキー ムとまったく異なってしまっていることには大きく 慌てます。
計画していたことに、ことごとく見直し を迫られている」 ──今回の本誌ランキングでは対象外ですが、〇九 年十一月期の決算では連結売上高四割減、当期利 益も七割以上の減少と大きく落ち込んでいます。
「冒頭申し上げたオフィスビルの案件が無くなった こと、加えてグループ内で引越し事業をメーンとし ていたイヌイ運送の株式の五一%をセンコーさんに 譲渡したこと、レジャー施設の一部を閉鎖したこと、 システム事業の一部を譲渡したこと、この四つが主 要因です。
本業の物流関連がそこまで傷んでいるわ けではありません。
ただ、倉庫事業の売り上げが一〇% 減じるなど楽観できる状況でないことも事実です」 ──オフィスや賃貸住宅がメーンの不動産事業が利 益の大半を上げています。
物流不動産を含む物流事 業よりも、そちらに注力するという考えは? 「まったくありません。
仮に不動産事業だけに特 化するのであれば社員は五人で足ります。
それは私 の考える『会社』ではない。
繰り返しになりますが、 事業のコアでありフィールドは物流です。
確かに市 況は厳しいですが、時代のニーズに合った『新しい 倉』をどうマーケットに提供していくか、それを考え、 実行するのが弊社の使命だと考えています」 中長期ビジョンに見直しも 2007年に中長期ビジョン「Next-7」を発表。
13年度までの目標とし て連結売上高300億円、物流事業では195億円を目指していたが、経営 環境の悪化によって達成の現実味は薄らいでいる。
今後、見直しが入る 可能性が高い。
物流不動産事業の核として神戸に竣工した大型施設は売買契約の不履行、 それに伴う違約金をめぐって係争中だが、それとは関係なく稼働率の低 迷は頭の痛い問題。
施設の運用方法がどうなるかは今後の成り行きを見 守るほかないが、いずれにせよ荷物を集められなければ同社の物流不動 産事業は立ち行かない。
既存の倉庫事業の収益も微減傾向が続いている。
景気後退が影響して いることはもちろんだが、人件費をはじめとする一般管理費が割高な体 質も圧迫要因の一つとなっている。
顧客からの単価値下げ交渉も多く、 可能な範囲で応じざるを得ない局面。
業績の伸びている分野としては文書保管をメーンとするトランクルーム 事業が挙げられるが、全体に占める割合は大きくない。
中央区勝どきを 中心に優良なアセットを抱えているため事業継続に問題はないが、上昇気 流に乗るためにはやはり物流不動産事業と倉庫事業の改善が必須となる。
本誌解説 イヌイ倉庫連結業績推移 20,000 16,000 12,000 8,000 4,000 0 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 《売上高》 (単位:百万円)《当期利益》 06年 11月期 07年 11月期 08年 11月期 09年 11月期 売上高 当期利益 《平成22年版》
ハード戦略に資源 を投下し、同時にソフト力も鍛える。
そのシナジー効果を狙っ た。
しかしリーマンショックで計画は全て頓挫する。
厳しい 環境に身を置きながらも、時代のニーズにあった施設の提供 を目指している。
(聞き手・石鍋 圭) 倉庫業だけではジリ貧に ──今回のランキングの対象となった直近三期(二 〇〇六年十一月期〜〇八年十一月期)は売り上げ・ 利益とも順調でした。
「主な要因は好景気を背景とした不動産事業、い わゆる証券化ビジネスによるものです。
大阪の大型 オフィスビルを底値で取得し、それを高利回りで三 年間運用して〇八年九月に売却しました。
特に〇八 年十一月期の決算が大きく膨らんでいるのは、その 物件をリーマンショック直前のタイミング、土地・建 物のバリューが最高潮の時に売却することができた から。
これはハッキリ言ってフロック(たまたま)です」 ──倉庫、引越し、トランクルームといった物流事 業に関しては? 「全体的には大きな成長も極端な下落もありませ んでした。
荷量や引越しの案件は若干減りましたが、 その分、文書保管をメーンとするトランクルーム事 業が伸びています。
当初、トランクルーム事業は既 存倉庫の空いたスペースを埋めるニッチな業態と捉 えていたのですが、ニーズがどんどん増えてきまし た。
そこで、片手間で展開するのではなく専用センター を設けて一つの事業ジャンルとしました。
規模こそ まだ大きくありませんが、収益性も良好なので今後 も注力していく分野です」 ──この二〜三年の間に、オフィスや賃貸住宅といっ た不動産事業や寄託料で儲ける倉庫業とは別に、「物 流不動産事業」を新たに展開しています。
「〇七年に中長期ビジョン『Next─7』を発表し、 その中で物流事業を七年間で六二億円から一九五億 円に拡大するという目標を掲げました。
その中核を 占めるのが物流不動産事業です。
簡単に言うと、条 件の良い立地に大型物流施設を開発し、それを一度 SPC(特定目的会社)などに売却して、我々がそ れを一括で借り受ける。
我々は借り受けた施設のP M(プロパティ・マネジメント)業務を行い、効率 的に運用していくというスキームです。
これを行う ため、〇八年三月に五六・五億円を投じて福岡市に 四万三八〇〇平米の土地を取得したほか、〇九年二 月には土地建物合わせて九六億円を投じた物流施設 を神戸市で竣工させています」 ──何故、新たな分野へ進出を? 「既存の倉庫業だけでは、この先ジリ貧になって いくだけだという危機感がありました。
業績を伸ば している倉庫会社の大半は、資産効率に優れている ことがその要因です。
何十年も保有しているアセッ トの恩恵を受けているのであって、決して事業効率 が良いわけではない。
運送から始まった3PL事業 者の方がよっぽど安価に、効率よく倉庫を回してい ます。
人件費ひとつをとっても倉庫会社はかなり高い。
弊社もマスコミの実施する『給料ランキング』といっ た類の特集に度々掲載されますが、従業員にとって は素晴らしいことでも、経営者としては素直に喜べ ない部分がある。
旧態依然の体質のまま、単価も安 く、しかも能率的に動く物流企業と、この先渡り合っ ていくことはできません。
加速度的に多様化する物 流ニーズに応えていくのにも無理がある」 「我々は変わる必要があった。
そこで自分には何 が出来るかを考えたのです。
私はデベロッパー出身 なので、自然と得意分野のノウハウを活かすことが できる物流不動産事業に行き着いたというわけです」 ──開発や証券化事業の色を強める一方で、ソフト の部分、つまり既存の倉庫事業からは徐々に撤退し ていくのですか。
乾 康之 社長 注目企業 トップが語る強さの秘訣 17 FEBRUARY 2010 「いや、そうではありません。
我々がやろうとし ているのは時代をキャッチアップした『新しい倉』 の提供です。
ハードだけをつくって、投機的な展開 をして稼ぐことが目的ではないのです。
建てて貸す だけでもない。
あくまでも物流が事業の核でありフィー ルドです。
〇九年四月に社名を『イヌイ建物』から 『イヌイ倉庫』に変更したのも、その決意の表れです。
まずハード戦略を強化し、それを突破口にソフトに 結びつけていく。
そこには様々な選択肢や方法があり、 現在も検討を重ねています。
もちろん、ソフトの力 が以前のままでは成立しないビジョンなので、その 強化にも継続的に努めていく」 大誤算の金融恐慌 ──しかし物流不動産事業を手掛けるプレーヤーの 大半は、リーマンショックで身動きが取れなくなり ましたよね。
「弊社も多大な影響を被っています。
福岡で取得 した用地は〇九年二月に着工し、今年の中頃には竣 工する予定でしたが、現在着工を凍結している状態 です。
もし竣工すれば五万坪近い床が供給される予 定なのですが、現在のマーケット状況でそれに見合 う物流ニーズがあるとは到底思えない。
着工を見合 わせるほかありませんでした。
神戸の案件では竣工 した物件を売却する予定でしたが、その売買契約が 履行されませんでした。
譲渡先となる予定だった相 手との契約の中には、売買が履行されなかった場合 の違約金条項も盛り込んであったのですが、それも 支払われていない。
この件に関しては現在係争中です」 ──では神戸の施設は現在御社の保有になっている? 「はい。
イヌイ倉庫本体がバランスシート上で抱え ている状態です。
今は荷量集めに努めているところ ですが、大変苦戦しています。
この一年、仲介会社 と弊社とで一六〇〇社ほど企業を回りましたが、ほ とんど稼働していないというのが現状です。
ただ、 もし売買が成立していたとしても、そのあと弊社が 一括で借り受けて現在と同じ努力、同じ苦労をして いたことに変わりはありません。
空家賃が発生して いない分、現状の方がマシという見方も出来ないこ とはない。
しかし、やはり当初予定していたスキー ムとまったく異なってしまっていることには大きく 慌てます。
計画していたことに、ことごとく見直し を迫られている」 ──今回の本誌ランキングでは対象外ですが、〇九 年十一月期の決算では連結売上高四割減、当期利 益も七割以上の減少と大きく落ち込んでいます。
「冒頭申し上げたオフィスビルの案件が無くなった こと、加えてグループ内で引越し事業をメーンとし ていたイヌイ運送の株式の五一%をセンコーさんに 譲渡したこと、レジャー施設の一部を閉鎖したこと、 システム事業の一部を譲渡したこと、この四つが主 要因です。
本業の物流関連がそこまで傷んでいるわ けではありません。
ただ、倉庫事業の売り上げが一〇% 減じるなど楽観できる状況でないことも事実です」 ──オフィスや賃貸住宅がメーンの不動産事業が利 益の大半を上げています。
物流不動産を含む物流事 業よりも、そちらに注力するという考えは? 「まったくありません。
仮に不動産事業だけに特 化するのであれば社員は五人で足ります。
それは私 の考える『会社』ではない。
繰り返しになりますが、 事業のコアでありフィールドは物流です。
確かに市 況は厳しいですが、時代のニーズに合った『新しい 倉』をどうマーケットに提供していくか、それを考え、 実行するのが弊社の使命だと考えています」 中長期ビジョンに見直しも 2007年に中長期ビジョン「Next-7」を発表。
13年度までの目標とし て連結売上高300億円、物流事業では195億円を目指していたが、経営 環境の悪化によって達成の現実味は薄らいでいる。
今後、見直しが入る 可能性が高い。
物流不動産事業の核として神戸に竣工した大型施設は売買契約の不履行、 それに伴う違約金をめぐって係争中だが、それとは関係なく稼働率の低 迷は頭の痛い問題。
施設の運用方法がどうなるかは今後の成り行きを見 守るほかないが、いずれにせよ荷物を集められなければ同社の物流不動 産事業は立ち行かない。
既存の倉庫事業の収益も微減傾向が続いている。
景気後退が影響して いることはもちろんだが、人件費をはじめとする一般管理費が割高な体 質も圧迫要因の一つとなっている。
顧客からの単価値下げ交渉も多く、 可能な範囲で応じざるを得ない局面。
業績の伸びている分野としては文書保管をメーンとするトランクルーム 事業が挙げられるが、全体に占める割合は大きくない。
中央区勝どきを 中心に優良なアセットを抱えているため事業継続に問題はないが、上昇気 流に乗るためにはやはり物流不動産事業と倉庫事業の改善が必須となる。
本誌解説 イヌイ倉庫連結業績推移 20,000 16,000 12,000 8,000 4,000 0 6,000 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 《売上高》 (単位:百万円)《当期利益》 06年 11月期 07年 11月期 08年 11月期 09年 11月期 売上高 当期利益 《平成22年版》
